仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第一話:僕の時間はなぜ進んだのか(1)

 西暦二〇三五年。

 飛行機を飛んでいた時空には道路が張り巡り、高層ビルが立ち並ぶ時代。

 

 

「こんばんわーみなさん、草吹(くさぶき)果子(かこ)です! 二〇三五年八月五日二〇時をお報せしまーす」

 

 光沢感に満ちた先進的な衣装をまとったアイドルが、各方向から照射される3Dプロジェクターで表示され、ありとあらゆる角度から人々の目を楽しませる。

 

 かつて人々が夢や絵空事と思っていた光景が、先進の技術、まばゆいばかりの夜景として実現していた。

 

 ……だが一方で、光が天高くきらめくほどに、下に沈む闇は濃いものである。

 

 進歩した文明にあずかり、豊かに生活をする人々がいる。

 逆にそれを犯罪に利用して人々の幸福をおびやかす者たちも、存在していた。

 

 暗黒のるつぼの中、今日もまた、悪の集団がうごめいている。

 

 うばった金品を身に着けながら、路地裏をひた走る。

 そんな彼らを見失ったパトカーは、物陰にひそむ彼らを発見することもできず、むなしく通りすぎていった。

 本来はそのパトカーとて、高感度の音波探知、サーモグラフィーなどを標準的に搭載していたが、それをジャミングする技術もまた、犯罪者と、そうした需要によって利益を得る技術者たちとの間で、飛躍的な進歩を遂げていた。

 

 ……何より。

 彼らが持つある超常的なアイテム。

 そのうちの一つがもたらす『機械を自在にあやつることのできる能力』によって、彼ら警官隊は翻弄されていた。

 

「ちょろいもんだぜ」

 

 と、少年とも言って良い若さの男が嗤う。

 同調して、その連れの青年たちも、追跡者たちの無能ぶりを嘲った。

 

 ……だが、そこに、三筋の光が矢のように飛来し、虚空に放物線をえがいて青年たちをけん制し、その進路をさえぎった。

 

 紫、赤、緑。

 それぞれの輝きの中核となっていたのは、ミニカーのようなガジェットだった。

 トラック、パトカー、あるいは重機。

 

 様々な形態を持ったそれらは、特徴的なクラクションを、威嚇するように鳴らした。

 

「な、なんだこいつら!?」

 

 と、乱暴に手で追い払おうとする彼らだったが、羽虫のように自由自在に飛び回るそれらを、たたきつぶすどころか触れることさえもできずにいた。

 

 どこかで指が、鳴らされた。

 その音に反応するかのように、三台の車は一直線に、音をさせた『それ』に向かっていった。

 

 一台の車が、停まっていた。

 黒い車体に薄青のラインのコントラストが美しい、流線型の車体。

 時折思い出したかのように、その表面には緑色の閃光がほとばしる。

 

 だが、彼らが目を剥いたのはその車の近代的なデザインのためではなかった。

 車は、あろうことか彼らの頭上に、壁に、垂直に停止していた。

 

 白煙を吐きながらひとりでに運転席のドアが開く。そのドアの裏側を足場に、中から、ひとつの人影が現れた。

 

 ウサギか鬼のように二本に伸びた角。青く鋭くとがった目。

 3Dのテクスチャをそのまま分厚い装甲にしたような胸部には、黄色いラインがほどこされたタイヤが斜めがけになっている。

 全身の要所には車と同様に青色のラインがかけめぐり、その中心には赤いベルトと、『N』とディスプレイに表示された装置があった。

 

 そのベルトの脇のスロットに、先ほどの三台がみずから収まり、それとはまた別の、黒と黄と青とでカラーリングされた小型車のガジェットが、左手首のブレスレットに固定されていた。

 

 男たちは、頭上から見下ろすこの乱入者が、決して自分たちの味方ではないことを、本能で悟った。

 

〈SPIDER!〉

〈BAT!〉

〈COBRA!〉

 

 前時代のUSBメモリと背骨をかけ合わせたような、短冊状の装置。それを、彼ら自身の頸部や頭部に叩き込む。

 

 そこから流れ出る毒素のようなものが、男たちを怪物へと変化させた。

 巨大な赤蜘蛛をかぶったようなモノ。灰色がかった蝙蝠の顔を持つモノ。紺色のコブラの頭に、両手が蛇尾のようなムチに変化したモノ。

 それぞれの音声(ウィスパー)に応じた、異形の姿に変えた彼らに怖じることなく

 

〈T1、それも最初期のガイアメモリか。そんな骨董品、今時ジャンク屋でも買い取ってもらえないよ〉

 と頭上の男は笑った。

 

 そしてドアから地上へと降り立ったその仮面の騎士は、流ちょうな発音で、

 

 

 

〈START OUR MISSION〉

 

 

 

 と、つぶやいた。

 

「やれっ!」

 先手をとるべく、コブラの両腕が伸びてしなる。

 だが、彼が捕らえようとした胸部のタイヤは、発光して武器を精製した。

 

 銃のグリップと剣先が合体したかのようなその刃が、ムチを斬りはらう。

 その勢いで突貫した彼は、その大本たるコブラの怪人に力任せに剣を連続してたたきつけた。

 

 火花を散らしてもんどりうつ仲間を飛び越え、蝙蝠が飛びかかる。

 剣を逆手に持ち直し、グリップ部分でくりだしたパンチが、それを迎撃した。

 流れるようなモーションでそのまま格闘戦へと持ち込んで、黒い戦士は単純な力量のみで怪人たちを押しまくった。

 

 やってられるか。

 そう毒づいて蜘蛛が手から糸を吐き出した。それを頼みに空中へ逃れようとする。

 戦士のモニターは、闇夜のなかでもそれを逃さなかった。グリップに護られた引き金を動かすと、先端から光の弾丸が射出され、それを撃墜した。

 

「なんだ……なんなんだよ、お前は!?」

 

 悲鳴まじりのくぐもった声でそう問う彼らをまるで気にせず、慣れた手つきで、腰のイグニッションキーをひねり、ブレスレットのボタンを押した。

 

〈NEXT!〉

 

 腰のベルトから、機械的な男の低音が響く。

 仮面の戦士自身が応えたのは、ただの一語。

 

 

 

〈仮面ライダー〉

 

 

 

 という、名乗りだけだった。

 

 

 そして輝度を最高潮まで高めた剣光が、空間を一閃した。


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