ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
【Side ベル】
エダス村を何とか守った僕は、また一日その村で休息を取り、翌日に出発した。
その際に村を救った『英雄』と呼ばれて、少し恥ずかしくも嬉しいと感じた。
でも、帰りの道中でアイズさんの様子がいつもと違って口数が少ないような気がした。
まあ、元々口数が多い人じゃないから僕の気の所為かもしれないけど。
神様を背負いつつベオル山地を駆け抜け、暫く走ってようやく山道を抜ける。
そこで僕達が目にしたものは、未だオラリオに攻め入ろうとするラキア軍の姿だった。
「まだ戦いは続いているようだね」
神様が呟く。
「はい、リリ達も頑張っているようですが、少しずつしか押し返せてはいないようです」
「ああ。ここから見るとラキア軍の統率力の高さがよくわかる。対してオラリオの方は烏合の衆と言っていい。これじゃあ苦戦するのは当然だな」
神様はそう述べた。
「……………………」
僕は一瞬の内に思案し、
「アイズさん…………神様をお願いできますか?」
「え…………?」
「統率の執れた軍隊は、逆に言えば統率者さえ討ち取ればその力を大幅に削ることが出来ます。そして、今回の大将は…………」
「ッ………! 師匠君か!?」
「はい…………なので、僕はこのままラキア軍の背後を取って、師匠に一騎打ちを挑みます」
「無茶だ! いくらベル君でも師匠君にはまだ………!」
「ええ。まだ本気の師匠には敵うとは思っていませんが、師匠も本気でオラリオに攻め込んでいるわけでは無いでしょう。今回の進軍は、『力試し』の意味合いが強いと思われます」
「『力試し』………だって?」
「はい。ですから、僕が師匠に力を見せれば、師匠は満足して退いてくれるかもしれません」
「なるほど…………それだったら可能性は………いや、でも………」
神様は悩んでいるようだったので、
「じゃあ、そう言う事なので行ってきます、神様!」
僕は神様の返事も待たずに僕は駆けだした。
「あっ! ベル君っ!!」
神様の静止を振り切って僕は走った。
【Side Out】
ラキア陣営では、数日前より度々起こる地面が割れ砕けたり、赤い竜巻の発生により進軍が滞っていた。
「う~む、このまま押し切れるかと思いきや、オラリオも中々どうして。おそらく新たな援軍が到着したんでしょうなぁ」
将軍の一人がそう漏らす。
将軍たちは、ここ数日の出来事をオラリオ側の魔法だと思い込んでいる様だ。
まあ、あながち間違いではない。
あの二人の【魔法】を【魔法】と呼んでいいのかは分からないが…………
だが、
(あれらの“技”……………ブラック・ジョーカーを受け継いだネオロシアのアルゴ・ガルスキーとジャック・イン・ダイヤを受け継いだネオフランスのジョルジュ・ド・サンドの技だったはず……………技の威力からして本人たちではないようだが、はてさて……………)
その場にいる東方不敗も顎に手を添え、思案している。
その時だった。
「……………むっ!?」
東方不敗が僅かな気配を感じ取り、後方の森を見やる。
「老師………?」
将軍の一人が声をかける。
次の瞬間、
「師ぃ匠ォォォォォォッ!!!」
木々の上からベルが飛び掛かってきた。
「ベルッ………!?」
これには東方不敗も予想外だったのか一瞬驚愕の表情を浮かべるものの、すぐに平静を取り戻し、ベルに対処する。
即座に構えを取り、東方不敗からもベルに向かって跳び上がった。
「ダンジョンファイトォォォォォォォッ!!」
「レディィィィィィィッ…………!!」
「「ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!」」
その掛け声とともに激突する両者。
「おおおおおおおおおおぉっ!!」
「はぁああああああああっ!!」
ベルから振り下ろされる拳を左手で往なしつつ、右の拳を放つ。
だが、ベルも左手を使って東方不敗の拳を受け流し、直撃を避ける。
その瞬間一瞬静止し、お互いの視線が交わる。
だが、
「はっ! だぁあああああああああああっ!!」
「ふっ! とぉりゃぁあああああああああっ!!」
即座に弾きあうと、拳の弾幕の応酬に移行した。
一瞬の内行われる無数の攻防。
その応酬は、周りから見る者にとっては両者の手が無数に分身して打撃音を打ち鳴らしながら何かをしているという風にしか見えなかった。
時間にして数秒だろうか。
だが、長時間そうしていたと思えるほどの密度の濃い時間がそこにあった。
両者の拳が激突し合い、応酬が一時的に中断される。
そんな中、東方不敗はベルの拳を受け止め、思う。
(ほう………ベルの奴め、この短期間でまた一つ腕を上げておるわ……………フッ、やはり弟子の成長を実感できるのは嬉しいものよのう)
口には出さないが、内心ベルを褒める東方不敗。
そんな一瞬のスキを感じ取ったのか、ベルは合わせていた拳を一瞬にして外し、東方不敗の拳を跳ね上げる。
「むっ!?」
声を漏らす東方不敗。
一瞬で気を引き締めたので隙が無くなり、追撃を中断したベル。
お互いの位置が入れ替わり、背中を向けた状態で着地する両者。
だが、即座に振り返ると、
「ゆくぞベル!!」
東方不敗が渦巻く闘気を身に纏う。
「受けて立ちます!!」
ベルも同じように渦巻く闘気を身に纏った。
そして、
「超級!!」
「覇王!!」
「電!」
「影!」
「「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」」
同時に突撃し、中央で激突。
闘気の竜巻が巻き起こった。
一方、オラリオ側の本営では、ヘスティアを連れたアイズが到着した所だった。
「おうドチビ! 無事やったみたいやな! 残念ながら!」
「フン! ベル君が来たんだ、当然だろ? でも、ま、君の所のヴァレン某君にも、少しは………本当に少しだけど世話になったから、その事だけは礼は言っておくよ!」
「どうしたドチビ? 変な物でも食ったんか?」
「失礼な! ボクは君と違ってちゃんとお礼を言うべきところはわきまえてるだけさ!」
「言ってろ。んで、その肝心のベルはどうしたんや?」
ロキがそう尋ねると、
「フン、そろそろラキア軍の指揮系統が乱れるから、その隙を突いて一気に押し返すよ。因みにベル君はラキア本陣に奇襲を掛けに行った」
「ブフッ!? ベルが本陣に奇襲やと!?」
「まあ、今のラキア軍の大将は師匠君だろうからね。師匠君さえ押さえれば指揮系統は乱れるだろうってベル君の推測だよ」
「師匠君って………ベルの師匠の事やろ!? 話に聞いただけやけど、とんでもない強さらしいやん! ベル一人で大丈夫なんか?」
「まあ、師匠君に成長を認めてもらうのが目的みたいだからね。必ずしも勝つ必要は無いみたいだよ」
と、その時、
「た、大変です!!」
冒険者の一人が本営に駆け込んでくる。
「ら、ラキア陣営に異変がっ………!?」
「なんやとっ!?」
ロキを筆頭に神々が外へ様子を見に出ると、
『『うぉりゃぁああああああああああああああああああああああああっ!!!』』
ベルと東方不敗の超級覇王電影弾の激突により起こった闘気の竜巻が目撃された。
しかも、
「なあドチビ。ウチの目おかしくなったんか? あの竜巻の真ん中あたりにベルと変な爺さんの顔がいくつも並んで見えるんだけど…………」
「だったらボクの目もおかしくなってるね。ボクにもそう見えるよ」
「「……………………」」
目の前の非常識に頭を悩ませる二人。
「…………とりあえず、間違いなくラキア陣営は混乱するだろうから、今の内に押し返さないか?」
「そ、そうやな……………そんじゃ、攻撃開始!」
ロキは気を取り直して攻撃を指示した。
ベルと東方不敗は、激突した時の被害が大きかったため場所を移し、ラキア本営の後方にあった岩山の頂上付近で相対していた。
「フフフ………ベルよ。思った以上にできるようになっておるな?」
「僕も師匠と別れてから、遊んでいたわけではありませんから」
「言いよるわ…………ならば!」
東方不敗は構えを変えると、右手を前に伸ばす。
「これをどう防ぐ!? ベル!」
その右手に自然の気が集まっていく。
それを見たベルの行動は早かった。
「はぁあああああああっ……………!」
ベルも同じように右手を前に出し、そこに気を集めていく。
「何ッ!? まさかっ!?」
東方不敗もそれには目を見開いて驚いている。
ベルの目は、真っすぐ東方不敗を射抜く。
東方不敗はすぐに表情を引き締めると、口元に笑みを浮かべる。
「面白い…………勝負と行こうではないか!」
東方不敗も闘気を高めた。
「ゆくぞぉ!!」
「はいっ!!」
東方不敗の掛け声にベルも応える。
「流派っ………!」
「東方不敗がっ…………!」
「最終ぅぅぅぅぅっ…………!」
「奥義っ………!」
二人の闘気が最大限に高まり、地面を捲り上げる。
そして、互いに闘気を込めた右手を握りしめ、腰だめに構えた。
そして…………
「石ッ!」
「破っ!」
「「天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」」
同時に右の拳を繰り出し、特大の気弾を放った。
その気弾は地面を抉りながら突き進み、二人の中央で激突。
せめぎ合いながら衝撃波を辺りへまき散らしていく。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「はぁああああああああああああああっ!!!」
両者は気弾に闘気を送り続けながら叫ぶ。
「師ぃ匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「ベルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
二人の叫びに呼応するようにぶつかり合った気弾が膨張していき………………
轟音と共に閃光が弾けた。
「うわぁあああああああああああああっ!?」
ベルはその衝撃波に吹き飛ばされ、
「ぬぅぅぅぅぅぅぅっ……………!?」
東方不敗はその衝撃波に耐えつつも後退していた。
そして、その光景は遠く離れたオラリオ本営からも観測できた。
突然岩山の上で光がぶつかり合ったと思ったら、轟音と共に閃光が溢れ、大爆発を起こしたのだ。
その突然の出来事にオラリオの神々だけではなく、戦闘中だった冒険者やラキア軍の兵士達も手を止めてしまい、その光景に見入っていた。
その後に起きた衝撃波で吹き飛ばされる者が多数いたが…………
神々が驚愕しつつも閃光が収まったことを確認し、岩山“だった”場所に目をやると………
「な、なんやこれ…………?」
ロキが信じられないといった声を漏らす。
神々が見た先には、岩山が丸々吹き飛び、逆に巨大なクレーターとなった光景が広がっていた。
「う、嘘やろ……………」
流石の神々も、この光景には全員が絶句することとなった。
「うっ…………!」
吹き飛ばされたベルは、少しの間気絶しており、たった今気が付いた。
「気が付いたか、ベル?」
少し離れた場所に東方不敗が背を向けて立っていた。
「師匠っ!?」
ベルは慌てて起き上がる。
東方不敗はゆっくりとベルに向き直ると、
「ベルよ! 石破天驚拳を習得していたのは予想外であった! 天晴れなり!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「だが、その後の対処がまだまだじゃったな。己が技の反動で吹き飛ばされ、気絶するなどまだまだ未熟よ!」
「も、申し訳ありません! 師匠!」
「じゃが………」
「師匠?」
「よい拳になった」
「ッ…………はいっ!」
その言葉が嬉しくて、ベルは目に涙を滲ませていた。
「このまま鍛練を続ければ、ワシを超える日も決して遠くは無いだろう! 精進せい!!」
「はいっ! 師匠!!」
その日、ダンジョンのとある場所。
そのダンジョンの壁面から一つの異形が産み落とされた。
「ぐあっ………!? はぁ…………はぁ……………こ、ここは…………?」
その異形は言葉を発し、その姿形も人間のそれだ。
だが、その体表は銀色の鱗状のものに覆われ、その目にも狂気が宿っている。
それは地面を這いずりながら辺りを確認すると、
「こ、ここは何処だ……………? 私はシャッフル同盟共に……………!?」
そう呟く。
その身体は傷だらけでボロボロであり、這いずる程度の力しか残っていないようだ。
「い、いかん………急いで回復せねば…………! こんな所で終わってたまるものか…………」
その異形は這いずりながらダンジョンの奥へと消えていく。
「この力さえ…………DG細胞の力さえあれば……………!」
この生れ落ちた異形こそが、オラリオを、いや、世界を震撼させることになるなど、誰も知る由は無かった。
第五十四話です。
師弟激突をお送りいたしました。
まあ、ストーリーはオリジナルだったので若干表現が物足りん気がしましたが…………
さて、最後に出てきたのは誰か分かりますか?
そう、あの人です!
つまりゼノス編には入らずオリジナルルートに入ります。
そんで完結させる予定です。
期待してた人はごめんなさい。
そろそろネタ切れなので…………
後ほぼオリジナルになるので更新に時間がかかってしまうかもしれません。
そこはご了承を…………
案外直ぐかけたりとかしますが………
それでは次回にレディー………ゴー!!
P.S 今回の返信は個人的事情によりお休みします。ごめんなさい。