ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二十三話 ベル、再会する

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

バベルの塔の上で断続的に激突音が聞こえ、今にもバベルが崩れそうなほどに揺れたと思ったらピタリと止まり、それから少しすると2人が飛び降りてきた。

正直、上級冒険者でも死にかねない高さのはずなのに、2人は何でもないようにスタッと着地していた。

他のメンバーは未だに固まっていたので、ボクが代表して口を開いた。

 

「で、キョウジ君。そちらのご老体は何者なのかな?」

 

おそらくあっちのお爺さんも『武闘家』なのだろう。

すでに『武闘家』のやることには突っ込んだら負けだということはベル君で理解しているので、今の出来事には一切突っ込まない。

なので、謎のお爺さんが何者なのかということだけは聞いておきたかった。

 

「ふむ、こちらは…………」

 

「待てキョウジ。自分の事は自分で名乗るのが筋というもの」

 

そう言うとお爺さんは身なりを正し、

 

「ワシの名は東方不敗。マスターアジアと呼ぶものもいる」

 

腕を組みながら堂々と名乗った。

 

「と、東方不敗………?」

 

「本名か………?」

 

一風変わった名前に皆が困惑する。

それにしても………東方不敗?

東方不敗といえば…………って!

 

「も、もしかして君、ベル君の師匠かい!?」

 

思わず指を指しながら訪ねてしまった。

 

「うむ、その通りだ。そういう其方はベルの主神殿であるな?」

 

「あ、ああ………ボクはベル君の主神であるヘスティアさ」

 

「そうか………ベルはうまくやっておるだろうか? まだまだ経験不足な所が多い故、未熟者の弟子ではあるが………」

 

「いやいやいやいや!! ベル君はよくやってくれているよ! ボク自身申し訳なく思うぐらいに大助かりだよ!」

 

ベル君が未熟者!?

そんなこと言ったら冒険者全員未熟者だよ!

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

あのベル君を未熟者扱いするなんて…………

まあ、先ほどの戦いを見れば納得といえば納得だけど…………

やっぱりこの師あってのあの弟子ありなんだなぁ………

って、こんなことしてる場合じゃない!

 

「皆! 師匠君について聞きたいことが多いだろうけど、今はダンジョンに急ごう! この騒ぎを聞きつけて、じきに人が来る!」

 

ボクが声をかけると、皆は我に返る。

そうして新たに同行者を増やしたボク達はダンジョンへと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔、最上階。

ここは美の神フレイヤの部屋である。

いや、部屋であった。

本来、綺麗に整理され、本棚と部屋の中心に置かれた椅子、オラリオの街を見下ろせる大きな窓があるこの部屋は、今は見るも無残な場所と化していた。

本棚は倒れて本は散乱し、天井の一部が崩落して部屋全体を埋め尽くしている。

その瓦礫の一角。

周りより少しだけ高く積みあがった瓦礫の山。

その山がガラガラと崩れだし、

 

「ぐぅ…………」

 

その下から現れたのは屈強な肉体を持つ【猛者】オッタル。

そして、

 

「お怪我はありませんか? フレイヤ様………」

 

「ええ、大丈夫よ………」

 

更にその下から現れたのは、美の神フレイヤであった。

 

「咄嗟の事とは言え突然のご無礼、お許しを………」

 

「かまわないわ。助かったわ、オッタル」

 

「もったいなきお言葉」

 

すると、フレイヤは窓の方へ歩いていくと、ダンジョン内に入っていくヘスティア達を見下ろす。

 

「……………ねえオッタル」

 

「はっ!」

 

「…………やっぱり私、あなたがいいわ」

 

「はっ………? はっ! ありがたき幸せ!」

 

どこか悟ったような眼をしながらフレイヤは呟く。

 

「……………私を圧倒するほどの魂の輝きを持つなんて…………何者なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

 

ダンジョンを進むボク達。

そこに待ち受けるモンスター。

 

「はぁっ! せぃっ!」

 

助っ人君が2本の小太刀で風のように次々と切り裂き、

 

「ふっ!」

 

ヘルメスの眷属のアスフィ君がアイテムでモンスターの目潰しをして投げナイフで止めを刺す。

 

「つ、強い…………」

 

「一瞬で………全滅………」

 

「ふわぁ………」

 

タケの子供たちはその強さに驚いているようだけど………

 

「ふむ、中々の実力だな………」

 

「Lv.4といったところか………」

 

師匠君とキョウジ君は冷静に実力を把握していた。

まあ、彼らにとっては格下の戦いだろうからね。

道を進み、一際広いルームへと出ると、

 

「うわっ…………」

 

「これは…………」

 

そのルームを埋め尽くすほどにいる大量のモンスター。

 

「これは………迂回した方が宜しいかと……」

 

助っ人君がそう言うが、その言葉に反して2人がその前に進み出た。

 

「どれキョウジよ。ここは一つ勝負と行こうではないか。どちらがより多くモンスターを倒せるかだ」

 

「よかろう………ならば!」

 

師匠君は腰布を解き、キョウジ君はブレードを構える。

そして、

 

「「はぁああああああああああああああっ!!!」」

 

一瞬にして全てのモンスターが吹き飛んだ。

 

「「「「「は…………?」」」」」

 

唖然とするタケの子供達とヘルメスとアスフィ君。

助っ人君も目を見開いて驚いている。

 

「ふむ、引き分けか」

 

「こんなものか」

 

特に気にした様子もなく、腰布を縛りなおす師匠君とブレードを納めるキョウジ君。

ボクも歩みを進め、

 

「お~い。何やってるんだい、早く行くよ」

 

未だ固まっているメンバーに声をかける。

 

「いやいや! ヘスティア! 今のを見て何も思わないのかい!?」

 

ヘルメスが叫んでくる。

 

「うるさいなぁ………師匠君はベル君の師匠なんだから、この位はできて当たり前だろ?」

 

「わかってるのか? 彼は【恩恵】を貰ってないんだぞ!?」

 

「だから何だい? ベル君だってアビリティに関しては【恩恵】を超越してるんだ。【スキル】については効果があるけど、身体能力については【恩恵】の方が追い付いてないんだ。そのベル君の師匠の身体能力なら【恩恵】がなくったってモンスターぐらい瞬殺だろう」

 

もう突っ込まないでほしい。

『武闘家』のやることには突っ込まない。

これがベル君との生活で一番に学んだことだ。

 

「それよりも早く行くよ。あんまり大きな声を出すとモンスターが寄ってくる」

 

ボクはそう言って歩みを進めた。

 

 

 

 

 

しばらく行くと、タケの子供達がベル君達にモンスターを押し付けた場所という所に到着したんだけど………

 

「な、何だこれは…………」

 

桜花君が震えた声で呟く。

何故なら、そのルームに入った途端、ルームの大半が崩落して大穴が覗いていたからだ。

 

「何が起こればこんなことに…………」

 

桜花君がそう疑問を口にするが、多分、ベル君の仕業なんだろうな~っとボクは思っていた。

その考えを肯定するように、

 

「どう見る? マスターアジア」

 

キョウジ君が師匠君に話しかける。

 

「ベルの奴め。こんな所で超級覇王電影弾を使いおったな。こんな閉鎖空間内で電影弾を使えばこうなることは目に見えておるだろうに」

 

やれやれと言わんばかりに師匠君が呆れた声を漏らす。

やっぱりベル君の仕業っぽい。

 

「やはり下に落ちたとなれば、18階層の安全地帯を目指していると思っていいだろう」

 

キョウジ君がそう推察する。

 

「待て、何故そう言い切れる? これがヘスティア様の【眷属】の仕業なのだとしたら、上層へ戻るのも簡単なのではないか?」

 

桜花君がそう意見する。

 

「ベル一人ならそうかもしれんが、仲間がいる。この高さから落ちた場合、ベル以外は無傷とは思えん。ポーション類も割れて使えなくなった可能性が高い。そうなった場合、一つしかない上層への階段を上るより、18階層の安全地帯へ行き、そこにいる冒険者たちにポーション、もしくは回復魔法を融通してもらった方が効率が良い」

 

その言葉で、ボク達は18階層を目指すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

 

 

迷いに迷ってようやく僕達は、ゴール手前の17階層にたどり着いていた。

でも、

 

「ふざっ………けんなよ………! ここまで来て………!」

 

ヴェルフが悪態を吐く。

何故なら、僕達の目の前には『嘆きの大壁』と呼ばれる大きな壁から生まれる唯一のモンスター。

約7mほどの大きさを持つ巨人の階層主『ゴライアス』が生まれ出でた瞬間だった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

耳を劈くほどの咆哮が木霊する。

僕はそのモンスターを見ると、リリとヴェルフをその場に下す。

 

「2人ともちょっと待ってて。すぐに片付けるから」

 

僕はそう言うとゴライアスに向き直る。

 

「おいっ! ベルッ!」

 

ヴェルフは心配そうな声を掛けてくるが、

 

「大丈夫ですよクロッゾ様。ベル様なら心配いりません」

 

リリは僕を信頼しきったようにそう言う。

 

「ベル様、あの程度なら問題ないと思いますが、ご武運を………」

 

意識が朦朧としているのかリリが焦点の定まらない目でこちらを見てそう言ってくる。

 

「大丈夫。すぐに終わらせるから!」

 

僕はゴライアスに駆け出す。

 

「オオオオオオッ!!」

 

7m程の巨体が拳を振りかぶる。

僕がその場から軽くジャンプすると拳が僕の下を通過して地面に突き刺さる。

そのままゴライアスの腕に着地して腕を駆け上がると、二の腕あたりからゴライアスの胸部に向かって跳躍する。

 

「普通ならもう少し楽しんでもいいんだけど、今は2人が心配だ。生まれて早々悪いけど、退場してもらうよ」

 

僕は右手に闘気を集中すると、

 

「必殺! アルゴノゥト………フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

アルゴノゥトフィンガーをゴライアスの胸に叩き込んだ。

 

「オオッ!? オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

ゴライアスの分厚い皮膚を突き破り、僕の右手がゴライアスの胸部に突き刺さる。

でも、それだけではゴライアスにとっては小さな傷だ。

アルゴノゥトフィンガー自体の攻撃範囲はとても狭い。

その分貫通力には優れているけど。

でも、ここから…………

 

「グランド………………!」

 

右手に集中させた闘気を開放する。

以前ベートさんに使ったときは表面で開放して吹き飛ばしただけだけど、今回は違う。

相手の体内で闘気を開放し、内側から破壊する。

 

「…………フィナーーーーーーーーーーーーレッ!!!」

 

僕の決め台詞と共にゴライアスの身体が膨れ上がり、弾け飛んだ。

ゴライアスは断末魔の叫びを上げる暇すらなく消滅する。

手加減間違えて魔石ごと消し飛ばしちゃったけど。

とりあえずそれは気にせずに2人の元に戻り、肩に担ぎ直すと18階層への道へ向かった。

 

 

少し長い道を下り終えると、そこには草木が生い茂りダンジョン内とは思えない光景と、

 

「ベル………」

 

「アイズさん………」

 

こちらに微笑みを向けてくるアイズさんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

 

今、私達【ロキ・ファミリア】は18階層にいた。

遠征の帰りに団員の大半がモンスターの『毒』に侵されてしまい、ここ18階層で『休息(レスト)』を取ることになり、足の速いベートさんが地上へ解毒剤を取りに行っている。

私はその間、ここ18階層の散策を行っていた。

私は今まで、この18階層を単なる安全地帯………休憩場所としか認識していなかった。

でもベルと出会い、心に余裕を持てた今では、何度も来ているこの18階層にも色々な発見があって楽しく思える。

すると、

 

「アーイズッ!」

 

後ろからティオナが抱き着いてくる。

 

「ティオナ」

 

「なーにしてるの?」

 

「ちょっとした散歩。今まで気付かなかった事がたくさんあって面白いから………」

 

すると、ティオナは嬉しそうに笑い、

 

「ほんとにアイズって最近変わったよね」

 

「え? そ、そうかな………?」

 

「うんうん。今まではこんな風に散歩することも無かったでしょ? 私も今のアイズの方がずっといいと思うよ」

 

「そう………思う………?」

 

「もちろんだよ! これも皆、ベルのお陰かな?」

 

「ベル………」

 

その名前を聞き、その名前を呟くと自然と顔が熱くなる。

すると、再びティオナが抱き着いてきて、

 

「んもー! 顔を赤くしちゃって、ほんとにアイズってばカワイイ!」

 

「……………」

 

その言葉に、更に顔が熱くなる。

その時、ズズズ、っと少し地響きが聞こえた。

 

「あれ? 誰かが上層で強力な魔法でも使ったのかな?」

 

ティオナが上を見上げてそう呟く。

でも、私はある感覚を感じ取っていた。

言葉では言い表せないこの感覚は………

 

「ベルが………近くに来てる………」

 

「へっ?」

 

私はその瞬間駆け出す。

 

「ちょ、アイズーーーッ!?」

 

叫ぶティオナを尻目に、私は一直線に駆ける。

そして、上の階層への入り口にたどり着く。

遅れてティオナが追い付いてきて、

 

「はぁ………はぁ………ア、アイズ………いくらベルが大好きだからって、こんな所にベルが居るわけが………」

 

そこまでティオナが言いかけた所で、上からやってくる気配を感じる。

それは、

 

「ベル…………」

 

「アイズさん………」

 

2人の仲間を肩で担ぎながら、驚いた顔で私を見つめるベルの姿があった。

 

「ほ………ほんとに居た………」

 

ティオナが驚いた表情で呟いている。

 

「そうだ! アイズさん! ポーションを譲っていただけませんか!? 仲間が怪我をしてしまって、手持ちのポーションも割れてしまったんです!」

 

よく見ると、ベルが担いでいる2人の仲間は、かなりの怪我を負っているのに気付いた。

 

「私達のキャンプに運んで。遠征帰りだからポーションはあまりないけど、怪我ならリヴェリアが治せる」

 

私はベルを、自分たちのキャンプに案内することにした。

 

 

 

 

 

 

 

ベルの仲間の治療をフィンやリヴェリアに頼んでみたところ、割とあっさりと許可してくれた。

なんでも、ベルにはいくつか借りがあると言われた。

それでも、ベルが階層の床を崩落させて下に落ちたというのは驚いたけど。

リヴェリアがベルの仲間2人を回復させ、地上に帰る時までは客人として迎え入れてくれるそうだ。

ベルの仲間も意識はハッキリしていたから、怪我さえ回復すればもう動けるぐらいだった。

その夜の夕食の時、

 

「彼らは身命を投げ打ちここまでたどり着いた勇気ある冒険者達だ。同じ冒険者として敬意を持って接してくれ」

 

フィンがベル達を皆に紹介する。

食事が始まると、各々が騒ぎ出す。

私はベルの横で18階層で採れた果物を試食させてみたりしたけど、ベルの口には合わなかったみたい。

 

「ねーねー、ベルー? 何をしたらアイズをいきなりLv.7にすることが出来たの?」

 

ティオナがベルに絡みだす。

 

「私も聞きたいわ。一宿一飯の恩よ。かまわないでしょ?」

 

ティオネも少し威圧感を出しながらベルに迫る。

 

「え、えっと………?」

 

2人に迫られるベルに、ちょっとムッとする。

その時だった。

 

「思ったより楽しそうにしてるねぇ………ベルくぅん…………?」

 

どこかで聞いた声が聞こえた。

ベルがハッとして後ろを向くと、そこにはベルの主神であるツインテールの女神がいた。

 

「か、神様!? どうしてこんな所に!?」

 

ベルは驚いた表情でそう尋ねる。

 

「ま………何と言うべきか………ボクはさほど心配はしてなかったけど、ベル君を探しに行くなんて言い出す胡散臭い神が居たからね………ボクはお目付け役さ………でも…………信じてたけど、無事でよかったよ、ベル君」

 

「神様………」

 

ベルは感無量といった声を漏らす。

………何故か2人の様子を見ていたら、胸のあたりがモヤモヤした。

 

「クラネルさん、無事でしたか」

 

すると、フードの付いたケープを着た人物がベルに話しかける。

 

「えっ? リューさん!?」

 

ベルが驚いたようだったけど、そのケープの人物は人差し指を口の前で立てて静かにという意思をベルに伝える。

 

「君がベル・クラネルかい?」

 

すると、帽子を被った金髪の男性がベルに話しかけた。

 

「あ、はい」

 

「そうか、君が! 会いたかったよ! 俺の名はヘルメス。どうかお見知りおきを」

 

そう言いながら右手を差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ベルもその右手を握り返した。

 

「なーに、神友のヘスティアの為さ。それに、感謝なら俺以外の子たちにしてやってくれ」

 

そういうと、後ろを見るように手を向ける。

そこには4人の冒険者がいた。

しかも、その内の1人は、以前ベルと互角以上の戦いを繰り広げたあの覆面の冒険者だった。

 

「あれ? あの人たちは………」

 

ベルは不思議そうな声を漏らす。

すると、

 

「あれ? 彼はどうしたんだい?」

 

神ヘスティアがキョロキョロと辺りを見渡しながら彼らに訪ねる。

 

「神様、どうかしたんですか?」

 

ベルが尋ねると、

 

「ああ、実は君の…………」

 

彼女がそこまで言いかけたとき、

 

「ワッハッハッハッハッハ!! ウワッハッハッハッハッハ!!」

 

突然笑い声が響く。

食事をしていた各メンバー達も、突然の笑い声に食事を中断し、何事かと辺りを見渡す。

 

「息災であったかぁ!? ベルよ!!」

 

ベルはその言葉にハッとして、辺りを見渡す。

 

「こ、この声は………! まさか!?」

 

ベルにしては珍しく、激しく動揺している。

すると、

 

「どこを見ておる! ワシはここだ! ここにおる!!」

 

その言葉に反応して、ベルは上を見上げた。

そこには、何故かひときわ高い木の頂点に腕を組みながら仁王立ちをした、白髪交じりの長髪をおさげにした初老の男性がいた。

 

「し………し………」

 

「くぁあああつ!!」

 

ベルが何か言いかけた所で男性が叫び、ベルを黙らせた。

 

「応えよベルゥゥゥゥゥッ!!」

 

男性が叫びながら前方に飛び上がる。

 

「流派! 東方不敗は!!」

 

「王者の風よ!!」

 

ベルも突然叫び、男性に向かって跳躍した。

 

「全新!!」

 

「系列!!」

 

そしていきなり拳を繰り出しあう2人。

しかも、その速度は半端じゃない。

一秒間に何十発もの拳の応酬が繰り広げられる。

空中での殴り合いから地上に着地した時、2人の拳がぶつかり合い、それぞれが左右対称になる形となった。

 

「「天破侠乱!! 見よ! 東方は赤く燃えている!!!」」

 

そして何故か、彼らの後ろで激しい炎が燃え上がる光景を幻視した。

私は思わず目を擦る。

改めてみると、その後ろは暗くなった18階層の光景が広がっているだけだった。

 

「………今の………何?」

 

私は思わず首を傾げる。

食事をしていたその場のメンバーは全員桁違いの応酬に固まっていた。

 

「な、何と素晴らしい演武でしょうか!!」

 

「ああ、あれ程の演武は見たことがない!」

 

「す、凄かった………!」

 

共に来た極東出身者と思われる3人は目を輝かせて彼らを見ていた。

ベル達は少しの間、その形を保っていると、

 

「久し振りだなベル………」

 

男性がベルに話しかける。

その口振りから、昔からベルを知っていることが伺える。

 

「し、師匠………!」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は驚愕した。

あの人がベルの師匠!

あの強いベルを鍛え上げた人。

 

「お久しぶりです…………師匠!」

 

ベルは突き出された拳を両手で握りながら、その場で跪く。

 

「ベル…………」

 

ベルの師匠は優しそうな声を掛け……………

 

「この馬鹿弟子がぁあああああああああっ!!」

 

「ぐふぅっ!?」

 

いきなりベルを殴り飛ばした。

宙を舞うベル。

 

「ええええっ!? 何で!? 今の殴る流れ!?」

 

ティオナが驚いたように声を上げる。

 

「し、師匠………?」

 

地面に這い蹲ったベルは顔を上げると、

 

「ここに来るまでに見たぞ! あのような閉鎖空間で電影弾を使うとは何事かぁ!!」

 

叱るようにベルの前で腕を組み堂々と言い放つベルの師匠。

 

「そ、それは………敵の数が多かったので咄嗟に………」

 

「だからお前はアホなのだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐふぅぅぅぅっ!!」

 

再び殴られ、宙を舞う。

 

「よいか! どんな時でも冷静に状況を把握し、最善の技を選ばねば今回のように自分の身を滅ぼしかねん! いや、仲間を巻き込んだ今の状況は更に悪いわぁ!!」

 

「し、師匠………! 申し訳ありません!!」

 

「ベル! お前はまだまだ未熟だ! 一人前を名乗るなど10年早い!!」

 

そのままベルの師匠によるベルへの説教は1時間ほど続いた。

因みにこの1時間で、ベルは10回ほど宙を舞った。

 

 

 

 

 







第二十三話です。
今回はベルと師匠の再開をお送りいたしました。
これ以外?
多分最後で全部持ってかれるでしょうから説明要りませんよね?
後は皆さまそんなに師匠の登場が待ち遠しかったのでしょうか?
一話当たりの感想数最高記録68件ありました。
それといつの間にやらUA50万超えてましたね。
ありがとうございます。
それでは次回にレディー………ゴー!!



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