ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
第三話 ベル、ダンジョンに潜る。
【Side ベル】
オラリオに着いて2日目の朝。
エイナさんのテストに何とか合格した僕は改めてダンジョンの入口であるバベルの塔を見上げる。
「うわぁ………やっぱり大きいなぁ………」
思わずそんな感想が漏れた。
そんな僕の体には、ギルドから支給された防具が付けられ、腰には鞘に入ったナイフがある。
正直、僕はどちらもいらないと思ったんだけど、エイナさんがすごい剣幕で睨んでくるものだから、渋々付けている。
ちょっと本気で動いたら壊れそうなんだけど。
ナイフに関しては、マスタークロスで気を込めればいくらでも切れ味は上がるため、あっても損は無い。
それでも元の作りが甘いため、長持ちしそうには無いけど。
ともかく気を取り直し、初のダンジョンである第一階層へと向かった。
「これがダンジョンかぁ………」
ダンジョンに踏み入った僕は、周りを見渡しながらそう呟く。
初めてのダンジョンに好奇心を抑えられなかった僕は、辺りの気配を探りながらも、どんどんと進んでいった。
しばらく歩いていると、
「…………ん?」
目の前の通路から気配を感じた。
意識を戦闘状態に切り替えながら、目を凝らす。
そこには、
「グキキキキ…………」
第一階層の基本的なモンスターであるゴブリンが3匹現れた。
「ゴブリンか…………」
そういえば、師匠に弟子入りする切っ掛けになったのもゴブリンだったな。
あの時の僕は、ただゴブリンを恐れて困惑することしか出来なかった。
でも、今は違う!
僕はゴブリンに向かって構えを取る。
「ふぅぅぅぅぅ…………」
呼吸を整え、ゴブリンを見据える。
そして、一気に地面を蹴った。
「はっ!!」
ゴブリンに一足飛びで接近し、拳を繰り出す。
拳はゴブリンの腹部に命中し、ゴブリンの身体がバラバラに弾けとんだ。
「ふっ!」
続けて身体を捻り、後ろ回し蹴りで2匹目のゴブリンに攻撃。
蹴りが命中したゴブリンは、蹴りそのもので身体が上下に分かれ、その時に巻き起こった衝撃波で粉々に吹き飛ばされる。
更に僕は間髪入れず地面を蹴り、3匹目のゴブリンに突進。
「せいっ!!」
突進の勢いを殺さず、左の肘打ちを叩き込み、粉々に吹き飛ばした。
この間、約1秒の出来事である。
そこで僕はハッとなる。
「あっ! いけない、魔石ごと砕いちゃった!」
魔石を回収しなければ、収入が無い。
エイナさんに言われたことを思い出し、失敗したなぁと頭をかく。
「もっと上手く手加減しなくちゃ………」
とはいえ、今のでも相当手加減したんだけどな。
そう内心愚痴りつつ、次は気を付けようと気持ちを入れ替える。
と、そこで僕は気付いた。
ギルドから支給してもらった防具が、今の一戦だけでとんでもない事になっていたことに。
「あっちゃあ………やっぱり僕の動きに耐えられなかったかぁ………」
わかっていたことだけど、もっと考えて動けば壊すこともなかったかなと反省する。
仕方ないので、防具を全部外し、バックパックの中に突っ込んでおく。
さて、と気持ちを再び切り替えて迷宮の中を進んでいった。
「ふっ! はっ! ほっ! せいっ!」
ゴブリンやコボルトを殴り、蹴り、吹き飛ばして叩きつける。
あれから何度も戦闘を繰り返し、ようやくモンスターの原型を保ったまま倒せる力加減がわかってきた僕は、倒したモンスターから魔石を回収していた。
それでも3分の2以上はダメになったけど………
「さて、第一階層も粗方周り終えたし、今日はそろそろ引き上げようかな」
魔石を荷物袋に詰め終えた僕は、地上に向かって歩き出す。
「それにしても、やっぱり第一階層だから、全然歯ごたえがないや。 もっと下の階層に行きたいけど、そんなこと言ったら、絶対にエイナさん怒るだろうしなぁ………」
ほんの少しの付き合いだけど、エイナさんがいい人なのはよくわかった。
下の階層に行かないように釘を刺してくれたのも、見た目が頼りない僕を心配してくれてのことだろう。
善意で僕の事を心配してくれてるから、エイナさんの忠告を無視するのは、良心が痛むんだよなぁ。
もっと下の階層に潜れるようになるまでは、身体が鈍らないようにちゃんと修行しなくちゃ。
今後の予定を考えながら、魔石の換金をする為に、ギルドへと向かった。
因みに魔石の換金の際、魔石の多さにエイナさんから無茶をしたと思われ、雷を落とされたのは余談である。