ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第三話 ベル、到着する

 

 

 

 

オラリオを出発して一週間。

ベル達は野を越え、山を越え、谷を越えて、キャンプを繰り返し、目的地まであと三日所まで来ていた。

 

「いや~、良い風だねぇ~! いつまでも飛んでいられるねぇ~」

 

ヘルメスはそう言うが、

 

「何を暢気な事を………」

 

「もう一週間も飛んで見飽きたぞ? なあベル? お前なら自分で走った方が早かったんじゃないのか?」

 

「あはは………」

 

ヴェルフの言葉だが、本当の事なのでベルは苦笑いをしている。

実際、ベルだけなら走った方が早い。

あとは脚力に優れたベートも行けるだろうし、アイズもそれなりに速い。

ただ、ヴェルフとリリは、瞬間的な強さは上の二人に劣らないものの、元々の体力に差がある為、目的地まで絶えず走り続けることは不可能だろう。

竜が丘を越えると、また森が広がっていた。

 

「そら、また森だ………」

 

先程言った通り見飽きたと言わんばかりにヴェルフは呟く。

その時、

 

「…………………ッ!」

 

ベルは不穏な気配を感じ取り、森を見渡す。

すると、木々の隙間から逃げるように走っている母娘とそれを追いかける不気味な影。

 

「あれはっ…………!?」

 

ベルがその母娘を発見した時、

 

「下へ!」

 

アルテミスが叫んだ。

アルテミスもベルと同じ方向を向いているので、母娘に気付いたようだ。

 

「はいっ!」

 

ベルは戸惑うことなく頷く。

手綱を引き、竜を降下させる。

 

「あの影は………!」

 

近付いた事により、母娘を追っていた影がよりハッキリと分かる。

 

「蠍…………!?」

 

母娘を追っていたのは大量の蠍型モンスター。

しかし、その姿はダンジョン内でも見かけたことは無い。

すると、アルテミスが弓を取り出して矢を番える。

引き絞った後に放たれた弓矢は木々の間を通り抜け、母娘を追っていた先頭の蠍型モンスターを射抜いた。

 

(アルテミス様………中々の腕だ………!)

 

ベルはアルテミスの姿を見ながら彼女の腕前を評価する。

 

「まだだ! そのまま回り込んで!」

 

「はい!」

 

ベルは言われた通りに竜を操作し、モンスターの群れの前方へ先回りする。

前方には森の切れ目があり、そこに母娘とモンスターの群れが出てきた。

その時、母親に手を掴まれて走っていた少女が躓き、転んでしまった。

 

「拙い!」

 

ベルは反射的に竜から飛び降りた。

 

「オリオン!?」

 

アルテミスが叫ぶが、ベルはそのまま母娘の前に着地すると、

 

「はぁああああああああっ!」

 

モンスターの群れに突っ込み、拳でモンスターを砕く。

 

「はぁっ! せいっ!」

 

わらわらと寄ってくるモンスター達を、拳と蹴りで粉砕していくベル。

しかし、ベルは違和感を持っていた。

 

(このモンスターの強さ………大体中層レベル!? ダンジョンの外にいるモンスターにしては強すぎる! それに何でこんな大きさの魔石が………!?)

 

現在、ダンジョンの外に生息するモンスターは遥か太古にダンジョンから溢れたモンスターの末裔。

モンスター達はそれぞれの種族で繁殖を繰り返し、己の魔石を削って子に分け与えてきたため、現在では『外』のモンスターが持つ魔石は砂粒程度。

それに伴いモンスターが持つ能力も著しく衰退させている。

もちろん個で中層モンスターに匹敵するモンスターも居ないわけでは無いが、そのようなモンスターはこの蠍型モンスターのように群れを成す事など無い。

それなのにこの蠍型モンスターの強さは中層レベルなのに加えて群れで行動し、そして魔石も中層レベルの大きさ。

 

(まるで最近ダンジョンから生まれたモンスターと言われた方がしっくりくるぐらいだ!)

 

ベルはそう怪訝に思いながらも、モンスターを倒す事に集中する。

いくら中層レベルとは言え、下層どころか深層でも無双できるベルにとってはさほど脅威ではない。

 

(ただ、数は多いかな? 電影弾で纏めて倒したいところだけど、あの母娘に怪我させちゃうかもしれないし………)

 

まだ近い距離にいる母娘を巻き込まないために、ベルは大技を控えていた。

その時、ベルを囲っていたモンスターの一部が母娘を狙って動き始めた。

 

「っと、いけない」

 

ベルはすかさず援護に向かおうとした。

その時、上空を竜が通り過ぎ、そこからアルテミスが飛び降りて母娘の前に立つ。

 

「アルテミス様!?」

 

突然のアルテミスの行動に驚くベル。

アルテミスは腰の短剣を抜くと駆け出し、モンスターに斬りつけた。

 

「はぁあああああっ!!」

 

灰になるモンスター。

 

「はああっ! ふっ! たあっ!」

 

アルテミスは見事な身のこなしでモンスターに飛び掛かり、一体一体倒していく。

それを見ていたベルは軽く目を見開いた。

 

(アルテミス様、中々の腕前だ………! 中層レベルのモンスターに一歩も引いてない)

 

その見た目とは裏腹に、高い戦闘能力に感心するベル。

 

(って、いつまでも見惚れてちゃいけないね!)

 

ベルは気を取り直す。

アルテミスは敵を倒してはいるが息が上がっている。

あれ程の戦闘能力を継続的に発揮させる体力が無いのだ。

 

「はぁああああああっ!」

 

ベルは闘気剣を抜き、モンスターをすれ違いざまに斬りつけながらアルテミスの元へ到達する。

 

「アルテミス様! 大丈夫ですか!?」

 

「ッ………オリオン!」

 

驚くアルテミスを他所にベルはモンスターに向き直る。

追われていた母娘は安全な場所まで避難出来ている。

 

「これなら!」

 

ベルは左手を前に突き出し、円を描くように回し始め、

 

「流派東方不敗…………秘技! 十二王方牌大車併!!」

 

気で作り出した小さな自分の分身を放ち、それぞれが渦を巻くように螺旋を描き、気の竜巻のようになってモンスターを蹂躙する。

そして、

 

「帰山笑紅塵!!」

 

分身達を帰還させ気に還元すると、そこには地面ごと抉られ、モンスターが全滅して魔石だけが転がっている光景があった。

すると、

 

「ベル様―ッ!」

 

異変に気付いたリリ達が引き返してきた。

 

「って、もう終わってんじゃねえか」

 

ヴェルフが呆れた様にそう言う。

まあベルの手に掛かれば当然だとも思っているが。

 

「アルテミス様、大丈夫ですか!?」

 

ベルはアルテミスに駆け寄る。

 

「ああ。それにしてもオリオン………君は強いのだな。最悪はその『槍』を使ってもらう事も考えていたのだが………その必要も無かった」

 

アルテミスはベルの背中にある『槍』に視線を向けながらそう言う。

 

「この槍もこの位の力があるって事ですか?」

 

ベルは抉れた大地を見てそう聞くと、

 

「………………直接的な『力』はここまででは無いな………」

 

ちょっと納得のいかない様な表情をしてアルテミスは言う。

ベルが母娘に目を向けると、母親が頭を下げている。

ベルは小さく笑みを浮かべた後、アルテミスに向き直った。

 

「それよりもアルテミス様! あんまり無茶をしないでください………!」

 

ベルは半分呆れた様にそう言った。

 

「無茶………? 何故だ………?」

 

護る行動が当然だと言わんばかりに首を傾げる。

 

「いや、アルテミス様が神の力(アルカナム)を封じた神様の中でも強い方だとは思いますが、体は生身の人間と変わりないんです。それに女の子なんですから怪我でもしたら大変でしょう?」

 

ベルの言葉にアルテミスは一瞬きょとんとする。

 

「………クスッ! フフフフフフッ!」

 

すると、いきなり笑い出した。

 

「そのような事を言われたのは初めてだ………!」

 

目に涙を浮かべるほど笑ったのか、アルテミスは涙を拭いながらそう言う。

 

「君の言う通り私はヘルメスやヘスティアよりずっと強いのだぞ?」

 

「それでもですよ」

 

「アルテミスーーー! ベルくーーーーん!」

 

その時ヘスティアが駆け寄ってくる。

 

「二人とも無事かい?」

 

「ああ!」

 

アルテミスが返事をすると、

 

「アルテミス! 君が強いのは知ってるけど、あまり無茶をしないでくれ………!」

 

ヘスティアがそう言う。

 

「………今、あなたの子供にも同じ事を言われてしまった」

 

アルテミスはベルを見ながらそう言い、

 

「あはは………」

 

ベルは苦笑した。

 

 

 

 

その後、母親から話を聞くとあのモンスターは最近になって出没するようになったモンスターで、近隣の村が襲われており、この母娘もいきなり襲われて逃げていたそうだ。

アルテミスの厚意でその母娘に食料を渡して見送る。

 

「さよーならー! かみさまー! ありがとー!」

 

子供が手を振り、母親がお辞儀をする。

そんな母娘を一行が笑顔で見送った。

その母娘が見えなくなった時、笑顔だったリリがアルテミスにジト目を向けた。

 

「人助けは良いんですけど…………」

 

「ん?」

 

「食料、殆ど渡してしまっていいんですか?」

 

棘のある言葉でそう言うリリ。

 

「残りはパンだけだな」

 

ヴェルフが残った食料を確認する。

 

「私は食べなくても大丈夫だ」

 

アルテミスは何でもないようにそう言うが、

 

「アルテミス様は良くても私達はすっかり空腹なんです!!」

 

分かってないアルテミスにリリが叫んだ。

 

「え…………?」

 

アルテミスが他のメンバーを見渡すと、殆どがやや暗い表情をしていた。

 

「……………………」

 

そして、

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

地べたに土下座するアルテミス。

 

「何なんですかこのポンコツは!」

 

リリは遠慮が無くなったのかアルテミスに指を指しながらそう言う。

 

「おいおい、一応女神様だぞ!」

 

「女神様だろうとポンコツはポンコツです! ポンコツを司るポンコツ女神ですーーーっ!」

 

フォローするヴェルフに追撃するリリ。

 

「はぁーーーっ………! 何でこうなったかなぁー?」

 

深く溜息を吐くヘスティア。

 

「そんなに違うんですか?」

 

ベルが尋ねると、

 

「ああ、怖いぐらいに毅然として、女傑というか………天界じゃ沐浴を覗かれただけで…………」

 

ヘスティアがその時の光景を思い浮かべる。

 

『恥を知れ! このブタ共っ!!』

 

怖い顔で覗きを行った男神達に弓で制裁を与えていた。

話を聞くだけでも、目の前で土下座しているアルテミスとは似ても似つかない。

因みにその時の男神達の反応は、

 

『『『『『ありがとうございまーす!』』』』』

 

反省の欠片も無かったり。

もう一つ因みに、その中の男神の一人はヘルメスだったりする。

 

「そんな事もあったなぁ………うんうん」

 

懐かしむ様に頷くヘルメスには、冷たい視線が向けられていた。

 

「まあ、今日はもう日が暮れるし、ここで野宿して明日の朝出発しよう」

 

ヘルメスがそう言うと、

 

「えぇ~!? じゃあ食事は……?」

 

「今日は我慢かな………?」

 

「そんなぁ~~~! お腹すいたようぅ~~~……………!」

 

情けない声を上げるヘスティアに、

 

「す、すまない!」

 

頭を下げ続けるアルテミス。

 

「チッ………」

 

「……………」

 

ベートは舌打ちし、アイズもどこか不満そうな顔をしている。

 

「……………………あ」

 

ベルがふと見上げると、そこにはメロンぐらいの大きさのリンゴに似た木の実が生っていた。

 

「何とかなるかも」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

ベルの言葉に全員が期待を寄せた。

 

 

 

焚き火の中に、人数分の木の実が入れられている。

因みにベルはこの場には居らず、ベルの指示で準備が進められていた。

すると、

 

「準備は出来た?」

 

森の方からベルの声が聞こえた。

 

「あっ、ベル様? はい、言われた通りに………って、えええっ!?」

 

振り向いたリリは驚愕の声を上げた。

何故なら現れたベルは猪を担いでいたのだ。

 

「ベル様………それ………」

 

「ああ、これ? 今狩ってきたんだよ。あのモンスターの影響で動物が少なかったから探すのに苦労したけど何とか一匹は仕留められて良かったよ。ちょっと待ってて、すぐに捌くから」

 

ベルはそう言うと剣を使ってあっという間に猪を解体する。

必要な分だけ切り分けて火にかけると、

 

「こっちはそろそろかな?」

 

火の中にあった木の実を取り出した。

素手で。

まあ、それで驚いたのはアルテミスぐらいだが。

ベルはナイフを使ってその実を真ん中から横向きに切り分けると、まるで中にはシチューのようになった果肉があった。

 

「いっただっきまーす!」

 

ヘスティアが我先にとスプーンですくってそれを食べる。

 

「うまうまーい!」

 

ヘスティアは満足そうな顔で叫ぶ。

 

「なるほど、マサラの実か! 熱すると中の果肉が溶けて、芳醇な果汁となる。正に森のレストランやー!」

 

ヘルメスがこの実の正体に気付き、そう言う。

 

「おいしい…………」

 

「まっ、悪くねえな」

 

アイズとベートはそう言う。

 

「肉もそろそろ大丈夫ですね」

 

ベルは焼いた肉をそれぞれに配る。

 

「おっ! こいつもうめえ!」

 

「流石ベル様です!」

 

「オリオン! あなたは博識なのだな!」

 

ヴェルフとリリ、更にはアルテミスにも称賛され、ベルは照れ臭くなって頬を掻く。

 

「いや、マサラの実の方はオラリオに来る前にお爺ちゃんに色々教えてもらってて、サバイバル技術の方は師匠との修業中に自然と………あれ?」

 

そこでベルはふと気付く。

アルテミスは先程から一口も食べ物に手を付けていないことに。

 

「食べないんですか………?」

 

「あ、あぁ…………私は…………」

 

アルテミスは気まずそうに眼を伏せる。

 

「そうですか…………」

 

ベルは怪訝そうにアルテミスを見る。

ベルは、ここ一週間で気付いたアルテミスの違和感が気になっていた。

気配が希薄という訳では無いが、普通の神の気配と比べて、存在自体が希薄のような印象を受ける時があるのだ。

ベルがそのような事を考えていると、突然目の前にスプーンが差し出された。

 

「あ~ん」

 

「えっ?」

 

アルテミスがスプーンを差し出していた。

 

「はい、あ~ん」

 

「ええっ!?」

 

アルテミスの行動にベルは驚き、

 

「させるかぁ!」

 

ヘスティアがスプーンを振りかぶってベルの口に突き入れる。

 

「ぐぼっ!?」

 

不意打ちで口にスプーンを突っ込まれたベルは後ろに倒れる。

すると、ヘスティアは首根っこを掴まれてベルから引き離された。

 

「ベルが困ってる」

 

ヘスティアの首根っこを引っ張ったのはアイズだった。

冷静な口調で嗜めるアイズ。

一方、

 

「これは本気で脈アリと考えても良さそうですね…………!」

 

アルテミスの行動に思い描いていたベルハーレムの増員が現実味を帯びてきたと考えを巡らせるリリだった。

 

 

 

 

騒動と食事が終わった後、

 

「それにしても、あのモンスターは何だったんだ?」

 

ヴェルフは、ベルが倒す前に僅かだけ見えた蠍型モンスターについて疑問を零す。

 

「蠍型のモンスターはいますが、あれは見た事はありません………【ロキ・ファミリア】のお二人は如何ですか?」

 

リリはアイズとベートにも訊ねる。

 

「私は見た事無いよ?」

 

「俺もだ。下層や深層でも見た事は無え」

 

ベル達よりも長い間ダンジョンに潜っている二人も見たことは無いと答える。

 

「近くの村を襲っているって言ってたけど………」

 

ヘスティアがそう言った時、

 

「…………事の発端はモンスターの異常な増殖が確認された事だった………」

 

ヘルメスが話し出す。

 

「原因を調べるために多くのファミリアが遣わされたが、全て消息を絶った…………場所は彼の地『エルソス』。そこの遺跡には、ある封印が施されていた」

 

「封印? 何をですか?」

 

「丘を腐らせ、海を蝕み、森を殺し、あらゆる生命から力を奪う………」

 

「………古代、大精霊達によって封印されたモンスター……………『アンタレス』」

 

ヘルメスの言葉を引き継いで、アルテミスが言った。

 

「アンタレス………」

 

「だが、奴は長い時をかけて深く、静かに力を蓄え………遂に封印を破った」

 

「封印を破ったって………」

 

「それじゃあ………」

 

「ああ、今回の件をオラリオも重く受け止めていてね…………俺のファミリアが派遣されたんだ………そこで同じ目的で赴いていたアルテミスと出会った………そして、援軍を呼ぶためにオラリオに戻ったという訳さ」

 

「………なら、他の第一級冒険者のファミリアでも良かったのでは? 例えばアイズ様達の【ロキ・ファミリア】とか…………」

 

「無駄だ。あの『槍』でなければ、アンタレスは倒せない」

 

リリの言葉を否定して、アルテミスは言い切る。

 

「そして………『槍』に選ばれた………あなただ!」

 

ベルを真っすぐに見つめてそう言った。

 

「「「「「「「………………………」」」」」」」

 

全員が押し黙ってしまう。

すると、

 

「なぁーに、大丈夫! 『槍』さえあればすべてうまく行くさ! ほら、明日に備えてもう寝よう!」

 

ヘルメスが場の空気を変えようとそう言った。

 

 

 

 

 

数日後、目的地まであと少しという時、眼下に見えていた森の色がある所を境に一変した。

 

「ッ!?」

 

「どういうことだ………?」

 

「何ですかこれ………?」

 

今までの森は生い茂る緑の葉に覆われていたが、そこからは毒々しい紫色に染まっていた。

木が枯れている訳でも大地が干上がっているわけでもない。

ただ、

 

「森が…………死んでる…………?」

 

『死んでいる』。

そう言い現わす事しか出来なかった。

 

「アンタレスの仕業だ」

 

アルテミスは前を見ながら言う。

 

「そしてあれが………エルソスの遺跡………」

 

その視線の先には、古びた寺院のような建築物。

 

「…………あそこにアンタレスが……………」

 

その時、キィンと槍が鳴った気がした。

 

「ッ?」

 

ベルが振り向いた瞬間、

 

「くっ!?」

 

アルテミスが胸を押さえて蹲った。

 

「ッ!? アルテミス様!?」

 

「ッ…………来る………!」

 

ベルが声を掛けた時、アルテミスがそう呟いた。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、ベルは攻撃の気配を感じて上を向く。

その先には無数の光。

 

「皆っ! 上から攻撃が来る!!」

 

ベルは大声で叫んだ。

その瞬間、空から光の矢が降り注いでくる。

ベルは右手に闘気を集中させ、

 

「アルゴノゥト…………フィンガァァァァァァァァァッ!!」

 

真上に闘気の波動を放ち、自分に降り注いでくる光の矢を掻き消す。

 

「【行け! ローゼスビット!!】」

 

ヴェルフがローゼスビットを放ち、魔力スフィアの光線で光の矢を撃ち落としていく。

 

「フェイロンフラッグ!!」

 

ベートは両手に魔力の旗を具現させ、その二つを連結し、頭上で回転させることで光の矢を弾いていく。

 

「サイクロンスラスト!!」

 

アイズも頭上に竜巻を発生させて、光の矢を吹き飛ばした。

無数の矢が通り過ぎた後、ベルは辺りを確認する。

 

「皆、無事!?」

 

ベルが声を掛けると、四騎の竜の内の一騎がよろよろと降下している所だった。

その竜は、

 

「ヴェルフ! リリ!」

 

ヴェルフとリリの竜だった。

 

「わりぃ! しくっちまった!」

 

その竜の翼の翼膜には一ヶ所だけ穴が開いている。

 

「皆! 一旦降りよう!」

 

ヴェルフとリリを追って他の三騎も下へ降りていく。

地面に降りた時には、ヴェルフとリリの竜は翼膜の穴の傷をなめている所だった。

 

「リリ! ヴェルフ! 怪我は無い!?」

 

「ベル様! 私達は大丈夫ですけど………」

 

傷口を舐めている竜を見る。

これでは傷が癒えるまで竜は飛べない。

 

「何なんだ? さっきの光は………」

 

ヴェルフがそう口にする。

 

「………おそらく私を………いや、彼が持つ槍を狙ったのだろう」

 

アルテミスがそう言う。

すると、周りに次々と気配が増えるのを感じる。

 

「ッ!? モンスター!?」

 

「この前の奴か!?」

 

「いいえ、大きさも形も違います!」

 

そのモンスター達はベル達を囲う様に迫ってくる。

 

「けっ! 何でも良い、敵なら倒しゃあいいだけだ!」

 

「………………………」

 

ベートが好戦的な笑みを浮かべながらそう言い、アイズも同意する様に頷く。

 

「………そうだね。ごちゃごちゃ考えるのは後でいい…………皆! 行くよ!」

 

ベルの言葉で全員がシャッフル同盟の五人が一斉に動き出す。

 

「酔舞! 再現江湖! デッドリーウェイブ!!」

 

ベルが気の波動を放ちながら突進し、

 

「グラビトンハンマー!!」

 

リリがグラビトンハンマーを振り回しながら敵の群れに突っ込み、

 

「ローゼスビット!」

 

ヴェルフが先程と同じようにローゼスビットから無数の光線を放ち、

 

「マグナムスラッシュ!」

 

アイズが燃え上がる闘気の斬撃を飛ばし、

 

「宝華教典・十絶陣!!」

 

ベートはフェイロンフラッグでモンスターを囲み、その内部に炎を発生させてモンスターを焼き尽くした。

あっという間にモンスターを全滅させたベル達は今後の方針を話し合おうとして、

 

「ッ!? 誰だ!?」

 

背後に気配を感じて振り返った。

その言葉に警戒を続ける一同。

すると、

 

「あなた達でしたか………ベル」

 

木々の影から出てきたのは、緑のケープを身に纏ったエルフの女性。

 

「リュー!? 何でここに!?」

 

オラリオの外に居ると聞いていたベルは突然の出会いに驚く。

 

「厄介なクエストがあると、同行を依頼されました…………彼女達から」

 

そう言って振り向いたリューの背後にはアスフィを始めとした【ヘルメス・ファミリア】の面々がいた。

 

「アスフィさん!」

 

「【ヘルメス・ファミリア】!」

 

だが、何故かアスフィは怖い顔でヘルメスを睨んでいた。

 

「ヘルメス様~~~っ!」

 

「や、やあアスフィ………」

 

アスフィが近付いてくると、ヘルメスは狼狽える。

 

「このスットコドッコイ! 遺跡の監視を私達に押し付けて一人でオラリオに帰るだなんて………!」

 

「お、落ち着けアスフィ! だから槍の持ち主を探しに行くためだって………!」

 

「それでも勝手に居なくならないでください!」

 

ヘルメスに対し文句を続けるアスフィ。

すると、

 

「アスフィ、ヘルメスを許してやってくれ」

 

アルテミスがアスフィにそう言う。

 

「アルテミス様…………あっ」

 

アスフィがアルテミスに振り返った時、同時にベルの事も視界に入る。

 

「ベル・クラネル………槍を抜いたのはあなたでしたか……………まあ、あなたなら戦力的にも文句の付けようがありません。ヘルメス様の勝手な行動を差し引いてもお釣りがくるぐらいでしょう」

 

そう言って納得するアスフィ。

 

「それでアスフィ、状況は?」

 

ヘルメスが気を取り直してそう聞く。

 

「悪化の一途を辿っています。森の浸食は広まり、モンスターは今も増殖中。近隣の村は、既に壊滅しています」

 

「遺跡へのアタックは?」

 

「『門』に阻まれ、全て失敗に終わっています」

 

「そっか…………」

 

アスフィとヘルメスのやり取りを聞いて、

 

「『門』ですか?」

 

ベルがリューに訊ねる。

 

「ええ、その所為でアンタレスの元へ辿り着けない」

 

「開けられないんですか?」

 

「我々の力では………」

 

リューが説明する中アルテミスはずっと俯いていた。

 

 

 

一行がベースキャンプへ移動していると、ヘスティアがアルテミスに詰め寄っていた。

 

「さっきの光! あれは一体どういう事だ!? どうしてあれが………!」

 

ヘスティアの言葉にアルテミスは黙ったままだ。

ヘスティアは拳を握りしめ、

 

「………確かに君はアルテミスだ。だけど『アルテミス』じゃない。君は誰なんだ?」

 

ヘスティアの言葉に、アルテミスは小さく微笑んだままだった。

 

 

 

 







第三話です。
バトルが入ったけどあんまり盛り上がらなかった。
ベルが強すぎるだけですけど。
後は移動が中心だから変える場所が少なかったのも理由の一つ。
恐らく後二話ぐらいで完結する………と思う。
それでは次回に、レディィィィィィィッ……ゴーーーーーー!!

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