ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
アイズは気付けば暗闇の中に居た。
「ここは……………?」
アイズは辺りを見回すが何もない真っ黒な空間が続いているだけだ。
「…………私は………あのデビルガンダムに捕まって…………ッ!」
アイズはデビルガンダムのコクピットに引きずり込まれたことを思い出した。
すると、
『……………ねえ』
その場にアイズではない、だがアイズによく似た声が響いた。
「ッ……………!?」
アイズは警戒心を限界まで引き上げて振り返った。
そこには、先ほどまでは居なかった金髪の幼い少女が居た。
「誰っ……………!?」
アイズはそう口にしたが、内心では驚愕していた。
何故なら、その少女の姿は紛れもない、かつての自分の姿だったからだ。
『“わたし”? “わたし”はあなただよ。あなたが心の中に閉じ込めている本当の【私】』
「本当の……………私………?」
少女姿の【アイズ】はアイズに歩み寄ってくる。
『そうだよ。“わたし”は【私】。【私】の事なら何でも知ってる。だって“わたし”は【私】だから…………』
まるで問答を口にしているかのように無表情で言葉を綴る【アイズ】にアイズは内心たじろぐ。
『胸が痛いんでしょ? 苦しいんでしょ? だって………………ベルが【私】を見てくれないから』
「ッ!!??」
その言葉にアイズは激しく動揺した。
『わかるよ…………“わたし”も【私】だから…………【私】に大切な事を教えてくれた人…………【私】が初めて好きになった人…………………』
【アイズ】がどんどん近付いてくる。
『………だけど可哀そうな【私】。ベルは【私】を見てくれない………………だって………………』
そのまま【アイズ】がアイズとすれ違った瞬間、【アイズ】はアイズと同じ姿になっていた。
『ベルが見てるのは、あの女神だから…………』
【アイズ】がアイズの耳元で囁く。
「ッ!!!!」
アイズが目を見開き、胸に走る激しい痛みを掻きむしるように右手で服を握りしめる。
『辛いよね? 悔しいよね? だって、ただベルの主神というだけでベルの想いを独り占めしてるんだよ?』
「そ………それ………は…………」
『あんな女神、居なければよかった…………』
「わ、私…………そんな事…………」
『あの女神さえいなければ、きっとベルは【私】を見てくれたのに…………』
「あ…………あ……………」
【アイズ】は後ろからアイズを抱きしめ、耳元で囁く。
『あの女神さえいなければ……………』
「やめて!!」
アイズは大声で叫んだ。
「例え………ベルが私を選ばなかったとしても……………ベルが幸せなら…………私は…………」
アイズは葛藤を心の隅に押し込めながらそう口にするが、
『本当にそれでいいの…………?』
「えっ……………?」
『本当に【私】はそれでいいの…………?』
「そ……れは…………」
『想像して? ベルがあの女神と結ばれる所を…………』
「あ……………」
『恋人同士になって仲良く街を歩いている様子を………』
「ああ………………」
『結婚して二人で暮らしている様子を…………』
「あ……あああ…………!」
アイズは涙をボロボロと零す。
『辛いよね? 耐えられないよね?』
【アイズ】は耳元で囁き続ける。
『なら、あの女神がいなくなればいいんだ』
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!」
アイズを取り込んだデビルガンダムがエネルギーを放出しながら唸り声の様な駆動音を上げる。
「フハハハハハハハハハハハ!! 今こそデビルガンダムの本当の復活だ!!」
ウルベが高笑いを上げながら叫ぶ。
「ア、アイズさん…………」
取り込まれてしまったアイズに対し、ベルは呆然と呟く。
すると、デビルガンダムのコア部分―――人型の上半身にあたる部分から繋がる巨大な顔まで―――が赤い光を迸らせながら分離。
地上へと降りてくると、両肩部分から禍々しい巨大な腕が生えた。
「こ、これは…………」
シュバルツが目を見開きながら声を漏らす。
「すばらしい! まさかこの短時間で最終形態への進化を遂げるとは…………!」
ウルベが歓喜の声を上げた。
「最終形態………だと………?」
シュバルツがウルベに問う。
「その通り。この姿こそデビルガンダムの最終形態! 人間の感情、心理をエネルギー源とした究極の存在!!」
ウルベが叫ぶと、肩から生えた巨大な腕にエネルギーが集中し、光の奔流が放たれた。
ビームと呼ばれるそれは、ベル達に襲い掛かるが、危険を察知したベル達は飛び退くことでそれを避ける。
地面に着弾したビームは地面を融解させるが、威力ならグランドマスタードラゴンの砲撃の方が遥かに上だろう。
だが、
「なっ……………!」
間髪入れずに次の砲撃が放たれる。
ベル達は散開して避けるが、デビルガンダムの砲撃は止まらない。
「これほどの威力の砲撃を、タイムラグ無しで連射だと!?」
シュバルツはその恐ろしさを正しく理解した。
最大威力では及ばなくとも、その一撃はベル達ですら致命傷を負うほどの威力がある。
それが連射されるとなれば、その恐ろしさはグランドマスタードラゴン以上だ。
ほぼ無差別と言っていいほどに放たれ続ける攻撃は、味方の筈のデスアーミーや、分離した自分の体すら容赦なく巻き込み、粉砕していく。
「奴のエネルギーは無尽蔵か!?」
一向に終わる気配のない攻撃に、全員は戦慄する。
その時、
「アイズさんっ! 目を覚ましてください! デビルガンダムなんかに負けちゃいけない!」
ベルが叫んだ。
その場に居る誰もが無駄だと思っただろう。
しかし、その予想に反してデビルガンダムの攻撃は止まった。
「何っ!?」
「攻撃が………止まった………?」
「ベルの声が届いたのか?」
それぞれが驚いた反応を見せる。
「どうした!? 何故止まっているデビルガンダム!? 早く奴らを始末するのだ!!」
ウルベがそう命令するが、デビルガンダムはベルを見たまま動かない。
「どうした!? 動け! 私の命令が聞けないのか!?」
ウルベが業を煮やして叫んだ瞬間、デビルガンダムの右肩の巨大な腕が伸び、ウルベに襲い掛かった。
「なっ!? がぁあああああああああああああっ!!??」
ウルベはデビルガンダムから攻撃を受けるとは思わず、避ける暇もなく腕の一撃を受けて瓦礫に埋もれる。
「味方を攻撃しやがった………!?」
「俺達を助けてくれたのか?」
ベートとヴェルフが呟く。
ウルベを攻撃したことに、ベルは頼りないながらも笑みを浮かべる。
「ア、アイズさん………! 僕達の事が分かるんですね………? 僕達を助けてくれたんですね? アイズさん………!」
ベルは自分の予想を口にする。
いや、ただそうであって欲しいというベルの願望だった。
デビルガンダムはベルを見下ろすと、下半身の巨大な顔の目を光らせる。
すると、上半身と巨大な顔を繋げていた細長い胴が縮まり、上半身と巨大な顔の頭部が繋がった。
更に、巨大な顔が変形を始め、脚部となってその足を地に付けた。
すると、デビルガンダムの胸部の中央に縦線が走り、真っ二つに分かれるようにその内部が露になった。
そこには、
「ア…………アイズさん……………」
DG細胞に包まれ、銀色の胸像の様な姿になった裸体のアイズが無数の緑色の機械のコードに埋め込まれるようにそこに居た。
変わり果てたアイズの姿にベルは一瞬たじろぐが、
「ア、アイズさん……! もう大丈夫です! 敵は居ません………! さあ、早くそんな所から出て、皆の所へ帰りましょう…………」
何とかそう語りかける。
「…………………………」
ベルの言葉にアイズは何も反応を見せない。
だが、
『ベル君! いったい何があったんだ!?』
「神様!?」
ベルのすぐ傍に『神の鏡』が現れ、ヘスティアが呼びかけ、ベルはアイズから視線を外してヘスティアの方を向いてしまう。
その瞬間、一瞬だがアイズがピクリと眉を顰めた。
それと同時にデビルガンダムの左肩の腕が今まで以上の勢いを持ってベルに…………
いや、正確には『神の鏡』に映っていたヘスティアに向けて叩きつけられた。
地面ごと『神の鏡』が粉砕され、その勢いで吹き飛ばされるベル。
「ア、アイズさんっ!?」
ベルは原型を留めていた建物の壁に叩きつけられ。
地面に座り込む体勢になる。
「ぐっ…………ア、アイズさん…………」
何とか起き上がろうとするベル。
「くそっ! そううまい事はいかねえか…………! リリ助! ベルの援護に行くぞ!」
ヴェルフがリリに呼びかける。
「………………………」
しかし、リリから返事はない。
「おい、リリ助!?」
ヴェルフは振り返ってリリを見る。
すると、
「今のアイズ様の反応は…………」
何やら呟いている。
「リリ助!?」
ヴェルフはもう一度呼びかける。
「…………ヴェルフ様、ベート様、今の見ましたか?」
「何がだ?」
「今、一瞬ですが、アイズ様が反応しました」
「何だと!?」
「ベルに反応したって言うのか!?」
「いいえ。私が見る限りベル様に反応したのではなく、『神の鏡』に映っていたヘスティア様に反応したように私には思えました」
「ヘスティア様に………?」
「あの男が言っていましたね? デビルガンダムの生体ユニットに相応しいのは心に深い闇を持つ女性だと……………アイズ様の心の闇とは何なんでしょうか?」
「アイズの…………心の闇…………」
ベートが呟く。
「私は最初、黒竜に関することだと思っていましたが…………よく考えれば、既に黒竜はベル様とアイズ様の手によって倒されています。多少のしこりは残るかもしれませんが、深い心の闇になるとは到底思えません」
「「…………………」」
「先日から気になっていたことがあるんです。アイズ様の、ベル様に対する態度が妙におかしかったんです。その事に関して、ベル様にも心当たりは無いとおっしゃっていたのですが………………」
リリも考えるが、ピースが足りないのか答えが出ない。
その時、
「アイズさんっ!? 駄目です!」
デビルガンダムが砲撃をオラリオの住民が避難していた丘に向かって撃ち込もうとしていたため、ベルは闘気剣を抜いて両肩から生えていた巨大な腕を切断する。
そのお陰で砲撃は中断させることが出来たが、
「うぁああああああああああああああああああっ!!!」
アイズが悲鳴を上げ、両肩から血が噴き出る。
そこはベルがデビルガンダムに傷をつけた所と全く同じ場所だった。
「ッ!? アイズさん! ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
ベルはアイズを傷付けてしまった事に罪悪感を感じ、駆け寄ろうとする。
しかし、
「どうして………あの女神なの…………?」
アイズの呟きが聞こえ、ベルは足を止めてしまう。
「どうして私じゃないの…………?」
デビルガンダムの両肩のダメージが瞬時に再生する。
「私を一人にしないで……………! 傍に居てよぉっ!!!」
アイズの慟哭の様な叫びと共に開いていた胸部が閉じてアイズの姿を覆い隠す。
更にデビルガンダムにエネルギーが満ち溢れ、全身からビームが乱射される。
「ア、アイズさん…………!? 一体どういう…………!?」
ベルは気で防御しながらその攻撃に耐える。
アイズの言葉の意味を理解できずにベルは困惑する。
すると、
「…………………………ベル様」
いつの間にかリリがベルの前に立っていた。
辺りに降り注ぐ攻撃を、まるで無いものかのように動じず、静かに立っていた。
「…………リリ?」
ベルがリリの名を呟くと、
「………………………このヘタレ!」
その言葉と共に、ボコッとリリがベルの頬を殴った。
「………………………え?」
一瞬リリに殴られたことに気付かず、ベルは呆然とリリを見た。
「ベル様のヘタレ! 鈍感! 唐変木!」
「リ、リリ…………!?」
リリの口から次々と出てくる自身への暴言にベルは目を丸くする。
「どうしてアイズ様のお気持ちを理解しようとしないんですか? 私から見ても、アイズ様が可哀そうです!」
リリは一呼吸置くと、
「良いですか? アイズ様はベル様とヘスティア様の関係を羨ましく思っているんです!」
「えっ?」
ベルは考えもしなかった一言に声を漏らす。
「ベル様とヘスティア様の絆は確かに私から見ても強いものです。ですが、それはあくまで『家族愛』という前置きが付きます。違いますか?」
「えっ…………う、うん…………」
ベルは素直に頷く。
「ですが、アイズ様にはそれが分からないんです!」
「ッ……………!?」
「私もアイズ様と少し付き合ってみて気付きましたが、アイズ様は精神的にはまだ幼いところが多々あります。それは、『恋愛感情』も例外ではありません!」
「そ、それは…………」
「アイズ様には、ベル様から自分に向けられる『情愛』とヘスティア様に向けられる『家族愛』の違いに気付いてないんです! むしろ、ベル様から向けられる『情愛』にすら気付いていない節があります! だから、ベル様がヘスティア様に向ける『家族愛』を『情愛』と勘違いしてるんです!」
「そ、それって……………」
「ですから、今のアイズ様を止めるためには、ベル様がアイズ様へ『情愛』を向けていると分からせればいいんです」
「えっ………で、でも、どうやって……………?」
リリの言葉にベルは少し顔を赤くする。
「そんなの簡単です。ベル様がアイズ様に『好き』だと言えばいいんですよ!」
その瞬間、リリの横に『神の鏡』が開き、
『お、おいリリ君! 何言ってもがっ………………!?』
『はいは~い、ヘスティア様。大人しくしましょうね~』
『神ヘスティア、ここは大人しく黙っておくべきかと…………』
ヘスティアが声を上げようとした所で後ろからシルとリューによって取り押さえられる。
「リ、リリ!? 何言って!?」
ベルは顔を真っ赤にさせて動揺するが、
「冗談で言ってるわけではありません。ベル様。ベル様がアイズ様を慕っていることは既に知っていますが、ベル様はアイズ様に一度でも『好き』だと言ったことがありますか?」
「う、ううん…………」
ベルは、フルフルと首を横に振る。
「なら、ベル様こそ自分の気持ちに素直になるべきです!」
リリの言葉がベルの心を揺さぶる。
「だったら話は早いな!」
ヴェルフが叫ぶ。
「言っちまえば良いだけの話だろ!」
ベートが、
「誰にも遠慮することは無い!」
シュバルツが、
「お前のありったけの想いを!」
ヴェルフが、
「ぶつければ良いんです!」
リリが、
それぞれがベルの背中を押す。
リリはベルの手を両手で握り、
「ファイトです! ベル様!」
「皆……………」
ベルは一度全員を見回し、
「……………ありがとう」
ベルは覚悟を決めた。
「僕は、もう逃げない…………!」
ベルは立ち上がり、攻撃を続けるデビルガンダムに駆け寄る。
ビームの一発がベルへの直撃コースとなるが、ベルはそれを素手で弾き飛ばした。
「アイズさぁああああああああああああああああああああんっ!!!」
そして渾身の想いを込めてアイズの名を呼んだ。
その瞬間、あれだけ激しかったデビルガンダムの攻撃がピタリと止まる。
「止まった……………」
誰かが呟く。
「デビルガンダムが………止まった」
「さあ、ここからです」
リリが呟く。
ベルは静かにアイズに語り掛けた。
「アイズさん…………聞こえますか? アイズさん…………返事はしなくても構いません。ただ、聞いてください……………」
その様子を、『神の鏡』を通じてオラリオの住人全てが見守っていた。
「アイズさん…………僕は、英雄を目指してこのオラリオにやってきました………子供っぽいと笑うかもしれませんが…………本で読んだ英雄たちに…………困る人々を助け、強大な敵を打ち倒し、ヒロインたちと恋をする彼らに……………僕は憧れました…………」
静かに語るベルを前に、沈黙を続けるデビルガンダム。
「自分で言うのもおかしいかもしれませんが……………僕は『英雄』になれたんだと思います。仲間達と冒険をして、目についた困る人たちを助け、強大な敵も仲間達と一緒に打ち倒してきました…………………そしてもちろん…………ヒロインに恋もしました…………」
デビルガンダムの中で、アイズがピクリと反応する。
「僕が恋をしたヒロインとは…………オラリオに来て二週間ぐらいしたころ…………ダンジョンの中で出会いました」
アイズは内心困惑していた。
オラリオに来て二週間はともかく、ダンジョン内で出会ったという。
それでは、あの女神には当てはまらないと。
「今でもハッキリと覚えています。それは初めてダンジョンの五階層に降りた時、何故かその階層に居るはずの無いミノタウロスと遭遇して、僕が嬉々として戦おうとした時にその人は現れました」
五階層、ミノタウロス。
アイズの記憶にもある単語がアイズの心を震わせていく。
「僕は一目でその人に心奪われました。自分に降りかかるモンスターの血すら気付けず、その人に見入っていました。完全に…………一目惚れでした…………」
デビルガンダムの胸の中央に亀裂が入る。
「その後にも魅力的な女の人達と出会うことはありましたが、僕が本当にヒロインになってほしいと思う人は、その人だけです…………………アイズさん。僕は、初めて会ったときから、あなたが……………」
デビルガンダムの胸が徐々に開き始める。
「あなたが…………」
『ムゴ~! ムゴ~!』
シル、リューに口を塞がれているヘスティア。
「あなたが……………」
『フグ~~~~~~!!』
『野暮な真似は止めておけ、ロキ』
『僕も同感だ』
同じようにリヴェリアとフィンに取り押さえられているロキ。
「あなたが……………!」
『神の鏡』を通じてオラリオの住民全員が固唾を飲んでその瞬間を見守る。
そして遂に、
「………ッ! あなたが好きだっ!!!」
その言葉が紡がれた。
「あなたが欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
デビルガンダムの胸部が開かれ、アイズを飲み込んでいたコードが次々と弾け飛ぶ。
「アイズーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
ベルは渾身の想いでアイズの名を呼んだ。
その想いは………………………………届いた。
アイズを覆っていたDG細胞が砕け散る。
「ッ! ベルーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
アイズは裸なのも気にせずにコクピットの外へと飛び出す。
「アイズッ!!」
ベルもアイズを受け入れるために飛び出す。
その瞬間、
「ベル様っ!」
リリが一瞬で自分のローブを脱ぎ去り、ベルへと投げ渡す。
ベルはそのローブを掴んでアイズの元へと向かった。
「ベルッ!!」
「アイズッ!!」
空中で二人は抱き合う。
「ベルッ! 私もっ、私もっ!」
「アイズ!」
アイズは涙を浮かべながら、ベルは笑みを浮かべて。
「私もベルが好きっ!」
「はい、愛してます! アイズ!」
二人は互いをしっかりと抱きしめる。
「……もう離さない!」
「離しはしません!」
「「ずっと、ずっと一緒(です)!!」」
お互いの気持ちを確かめ合い、絆を深める二人。
ベルはアイズにローブを纏わせ、元居た場所に着地する。
アイズに着せたローブは、リリが着ていたボロボロのローブの筈なのだが、今アイズが纏っている物は、不思議とどんな高級なドレスにも劣らない美しさがあった。
すると、生体ユニットを失ったデビルガンダムが、アイズを取り戻そうと体組織を活性化させ、暴走を始める。
それを見たベルは、冷静にアイズへと語り掛けた。
「さあ、最後の仕上げです」
「………うん!」
アイズも迷わずに頷く。
二人は手を繋いでデビルガンダムを見据えた。
「「二人のこの手に闘気が宿る!」」
「幸せ掴めと!」
「轟き叫ぶ!」
二人は自然とその言霊を紡ぐ。
今の二人には言葉もアイコンタクトも必要ない。
何故なら、二人の想いは一つなのだから。
「「ひぃぃぃぃぃぃぃっさつ! アルゴノゥトフィンガァァァァァァァァァァァッ!!」」
ベルがアイズを後ろから抱きしめるように包み込み、二人は揃って気を集中させる。
二人の想いが、愛が、その気の力を極限まで増大させる。
その力は、最早シャッフル同盟拳を超える。
「石ッ!」
「破ッ!」
「「ラァァァァァブラブッ!!」」
ベルの右手とアイズの左手が重ねられ、二人の愛の結晶とも言うべき技が繰り出された。
「「天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!!!」」
二人の手から放たれた気弾はキング・オブ・ハートの紋章を輝かせ、突き進む。
しかもそれだけではなく、王冠を被った力強い王の姿を現し、防ごうとしたデビルガンダムの両腕、と両肩の腕すら容易く砕いてデビルガンダムの中央を貫いた。
デビルガンダムの動きが止まり、ベルはアイズを抱き上げた。
「あっ…………」
「これが………僕達の門出です」
「ッ………うん!」
ベルの言葉に、アイズは嬉しそうに頷く。
二人は揃って前を見る。
そこには体の真ん中にハート型の風穴をあけたデビルガンダムの姿。
それを二人が見届けると、デビルガンダムは用は済んだとばかりに爆発し、跡形も残らず消滅した。
その陰で、
「くっ………忌々しいシャッフル同盟の連中め………! だが、この身にはまだDG細胞が残っている…………この私さえ生き残っていればいずれ…………」
あの場の全員がデビルガンダムに注目している間に、この場を離れようとしていた。
だが、
「ぐはっ!?」
ウルベの胸を、銀の刃が貫いた。
「逃がすと思っていたのか?」
「き、貴様………! キョウジ・カッシュ………!」
ウルベの影からシュバルツが現れ、背後からウルベの胸を貫いたのだ。
「母さんの仇だ。眠れ、ウルベ!」
シュバルツは刃に気を送り込み、ウルベの体を構成しているDG細胞にダメージを与えて破壊する。
「がぁああああああああっ!!??」
ウルベは断末魔の悲鳴を上げながら崩れ去り、消滅した。
シュバルツは刃を納める。
すると、
「終わったようだな」
東方不敗が声を掛けた。
「ああ」
「貴様はこれからどうするつもりだ?」
東方不敗がシュバルツ………いや、キョウジに問う。
「これから………か…………」
キョウジは一瞬考えるが、すぐに一人の女性の顔が浮かび上がり、愚問だと顔を上げた。
「私の贖罪は終わった…………これからは、自分の幸せの為に生きてみようと思う」
「ほう。自分の幸せか」
「ああ。私を幸せにしてくれると言っている女性もいることだしな」
キョウジがそう言うと、
「キョウジ!!」
息を切らせてスィークが走ってきた。
これ以上ここに居るのも野暮かと思った東方不敗はその場を気付かれずに立ち去る。
暫くしてからふと後ろを見ると、スィークが涙を浮かべながらキョウジに抱き着き、そんなスィークをキョウジが微笑みながら優しく抱きしめる光景があった。
オラリオを覆っていた暗雲が晴れ、日の光が差し込んでくる。
世界一と言われたオラリオは破壊され、無残な光景を残している。
だが、ダンジョンが消滅した今、オラリオの価値も下がっていっただろう。
それでも、希望を持って新たな未来へ歩む若者たちがいる。
寄り添うように佇むベルとアイズ。
そんな二人を見て、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! ベルく~~~~~~~ん!!」
恋に敗れた
そんなヘスティアの肩にポンと優しく手が置かれる。
ヘスティアが振り向くと、優しく、慈しむ様な笑みを浮かべたリリの姿。
更にその後ろには、同じように慈しむ笑みを浮かべた、シル、リュー、エイナ、カサンドラ、春姫の姿。
リリはヘスティアに手を差し出す。
その手は物語っていた。
『ようこそ、ベル様ハーレムへ』
と。
ヘスティアは葛藤した。
天界の『
だが、それも一瞬だった。
ヘスティアはその手を取った。
自分のプライドよりも利を取ったのだ。
僅かでもベルと共にいられる可能性があるのなら、と。
また、別の場所では、
「ヴェルフ!!」
「ヘファイストス様!」
ヴェルフとヘファイストスが抱き合う。
「ヴェルフ………良かった、あなたが無事で………」
「俺はまだ死ぬ気はありませんよ」
「あなたが串刺しにされている所を見た時は、心臓が止まるかと思ったわ」
「そ、それは………! 心配かけてすみませんでした」
ヴェルフは大人しく謝る。
「フフッ! 良いのよ、生きて帰って来てくれた。今はそれだけで十分だわ。さあ、来なさい。まずは怪我の治療よ」
「………はい!」
二人は揃って歩んでいった。
ベートは寄り添い合うベルとアイズを見て、
「……………フン!」
腕を組んでそっぽを向く。
だが、チラリと横目で二人の様子を伺うと、
「………………………フッ」
小さく、本当に小さく笑みを浮かべた。
そんな事を知らぬベルは、アイズを見つめる。
「オラリオ…………滅茶苦茶になっちゃいましたね………」
「うん…………でも、きっと大丈夫」
「どうして………?」
「だって………ベルがいるから」
アイズは笑みを向ける。
「アイズ…………」
「ベルがいれば、どんな未来でもきっと大丈夫………」
アイズの言葉にベルも笑みを浮かべる。
「アイズ…………」
「ベル……………」
見つめ合う二人。
二人の顔の距離が徐々に近づく。
そして、唇を重ねた二人を、雲の隙間から漏れた日光がスポットライトの様に照らし出した。
~~~~~FIN~~~~~
ベルの最終【ステイタス】
ベル・クラネル
Lv.東方不敗
血 看 石 全 王 東 新
染 招 破 新 者 方 一
東 ! 天 招 之 不 派
方 驚 式 風 敗
一
片
紅
《魔法》
【魔法に手を出そうとするうつけ者がぁーーーっ!!!】
《スキル》
【流派東方不敗】
・流派東方不敗
【明鏡止水】
・精神統一により発動
・【ステイタス】激上昇
・精神異常完全無効化(常時発動)
【
・好意を持つ異性が近くにいると【ステイタス】上昇
・異性への好感度により効果上昇
・異性からの好感度により効果上昇
・効果は重複する
・
・
二つ名:【
最終話の完成です。
いや~長かった。
一年ちょっとの連載でした。
何だかんだでやりたい事詰め込みまくりました。
最後の最後はどうしても告白シーンやラブラブ天驚拳シーンに全部持ってかれると思ったので、最後の最後に盛り上げるために【ステイタス】ぶっ今度来ました。
序に二つ名も。
勿論この二つ名は最終話後に行われた神会で決定しました。
これ以上このベル君に似合う二つ名は無いと思います。
とりあえずこれで本編完結です。
後は気紛れに蛇足というか、自分が過去作でもやった外伝的なアレをやろうかな~と思っていたり……………
その後は理想郷に戻って凍結してた小説の続きを書こうかなと思っていたんですけど………
実はこの一年の間に新しくハマった作品がありまして…………
それを使ったクロス小説を書きたいという欲求が湧いていまして………
そっちを投稿してしまうかもしれません。
それはともかく。
今まで応援していただいた皆様には感謝です。
ありがとうございました。
それでは皆さん最後はご一緒に。
ダンジョンファイト!レディィィィィィィッ……………ゴーーーーーーーッ!!!