訳あり女子生徒   作:海野

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第十五話 晴の戦い

 ツナ達が集まる前に遥と冬花は並中に来ていた。

 

「それにしても、大がかりなセットを用意したもんだな」

 

 遥の視線の先には大きなリングが設置されていた。これが今回、戦う舞台なのだろう。

 約束の十一時まで十分前となったところで守護者達が集まって来た。この場にいるのは、嵐の守護者の獄寺と雨の守護者の山本、晴の守護者の笹川だ。

 

「おそくなってごめん、ランボがかくれんぼを始めちゃって」

「十代目をわずらわせやがって、このアホ牛が!」

 

 ツナとリボーン、ランボが来ると、チェルベッロとヴァリアーが現れた。今夜の対戦は、晴の守護者の戦いとなった。

 ヴァリアーからは、ルッスーリアが出た。

 リングは首から下げる事になった。

 

「それでは試合開始!」

 

 チェルベッロの掛け声と共にリングの天井に設置されている証明から光が照らされた。その光は眩しくて目が開けられないほどだ。

 遥達はいざという時の為に用意していたサングラスをかけて試合を傍観していた。

 このリングの中、どちらが先に先制できるかが支配権を握ることになる。最初に一撃を入れたのはルッスーリアだった。

 サングラスをしていない笹川に対し、ルッスーリアは普段からサングラスをかけている。この勝負ではルッスーリアが優勢だ。

 

「目が見えるからだけのハンデじゃない。奴は立ち技のムエタイだ。普通に戦っても足を使わないボクシングでは苦戦するだろうな。それに経験の差が違う」

 

 ルッスーリアのパンチが笹川の頬に当たり、ロープにもたれた時、笹川が声を上げた。

 ロープは電熱の鉄線で何倍にも熱せられているとチェルベッロは言う。

 目が見えない笹川は四方八方にパンチを繰り出すが当たらない。これはもう勘だけが頼りだ。すると、パンチが偶然当たったのだ。

 

「だが、今の感触、奴は空中!」

 

 笹川がパンチを繰り出した時、ルッスーリアは膝を曲げてぶつけた。壊れたのは笹川の左腕だった。

 ルッスーリアの膝には鋼鉄が埋め込まれていたのだ。

 

「これも戦略の内だね。武器は隠して相手に悟らせない」

 

 冬花が言うと遥は頷いた。

 その頃、笹川の体には変化が起きていた。ライトの熱によって脱水症状が始まっていたのだ。

 

「立てコラ!」

 

 笹川に声を送ったのはアルコバレーノの一人、コロネロだった。

 コロネロの言葉で笹川は立ち上がった。

 

「この状況、彼にはこの戦況を覆せるの?」

「いや、あの熱血バカなら……」

 

 二人は中立という立場でツナ達の味方はできないが、密かに笹川ならやれるだろうと安心して見ていた。

 笹川はルッスーリアの攻撃を受けながらも、神経を研ぎ澄まし、集中していた。ルッスーリアの気配を感じ取った瞬間、右拳をルッスーリアの顎に当てた。

 だが、致命的なダメージにはなっていなかった。

 冬花はふとリングの天井を見た。

 

「そう言う事ね。遥、上」

 

 遥も上を見上げると理解したようだった。

 笹川のパンチは証明を壊していき、全ての証明が壊れた。

 

「刮目!」

 

 ルッスーリアは驚きを隠せていなかった。仲間に指摘され、笹川の体をよく見ると、塩の結晶が付着していた。

 さっきのパンチ、正確に言えば、彼の拳圧で割ったのではない。脱水症状による汗の水分が証明の熱によって蒸発され、汗に含まれる塩分だけが残り、その塩分を拳に乗せて散弾のように放ったというのが事実だ。

 だが、ルッスーリアはその上だった。

 ルッスーリアは笹川の顔の塩をかすめて、同じような事をした。これこそがヴァリアクオリティだ。

 

「流石、と言った所だな」

 

 笹川の目が見えるようになり、反撃を開始する。

 ルッスーリアにまた右拳のパンチを繰り出すが、またにしても鋼鉄でふさがれ、右腕までもが使い物にならなくなってしまう。絶望的な状況の中、現れたのは彼の妹とその友人だった。

 

「お兄ちゃん……やめて!喧嘩はしないって約束したのに!」

 

 笹川は両腕が壊れても尚、立ち上がろうとする。

 

「……京子がそれほど泣くのなら、もう負けんと!」

 

 笹川は壊れた右拳を前に押し出した。

 

極限太陽(マキシマムキャノン)!」

 

 妹を思う気持ちを力に変え、放った一撃は、ルッスーリアの鋼鉄を砕いた。

 ルッスーリアは鋼鉄を砕かれても立ち上がり、戦おうとする。何か、焦っているようでもあった。その時だった。仲間が背後からルッスーリアを撃ったのだ。

 

「酷いもんだよな。これが最強である所以の一つか」

「弱肉強食、裏ではありふれた言葉だからね……」

 

 悲しい結末だ。

 今夜の勝負の結果は笹川の勝ちとなり、晴のリングはツナ達の物となった。

 次の戦いは、雷と言い残して、チェルベッロとヴァリアーは去っていた。

 遥達は京子にばれないようにフードを深く被った。

 ツナ達は京子には言う訳にはいかず、相撲大会と言って誤魔化した。

 

「お嬢さん方、夜道は危険です。我々が同行しましょう」

「えっ、でも……」

「中立とはいえ、一般人には関係の無い話ですから。では」

 

 遥と冬花は京子と友人を送り届けた。

 二人は家に帰って来た後、ボンゴレ本部にいる九代目に連絡を取っていた。だが、何故か連絡がつかないのだ。

 

「何かあったとしか考えられないね」

「でも、私達は今、ここからは離れないからな……無事を祈るしか」

 

 外ではポツポツと雨が降り始めていた。




 いつもより長くて疲れた……。

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