エネルが女神様になったら   作:霧のまほろば

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皆様お久しぶりです!漸く帰国しましたので、投稿します!


第3話 龍戦の始まり

ーーー覚悟はいいな、テメェら。

 

険しい表情を浮かべたワイパーの一声で気を引き締める。

龍と戦うことについてか、新しい装備についてかは触れないでおく。

 

「お義父さん、本当に参加するのですか?」

「うむ。老いさらばえた老骨といえど、これでも元神じゃ。黄金の金がシャンディアの元へ戻るのを見届けたいのじゃ。それが儂に出来るせめての償いじゃ」

 

ピエールの背中に飛び乗って、甲冑を身に纏い、馬上槍を脇に挟むガン・フォール。その目は既に覚悟を決めた顔。此れを否定する事はエネルには出来なかった。

 

「ガン・フォールさん、お願いするわ!」

「うむ、任せろ!」

「おおおい、おおおおれもいいい行くのかかかよぉ〜!?」

「ナミィ〜、おれ怖いぞ〜!?」

「当たり前でしょ、黄金が待っているのよ!」

 

ガン・フォールと共にピエールの背中にナミ、チョッパー、ロビンが乗る。膝が震えるウソップはピエールが脚で掴んで運ぶつもりのようだ。

さっきまで行くのを嫌がっていたナミだとは思えない手のひらの返しよう。ナミの返事で大まかに理解できるだろうが、ロビンがポツリと呟いた、黄金の言葉に反応し行く気満々にひっくり返ったのだ。

バッサリとウソップとチョッパーの拒否の声を切り捨てる。

 

「………まさかお前達を運ぶことになるとはな………」

「しょうがねぇだろ、鳥馬はナミたちが乗るんだからな」

 

苦々しい表情を浮かべるカマキリ、ゲンボウ、ブラハムの三人。それぞれルフィ、サンジ、ゾロを背負って行く。ワイパーは背中にバズーカを背負うため、パスし難を逃れ、他人のふりをする。

 

シャンディアの戦士の背中に負ぶさる三人。思わず顔に影が差す。

この六人に腐の付く女子の方々が姦しく騒ぎ始めた。

 

「………………エネル、先に行く」

「え、あ、はい」

 

我関せずの態度を貫いたワイパーとエネル。誰にだって触れたくないものもあるのだ。

 

「オイ、待てやコラ」

「ワイパー、助けてくれ」

 

簡略に、平坦に、真摯に、真顔で言葉を紡いだゾロとブラハム。彼らの心情もこれで察せるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

さて、気を取り直して。

 

「よし……行くぞテメェら!!」

「行くぞ、野郎ども〜!!」

『おお〜〜ッ!!』

 

目の前に聳える巨大な蔓が絡み合った《巨大豆蔓》に向けて駆け出す。

脚に付けたスケート靴型のウェイバーの前方に体勢を傾け、重点を前に移動させただけで起動する。

ゴウッと突風が靴から吹き荒れ、ワイパーの姿が一瞬で消える。

いや、消えたように見えるが、それ程の高速で移動を始めたのだ。ワイパーに一拍遅れてゾロを背負ったブラハム、サンジを背負ったゲンボウ、ルフィを背負ったカマキリが続く。

 

「っんぎっ、んぐぐ……っ!」

「スッゲェッ風圧……!」

「…………ッ!」

 

風となって疾る四人と背負われた三人。暴力も言える凄まじい加速と速度を出す靴型ウェイバーの発する風圧に苦悶の声を出す。ワイパーも声に出さないが苦悶の表情を浮かべ、歯を食い縛る。

風圧によって顔の肉が押し広げられ、後ろに流れていこうとするのを顔の筋肉を総動員して耐えていく。

その疾る四人に遅れてピエールが四人と一匹を乗せて(一人脚で掴み)懸命に翼を羽ばたかせて巨大豆蔓の登頂を目指す。

ボフッと巨大な木が広がる樹海を覆う雲から抜け出すと丁度樹海の切れ目から天を突かんばかりに聳える二本の蔓が絡み合う『巨大豆蔓』が見える。

 

「………!見えたぞ、『巨大豆蔓』!」

「んぎっ!あれがっ、巨大、豆蔓!」

「ヴィヴィヴィ……!な、んてっ、でかさっ!?」

「とっ、いうかっ!天辺にっ、着くまで!このままかっ!?」

 

風圧で顔の肉を広げさせられたままのサンジが悲嘆する。どうみても『巨大豆蔓』は高さ1000m以上はある。そんな蔓を登る時もこのままなのかと愕然としたのだ。

 

「耐えろっ!おれだってキツイんだよっ!」

「…………」

 

そう叫ぶのはサンジを背負うゲンボウ。彼の腹の肉も風圧に煽られてブルブルと波打っていた。

何と言えばいいのやら、笑えばいいのやら、呆れればいいのやら、複雑な顔になるゲンボウを除いた一同であった。

 

「笑いたければ笑えっ!!」

 

 

 

 

 

 

先に出発したルフィらを見送ったエネルはまだその場を動いていなかった。

 

「一時的にですが、シャンディアの皆さんはこの『神の島』から離れてください!相手は龍です!一体何が起こるか分かりません!」

「ほら!ボサッとしてんじゃないよ!さっさと行きな!」

 

エンジェル島へ、『神の島』に住まうシャンディアの民たちや神兵らを避難させていた。

ラキを筆頭に残ったシャンディアの戦士たちが女子供を船に誘導し、コニスやパガヤたちが操船し、次々と離れていく。

エネルは雷の身であるため、どのくらい遅れても直ぐに移動できるからこうして残っていたのだ。

 

「エネル様!民たちの避難、あと僅かです!もう此方は任せてください!」

「ありがとうございます。ラキたちも……」

「まだ残ってるやつが居ないかを一回り見てからいく事にするよ」

「私も最後まで残ります!」

 

槍を肩に担いだラキの横で手袋をつけてゴーグルを頭に乗せたコニスが握りこぶしを握る。

その瞳には不安が見え隠れしていても、それを信頼が覆い隠していた。

 

「分かりました。無理はしないでくださいね」

「そりゃ、こっちのセリフだよ。あの龍とやり合うんだ。無理をするなってこっちが言いたいね」

「ふふっ、確かにそうですね。……皆さんも『神の社跡地』まで辿り着いたようですし、私も行きますね。ーー雷(ライ)」

 

エネルは『心綱(マントラ)』ーー見聞色の覇気を生まれながらにして会得している。そして、幼年期に食べた『ゴロゴロの実』の雷と見聞色の覇気は相性が良く、本気で見聞色を拡げていけば、この『神の島』全域はおろか、エンジェル島全域を見聞する事が出来る。

原作でもエネルはその『心綱』を操り、自身に反抗的な言動をした者に『神の裁き』という雷を落としている。

 

その見聞色の覇気を遺憾無く発揮し、『神の社跡地』まで辿り着いたルフィたちを捉えると、背中に稲妻でできた太鼓の輪を出現させ、自身も雷と化して、轟く雷鳴と共に飛び立つ。

一瞬で消えたエネルを見送ったラキたちも直ぐに移動を始め、見落としやまだ船に乗っていない者が居ないかを確かめて自分も船に乗って神の島を離れた。

 

 

 

 

ほんのちょっと遡り。

 

「『神の社跡地』だ。ここでエネルと落ち合う」

「ハァ……ハァ……なんでお前は平気なんだ?」

「鍛錬が足りんからだ」

 

疲労困憊といった風で膝に手を置き荒い息を繰り返す六人。此処は巨大豆蔓の凡そ半分、標高としては『神の島』から500m辺りといった所だろうか。此処まであの殺人的な加速力を誇る『試作第八号』から産み出される暴風と言っても差し支えない風圧に圧され、吹き飛ばされまいと必死に抵抗していたからだ。平然としているワイパーがおかしいのであり、これが普通……いや、普通なら、気絶している筈。

そういえば、此処って高度一万メートル以上上空なのよね、と空島に到着したばかりの頃、ナミが呟いていたが、一万メートル上空の環境にあっさりと適応している麦わらの一味が可笑しい。

ふと気づけば、カマキリの隣で伸びていた筈のルフィの姿が消えていた。

 

「………おい、麦わらは何処行った」

「「えっ!?」」

 

最初にルフィの姿が消えた事に気付いたワイパーが硬直から解け、愕然と呟くとゾロとサンジが反応する。

慌てて周囲に目を巡らす。

辺りは巨大豆蔓に突き抜けられた時に飛ばされたのか、崩れ落ちた少しの遺跡跡と『神の社』の土台が残っている。上を見れば、龍の長い胴体が見え隠れする雲が少しずつ濃い灰色の雲に覆われつつあった。

 

「………あっ!?アレは!?」

 

ふと巨大豆蔓の上を見れば、いつの間にか三回捻れた蔓の上を走っているルフィの姿が。

 

「「「ん何やってんだー!?」」」

 

カマキリ、ゲンボウ、ブラバムの叫びが響く中、ゾロとサンジは思わず頭を抱えた。

 

「………何をしていたんだ、おれは……!こうなる事を予想できていながら……!」

「エネルちゃんに面目立たねぇ……」

 

『神の社跡地』に龍に挑むメンバーが揃ったら、龍が招くという話を聞いて、全員がここに集結する事で合意した、筈だったが。何を聞いていたのか、ルフィが突出して龍が住まう雲海に向かって蔓を走っていた。いつも通りの話を聞いていないルフィの姿を想定していたが、スケート型のウェイバーから発せられる風圧に対抗するのに体力を消耗したゾロとサンジはルフィにまで気が回らず、その結果、ルフィの暴走を許してしまった。

 

「ゾロ!サンジくん!ルフィは!?」

「面目ない、ナミさん……!」

「ルフィは彼処だ……」

 

遅れてやって来たピエールの背中からナミたちが飛び降りて来てはルフィの姿が無い事に気付く。

げんなりした風のゾロが指差すともう既に5つめの蔓の上を走っているルフィ。

思わず気が遠くなるナミ。一味の中でも常識人であるナミにさらなる気苦労がのし掛かった瞬間だった。

 

「ーーーーぁぁぁあああああ!!!」

「「「!」」」

 

ボフッと雲のクッションに頭から突っ込んだ人影ーーウソップ。上を見れば慌てているピエールとガン・フォール。

此処が硬い地面じゃなく、瓦礫も避けて墜落したのだから幸いであるだろう。尤も、瓦礫に墜ちたとしても、この程度ならウソップは死にはしないだろうが。後々のとある島で高い建物から飛び降りて石畳の床に叩きつけられても、骨折で済んだのだからクッションのような雲ならばどうって事は無いだろう。

ーーー鼻以外。

 

「ーーー何してくれとんじゃぁ!?死ぬかと思ったぞ!!」

「ピェ〜………」

 

人型に開いた穴から鼻が横に曲がった事と頭にたんこぶをこさえた以外無傷のウソップが現れては天に向かって吼えた。済まなそうに鳴くピエール。

 

「青海人は皆頑丈なのか………?」

「どう見ても100m位は落ちただろ?雲がクッションになったとはいえ、鼻が曲がった程度で済むのかよ……」

「というか、オメェらも受け止めようとかしねぇのかよ!」

 

曲がった鼻をグキリと嫌な音を立てて修正しながら、戦慄する空人+ゾロ、サンジに吼える。噛み付かんばかりのウソップの扱いにも手馴れたもので。

 

「あのくらいじゃ死なねぇだろ。アラバスタであのクソ重いハンマーの攻撃受けて、全身に包帯巻いていながら一週間もしないうちに完治してんだからよ」

「いや、それはそうだけどよ……」

 

思い出すのはアラバスタ王国で“元”王下七武海のサー・クロコダイルによる王家転覆計画、つまりクーデター。その阻止の為、ミス・ウェンズデー事、アラバスタ王女ビビ・ネフェルタリと共にクロコダイル率いるバロックワークスと呼ばれる秘密結社との戦闘が行われ、その際ウソップはチョッパーと共にMr.4とミス・メリクリウスと交戦した。その中で、ウソップはMr.4の振るう4tハンマーの直撃を頭に受けている。

 

辛くも勝利を収めたものの、重傷を負い、全身に包帯を巻いて固定していた状態でも戦闘に参加しているという側から見たら頭を疑うような事もしでかし、更にはクーデターが終結した後も一週間もせずに傷が全治するという異常なまでの回復を見せている。

そんなウソップを知る一味だからこその反応と言えるだろう。

 

「全員ーー………ええと、全員揃いましたか」

「あ、エネル」

「……麦わらが先行っちまったがそれ以外は揃ってる」

 

ルフィの姿が此処に無く、気配が蔓の上からする事に頬を引きつらせながら雷を纏ったエネルが雷鳴と共に現れた。

 

エネルが姿を現した瞬間、遥か上空に漂う雲海の動きが変わる。大きく広がる渦のように、まるで台風のように。正に巨大な竜巻となる。そして急激に辺りが暗くなり、大粒の雨が殴りつけるように降り注ぐ。そして、エネルの青い雷とは異なる黄金色の稲妻が激しい明滅と轟音と共に辺りを奔る。余りにも激しい雷雨にピエールが怯み、エネルのいるところまで避難する。

 

『ーーーゴォオオオオオッッ!!!』

 

ビリビリと大気を揺るがす咆哮と共に灰色の雲が瞬く間に空島の視界全てを覆い尽くし、暴風が吹き荒れ、白い雲が散らされていく。『神の島』の周りの雲海も渦を巻くように蠢き始めた。

雷は落ちずとも、激しく明滅する雷雲が瞬く間に広がる光景は見るもの全てを圧倒する。

正に天変地異の現象を引き起こしているが、これでも尚、龍にとってはごく普通の事である。意識を向け、闘志を高める。それだけで周囲の環境に大きな変動を生む。その圧倒的な力を持つからこそ、龍は伝説や神話として恐れられるのだ。

 

「ーーーどうやら、彼方も此方に気づいたようです。直ぐに“召喚”が掛かりますから身構えてくださいね」

「なっ、エネル!?」

 

そっと目を瞑り、如意棒を杖のように立てて、手を添えて身じろぎしなくなったエネルを黄金色の小さな竜巻が包み隠し、風を散らすように消えて行く。

思わずワイパーが手を伸ばし、エネルの手をつかもうとするが、間に合わず空を切る。

 

「うおっ!なんだこれ!?」

「ちぃ!?」

「サンジ!ゾロォ!?」

「ゲンボウ!カマキリ!」

 

次いでサンジとゾロ、ゲンボウとカマキリが竜巻に包まれる。

 

「おわぁ!?」

「ナミィ〜!」

「きゃ……!」

「ピエー!」

「むう……!」

「………!」

「騎士のおじいさん!ロビン!ウソップ!チョッパー!」

「ワイパー!っ、俺もか!」

 

ピエールとガン・フォール、ロビン、ウソップ、チョッパー。ワイパーとブラハムも姿を消す。そして、最後はナミも竜巻に包まれる。

 

「キャ!」

 

ーーーほぅ、中々興味深い。天を読み解く才の持ち主よ、此度の戦は汝の糧となろう。確と見届けよ。天空の王たる資質を持つ者よ。

 

竜巻に包まれ、暗くなって行く意識の中で低く響く声。なんでかは分からない。けれども、龍であるということは直感で分かった。

聞きたい事が沢山思い浮かぶ中で意識が薄れていった。

 

 

 

 

「ハァ……!ハァ……!」

 

巨大豆蔓を全速力で走って登るルフィ。彼はまだ仲間が竜巻によって運ばれた事を知らない。ただ、本能が走って登れと呟き、それに従って走っていた。元々薄かった空気が段々と薄くなって、呼吸するのが重く感じるようになった。それでもルフィは足を止めない。

既に視界の先の空は真っ黒に染まりつつある雷雲が広がり、閃光を光らせ、雷鳴を轟かせる。

 

「うわ!?なんだこれっ!?」

 

踏み出そうとした足元から竜巻が発生し、ルフィを包み込む。思わず暴れて逃れようとするも、実体の無い風の渦。ルフィのパンチは当然のように突き抜け、手応えの無い返事として戻る。

そして、ふわりと浮き上がる不思議な浮遊感に包まれた。

 

ーーー此方も中々興味深い。王たる資質を生まれながら有する者よ。汝は支配を好むか?

 

「支配なんかしねぇ!海賊王は一番自由な海賊がなれるんだぞ!!」

 

ーーーク、フハハハハッ、ハーッハッハッハッ!!!

 

「何笑ってんだ、おめぇ!!何処にいるんだ!?」

 

ーーー久々に笑ったぞ。甘い同じ事を抜かした人間が居ったのを思い出したぞ。不思議と汝とその人間は重なって見える。

 

「???何の話だ?」

 

ーーーおっと、話は後にしよう。

 

「え〜!?」

 

バッサリと話を断ち切られた事にルフィは思わず叫びを上げ、意識を飛ばした。

 

 

 

 

「ーーーッ!?」

 

気づけば、竜巻も消え、自分の足が地面のような硬いものに着いている感触がする。

薄っすらと目を開けようとすると視界に飛び込んでくる眩い黄金色の輝き。思わず目を見開くと視界いっぱいが黄金の大地。

時折轟く雷光に照らされて眩く絢爛に煌めく。そして黄金の大地の彼方には巨大な黄金の鐘。それを守るように龍が黄金に煌めく巨体でどくろを巻いていた。

 

ーーーようこそ……我が縄張りに。盛大に歓迎しようではないかッ!!

 

黄金の大地を揺るがし、大気を波うたせる咆哮と共に雷鳴が激しく轟き、稲妻が灰色の雲を貫いた。

その咆哮を合図に龍との戦という名の模擬戦が始まった。

 

 

ーー伝説に挑む若き戦士の英雄譚の一幕を飾ろうではないか。




今年最後の投稿になります。皆様、良いお年を!

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