ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四十九話 ヴェルフ、人生の勝負をする

 

 

 

【Side ヴェルフ】

 

 

 

 

目の前の巨人が剛腕を振り上げる。

 

「だぁああああああああああっ!?」

 

「ひゃぁああああああああああっ!?」

 

その剛腕から逃げ惑う少女2人。

俺はそれを眺めながら言った。

 

「おーい。逃げてばかりじゃ成長しねーぞ」

 

「そ、そんな事いわれてもぉ!」

 

「これ無理! 無理だから!!」

 

逃げ惑う2人とはダフネとカサンドラ。

そして相対する巨人とは十七階層の階層主『ゴライアス』。

俺は二人に階層主を相手させていた。

途中までは春姫も参加させていたのだが、早々にヤバくなったため、すぐに助けて俺の横にいる。

因みにベルとリリ助の二人はもっと下の階層で荒稼ぎしている。

この戦闘の目的は、簡単に言えばダフネとカサンドラの成長の為だ。

ハッキリ言って、ベル、リリ助、俺の三人は戦力として突出し過ぎている。

その為パーティとしてのバランスが悪く、連携が取れないのだ。

なので、手っ取り早く成長させるための手段として、格上との戦闘を行わせているという訳だ。

だが、

 

「「ひぇええええええええっ!!」」

 

さっきから逃げ回るばかりで碌に戦おうともしない。

 

「しゃーねーなぁ………」

 

流石にゴライアスの相手は早かったかと思い、大刀を抜いて助けに入ろうとした時、

 

「………ふむ、手前もまぜてくれ」

 

聞き覚えのある声と同時にゴライアスの右腕が切り落とされた。

 

「…………何でこんな所に居やがる?」

 

俺は思わず問いかけた。

ゴライアスの右腕を切り落としたのは、俺の古巣【ヘファイストス・ファミリア】の団長でありLv.5の実力者でもある椿・コルブランド。

 

「なに、久々にダンジョンで暴れたくなってな」

 

「チッ………」

 

真意を見せない椿に舌打ちしながら、俺は先にゴライアスに向き直った。

 

 

 

 

 

大した時間を掛けずにゴライアスを倒した後、俺は再び椿に問いかけた。

 

「改めて聞くが、何で中層(こんな所)にいる? いや、何をしに来た?」

 

「先程も言ったであろう? 久々にダンジョンで暴れたくなったと。まあ、強いて言うならお主をからかいに来た」

 

「………………」

 

少し前の俺ならここで激昂するところだが、生憎今の俺はくだらない『意地』は捨てた。

だから今の言葉の意味をじっくりと考えることが出来た。

こいつは今、俺をからかいに来たと言った。

つまり、少なくとも目的があって俺に会いに来たということだ。

そして俺が知る限り、今このオラリオで俺が少なからず関係している問題とはラキア王国の侵攻。

ラキア王国は俺の出身地。

いわば故郷だ。

そんで落ちぶれたクロッゾの栄誉を取り戻すために、唯一魔剣が打てる俺に魔剣を打てと強要してきた。

それが嫌で俺は一族との縁を切って王国を飛び出し、このオラリオに来た。

別の【ファミリア】に移籍したそんな俺に、【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿が接触してきたとなれば、導き出される答えは一つ。

 

「……………親父か爺か………もしくはクロッゾの一族の誰かが俺を狙うためにオラリオに潜入したってところか」

 

「………なんのことやら?」

 

椿は知らないふりをしているが、僅かに眉が吊り上がったのを俺は見逃さなかった。

 

「俺を餌にしようって魂胆なんだろうが、余計な事はするな。身内の問題は俺が片をつける」

 

「ヴェル吉………お主、可愛げが無くなったのう」

 

「くだらねえ『意地』を捨てただけだ。俺は、俺の『誇り』を持ってベルの為に武具を打つ」

 

「そうか…………まあ、鍛冶師としては以前よりはマシになったか?」

 

「うっせ」

 

「ああ、そうそう………お主が出ていってから主神様が腑抜けておってのう。寂しそうにしておるぞ?」

 

ヘファイストス様の事を言われ、内心動揺してしまう。

 

「………嘘つけ」

 

「さてな」

 

椿はそう言うと踵を返す。

 

「ではまたな、ヴェル吉」

 

「もう来んな!」

 

最終的に椿のペースに引きずり込まれてしまった俺は声を荒げた。

椿はクククと笑うと立ち去っていった。

 

 

 

 

その後、下層から戻ってきたベルとリリ助と合流し、俺達は地上へと戻った。

その道中、

 

「す、凄い量ですねクラネル様、アーデ様………」

 

春姫がリリ助が背負っている最大級に大きなバックパックに魔石やらドロップアイテムやらがギッチリと詰まっている光景を見て唖然としている。

 

「こ、これだけの量をたった二人で………?」

 

「あまり時間も経ってなかったよね………?」

 

ダフネとカサンドラも絶句するぐらいだ。

 

「それにしても、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』は絶景だったね」

 

そんな三人を他所に、ベルはあっけらかんと下層の感想を述べる。

 

「その『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の滝壺に向かって普通に飛び降りたベル様が言いますか? 背負われてた私もビックリしましたよ」

 

「滝壺に向かって飛んだって………」

 

「リリさんもビックリしただけなんですね………」

 

「も、もちろん直接滝壺には飛び込んでないよ!? 途中の岩場を蹴ってちゃんと通路に着地したし………」

 

焦った表情でベルが弁明するが、

 

「ベル様、普通の冒険者はそんな事しません」

 

「………そ、そう言えば途中で変なモンスターに出会ったよね」

 

ベルはあからさまに話題を変える。

 

「変なモンスター?」

 

俺が問いかけると、

 

「う、うん。緑色をした巨人で木の根を鎧みたいに纏った変なモンスターだったよ」

 

「おそらくモス・ヒュージの『強化種』ですね。何か種みたいな弾丸を飛ばしてきましたが…………」

 

「直接触るのはヤバそうだったから、拳圧で全部叩き落して最後は十二王方牌で倒したけど」

 

「そこまで強化されていなかったのは幸いでしたね。ベル様ならともかく、外の冒険者が襲われてたら大分苦戦したと思いますよ」

 

「そう言えば弾丸を叩き落した時点で逃げようとしてたよね?」

 

「ええ。撤退を考えられるほどに知恵を付けたモンスターでした。あのままほっといたら更に強化されて被害も大きくなっていたと思います」

 

「そうか………」

 

「………ヴェルフ、何かあった?」

 

ベルの言葉に一瞬言葉に詰まった。

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「ちょっといつもと雰囲気が違うから………」

 

俺は思わず頭をガジガジと掻く。

ベルには気付かれるか………

 

「ま、ちょっとな…………すぐにケリつけるから心配すんな」

 

俺はそう言って先を急いだ。

 

 

因みに今日の成果は一千万ヴァリスを超えていた。

 

 

 

 

ダンジョンを出て、俺は別行動を取る。

理由は先程から感じる視線。

明らかに俺を見ている気配。

俺は人気のない路地裏に進むと、

 

「いい加減出てきたらどうだ?」

 

俺がそう言うと、一瞬動揺した気配がした後建物の影からよく見知った顔が現れた。

 

「気付かれていたか………」

 

「やっぱりてめえか………親父」

 

その人物は、俺の実の父親、ヴィル・クロッゾ。

 

「久し振りだな………ヴェルフ」

 

「何でアンタがここにいる………? なんてことは聞かねえよ、いくらオラリオとはいっても、いくらでも穴はあるだろうからな…………目的は俺………いや、魔剣を打てる能力だろう?」

 

「ッ…………分かっているなら話は早い。ヴェルフ、我々の為に魔剣を打て」

 

「……………」

 

親父は予想通りの言葉を発する。

 

「王国は今危機を迎えている。アレス様を蔑ろにして客将である筈の老害に皆の心が奪われている。その危機を脱するために魔剣が必要なのだ!! アレス様はお前の………魔剣を打つ力の獲得に成功したら、莫大な栄誉を約束してくださった! だから打てヴェルフ!! 我らの為の魔剣を!!」

 

親父の言い分にムカムカしてくるが、それよりも俺は気になることがあった。

 

「おい親父。今老害つったが、もしかしてその老人は、東方不敗 マスターアジアって言うんじゃねえのか?」

 

「貴様は奴を知っているのか!?」

 

その言葉で確信した。

 

「ククク…………そうか………マスターが居るんじゃアレス様如きじゃ皆の心が離れてくのは当然だよなぁ」

 

思わず笑いが込み上げる。

今のオラリオ侵攻はマスターがラキア軍に居るって事か………

あの方が相手に居るんじゃオラリオの冒険者が苦戦するのは当たり前だな。

 

「おい親父、先に言っておくが、例え魔剣があったとしても、状況は何も変わりゃしねえぞ」

 

「な、何だと!?」

 

「あの方に比べれば、俺の魔剣なんか児戯に等しい。拳一つでかき消されて終わりさ」

 

「で、出鱈目を言うな! 昔、我ら一族を栄光へと導いた魔剣は最強だ!」

 

「別に信じねえならそれでもいいさ。どっちにしろ俺はアンタに付いて行くつもりはこれっぽっちもねえ」

 

「お前が同伴を拒んだら、都市に侵入した同志が『魔剣』で街に火を放つ手筈になっている。無論『クロッゾ』のな」

 

親父は表情を変えずに言った。

 

「嘘を吐くな。王国に『クロッゾの魔剣』は残ってねえ筈だ」

 

「いや、存在する。『精霊』に呪われた際、破壊を免れた五十振りが」

 

「…………………」

 

「王国は残された祖先の『魔剣』を失うことを恐れ、使うことは無かったが………」

 

親父は外套の腰に手を回すとそれを引き抜いた。

 

「証拠に、見ろ」

 

「……………!」

 

血が騒めく。

その剣が紛れもなく『クロッゾの魔剣』だと血が教えてきた。

 

「残る『魔剣』は同志達が持っている。私が合図を出すか、あるいは戻ってこなければ、オラリオの至る所でその力が解放されるだろう」

 

俺は一度ため息を吐く。

そして、

 

「いい加減にしてくれ」

 

俺が呟くと同時に親父の死角から閃光が放たれた。

親父の手から『魔剣』が弾かれ、宙を舞う。

 

「なっ!?」

 

今親父を撃ったのは、親父が出てくる前にあらかじめ唱えておいたローゼスビットだ。

更に空中に舞う魔剣に対し、俺はローゼスビットに指示を送る。

無数のローゼスビットが魔剣の四方八方を取り囲み、

 

「砕けろ」

 

俺の合図と共に同時に光線を放ち、魔剣を粉々に砕いた。

魔剣の破片がパラパラと落ちてくる。

 

「き、貴様………っ!」

 

「俺は行かねえ。そう言ったはずだ」

 

「お、おのれ、こうなれば力尽くで………!」

 

親父は手を上げて合図を出す。

多分隠れてる仲間が出てくる手筈だったんだろうが………

次の瞬間にはドサドサとボロボロになった兵士が吹き飛んできて親父の後ろに折り重なった。

 

「ななっ!?」

 

「ハァ…………心配するなって言ったんだがなぁ………」

 

俺は溜息を吐くが、同時に嬉しさも感じ、思わず口元が綻ぶ。

 

「ごめんねヴェルフ。どうしても気になったからさ」

 

上から飛び降りてきたのはベルだった。

傍らにはリリ助の姿もある。

更には親父を取り囲むように【ヘファイストス・ファミリア】の面々が。

 

「身内の問題は俺が片を付けるって言ったはずだぞ」

 

俺はその中にいた椿に言った。

 

「悪いが、こちらも仕事なのでな」

 

「チッ!」

 

俺は親父に向き直ると、

 

「観念しなさい。もう逃げ場はないわ」

 

「か、神ヘファイストス!?」

 

親父がヘファイストス様の登場にたじろいでいる。

すると、

 

「い、いいのか!? 私に何かあればオラリオが火の海に………」

 

「さっきの一振りしか『クロッゾの魔剣』は無いんだろう?」

 

俺の言葉で親父が絶句する。

 

「流石に五十振りは盛り過ぎたな。十振り程度ならまだ信憑性はあったが、『精霊』が五十振りも魔剣を見逃すはずがない」

 

「グッ…………!」

 

「この際だから言っておくぞ親父。アンタが鍛冶に対して何を求めているかは知らねえ。金か、名誉か。それとも別の何かか……………それが何であれ俺は別に否定はしねえ………だがな」

 

俺は一呼吸置き、

 

「アンタの考えを俺に押し付けるのは止めてもらおうか! アンタはアンタの剣を打てばいい。俺は俺の剣を打つ! 魔剣を打つ力は俺のもんだ! この力を何に使うかは俺の勝手だ!」

 

「黙れ! そんな事はお前に魔剣を打つ力が宿っているから言える言葉だ!! その力が私にあれば今頃っ………!」

 

「俺を言い訳に使うなっ! 何故その手で魔剣を超える剣を生み出そうとしなかった!? 鍛冶師の誇りは何処に行った!?」

 

「人の力が『精霊の力』に届く筈が無かろう!」

 

「いいや、届く!」

 

「戯言だ! それは貴様の『意地』から出てくる綺麗ごとだ!!」

 

「そんな『意地』はもう捨てた!! 人の力は『精霊』に………いや、『神』にすら届く!!」

 

「まだ言うか!?」

 

「ベルがそれを証明してくれた!!」

 

「ッ!?」

 

「ラキアにも情報が届いているはずだ。五振りの魔剣を切り裂いた男の話が」

 

「それは貴様が更なる魔剣を打ったからだろう!?」

 

「あれは魔剣じゃねえ!」

 

「なんだと!?」

 

「あれは使い手の気の力を剣の形に留めるものだ。魔剣の猛攻を凌ぎ切ったのも、城を切り裂いたのも、全てはベルの力だ。だったら、鍛冶師の武具にも同じことが出来ない道理はない!!」

 

「…………………」

 

「俺は全てを賭けてベルに見合う武具を作って見せる。それが俺の『誇り』だ」

 

俺は自分の思いをぶちまけると、

 

「居るんだろ? 爺………」

 

そう呟いた。

建物の影から老人が現れる。

その老人はガロン・クロッゾ。

俺の祖父にあたる人物だ。

 

「今言ったことが俺の選択だ。俺の事は諦めな」

 

「…………そのようだな」

 

爺は意外にもあっさりと頷いた。

 

「父上、それでは………王国に私達の居場所は、もう………」

 

親父が爺の決定に膝と手を地面に付ける。

 

「やり直しだ。鍛冶貴族としてではなく、『鍛冶師』として」

 

爺は俺の顔を見た。

 

「人の力は『神』にすら届く………か………本気でそう思っているのか?」

 

「思っているんじゃねえ。俺は実際に目にしたからな」

 

俺はベルを見る。

すると、爺もベルを見つめるとヘファイストス様に歩み寄った。

 

「投降します、神よ。責任はこの老いぼれに。どうか他の者には慈悲を」

 

「…………わかったわ。受け入れましょう」

 

ヘファイストス様もその降伏宣言を受け入れた。

親父や爺達が捕縛されていくのを見て、何とも言えない気持ちになってくる。

 

「ヴェルフ………」

 

ベルが心配そうに声を掛けてくる。

 

「悪い、暫く一人にしてくれねえか?」

 

ベルは頷き、リリ助と一緒に立ち去っていった。

 

 

 

 

俺はすっかり夜も更けた中央広場で夜空を見上げていた。

すると、気配が近付いてくる。

 

「ここに居たのね」

 

ヘファイストス様だった。

 

「ラキアの兵士達はギルドに引き渡したわ。今は侵入経路なんかを聴取してる。内通者は戦争を起こすことを条件に彼らを都市に入れたみたい。特需が目的だったのか、他に狙いがあったのかは分からないけど………」

 

「………………」

 

「ギルドはラキアに身代金を求めているそうよ。応じなかったとしても、暫くしてから兵士たちは野に放つらしいわ」

 

「…………教えていただき感謝します」

 

俺は静かに頭を下げる。

すると、

 

「ヴェルフ、あなたは(こども)の力は(わたしたち)に届くと言っていたわね? 今でもそう思ってる?」

 

「…………はい!」

 

俺は迷わずに頷く。

 

「フフッ、確かにね。ベル・クラネルが使っているあの光の剣。あれは素晴らしいと思うわ」

 

「………あれは鍛冶師としては失敗作です。余りにも使い手の力に左右され過ぎる」

 

「あら? 使い手が武器の力を左右するのは当然じゃないかしら?」

 

俺は首を横に振る。

 

「あれの刀身を形作っているのは全て使い手の………ベルの力なんです。ただ俺は、ベルの力を剣の形に留めるようにしただけ…………俺の鍛冶師としての力なんて、ほんの少ししか使っていない」

 

「……………それ自体が凄い事なんだけどね………」

 

ヘファイストス様は呆れたように溜息を吐く。

 

「例えそうだとしても、私はあの剣を認めるわ。あれはあなたがベル・クラネルの為に打った剣。使い手に合うようにあなたが試行錯誤し生み出した、ベル・クラネルにとっての最強の剣。使い手に合う武具を作るのも、鍛冶師の大切な力。例え私がベル・クラネルの為に剣を打ったとしても、あれだけの力を引き出せる剣は作れなかった。だから私はあの剣を認めるわ」

 

「ッ……………!?」

 

認められたことが嬉しくて、思わず涙が出そうになった。

 

「流石に私が一目置いていただけの事はあるわね。もし私を認めさせるほどの作品を持ってきたなら、何か褒美を取らせようと思っていたんだけど、もう私の【ファミリア】じゃないし…………残念だったわね?」

 

俺は思わずその言葉に食いついた。

 

「それは今でも有効ですか!?」

 

ヘファイストス様に詰め寄る。

 

「えっ?」

 

「あなたがあの剣を認めたと言うのなら、褒美は貰えるのかって聞いてるんです!」

 

「え、ええ………何か欲しいものでもあるの?」

 

押した甲斐があり、了承させることに成功する。

 

「ならっ、俺と付き合ってください!!」

 

勢いのままにそう口走った。

後悔は無い。

ただドクンドクンと心臓の音がうるさく感じる。

俺の一世一代の告白に対し、ヘファイストス様は呆気にとられた顔をした後、

 

「………………プッ」

 

口を押え、噴き出した。

 

「ひ、人の決意を…………!?」

 

「うふっ、うふふふふっ………!? ごめっ、ごめんなさいっ、でもっ、おかしくって………!」

 

涙の溜まった左目を拭うと、

 

「昔にもいたのよ。私に認めさせることが出来たら自分と付き合ってくれって言ってきた鍛冶師達が」

 

それを聞いてもやっとした感じが胸の中に広がる。

 

「でも、それが叶った子は今まで一人もいないわ」

 

それを聞いてホッとする。

 

「なら、俺が初めての男って事っすね?」

 

俺がそう言うと、ヘファイストス様はクスリと笑い、

 

「まあ、私と付き合う云々は置いておいて、貴方も早くいい伴侶を見つけなさい」

 

「は?」

 

ヘファイストス様から出てきた言葉に、思わず固まる。

 

「少し頑固だけど、貴方ならきっといい子が見つかるわ」

 

「ま、待ってください、俺は冗談なんかじゃあ………!」

 

「ヴェルフ、永遠を生きる私達に纏わりつかれたって、損をするだけよ? 家庭なんてものも作れないしね」

 

慌てる俺をヘファイストス様は笑みで躱す。

 

「それに私は女として失格」

 

そう言うと、右目を覆う漆黒の眼帯に手を触れた。

 

「この下にはね、貴方がびっくりするぐらい醜い顔が広がってる」

 

「………………!」

 

「不思議でしょ、神なのに。私も散々思ったわ。天界では他の神に嫌厭されたし、笑われた。この眼帯の下を見て、笑ったり不気味がったりしなかったのはヘスティアぐらい。あの子達も怯えた。だから、私なんかは止めておきなさい」

 

笑いかけてヘファイストス様は背を向けた。

そのまま歩き出して遠ざかっていく。

このまま見えなくなれば、あの女神(ひと)は二度と手の届かないところへ行ってしまう。

そう感じた俺はすぐに女神の後を追った。

右手でヘファイストス様の肩を掴んで強引に振り向かせ、左手を迷わずに眼帯へと伸ばす。

 

「ちょ、ちょっとっ」

 

ヘファイストス様の抗議の声を無視し、俺は眼帯を外した。

ヘファイストス様はその場で立ちつくし、俺は女神の両眼を見つめ、同時にその素顔を目にした。

その感想は、

 

「拍子抜けですね、ヘファイストス様。この程度で俺を遠ざけられると思っていたんですか?」

 

俺は自信を持って言う。

 

「あなたに鍛えられた(おれ)の熱は、こんなものじゃ冷めやしない」

 

俺はヘファイストス様の顎を持ち上げると、衝動のままに口付けた。

 

「ッ!?」

 

ヘファイストス様は目を見開いて驚いている。

かくいう俺も、以前の俺ならこんなことは出来なかったのだろうが、あのジャック・イン・ダイヤの持ち主の経験からこうするべきだと突き動かされ、思わずやってしまった。

でも、後悔は無い。

俺はヘファイストス様から離れると、

 

「もう一度言います。俺と、付き合ってください!」

 

ヘファイストス様は頬を赤く染めながら、

 

「神の唇を奪うなんて…………不敬どころじゃないわよ」

 

「付き合ってしまえば問題ありません」

 

「言ってくれるじゃない」

 

「………それでヘファイストス様、答えをお聞かせください」

 

「……………少なくとも、唇を奪った責任は取ってもらわなきゃね」

 

ヘファイストス様が顔を寄せてくる。

 

「勿論です」

 

俺達は再び唇を合わせた。

 

 

 

 

 






第四十九話の完成。
……………今回もやっちまった感が半端ねえ!
むしろ今までで一番かも!?
調子乗って書きまくってたらヴェルフがヘファイストス様と付き合うことに!
賛否両論間違いないな………
因みにヴェルフ父&爺がオラリオに来た理由はアレス様の独断なんで師匠は関係ないです。
ともかく次回にレディー………ゴー!!


P.S
今回は時間が無くなってしまったので返信はお休みします。
申し訳ありません。

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