ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第三十一話 アイズ、相談する

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

不思議な夢を見たその日の朝。

私は右手に浮かび上がる紋章を見つめながら、ホームの通路を歩いていた。

すると、

 

「おい、アイズ」

 

突然声を掛けられ、私はハッとなって顔を上げる。

そこには背を壁に預けながら腕を組むベートさんの姿があった。

 

「ベートさん?」

 

私が聞き返すと、

 

「アイズ、腕試しだ。付き合え」

 

ベートさんは突然そんなことを言う。

私が少し戸惑った仕草をすると、ベートさんは右手を見せる。

すると、その右手の甲に私と同じように紋章が浮かび上がった。

 

「ッ!? それはっ!」

 

私は思わず声を上げる。

ベートさんの右手に浮かび上がったのはクラブ・エースの紋章。

すると、まるでそれに共鳴するように私の右手の紋章も浮かび上がる。

 

「やっぱりアイズもか」

 

ベートさんはさほど驚いた素振りも見せずにそう呟く。

 

「行くぞ。俺は今の自分の実力を知りてぇ」

 

そう言うと、ベートさんは訓練場の方へ向かって歩いて行ってしまう。

私は、少し動揺しながらもその後を追った。

 

 

 

 

 

 

「アイズさん、ベートさん! おはようございます!!」

 

訓練場に来ると、朝が早いにも関わらず何人かの団員が訓練を行っていた。

私やベートさんは幹部ということになっているから、皆は姿勢を正して挨拶をしてくる。

私は簡単に挨拶を返すけど、ベートさんは興味が無いように無視し、さっさと訓練場の中央辺りに陣取る。

ベートさんは踵を返して私に向き直る。

 

「皆、少し派手になると思うから、離れてて」

 

私は訓練していた団員達に注意を促し、訓練場の隅の方に移動させた。

私はベートさんと向かい合う。

 

「なら、行くぜ。アイズ」

 

ベートさんの言葉に、私は剣を抜きながら頷くことで答える。

そして、ベートさんが構えを取った。

そこで私は、ベートさんの構えがいつもと違うことに気付く。

でも、その構えには見覚え…………というより、もう一人のクイーン・ザ・スペードの紋章の持ち主の彼から感じた経験の中に覚えがあった。

シャッフル同盟の中では最年少ながらも、その実力は他のメンバーにも引けを取らなかった少年の構え。

それを見て、私は更に気を引き締める。

そして次の瞬間、

 

「シッ………!」

 

ベートさんが動いたかと思うと、今までとは比較にならないスピードで消える様に私の懐に踏み込んできた。

 

「ッ!」

 

私は咄嗟に剣に気を流して強化し、剣の腹で受け止める。

 

「オラァッ!!」

 

振るわれる拳。

 

「くっ!?」

 

防御したにも関わらず、かなりの衝撃が私を襲った。

明らかに昨日までのベートさんとは違う。

今の拳も、意識的かどうかは分からないけど気で強化されていた。

 

「ッ!」

 

私は気を取り直して攻勢に出る。

剣に気を流して攻撃しようとした時、自分の中で今までとは違う闘気が沸き起こる。

その瞬間、剣から燃える様な闘気が溢れ出し、剣を紅蓮に染める。

頭では一瞬混乱したけど、魂は理解している。

これはあの人から託された力だと。

 

「はあっ!!」

 

その剣を振るう。

 

「チィッ!」

 

ベートさんはその場を飛び退き、私の剣はベートさんが居た所を大きく抉り取った。

でも、それを見てもベートさんは怯まない。

地面に足が着いた瞬間に再び跳躍し、飛び掛かってくる。

そして、

 

「無影脚!! オラァァァァァァァァァッ!!!」

 

凄まじい速度の連続蹴りを放ってきた。

昨日までの私なら反応できずに攻撃を受けてたかもしれない。

でも、今の私は身体が勝手に反応した。

あの人の得意技、『ファイティングナックル』を自分なりにアレンジし、高速の突きを連続して放つ。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

ベートさんの蹴りと私の突きが寸分違わず激突し、衝撃波をまき散らしながら全てを相殺する。

 

「ハッ! やるじゃねえかアイズ! やっぱりお前もあの夢を見やがったな!」

 

「ッ!? ベートさんも………!」

 

そう言葉を交わしながらも、私達の攻防は続いている。

そのせめぎ合いは、徐々に激しさを増していった。

何故なら今の身体能力と感覚、そして魂の同調と言うべきだろうか。

それがまだ完全ではなく、決定的なズレが生じていることに気付いていた。

それが一度剣と拳を交えるごとにどんどん修正されていき、力を出し切れるようになってきている。

それはベートさんも一緒だと思う。

そのズレがほぼ無くなったと感じた時、

 

「行くぞアイズ! 次で勝負だ!!」

 

ベートさんはその場で高く跳び上がった。

 

「他人の技をそのままパクるってのは気は進まねえが………!」

 

ベートさんは空中で大きく手足を広げる。

 

「天に竹林! 地に少林寺!!」

 

「その技はっ!?」

 

彼の経験にもある、クラブ・エースの少年の最終奥義!

 

「目にもの見せるは最終秘伝!!」

 

私は瞬時に対抗策を考える。

普通なら避けることが正しいと言えるかもしれない。

でも、この右手の紋章を持つ者として、簡単に逃げていいとは思えない!

なら、私に出来る最高の一撃をぶつけるだけ。

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

私は闘気を最大まで高める。

あの人は、一度に十発のパンチを放っていた。

それなら私は、一度に十発の斬撃を放つだけ!

私は剣を振りかぶり、

 

「豪熱…………!」

 

「真!」 

 

ベートさんが緑色の流星となって私に襲い掛かる。

 

「マシンガン………………………」

 

だから私も、最高の技で迎え撃った。

 

「流星胡蝶けぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

「ブレイドッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、私達はホームでの訓練を無期限で禁止された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

私はある事を相談するためにリヴェリアの元を訪れていた。

 

「それで? 私に相談したいこととは何だ?」

 

リヴェリアがそう切り出す。

 

「う、うん……………その…………もっとベルと仲良くするためには…………どうすればいいかな?」

 

そう思ったのは、18階層でベルと主神の女神の絆をこの目で見てしまったから。

ベルと女神の絆は、とても強いものだとはた目から見ても分る。

対して、私とベルの絆はあそこまで強いものかと聞かれると、自信を持って頷けないからだ。

 

「…………………」

 

リヴェリアからの返事が無いことを怪訝に思って顔を見ると、リヴェリアは目を丸くしてポカンと呆けていた。

 

「リヴェリア?」

 

私が声を掛けるとリヴェリアはハッとして、

 

「いや、すまない…………まさかお前からそのような言葉が出るとは…………」

 

「…………? それで…………何かいい方法は………無いかな………?」

 

私は少し恥ずかしく思いながらも問いかける。

 

「……………つまりお前は、あのベル・クラネルともっとお近付きになりたいと………そう言うことだな?」

 

「………………………うん」

 

改めて言われると顔が熱くなってしまうけど私は頷いた。

 

「………………………ふう」

 

リヴェリアは一度ため息を吐き、

 

「本来なら、【ファミリア】の副団長として別の【ファミリア】の人物と必要以上に距離を縮めるのは問題があるとして止めるべきなのだがな……………」

 

リヴェリアの言葉を聞いて、私は胸が締め付けられるような感覚に陥る。

やっぱり皆は、私がベルと仲良くなるのは反対する…………

 

「しかし………」

 

すると、リヴェリアは言葉を続けた。

 

「私個人としては、お前の恋を応援するのは吝かでは無い」

 

「えっ?」

 

リヴェリアは優しそうな微笑みを浮かべ、

 

「つまり、【ロキ・ファミリア】の副団長として表立ってお前の恋を応援することは出来ないが、私個人としては手を貸してやるということだ」

 

リヴェリアの言葉に感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

「リヴェリア…………ありがとう………」

 

私はお礼を言う。

 

「それで…………ベル・クラネルとお近付きになる方法だったな…………ふむ………」

 

リヴェリアは一度考える仕草をすると、ふと何かを思いついた。

 

「そういえば………近々【アポロン・ファミリア】が神の宴を開くという招待状が来ていたな」

 

「神の宴?」

 

それがベルと何の関係があるのだろう?

神の宴はその名の通り、ロキが行くものだ。

すると、私の考えを見透かしたのかリヴェリアがニヤリと笑い、

 

「今度の神の宴は、主催者(アポロン)の趣向で眷属一人の同伴を条件としているのだ。ロキは、十中八九お前を連れていくだろう。そして、最近の活躍から【ヘスティア・ファミリア】にも招待状が届く可能性は高い。そして、【ヘスティア・ファミリア】の眷属はベル・クラネル唯一人。これがどういう意味か分かるか?」

 

「……………神の宴に…………ベルも来る?」

 

「そう言うことだ。そしてパーティーといえば………」

 

「パーティーといえば?」

 

「…………ダンスだ!」

 

「え?」

 

「つまり、お前がそのパーティーでベル・クラネルをダンスに誘うんだ」

 

「ええっ………!?」

 

「社交の場とはいえ、ダンスとは互いの絆を深め合うもの。距離を縮めるにはもってこいだ」

 

リヴェリアの言葉に私は驚く。

 

「で、でも私………ダンスなんて踊った事ない………」

 

小さいころに憧れてはいたけど…………

 

「なに、そこは私が教えてやる。時間が無いからスパルタにはなるだろうがな」

 

「ベ、ベルが踊ってくれるかも分からないし…………」

 

「心配するな。お前が誘えばベル・クラネルは絶対に断らん」

 

何故かそう断言するリヴェリア。

 

「ベ、ベルも踊れないかもしれないし……………」

 

「お前がリードしてやれば問題ない」

 

リヴェリアは私の言い分を尽く潰していく。

 

「アイズ………!」

 

突然リヴェリアが強い口調で私の名を呼んだ。

 

「ベル・クラネルが別の女性と結ばれてもいいのか?」

 

「それはダメ!!」

 

リヴェリアの言葉に思わず大きな声が出た。

 

「ならば駄々をこねている場合では無かろう?」

 

リヴェリアの言葉に私はハッとする。

そうだ、私はもっとベルと仲良くなりたい。

ずっと、一緒に居て欲しい。

自分の気持ちを再認識した私はリヴェリアに向き直り、

 

「リヴェリア………お願い………!」

 

「いいだろう。引き受けた」

 

こうして、リヴェリアによる私のダンス特訓が行われることになった。

 

 

 

 






第三十一話です。
短くてすみません。
今週も消防団の大会があって時間が削られました。
本当ならベルの喧嘩騒動まで行きたかったんですけど時間が無かったのでここまでです。
さて、今回も初っ端からやらかしました。
ベートとアイズ大暴れです。
そりゃ訓練場使用禁止になるよね。
前回の紋章云々の話は今回の技の事だったんですけどどっちがインパクトありますかね。
一応今回の方がやらかした感は強いんですけど………
でもって乙女アイズはベルとのお近付き作戦を開始。
流石リヴェリア、立派なママさんです。
次回はダンスまで行けるかな?
喧嘩騒動で終わりそうな感じもするが………
ともかく次回にレディー…………ゴー!!

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