仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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最終話:父よ、あなたはだれに今を託すのか(8)

 空へと伸びあがった大球が、目のエンブレムとなって亀裂を塞いだ瞬間、大気全体を大きく揺るがした。

 あまねく拡散するその衝撃波は聖都大付属病院の一室にも到り、そこで眠る泊進ノ介の肉体も跳ね上がらせた。

 

 そして霧子は、暴れる夫の身体の負担を少しでも減らそうと、覆い被さるようにして彼をかばう。あるいは、時を刻むごとに押し寄せる破滅の予兆と自身の不安に打ち勝とうと、自分のヒーローにすがろうとしていたのか。

 

 そしてその彼は、今なお知人を名乗る魔法使いから与えられたドライブの顔の入った錠前を握りしめていた。

 空から降り注ぐ光の波は、やがて彼女たちの部屋にも浸透した。

 

 ドライブよりも少し過去に生まれた仮面(アーマード)ライダー。その直後に誕生した仮面ライダー。

 彼らとは直接言葉を交わしていない霧子には知るべくもないが、ドライブこと泊進ノ介は、たしかに彼らと確かな絆で結ばれていた。

 そして進ノ介と連なる彼らのエネルギーは、錠前と、亀裂へと叩きこまれた大目玉から進ノ介の半死半生の肉体に、そして魂に、技術の垣根を超えて影響をおよぼし始めていた。

 かつて、いくつものシフトカーを握りしめたその指が、ピクリと動く。

 心のエンジンに、火が灯る。

 

 

 

「ノーコンテニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 世界の運命を患者として相対し、ドクターゲーマーは飛び上がり、ガシャコンブレイカーを大きく振り上げた。

 

 地面に強く打ち付けられた。サイケデリックなエフェクトとともに衝撃が大地を揺らし、可視化されたダメージがHITの三字とともに乱発される。

 

 マイティアクションX。

 そのライダー、変身者の宝条永夢の得意とするアクションゲームを具現化させたエグゼイドは、その敵キャラたるソルティとその配下たるコック姿のバグスター達を吹き飛ばした。

 

 落下する彼らを腕で払いのけるように黄金の騎士(ライダー)が両刃の剣と円形の盾を両手に、エグゼイドへと肉薄する。

 

 『ドルアーガの塔(タワー・オブ・ドルアーガ)』。ゲーム史に名を残すダンジョンRPGの原点とも言うべきゲーム。

 かつてのDr.パックマンと同様に、永夢は憤りを覚えた。

 ゲームを愛する者として、そして救われた者として、人々の笑顔や生命を奪うために、それを利用されることは許せない。

 

 その心が、同調する。

 彼の中に住まう半身。

 同じくプログラムから生み出された者の心を、たぎらせる。

 

 レベル差を超えて、黄金のライダーギルガメッシュとエグゼイドは拮抗した。

 ブレードモードに切り替えたブレイカーで、横面を打つ。だが、盾に展開された六層の防壁(バリア)が、その斬撃の威を完全に殺し切る。

 

 そしてギルガメッシュは、このままレベル差とアイテムの性能による、力任せの戦闘(プレイング)で押し切る算段でいるのは明確だった。

 

 ――だったら。

 

 この防壁を相手にするのであれば、『彼』のほうが適役だ。

 

 

「……パラドッ!!」

〈よっしゃ! 待ってたぜぇ! エム!〉

 

 心の奥底から、明朗な声がこだまする。

 永夢の左手が、まるで意志を持ったかのように、二層一組のガシャットを手に、ベルトのそれと移し替えた。

 

〈デュアルガシャット! マザルアップ! 赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクトノックアウト!〉

 

 水平に伸ばした手の側から迫るエナジーフィールドが、エグゼイドの姿をよく似た、だがまったく別のライダーのものへと変化させる。

 

 仮面ライダーパラドクス。

 永夢の感情から生み出され、そして感情を、時として肉体を共有するバグスター、パラドであるからこそ可能な芸当だった。

 

「久々の戦いだ。心が躍る……!」

〈ガシャコンパラブレイガン!〉

 

 エグゼイドが身を潜めたことにより、ガシャコンブレイカーが消滅する。空いた手でパネルから呼び出した自身の固有武器のボタンを連打しながら踏み込んだ。

 

〈1・2・3・45678! 8! 連打!〉

 

 ふたたび防壁を展開しようとしたギルガメッシュよりも速く、そして多く、ボタンを押した。斧から発せられる刃の風が、七つに分裂しながらギルガメッシュのバリアを削り切り、盾を弾き飛ばして重い一撃を食らわせる。

 

「ぐっ!?」

 体勢を立て直すべく後退したギルガメッシュを追いながら、ゲーマドライバーのレバーを前後させる。

 

〈ウラワザ! パーフェクトクリティカルノックアウトボンバーッ!〉

 

 旋回させた右足を軸として、青い知性のパズルと、赤い闘志の炎が大気を切り裂いた。

 その軌道が、爆炎の線を引く。文字通りそれは、ギルガメッシュの模造品の死線となった。機械の身体を業火の一太刀が切断し、そのまま呑まれて消滅した。

 

 ギルガメッシュを含め、自分たちに向かってきていた第一波を攻略した永夢たちだったが、このフィールドにセーブポイントは存在しない。

 休む暇なく、第二波が迫っていた。

 その先頭に立つのは、アランブラとそしてあと一体。どこかで見覚えのある青いライダーだった。

 

「こっからは、超キョーリョクプレイで、クリアしてやろうぜ」

〈あぁ!〉

 

 パラドは勇ましく共同体へと語りかける。その弾む心に引きずられるかたちで、融合している永夢も勇ましくうなずいた。

 

〈マイティブラザーズ XX!〉

 

 パラドクスが導入したガシャットによって、永夢はふたたびエグゼイドとして分離した。それに合わせて、パラドクスもまた色と形が対となったエグゼイドの分身となる。

 

 永夢はガシャコンキースラッシャーを、パラドはガシャコンブレイカーを携え、左右に分かれてそれぞれの敵に相対した。

 

 アランブラの出す火魂を一斬ごとに剣圧で吹き飛ばしながら、あるいはジグザグと、屈折した軌道に我が身を動かし、攻撃魔法を回避しながら着実に接近する。

 そして『魔力』が切れるその一瞬を見計らい、最大加速で踏み出した。

 

 なにも、むやみに攻撃をかわすための蛇行ではなかった。その道程にあるエナジーアイテム、おそらくは敵のギルガメッシュが使用するためだったものを確実に拾っていく。

 

〈高速化!〉

〈ジャンプ強化!〉

 

 敵の足下に滑り込んだ永夢は、そのまま下から足裏を突き出した。

 本来は飛躍に用いるための脚力は、そのままアランブラを宙へと打ち上げるための発射台となった。

 

〈キメワザ! マイティ! ダブル! クリティカルストライク!〉

 

 永夢は必殺技のカットインを思い描く。

 所在なく手足をばたつかせ、次第に高度を落としていく悪の魔法使いに、永夢の飛び蹴りが炸裂した。

 

 膝を滑らせ着地したエグゼイドの頭上に表示されるのは、大々的なHIT。大輪の火の華。そしてGAMECLEARの賛辞。

 

 その爆風に心身が推されるかたちで、もうひとりのマイティも青いライダーへと肉薄した。

 互いにまったく意匠の異なる(ブレード)を絡ませ合いながら、互いを圧し切らんとする。

 

 おのれがデータから生み出された存在であるからして、パラドとしても目の前の敵が完全に心を喪った機械人形だとは思わない。彼の中には、かりそめとは言え、確かに生へとしがみつく執着を感じさせる。

 

 それでも、退くわけにはいかない。負けるわけにはいかない。

 

「この世界は……」

 

 獣じみた猛攻をぎりぎりと音を鳴らして耐え忍びながら、パラドは声を絞り出した。

 

「ただのウィルスだったオレを……受け入れてくれた……一度は罪を犯しても、仲間たちと一緒に、生きていい場所を作ってくれた……! だから、オレも、この世界の生命を護るために永夢たちと戦うっ!」

 

 その気炎が彼自身に力を与えたのか。

「……………」

 ――あるいは、彼の放った言葉のどこかに、その青いライダーに突き刺さるものがあったのか。

 

 一瞬、勝りつつあった敵の腕力と気力に、緩みが生じた。

 自身もまた天才プレイヤーたるパラドは、その隙を許すほど甘くはなかった。

 押し返す。青いライダーの肘から先が浮き上がり、その胴に逆の拳を叩き入れる。

 

 

「……ツアァッ!」

 つんのめる敵は、膝を突きながらも、なお獣の咆哮でおのれを叱咤し、戦いに挑む。

 

 ぴしり、と。

 彼の素顔を覆う仮面(マスク)に、亀裂が入る音がした。


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