泊家の夕食は、久々に三人そろっての食事となった。
というのも刑事として今も最前線で戦う父が、時間どおりに食事をとることが難しいからだ。
エイジ自身にしても大学の付き合い……とりわけ最近は仮面ライダーとしての活動も加わり、帰りが遅くなることが多かった。
母の作ってくれた食事を慢性的に口に運びながら、父は今追っているらしいヤマの資料を端末で漁っていた。
一年前、ある友人が行方不明になったらしく、捜索願とは別に彼個人もお願いされているらしい。
霧子がわざとらしく咳払いした。
父は妻の不機嫌に気づいてあわてて端末を切ったが、その拍子にテーブルの下に落としてしまって、拾いなおした。
そのまた瞬間にテーブルの角に頭をぶつけ、食卓全体がおおきく揺れた。
「って!」
と痛がる父に、母は露骨にため息をつき、その息子は彼に見えないように笑った。
微妙な距離感には違いないが、それでもたしかに感じる、ありふれた幸福の姿だった。
「そう言えばエイジ」
と、机から顔を出した父は端末をスーツのポケットにしまい込んで言った。
「現さんから聞いたんだけど、お前今日現場に来たんだってな」
「ん? うん、まぁ通りがかりで」
「そうか」
父は詮索しなかった。代わりに、
「最近、帰りが遅いみたいだが。いったい何やってるんだ?」
などと、まるでホームドラマのようなセリフをそれとなく、と言った感じでさし挟んでくる。
「べつに。友達の付き合いとか」
「この間はドライブだったか?」
「そう、ドライブ」
「車は?」
「えっ」
「車はどうしてる? お前、持ってないだろ」
まるで取り調べみたいだ。そう一笑に付そうとしたが、父の表情を見たエイジはその笑みを引きつらせた。
父は……刑事、泊進ノ介の眼光は、するどく対象を観察していた。
(これがあるから、うかつなことが言えないんだ)
ふだんは呑気者でおっちょこちょいで気取り屋の父だが、一度でも不審な点を見つけると、彼いわく『ギアが入る』。
一転して鋭い頭の冴えや観察力、情報整理能力を発揮して真実へとたどりつくのだ。
今でこそダークドライブのことは秘密だが、もちろん事態に収拾がついて実績を重ねていったあと、きちんと報告するつもりでいる。
(だけど、今はだめだ)
全容をつかむどころか、事態はより複雑に、より大きくなっている。そんな予感がある。
ただでさえ難事件を抱えている父にその責任を押し付けたり、母に心配をかけたくない。
「レンタカー。借りたんだよ。あとは友達のとか……じゃあ今度さ、父さんの、一台貸してよ」
「やだね! お前みたいなひよっこに、誰が貸すかっ」
(子どもか)
と、相も変わらぬ車への執着に、エイジと霧子は呆れた。
だが、そこを刺激することでお茶を濁すことには成功した。
それにレンタカーうんぬんは、言い方を変えただけでウソではない。
ネクストドライブシステムは、『父の』友人であるりんな、ロイミュード108……元をたどれば擬態された本来の持ち主からの借り物だ。
八対二と割合で虚実をまぜること。それがウソを信じさせるコツだ。
(確かに今は借り物の力だけど、いずれは乗りこなしてみせるさ)
何度となく誓ってきた決意。だがそのたびに、エイジの頭にふと疑問がよぎる。
(ダークドライブの元の装着者って……いったい誰なんだ?)