仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第二話:Gは止まらない/黄金狂時代(1)

 『黄金仮面』というのが、黒い正義のヒーローとまるで競うように現れた、闇の風雲児だ。

 シュメール人の彫刻物のような黄金のマスクをかぶり、黒コートをまとった、骨格からは男と推定されている。

 

 手すりのついたグライダーに乗って夜空を駆け抜け、私腹を肥やす政治家、黒い疑惑のある富豪の私邸や経営する会社を襲って金品を強奪。

 まるで雷鳴のような高笑いを轟かせながら金をばらまき、機密文書や資料を動画やリークサイトにアップロードする。

 よく言えば義賊。法にもとづいて言うなれば、連続強盗犯だ。

 

(紙や金属で売り買いするのも珍しくなったっていうのに、そんな旧時代的な)

 

 とエイジは呆れていたが、大衆受けはダークドライブよりもはるかに良いようで、特に若者層からの支持が強い。

 往年のように不死のテロリストが町のシンボルをハイジャックしたり、宇宙からロボット軍団や隕石がやってきたりなどなく、ただ平穏で、退屈で、そして腐敗は確実に進みつつある、閉塞した現代。

 そんな時代に現れて風穴を開ける彼の姿は、鬱屈してはいるものの自分では具体的に行動できない人々にとっては、希望の流星といったところなのだろう。

 その手口と人気から、大昔に世間を騒がした大怪盗『アルティメットルパン』の再来とさえ言われている。

 

 自分だって、ダークドライブを手に入れていなかったら、彼のことを慕っていたのかもしれない。

 

 だが、実際にはエイジはもうひとりの仮面のヒーローとなって、その義賊を追っている。

 というのも、『黄金仮面』には奇妙な風聞もついて回っていたからだ。

 

 ――いわく「彼は、窮地に陥ると目玉のようなものを使って別の姿に変身した」という。

 

 その情報を得たときにエイジの脳裏に浮かんだのは、警報ランプの下の、黒い幽霊。

 あの眼球型のガジェットは『眼魂』と呼ばれるもので、父があつかった事件の押収品にも、似た代物があったらしい。

 

(ということは、ぜったいにボディ泥棒か、でなければ関係者だ)

 

 ネクストライドロンに搭載されている高感度モニターが、上空からターゲットを補足した。

 車体の下で滑空するグライダーに、少しずつ高度を落とす。さすがに覆いかぶさる影に、怪盗は気づいたようだった。スピードを速めていく近未来的なグライダーに合わせ、ネクストライドロンの速度を上げ、野太いクラクションを鳴らした。

 

 速度を保ったまま、車のドアを開けた。都心一帯さえ見渡せるような高度の夜景が、そこにはあった。

 元々この並行世界のスペシャルカーはオート操縦で動かしている。ハンドルを手に取ることは不要だった。

 ただ、そこから飛び降りるだけど勇気が、要るだけだ。

 

 ダークドライブは、車から飛び降りた。

 グライダーの上の男をつかんで引きずり下ろし、自分もろとも、高層ビルの屋上へと落とし込んだ。

 彼が奪ったとされる宝石類が、夜に燦然と輝く文明の光に溶け込んでいく。

 

 さすがに生身の肉体の『黄金仮面』を硬いアスファルトに墜落させるわけにはいかないから、自然自身を下に、ダークドライブの装甲で衝撃を吸収する体勢になった。

 派手な衝撃音のあと、もつれ合いながら足場を転がり、悪趣味な仮面を引っぺがす。

 

 次の瞬間、足払いを食らった。バランスを崩した後に拘束からすり抜けられた。

 

 中腰になって距離をとった男の顔は、意外にも若く、少年という年頃に近かった。

 鼻筋の通った、日本人離れした顔立ち。いや、あまりに整いすぎた美貌で、神の寵愛さえもそこには感じさせた。

 その白皙に見合うだけの、極上の絹糸のような金髪。それを右半分だけ伸ばし片目を覆い隠していた。

 

「やるじゃないか」

 と、男はまず相手を褒めた。

 だが、次の瞬間あらぬ方向へ、青い目をやり虚空に向けて語りかけた。

 

「……ん? いやぁ、べつに問題ない。ただちょいと、厄介なのに絡まれてさ」

 

 最初は通信機で仲間に話しているものだと思った。

 だが、それらしき端末は、彼の身体にはどこにも見当たらなかったし、モニター越しにサーチをかけても見当たらない。

 

〈お前に、少し聞きたいことがある〉

 展開した武器……ブレイドガンナーを手に、エコーをかけた音声でエイジは問う。

 

「こちらにはないね。お前のことはお前以上に知っているからな……泊英志」

〈なっ……!?〉

 

 本名を即座に言い当てられ、エイジは動揺した。

 その隙が、『黄金仮面』が右手に隠していたものに気付かせるのに、一瞬遅れさせるはめになった。

 

 それは、鈍く光る数枚の銀貨だった。

 エビやサソリやライオンの絵柄が彫られたそれを手の中で割り砕いて、地面へと放り投げた。

 すると、それら一片一片から包帯と毒々しい色合いの煙が噴き出てきた。やがてそれは人型の肉体と姿を変えた。

 

 ミイラ男のような造形。のっぺらぼうのように顔のパーツが抜け落ちていて、ゾンビのようにうめきながら、不気味にうごめく。

 そんな怪人がうつろに腕を伸ばしながら、物量に物を言わせてエイジを押しつぶそうとしてきた。

 

「悪いが今はお前に構ってやってるヒマないんだ。クズヤミー(そいつら)と遊んでてくれ」

 

 化け物たちの垣根の向こう側で、金髪の魔少年は不敵に嗤う。

 そして屋上から飛び降りて、姿を消した。

 

「待てッ!」

 とエイジは呼ばわったが、声で犯人が止まるようなら刑事(デカ)は要らない。

 代わり、その声に反応するかのようにメダルの破片から生まれた怪物たちが、ダークドライブに群がった。

 

 青い刃をふるって叩き付ける。

 だが意外に肉厚な彼らは、斬りつけるたびにのけぞるが、破壊にはいたらない。その動きはゆっくりだが、着実にエイジに迫っていた。

 

「だったら!」

 意志に応えるように、一台のシフトカーが飛来し、エイジの手におさまった。

 シフトブレスのネクストスペシャルを引き抜いて交換する形でそのシフトカーを挿入する。

 

 クリムを再現した音声が端的に、パトカーを模したそのシフトカーの情報を読み上げる。

 

〈NEXT HUNTER!〉

 

 上空をただようネクストライドロンから、赤いラインが入ったタイヤが射出され、ヤミーを吹き飛ばした。 

 バウンドしてからダークドライブの肩にはまり込む。

 

 ネクストハンター。

 父が使っていたシフトカー、ジャスティスハンターの後継機だ。

 

 新たにダークドライブの伴となったシフトカー三種は、元々はロイミュード108が使っていたものがモデルらしい。それらには未来型ロイミュードのデータがインプットされていて、性質的にはバイラルコアに近かったらしいが、こちらは正当進化したシフトカーだった。

 

 タイヤがボディに定着して間もなく、牢屋の格子を切り取ったような六角形のボードが、タイヤから生成される。

 それをフリスビーの要領で水平に投げると、おおきく旋回しながら、敵の群体に雷撃を放射しながら、彼らを蹴散らしていく。

 

 彼はイグニッションキーを回し、シフトブレスのボタンを押した。

 

〈HUNTER!〉

 

 と甲高い男の声とともに、空中でボードは分解した。それから上空でヤミーたちを囲むと、レーザーを照射した。地面に向けて注がれる熱光線は、徐々にその範囲を狭めていって行動を制限していく。

 

 やがて完全な牢獄と化したそれを、呼吸を整え、ダークドライブは握りしめたブレイドガンナーで殴りつけた。

 

 さながら音波のようにエネルギーの波動が内側でひしめくヤミーの全身に染み渡っていく。

 そして牢獄もろともに、くぐもった断末魔を発しながらヤミーたちは爆発した。

 

 焼け焦げたメダルの破片が、金音を立てながら散らばった。

 完勝と言って良かったが、変身を解いたエイジの顔は晴れてはいなかった。

 

 捕まえられたはずの犯人、もしくは手がかりは彼の手から逃れ、明らかになるはずの謎は、ますます深まるばかりだったのだから。

 

「……なんなんだ、あいつはいったい?」

 

 ひとつだけ分かったことと言えば、『黄金仮面』と仮面ライダーダークドライブは、決して相容れない存在同士ということだけだった。


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