翌日の早朝に冬花は制服ではなく、オンブラの時の格好で学校に行き、ある場所に向かっていた。それは屋上だった。
屋上の扉を開けると、そこには雲雀と、金髪の男が血だらけで立っていた。それだけでなく、フェンスが凹んでいたり、壁が崩れていた。屋上には給水タンクもあるというのに壊れたらどうするつもりだったのだろうかと冬花はため息を吐いて、二人の間に入った。
「お二人とも一度武器を下ろして下さい」
「お前は……」
金髪の男は武器を下ろすと、冬花の方に視線を移した。だが、雲雀は冬花に向かって走り、トンファーを振り下ろした。
「だから、一度下して下さい。大切な話があるので」
冬花は片方のトンファーをナイフで、もう一つを手で受け止めていた。雲雀の攻撃を素手で受け止められる人間は限られている。トンファーは鉄でできている。トンファーから手を放した冬花の手は赤くなっていた。
「今の私は、一宮冬花ではなく、オンブラの一人として言います。跳ね馬はもう知っているでしょうが、リング戦がこの学校で行われます」
跳ね馬ディーノは焦った顔をしていた。どうやら話してはいけない事だったらしい。それも並中を愛する雲雀の前だからだろう。
雲雀は並中を愛している。それが雲雀の誇りとも言っていいだろう。そんな雲雀にこの中学校を戦いの会場にすると言ったら怒るだろう。
「その様子を見る限り、許可は取られていないようですね。ですので、私達オンブラがその許可を貰いに来ました。もちろん、タダとは言いません。貴方の望む額をご用意します」
「おい、あんたらは中立なんだろ?そんな事をしていいのか?」
ディーノは冬花に聞いた。
ディーノの言う通り、昨日、冬花いやオンブラは中立の立場で試合を見ると言ったつまり、第三者。そんな彼女達はリング戦に口を出せないのだ。
「いえ、何事にも許可はいります。それが社会のルールですから。オンブラはボンゴレボスに仕える身ですからこれでもボンゴレの一員です。ボンゴレが不作法と知られれば天下のボンゴレの名が廃ります」
マフィア界でもボンゴレは有名だ。そんなボンゴレの情報を欲しがるマフィアは多くいる。スパイ、情報屋を使って集めようとするのだ。もし、このリング戦の情報が漏れれば不味い事になる。冬花はそれを考えた結果でこうして雲雀に話したのだ。
「何でもいいの?」
「はい。命の売買はできませんが、できるかぎりは」
「それじゃあ、九条遥と君が僕と一週間に一回戦ってくれるのならいいよ。あと、校舎が壊れたら元通りになるのなら」
なんとも雲雀らしい要求だった。
「はい。それで引き受けましょう。リング戦は全てで七試合行われます。全ての試合が終わるまで壊れた部分は幻術で補強させていただきます。それでは」
冬花は要件を言い終わると、屋上から飛び降りていった。校舎は三階建てだ。そんな高さから降りれば足を折るだろうとディーノは思い、フェンス越しに下を見たが、すでに冬花の姿はそこにはなかった。