ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第三十七話 僕らのウォーゲーム 後編

 

 

 

リリによる【ソーマ・ファミリア】全滅の報は、瞬く間に【アポロン・ファミリア】全体に行き渡った。

 

「何が………何が起こっている!? 【ソーマ・ファミリア】が全滅しただと!? まだ始まってから三十分と経っていないぞ!?」

 

「し、しかし事実です! 現に【ソーマ・ファミリア】が陣を敷いていた監視塔は跡形もなく崩れ去っています! 更に城壁の上で見張りに就いていた我が団員達も敵の攻撃により全員が戦闘不能です!」

 

「馬鹿な………【心魂王(キング・オブ・ハート)】はつい一週間ほど前に私の前に手も足も出ずに倒れ伏したではないか! 何故こんなことに!?」

 

玉座に座るヒュアキントスが報告を聞いて狼狽する。

すると、

 

「団長様、団長様っ!? お願いです! 早くここから逃げてください!」

 

ヒュアキントスの傍らに控えていたカサンドラが声を上げる。

 

「カサンドラ! しつこいぞ!」

 

ヒュアキントスは朝からずっと同じことを言い続けるカサンドラにイライラしていた。

 

「どうか、どうか私の言葉を信じてください!」

 

カサンドラはヒュアキントスに縋り付くようにそう進言するが、

 

「黙れと言っている! 寝言も大概にしろ!」

 

ヒュアキントスはまだ自分たちが劣勢だとは思ってはいない。

 

「例え【ソーマ・ファミリア】が全滅し、見張りもやられたとは言え、城の中にはまだ八十人以上がいる! 城の中ならば外で使っていた大技も使えまい! 奴らの魔剣もそろそろ打ち止めだろう! 3人で攻め込んできたところで返り討ちだ!」

 

「ち、違います! 彼が使っているのは魔の剣ではありません!」

 

「何だと………!?」

 

「彼が使っているのは…………あ………ああっ…………!」

 

顔を蒼白にして、自分の体を抱くように震えながら現在ベル達がいるであろう方向の虚空を見上げた。

 

「し………城が…………」

 

「何…………?」

 

「天を貫く光の剣が……………城を断つ………!」

 

 

 

 

 

 

 

城の外にいたベル達は、城内へと入らずにいた。

 

「で? どうするベル。ここはやっぱり正攻法か?」

 

「う~ん…………その前にちょっと試してみたいことがあるんだ」

 

「試してみたいこと?」

 

「うん………ヴェルフの作ってくれたこの剣なら………いけると思う」

 

ベルはそう言うと城を正面に見据え、柄だけの剣を右手に持ち、闘気を高めていく。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!」

 

明鏡止水を発動させ、ベルが金色のオーラに包まれる。

 

「いくら気が武器を強化できるといっても、必要以上の気を込めれば武器は気の力に耐えきれずに壊れてしまう……………でも、『気』そのものを武器にするこの剣なら!!」

 

ベルの闘気が最大限に高まった。

 

「僕のこの手に闘気が宿る!!」

 

両手を腰溜めに構えた状態で、その両手に闘気を集中させる。

 

「英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

続けて体の正面で両手を組み合わせ、集中させた闘気を全て剣の柄に流し込んだ。

再び輝く刀身が発生する。

 

「くらえ! 愛と! 絆と! 友情の!」

 

その叫びに合わせて数回剣を振り、

 

「アルゴノゥトフィンガーソーーーーーーーーードッ!!!」

 

最後に思い切り振り上げると刀身が凄まじく伸び、天を突くかと思えるほどの長さとなる。

そして、

 

「メン………メン……………メェェェェェェェェンッ!!!」

 

最後の掛け声とともに、その光の剣を振り下ろした。

 

 

 

「ッ! いけない!」

 

カサンドラが突如玉座からヒュアキントスを突き飛ばした。

 

「ッ!? 何を………!?」

 

ヒュアキントスは激昂しようとしたが、次の瞬間に玉座を含めた一直線上に閃光が走った。

 

「なっ!?」

 

その光景に絶句するヒュアキントス。

その閃光が収まった時には、真っ二つになった玉座と幅50cmほどの亀裂が一直線に走っていた。

更に城が揺れ始める。

中央を真っ二つに切り裂かれた城がバランスを失い、崩落を始めたのだ。

 

「な………あ…………!?」

 

ヒュアキントスは驚愕の声を漏らしながら城の崩落に巻き込まれていった。

 

 

 

 

『し、城を斬ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??』

 

『神の鏡』を見ていた面々が驚愕の声を上げた。

 

「あ………あがが…………!?」

 

アポロンの声は既に言葉になっていない。

騒めく神々を他所に、ヘスティアは腕を組みながら平然とその様子を眺めていた。

 

 

 

城が完全に崩れ去ると、

 

「ベル様!」

 

入れ替わるようにリリがベル達と合流する。

 

「お疲れ、リリ」

 

「きっちりケジメは付けて来たみてえだな」

 

「はい!」

 

目の前の惨劇とは打って変わって和気藹々の雰囲気の三人。

 

「さて、仮にも冒険者。この位じゃ即死はしねえと思うが、ほっとけば窒息者が続出だな」

 

「そうだね。ならヴェルフ、頼める?」

 

「おう、任しとけ!」

 

ヴェルフが笑みを浮かべると、先ほど放ったローゼスビットを呼び戻す。

 

「それじゃ行くぜ! 【このエネルギーの渦から逃れることは不可能、ローゼスハリケーン】!!」

 

そう唱えた瞬間、無数のローゼスビットが渦を巻くように回り始め、回転数をどんどん上げていく。

それはやがてエネルギーが迸る赤い竜巻となり、

 

「吹き飛べ!」

 

城の瓦礫を【アポロン・ファミリア】の団員ごと空へ巻き上げた。

意識のある団員達が悲鳴を上げるが、

 

「そらよ!」

 

【アポロン・ファミリア】の団員達が一か所に次々と積み重ねられていく。

そして最後のダフネとカサンドラがその場に落下した時、

 

「【受けよ我が洗礼、ローゼススクリーマー】!!」

 

ローゼスビットが積み重ねられた団員達の周りに浮遊、エネルギーが網状となって結界の様に団員達を包み込んだ。

 

「しばらくそうやって大人しくしててくれ。最後の決着は団長様同士でつけようや」

 

ヴェルフはそう言うと団員達の前で仁王立ちする。

ベルはそれを見届けると、ヴェルフのローゼスハリケーンで見事に瓦礫が取り除かれた更地にポツンと取り残されている一人の男に歩み寄った。

言わずもがなヒュアキントスである。

 

「ば、バカな………こんな筈は………」

 

一人となり狼狽えるヒュアキントス。

そんなヒュアキントスにベルは話しかけた。

 

「さあ、最後の勝負です。安心してください、リリとヴェルフには手は出させません。一対一です」

 

「なっ、なめるなぁああああああああっ!!」

 

ヒュアキントスは波状剣を勢い良く抜剣し、そのままベルへ斬りかかる。

だが、

 

「遅いですね」

 

ベルは右手の人差し指と中指で剣を挟み込み、容易く受け止めていた。

 

「なっ!?」

 

ヒュアキントスが声を漏らす間に、ベルは手首を軽く捻って剣を圧し折った。

 

「なぁっ!?」

 

ヒュアキントスが続けて驚いている合間に、

 

「フッ………!」

 

ベルはヒュアキントスの胸部を蹴りつけ、吹き飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

吹き飛び地面に転がるヒュアキントス。

 

「げほっ!? げほっ!? ぐ………がぁああああっ!?」

 

呼吸困難に陥り、咳き込んでいる。

その間、ベルは手を出さずにじっと見ているだけだった。

 

「お、おのれ………」

 

ようやく呼吸が落ち着いたのかよろよろと起き上がり、

 

「【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】」

 

ヒュアキントスは詠唱を始めた。

だが、ベルはチャンスにも関わらず手を出さない。

 

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ。放つ火輪の一投、来たれ西方の風】!」

 

そして詠唱は完成する。

 

「【アロ・ゼフュロス】!!」

 

右手を振りぬくと共に放たれる輝く円盤。

高速回転しながら飛来するそれは、真っすぐにベルへと向かう。

ベルはそれでも全く臆せずにその光輪を素手で掴み、

 

「【赤華(ルベレ)】!!」

 

ヒュアキントスが唱えた瞬間に、その光輪が大爆発を起こした。

爆発に飲み込まれるベル。

ヒュアキントスはニヤリと笑い、バベルではアポロンが高笑いを上げる。

 

「フハハハハハッ! よくやったヒュアキントス! ヘスティア、この勝負は私の勝ちだな! フハハハハハハっ!!」

 

だが、ヘスティアはため息を吐き、

 

「アポロン、君の目は節穴かい?」

 

冷静にそう呟き、目の前の光景を眺めていた。

 

 

 

爆煙が晴れていくと、

 

「この程度ですか?」

 

煙の中からあっけらかんとした声が響いた。

 

「な、何!?」

 

ヒュアキントスが驚愕の声を上げる。

煙の中からは、全くダメージを受けた様子の無いベルが姿を見せた。

 

「この程度でよくあのベートさんを負け犬だのなんだの罵ることが出来ましたね?」

 

ベルは呆れ口調でそう言う。

 

「な、何故だ………お前は一週間前に私の前に成す術無く倒れ伏したはずだ!? なのに何故!?」

 

現実を認められないヒュアキントスはそう叫ぶ。

 

「いや何故って………あの時はやられた振りをしただけですし………気付きませんでした? 結構大袈裟に吹き飛んだのでわざとらし過ぎるかなと思ったんですけど」

 

「そ、そんなふざけた話があるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ヒュアキントスは持っていた短剣を抜き、ベルへと襲い掛かるが、

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

それよりも早く懐に飛び込んだベルの拳がその頬を捉えた。

 

「ぐぼぉおおおおおおおおおおっ!?」

 

派手に吹き飛び、地面に数回バウンドして転がるヒュアキントス。

 

「あがっ!? ぎあっ!? がぁあああああっ!?」

 

ヒュアキントスは腫れ上がった頬を押さえながらのた打ち回る。

ベルはその様子を暫く眺めていたが、

 

「まだ立たないんですか? その程度、ベートさんはすぐに立ち上がってきましたよ?」

 

ベルは、かつて『豊穣の女主人』の前でベートと戦ったときの事を思い出しながらそう言う。

あの時のベートは理由はどうあれすぐに立ち上がってきた。

 

「あぐっ!? あぐぐぐぐ…………」

 

ヒュアキントスは膝を震わせながら立ち上がる。

しかし、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

一足飛びで踏み込んできたベルのボディーブローが炸裂する。

 

「がはぁあああああああっ!?」

 

だが、それだけでは終わらない。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! とぉりゃぁあああああああああああああっ!!」

 

あの時のベートとの戦いの焼き直しの様にヒュアキントスに連撃が叩き込まれる。

 

「あがっ!? ぐぼっ!? がっ!? ぎゃぁああああああああああっ!?」

 

最後のアッパーカットがヒュアキントスの顎に決まり、大きく吹き飛んだ。

 

「ぎっ!? あっ!? ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

地面に転がるヒュアキントスは、もうボロボロであった。

そのヒュアキントスに歩み寄るベル。

 

「ひっ!? わ、悪かった! 謝る! 【凶狼(ヴァナルガンド)】に……いや、ベート・ローガ殿に言ったことも取り消す! だから………だから………」

 

必死に許しを請おうとするヒュアキントスに、

 

「ベートさんは…………どれだけ打ちのめされようとも決して自分の言葉を曲げる様な事はしなかった………!」

 

静かな、それでいて強い言葉がベルの口から発せられる。

そしてベルは、右手を顔の前に持ってくると、その右手の甲にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がった。

 

「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

ベルは右手を強く握りしめる。

そしてヒュアキントスに向かって駆け出した。

 

「キング・オブ・ハート…………!」

 

「や、やめっ…………!」

 

ヒュアキントスは情けなく両手を前に出してやめるように懇願しようとするが、

 

「アルゴノゥト……………フィンガァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

それよりも早く輝く右手がヒュアキントスの腹部に叩き込まれた。

最早悲鳴を上げる力のないヒュアキントスは、

 

「た、頼む…………も、もうやめ…………」

 

「ベートさんは…………! 最後まで闘志を失うことはしなかった! あの人は負け犬なんかじゃない。あの人は僕の……………………『ライバル』だ!!」

 

ベルはヒュアキントスを頭上へ持ってくると、

 

「グランドォ……………!」

 

その手の闘気を開放した。

 

「…………フィナーーーーーーーーーーーーッレッ!!!」

 

闘気の開放と共に打ち上げられるヒュアキントス。

ベートに対しては敬意を抱き、落下してきた所を受け止めたが、ヒュアキントスに対しては興味を抱く素振りも見せずに踵を返した。

歩き出すベルの後方でドサッと地面に落ちるヒュアキントス。

当然ながら完全に気絶しており、勝敗は疑うべくも無かった。

 

『戦闘終了~~~~~~~~~~~~~!! 誰が予想したであろうか圧倒的決着!! 『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の勝者は【ヘスティア・ファミリア】~~~~~~~~~~~~!!!』

 

『『『『ヒャッハーーーーーーーーー!!!』』』』

 

『『『『ちっくしょ~~~~~~~~~!!』』』』

 

戦闘終了と共に賭け事をしていた者達から声が上がる。

 

 

同じようにバベルでも大騒ぎになっている中、

 

「こ、こんな………こんなはずでは…………」

 

「ア~ポ~ロ~~~~~ン?」

 

たじろぐアポロンの後ろでヘスティアが笑顔で立っていた。

 

「ヘ、ヘスティア……………」

 

「勝った暁には要求を何でも呑むと約束したね?」

 

「ひ、ひぇっ! そ、それは…………」

 

「出来心だとか悪戯で済ませる気はないぞ。ボクは再三君に対して忠告を繰り返したんだからね? 今更止めますは通用しないよ」

 

「じ、慈悲を! どうか! 慈愛の女神よ!」

 

「そうだね………本来ならオラリオどころか下界から追放しても良かったんだけど…………僕も鬼じゃない、それは止めてあげるよ」

 

「おお! ヘスティア!」

 

「ただし! それなりのケジメは取ってもらう! 君のホームを含めた全財産はすべて没収! それから今回の様に無茶な要求を突きつけて無理やり【ファミリア】に入れた子も少なくないだろうしね。 本気で君の元にいることを望む者以外は全員脱退を認めろ! そして今後はこのような強引な【ファミリア】への勧誘は一切禁止! それが破られた場合は今度こそ天界送還だ! 一から全部やり直せぇ!!」

 

「ひぇえええええええええええええええっ!?」

 

バベルにアポロンの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって【ロキ・ファミリア】

 

「いや~、わかっちゃいたけど清々しいほどの圧勝だったね」

 

ティオナがケラケラと笑いながらそう言う。

 

「見ていて相手が逆に可哀そうに思えるほどだったな………」

 

「それは言えてる」

 

幹部陣が話し合っていると、

 

「おや~? ベート、何か嬉しそうじゃない?」

 

「あん? 気の所為だ馬鹿ゾネス!」

 

ベートはぶっきらぼうにそう言う。

 

「ほら、あれよ。 『あの人は僕のライバルだ』って奴!」

 

「ああ! ベートってばベルにライバル認定されて嬉しいんだ」

 

「で、出鱈目抜かしてんじゃねえ!!」

 

ベートは手を机に叩きつけながらそう叫ぶが、その頬には僅かに赤みがさしている。

 

「照れてる照れてる」

 

「照れてねえ!」

 

【ロキ・ファミリア】のホームは笑いに包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 





祝100万UA突破!!!
いや、まさか40話も行ってないのにこんなに早く100万に到達するとは………
これも皆様の応援のお陰です。
これからも出来る限り頑張っていきます。
そして第三十七話の完成。
とりあえずウォーゲームという名の蹂躙劇の後編です。
初っ端からフィンガーソードで城崩壊。
ローゼスハリケーンでお掃除してからヒュアキントスボッコボコの刑でした。
とりあえずベル君ベートライバル宣言。
大物と小物の差が浮き彫りになった結果でした。
でもまあ、時間が無いのでちょっと短いですがおまけがあるので許してね?
それでは次回にレディー………ゴー!!



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