ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
【Side ベル】
予想外の師匠の登場に中断していた夕食が再開される。
とはいえ、皆の視線の大部分は僕の横で夕食を共にしている師匠に向けられている。
まあ、このオラリオの人から見れば、師匠の存在は非常識をぶっちぎっているから仕方ないと言えば仕方ない。
その師匠本人は、その視線を気にもせずに食事をしている。
そこで僕は、気になることを師匠に聞くことにした。
「あの、師匠? 師匠は何故オラリオに?」
「ワシが何故オラリオに来たか………それはお前の様子を見に来るためだ」
「えっ? 僕の………ですか?」
「お前はワシの元で修業し、他者よりも多少抜き出た実力を持っておる。だが、それを除けば世間知らずの子供でしかない。そんな半人前が一人でやっていけておるか心配するのは当然ではないか? もちろん、お主の祖父の頼みということもあるがの」
「は、ははは…………」
僕は思わず苦笑する。
「………………流石ベル様の師匠………あのベル様ですら、他人より“多少”抜き出た実力扱いですか………」
リリが何か呟いている。
「まあ、お前の主神殿からも聞いたが、それなりにやっていけておるようだな?」
「ッ………はい!」
その言葉は、師匠に認められた気がして嬉しくなり、返事に力が籠ってしまった。
「所でベル。お前には二つ名とやらは付いたのか?」
「は………はい………」
いきなりの質問に僕は戸惑う。
「どのような二つ名なのだ?」
「え………えっと…………お恥ずかしながら、【
「キング・オブ・ハート………とな………?」
「は、はい…………」
僕が頷くと師匠は一瞬沈黙して、
「ク…………ククク…………うわっはっはっはっは!!」
突然大笑いした。
「わ、笑わないでくださいよ師匠……僕も恥ずかしいんですから…………」
僕は師匠が二つ名の印象を、僕やリリが感じたものと同じようなものとして受け取って大笑いしていると思い、思わずそう零した。
「ククク…………いや、すまんな。ワシが笑ったのは二つ名が可笑しかったからではない…………」
「え……………?」
すると、師匠は懐かしそうな眼をして、
「このワシも…………かつてキング・オブ・ハートと呼ばれておった………」
「えっ!?」
その言葉に僕は驚き、周りにいた神様やリリ、ヴェルフ達も驚いた表情をしている。
「ワシの場合は二つ名ではなく、代々紋章と共に受け継がれる称号であったがな…………」
「称号………」
「ワシがかつて居た所には、最強の5人の武闘家集団がおった…………ワシが受け継いだキング・オブ・ハート…………クイーン・ザ・スペード…………ジャック・イン・ダイヤ…………クラブ・エース………そしてブラック・ジョーカー……………その5人を総称して、シャッフル同盟と呼んだ」
「シャッフル………同盟…………」
「ワシは既にもう一人の弟子に紋章を継承し、その名も託した後ではあるがな」
「すごい偶然じゃないかベル君。師匠君と同じ称号を授かるなんて」
神様がそう言ってくる。
「はい。今まではちょっと恥ずかしかったですけど、今はなんだか誇らしいです」
師匠と同じ称号を名乗れるなんて、本当に凄い偶然だと思った。
するとそこで、
「そういや【剣姫】の新しい二つ名も【
ヴェルフが爆弾を落とした。
そう言えばそうだった。
「本当…………!?」
一瞬でヴェルフの目の前に行き、問い詰めるアイズさん。
「お、おお………!」
突然の事に狼狽えながらもヴェルフは頷く。
「………やった………ベルとお揃い…………」
アイズさんは何故かどことなく嬉しそうだ。
「ちっ! 鍛冶師君め、余計な事を………」
「まったくクロッゾ様は………何で今言ってしまうんですか………」
何故か神様とリリがヴェルフを睨みつけている。
雰囲気が険悪になりそうだったので、
「し、師匠! もう一つ聞きたいのですが………!」
「なんだ? ベル」
「あの、シュバルツさんと師匠の関係はどの様な………? シュバルツさんからは師匠と因縁があると伺ったのですか………」
僕は相変わらず覆面を被り、何故か先ほどの師匠と同じく木の天辺からこちらを見下ろすシュバルツさんに視線を向けた。
「ふむ………シュバルツ………キョウジとの関係か…………何、大したことではない。あ奴はワシのもう一人の弟子………お前の兄弟子にあたる者の実の兄だ」
「ええっ!? 僕の兄弟子のお兄さんなんですか!? ってことは、あの人も師匠の………?」
「いや、奴はワシに勝るとも劣らぬ実力を持ってはいるが、ワシの弟子というわけではない。あ奴は立場が色々と複雑でな、その辺りは詮索せんでやってくれ」
「は、はあ………」
そんなこんなで夕食が終わり、
「申し訳ありませんでした!」
何故か【タケミカヅチ・ファミリア】の女性団員に土下座をされていた。
何でもその女性―――命さん―――が言うには、僕達にモンスターを押し付けてしまった事を悔やんでいるらしい。
「あの……その………本当にごめんなさい………」
その横でおどおどしている少女―――千草さん―――も頭を下げる。
「あれは俺が出した指示だ。責めるなら俺だけにしろ。そして俺は、今でもあの指示が間違っているとは思っていない」
逆に堂々と胸を張って、きっぱりとそう言い切った団長である体格の良い男性—――桜花さん―――。
いや、まあ、言いたいことは分かるんだけど………
「そんなに必死こいて頭下げられてもなぁ………」
「そうですねぇ………」
ヴェルフとリリが顔を見合わせながら悩む………というか困惑している。
「リリ殿達の怒りももっともです! いくらでも糾弾してください!」
命さんはそう言うが、
「いや、だから俺達に謝られてもなぁ………」
「元々あなた方を責める気すらありませんし………」
「………はい?」
2人の言葉に命さんは疑問の声を漏らしながら頭を上げる。
リリとヴェルフは僕に視線を向けると、
「押し付けられたモンスターはベル様が瞬殺されてしまいましたし………」
「俺達が大変な目にあったのはベルが階層ぶち抜いたのが原因だしなぁ………」
その言葉に僕は肩身が狭くなる。
「きっかけぐらいにはなったかもしれませんが、ベル様と行動していればいつかこのようになっていたとは思いますし………」
「言っちゃ悪いが遅かれ早かれの違いなんじゃねえか?」
2人の僕に対する評価が酷い…………
「まあ、そのベル様もご覧になった通りお師匠様にこってり絞られましたし………」
「あれを見た後じゃ何か言う気にもなれねえな」
確かにひどい目にあった。
まあ、あれでこそ師匠だけど………
「ま、まあそれでも気に病むのでしたら、貸し一つということにしておいてください」
僕はそう言っておく。
そう言わないと納得しない気がした。
「わかりました。ベル殿がそう言うのでしたら………」
そう言って、ようやく命さんは土下座の体勢から立ち上がる。
その後今後の予定を話し合い、【ロキ・ファミリア】と共に地上へ帰還することにして、その【ロキ・ファミリア】の出発が早くても2日後の為、明日一日は空きとなり、この階層にあるリヴィラの町の観光をすることになった。
【Side アイズ】
翌日。
私は断続的に続く打撃音で目を覚ました。
私がテントから出てみると、
「はぁああああああああああああっ!!」
「とりゃぁああああああああああっ!!」
ベルとマスターが戦い………ううん、組手を行っていた。
腕が無数に分身して見えるほどのスピードで拳を打ち合っている。
でも、その表情には明らかに差があった。
ベルの表情は真剣で、明らかに全力に近い力を出しているけど、マスターの方は涼しい顔でベルの拳を捌ききっている。
私がその様子を眺めていると、
「うう~ん………何の音………? こんな朝っぱらから………」
「煩いわねぇ………」
ティオナとティオネが目を擦りながらテントから顔を出す。
それから顔を上げてその光景を目にすると、
「え? ええっ!? 何でベルとマスターが戦ってるのさ!?」
驚いた表情でそう言う。
「戦ってるわけじゃない………あれは組手」
私がそう言うと、
「あれ…………組手?」
ティオナが唖然とした声を漏らす。
「ベルは真剣みたいだけど、マスターはまだまだ余裕がある」
「うひゃぁ………私やアイズでも敵わなかったベルを余裕で相手するなんて、やっぱりマスターはベルの師匠なんだね」
「しかも、あれで【恩恵】無しって………一体どういうことなのよ………!?」
ティオネも愚痴を漏らしてる。
すると、打撃音が止み、
「ベルよ、朝食前の運動はここまでとしよう」
「はい! 師匠!」
2人の組手はそこで終わった。
朝食時。
ベルは昨夜と同じくマスターと食事を共にしていた。
そのベルの顔は生き生きとしていて嬉しそうだ。
ベルが本当にマスターの事を尊敬していることがよくわかる。
でも、マスターとばかり一緒にいて、私をほったらかしにしていることに、少し不満を感じる。
「アイズ、流石にお師匠様に嫉妬はどうかと思うよ?」
いきなりそんなことを言われ私は思わず振り向く。
そこには、ティオナが楽しそうな笑みを浮かべていた。
「そ、そんなことは………」
「自分に構って欲しいって顔に書いてあるよ♪」
「ッ……………!」
私は思わず俯いてしまう。
「もうっ! ほんっとアイズってばカワイイ!」
頭をティオナに抱きかかえられる。
顔が熱くなるのを自覚しているけど、それを止める術はない。
そのままティオネにもからかわれ続けた。
朝食後、ベル達がリヴィラの町を見学に行くと言っていたので、私も付いていくことにした。
私のほかに、ティオナとティオネもいる。
何故かベルの主神の女神には威嚇されたけど…………
町の入り口に辿り着くと、
「“ようこそ同業者”?」
ベルが町の入り口に掲げられている看板を読む。
「ここがリヴィラ。冒険者達が作った町」
私はそう言うとベル達を町の中に案内する。
そこでベル達が最初に驚いた事は、
「こ、この小さい砥石が一万三千ヴァリス!? た、高ぇ! ありえねえ!」
ベルの仲間の赤髪の青年が見ているのは指先で摘まめるほどの小さな砥石。
「このボロイバッグが2万ヴァリス!? 法外もいいところです!!」
…………あれ? あの子って前は
「ぼ、ぼったくりにもほどがありますね、この町」
ベルが苦笑しながらつぶやく。
「この町、宿も馬鹿みたいに高いの」
「だからあたし達、森でキャンプしてるってわけ」
「な、なるほど………」
呆れながらも納得するベル。
すると、道の真ん中をズカズカと歩いてきた大柄の冒険者。
その肩がベルとぶつかる。
多分、大柄の冒険者はベルを押しのけようとした思うけど、
「うおっ!?」
その冒険者は逆に跳ね返されて尻餅を着いていた。
ベルは逆に微動だにしていない。
流石ベル。
足腰の鍛え方も半端じゃない。
「あ、すみません。 大丈夫でしたか?」
更にその冒険者に手を差し出す始末。
相手のプライドはズタズタだろう。
「なっ!? てめえは酒場のガキッ!?」
「あっ、あの時………」
ベルはその冒険者に見覚えがあるようで、声を漏らす。
「このガキ! あんときはよくもやってくれたな!?」
冒険者は声を荒げながら剣を抜こうとした。
でも、
「ッ!?」
冒険者が柄に手をかけた時には、既にベルの剣は相手の首に添えられていた。
研ぎ澄まされた刃が、冒険者を威嚇するように光を反射する。
………って、あれ?
「いい加減に実力の差を分ってください。自分の実力も把握できない人は、それ以上強くなることはできませんよ」
ベルが睨みつけながらそう言う。
「うぐ………行くぞ………!」
その冒険者は悔しそうに歯噛みしながら2人の仲間と共に立ち去る。
私は思わずベルに問いかけた。
「ベル、その剣………」
「あ、これですか? ヴェルフに打ち直してもらったんですよ」
「ヴェルフって………あそこにいる【ヘファイストス・ファミリア】の?」
「はい。この刀は元々ヴェルフの作品だったらしくて、打ち直してもらったんです。【鍛冶】アビリティが無いので上級鍛冶師の作品には及びませんが、Lv.1の鍛冶師の中ではトップクラスだと思いますよ?」
「……………」
私は、ヴェルフと呼ばれた鍛冶師の青年を見ながら、あることを決めた。
【Side キョウジ】
ベル達がリヴィラの町の見学に行っている最中、私は【ヘファイストス・ファミリア】の宿営地を訪れていた。
もちろん覆面は脱いでいるが。
その中で、各団員に指示を出す団長らしき女性を見つけ、私は声を掛けた。
「すまない。私は【ミアハ・ファミリア】のキョウジ・カッシュという者だ。あなたは【ヘファイストス・ファミリア】の団長で間違いないだろうか?」
「ん………? ああ、その通りだが………」
「少々訪ねたいことがある。この武器を打った鍛冶師をご存じだろうか?」
私は背中のブレードトンファーを抜き、よく見えるように差し出す。
「ほう………これは………」
「知っているのか?」
「うむ。 無数に打たれる武器の中でも、これは奇抜な武器だったからのう」
すると、彼女は団員たちの方に振り向き、
「スィーク! スィークはいるか!?」
大声でそう呼びかけた。
すると、少し離れた所から砂煙を立ち昇らせながら爆走という表現がぴったりな走りでこちらに向かってくる影があった。
その影は私達の目の前で急ブレーキをかけ、
「お呼びですか!? コルブランド団長!」
セミロングの赤髪を靡かせ、元気よくあいさつするのは20歳ほどの女性のヒューマンだった。
「よろこべスィーク。 お前に客だ」
「へっ? 俺に客?」
その女性が私の方を向く。
「【ミアハ・ファミリア】所属のキョウジ・カッシュだ。この武器を打ったのは、君で間違いないだろうか?」
私がブレードトンファーを見せると、彼女は目を丸くする。
「お、おお! もしかしてこの武器使ってくれてんのか!?」
そう言いながら期待に満ちた笑みを浮かべ、私に問いかける。
「ああ。とても気に入っている」
私が頷くと、
「そっかぁー! ありがとな。俺がまだLv.1の頃に打った武器なんだけどよ。思い付きで打った割には結構いい出来でさ。まあ、あまりにも奇抜過ぎて売れなかったんだけどな」
ハハハと気持ちよく笑いながらそういうスィークと名乗る彼女。
喋り方も男と変わらず、まさに男勝りと言わんばかりの彼女だが、それがより彼女らしいと感じられる。
「で? 俺に用ってのは?」
彼女がそう尋ねてくると、私はもう一本のブレードトンファーを抜く。
ベルとの戦いで、罅が入ってしまった物だ。
「ああ。これを修理してはもらえないだろうか?」
彼女はそれを見ると、
「うぇっ!? マジかよ! こいつ頑丈さだけは自信あったんだぜ………!」
少し悔しそうな表情でブレードトンファーを眺める。
「今は手持ちが無いが………今はどの程度かかるか見積を取ってもらえないだろうか? 修理は金額が用意できた時でいい」
彼女はしばらく武器を眺めていると、
「ん~~~………いいぜ! 今回はタダで直してやるよ。サービスだ!」
「む………こちらとしては助かるが………いいのか?」
「おう! その代わり、これからも俺を贔屓にしてくれよな!」
また気持ちのいい笑みを浮かべると、右手を差し出してくる。
「俺はスィーク・ロープスだ。よろしくな!」
私も笑みを浮かべ、
「改めて、キョウジ・カッシュだ」
その手を握り返した。
【Side ヴェルフ】
何故こんなことになっているのか。
「お願い…………!」
何故あのアイズ・ヴァレンシュタインが俺に迫ってくるのか。
「これ、打ち直して………!」
リヴィラの町から戻ってきたとたん、俺はアイズ・ヴァレンシュタインから訪問を受けた。
それが、いきなり剣を打ち直してほしいというものだ。
「お、おい、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ、あんたみたいな第一級冒険者の武器を打てるような腕は………」
「ベルの武器は打ち直した………」
「あ、あれは俺が打った刀で………」
「これは違う………? ベルはベルが持ってる剣と一緒に買った剣だと言ってた………」
そう言われてアイズ・ヴァレンシュタインが差し出す剣をよく見てみると、
「こ、こいつは………」
俺はそれを見て驚く。
何故なら、それはベルに打ち直した刀と対になるように打った刀だったからだ。
俺はその刀を受け取り鞘から抜くと、元のベルの刀と同じように錆だらけでボロボロだった。
けど、ベルの刀と同じように死んだ剣ではないと感じた。
俺は一度息を吐く。
「わかった。アンタのお眼鏡に叶かどうかはわからねえけど、打ち直させてくれ」
「お願い………」
その為にも………あいつらから道具を借りなきゃなぁ………
あいつに頭を下げることだけはウンザリする。
でも、試してみたいこともあるし、仕方ねえか。
そう思いながら、【ヘファイストス・ファミリア】の宿営地へ向かうことにした。
第二十四話です。
すみません、盛り上がる所がありませんでした。
今回は武器の修理&繋ぎ回です。
キョウジの鍛冶師は結局オリキャラで行くことに。
オリキャラの名前の由来は分かりますかね?
一応鍛冶師に関係ある名前にしたつもりです。
でもってアイズもヴェルフに武器の修理を頼みました。
ヴェルフの試したいこととは果たして………
後、後半の師匠は自然見学の為に町の見学には行ってない設定です。
それでは次回にレディ…………ゴー!!