その娘、サラ・ウィーズリー。   作:じーじ

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プロローグ

 ここ数年、人々はほとんど誰も希望を持つことすら出来ずに絶望し、抗うことも諦めていた。

 

 世界を闇に包むほどの力を持った魔法使い。人はその名前を口にすることすら恐れ、ある人は『例のあの人』と呼び、またある人は『闇の帝王』と呼んだ。

 

ただ一人を除いては。

 

 この世界で唯一、その男に対抗できる力量を持つとされた魔法使いがいた。ダンブルドアはただ一人、恐れることなくその名を呼んだ。

 

『ヴォルデモート』と。

 

 しかしその彼でさえ、男の暴走を止めるだけの力を持ち合わせてはいなかった。

 もうダメか。誰もがそう諦めかけたとき、奇跡は起こった。

 

 闇の帝王が倒れたのだ。ハロウィンの夜の知らせは瞬く間に全世界に知れ渡り、人々は歓喜に湧いた。

 

 例え、倒したのが生後3か月の赤ん坊であったとしても、そんなことはどうでもいい。絶望の権化とも言える彼が死んだのだから。

 そんなことを考えるくらいなら両手をあげて喜ぶほうが今は重要だと言わんばかりに魔法界中がお祭り騒ぎだった。

 

そんな中、ダンブルドアは頭を抱えていた。

 

 この騒ぎの中心とも言えるハリー・ポッター……ではなく、その姉。世間には知られていない彼女をどうするか、であった。

 

 5歳になった彼女は1年前、ハリー・ポッターの予見が明らかになったときから、必ず訪れる危険から守るために後見人に名乗り出たシリウス・ブラックに預けられているのだ。

 

しかしその彼も今はアズカバン。本来なら彼女を迎えに行き、弟であり”選ばれた”ハリーと同じようにダーズリー家に預けるのが一番だが、幼いながら、彼女はここを動かないと言い張った。それに、彼女はリリーによく似た明るい、それこそ燃えるような赤毛をしている。さらには頭一つ以上も抜きん出た魔法の資質を持っている。いくらなんでもあのマグルの家族に預けるには目立ち過ぎてしまう。

 

だからこそ、彼は頭を抱えることになったのだ。

 

「ダンブルドア…もう彼女の意思を尊重している場合ではないのでは?あのマグルたちに預けられなくとも、どこか大人のいる安全な場所に預けるべきです」

 

 憂いの篩を前に考えを巡らせる中、向かいに立つマクゴナガルが意見を発した。少し引いたところにいるハグリッドも頷いた。

 

「そうです、ダンブルドア先生。俺もあの家に1人は危ないと思とったです」

 

 ダンブルドアは首を横に振り、自身のこめかみに杖先を当てた。そのまま杖を引くとその先には、まるで蜘蛛の糸が引くように銀色の糸が纏わりついている。

 

「……あの家には数々の保護呪文が掛けられておる。その心配は要らん。わしが気にしとるのはあの子があの家で、あの屋敷しもべ妖精に育てられることで闇に染まらぬか、ということじゃ。クリーチャーは少なからず心を病んでおる。心配なのじゃよ…いつか、あの子がハリーと対立せぬか…」

 

 ダンブルドアは抜き出した糸を篩に落とし、眉間にシワを寄せた。

 

 水面に映るのは、リリーによく似た赤い髪とジェームズのハシバミ色の瞳を持つ女の子の姿。5歳になったばかりではあるが、もうその顔にはリリーの面影を見ることができる。

 

 ハリーがヴォルデモート卿に選ばれたハロウィンの日の翌日、つまりは昨日、ダンブルドアのところに訪れたトレローニーは2つめの予見を発した。

 

━━━光にも闇にも染まりうる者が生まれたり。彼女が闇に染まりし時、闇の帝王をも遥かに凌駕する存在となるであろう。彼女は選ばれし者の近くにて、忌むべき赤毛を持つ者なり。

 

 その予見を聞くなり、ダンブルドアは予見の子が彼女であると考え、こうして今呼べるだけの不死鳥の騎士団員を呼んだのだ。

 

 ハリーが選ばれたことによりあの子は『光にも闇にも染まりうる者』になった。

 

 果たして、この子はどう生きるのか。もし本当に闇に染まるようなことになればそれこそ、闇の時代が再来するだけでなくマグルとマグル生まれ、スクイブたちの滅亡に繋がってしまう。『闇の帝王をも遥かに凌駕する』とは恐らくはそういうことだ。そうならないように手を差し伸べなければいけないのははっきりしている。だがどうするべきか…。差し出す手を間違えればこの子の未来も世界も闇へと傾いてしまう。

 

「ハリーと?まさか、そんなことには━━━」

 

「━━させぬ。そのためにはどうすることが最善か……」

 

 また篩を覗き込み、ダンブルドアはふと、動きを止めた。その目はしっかりと子どもの髪を捉えていた。

 

「ミネルバ━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 


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