ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四十二話 ベル、聞き出す

 

 

 

 

【Side ヘルメス】

 

 

 

 

「ああ…………困ったことになった…………」

 

夜の街を歩きながら俺は呟いた。

 

「まさかイシュタルがベル君に興味を持つとは…………」

 

フレイヤの弱みが無いか聞かれたとき、弱みというほどではないがフレイヤに【魅了】されなかったベル君の事を無理やりに聞き出されてしまった。

それでフレイヤに【魅了】されなかったベル君を自分が【魅了】して見せれば『美の神』としてフレイヤより上に立つことが出来るとイシュタルがやる気になってしまったのだ。

 

「ああ………拙いなぁ………」

 

力尽くでベル君を如何こうできるとは思っていないが、間接的にも自分の所為でベル君に迷惑が被った事を知れば、自分にも少なからず報復………というか罰が下されるだろう。

 

「本当にどうしよう…………?」

 

その時、何処からともなく声が聞こえた。

 

『………メ……ま………!』

 

「ん?」

 

僕は周りを見渡す。

 

『ヘ………スさ………!』

 

そして大通りのはるか向こう側、その先から感じるひしひしとしたプレッシャー。

 

『ヘルメス様………!』

 

声が徐々に大きくなり、俺の背中に冷たい汗が流れる。

 

「ヘルメス様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

そこから現れるのは、兎の皮を被った武闘家。

 

「ヘルメス様、見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

件の中心人物であるベル君が一直線に俺に向かってきた。

も、もしかして既にイシュタルに絡まれて、その情報源が俺だということがバレたんじゃ…………

そ、それならここは思い切って………

ベル君が俺の両肩を掴んできた瞬間、俺は全力で謝った。

 

「わぁあああああああああっ!! ごめんよベル君っ!! 悪気は無かったんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ヘルメス様っ!! 娼婦の『身請け』について詳しく聞かせてくださいっ!!!」

 

でも、

 

「「………………えっ?」」

 

話の食い違いに俺達は同時に声を漏らした。

 

 

 

 

 

落ち着いた後にベル君から話を聞くと、

 

「なるほど………タケミカヅチの子供達の知り合いが娼婦にね………で、ベル君はその子と実際に会ってその子を助けたいと思った。だけど無理矢理に連れ出すのは色々と問題があるから、その子を『身請け』して助け出したいと」

 

「はい。ヘルメス様ならその辺り詳しいんじゃないかと思って………」

 

「なるほど………それにしても、俺ってそんなに『歓楽街』で遊び惚けているように見えるかなぁ………?」

 

それはちょっと心外だけど。

 

「いえ………ヘルメス様と会ったのが『歓楽街』でしたから。あと、僕の男の知り合いで娼婦に詳しそうなのはヘルメス様以外に思いつかなかったので………」

 

確かにベル君の知り合いは女性が多いね。

それも見た目麗しい娘ばかりだ。

 

「まあいいか。それよりも『身請け』にかかる金額だったね? 娼婦の位にもよるけど、相場は二、三百万と聞くかな?」

 

「三百万………」

 

ベル君は口元から笑みを浮かべており、握り拳を作っている。

普通の下位【ファミリア】にとっては厳しい金額だろうけど、今の【ヘスティア・ファミリア】なら上手くやれば一回の探索で稼げる金額だろう。

 

「ヘルメス様! ありがとうございます!」

 

光明が見えたためか、ベル君は嬉しそうにそう言う。

だから俺はもう少しお節介を焼くことにした。

 

「ベル君。良ければその娘の事を教えてくれないかな? 俺もイシュタルに探りを入れて力を貸せるかもしれない」

 

「ありがとうございます。彼女は春姫と名乗っていました。命さんと同じぐらいの年齢で、種族は狐人(ルナール)です」

 

俺はそれを聞いた瞬間、思わず動揺してしまった。

 

「………狐人(ルナール)

 

「ヘルメス様?」

 

俺の動揺を悟られたのか、ベル君が怪訝そうな表情をした。

だけど、もし『あれ』の目的がベル君の言う彼女なのだとしたら、なんて残酷な…………

そして気付けば、俺の口から言葉が漏れ出していた。

 

「…………これは俺の信条に反するんだが………ベル君と『歓楽街』で会った昨日、俺は運び屋の依頼を受けて、イシュタルのもとにある荷物を届けに行っていた」

 

「ある荷物………?」

 

「運び屋として依頼主や荷物の情報を明かすのは御法度、失格もいいところなんだけど………俺は君を贔屓している、話しておくよ」

 

俺の言葉にベル君は不思議そうな顔をしている。

 

「俺が届けたのは、『殺生石』というアイテムだ」

 

「殺生、石…………?」

 

聞き覚えが無いのかベル君は首を傾げる。

 

「俺が言えるのはここまでだ。じゃあね、ベル君」

 

俺はそう言ってその場を立ち去る。

まったく、(オレ)が言う事じゃないが、世界はベル君に厳しいね。

俺はそう思いながら夜のオラリオを歩いた。

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

ヘルメス様が立ち去り、僕はホームへの帰路を歩いていた。

それよりも、去り際に言った『殺生石』というアイテムの事。

ヘルメス様は人をおちょくりはするけど、全く意味の無い言葉とは思えない。

あのタイミングで言い出したということは、おそらく春姫さんに関係すること。

『殺生石』というものがどういう物かは分からないけど、碌なものではないんだろう。

僕はそう考えながらホームの玄関を潜る。

 

「ただいま帰りました」

 

「やあ、遅かったねベル君。修業に身が入り過ぎていたのかい?」

 

神様がそう言ってくる。

 

「いえ、そうではありませんが………すみません。皆を集めてもらって良いですか?」

 

「?」

 

僕の言葉に神様は首を傾げた。

 

 

 

「それで? 全員を集めて何の話だい?」

 

ダフネさんが開口一番にそう言う。

 

「はい…………昼間に話したと思いますが、【タケミカヅチ・ファミリア】の皆さんの知り合いである春姫さんの事です」

 

「ああ………狐人(ルナール)の娼婦の………」

 

「はい。悩みましたが……………僕は春姫さんを助けたいと思います!」

 

僕は自分の意思をはっきりと口にした。

その言葉に、その場の空気が張り詰めたことを感じる。

 

「……………ベル様、分かっていると思いますが、他【ファミリア】の構成員を連れ出すことはお勧めできません。全面衝突になっても負けることは無いと思いますが、その場合の非はすべてこちらにあります。ギルドからのペナルティもあるでしょうし、十億の借金もある今、【ファミリア】の解散にも繋がりかねません」

 

リリが僕と同じ可能性を危惧する。

 

「うん、それは分かってる。だから、正攻法で春姫さんを助けようと思ってる」

 

「正攻法…………ですか?」

 

カサンドラさんが首を傾げた。

 

「はい。今回の事は、春姫さんが娼婦である事が有利に働きます」

 

「娼婦である事が有利?」

 

「あまり褒められた方法ではないと思いますが…………春姫さんを『身請け』しようと思います!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

僕の言葉に全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「ヘルメス様に聞いたところ、『身請け』に掛かる金額は約三百万との事です」

 

「『身請け』………なるほど、その手がありましたか………しかしベル様、十億という借金がある以上私達にお金を貸してくれる所はないでしょう。そうなると、直接ダンジョンで稼ぐ必要があります」

 

「なんだったら、また俺が『魔剣』を打っても良いが?」

 

リリに続いて、ヴェルフがそう言った。

でも、僕は首を横に振った。

 

「いや、いいよ。これは僕の我儘みたいなものなんだ。そのためにヴェルフの信条を何度も曲げるわけにはいかない」

 

そう言うと、ヴェルフはやれやれと肩を竦める。

 

「それに今の僕達だったら三百万ぐらいならすぐに稼げると思うし………まあ、ある程度深い階層に潜らなきゃいけないとは思うけど」

 

「金額については余裕を持って五百万ぐらいは用意しておいた方が良いと思います。たとえ余ったとしてもその分は借金返済に回せばいいのですから無駄にはなりません」

 

そのまま僕達はどの様にしてお金を稼ぐか話し合おうとしたけど、

 

「ちょーーーーーーーっとまったぁっ!! 何君達はとんとん拍子に話を進めようとしているのさ!? だいたい『身請け』だって!? そんな不埒な事このボクが許すとおもっているのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

突然神様が叫んだ。

 

「だけどヘスティア様。その方法が一番後腐れ無いと思うんだけど?」

 

ダフネさんがそう言う。

 

「む…………?」

 

「ベ、ベルさんなら………こ、困ってる人は見捨てられないと思いますし………」

 

カサンドラさんも便乗する。

 

「むぅ…………?」

 

「ハッキリ言えばベル様がこういう判断を下されることは予想済みです。『身請け』という方法を選んだのは予想外でしたが…………」

 

リリが畳み掛け、

 

「むぐぐ………!」

 

「それに『身請け』って言ってもベルの事だから形式上だけだろ? その娘が自由になったら知り合いの【タケミカヅチ・ファミリア】の方に行くんじゃねえのか?」

 

最後にヴェルフの言葉が止めになったのか、

 

「…………………あ~~も~~~! 分かったよ! ここで駄々をこねたらボクが悪者じゃないか!」

 

神様も最終的には認めてくれたみたい。

 

「ありがとうございます。神様」

 

僕は神様にお礼を言う。

 

「全く、君は少し位自重を覚えた方がいいよ。でもまあ、それこそがベル君だと言えるんだけどね?」

 

「あはは…………」

 

神様の言葉に、僕は苦笑した。

と、そこで僕は気になっていたことを口に出した。

 

「ところで神様、『殺生石』というアイテムをご存知ですか?」

 

「『殺生石』? う~ん…………悪いけど聞いた事ないなぁ…………」

 

僕は皆にも視線を配り、問いかけるけど、皆は知らないと首を横に振った。

 

「そうですか…………」

 

「そのアイテムがどうかしたのかい?」

 

「いえ、ヘルメス様に春姫さんのことを教えた時、意味ありげにその『殺生石』を依頼でイシュタル様に届けたということを口走りまして…………おそらく春姫さん………いえ、狐人(ルナール)に関係するアイテムだとは思うんですが………」

 

「なるほど………ヘルメスはああ見えてかなりの情報通だからね。何か知っていても不思議じゃないか………」

 

神様も春姫さんと『殺生石』の繋がりを示唆する。

 

狐人(ルナール)に関してはボクよりもタケの方が詳しいだろうから、明日またタケの所に行ってみようか。命君の結果も知りたいしね」

 

「わかりました」

 

とりあえず大まかな方針は決まった。

でも、もし何らかの理由で『身請け』が出来なかったとしたら…………

その時は…………実力行使も辞さないだろう。

僕は密かにその覚悟も決めていた…………

 

 

 






第四十二話です。
繋ぎ回なので短い上に盛り上がりが無いですね。
特に特筆するところも無し。
未熟者ですみません。
ともかく次回にレディー………ゴー!!

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