ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第五十二話 ヘスティア、攫われる

 

 

 

「あ~も~、どーしたもんかなぁ…………」

 

ラキア軍迎撃の為の本営でロキが零す。

現在のラキア軍との戦いは一進一退。

ラキア軍の兵士をかなりの数捕虜にしているが、オラリオの冒険者達も少なくない数が捕まっている。

ラキア軍の兵士の数は、軍というだけあってかなりのものだ。

対して、オラリオの冒険者の数は多くは無い。

冒険者になる者達こそ多いものの、その中で大成するのはほんの一握りのみ。

兵の数では圧倒的な差があった。

今まではLv.1が殆どで、Lv.2がほんの僅かにいる程度だったので、数人の第一級冒険者がいれば『数』の差を覆す圧倒的な『質』で簡単に鎮圧できた。

だが、今のラキア軍は『数』と『質』の両方を併せ持っていた。

最高戦力では及ばなくとも、その『数』と数を最大限に利用する『連携』により、『質』が上であるオラリオの冒険者達と渡り合っているのだ。

それと比べてオラリオの冒険者達は同じ【ファミリア】内ならばある程度の連携は取れるが、違う【ファミリア】同士となると元々競争相手。

途端に烏合の衆となり、その実力を十全には発揮できていない。

 

「こりゃ本気でベルに応援頼むしかないなぁ~…………」

 

ロキは机に突っ伏しながら気が進まないと言わんばかりに愚痴る。

まあ、ロキにしてみれば犬猿の仲のヘスティアに借りを作るのが嫌なだけで、ベル自身に応援を頼むことにはそれほど嫌悪感は無い。

 

「まあ、ここで負けたら本末転倒やし、背に腹は代えられんか………」

 

ロキはそう呟くと、本営の神達に【ヘスティア・ファミリア】への応援要請を打診した。

 

 

 

 

 

一方、その【ヘスティア・ファミリア】の主神であるヘスティアは、現在じゃが丸君の露店のバイトに勤しんでいた。

この女神は、未だにバイトを続けているのだ。

本人曰く、少しでも借金返済の手伝いをしたいだそうだ。

ヘスティアが露店で売り子をしていると、

 

「ヘスティアちゃ~ん!」

 

バイトの同僚である獣人の女性に声を掛けられた。

 

「ん? どうしたんだいおばちゃん」

 

「それがねえ、さっき店主さんからお達しがあって、今すぐじゃが丸君の材料に使うハーブを都市の外に取りに行かなきゃいけなくなっちゃって………」

 

「ハーブ? 交易所にでも行って買えばいいじゃないか」

 

「費用削減だってさ。それでヘスティアちゃんにも手伝って欲しいんだけど………」

 

「でもさ、おばちゃん。ボク一応【ファミリア】の主神だから都市の外には出れないんだ」

 

「あ、そうだったわねえ」

 

オラリオに所属する冒険者や主神が都市の外に出るのは難しい。

戦力流出に敏感だからだ。

 

「都市を出る前までだったら、手伝うことも出来るんだけどさぁ」

 

ヘスティアがそう言いながら北門前の広場を見る。

その時、周囲の人々が騒めいた。

 

「ん?」

 

ヘスティアがそちらを見ると、

 

「俺が、ガネーシャだ!!」

 

「あ、ガネーシャ」

 

浅黒い肌に鍛えられた肉体。

黒い髪に顔に装着された象の仮面。

【群衆の主】と呼ばれる男神ガネーシャが門を潜るところであった。

ガネーシャがそのまま進んでくると、ふとヘスティアと目が合う。

 

「むっ、そこにいるのは…………ヘスティアか!?」

 

「いちいち声を張らなくてもいいよ。でもどうしてここに? 戦場に駆り出されてたんじゃなかったのかい?」

 

馬に乗っていたガネーシャは、馬上からヘスティアの前に飛び降りた。

 

「話せば長くなるが、【ヘスティア・ファミリア】にラキア軍迎撃への参加を要請する」

 

「短いよ。っていうか、やっぱり旗色は良くないようだね。ボクみたいな中堅【ファミリア】に参加要請が来るなんて」

 

「面目ない」

 

「まあ、向こうには師匠君がいるって話だし、それも仕方ないと思うけど」

 

ヘスティアは肩を竦める。

 

「で、ヘスティアは何をしている?」

 

「ああ、実はかくかくしかじか………」

 

ヘスティアが説明するとガネーシャが光る白い歯を見せつけながら笑う。

 

「そう言う事ならば今から行って来ると良い! 丁度ヘスティアには都市の外への外出許可が出ている! ヘスティアの団員達には俺から参加要請を伝えよう! 戻ってくる頃には団員達も出発準備が整っている頃だろう」

 

「本当かい!? それは助かるよ!」

 

許可が出ているなら一安心と、ヘスティアはガネーシャに別れを告げ、同僚と共に都市の外へ出ていく。

都市の外にも入門待ちをしている人が並んでいた。

ヘスティアは、どんよりと曇った空を見上げながら一雨来るかもなぁと思いながら並んでいる人々の横を通過していく。

その中で、ふと視線を落としてとあるフードで顔を隠した人物と目が合う。

 

「「ん?」」

 

ヘスティアとその人物は同時に声を漏らした。

フードから覗く金髪に見覚えのある紅い両眼。

ヘスティアとその人物は、お互いに指を指しあって叫んだ。

 

「アレス!?」

 

「ヘスティア!?」

 

そのフードの人物こそラキア王国の主神である軍神アレスであった。

何故アレスがここにいるのかと言えば、ヴェルフの確保に失敗したアレスが、今度はヘスティアを捕まえて神質にし、ヴェルフとの交換を持ちかけようとしたのだ。

因みにマリウスや他の兵たちにも声を掛けたのだが、東方不敗に心酔する彼らが付いてくるはずもなく、アレスは一人である。

誰もが失敗すると呆れる中、アレスは一人オラリオに潜入しようとしていた。

だが、何の因果か偶々外出許可が出たヘスティアとかち合い、今に至るのである。

 

捕獲(ゲット)ォーーーー!!」

 

「ぐああああっ!?」

 

アレスの渾身のタックルによってヘスティアは気絶する。

アレスはすぐにヘスティアを担ぎ上げ、馬に跨ると、

 

「フハハハハハハッ!! 目標捕獲! さらばだっ!!」

 

馬が駆けだし、あっという間に遠ざかる。

因みにこの馬、Lv.4の軍馬をアレスがちょろまかしたものであり、その速度はとんでもないものであった。

 

「ヘ、ヘスティアちゃ~~~~~~~~~~んっ!?」

 

一瞬の出来事に呆けていた同僚の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

ガネーシャ様にラキア軍迎撃への参加を伝えられ、皆と一緒に準備を済ませて北門の広場まで来ると、辺り一帯が騒然となっていた。

 

「おいおい、何かただ事じゃねえ雰囲気だぞ?」

 

ヴェルフがそう呟く。

 

「確かに………これほどの騒ぎになるなんて、いったい何があったんでしょう?」

 

リリも周囲を観察しながらそう言った。

そんな中、

 

「ドチビが攫われたぁ~~~~っ!?」

 

聞き覚えのある女神の声に、僕はそちらを向いた。

僕の視線の先に居たのは、【ロキ・ファミリア】の主神のロキ様と団長のフィンさん。

そしてアイズさんがいた。

でも、僕は気が気ではなかった。

ロキ様が言う『ドチビ』というのは神様の事を指す。

つまり、今の言葉は神様が攫われたと言う事を意味していた。

僕は思わずその集まりに詰め寄った。

 

「あのっ………神様が攫われたってどういうことですか!?」

 

アイズさん達は驚いた顔で僕を見た。

 

「ベル………!?」

 

「………端的に説明する。ベル・クラネル、よく聞いてくれ」

 

フィンさんから簡単に状況の説明を聞き終えた僕は、顔から血の気が引くのを感じた。

 

「かっ……神様がいる場所はっ!?」

 

「分からないが、神ヘスティアの同僚からは、神アレスは北の方に逃げて行ったと言っていた。これから追跡隊を編成するところだが………」

 

「僕が行きます!!」

 

フィンさんが言い終わらない内に僕は叫んだ。

 

「大体の方角が分かっているのなら近くまで行けば気配で探れます! それに、僕一人ならだれよりも速い!」

 

「…………確かにその通りだな。それに調べてみて分かったことだが、ラキア軍の軍馬には【恩恵】が与えられていた。それも最低でもLv.3。最大でLv.5が確認されている。神アレスが乗っていた馬がどの程度でかは分からないが、Lv.5以下の冒険者では追い付けないと考えた方が良いだろう…………それにLv.6以上の冒険者を追跡隊に割くことは出来ない。ここはベル・クラネルに任せた方が妥当だろう」

 

フィンさんはそう言う。

 

「それならっ………!」

 

僕はその場を駆け出そうとして、

 

「ならアイズ。ベル・クラネルを手伝ってやってくれ」

 

「えっ………?」

 

フィンさんの言葉にアイズさんは声を漏らし、僕は思わず駆け出そうとした足が止まる。

 

「ちょ、待てやフィン!? ベル一人で十分やろ!? アイズたんが行く必要無いやんか!?」

 

ロキ様が叫ぶ。

 

「もちろん打算はある。こちらとしては少しでも【ヘスティア・ファミリア】に貸しを作っておきたい………いや、少しでも借りを返しておきたいっていうのが本音かな? それにベル以外の【ヘスティア・ファミリア】が合流したのならアイズ一人分以上の働きは出来るだろう。ベルに追随できそうなのはアイズか、もしくはこの場に居ないベートだけだ」

 

フィンさんは僕に向き直ると、

 

「ベル・クラネル、もしアイズを足手纏いと判断したのなら置き去りにして構わない。アイズ、彼に置いて行かれたくなければ死に物狂いで追いかけろ」

 

フィンさんの言葉に、アイズさんは力強く頷いた。

僕とアイズさんで神様達を追うことになったので、僕はリリ達に向き直ると、

 

「そういう訳だから、僕はこれから神様を助けに行って来る! 僕がいない間の代役はリリに任せるよ!」

 

「はい! お任せくださいベル様! ではお早く。ちゃんとヘスティア様を連れて帰って来てくださいね」

 

「うん!」

 

そう言うと、僕はアイズさんと共に門を潜る。

 

「では行きますよ、アイズさん………!」

 

「うん………!」

 

そう言葉を交わすと、北に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

オラリオの真北にある『ベオル山地』。

険しい山道が続くこの場所を私とベルは駆け抜けていた。

私は常に前を走るベルの背中を見る。

暫く走り続けているけど、ベルのスピードは全く落ちていないどころか、呼吸に乱れも感じられない。

私は全力で走っているけど、ベルはまだ余力がある。

フィンには足手纏いなら置き去りにしろとは言われても、ベルは優しいからそんな事は出来ない。

ベルに気を使わせてベルの主神を助けられなかったとしたら目も当てられない。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

私は風を纏い、少しでも速度を速くしてベルを追いかける。

絶対にベルの足手纏いにはなりたくない!

そう強く思いながら足を動かす。

その時、ポツポツと顔に水滴が当たる。

視線だけを空に向けて、雨が降ってきたのだと確認する。

すぐに視線をベルの背中に戻し、追いかけるのに全力を尽くした。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

ベオル山地奥部。

 

「フハハハハハハハッ!! 今度こそオラリオに吠え面をかかせてやったぞ!」

 

崖と谷間に挟まれた険しい山道を一頭の馬が爆走していた。

時折岩の影からモンスターが現れるが、Lv.4の【恩恵】を持つ馬は歯牙にもかけずに轢き殺していく。

先程気が付いたヘスティアが暴れているが、当然ながらアレスは無視する。

 

「今に見ていろ! ベル君がすぐに追いかけてくるぞ!」

 

「ここは既にベオル山地だ。ここまで深く逃げ込んだ時点で俺の勝利は揺るがない!」

 

自信満々に言うアレスをヘスティアは一瞥した後、

 

「ププッ………!」

 

思わず笑いをこらえ切れずに零した。

 

「どうしたヘスティア? 余りの恐怖に頭がおかしくなったか?」

 

「いいや、君の滑稽さが余りにもおかしくてね。確かに普通なら君の言う通りだろうけど、生憎僕のベル君は普通じゃなくてね」

 

ヘスティアはそう言うと、一度大きく息を吸い込み、

 

「ベルくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんッ!!!」

 

大声でベルの名を呼んだ。

 

「はっ、無駄な事を………」

 

アレスがそう言いかけた所で、

 

「神様ぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

そんな叫び声が返ってきた。

 

「ベル君っ!!」

 

笑顔になるヘスティアと、

 

「ナニィッ!?」

 

驚愕の表情になるアレス。

次の瞬間、アレスの進行方向の崖の上に竜巻が直撃し、崩落が起きて道を塞ぐ。

それは、ベルの後方からアイズが放った物だった。

 

「うおおおおおおっ!?」

 

アレスは慌てて手綱を引き、馬を停止させる。

馬は危うく岩に激突しそうになるが何とか止まった。

アレスは馬から降りると携えていた剣を抜き、

 

「おのれ何者!?」

 

向かってくるベルに構えた。

が、

 

「ぶがっ!?」

 

顔面にベルの飛び蹴りを食らって後ろに吹っ飛ぶ。

 

「神様! 大丈夫ですか!?」

 

「ベル君! 信じてたよ!」

 

縛られていたヘスティアは、声を上げて喜びの表情をする。

ベルはすぐにアレスに向き直った。

遅れてアイズが到着し、ヘスティアを縛っていた縄を切った。

 

「ぬあっ!? ヴァレン某!?」

 

ベルの時とは違い、思いっきり嫌な顔をするヘスティア。

 

「ぬうぅ………神を足蹴にするとは罰当たりな奴め………!」

 

アレスはよろよろと立ち上がり、恨めしそうにベルを睨む。

 

「こちらも神様を危険な目に合わせたことを許すつもりはありません!」

 

ベルはその睨みに怖気もせずにそう言い返す。

すると、アレスは忌々しそうに、

 

「ええい! 貴様のその神をも恐れぬ物言い、あの爺を見ている様だ!」

 

アレスは地団駄をふむ。

 

「…………って、もしかして師匠の事ですか?」

 

「師匠………? 貴様あの爺の弟子か!?」

 

「あなたの言う方が東方不敗 マスターアジアという名前なのならその通りです」

 

「ぐぬぬ………師が師なら弟子も弟子だな! この罰当たりめ!」

 

「とりあえず僕達に文句があるなら拳で語ってください」

 

ベルが握り拳を作りながらそう言うと、

 

「この脳筋師弟が!!」

 

「君が言うなよアレス」

 

密かにヘスティアがツッコム。

 

「えっと……とりあえず大人しくしてください」

 

ベルはそう言うと一瞬でアレスの後ろに回り込み、

 

「フッ!」

 

首筋に手刀を落とした。

 

「あがっ!?」

 

アレスは何が起きたのかも分からずに気絶する。

 

「これで一件落着ですね」

 

ベルはそう言いながらヘスティアとアイズに向き直る。

 

「ベル君っ!」

 

ヘスティアがベルに駆け寄ろうとした。

その時だった。

雨で抜かるんでいた地面に足を取られ、ヘスティアが転倒する。

それも谷間の方に、

 

「あ…………」

 

ヘスティアは思わず虚空に手を伸ばした。

ヘスティアの目に映る景色が流れていく。

その時、

 

「神様っ!!」

 

ベルが躊躇せずに跳んだ。

伸ばされた手を掴み、自分の方へ引き寄せ、小さな女神を守るようにその胸に掻き抱く。

そのままベルは濁流の中へと飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 





第五十二話です。
ヘスティアのターンだと前回言っていたな。
あれは嘘だ。
というかそこまで書ききれなかった。
次回こそヘスティアのターンです。
とりあえず今回はボッチで頑張ったアレス様に称賛を。
それでは次回にレディー………ゴー!!

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