ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第五十七話 バベル、崩壊する

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

僕達はダンジョンを全力で駆けていた。

 

「ッ!」

 

「ベ、ベル様…………申し訳ありません」

 

僕はリリを抱きかかえながら、

 

「…………すまない」

 

「どうということは無い!」

 

シュバルツさんはフィンさんを肩に担ぎながら。

上の階層へ向けて急いでいた。

下の階層からはゆっくりと、しかし確実に脅威が迫ってきているのを感じる。

そのまま走り続けていると、

 

「そういやベル! 十八階層のリヴィラの町の連中はどうするんだ!?」

 

ヴェルフがそう言ってくる。

そう言えばそうだった。

 

「そうだね……………声はかけてみる。だけど、信じてくれなかったらその時は………」

 

見捨てることも視野に入れなければいけないだろう。

そんな事はしたくないけど、このままあの存在が地上に出ればとんでもない被害になる。

その為には一刻も早く地上へと出て、一人でも多くの人に避難を呼びかけなくてはいけない。

僕達は今、最短距離で地上へと向かっているけど、今日もダンジョンに潜っている冒険者は少なくないはずだ。

すれ違う冒険者には声を掛けてはいるけど、他にも冒険者は沢山いるはず。

多くの冒険者が犠牲になっているのは明白だ。

僕はギリッと歯を食いしばる。

 

「ベル様…………」

 

僕の腕の中でリリが心配そうに僕を見上げていた。

 

 

 

 

やがて十八階層に到達すると、僕達はリヴィラの町に直行した。

そこで僕は声を張り上げる。

 

「皆さん! この階層は危険です! 早く地上に避難してください!!」

 

そう叫ぶ。

道行く人たちは突然の大声に何だ何だと振り返る。

 

「下の階層からとんでもない化け物が上がってくるんです! 早く逃げて!!」

 

僕はそう言うけど、見る限り話をまともに聞き入れている人は殆どいない。

すると、

 

「彼の言う通りだ! このままこの階層に留まっていると死ぬぞ!!」

 

フィンさんも声を張り上げた。

流石に【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンさんの言葉は無視できないのかザワザワと困惑した声が広がる。

それでも避難を始めようとする人は少数派だ。

 

「皆さん! 早く………!」

 

僕は叫ぶけど肩に手を置かれる。

振り向けば、フィンさんが首を横に振っていた。

 

「残念だが、聞き入れてもらえなければ仕方がない。ここでこれ以上時間を取られれば、それだけ地上での避難猶予が削られてしまう。納得は出来ないだろうが、見捨てるしかない」

 

「そうするしか………くっ!」

 

僕は拳を握りしめる。

頭では分かっている。

フィンさんの言う通りだと思うし、さっきも自分でそう考えた。

だけど、実際に見捨てると判断しようとしても、どうしても決断に躊躇してしまう。

その時、

 

「……………ベル様、私に任せてください」

 

「リリ?」

 

リリがそう言って僕達の前に出る。

すると、拳を振りかぶり、

 

「【炸裂! ガイアクラッシャー】!!!」

 

拳を地面に叩きつけた。

地面が割れ砕け、隆起する大地がリヴィラの町を飲み込む。

殆どの家屋が全壊し、見るも無残な光景が広がっていた。

 

「リ、リリ…………!?」

 

突然のリリの行動に僕は目を丸くする。

フィンさんや他のメンバーも呆気に取られていた。

 

「安心してください。死人が出ないように加減はしました」

 

いや、何を安心しろと?

 

「てめえら!? いきなり何しやがる!?」

 

街の住人が次々と出てきて僕達に食って掛かる。

そりゃ怒るのも当然だ。

 

「さっさとあなた達が避難しないからです! 死にたいんですか!?」

 

「はっ! てめえらの言っていることが本当の事だとどうやって証明する!?」

 

一人の男がリリに詰め寄る。

 

「証拠はありません。ですが、私達の言っていることがデマだったら、今出した損害の全てを私達で請け負います。更に賠償金を上乗せしたってかまいませんよ?」

 

「何……………?」

 

「ですが避難して命が助かったのだとしたら、たっぷりと謝礼金を支払っていただきます!」

 

「はっ! 何を言い出すのかと思えば馬鹿馬鹿し………」

 

「待ちな!」

 

また別の男性の声がした。

人混みの中から、何処か見覚えのある大柄の男性冒険者が歩いてくる。

 

「モルド………」

 

リリに食って掛かっていた男性が呟く。

モルドと呼ばれた男が僕達の前に歩いてくると、僕を見た。

 

「【心魂王(キング・オブ・ハート)】…………さっきの話は本当か………?」

 

その人は、僕の目をジッと見ながらそう問いかけてきた。

 

「……………はい!」

 

僕はその視線に応えるように真っすぐ見つめ返してハッキリと頷いた。

 

「…………嘘じゃねえだろうな?」

 

確認するように問いかけてくる。

 

「………神様に誓って!」

 

僕はそう返す。

 

「……………………そうか」

 

モルドさんはそう呟くとくるりと振り返り、

 

「てめえら! 撤収の準備だ!!」

 

そう叫んだ。

僕は思わず目を見開く。

 

「お、おいモルド………こいつらの戯言を信じるのかよ?」

 

「こいつは自分の神をダシに嘘を吐くような奴じゃねえ………それに、万一嘘だとしたら、そこのおチビさんが言った通り、タップリと賠償金を支払ってもらえば良いだけの話だ」

 

モルドさんはリリを見下ろしながら言う。

 

「………という訳だ。その時はたんまりと支払ってもらうからな?」

 

モルドさんはニッと笑いながら右手の親指と人差し指で輪っかを作り、お金のジェスチャーをする。

 

「ええ、構いませんよ。その代わり命が助かった時にはしっかりと謝礼金を支払ってもらいますから」

 

「そいつは他の奴に言いな。少なくとも俺はお前さん達に味方してるんだ。謝礼金は免除で頼むぜ」

 

何だろう?

切羽詰まった状況なのに、この人は死にそうにないなぁと感じてしまう。

ともかく、このモルドさんの言葉で次々と避難が始まる。

フィンさんとシュバルツさんで先鋒を務めてもらい進路の安全確保と誘導を。

残りのメンバーで殿を務めることにした。

 

「皆さん急いでください!」

 

「持ち物は最小限に! 移動の邪魔にならない程度に!」

 

僕達は避難誘導を行い、最後のグループが脱出するのを見届けた。

その時、

 

「ベルッ!」

 

ヴェルフの叫びに僕は振り向いた。

見れば、下層に繋がる世界樹の根元から。次々とデスアーミーの集団が現れていた。

 

「くそっ! もう追いついてきやがったのか!」

 

ベートさんが吐き捨てる。

 

「………………………!」

 

僕はどうするか一瞬で思案し、ふと視界の上の方で輝く巨大な水晶の塊が目に入った。

その瞬間に僕は閃く。

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

僕は闘気を開放する。

 

「ベルっ!?」

 

「ベル様っ! 何を!?」

 

皆が困惑してるけど、説明してる暇はない。

 

「流派! 東方不敗の名の下に!!」

 

僕は右の拳にキング・オブ・ハートの紋章を輝かせながら、顔の前に持ってくる。

 

「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

右手を握りしめると、前に突き出して手を広げる。

 

「ひぃぃぃぃっさつ! アルゴノゥトフィンガァァァァァァァァッ………………!」

 

その手に周りの自然から気を集め、集中する。

そして、その右手を握りしめながら振りかぶる。

 

「石破ッ! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

拳を突き出すと共に、水晶の塊に向けて気弾をはなった。

その気弾は突き進み、水晶の塊に着弾。

爆発と共に崩壊させる。

砕けた水晶や岩の塊が、次々とデスアーミー軍団に降り注いでいき、押しつぶしていく。

その光景を見つめながら、

 

「これで少しは足止めになると良いけど………」

 

僕はそう呟き、呆けている皆に呼びかける。

 

「さあ、僕達も早く地上へ!」

 

そう言って促した。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヴェルフ】

 

 

 

地上へ戻ってきた俺達だが、その場は未だに混乱の渦にあった。

ダンジョンに入ろうとする冒険者と、それを止めようとするフィン・ディムナ達【ロキ・ファミリア】の間で衝突が起こっていた。

【ロキ・ファミリア】の連中は団長の言う事だけあってすんなりと信じたようだが、他の連中はそうはいかない。

いきなりダンジョン探索を禁止にされて文句を言っている様だ。

しかも、それがギルドからの指示ではなく、【ロキ・ファミリア】の独断であるのだから、他の【ファミリア】には受け入れにくいんだろう。

と、そこで俺は気付いた。

バベルには、まだヘファイストス様達が…………!

 

「ベルすまん! この場は任せる!!」

 

俺はそう言い残すとバベルの【ヘファイストス・ファミリア】のテナントエリアに向けて駆け出した。

 

 

 

俺は通路を一目散に駆ける。

時折通行人にぶつかり弾き飛ばしてしまうが、今は後回しだ!

今ここで俺が声を張り上げても、元同僚とはいえ別【ファミリア】の俺の言葉は信じ辛いだろう。

なら、先にヘファイストス様を説得して、ヘファイストス様から全員に呼びかけてもらった方が早い!

俺はノックすらせずにヘファイストス様の執務室の扉を壊すぐらいの勢いで開け放った。

 

「ヘファイストス様っ!!」

 

俺の突然の入室に、ヘファイストス様と、同じく執務室にいた団長の椿が目を丸くする。

 

「ど、どうしたのヴェルフ? ノックもしないでそんなに慌てて」

 

「ヴェル吉、いくら主神殿が恋しいからと言っても、せめて礼節は通すべきじゃぞ?」

 

ヘファイストス様は純粋に驚き、椿はからかい半分にそう言ってくるが、今の俺に付き合っている余裕はない。

 

「ヘファイストス様! すぐにバベルから避難を! 【ファミリア】の連中と、他の神々にも呼び掛けてください!!」

 

「ヴェ、ヴェルフ? 突然何を言い出すの?」

 

「詳しく説明している暇はありません! 簡単に言えば、ダンジョンからとんでもない化け物が迫ってきているんです!」

 

「化け物? モンスターの事?」

 

「モンスターではありません! もっと別の………ああくそっ!」

 

俺はあの存在を言い表す適切な言葉を探す。

 

「………一言で言うなら悪魔です! あんな存在見たことも聞いたことも無い!!」

 

俺は思いついた言葉を口にする。

 

「とにかく早く逃げてください! もう時間が無いんです!」

 

「そうはいってもなヴェル吉。何も根拠がなければ…………」

 

「わかったわ。皆に避難を呼びかけましょう」

 

椿の言葉に被せる様にヘファイストス様が言った。

 

「信じるのか? 主神殿………」

 

「あら? 私の恋人がこんなにも必死になってるのよ。信じない理由が必要かしら?」

 

「こんな時に惚気んでも…………」

 

椿は呆れたようだが、

 

「まあいい。主神殿の命令だ。団員には直ちに避難を呼びかけよう」

 

「損害は気にしなくてもいいわ。とにかく早く避難することを優先させて」

 

「心得た」

 

椿はそう言うと急いで執務室を出る。

 

「私は他の神にこの事を伝えるわ。だけど………」

 

「分かっています。信じていただけない時は仕方ありません…………」

 

ヘファイストス様だけでも助け、バベルを脱出することを密かに誓う。

ヘファイストス様は速足で通路を進み、神々が集まる集会場に入っていく。

ヘファイストス様が入ってすぐに、美の神フレイヤ様が扉から出てきたが、その後には誰も続かない。

この部屋は神しか入れないので俺は入り口の前で待つが、

 

「……………………ッ!」

 

五分、十分と時間が過ぎるだけで、一向に変化がない。

入り口の前でウロウロし続ける俺は焦りに焦って、もうこれ以上待ちきれない。

俺は入り口を破って中に入ろうかと思ったとき、ガチャリと扉が開いてヘファイストス様が出てきた

 

「ヘファイストス様!」

 

俺が呼びかけると、ヘファイストス様は残念そうに首を横に振り、

 

「駄目ね。フレイヤは信じてくれたようだけど、他の神は信じようともしないわ」

 

「………………そうですか」

 

俺も少し俯く。

だが、ここでボンヤリしている暇はない。

 

「ならヘファイストス様。ヘファイストス様だけでも早く避難を……………ッ!?」

 

そこまで言いかけた所で俺は僅かな震動に気付く。

それは最初僅かな震えだったが、徐々にその震えがやがて揺れに変わり、バベルを揺るがすほどの大きな揺れとなる。

天井からバラバラと石の欠片が降り始め、所々に罅が走る。

やばい、このままじゃ普通に避難してたら間に合わねえ!

俺はそう判断すると、背中の大刀を抜いて、窓側の壁に向かって振りかぶる。

 

「おらぁあああああっ!!」

 

大刀を壁に叩きつけ、外に繋がる大穴を開けた。

 

「ヴェルフ!?」

 

「失礼します!」

 

俺は一言断ってヘファイストス様を抱き上げる。

この場所は地上三十階ぐらいだ。

普通に飛び降りたら命は無いだろう。

だが、俺は構わずにその穴から外へ飛び出した。

空中に身を躍らせる俺。

当然ながら飛べない俺は地上へ向けて落下を始める。

だが、

 

「【行け、ローゼスビット】!!」

 

俺はローゼスビットを呼び出し、

 

「【受けよ我が洗礼。 ローゼススクリーマー】!!」

 

以前ベルにやった時と同じようにローゼススクリーマーの結界をクッションにして衝撃を緩和し、地上へと無事に着地する。

地上でも、ようやく異変に気付いた人々が我先にとバベルから離れるように逃げ出していく。

俺はヘファイストス様を抱き上げたまま、バベルから離れる。

暫く走った俺は、バベルに向かって振り返った。

視線の先では、揺れと共に崩れゆくバベルの塔。

 

「バベルが……………」

 

ヘファイストス様も呆けたような声でそう呟く。

ヘファイストス様の言う事を信じなかった神が送還されているんだろう。

バベルの塔が崩れた跡からは、光の柱が次々と立ち昇っている。

だが、

 

「………ッ!」

 

そんなものに見とれている余裕は無い。

 

「なっ!?」

 

何故なら、

 

「あ………あれは…………何…………?」

 

神の塔(バベル)が崩れ去ったその下から、

 

「あれが…………悪魔です…………」

 

悪魔(デビルガンダム)が生まれ出でたのだから……………

 

 

 






第五十七話です。
デビルガンダム地上進出。
一体何人巻き込まれたことやら。
因みに形態と大きさは、第二形態で大きさはオリジナルの十分の一ぐらいです。
この先どうなる?
それは作者にも分からない(オイ
それでは次回にレディー………ゴー

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