ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第五十一話 キョウジ、過去を語る

 

 

 

【Side キョウジ】

 

 

 

「では行って来る」

 

私はそう言って【ミアハ・ファミリア】のホームを出る。

 

「ん、いってらっしゃい。今日もいい稼ぎを期待してる」

 

「うむ、気を付けてな」

 

ナァーザと神ミアハに見送られ、私は今日もダンジョンへと出向く。

【ファミリア】の借金も大分減り、うまくすれば後一度の返金で借金が帳消しになるところまで来ている。

私がこの世界に来てからまだ数ヶ月しか経ってはいないが、随分と馴染んだものだ。

もうあの二人も家族と呼んで差し障りない間柄となっている。

私は道すがらそう考える。

ダンジョンがあるバベルに向かう前に、私はとある所にある小屋へと向かった。

私は小屋の扉をノックし、

 

「失礼する」

 

一言断って扉を開けた。

私が扉を開けると、部屋の一角にある机にうつ伏せになりながら眠る、一人の赤髪の女性がいた。

これも最近では見慣れた光景だ。

私は不用心な事だと思いながら、彼女に近付き、

 

「スィーク………スィーク、朝だ。起きて欲しい」

 

私は彼女の肩を揺すりながらそう言う。

 

「う……………んんっ……………?」

 

彼女は身を捩りながら声を漏らすと、ゆっくりと瞼を開いた。

 

「うん…………?」

 

眠そうな目を擦りながら辺りをキョロキョロと見渡し、私と目が合う。

 

「おはようスィーク」

 

私はそう挨拶する。

 

「……………………………キョウジ?」

 

彼女はそう呟くと、徐々に意識がハッキリしてきたのかハッとなり、

 

「キョ、キョウジ!?」

 

ガタッと椅子を蹴倒しながら立ち上がった。

彼女は顔を赤くし、慌てて表情を取り繕う。

 

「お、おう! 早いなキョウジ!」

 

そう言ってくるスィーク。

その様子が微笑ましく思え、口元が自然と吊り上がる。

 

「あ~~~~っと…………そ、そうだ! 頼まれてたもの出来てるぜ!」

 

そう言って工房の奥に一度引っ込むと、布にまかれた細長いものを抱えて戻ってきた。

彼女は作業台の上にそれを置くと、布を解く。

その中から出てきたものは、今使っているブレードトンファーと手甲が一つになったような武器だった。

 

「いやぁ、俺も聞いた事ない武器だったから少し苦労したぜ。でもま、納得のいく物が出来たと自負できるぜ」

 

自信満々にそう言うスィーク。

私はその武器を腕に取り付ける。

通常は肘の方に刃が飛び出している仕様だが、特定の動きで刃が前方に展開する仕掛けとなっている。

 

「うむ、希望通りだ」

 

「へへっ!」

 

私の言葉にスィークは笑って鼻の下を指で擦る。

 

「しかし、鍛冶に夢中になることは仕方ないが、鍵も掛けずに眠りこけるのは不用心と言う他ないな」

 

「うぐっ……………!?」

 

スィークは気まずそうな表情をする。

 

「もし、悪漢にでも襲われたらどうする?」

 

少し脅すつもりで注意を促してみる。

 

「い、いいんだよ! 誰が俺みたいなガサツな男女を好き好んで襲う野郎が居るんだよ!?」

 

スィークはそう言って腕を組みながらそっぽを向く。

ふむ、彼女は自分の魅力を理解していないのだろうか?

 

「少なくとも私は君を魅力的な女性だと思っているが?」

 

私がそう言うと彼女は耳まで真っ赤にした。

 

「なっ!? 何言ってんだキョウジ…………!? お、俺が魅力的とか、馬鹿じゃねえの!?」

 

彼女は完全に後ろを向いてしまう。

やれやれ、怒らせてしまったかな?

元の世界ではアルティメットガンダムの開発で研究漬けの毎日だったからな………

女性と関わることは少なかったから、どう接していいのか。

母さんを除けば、精々レインと偶に会う程度だったからな。

 

「いや、すまない。怒らせてしまったようだな」

 

「あっ! いや、別に怒ったわけじゃ………! 嬉しかったし……………」

 

スィークは慌ててこちらを向いてそう言う。

最後の方は小声でよく聞き取れなかったが………

 

「と、とにかくこれからダンジョンだろ!? 用意するから少し待っててくれ!」

 

そう言われたため、工房の外で待つことにする。

十数分後にスィークが工房から出てきて、

 

「そんじゃ、行こうぜ!」

 

いつもの調子でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れるころ、ダンジョンから私達は戻ってくる。

 

「やっぱすげえなキョウジ! たった二人でここまで稼げる奴なんてそうは居ねえよ!」

 

今日の稼ぎを見て、スィークはそう言う。

少人数で稼ぐと言えば、ベル達もそうだがな。

 

「おっと、そうだ。 キョウジ、その武器の使い心地はどうだった? 細かい調整もするぜ」

 

そう言われ、私は少し考える。

問題と言うほどではないが、指摘したいところはいくつかあった。

しかし、ここで立ち話も何だ。

 

「…………スィーク、この後の予定は空いているか?」

 

「えっ? ああ、特に何もないけど………」

 

「よければ食事でも一緒にどうだ? その話はその時に」

 

「食事!? お、俺と一緒にか!?」

 

「ああ。無理に………とは言わないが」

 

「いや、いいぞ!! 全然大丈夫だ!!!」

 

何故かスィークは顔を赤くしながら私に詰め寄るように頷く。

 

「そ、そうか………ならば行こうか…………」

 

私はスィークを伴い、近くにある店に入る。

注文を済ませると、料理が出てくる前に武器の指摘箇所を話しておくことにする。

 

「スィーク、今日の武器の事だが……………」

 

「なるほど、じゃあここをこうすれば…………」

 

「ふむ、こちらはこうしたらどうだ…………」

 

「おっ、いいなそれ。ならこっちも…………」

 

「そちらはこうした方が………」

 

「いや、それなら…………」

 

武器について話し合っていると、時間が経っていたようで料理が運ばれてくる。

私達は話を切り上げ、食事をとる事にした。

 

「いやぁ、それにしてもキョウジは細かいところまでしっかりと指摘してくれるから助かるぜ!」

 

スィークが食事をしながらそう言う。

 

「む? そうか?」

 

「ああ。前に来た客なんて、『使いにくい。直せ!』なんて言うだけ言って物だけ置いていくんだぜ。せめて何処が如何いうふうに使いにくいか言ってけってんだ!」

 

「ははは、それは酷いな」

 

「だろ? それに対してキョウジはしっかりと重心の位置から振った時の感覚、使い心地から果ては刃の角度まで指定してくるからな。鍛冶師顔負けの拘りだぜ」

 

「いやすまない。元々研究肌なのでな。気になるところがあるととことん追求しなければ気が済まないのだ」

 

私は苦笑しながらそう言う。

 

「研究肌………? そういやキョウジって、オラリオに来る前は何をやってたんだ?」

 

スィークは首を傾けながら訪ねてくる。

 

「オラリオに来る前………か……………」

 

私は元の世界を思い出し、少し俯いてしまった。

 

「あっ、いや! 話したくねえなら構わねえよ! 誰にだって話したくない事の一つや二つあるさ!」

 

「いや、構わない。如何話したものかと思ってな…………」

 

私は何処まで話すべきかと考える。

正直、私自身スィークにはあまり隠し事をしたくないと思っている。

彼女の真っすぐな性格に好感を持っているからだろうか。

私は顔を上げ、

 

「私は元々、遠い国の生まれだ」

 

「遠く?」

 

「ああ。信じられないぐらい遠いところと思ってくれ」

 

「ん~………名前的には極東とかその辺か?」

 

「もっと遠い場所だ…………詳しくは言えない」

 

「そっか…………」

 

「そこで私は父さんと母さん、そしての弟の四人家族で暮らしていた」

 

「へ~、キョウジって弟居たんだ」

 

スィークはいい事聞いたとばかりに笑って見せる。

 

「………自惚れに聞こえるかもしれないが、私は昔から天才だとか神童などと言われてもてはやされていた。事実、私自身も他人よりも優秀だったと思える自覚はあった」

 

「おお、確かにそれっぽい!」

 

スィークはそれを聞いても嫌な顔はせず、笑って済ませている。

 

「私の父は故郷では有名な学者で、ある研究を行っていた。その背を見ながら育った私も、自然と学者の道を歩むようになっていた」

 

スィークは興味津々と言った表情で話の続きを促すように頷いている。

 

「いつしか私は、父の助手として研究の手伝いをするようになっていた。学者の世界で私の若さで父の助手をしたことは、正に偉業と呼ぶべきことだった」

 

「やっぱすっげぇんだな、キョウジって」

 

スィークは尊敬の眼差しで私を見てくるが、私は目を伏せる。

 

「だが…………自分でも気付かなかったが、私は余りにも優秀過ぎた………弟にとって私は尊敬する存在と同時に、コンプレックスになっていたようだ」

 

「あ~……ま~……すげえ奴の身内ってだけで色々と言われそうだからなぁ………」

 

「私はそれに気付けず、ある日十歳にも満たない弟は家を飛び出した」

 

「ぶっ!? じゅ、十歳以下で!?」

 

「後で聞いた話だが、とある武闘家の元に弟子入りしていたらしい。なんでも、何か一つでも私を超えてみたかったんだそうだ」

 

「は、ははは………すっげぇ単純な理由………」

 

スィークは苦笑する。

 

「その後も私は父の助手を続け、何年もかかってようやく父の研究が完成した。だが………」

 

私は一度言葉を区切る。

この先も話すべきかどうか一瞬迷ったが、真っすぐにこちらを見てくるスィークの目を見て大丈夫だと思い、話を続けた。

 

「新しい研究というものは、本来の目的の他にも利用価値がある物が多い」

 

「利用価値…………」

 

「ああ、代表的なのが…………軍事利用だ」

 

「ッ…………」

 

「世界の為にと父が完成させた研究成果に故郷の軍が目を付け、それを手に入れるために兵を送り込んできた」

 

「なっ!? マジかよ!」

 

「父さんは私に研究成果を託し、逃げろと言った。私はそれに従い、研究成果を持って逃げることにした。だが、その際に母さんが私を庇って………死んだ…………」

 

「キョ、キョウジ!? そ、そんなことまで話さなくてもっ………!」

 

「いや、いいんだ。君には知っておいて欲しかった」

 

「…………………」

 

スィークは一度押し黙ると、今まで以上に真剣に私の言葉に耳を傾け始めた。

 

「その場を逃げ果せた私だがとある地方に逃げ込んだ」

 

本来は地球だが、この世界の文明レベルでは理解できないだろうから、このような言い方をする。

 

「故郷の軍も追っ手を掛けたかったようだが、派手に軍を動かせば周辺諸国が黙ってはいない。その為、軍はある方法に出た」

 

「ある方法?」

 

「私を父の研究を奪った指名手配犯とし、父も共謀罪として投獄。他人との接触も一切禁じられた。真実を知る者の、口封じの為に」

 

本来は永久冷凍刑だがな。

 

「………ん? 不謹慎かもしれないけどよ、どうしてキョウジの親父さんは殺されなかったんだ? 口封じの為ならそっちの方が確実だろ?」

 

「それは私の追手として選ばれた人物が関係してくる」

 

「追手?」

 

「ああ。普通に軍の人間を動かせば国家間の問題になってくる。だが、その年はある武闘大会の開催の年だった」

 

「武闘大会?」

 

スィークは怪訝な声を漏らす。

恐らくたかが武闘大会と思っているのだろう。

 

「勿論ただの武闘大会ではない。私の故郷と周辺諸国では、国家間である条約が結ばれていた」

 

「条約………?」

 

「戦争を起こさない代わりに、その武闘大会で優勝した国が、その後数年間の主導権を握るというものだ」

 

「んなっ!?」

 

「いわば、犠牲者を出さないために代表者を出し、行う小さな戦争。それがその武闘大会だ。その為各国がある地方に代表者を集め、十一ヶ月に渡り生き残りをかけたサバイバルバトルが行われ、勝ち残った者が前大会優勝国で決勝リーグが行われる。そして、そのサバイバルバトルが行われる場所こそ、私が逃げ込んだ場所なのだ」

 

「……………」

 

スィークは唖然としている。

この世界の人間からしてみれば、武闘大会一つで国の主導権を争うなど理解不能だろう。

 

「故郷の軍は、その武闘大会の代表者を私の追手として送り込んだ。サバイバルバトルの最中なら、派手に動いても文句は言われんからな。そして、その追手に選ばれた人物こそ、何を隠そう修業を終えて戻ってきた私の弟だった」

 

「なっ!?」

 

「軍は、武闘大会に優勝したら父さんを釈放するという条件を出し、弟に武闘大会への参加を強要した」

 

「マジかよ…………ぜってーその軍の人間性格悪いだろ」

 

「弟は軍に言われるままに私を追った」

 

「で、でもキョウジの弟だろ!? しっかり話せば分かってくれたんじゃ………」

 

「あいつは根が素直な奴でな、軍に騙されていることに気付きもしなかった。更には父さんが投獄された事実を知って頭に血が上っていた。その時のあいつに何を言っても信じはしない」

 

私は同じことをドモンにも言ったなと思い出し、懐かしむ。

 

「それに父さんの命もかかっている。何としても弟を優勝させなければなかった私は、倒されていたある国の選手に目をつけた。その選手は覆面を被っておりその正体も謎に包まれていたため、私にとっては都合がよく、私はその選手に成り代わって弟を見守ることにした」

 

「覆面………って、まさか!」

 

「ああ。その選手こそ私が被っている覆面の男。本当のシュバルツ・ブルーダーだった」

 

「……………」

 

「正体を隠した私は時に助言し、時に立ちはだかり、弟の成長を手助けしていた。そして弟は無事に決勝リーグに勝ち残り、優勝は目前となった。その中で私は弟と戦った。最後は全力を出してな」

 

「あ……………」

 

「弟は私を超え、決勝のバトルロイヤルで己が師匠すら超え、優勝した」

 

「そ、そっか………よかったじゃないか、親父さんも助かったんだな」

 

「そのはずだ………」

 

「そのはず?」

 

「私はその決勝バトルロイヤルの最中に、弟に父さんの研究成果の破壊を頼んだ。この身と共に…………」

 

「ど、どういうことだよ!?」

 

「父さんの研究成果は、トラブルにより危険な物へと変貌してしまっていたんだ。私もその影響を受け、命が残り僅かのはずだった。その為最後の力を振り絞り、変貌してしまった研究成果の動きを止めると共に、弟に私諸共止めを刺すように言った」

 

「そ、そんな……………」

 

「弟は苦悩していたが、最後には私の願いを聞き届け、私を討ってくれた……………私が覚えているのはここまでだ。次に気付いた時、私は神ミアハのホームで保護されていた」

 

ふと見れば、スィークは涙を流していた。

いつもの強気な彼女からは、考えられない表情だ。

 

「何故君が泣く…………? スィーク」

 

「だ、だって………そんなの悲し過ぎるじゃねえかよ! キョウジは何にも悪い事はしてないのに、国の奴らに振り回されて! 弟と争うことになって…………最期には弟に自分を討ってもらうなんて…………! そんなのキョウジが可哀そうだ…………!」

 

スィークが私の為に涙を流してくれている。

それが私にはとても救われた気がした。

 

「ありがとう………スィーク」

 

「えっ………?」

 

「私の為に、泣いてくれたのだな………」

 

私は手を伸ばしてスィークの涙を拭う。

 

「キョウジ…………」

 

彼女は涙を拭った私の手を取り、自分の頬に押し付ける。

彼女は目を瞑り、私の体温を確かめるように暫くそのままでいた後目を開いた。

 

「決めたぜキョウジ。俺はキョウジを幸せにする」

 

「……………む?」

 

突然の言葉に私は意味が分からず声を漏らす。

 

「キョウジは今まで辛い目にあって来たんだ。その分幸せにならなきゃ釣り合わねえだろ?」

 

私はその言葉の意味をよく考え、結論を出す。

 

「…………スィーク。その言葉は“愛の告白”と受け取ってもいいのか?」

 

私がそう尋ねると、スィークは顔を真っ赤にする。

 

「あ…………うう………そ、そうだよ……………悪いか!?」

 

照れがあるのか、語尾が半ば投げやりになっている。

 

「いや、悪いという訳では無いが……………すまないが、その答えは少し待ってもらえはしないだろうか?」

 

「え?」

 

「先程も言った通り、私は研究一筋だったからな…………弟とその幼馴染の恋は応援したことがあるが、自分自身の事はよくわからんのだ。このような気持ちで君の想いに応えるのは失礼だと思っている」

 

「キョウジ…………」

 

「だから少し時間を貰いたい。しかし、必ず答えは出すと言う事は約束しよう」

 

「ああ、いいぜ。いくらでも待ってやるよ! でも、なるべく早くしねえと、俺の方が我慢できなくなるかもな?」

 

スィークはハハハと、いつも通りの気持ちのいい笑みを浮かべる。

私は、幸せになってもいいのだろうか?

その問いに答えるものは誰も居ない。

結局は、自分で自分を許せるかどうかだ。

彼女の笑顔を見ながら、私はそう思った。

 

 

 

 

 

 






第五十一話です。
最近出番の少なかったキョウジにスポットを当ててみました!
原作ではシルさんの出番でしたが、ネタが思い浮かばずいい案が無かったので省略(オイ
まあ、今回ばかりは批判も覚悟してます。
キョウジが恋愛ね………
書いといてあれだが想像できんな。
次回はヘスティアのターン。
アイズから正妻の座を奪えるか!?
それでは次回にレディー………ゴー!!



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