エネルが女神様になったら   作:霧のまほろば

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皆様方。初めまして、お久しぶりでございます。
ONE PIECEより投稿です。

お楽しみくださいませ。


第1話 全ての始まり

「ーー無礼を承知で頼むっ!どうか………どうかッ!あの子を、あの子を海に連れ出してくれッ!!」

「私からもお願いします!私たちでは無力でした。あの子の意志の堅さの前に、何も出来なかったのです……」

「情けないけどね……」

 

 

 

 

ーーー空島。1万m上空にある空を飛ぶ島の事だ。其処に訪れた 麦わらの一味。

王下七武海の一角である、サー・クロコダイルを陥したばかり。超新星の海賊であるモンキー・D・ルフィ率いる海賊団の通称だ。

彼らはジャヤで、かの冒険家、モンブラン・ノーランドの子孫であるモンブラン・クリケットから空島の伝説を聞き、好奇心に駆られ、突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗る手助けをしてもらい、そのまま空島に到達出来たのだ。

原作のように“シャンディアの戦士の襲撃を受けることも無く”、穏やかなひと時を過ごしつつも、空の騎士を名乗るガン・フォールの案内で空島の門まで辿り着く。

 

空島の門を守る老婆に安い入国料と写真を撮られ、無事にエンジェル島の白い水のような雲の海と雲の砂浜に上陸して其処で出会った空島の住人であるコニスと、その父のパガヤ。

その後に飛んで来た、空島を統べる王と言うべき【神】ーー元神、ガン・フォールも鎧を外して白いローブを纏った姿で砂浜に訪れていた。

 

原作のように、“不法入国者では無い”麦わらの一味。特急エビによって【神の島】に運ばれることも無く、1日2日とエンジェル島で平穏の日々を過ごしつつあった。

しかし、ナミがパガヤより借り受けたウェイバーで空島の海を探検していると空島の何処とも違う、青海の島と同様に大地で作られた広大な島ーー神の島、通称アッパーヤード。

そこに足を踏み入れてしまい、其処に“住処を置く”シャンディアの民に侵入者と誤解を受け、冒険に来たルフィたち共々襲撃を受け、戦闘に発展する。

しかし、飛んで来たガン・フォールと空島を統べる現【神】ーーエネルと呼ばれる“少女”の仲介で誤解も解け、神を護る神兵、シャンディアの戦士も巻き込んだ宴となり、一晩中飲めや歌えやの大騒ぎとなった。

 

そして次の日の朝、冒頭に戻る訳である。

この二日間で麦わらの一味の性格を見抜いたガン・フォールを始め、コニスや宴で心を許したシャンディアの戦士たち、神兵たちから頭を下げられたのだ。中には涙を流し、土下座までする者たちもいる。

そんな状況に追いつけないのは麦わらの一味だ。驚きに目を見開き、言葉にならない息を洩らす。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!なんで連れ出して欲しいのよ!?あの子はここの神様なんでしょ?」

「あの子は!まだ若い!主らよりも僅かに上であるが年頃の娘じゃ!しかし、その若さに見合わぬ覚悟と業を背負っておる。エネルには偲びないがーー」

「ーーそれは、私からお話します」

 

バチッという電気が弾ける音と共にシャンディアの戦士たちと麦わらの一味の程近い所にエネルが現れる。

薄い金色に輝くプラチナの髪と白磁のような白い肌と金色に輝く瞳。その身を包むのは薄い白いローブのような服。その背中には太鼓が陽炎のように揺らめきながら稲妻を放つ太鼓の輪が浮かび、パチパチと音を立てながら黄金の如意棒が稲妻を発する。

正に神、というならばこのような存在なのだろう。

 

「お、おお……、エネル様……!」

「エネル様だ……!」

 

恭しく、崇拝でもするかの様に平伏してエネルに道を開く空島の住人たち。その住人を見つめるエネルの瞳には悲しみが一瞬浮かぶ。人の感情の動きには鈍感なルフィでもこの色を見逃さなかった。陽気な雰囲気は鳴りを潜め、真剣な眼差しになってエネルに向き合ってどっかりと大地に腰を下ろす。

ふわり、と神の島に広がる樹海の根に腰を下ろすと背中の揺らめく太鼓の輪が消え、傍に如意棒も添えられる。

 

「ーー私は、十五年前ーー六歳の頃。決して赦されることの無い大罪を犯しました」

 

覚悟を決めて一息大きなため息を吐いた後、ポツリ、ポツリと話し始めたエネルに耳を傾ける。遠い過去に想いを馳せ、懐かしさを感じさせながらも激しく後悔するような表情。

 

ーー私は此処より遠く離れた空島、ビルカと呼ばれる国で産まれました。私の家は代々その国の神となる家系です。ーーそうですね、青海の方々には王族であったと言うのが正しいでしょう。

私が食した悪魔の実は【ゴロゴロの実】。代々受け継がれる悪魔の実です。はい、そうです。私は雷の身となりました。ご覧の通りです。

 

ええと、話が逸れましたね。私の父が雷の能力をまだ保持していた頃はとても穏やかで平和なひと時でした。暮らしている人々もみんな笑顔でひと時も賑やかな声が絶えることはない程です。

時折空島の怪物が襲撃してくる程度で、それも父やその配下の将たちが撃退するため、被害もありませんでした。

 

しかし、私が六歳になったある日、父が殺されたのです。青海より来た旅人ーー海賊と呼ばれる一団です。

ああ、貴方達に恨みはありませんよ。父を殺した者達は憎いですけれど。

雷の能力が全く通じず、逆に雷の身であった筈の父の体は攻撃を受け、遂には倒れ臥してしまったのです。

急いで神兵の方々が父を抱えて神宮にまで駆け込んで来たときは虫の息でした。真っ赤に染まった、父の白い衣服と体は今でも忘れられません。

 

最期に父は私に後を託す、と言い残して逝きました。そして、父が亡くなった後、側に添えられていた果実に渦巻き模様が現れ、母によってその実を口にさせられました。

ええ、悪魔の実の中でも最強とされる自然系。そして、その中でも無敵とまで謳われるゴロゴロの実。私は雷人間となったのです。

 

………ですが、その悪魔の実の力は六歳の子供であった私にとっては余りにも強大すぎた力でした。体から迸る雷を制御する事も叶いませんでした。

はい、暴走したのです……。

ビルカの国そのものを消滅させてしまったのです。数千人の人々が住むビルカを………滅ぼしてしまったのです……!

父が後を託すと言って笑っていたと言うのに、私は……、悪魔の実の力に翻弄されて我を忘れて、目に入るもの全てを破壊したいという衝動に駆られて………。母も、弟も、友人も。私がこの手にかけて、殺めたのです。

 

 

顔を覆いながら、今は亡き人々に悔いるかの様に涙を零して懺悔するエネル。

余りにも大きな十字架。

力の奔流に飲み込まれ、暴走してしまったからとは言え、数千人にも渡る人々を殺めたという事実は無くならない。その事実がエネルを縛り付けていた。呪いという呪縛に。血まみれの十字架に。

 

 

ーー国を失った私は雲海に開いた穴から、このまま青海に堕ちて死に、償おうとしました。ですが、其処を救って頂いたのは、奇しくも偶々近くを通りかかった海賊です。赤髪の海賊団と呼ばれる海賊団です。ビルカに用事があって寄ろうとしていたそうです。絶望に飲み込まれ、生きる望みを失った私を立ち直らせて、この罪と向き合おうと覚悟を決めさせてくれたのはシャンクス。赤髪の海賊団のお頭さまです。

 

「えっ!?おめぇ、シャンクスを知ってんのか!?」

「ええ。此処に送ってくださる途中、貴方のお話も良く聞かせてくれましたよ、ルフィ。一目会ってお話してみたかった」

 

目を輝かせるルフィに楽しそうに微笑み返すエネル。シャンクスによって繋げられていた絆が此処に巡り合う。何たる運命か。

思わず世界は狭い、と感じてしまったナミだった。シャンクスは海賊世界でも最上位にある四皇の一角であり、世界最強級の大海賊。

そんな大海賊に二人とも命を救われ、導かれるように此処で巡り合ったのだから。

 

ーー大勢の方々を殺めてしまった事実は変わりません。ですが、罪を感じるのなら、償うことも出来ると教えてくれました。大罪人の私が生きているなんて、ビルカの人々は赦さないでしょう。ですが、彼らに少しだけでも赦しを乞い、生きる者たちの為に尽くす事が私に出来る事だと思います。

ですが、当時私はまだ6歳であり、無力でした。この時折暴走するゴロゴロの実を少しでも制御できる様にシャンクスに鍛えてもらい、一度青海にも降りました。シャボンディ諸島でシャンクスの師匠でもあるレイリーさんにも鍛えてもらいました。

ああ、4年にも満たない時間でしたが、あの青く遥か彼方にまで広がる海は絶対に忘れる事はないでしょう。

 

「……青海に降りられたことがあるのですね……!」

「はい。青海に降りて其処の人々に触れ合った事があるからこそ、今の私が居るのです。もしも、その経験が無ければ、私は重責に押し潰されてしまっていたでしょう」

「へぇ〜、シャンクスはおめぇにとっても恩人なんだな!おれもシャンクスに命を救われたんだ!にひひっ、だからおれはシャンクスに憧れて海賊になったんだ!」

 

自分が尊敬する人物が他の人にも尊敬されて嬉しくない人は居ないだろう。本当に嬉しそうな顔をして笑うルフィに釣られてエネルの哀しそうな顔にも笑みが浮かぶ。

 

「エネル様は我らシャンディアの民の為にも、スカイピアの民の為にも身を尽くされた。おかげで我らは嘗て祖先の地を取り戻す事が出来、スカイピアの民とも手を取り合う事が出来たのじゃ」

「如何にも。もしもエネルが居らなんだら、我らは未だに互いに憎みあって交流すら断絶したままであっただろう。儂も元神であるが、儂では到底成し得なかった事であろうな」

 

実に穏やかな表情で並んで腰を下ろす二人の老人。一人は神の島に先祖代々住む先住民、シャンディアの民の長。もう一人はエンジェル島の出身であり、エネルの先代の神であり、シャンディアとの繋がりを持とうとしていた。

 

元々、神の島は青海のジャヤと呼ばれる島の一部である。しかし、400年程昔に突き上げる海流によって島の半分が切り離され、其処に住むシャンディアの民と共に空島にまで来てしまい、空島に生える巨大な蔓に引っかかってその地に留まる事になった。

空島では、大地(ヴァース)は突き上げる海流によって運ばれてくるごく僅かな物しか存在せず、巨大な大地は初めてのことであり、我が物にせんとばかり、侵略をかけた。

しかし、シャンディアの戦士たちも黙ってやられる訳に非ず。激しい戦となり、お互いに多くの血を流し、シャンディアは抵抗も及ばす、数の差で圧倒され、大戦士カルガラを失い、古代都市シャンドラを追われた。

それから400年間、血で血を洗う戦があった。

シャンディアは祖先の地を奪還する為に。

スカイピアは大地の確保の為に。

 

その永きに渡る戦に終止符を打ったのがエネルだった。

 

ーー私は再び空島に登って来たシャンクスたちに送られてこの島に辿り着いたのです。事情を聞いて、引き取ってくれたのが当時の神、ガン・フォール。彼でした。父にして祖父のような存在です。

そして、ガン・フォールから悩みを聞いた私はこの国の歴史を調べました。エンジェル島の図書館に行き、史書を読み漁り、シャンディアの長に話を聞きに行ったり。

そんな年月が5年程続いて、私は15歳となりました。

余所者だった私にもシャンディアの方々、エンジェル島の方々、両方から暖かく迎え入れてくださいました。まだ幼い子供だったからなのでしょうけれども。

 

「特にラキとコニスは年が近い事も有ったから仲良くなるのも早かったよな」

「はい、ここに来て初めての友達です」

 

サングラスにモヒカンの青年、カマキリの言葉にニコッと笑いかえすエネル。照れたように顔を逸らすカマキリを囃し立てるブラハムやゲンボウたちシャンディアの戦士たち。ワイパーも呆れたような笑いを浮かべている。

 

「カ〜マ〜キ〜リィ〜?あたしの前で浮気かい?いい度胸だねぇ〜!?」

「げっ!?ラ、ラキ!?こ、これは違う、違うんだ!」

「エネルに手を出そうってんなら容赦しないよ!」

「私はいいんですか!?」

「あ、そうだったね、コニスにもだよ!」

「は、はいっ!」

 

青筋を立てたラキに迫られ、タジタジになるカマキリ。この二人はエネルの仲介でめでたく恋仲となり、結婚も目前となっている。

憤怒の形相で迫られ、思わず敬語になってしまうが、致し方無いだろう。ラキの顔が憤怒によって無表情というよりも般若のような顔に変貌してしまったのだから恐ろしいことこの上ない。

 

「やっぱ、カマキリってよ、ラキに尻に敷かれる未来しか見えねぇよなぁ?」

「だなぁ。喧嘩になってもラキの圧勝で終わりそうだな」

 

カマキリの幼地味であるブラハムとゲンボウもニヤニヤと笑いながらカマキリを扇ぎ立てる。ワイパーですら面白そうだと言いたげな表情を浮かべて見守っている。

周りの神兵や戦士たちも賑やかに笑い立てる。一部ではカマキリとラキの未来に乾杯!と器をぶつけ合う者たちも。

 

「………こうしてエンジェル島の者たちとシャンディアの者たちが笑いあえる日が来ようとは夢にも思わなんだ……。此れもエネル様のお陰よ。エネル様が毎日毎日シャンディアの村を訪れては我らの話にも耳を傾けて、エンジェル島の者たちとの対話の場を設けてくださったからじゃ。それが儂等の武で考えを押し通そうとする意思を解きほぐしてくださったのじゃ……」

「儂もじゃよ。こうしてお主と茶を飲み交わす日が来ようとは思わなんだ……」

 

微笑ましい一つの光景を眩しい物でも見るかのように目を細めて微笑みながら茶を飲むシャンディアの長と元神。その表情には感慨深いものを感じ、過去を悔いるかのような哀愁も浮かべていた。

ほんの数年前まで神の島を奪還しようとするシャンディアと神の島を確保しようとするエンジェル島から選ばれた神兵たちによる血を血で洗うような過酷な戦いが有ったのが嘘のように和やかに、賑やかな雰囲気だ。その中には敵意や殺意など微塵の混じりも無く、賑やかに笑いあえる、確固たる絆を感じられた。

 

 

ーー今から6年ほど前、シャンディア、スカイピアの人々の間を取り持てた事から、ガン・フォールから神の座を譲り受けました。

初めてその話を持ちかけられた時は勿論、遠慮しました。私なんかよりもっと優れた人が居るはずだ、と。ですが、頑なに首を縦に振らず、挙げ句の果てには受けてくれなければ儂は死ぬ!とまで言われては受けざるをえませんでした。

 

と、困ったような笑いを浮かべてガン・フォールを見るとジト目の一同の視線も集まり、たじろぐ元神。

 

「し、仕方なかろう!エネルの他に優れた人物なんぞ、そうは居らんし、シャンディアとスカイピアの仲を取り持てるのはエネルしか出来ぬことだったからじゃ!」

「………本音は?」

「とっとと引退してカボチャ畑をやりたかった!」

 

そんな事だろう、と呆れたため息を零して肩を落とすエネル。

現に引退したガン・フォールは相棒の【ウマウマの実】を食べた鳥、ピエールと共にスカイピア外れの一画に神の島から分けられた土で畑を作り、カボチャを栽培しながら悠々と余生を過ごしているのだ。時折アドバイスやお話に神の島の上にある社を訪れる好好爺となった。

 

ーーそれから、六年。この間に神の島はシャンディアの方々に返還し、神の島はシャンディアのものであるとエンジェル島の方々も説得して、了承を得ました。

そして、漸く双方は歩み寄り、手を取り合って歩むことが出来るようになったのです。

今ではシャンディアの方々は全員がこの島に移り住み、エンジェル島からも一部の方々も移り住みました。

まさか、シャンディアの方々が私が住む社の警護も神兵の協力してやって頂けるとは思いもしませんでしたが、シャンドラの黄金都市の調査、神の島の調査の許可も頂けたのは安堵の一息でした。

その代わり、私たちも彼らの目的に手を貸すことを条件になりましたが、お安い御用というものです。血を流さずに済むのですから。

シャンディアの方々にはある一つの目的があるのだそうです。シャンディアの方々に太古より代々伝承される『シャンドラの火』、即ち黄金の鐘を見つけ、鳴らすことなのだそうです。

 

「黄金都市〜〜!?」

「黄金の鐘〜〜!?」

「はい、黄金都市の煌びやかさ。壁や屋根、柱に至る全てのものが黄金に覆われ、太陽の陽を浴びて絢爛に煌めくその様は、まさに荘厳。そうとしか言いようがありませんでした。そして、黄金都市の至る所に置かれていた繊細な細工の入った黄金の置物。初めて見た時は息を飲み、感動の余りうち震えたものです」

 

黄金と聞いて目を輝かせるルフィたち。特にナミの興奮ぶりは目がベリーになる程であった。

それに答えるように、嘗ての感動を思い出したかのように目を閉じるエネル。

 

「黄金の鐘は、400年前から鳴ることが無くなった。俺たちシャンディアはその鐘を鳴らすことが夢だ。モンブラン・ノーランド、彼の為に。大戦士カルガラ、彼の為に。その為にシャンドラの都市を奪還したかったんだ」

「儂ら、シャンディアは元々青海に住まう民じゃった。しかし、突然変異でこの空島まで来て、この島の中心を貫く巨大な蔦に引っかかったのじゃ。その時、黄金の鐘は紛失したのじゃろう」

 

今まで黙っていたワイパー。包帯が巻かれた右手を握り締め、想いを馳せる。

カルガラ、ノーランド。この二人の友情に報いたかった。

カルガラは空島でシャンドラを守る為に命を落とし、ノーランドは黄金都市を見たという虚偽の罪を被せられ、処刑台に散った。

カルガラはノーランドが死んだ事も知らず、自身も死ぬまで『シャンドラの火を鳴らせ!』と戦い続けていたのだ。

 

「………彼の子孫、モンブラン・クリケット。彼はシャンドラは海に沈んだと信じて、毎日毎日体を傷めながらも海に潜って探しているわ」

「………!モンブラン・クリケット………ならば、そいつの先祖は、………ノーランドか……!」

 

ロビンの一言。それがワイパーに衝撃を与え、シャンディアの民に衝撃を与えた。

 

ノーランドに子孫!

その子孫も我らを探している!

ならば是が非でも黄金の鐘を鳴らさねば!

我らは空にいると、ノーランドの子孫に知らせなければ!

 

騒めくシャンディアの民の波の中で静かにワイパーが涙を落とす。

ワイパーはシャンディアの民の中でも大戦士カルガラの血を濃く引き継いている。

故にカルガラの最期の想いに強く共鳴した。

大戦士カルガラの友、ノーランドに会いたい。そんな想い。

それが400年振りにノーランドの子孫と共有していたのだから。

 

クリケットとしては、ノーランドが探し当てたという黄金都市のロマンを追い掛けたつもりは無かったのだが、何の因果か、子孫の中で唯一ジャヤまでたどり着いた。

そして、幼少の頃より父母に聞かされた『嘘つきノーランド』の物語を思い出し、此処が黄金都市と確信を得た。

岸で真っ二つに割れた石組みの家。少なくとも400年は経っているであろう風化したその家が確信の元となった。

 

「……おい、エネル。今すぐ行くぞ」

「……そう、ですね。ですが、今の装備だと厳しいですよ。せめて、試作品が出来るのを待たなくては……」

 

ポツリ、と呟かれた言葉にシャンディアの民も厳しい表情になる。

それと同時に神兵たちも難しい顔になる。付いていけない麦わらの一味ははてなマークをいくつも浮かべていた。

 

「……何か問題でもあんのか?」

「ええ……。この神の島を貫くあの巨大な蔦の先には道が無くて、貝を使っても辿り着けません。雷の身である私ならば辿り着けますが、黄金の鐘は巨大なため、私一人だけではどうしようもありません」

 

空島独特の文化に貝があり、道無き道に道を作る、雲貝ーー雲の道を作る貝も存在する。しかし、問題がある。雲の道を上に向かって進むための装備が無いのだ。雲の道を上に作っても、肝心の登る人間が重力に逆らえない限り、どうしようも無い。謂わば、崖を手を使わずに登れ、というようなものなのだ。

其処で、エネルの発案によって、とある試作品を作っているのだが、試行錯誤の末に出来るものであり、過去に作った人物は皆無であり、文字通りゼロからの始まりである。故に、時間が掛かるのは通りである。

 

「問題はそれだけじゃねぇ。社の遥か上空には空の主が縄張りにしているんだ。主は黄金で巣を作るのを習慣にしているようなんでな」

「黄金の鐘はこの蔦の遥か上空にあります。あの蔦に貫かれている雲よりも上にあるーー」

 

グォオオオオッッ!!!

 

空を硬直させる咆哮と共にエネル達がいる森の空いた空間を影が覆う。咆哮に驚いた獣や鳥が鳴きながら逃げ散っていく。そして、辺りを塗り潰す圧倒的王者の圧。肌に触れる空気が無数の棘となって突き刺さる。

遥か上空にある雲から蛇のような影が翔んでいく。頭には特徴的な角と鰐を思わせる顎。体は純白で有るだろうが、太陽の陽を浴びて黄金絢爛に煌めく。そして、何よりも巨大なな体躯。数百mはあるだろうかという巨躯だ。

ーー龍。正に龍であった。

 

「おおおーー!?スッゲェェ〜〜!!龍だぁぁぁー!」

「え、あ、あの?」

 

シャンディアの民や、神兵が冷や汗を流し、現れた災厄から身を隠すように木立の陰に身を潜めて空を伺うのに対し、麦わらの一味はーー特にルフィ、ウソップ、チョッパーは目を輝かせて叫ぶ。

稲妻の太鼓の輪を顕著させ、黄金の如意棒を臨戦態勢に入ったエネルが引き気味に声をかける。龍が飛び立った事で臨戦態勢に入ったのを感動の叫びで挫かれたようなものだ。困惑するのも当然な事なのかもしれない。


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