仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第七話:Next(12)

 詩島剛は、雨夜の中に流星のような輝きを見た。

 泊英志が、おのれの因縁を乗り越える瞬間を見た。

 

 だが、彼自身は未だ、亡父の残影と銃火を交えていた。

 

 ゼンリンシューターで雨露を切り、くり出した一撃がゴルドドライブの胸部装甲をかすめる。避けられた。剛は即座にそれを判断すると、引き金を弾いた。

 絞り出されたエネルギーがギルガメッシュに命中し、火花が両者の間でまたたいた。

 

 反撃の拳を、剛は地面を滑るようにしてかわした。

 次いで迫る蹴りを、身をよじって流すと、そのままの勢いを借りて、スリップ音を鳴らしながら大きく旋回する。マフラーがギルガメッシュの視界を覆い、その死角から今度は剛が踵を彼の胴体部へとめり込ませた。

 

「あまり図に乗るなよ」

 

 焦れたような声で、ギルガメッシュは威圧的に言った。

 複製ドライバーのアドバンスドイグニッションを無造作なタッチでねじると、タイヤと一体化した肩口の装置、ゴルドコンバージョンから波動が放射された。

 

 過去の光景がその脳裏にフラッシュバックした瞬間、剛は後ろへとスウェーしようと試みた。

 だが、人体が光より速く動ける道理はなく、公開されている技術においても、今なお実現はされていない。

 

 その波を、マッハの機体と武器とが浴びる。

 全身が痺れるかのごとく動かなくなり、補助を喪った装甲はそのまま重石となってさらに自由を奪ってくる。

 武器は粒子化して流れていく。その先にゴルドドライブの右手があった。

 

 所有権の渡ったゼンリンシューターは、主人を無慈悲に撃ち抜いた。今度は、剛がもんどり打って転倒する番だった。

 

「見かけこそお前の『父親』と同じだが、当然バージョンアップは施してある。二十年前のカビの生えた防壁(コーティング)なんか、通用するものか」

 

 形勢は逆転する。うそぶくギルガメッシュは、シューターを連射しながら剛を痛ぶり、あえてゆったりと距離を詰めてくる。

 

 もがこうとする剛の前に立つと、大きく振りかぶって打ち出した中段への蹴撃が、剛の右胴へと何度も叩きつけられた。

 

 呼吸さえ許さない速さと強さでくり返されるその連打に、ついに剛は膝を折った。

 

「そんなものを頼みにしていたのなら、見通しが甘すぎる」

 

 そう無慈悲に宣告する彼は、ギロチンの刃のように、振り上げた足を剛めがけて振り下ろす。

 

 だが、その一撃は、まっすぐに伸ばされた剛の腕によって防ぎ留められた。

 

「――見通しが甘いのは、そっちの方なんじゃねぇの?」

 

 口調とは裏腹の、腹の底から響く声が、ギルガメッシュに嘲笑も反論も許さない。

 懸命の膂力と決して折れることのない気力とが、ギルガメッシュの攻勢を防ぎ留め、自身に引き下がることを許さない。

 

 ままならない肉体を叱咤し、雄叫びをとともにマッハはゴルドドライブを押し返した。

 いや、向こうがあえて決死の抵抗に対して、労して得ようとはしなかった。距離をとった。

 

 だがギルガメッシュは攻撃を中断したわけではなかった。

 強奪したゼンリンシューターの引き金を、天へと向けて撃ち放つ。

 

 一度浮上した光線が、空中で何条にも枝分かれし、光の榴弾となって剛のいる足場を焼き尽くした。

 視界さえも白く埋め尽くす爆炎。その中で、剛はドライバーのシグナルバイクを抜き放ち、一回り大きい車体を取り出し、装填し直した。

 

〈シグナルバイク、シフトカー!〉

 

 装いを新たにしたことで、システムを更新したことで、自由を取り戻した。

 

 光が晴れた時、そのには『マッハ』の姿はなかった。

 チェイサーの要素を組み込みながらも、マッハの形態をベースにした姿。今の英志(ダークドライブ)がイレギュラーなものだとするならな、こちらは正規の手順を踏んだ純正品といったところか。

 

 青いボディが雨をしのぎ、バイザー越しの真っ赤な瞳の輝きが、雷の激しさを跳ね除ける。駆動する力の余波が、渦巻く火炎を吹き消した。

 

〈マッハ! チェイサー!〉

 

 かつて起こった奇跡の融合。その形態に技術的に近づけた姿。それこそが今の剛、仮面ライダーマッハチェイサーだった。

 

 剛は腹のドライバーを拳で連打する。

 肩のシンボルマークから発せられた青い輝きの波動が、拡散した。

 

〈カナリ!〉

 

 ゴルドドライブの発したものと、同質の、だが真逆のベクトルを持つそれは、逆に彼の肉体を絡め取った。手にした武器がふたたび粒子化されて剛の手で実体化した。

 

 急に手に在ったはずの重みを喪った。それによる肉体と精神の均衡の、一瞬の揺らぎを突いて、剛は逆襲を仕掛けた。

 

〈ゼンリン!〉

 

 ゼンリンストライカーを回転させ、ギルガメッシュを撫でるように斬り上げる。高速でエネルギーの渦を作るそれが、忌むべき金色の装甲を削り取る。

 

「英志との戦いのデータを解析して、そいつはすでに対応済みだ」

「この短期間で、ワクチンプログラムを作り上げたとでも言うのか……ッ」

「ウチのメカニックは優秀でさ。ピットインからここまでさすがの早業(マッハ)だったよ」

 

 剛が手を止めない。互いの呼吸さえ整わない間に、射撃と打撃を切り替え、組み合わせ、瞬時に追い詰めていく。

 その名の通り、また本人が常々言っている通り、マッハ系統をベースとするシステムは短期決戦を意図して設計されている。だからこそ、隙を見出せば、一直線に突っ切る。勝利を得るまで突き詰める。

 

「そうさ。人間は日々成長している。おなじ過ちをくり返さないために! 夢見た明日を手に入れるためにっ!」

 

 蓄積したダメージが限界を迎え、ゴルドドライブの表層が火花の電流を散らした。

 剛は腰のベルトからシフトライドクロッサーを引き抜くと、シグナルランディングパネルへと装填した。

 

〈ヒッサツ! フルスロットル!〉

 

 クリム好みのセリフを合図に、剛は車輪を回し、全開にされたレブストリームがそこを基点に渦巻く。

 

「そしてオレの夢のためにも、もう二度とクリムやロイミュードの技術を、もう悪用なんてさせない……絶対にだッ」

 

 永く続いた暗雲を払うかのように、またそうせんとする剛の気焔に応えるかのように、またそのシフトカーにも組み込まれた友人の遺志が同調するかのように、青い力の旋風は、せり上がるような駆動音とともに曇天を衝く。

 

 一度放出されたそれが凝縮し、シューターのマズルへと収束する。モデルとなったライドクロッサーを象ったヴィジョンが、マッハチェイサーの拳を覆い包んだ。

 腰を深く沈めてひねり、右足をバネに、剛は飛んだ。

 

 拳に握りこめたシューターの一打が、ギルガメッシュをえぐり抜く。

 一層、また一層と削っていきやがてその衝撃が炉心を射抜く。

 

 バルコニーから投げだれたゴルドドライブから、眼魂がこぼれ落ちる。核から切り離された肉体は、悲鳴もなく、浮き上がったままに爆散した。

 

「――いい()だったろ?」

 

 その火の華を見届けた世界的な写真家は、その光景に手向けるように、雨粒を二本の指で切って見せた。


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