ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

27 / 88
第二十六話 ベル、覗く

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

師匠との戦いが終わった後、僕は疲労からその場で座り込んだ。

 

「はぁーっ………まだまだ師匠には敵わないや………」

 

僕はそう言いながら後ろに倒れて大の字で寝転がろうとして、とんと何か温かいものに当たり、それに身体を預けるような形になってしまった。

 

「えっ?」

 

僕が首だけで後ろを振り向くと、

 

「疲れた………やっぱりマスターって凄いね………」

 

僕と同じように座り込み、僕と背中を合わせるように体を預けているアイズさんの姿があった。

 

「ア、 アイズさん!?」

 

「……………君の手はあったかいね、ベル」

 

その言葉で気付いたけど、僕はアイズさんと手を繋ぎっぱなしだった。

さっきは戦闘で高ぶった感情のまま自然と手を繋いじゃったけど、改めて思い直すととてつもなく恥ずかしい。

すると、キュッっと僕の右手を握っているアイズさんの左手の力が少し強くなる。

それを意識すると顔が熱くなるのを感じる。

 

「ア、 アイズさん…………」

 

僕も思い切ってアイズさんの手を握り返そうとして…………

 

「いつまでくっ付いてるんだ!? 君達は!!」

 

突然神様が割り込んできて、背中合わせになっていた僕達を引き離すように左右に押し退ける。

 

「あっ………」

 

同時に僕達の手も離れ、アイズさんは名残惜しそうな声を漏らした。

すると、神様はアイズさんに向き直り、

 

「勘違いするなよヴァレン某! ボクは君を認めたわけじゃない! あくまでベル君を勝たせたかったからああ言ったんだ! ベル君はボクのモノなんだから必要以上に近付かないでくれ!」

 

そう言いながら僕の頭を抱きしめる神様。

あの、お気持ちは嬉しいのですが、その………神様の豊満なものが顔に…………

僕達がそのようなやり取りをしていると、

 

「さて、どうするフィン? 参加したメンバーはほぼ満身創痍だが………」

 

リヴェリアさんがフィンさんに話しかけている。

 

「仕方ない。 参加したメンバーは後に出発する組に入れよう。ここから上ならラウルに任せても問題ないだろう」

 

等と、今後の予定を変更していた。

 

 

 

漸く全員が動けるようになった時、

 

「うひゃぁ………ちょっとしか動いてないのにこんなに汚れちゃってる………ねえ! 女の子達だけで水浴び行かない?」

 

「あら、いいわねそれ。あなた達もどう?」

 

ティオナさんがそう言いだし、ティオネさんも賛同する。

見れば、神様やリリも行きたそうな顔をしている。

 

「神様もリリも行ってきてください。 行きたいんでしょう?」

 

「い、いいのかい?」

 

「はい」

 

「そ、それではお言葉に甘えて………」

 

神様とリリが水浴びに行くことを決める。

 

「で? 俺らはどうする?」

 

ヴェルフが僕に訪ねてきた。

 

「とりあえずテントに戻って出発まで休もう。正直今も立ってるだけでやっとだし………」

 

「まあ、お前とアイズ・ヴァレンシュタインは一番力を出し尽くしてたからなぁ………俺もあの技を受けた時には死んだかと思ったぞ…………」

 

「あはは………師匠は容赦が無いように見えてしっかりと相手の実力を一人一人見極めてるから、それぞれにあった力加減をしてたと思うよ」

 

「それもそうか………そうでなけりゃ、Lv.5~6の【ロキ・ファミリア】の幹部と同時に技を受けて、俺が生きてるわけねえわな」

 

その後、一旦全員で宿営地に戻り、女性陣が水浴びへ向かう。

その際に撤収の準備を手伝っていた【タケミカヅチ・ファミリア】の命さんと千草さん。

【ヘルメス・ファミリア】のアスフィさんもそれに同行した。

因みに僕はテントで休もうと思ったところ、

 

「やあベル君。これからちょっと付き合ってくれないかな?」

 

そう言われたヘルメス様に連れ出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

 

18階層にある川で、女性だけで集まり水浴びをする。

冷たい水が、疲れ果てた体に浸透するようで気持ちがいい。

私はふとベルの主神である女神に視線を向ける。

彼女も私を見ていたようで、

 

「ふふん、僕の圧勝だな」

 

と、得意げな顔で言った。

 

「何張り合ってるんですか、ヘスティア様…………」

 

ベルのサポーターの犬人(シアンスロープ)の女の子が呆れたような表情を女神に向けている。

 

「?」

 

私は何のことかわからなかったけど、女神の視線を辿ると彼女が見ていたのは私の胸。

私はふと女神の胸を見る。

 

「……………………」

 

大きい。

彼女の身長は私より頭一つ分ほど低い。

でも、その胸の膨らみは私よりも一回りか二回りほど大きい。

そこで私は、ベルが女神に抱き着かれて顔を赤くしていることを思い出した。

 

「………………」

 

男の人は女の胸が好きだという話をよく聞くけど、ベルもそうなのかな?

そう考えると、大きな胸の膨らみを持つ女神が羨ましく思えてくる。

それに、女神はベルとつながっていると感じる。

【主神】と【眷属】だとか、そんな繋がりじゃなく、しっかりとした【絆】を感じる。

じゃあ、私とベルは?

 

「………………………」

 

嫌われてはいないと思う。

でも、女神とベルほどの絆があるかと問われれば、自信をもって頷くことはできない。

そう考えて気落ちしそうになった時、

 

「うわぁああああああああああっ!?」

 

突然聞こえた叫び声と共に、どぼぉぉぉぉぉんと何かが川に着水し、大きな水しぶきを上げる。

突然の出来事にその場にいた全員がそこに視線を向け、

 

「げほっ!? ごほっ!?」

 

水しぶきが収まった水面から、ベルが顔を出した。

私は反射的に腕で胸を隠し、ベルに対して半身を向ける

状況に気が付いたベルは、周囲を見渡し顔を真っ赤にして、

 

「あ……………あぁ……………!」

 

その視線が私で止まる。

ベルが私を見ている。

そう思うと恥ずかしさが沸き上がる。

だけど、それ以上に…………

 

「……………ベルになら……………いいよ…………」

 

私を見て欲しいと思ってしまう。

女神よりも、犬人(シアンスロープ)の少女よりも、この場にいる女性の誰よりも、私を見て欲しい。

そう思った私は体を隠すように抱いていた腕を解き、ベルに対して体を見せつけるように正面を向き…………

 

「ごっ………ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」

 

ベルが顔を真っ赤にして逃げ出した。

 

「あっ………」

 

私は思わず手を伸ばすけど、ベルはものすごいスピードで走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

ヘルメス様に連れていかれた所はなんと女性が水浴びをしている所。

つまりはヘルメス様は僕を覗きに誘ったのだ。

なんやかんやで水浴びの現場のど真ん中に落ちてしまった僕は、女性たちの………特にアイズさんの裸体をガン見してしまい、全力で謝罪するとともに逃げ出した。

全力で逃げた僕は少し回復していた体力を再び使い切ってしまい、息を吐く。

因みにここが何処かもわからない。

身体が万全なら、適当に高いところに登れば位置は把握できるけど、今はちょっとその元気は無い。

そこでふと耳を澄ますと、パシャリと水の音が聞こえた。

導かれるままにその音のする方へ歩いていくと………

 

「あ…………」

 

そこには裸の妖精がいた。

妖精の水浴び。

水を手ですくい、自分の身体に降り掛ける仕草は、舞い散る飛沫が光を反射し、キラキラと輝いて見える。

思わずそれに見惚れてしまった僕は、

 

「ッ!? 誰だ!?」

 

妖精ことリューさんの小太刀の投擲に反応できず、僕のすぐ横の木の幹を抉り取る光景を見る羽目になった。

 

「も、申し訳ありませんでしたぁーーーーーーーーっ!!」

 

その場でジャンピング土下座を披露する僕。

 

「……………クラネルさん?」

 

 

 

 

 

その後、故意では無いということで何とかお許しを貰った僕はリューさんについて森の中を進んでいた。

暫くすると、森の中にある小さな広場に出る。

そしてその広場の中央に、盛り上げられた土とそこに突き立てられた10本ほどの古びた武器。

それはまるで、

 

「墓標…………ですか?」

 

僕はリューさんに尋ねる。

 

「はい。私がかつて所属していた正義と秩序を司る女神アストレア様率いる【アストレア・ファミリア】の墓です」

 

リューさんはそう言うと、道中に摘んできた花を武器の前に一つ一つ手向けていく。

 

「時折、ミア母さんに暇を貰って彼女たちに花を手向けにここに来ています」

 

花を手向けながらそう言うリューさんの背中は、とても寂しそうに見えた。

 

「クラネルさんは、神ヘルメスから私の事について何か聞いていますか?」

 

「いえ………何も」

 

「そうですか………」

 

リューさんは花を手向け終わると一呼吸置き、

 

「私は、ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に載っています」

 

「えっ?」

 

僕は思わず声を漏らす。

要注意人物一覧(ブラックリスト)

それは所謂罪を犯した冒険者。

 

「冒険者の地位もすでに剥奪されています。一時は賞金も掛けられていました」

 

信じられない告白に僕は言葉を失う。

 

「私が所属していた【アストレア・ファミリア】は迷宮探索以外にも、都市の平和を乱す者を取り締まっていました。その分、対立するものも多くいた…………ある日、敵対していた【ファミリア】に罠に嵌められ、私以外の団員は全滅………遺体を回収することも出来ず、当時の私はここ18階層に仲間の遺品を埋めました」

 

「それが、このお墓………」

 

「はい。彼女たちはこの場所が好きだった………」

 

当時を思い出しているのか、リューさんは顔を伏せる。

 

「………生き残った私は、アストレア様に全てを伝え、そしてお一人でこの都市から去ってほしいと頭を下げました。何度も懇願する私に、あの方も受け入れてくれた」

 

「神様を都市から逃がしたんですか?」

 

「いや、違う。激情に駆られる私の醜い姿を、あの方に見て欲しくなかった」

 

「……………」

 

「仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】に一人で仇討しました」

 

「ッ…………!」

 

「闇討ち、奇襲、罠…………私は手段を厭わず、激情に駆られるままに…………そしてすべての者に報復を終えた後、私は力尽きました………誰も居ない、暗い路地裏で………愚かな行いをした者には相応しい末路だった…………けれど………」

 

そこでリューさんに手を差し伸べたのが、シルさんだったそうだ。

 

「ミア母さんは、全てを知った上で私を受け入れてくれました……………耳を汚す話を聞かせてしまって、すみません」

 

そう言うと、リューさんは墓に背を向け歩き出す。

 

「詰まるところ、私は恥知らずで横暴なエルフということです…………クラネルさんの信用を裏切ってしまうほどの…………先日はクラネルさんの伴侶の一人になるなど浮かれていましたが、このような私にあなたの傍にいる資格など無い…………先日言った言葉は、無かったことにしてください」

 

僕の横を通り過ぎながらそう言ったリューさんの言葉に、僕は一気に頭に血が上った。

通り過ぎようとしたリューさんの手を強引に掴み、無理やり引き留めた。

 

「ク、クラネルさん!?」

 

リューさんは驚いているようだが、僕は手を離さない。

 

「無かったことになんて………しませんよ!」

 

僕はそう言い放つ。

 

「僕は出会う前のリューさんの事は知りません…………ですが、出会ってからのリューさんの事は知っています! リューさん、あなたは優しい人だ! 気が強くて不器用でも、あなたの優しさを僕は知ってる!」

 

「ク、クラネルさん!? 私はそのようなエルフでは…………」

 

「なら………何故あなたは僕を助けに来てくれたんですか?」

 

「そ、それはシルに頼まれたからで…………」

 

「本当にそれだけですか?」

 

僕はリューさんの眼をジッと見つめる。

 

「そ、それは…………」

 

リューさんは目を逸らした。

それが僕の思っていることが間違いではないと証明してくれている。

 

「僕はあなたを離しません。たとえ振りほどかれようと何度でも掴んで見せます! だからリューさんも自分を貶めるような真似は止めてください! 僕は、リューさんが傍にいてくれると嬉しいです!」

 

「ク、クラネルさんっ…………!」

 

思わずリューさんを引き寄せる。

いつかと同じようにリューさんが僕の胸に飛び込む形となる。

でも、以前とは違いリューさんはすぐに離れようとはしない。

 

「…………クラネルさん」

 

「はい」

 

「お願いがあります……………抱きしめて………もらえませんか?」

 

そう言われ、僕は一瞬躊躇したけどリューさんの背中に手を回し、抱きしめた。

 

「クラネルさん………」

 

「ベルです………いつまでも他人行儀な呼び方は止めてください」

 

「…………では、私の事もリューと呼び捨てにしてください」

 

「わかった………リュー」

 

「ベル…………あなたは暖かい………」

 

そのまま僕は、しばらくリューを抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、リューの案内で宿営地近くまでたどり着いた僕は、

 

「何やってるんだ僕は~!? 以前に迂闊なことを口にすると苦労すると思い知ったばかりなのにリューに対してあんな事を~~~!!」

 

リューと別れ、宿営地までの道程で頭を抱える。

ぶっちゃけ今思えばプロポーズみたいなセリフを口にしていた。

そう頭を抱えながら宿営地までの坂道を登りきると…………

 

「………何があったの?」

 

まるで巨大な剣で切られたような亀裂が走っている宿営地の広場を見て、僕は呟いた。

 

「ああ。なんか突然アイズ・ヴァレンシュタインが剣を抜いて一発ぶちかましたんだ。【ロキ・ファミリア】の連中の話じゃ、最近になって度々発作が起こるように八つ当たりをするらしい。【ロキ・ファミリア】の連中は慣れたようだが俺達にしちゃ突然の事で驚いたぜ。因みにアイズ・ヴァレンシュタインはそれで力を使い果たして倒れたそうだ」

 

僕の呟きに答えるように通りかかったヴェルフが言った。

 

「どうしちゃったの? アイズさん………」

 

「さあな………」

 

因みに【ロキ・ファミリア】の最初に帰還する組はもう出発しているらしく、残っているのは【ロキ・ファミリア】の幹部と【ヘファイストス・ファミリア】の一部だけらしい。

とりあえず、僕は休もうと自分が借りているテントに行くと、

 

「あれ? 神様?」

 

神様の姿が無かった。

僕がテントの中を見渡すと、一枚の紙が落ちているのに気が付いた。

それを拾って読んでみると、

 

「ッ!」

 

そこには、神様を誘拐したということが書かれていた。

そして、一人で指定場所に来るようにとも………

僕は、反射的にテントを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

同じ頃、【ヘファイストス・ファミリア】のテントでは、

 

「よーし! 直ったぜキョウジ!」

 

そう言いながらスィークは修理が完了したブレードトンファーをキョウジに差し出す。

キョウジはそれを受け取り、刃を光に翳すように眺める。

修理とは言うものの、ランクアップし【鍛冶】アビリティを得たスィークが打ち直したものは以前よりも数段上の性能を誇る。

故に、左右の威力の差が出てしまうので、2本とも打ち直していた。

その為スィークは前半に出発するパーティには間に合わず、ベル達が同行する後半のパーティに同行することにしたのだ。

 

「ああ、以前よりも素晴らしい出来だ。 本当に修理代は良いのか?」

 

「おう! 俺の勘はキョウジはすげえ冒険者になるって言ってるんだ。先行投資みてえなもんだよ。あんたが俺の武器を使って活躍してくれれば、俺の作る武器も売れる。そうすりゃ今回の修理代なんて余裕でお釣りが来らあ」

 

スィークは持ち前の気持ちの良い笑みを浮かべてそう言う。

 

「フッ、ご期待に沿える様に善処させてもらおう」

 

「期待してるぜ!」

 

キョウジはブレードトンファーを背中に納める。

 

「うし! じゃあ、俺は出発の準備をしなきゃな。 キョウジ、帰りの道でお前の腕前を見せてもらうぜ」

 

「了解した」

 

そう言ってキョウジはテントを出る。

すると、キョウジの視線の先をベルが必死の表情で走っていく。

 

「ベル?」

 

その表情を見てただ事ではないと感じたキョウジは、一旦ベルの使っていたテントを調べる。

そこで放り投げられていた用紙を見つけ、

 

「そういうことか…………」

 

ベルの状況を知ったのだった。

 

 

 

 

 

一方、ベルは必死の形相で指定された場所に向かって走っていた。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

(くそっ! 息が切れる………! 手足が重い…………! 早く行かなきゃいけないのに…………!)

 

ベルは心の中でいつも通りに動いてくれない自分の身体に悪態を吐く。

ベルの身体は既に限界であり、普段の実力の一割も出せない状況であった。

それでも体に鞭打ってベルは駆け抜け、指定された場所に到着した。

ベルは息を吐きながら気配を感じる方を向くと、水晶の陰から一人の冒険者が現れた。

その冒険者はモルドと言い、【豊穣の女主人】とリヴィラの町でベルに恥をかかされた………と思い込んでいる男だった。

 

「よう」

 

「神様は!?」

 

焦るベルを見て満足げな表情を浮かべるモルドは、

 

「付いてきな」

 

顎をしゃくってベルに付いてくるように促す。

ヘスティアを人質に取られている以上、ベルには黙って付いてくしか選択肢は無い。

ベルが連れてこられたのは岩場の上にある半円状に突き出た広場だった。

そして、多数のガラの悪そうな冒険者がベルを囲う様に並んでいる。

モルドがベルに話しかける。

 

「お前さんとこの女神様は無事だ。俺も神を傷つけるような罰当たりじゃねえ………」

 

「なら、僕に用があるってことですね」

 

ベルは、この場にいる全員が一斉に襲い掛かってくるのかと思っていた。

しかし、

 

「安心しな。こいつらには手は出させねえ。これからやるのは俺とてめえの一騎打ち………決闘だ」

 

「決闘………?」

 

「そうだ。単純だろ? 勝った方が負けた方に好きな命令が出来る。俺が勝ったらテメエの装備品身包み剥いでやる」

 

剣を抜きながらモルドはそう言う。

 

「僕が勝ったら、神様を返してもらいます」

 

ベルが構えを取りながらそう言う。

 

「ああいいぜ。だが勘違いするなよクソガキ。これからやるのは………お前を嬲り殺しにするショーだ!!」

 

そう叫びながら剣を振り上げ、地面に叩きつけるように振り下ろすと、地面にあった水晶の欠片が砕かれ、礫となってベルに飛んでくる。

ベルは慌てずに腕で目を庇うが、モルドが一瞬視界から消える。

ベルはすぐに視界を確保するが、その先にモルドの姿は無かった。

 

「なっ!?」

 

ベルは一瞬目を見開くが、気配は相変わらずそこにある。

 

「ッ!?」

 

攻撃の気配を感じたベルはその場を飛び退く。

 

「へっ! 勘のいいヤローだ。だが、俺が何処にいるか分からねえだろう?」

 

モルドの声だけが響く。

そんな様子を、広場の更に上にある岩場の上から見ている者がいた。

 

「透明になるマジックアイテム『ハデス・ヘッド』。見事なものだねぇ、アスフィ」

 

「まったく悪趣味ですね。満身創痍のベル・クラネルにあんな冒険者をけしかけるなんて」

 

「まあ、そうでもしないと、彼の器を測れなきからさ。それに、ベル君は人間の汚いところを知らなさすぎる」

 

「そうでしょうか? あの東方不敗 マスターアジアという男は、ベル・クラネルにそのことを教えていないとは思えませんが………」

 

「まあ、ベル君が綺麗すぎることは間違いない。それが彼の魅力なのかもしれないけどね」

 

ヘルメスは話を中断し、広場を見下ろす。

 

「おや?」

 

そこには、

 

「うおおおおっ!!」

 

見えない空間から声が響く。

 

「…………」

 

ベルは無言で体を反らす。

それだけで透明なはずのモルドの拳は空を切る。

 

「なんでだ!? 何で当たらねえ!? てめえ、まさか見えてるのか!?」

 

先程から、モルドの攻撃は一発たりとも当たっておらず、ベルは最低限の動きだけで対処していた。

しかも、ベルは目を瞑っている。

 

「見えないよ。でも、何処にいるか、何をしてくるかはハッキリと分かる」

 

「ふざけたことを!!」

 

モルドは再び殴りかかる。

だが、ベルは再び身体を逸らしそれを避ける。

勢い余ったモルドはつんのめり、

 

「はっ!」

 

「ぐぼぉっ!?」

 

ベルが繰り出した膝蹴りをまともに腹に受けて悶絶した。

 

「がほっ!? げほっ!?」

 

咳き込むモルド。

 

「何でだ? 俺の姿は見えないはずなのに!?」

 

モルドは自分の考えていた状況とはまるで違う現実に叫ぶ。

それでも、何としてもベルに仕返しをしようとして一歩近付き、

 

「足音………」

 

ジャリっと地面を踏みしめる音と同時にベルが呟く。

その言葉にモルドが足を止めた。

 

「なっ!?」

 

「声………」

 

ベルがモルドのいる方向へ振り向く。

その言葉でモルドは黙り込み、忍び足でその場を移動する。

 

「服や装備の擦れる音………」

 

ベルの顔は正確にモルドのいる方向を向く。

 

「呼吸音………」

 

「くっ! くそがぁぁぁぁぁっ!!」

 

どんなに静かに移動しても正確に自分を追跡してくるベルにモルドはキレる。

 

「空気の流れ………」

 

首を傾け、顔面を狙っていたモルドの拳が空を切る。

 

「そして剥き出しの殺気」

 

次の瞬間、鋭いボディブローがモルドの腹部に叩き込まれる。

 

「ごぶぅぅぅっ!?」

 

「その全てがあなたの行動を手に取るように教えてくれるっ!」

 

その言葉と共に、ベルは上段回し蹴りを放った。

その蹴りはモルドの頭部、被っていた『ハデス・ヘッド』に直撃し、それを砕いた。

モルドの姿が露になり、同時に吹き飛ぶ。

もはや周りでヤジを飛ばしていた冒険者たちは声を失っている。

 

「おやまあ、満身創痍でもLv.2の冒険者じゃ歯が立たないみたいだね」

 

ヘルメスがそう呟く。

 

「へ、ヘルメス様………」

 

すると、アスフィが震えた声でヘルメスの名を呼ぶ。

 

「ん? どうしたんだいアスフィ?」

 

ヘルメスはアスフィの方を向こうとして、

 

「さて、ワシの弟子を神の遊びに巻き込んだこの落とし前………どうつけてくれようか………?」

 

重い声がその場に響いた。

ヘルメスの後ろに立つのは東方不敗 マスターアジアその人。

ヘルメスは、冷や汗をダラダラと流す。

 

「や、やあ東方先生。ご機嫌いかが?」

 

振り向きながら言ったヘルメスのその言葉に、

 

「神ヘルメスよ。その呼び方はワシが最も嫌う呼び方なのでな………少しばかり痛い目を見てもらおうか………」

 

「ま、待った………僕は神………」

 

「問答無用!」

 

「あんぎゃぁああああああああああああああああっ!!??」

 

哀れヘルメス。

神にも因果応報は適用されるようであった。

 

 

 

 

因みにヘスティアだが、ベルを密かに追ってきたキョウジにより、無事に救出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 






第二十六話です。
今回は別の意味ではっちゃけてみました。
今回の主演は………リューさん?
色々やっちまいました。
まあ、リューさんはダンまち女性キャラの中ではアイズに次いでのお気に入りなんで。
相変わらずベル君後先考えずにモノを言うので後戻り出来ないとこまで突っ走ってます。
モルド?
唯の噛ませですな。
ヘルメスは生き残れるか?
それでは次回にレディー………ゴー!!!


PS.来週は予定が詰まっているので更新できないかもしれません。
努力はしますが出来なかったら許してね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。