訳あり女子生徒   作:海野

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第十七話 嵐の戦い

 今夜の戦いは嵐。

 ツナ達は昨日の戦いで雷のリングと大空のリングを取られている。ここで負ければ三つのリングを取られる事になる。後がない訳だ。

 嵐の戦いは室内で行われるみたいだ。

 相手のヴァリアーはベルフェゴール。通り名は、切り裂き王子(プリンス・ザ・リッパー)で、ヴァリアーの中でも天才と呼ばれている。それに対し、ツナは獄寺だ。彼の武器ならこの室内を上手く活かせるだろう。だが、その本人はまだ来ていなかった。

 

「あの時計の針が十一時を指した時点で獄寺隼人を失格とし、ベルフェゴールの不戦勝とします」

 

 全員が窓の外に見える時計に注目した。

 カチ、カチと音を立てながら秒針は進んでいく。あと一秒のところで時計が爆発した。

 

「お待たせしました十代目!獄寺隼人いけます」

 

 獄寺は無事に間にあい、試合を始められた。

 今回にも天候を表す障害物があった。それは、ハリケーンタービンだ。ハリケーンタービンが出す風の威力は机や窓ガラスを簡単に割ってしまうほどだ。あの風は四方向から噴き出される。敵の攻撃を避けながら、あの強風も避けなければならないのだ。

 それだけでなかった。

 ハリケーンタービンには時限爆弾が仕掛けられてあり、試合開始から十五分までに勝負をつけなければ順次に爆発してく仕組みだ。

 

「この戦いはどれも共通してリングを完成させること。今回はどれだけ早く相手のリングを奪えるかが鍵となるね」

「ああ……」

 

 戦うのは自分の弟だ。心配という気持ちがある。それと同時に応援したいという気持ちもあるのだ。だが、今はオンブラとして中立の立場でなければならない。遥は自分の気持ちをそっと奥にしまった。

 試合が始まる前に獄寺の家庭教師(かてきょー)のシャマルも来た。

 ツナ達は獄寺を入れて円陣を組んでいた。

 シャマルは遥の隣に立った。

 

「言わねぇのか?」

「言うにもアイツは私が姉だという事もアイツは自分に兄弟はいないと思っているからな」

「そうか」

 

 獄寺とベルは中央に立った。

 ベルは獄寺に近付くと肩に手を置いた。

 

「肩に力が入りすぎじゃね?」

 

 相手はプロの殺し屋。流石に余裕と言ったところだろう。

 チェルベッロの合図で試合が始まった。

 獄寺はボムを投げて先制攻撃を仕掛ける。爆風で何も見えなくなると、その中からナイフが飛び出し、獄寺の頭上を多くのナイフが宙に円となって囲んだ。ナイフが獄寺に向かって落ちてくる前に獄寺は避け、次の攻撃に移る。多くのボムがベルに向かって投げられた。だが、ベルは避けようとしない。ベルは一歩後ろに下がった。すると、ハリケーンタービンの風がいきなり吹いてボムを無効化した。

 

「流石だと言うべきだね。障害物であるハリケーンタービンを利用して攻撃を無効化するなんて」

「それだけじゃない。咄嗟の判断力と冷静さ。この勝負で最も重要なのは焦らない事。この狭い空間で焦れば空回りしてハリケーンタービンの風に当たって終わりだ」

 

 ベルがナイフを投げると吸い込まれるようにして獄寺に当たる。

 相手は気流の流れを読んでナイフを添えると言っている。だが、そんな事は人間技では無い。

 

「タネも仕掛けも無いってわけじゃあなさそうだな。冬花はどう思う?」

「そうだね、彼の戦い方については情報は少ない。だけど、一つ気になることが」

「気になること?」

「そう、何で彼は獄寺君の肩に触れたんだろうってね」

 

 獄寺もベルの攻撃を受けながら冷静に考えていた。

 ベルは多くのナイフを取り出し、死角にいる獄寺に向かって投げた。

 ナイフは獄寺に全て命中したのか、獄寺が逃げ込んだ教室の窓に重たい物がもたれかかり、窓ガラスが割れた。ツナ達はそれを獄寺と思い、顔を青くした。だが、それは人体模型だった。もちろん、人体模型が身代わりになった訳ではない。獄寺はベルの技の正体を見破ったのだ。

 

「ワイヤーか」

 

 視認しにくいワイヤーを勝負の前に肩を叩くと同時に仕掛けたのだ。そのワイヤーにナイフの突起をひっかけて投げれば、レールの上を滑るようにワイヤ-に沿って飛んでくるという仕掛けだった。

 獄寺はまたボムを出す。導火線に火をつけ、投げた。だが、それでは風の壁にぶつかってしまう。すると、ボムは方向を変え、風の壁を乗り越え、ベルに直撃した。

 

「あれは……推進用火薬を仕込んだんですね」

「よく分かったな嬢ちゃん、その通りだ。推進火薬の噴射であらかじめ決めた方向に二度変化するってわけだ」

 

 爆風によって何も見えない。だが、相手は無傷ではないだろう。

 煙が晴れるとそこには血だらけで笑っているベルの姿があった。

 

「狂気だな。殺し屋の中には殺しに快感を憶え、ああなる奴も少なくはない。だが、厄介だな」

「どういうことですか?」

 

 ツナは画面から遥に視線を移して言った。

 

「本能のまま動いている。つまり、動きに無駄がないんだ」

 

 遥は画面を指差した。

 ベルは獄寺に向かってナイフを投げる。それを獄寺は身を縮めて避けたが、獄寺の顔に切り傷が入った。

 困惑している獄寺の隙を突こうとベルが襲いかかってくる。距離が近すぎてかわす事はできないと判断した獄寺は小さなボムを投げて身を縮めた。

 至近距離の爆発によって受け身を取れなかったベルは吹き飛ばされる。

 獄寺は一度この場から逃れるため、角を曲がって、一番奥の部屋の図書室に逃げ込んだ。図書室の入口は一つだけ。ここで勝負を決めるしかない。

 

「ん?」

「どうしたの遥」

「ベルフェゴールはナイフ使いだろ。さっきアイツが投げたナイフを獄寺はかわしたのに切り傷が入った。ベルフェゴールはナイフだけでない。ワイヤーを使う二刀使いなんだ!」

 

 遥がそう言った時にはもう遅く、獄寺の周りには鋭利なワイヤーが張り巡らされていた。

 ソングホールと呼ばれる紐を通せる穴にワイヤーを通し、ナイフを投げ、壁に刺せば見えない切断機となる。

 獄寺の手に持っていたライターが落ちる。

 そのライターからこぼれた火薬が導火線のように広がり、爆発した。それによってワイヤ-が切れる。そして、切れたワイヤーにフックをつけたボムをひっかけた。そのボムは吸い込まれるようにベルに当たった。

 

「終わったか」

「みたいだね」

 

 後はリングを取るだけだ。

 獄寺がベルの首にかけてあるリングに手をかけた時だった。ベルはまた立ち上がった。

 二人に武器を握る力はない。そして、時間も残り僅かだった。ハリケーンタービンが爆発していった。

 

「リングを敵に渡して引き揚げろ、隼人」

 

 それを言ったのはシャマルだった。だが、獄寺はひかない。それは十代目の右である誇りがそうさせている。すると、ツナが大声をあげて言った。

 

「何のために戦っていると思ってたんだよ!またみんなで雪合戦すあるんだ。花火見るんだ。だから戦うんだ。だから強くなるんだ!またみんなで笑いたいのに君が死んだら意味がないじゃないか!」

 

 ツナが自分の思いを話したすぐあとにハリケーンタービンの爆発を告げる音が鳴り響いた。そして、爆発。ツナ達が見ていたモニターには黒い砂嵐で何も見えなくなった。

 真っ黒な煙の中から人が出てきた。

 ツナ達は走って彼の下へ駆け寄った。

 嵐の戦いはベルフェゴールの勝ちで終わり、次は雨の戦いと告げられた。

 




 

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