ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四話 ベル、女神と踊る

 

 

 

 

一行はアスフィ達に案内されてベースキャンプに辿り着いた。

 

「ここはまだ無事ですが………直に侵食されるでしょう………」

 

アスフィはそう予測する。

 

「我々はここを拠点にして、遺跡へのアタックを続けています」

 

そう言われながらテントの一つへ案内される。

すると、

 

「長旅で疲れていませんか? この先に、水浴びが出来る泉がありますよ」

 

「本当ですか!? 助かります!」

 

リリが【ヘルメス・ファミリア】の少女に誘われていた。

 

「ベル君」

 

ベルが声を掛けられ、そちらを向くと、

 

「…………聖戦の始まりだよぉ?」

 

茂みに隠れながらヘルメスがそう言った。

 

 

 

「今日! 君達は伝説になる!」

 

ヘルメスが大勢の男性冒険者達を前に演説していた。

 

「良く聞け! この奥に広がるのは乙女の楽園! リリちゃんやアスフィ、そしてあの【剣女王(クィーン・ザ・スペード)】までもが身を清めている!! そしてアルテミス………三大処女神に数えられる彼女の一糸纏わぬ姿を見た者はいない! 神々でさえ!! 俺の夢は一度破れた………だけど俺の心は言ってるんだ! 諦めたくないって………! そして今、君達が………志を同じくする仲間がいる!! 我々の眼前に立ち塞がるは困難の頂だ! だがこれを乗り越えた時、君達は後世に名を残すだろう! 立ち上がれ若者達!! 真の英雄となる為に!!」

 

ヘルメスは格好いい様に言っているが、要は集団覗きである。

 

「「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」」

 

しかし、悲しい男の性か、激的に盛り上がる男性冒険者達。

しかし、そのノリについて行けない者達が約三名。

 

「あの…………恋人がいる所に覗きに行くと目の前で宣言されても……………」

 

「俺はヘファイストス様一筋だ」

 

「糞くだらねえ…………寝る」

 

困った様に頬を掻くベル。

真顔で動じないヴェルフ。

興味無さげに嫌な顔をしてテントに戻ろうとするベート。

 

「天よ! 御照覧あれ!! 誇り高き勇者たちに必勝の加護を!! 続けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

そう叫ぶヘルメスを先頭に泉へ向かって突撃する冒険者達。

その場に残されたのはベルとヴェルフの二人だけだった。

 

「いいのか? 見逃して………」

 

恋人のアイズがいる場所に覗きを行おうとしている男達を何もしないまま見送ったベルにヴェルフが尋ねる。

 

「まあ、思う所が無い訳じゃないけど、僕が手を下さなくても………」

 

ベルがそう答えようとした所で、冒険者が向かった先でドゴーンと言う音と共に地面が隆起して岩山が飛び出した。

 

「「「「「「「「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああっ!!??」」」」」」」」」」

 

次いで冒険者達の悲鳴が響き渡る。

 

「なるほど………ま、因果応報だな………」

 

納得したようにヴェルフは頷いた。

すると、ヴェルフはその場で伸びをすると、

 

「俺ももう寝るか………ベルは如何する?」

 

「僕は少し修業してから行くよ。この長旅で少し身体が訛っちゃってるからね」

 

「そうか、程々にしとけよ?」

 

「うん」

 

ヴェルフはそのまま宛がわれたテントへ。

ベルは修業が出来る場所を探して移動を始めた。

 

 

木の上から辺りを伺うと、ベルはベースキャンプから少し離れた場所に女性達が使っていた泉とは別の泉を見つけ、そこの畔で修業を行おうと森の中を進んでいた。

やがて森が途切れて視界が広がり、

 

「………………………………あ」

 

月の光に照らされながら泉で水浴びをする、一糸纏わぬアルテミスの姿を目撃した。

思わず目を奪われるベル。

幻想的な美しさに、ベルは目を離さなければいけないと思いつつも目を離せないでいた。

すると、アルテミスが手を空に伸ばし、ベルからの目線で月に重なって見える。

その時、アルテミスの手が透けて月が見えた。

 

「ッ……………!?」

 

その光景に思わずベルは動揺し、前に踏み出してしまって茂みを揺らしてしまった。

 

「ッ!? 誰だ!?」

 

アルテミスがその音に気付いて振り返った。

ベルもそこで我に返り、

 

「えあっ! す、すみません!!」

 

慌てて後ろを向くベル。

 

「しゅ、修業場所を探していたら偶然っ………! け、決して覗きとかでは無く………! すみませんでした!」

 

ベルはそのまま走り去ろうとして、

 

「待ってくれ!」

 

アルテミスに呼び止められた。

 

 

 

「フッ………アハハハハハハっ!」

 

服を着たアルテミスがベルから事の経緯を聞き、思わず笑いを零した。

 

「あなたは運がいい。昔の私なら、即座に弓で射抜いていた」

 

「うえっ!? か、神様の話………本当だったんですね………」

 

アルテミスの言葉にベルは苦笑いを浮かべる。

まあ、例え弓を射られたとしても今のベルなら余裕で掴み取れるだろうが。

 

「さあ、如何だろう?」

 

はぐらかす様にそう言うアルテミス。

 

「それじゃあ神様………ヘスティア様も今とは違ったんですか?」

 

アルテミスはベルの隣に腰かけながら、

 

「そうだな………私の知っているヘスティアは結構グータラで、面倒くさがりで………」

 

「あ~、そこはあんまり変わってないかもしれませんね」

 

「それから、よく神殿に引きこもってたな………」

 

「引きこもりですか!?」

 

「あぁ。私が行くと、それは嬉しそうに、まるで子犬のようにはしゃいでいた…………」

 

「なんだか想像できちゃいます」

 

「………いつも一緒に泣いて、一緒に喜んで、笑顔を分けてくれるヘスティアに、慈愛を恵む彼女に、私は憧れていた…………」

 

「…………僕も、神様が大好きです」

 

そう言いながら空を見上げるベルを見て、アルテミスは俯く。

 

「すまない………巻き込んでしまって…………」

 

「えっ………?」

 

「あなたには………過酷を押し付けることになる………」

 

「大丈夫です! どんなモンスターが現れても、この拳で倒して見せます! 必ず、あなたを護ります!」

 

ベルは拳を握って絶対の自信を持ってそう言う。

その言葉にアルテミスは微笑む。

 

「まるで『英雄』のようだな」

 

「………はい。僕は『英雄』に憧れてオラリオにやってきました。自惚れに聞こえるかもしれませんが、今も『僕の英雄譚』を紡いでいる最中です。仲間と共に冒険をして………どんな強大なモンスターでも打ち倒て………どんな困難も乗り越えて………皆を笑顔にして…………ヒロインと恋をして…………悲劇のヒロインなんて認めない…………在り来たりでもいい………ご都合主義と言われてもいい………最後は皆が笑って終われる【大団円(ハッピーエンド)】………!それが僕の目指す『英雄譚』です」

 

そう言ってベルは笑って見せる。

それを見たアルテミスは、

 

「分かった気がする………」

 

そう言いながら立ち上がる。

 

「えっ?」

 

「ヘスティアがどうしてあなたといると楽しそうなのか………」

 

そう言ってベルに向き直ると、

 

「彼女はきっと、あなたの事を好いているぞ?」

 

それを聞くとベルはバツの悪そうな顔をして軽く俯く。

 

「……………知ってます」

 

ベルが呟くとアルテミスは軽く驚いた表情をする。

 

「神様だけじゃありません。リリも、リューも、シルさんも、カサンドラさんも、春姫さんも、エイナさんも……………皆僕の事を好いてくれています……………もちろん、僕も皆の事が大好きです!…………でも、僕が一番好きで愛している人はアイズなんです…………そしてアイズも僕の事を愛してくれています…………だから、僕は皆の想いに応えることは出来ません……………」

 

「…………何故だ?」

 

アルテミスはきょとんとして訊ねる。

 

「えっ………!? な、何故って…………」

 

思い掛けないアルテミスの言葉にベルはしどろもどろになる。

 

「ヘスティア達はあなたを好きで、あなたもヘスティア達を好いているのだろう? 彼女達の思いに応えることに何の問題がある?」

 

「その………複数の女性と付き合うのは不誠実といいますか何と言いますか…………」

 

「だが、複数の伴侶を娶る事を禁止されているわけでは無いのだろう?」

 

「た、確かにそうですが…………」

 

「それに『英雄色を好む』とも聞くぞ? 複数の伴侶を持つことも『英雄』の甲斐性ではないのか?」

 

「うっ…………」

 

ベルはアイズ一筋のつもりだが、オラリオへ来た当初は『ハーレム』を目指しており、祖父(育ての親)教育(せんのう)により、ベルの心の内にも『ハーレム願望』というものが少なからずある。

 

「………………ううっ…………!」

 

ベルが頭を抱えていると、

 

「ぷっ………あははははははっ!」

 

アルテミスが笑った。

 

「本当にあなたは純粋なのだな」

 

そう言って微笑む。

アルテミスは立ち上がると足首程度の深さしかない泉に足を踏み入れる。

 

「私は貞潔の女神………男女の恋愛など関わる事さえ忌み嫌っていた…………だがある時、子供たちに言われてしまった………恋は素晴らしいと………!」

 

アルテミスは振り向き、

 

「今なら、それが少し分かる…………」

 

ベルに向かって手を差し伸べ、微笑みを浮かべ、言った。

 

「………………踊ろう?」

 

その姿にベルは見惚れた。

自然と足が泉の中へ歩き出し、アルテミスの手を取った。

 

 

 

泉の中央で二人は向き合い、お互いに恭しくお辞儀をした。

互いの手を取ると、自然とステップを踏み出す。

二人のダンスの舞台(ステージ)は泉の水面(みなも)

曲を奏でるのは騒めく木々や虫の声。

二人を照らす照明は月明かりで、観客は瞬く星々。

最初は手を繋いでステップを踏むだけだったが、やがて二人の距離は近くなり、ベルはアルテミスの腰を抱く。

それに伴い、楽しそうに笑顔で舞うアルテミス。

 

―――知っているか? 下界に降りた神々は一万年分の恋を楽しむそうだ―――

 

―――一万年分の恋?―――

 

―――生まれ変わるあなた達。子供達との悠久の恋…………オリオン………あなたに出会えてよかった……………―――

 

 

 

 

 

ダンスが終わり、ベースキャンプへ戻るアルテミスを見送る。

すると、

 

「ベル…………」

 

木々の影からアイズが姿を見せた。

 

「ア、アイズ………!?」

 

本当に気付いていなかったベルは慌てる。

 

「そ、その…………今の………見てた………?」

 

ベルは一応確認を取る。

 

「うん…………綺麗なダンスだったね」

 

そう答えたアイズにベルはその場で土下座した。

 

「ごめんアイズ! 君がいるのに僕は浮気みたいなことを!!」

 

そう言いながら土下座を続けるベルにアイズは歩み寄ると、その場でしゃがみ、

 

「気にしてないよって言えば嘘になるけど………怒ってないよ」

 

そう言った。

 

「えっ………?」

 

ベルは土下座の体勢のまま顔を上げる。

 

「ベルは優しいから…………誰にでも優しいから…………あの女神の事も放っておけなかったんだよね?」

 

「は………はい…………」

 

その言葉で暫く沈黙が支配する。

 

「……………………………ねえベル?」

 

「は、はい!」

 

「ベルは…………ベルの主神やサポーターの女の子達の事も好きなんだよね…………?」

 

「そ、それは……………! はい……………」

 

ベルは一瞬否定しようとしたが、先程の話を聞かれているのなら誤魔化しても無意味だと判断し、頷く。

 

「でも! 僕が一番愛してるのはアイズだ! これだけは決して嘘じゃない!!」

 

直ぐに顔を上げて自分の気持ちをアイズに伝える。

 

「うん、知ってる」

 

アイズは小さく笑みを浮かべて肯定する。

 

「でも…………ベルは皆の気持ちに応えられないことに苦しんでる………違う?」

 

「それは………苦しんでいると言うか………気持ちに応えられない罪悪感のようなものはあるよ…………だけど、君が好きだという気持ちに嘘は吐きたくないから…………」

 

ベルはアイズを真っすぐに見てそう答える。

すると、アイズは手を伸ばしてベルの頬に手を添える。

 

「私はベルの事が好き」

 

「えあっ!? う、うん………僕も好きだよ」

 

不意に『好き』だと言われて思わず照れ臭くなってしまうベル。

 

「私はベルだけしか見ないし、ベルにも私だけを見て欲しい」

 

アイズにしては珍しく、自分の気持ちをハッキリと伝える。

 

「………………でも、その所為でベルが苦しむのは嫌」

 

「アイズ!?」

 

アイズの言葉に目を見開くベル。

 

「ベルは優しいから誰にでも手を差し伸べる。だから誰もがベルを好きになる………」

 

アイズはベルをジッと見つめ続ける。

 

「だからと言って、そこで手を差し伸べなかったら私が好きになったベルじゃなくなる」

 

「そ……れは…………」

 

「優しいベルを誰もが好きになる………それは仕方の無い事……………でも、それに応えられないベルは苦しんでる…………私の我儘で……………」

 

「それはアイズの所為じゃ……………!」

 

「ベルは優しいから………! 私の為に苦しんでる………!」

 

「違う! これは僕自身の問題なんだ! 僕を好きになってくれた女性(ひと)達を、同じように好きになってしまった僕自身の責任なんだ!」

 

つい声を荒げてしまうベル。

 

「だから…………この苦しみは僕自身が負うべきモノなんだ…………皆の気持ちを裏切ってでも………僕はアイズと一緒に居たいんだ…………!」

 

「ベル……………」

 

アイズは顔を上げたベルを抱きしめる。

 

「ありがとう………ベル…………………でも、もう苦しまなくていいよ…………」

 

「アイズ………? それって如何いう…………」

 

ベルの言葉には答えずにアイズは立ち上がる。

 

「ベル………! 『ベルの一番』は私だよね?」

 

「え? う、うん…………それはもちろん」

 

アイズの問いかけにベルが答えると、アイズは笑みを浮かべる。

そして泉に足を踏み入れながら振り返り、

 

「踊ろう………! ベル………!」

 

先程のアルテミスとはまた違った神秘的な美しさを見せて、アイズは笑った。

ベルもそんなアイズを見て笑みを浮かべながら泉に足を踏み入れる。

月下の舞の第二曲目の幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝。

 

「皆も承知の通り、モンスターの巣窟と化している。アンタレスは今この時も、その力を蓄えている! 疑うべくもなく、我々の前には困難が待ち受けているだろう………しかし臆するな! 恐れるな! 敗北は許されない!」

 

アルテミスが冒険者達の前で皆を鼓舞する。

 

「それでは作戦を伝える。【ヘルメス・ファミリア】は敵の陽動。引き付けるだけでいい、決して無理はするな」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

「ファルガン」

 

「はい!」

 

「指揮はあなたに任せる」

 

「分かりました」

 

アルテミスは言い終えるとベル達の方に向き直り、

 

「そして、陽動部隊が敵を引き付けている間に、我々は内部に突入! アンタレスを討つ!!」

 

「ッ………我々……?」

 

アスフィがアルテミスの言葉に引っ掛かりを覚える。

 

「あの『門』は、私の神威でなければ開かない。私も行く!」

 

「ッ!」

 

ベルは思わず声を出しそうになったが、アルテミスの眼には覚悟がある。

言葉で引き下がりはしないだろう。

すると、

 

「ボクも行くよ」

 

ヘスティアが現れてそう言った。

 

「君を一人にさせるわけにはいかないからね」

 

「なら、当然俺も付いて行こう!」

 

ヘルメスが便乗する様にそう言う。

 

「ちょっとヘルメス様!? またそん………」

 

アスフィが詰め寄ったが、言葉の途中で頭に手を置かれて言葉が途切れる。

 

「あっはっは! こうなる事は分かっていた癖に」

 

「もうヤダ~…………」

 

笑うヘルメスと相変わらずの苦労人気質のアスフィに周りに笑いが起こる。

 

「いっちょやってやりましょう!」

 

「特別報酬、期待していますよ!」

 

「我々は金にはうるさいですよ」

 

【ヘルメス・ファミリア】の面々がそう言う。

いい具合に緊張が解け、

 

「ありがとう子供達………苦しい戦いになるだろう………犠牲者も出るかもしれない。しかし成し遂げて欲しい! 私達の愛する下界の為に!!」

 

「「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」」

 

アルテミスの言葉で全員の士気が最高潮に高まる。

その時だった。

 

「ッ…………!?」

 

ベルが気配を感じて振り返る。

森の中に潜む蠍型モンスター。

 

「モンスターだ!!」

 

ベルが叫んだ。

その言葉に一瞬呆気にとられる面々だが、

 

「はぁあああああっ!」

 

「せやっ!!」

 

「おらぁああああっ!!」

 

「はぁっ!」

 

シャッフル同盟が先制攻撃として斬撃、鉄球、蹴りの衝撃、竜巻を繰り出す。

森に潜んでいたモンスター達が木々ごと根こそぎ吹き飛ばされる。

第一波は全滅するが、すぐに第二波が迫ってきた。

 

「そんなバカな………! モンスターが奇襲!?」

 

アスフィが驚愕する。

だが、

 

「構うか! 予定通りだ!」

 

「確かに! ちょっと早くなっただけってね!」

 

「道を開けぇぇぇぇぇっ!!」

 

【ヘルメス・ファミリア】の面々は臆せずに立ち向かっていく。

 

「アスフィ行け! お前の役目はここじゃない!!」

 

ファルガンに促され、アスフィは頷いた。

 

 

 

 

アスフィの先導で遺跡へ向かうベル達。

陽動部隊のお陰で、モンスターに遭遇することなく遺跡へ辿り着くことが出来た。

 

「こんな遺跡があったなんて………」

 

「結構でけえな………」

 

リリとヴェルフがそう漏らす。

 

「歴史に忘れられた古代の神殿」

 

アスフィがそう言う。

 

「……………静かすぎる」

 

ベルが呟く。

 

「先程の奇襲の事もあります。油断しないでください」

 

リューがそう警告した。

 

「行きましょう」

 

そう言ってリューが先頭になって遺跡に足を踏み入れる。

遺跡内部は青く淡い光に照らされていた。

 

「この光は………?」

 

ベルが呟くと、

 

「封印の光だ。これを遺したのは、私に類する精霊達………言わば、私の最も古い眷属だ」

 

アルテミスがそう言う。

 

「そんな昔から…………」

 

そうやってしばらく進んでいくと、

 

「着きました」

 

立ち止まったリューの目の前には大きな石の扉。

 

「これがお話した『門』です」

 

一見ただの石の扉に見えるが、神の力で封じられているのだろう。

 

「いよいよって訳か………」

 

「この奥に………アンタレスが」

 

すると、アルテミスが前に進み出る。

扉に描かれていたアルテミスの紋章に手を触れると、アルテミスの神威に反応し、扉が開いていく。

だが、その内部が露になった時、アルテミスは目を見開いた。

石造りの筈の神殿の壁や天井はまるで肉の網が張り巡らされたような醜悪なものになっており、それらには無数の木の実のような楕円形の物体が付いている。

 

「これは…………?」

 

「神殿に寄生している……?」

 

それぞれが驚愕の声を漏らす。

 

「そんな…………」

 

「まさか、ここまでとは…………」

 

アルテミスやヘルメスにとっても予想外の状況の様だ。

その時、出口が肉の壁によって覆われる。

 

「ッ!? 出口が!?」

 

アスフィが叫ぶ。 

すると、パキリと言う音と共に天井や壁に着いていた楕円形の木の実のようなモノが割れ、中から蠍型モンスターが産み落とされた。

 

「まさか…………」

 

「あれが全部、卵!?」

 

その言葉を皮切りに、次々と卵が孵化して蠍型モンスターが産み落とされる。

 

「突破します!」

 

リューの掛け声と共に全員が戦闘態勢に入る。

 

「うぉおおおらぁっ!!」

 

ヴェルフが大刀を振り回し、辺りの数匹を纏めて切り裂く。

 

「どきなさい!」

 

リリがグラビトンハンマーを振り回してモンスターを破壊する。

 

「鬱陶しいんだよ! この虫けらが!」

 

ベートが蹴りで粉々に吹き飛ばす。

 

「はっ! せいっ!」

 

アイズがすれ違いざまに次々と切り裂く。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

ベルは拳の弾幕で立ち塞がるモンスターを一撃のもとに粉砕していく。

すると、一行の先に一匹のモンスターが立ち塞がる。

 

「下がって!」

 

アスフィがそう言ってビンに入った薬品を投げつける。

それがモンスターに当たるとモンスターが炎に包まれた。

本来ならそれで終わるはずだったのだが、

 

「ッまさか………!」

 

倒れる気配の無いモンスターに戦慄するアスフィ。

すると、見る見るうちにモンスターが巨大化していき、各部も強靭になっていく。

 

「バーストオイルが効かない………!?」

 

「自己増殖、自己進化………それすらもこの内部では異常な速度で進むというのか………!」

 

ヘルメスの言葉に、ベルはあのデビルガンダムの事が頭に過った。

 

「このままでは、ダンジョン以上の脅威に………」

 

リューがそう零すと、

 

「だったら! ぐずぐずしてられない!」

 

ベルは右手を顔の前に持ってくる。

その右手にキング・オブ・ハートの紋章が輝いた。

 

「ボクのこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

この右手に闘気を集中させ、モンスターに向けて駆け出す。

 

「必殺っ!! アルゴノゥト…………フィンガァァァァァァァァァッ!!!」

 

巨大な蠍の甲殻を打ち抜き、右手が内部に突き刺さる。

 

「グランドォ…………! フィナーーーーーーーーーーーーッレッ!!!」

 

 

進化したモンスターを一撃で吹き飛ばした。

 

「うひゃぁ………相変わらずベル君凄いねぇ………」

 

ヘルメスは帽子が飛ばされないように抑えながら感想を零す。

 

「行きましょう!」

 

ベルが先を促す。

 

 

 

 

 

侵食された神殿内部を進むベル達。

目の前に立ちはだかるモンスター達をベル達シャッフル同盟が粉砕していく。

時折聞こえるアンタレスの声を頼りに先を進んでいく。

しかし、アルテミスはそこに近付くにつれ、胸を押さえながら苦しそうな表情をしていた。

やがて、封印の間らしき広い空間に出る。

そこの中央には今までに出てきた蠍型モンスターを更に巨大にし、胴体部分から人の上半身と虫を融合させたような形状の本体部分が付いた醜悪な何か。

 

「あれが………アンタレス…………」

 

ベルは想像以上のモンスターの存在に声を漏らす。

すると、アンタレスの各部から青黒い煙のようなモノが噴き出し、月に向かって昇っていく。

 

「くっ………!」

 

アルテミスは突然苦しそうに膝を着いた。

 

「アルテミス様!?」

 

ベルが駆け寄ると、

 

「撃ってくれ………オリオン………! お願いだ………あれを…………!」

 

そう言ったアルテミスの言葉と同時に、アンタレスの本体部分の胸部辺りにあった膨らみが突然開かれ、内部にあった巨大な水晶のようなモノを露にした。

 

「…………くっ!」

 

ヘスティアは現実を認めたくないように目を逸らし、

 

「これは…………」

 

「嘘…………」

 

「何でだよ…………」

 

「こんな事…………」

 

「どういう事だ………」

 

「どうして…………」

 

それぞれが目を見開いて驚愕する。

何故なら、

 

「どうして…………」

 

呆然とベルが立ち上がりながら『それ』を凝視する。

 

「どうして……………………どうして………………アルテミス様が…………!?」

 

その水晶のようなモノの中には、紛れもないアルテミスの姿があったのだから…………

その瞬間、

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

アンタレスが咆哮を上げると青黒い力の波動が月へ向けて放たれる。

次の瞬間、先日ベル達を襲った光の矢が遺跡周辺を含めて一気に降り注いだ。

呆然としていたベル達はその攻撃に対処することが出来ず、更にベル達が居た足場が限界を迎えて崩落。

ベル達はそれに巻き込まれて下層へと落ちていった。

 

 

 

 

 







はい、第四話です。
それなりに手応えがあった気がする。
決戦前夜からアンタレス遭遇まででした。
何気にベル君浮気してる。
でもって正妻さんも登場。
アイズの反応は一体………?
そしてついにアンタレスの所まで辿り着いたベル君達でしたが…………?
さあ、ベル君は一体どうするのでしょうか!?
そしてアルテミスの運命は!?
それでは次回に、レディィィィィィィッ…………ゴーーーーーー!!

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