訳あり女子生徒   作:海野

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一章
第一話 噂の少年


 放課後。多くの学生は部活や帰宅する時間だ。

 だが、教室に残っている者がいた。

 

「くっそーこの問題分かんねぇ……」

 

 プリントの一問目から頭を抱えていた遥は今にも鉛筆を折りそうだ。

 そして遥の隣にいる少年。笹川良平もまた1問目から悩んでいた。

 

「極限分からんぞー!」

「うるっせえ!てめぇの所為で全く解けねえじゃねえか!」

「何だとー!一問も解いては無いではないか」

「それはてめぇもだろ!」

 

 いきなり喧嘩をしだした二人は鉛筆を机に叩きつけ、立ち上がった。

 

「こういう時は拳同士で語り合うのがいいだろう」

「ああ。望む所だ」

 

 二人は構えた。そこに勢いよくドアが開けられた。

 

「ちょっと!二人とも補修中じゃなかったの?」

 

 息を切らしながら来たのは冬花だった。二人の喧嘩をいつも止めるのは冬花だ。

 

「こいつが五月蠅いんだよ」

「それはお互い様だ。九条の貧乏ゆすりが耳に障るのだ」

 

 補修が始まってもう三十分。他の生徒は部活か、帰宅した。

 どうにかして冬花は喧嘩を止め、丁寧に教えた。普通は授業を聞いていれば解けるものも二人は授業中は熟睡しているのだ。

 

「私も次は教えませんからね」

「分かったって。サンキュー冬花。これで部活に行けるぜ!」

 

 遥は机に立てかけてあった竹刀袋を持って、部活に行った。

 

 

*******

 

 

「今日は終了です。ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

 部員全員で主将にいつもの掛け声を言って終わった。

 遥の所属するのは剣道部だ。中学校の中では少ない部活だが、並盛中学校では多くの部活がある。

 

「遥。帰ろう」

「うん」

 

 冬花は遥を待っていたのか、校門にいた。

 冬花は部活に入っていないのだが、生徒会の仕事を残ってやっていたらしい。並中の七不思議の一つで「生徒会と風紀委員は学校の裏事情に関わっている!?」というものがある。実際にどうなのか。その事は遥も知らない。

 

「ただいま」

 

 一般の一軒家が二人の家だ。なぜ二人が一緒に暮らしているのかという理由は、育て親が同じだからだ。

 

「おかえりー」

 

 二人の返事を返したのは一人の男性だ。この男性が二人の育て親の三日月だ。

 

「疲れたー」

「また補修?」

「そうなのよ!遥、また授業を聞いてなかったのよ!」

 

 三日月が遥に言った答えは冬花によって返された。それに三日月は苦笑した。

 

「遥もちゃんと授業聞かないと駄目だよ」

「だってさー聞いていると眠たくなるんだよ。お風呂入ってくる」

 

 剣道は防具を付ける。防具にも重さはある為、部活が終わるといつも汗だくだ。

 冬花は鞄からファイルを取りだした。

 

「みーちゃん、学校からの手紙。ここにおいとくね」

「うん。ありがとう」

 

 冬花は三日月の事をみーちゃんと呼ぶ。小さい頃に拾われてからの愛称だ。

 遥が風呂からあがった頃に食事ができた。いつも三人揃っていただきますをするのがこの家のルールだ。

 

「今日も一発バンって決めたんだ!」

「凄いね。剣道もいいけど、勉強もしっかりしなよ」

「分かってるよ」

 

 この三人の食事では決まって遥がよく喋るのだ。

 

「そう言えば、一年の沢田君って子。最近トラブルを起こしてるのよねー」

「トラブルって何を?」

 

 味噌汁を啜るのを止め、興味を持った遥が聞いた。

 

「爆発音があったり、ほら。だいぶ前にも飛び降りをした生徒がいたでしょ?それにも沢田って子が関わってるみたいだし」

 

 その所為で雲雀君が怒ってるのよね。と言う冬花。

 すると遥が何かを思い出したようだった。

 

「そう言えば笹川が言っていたっけ」

 

__とても良い奴がボクシング部に入るのだ!

 

__へぇ。どんな奴?

 

__沢田という極限な男だ!

 

 

 極限な男というのはおいといて、笹川は二年生でありながら主将を務めている。そんな男が認めるほどなんだろう。

 

「沢田か。一度会ってみたいな」

「喧嘩はしちゃ駄目だよ」

 

 最後に三日月に釘を刺された遥だった。




並中に剣道部があるのは想像です。
今考えたら、剣道部が練習できるスペースが無いかもと思いました。

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