ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四十話 ベル、悩む

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

僕とアイズさんの事故を目撃した狐人(ルナール)の少女が突然奇声を上げて気絶してしまい、僕とアイズさんは呆気にとられる。

とりあえずそのままほっとくのも心配だったので、部屋の中にあった布団にその少女を寝かせ、起きるのを待った。

 

 

暫くすると、

 

「もっ、申し訳ありません!!」

 

僕達の前で狐人(ルナール)の少女が頭を下げていた。

 

「ま、まさかただの事故であのような状況になっていただけとは………!」

 

「あ、いや…………まあ……………」

 

その言葉でその時の状況を思い出し、僕は顔を逸らす。

が、

 

「………………………ん」

 

逸らした先で顔をほんのりと染めるアイズさんを目撃してしまい、更に気まずくなる。

 

「いきなり天井から落ちてきた上に、そちらの女性も娼館では見覚えの無い方だったので不思議に思ったのですが………」

 

いや、そこまで思ってるのなら違うと判断できるでしょう?

 

「…………あの、わたくし、春姫と申します。貴方様方は………」

 

「あ………僕はベル・クラネルといいます」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン………」

 

彼女の自己紹介に僕とアイズさんも名乗り返す。

 

「ではクラネル様、ヴァレンシュタイン様は、どうしてこんな所に?」

 

小さく首を傾げる春姫さんに僕は何故かここまでの経緯を話してしまう。

多分、春姫さんは大丈夫だという確信があったんだろう。

 

「それは………大変でございましたね」

 

話し終えるとやはり彼女は態度を変えることはなく、むしろ同情するような表情を浮かべた。

 

「アマゾネスの方々と申しますと………アイシャさん達でございますか?」

 

「アイシャさんの事を知ってるんですか?」

 

彼女から出てきた名前に僕は思わず聞き返してしまう。

 

「はい。わたくしはアイシャさんによく面倒を見てもらっています」

 

その言葉に、失礼ながらあの女傑のアイシャさんが面倒を見ている姿が想像できなかった。

すると、窓の外が騒がしくなってくる。

僕が気配を断ちながら障子の窓をそっと開け、外の様子を伺うと、複数のアマゾネス達が何かを探しているような動きで駆け回っている。

聞こえてくる声からして、どうやら僕とアイズさんを探している様だ。

 

「少し長居し過ぎましたね。アマゾネスの人達が僕達を探しているようです」

 

僕は障子を閉めるとアイズさんにそう言う。

 

「…………強行突破?」

 

アイズさんはやや物騒な事を言うけど、こっそり出ようとしてもあれだけの数だと見つかる可能性が高い。

 

「あまり他の【ファミリア】とは事を荒立てたくないんですけど………」

 

最悪はそれしか無いかなと思っていると、

 

「それでは時間になりましたら、わたくしが抜け道までご案内いたします。娼館の営業時間寸前までここに隠れていれば、きっと見つかりません」

 

「えっ? いいんですか?」

 

「はい。一夜限りの出会いでございましょうが………春姫は、クラネル様のお力になりとうございます」

 

詫びも兼ねてと口にするけど、彼女からは純粋な善意と献身を感じた。

 

「あ、でも、これが見つかったらすぐに居場所がバレるんじゃ………」

 

僕は天井に空いている穴を見上げながらそう言うと、

 

「その際はお二方には隠れてもらって、わたくしが既に逃げ出したと言えば問題ないと思います」

 

あ、そっかと僕は内心で納得する。

 

「それにその………はしたない打算もあるのでございます」

 

「はっ?」

 

「約束のお時間が来るまで………わたくしとお話しませんか?」

 

頬を染めて、勇気を振り絞るように春姫さんはいじらしく尋ねてくる。

その姿が微笑ましくて、僕は苦笑しながら頷いた。

 

 

春姫さんが尋ねてくる質問に、僕は一つ一つ答えていく。

僕の生まれた村の話から始まり、オラリオに来た理由。

逆に春姫さんが極東の出身だということや、貴族の家の生まれだということも聞いた。

まあオラリオに来た理由が、家を勘当されて、客人の小人族(パルゥム)に引き取られた挙句、モンスターに襲われて殺されそうになったところを盗賊に助けられて、オラリオに売られたという怒涛の展開だったことには吃驚したけど………

勘当された理由の、神様へのお供え物の神饌を食べてしまって勘当されたってところまでは、多分客人の小人族(パルゥム)の策略だったんだろうな~と苦笑しつつ聞いていた。

娼婦として売られた話の中に、このオラリオにとっての歓楽街の必要性というものも出てきた。

その話の中でアイズさんから厳しい視線を感じていたため、僕は空返事をすることしか出来なかったけど…………

知らなかったオラリオの一面に、僕は少なからず衝撃を受けた。

その後に、春姫さんも英雄譚などの物語が好きだということが分かり、大いに盛り上がった。

だけど、

 

「わたくしも本の世界の様に、英雄様に手を引かれ、憧れた世界に連れ出されてみたい………そう思っていたときもありました」

 

目を瞑りながら微笑むその姿は、少し儚げに思えた。

そして、

 

「………なんて、ただのはかない?夢物語でございます。連れ出してもらえる資格は、わたくしにはございません」

 

「そっ、そんなことっ!」

 

自傷気味に続けられたその言葉に、僕は思わず口を挟む。

 

「英雄は、春姫さんみたいな人を見捨てない! 資格が無いなんて、あるわけない!!」

 

声を荒げてそう叫ぶように言う。

すると、彼女は微笑み、

 

「きっと物語の英雄様も、クラネル様のようにお優しいのでしょう………けれどわたくしは、可憐な王女でもなければ怪物の生贄に捧げられた哀れな聖女でもありません」

 

そして笑った。

 

「わたくしは娼婦です」

 

まるで僕は突き放されたかのような錯覚に陥った。

 

「未熟ではありますが、わたくしは多くの殿方に体を委ね、床を共にしています」

 

「……………………」

 

「意思を持って貞淑を守るわけでもなく、お金を頂くために春をひさいできました……………そんな卑しいわたくしを………どうして英雄(かれら)が救い出してくれるでしょうか?」

 

春姫さんは儚く笑う。

 

「英雄にとって、娼婦は破滅の象徴です」

 

その言葉を僕は否定することは出来なかった。

今まで読んだ英雄譚に娼婦が出てきた場合、その末路は碌なものではない。

 

「汚れていると自覚したあの日から、わたくしにあの美しい物語を読む資格はございません。憧れを抱くことは、許されません」

 

「…………」

 

「わたくしは、ただの娼婦なのです」

 

僕は何も言えなかった。

アイズさんも何も言ってはくれない。

 

「…………もう、刻限ですね」

 

何もできない僕の前で、春姫さんはそっと横を向き、窓の外を見る。

外は人通りが少なくなり、明かりも減っていた。

 

「とても楽しい時間でございました………ありがとうございます」

 

お礼を言ってきた彼女に、僕は言葉を返すことが出来なかった。

彼女に案内された裏口から出た僕とアイズさんはすんなりと歓楽街から離れることができた。

それでも僕は、別れ際の春姫さんの顔が忘れられない。

 

「ベルは………」

 

突然アイズさんが口を開く。

 

「えっ?」

 

「ベルは、どうしたいの?」

 

突然のアイズさんの問い。

その問いに対し僕は、

 

「……………分かりません」

 

そう答えることしか出来なかった。

 

「そう………」

 

アイズさんは否定も肯定もせずにそう呟く。

 

「…………ベルがどんな選択をしても、私はベルを応援するから………」

 

「…………アイズ………さん」

 

「ベルは…………ベルらしくすればいいと思う………」

 

「僕は………僕らしく…………」

 

「それがきっと、ベルの正しい選択だから…………」

 

「…………………………」

 

アイズさんの言葉に僕は考える。

僕の………僕の気持ちは…………

 

「邪魔したら悪いから………私はここで………」

 

アイズさんはそう言うと、自分のホームの方へ向きを変え、走り去ってしまう。

一人になった僕は、自分の答えを考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side リリルカ】

 

 

 

 

ベル様が先日の夕方に姿を消し、今日の早朝に戻ってきた。

しかもその手には精力剤。

ついでに歓楽街に行っていたとかでヘスティア様が激怒し、ベル様を正座させて尋問していた。

一方の私はといえば、

 

「ズズッ………はぁ~、お茶が美味しいですねぇ………」

 

朝食後のお茶をすすっている所だった。

 

「へぇ~、お子ちゃまだと思っていたのに、団長様もやるねぇ~…………」

 

ダフネ様がニヤニヤとベル様の様子を伺っている。

 

「えと、あの、その………」

 

カサンドラ様は頬を赤くしてオロオロしています。

 

「お前はやけに落ち着いてんなぁ………」

 

ヴェルフ様が呆れるように私に言います。

 

「ヴェルフ様も分かっているでしょう? ダフネ様やカサンドラ様、ヘスティア様が思っているようなことは一切なかったと」

 

「ま、だよなぁ………」

 

私がそう言うと、ヴェルフ様は分かっているかのように頷く。

 

「どういうことだい?」

 

ダフネ様が問いかけてきます。

 

「簡単な事です。ヴァレンシュタイン様にこれ以上無いほどに惚れこんでいる純粋なベル様が、歓楽街で娼婦と寝るなどということは、ほぼ100%あり得ないということです。悔しい事ですが」

 

「………………ヴァレンシュタインって…………も、もしかして【剣女王(クイーン・ザ・スペード)】か!?」

 

「はい。ついでに言えば、ヴァレンシュタイン様も確実にベル様に惚れています」

 

「んなっ!?」

 

ダフネ様は盛大に驚きます。

 

「あ、アンタはそれでいいのかい!? アンタも……その………!」

 

「確かに私もベル様をお慕いしています。それは否定しません」

 

「だ、だったら!」

 

「言いたいことは分かります。しかし、純粋愚直一直線のベル様のお気持ちをヴァレンシュタイン様から奪うことはほぼ不可能と言ってもよいでしょう。更にヴァレンシュタイン様もド天然の為、ベル様の魅力に抗うことは万に一つも無いと思われます。結論を言えば、ヘスティア様達の我儘で先延ばしにすることはあっても、お二人が結ばれるのは最早時間の問題と言ってもよいでしょう」

 

「あ、諦めるのかい!?」

 

「そうですね。諦めるしかないでしょう…………………一番は」

 

「は?」

 

「ベル様の一番は揺るがすことは出来なくとも、二番三番は狙うことは出来ます!」

 

「えっ?」

 

「ヘスティア様にお聞きしたことがありますが、ベル様はその純粋さ故、育ての親であるお爺様から女の子との出会いやハーレムは男のロマンと教育(せんのう)されているようです」

 

「へっ?」

 

「つまり、ベル様にも少なからずハーレム願望があるという事に他なりません。故に、私と志を同じくする者を集め、ベル様の元に押し掛けるのです! ベル様は押しに弱いので数で攻めれば可能性は高いです!」

 

「ふぇっ?」

 

「現在私を含め、4人の同志が揃っています!」

 

「4人? 酒場の2人とリリ助と………後誰だ?」

 

ヴェルフ様が不思議そうに首を傾げます。

 

「はい。私と、『豊穣の女主人』のシル様とリュー様………そして………」

 

私はそう言いながらごく最近ハーレム同盟に入った新入りに視線を向けます。

その人物は、俯きながら頬を赤くしてモジモジしている。

 

「新たにカサンドラ様もお気持ちを確認して同志となっていただきました」

 

「ぶふっ!?」

 

ダフネ様が噴出します。

 

「カカ、カサンドラッ!?」

 

「あ、あうう………」

 

カサンドラ様は耳まで真っ赤にしています。

 

「正直ヘスティア様にも同志となってほしいのですが、御覧の通り未だにヴァレンシュタイン様と張り合おうとしていますからね…………しばらくは無理でしょう。あとの狙い目はギルド職員のチュール様ですが、彼女もまだベル様の一番を狙っている節がありますので彼女も保留ですね」

 

「そ、そうかい…………」

 

ダフネ様は冷や汗を流しています。

まあ、自分が異常なのは理解しています。

ですが、たとえ一番ではなくともベル様の傍にいたいのです。

これは、私の嘘偽りなき本心。

卑怯だと思われてもいい。

これが一番になれない私がベル様の傍にいる唯一の方法。

更に、今回もトラブルと一緒に新しい女性も引っかけてきそうな予感がします。

もう一人二人増えれば確実性が増しますからね。

こういうのも変ですが、期待していますよ、ベル様。

 

 

 

 

 




四十話です。
短い上に間に合わなかった!!
実は旅行行っていたために帰りが土曜日の夜。
更に日曜日の夕方から地元の祭りのみこしを担いでいたので時間が無くなりました。
とまあ、盆休みに入っているのでちゃんと返信は書きます。
今回は大まかな流れは原作通りです。
まあ最後のリリだけはオリジナルですがね。
とりあえずこれで。
それでは次回にレディー………ゴー!!


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