ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二十二話 ベルは落ちる バベルは揺れる(物理的に)

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

 

ヴェルフが仲間になって一週間と少し。

ようやくエイナさんから中層進出の許可を貰い、必ず購入するように言われたサラマンダーウールを纏って僕、リリ、ヴェルフのパーティはダンジョンの中層へ足を踏み入れていた。

 

 

ヘルハウンドと呼ばれる狼型のモンスターが襲い掛かってくるが、

 

「はぁあああああっ!!」

 

噛みつかれる前に拳で殴り落とし、地面に叩きつける。

 

「ガァァゥッ!!」

 

更にもう一匹が襲い掛かってくるけど、僕はそいつは迎撃せずに避けるだけでスルー。

後ろのヴェルフとリリに任せる。

 

「このっ!!」

 

「そらっ!!」

 

リリが小型バリスタで牽制し、ヴェルフが大刀で止めを刺す。

そこで戦闘が一段落し、

 

「何とかやっていけそうだな」

 

ヴェルフがそう言う。

 

「勘違いしないでください。これも全てベル様のお陰です。ベル様が私達の成長のためにワザと後ろに回してくれるモンスター以外を全て受け持ってくれているから安心して戦えるだけです。本来なら、こんな余裕でいられません」

 

相変わらずリリは辛辣だなぁ。

 

「まあ確かにな。実際9割以上はベルが倒してるんだし………中層がこんなに楽なわけがねぇわな」

 

「そういうことです。ベル様が異常なだけでこれを当然と思っていたら別のパーティで痛い目見ますよ」

 

「リリ…………そこはせめて特別と言ってほしかったかな………」

 

リリの僕に対する評価が酷いのは気の所為?

 

「ともかく、今回の探索では中層においてこのパーティでの基本的な戦い方を身に着けるための物です。あくまで日帰りを想定してますので、無理はしないように」

 

リリの言葉に僕は頷いた。

すると、気配を感じたのでそちらを向くと、二足歩行で立つウサギ型のモンスター、『アルミラージ』がいた。

 

「……………ベル様?」

 

何を思ったのか、リリがそんなことを言う。

 

「ああ………ベルだな」

 

何故か便乗してヴェルフもそう言う。

 

「いやいや!? 何言ってるの2人とも!? 『アルミラージ』でしょ!」

 

白い毛に赤い目って…………

確かに親近感が湧かなくも無いけど!

でも…………それでも…………!

 

「僕ってあんな貧弱な身体してないよ!?」

 

「流石本物のベル様。ツッコムところがやはり違う」

 

「だな。やっぱり本物は違うな」

 

「なんか褒められてる気がしないんですけど!?」

 

やり場のない怒りは元凶の『アルミラージ』にぶつけることにしよう。

半ば八つ当たりの戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま暫く探索を続け、おそらく日が傾いているであろう時間になり、

 

「とりあえず、今日の探索はここまでにして、地上へ戻りましょう。中層初日の確認としては十分です。やっぱりベル様の存在は大きいですね」

 

リリがそう提案し、

 

「そうだな。いくらベルのお陰で楽が出来るといっても、交代メンバーが居ないんじゃ疲労が溜まる一方だからな」

 

「それじゃあ、今日は…………次の戦闘が終わったら帰りましょう」

 

再び生れ落ちるモンスター達を見て、僕達は構えなおした。

そのまま戦闘を開始し、モンスターの数を半分ほどに減らした時だった。

 

僕達はルームの一つで戦闘を行っていたけど、そこに繋がる複数の通路の一つから、5,6人のパーティが必死な表情で僕達の傍を駆け抜けていく。

その中の1人は一番大柄の男性に背負われており、その背中には痛々しくモンスターの武器が突き刺さっている。

そのパーティの特徴として全員が黒髪で黄色っぽい肌をしている。

これは極東出身者に多く見られる特徴だ。

そのパーティが駆け抜けていったその後姿を僕は見送る。

僕の傍を駆け抜ける時に聞こえた、「ごめんなさい」と呟かれた少女の言葉の意味。

それは、

 

「ッ!? いけません! 押し付けられました!」

 

リリが叫ぶ。

 

「【怪物進呈(パス・パレード)】です!!」

 

彼らがやってきた通路の先に、無数の気配を感じる。

通路を埋め尽くすほどに光る、モンスターの眼光。

 

「おいおい………! マジかよ………!?」

 

ヴェルフの顔が引きつる。

僕は、一瞬で状況を考える。

この広いルーム内では、もしかしたら2人を危険に晒してしまうかもしれない。

なら、答えは一つ!

 

「通路から出てくる前に、全部倒すだけだ!!」

 

僕は身体中で気を練り上げ、その技の名を叫ぶ。

 

「超級! 覇王! 電・影・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

練り上げた気を体に纏い、更に自分の頭を中心に回転運動を加える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ…………とぉりゃぁああああああああああああああっ!!!」

 

そのまま敵の群れに突進する。

この技は、直接触れた相手も粉砕するが、エネルギーを地面に流し、一気に大爆発させて広範囲の相手を巻き込む広範囲攻撃。

僕はモンスターの群れを貫くと、構えを取り、

 

「爆発!!」

 

その掛け声とともに通路全体が爆発に巻き込まれ、モンスターの群れを全滅させた。

 

「うおっ!? やっぱすげえな、ベル」

 

「ベル様ならこの位は当然です!」

 

僕は2人と合流しようとルームに戻ったとき、ピキリっと嫌な音が耳に届いた。

先ほどの爆発で地面にできた罅が広がっていく。

 

「あ…………」

 

罅はルームを埋め尽くすほどに広がり、

 

「まさか………」

 

「おいおい………」

 

一気に崩落した。

 

「うおわぁああああああああっ!!??」

 

「やっぱりベル様は非常識ですぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

 

そのまま僕達は奈落の闇の中へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

 

ベル君が一日経っても戻ってこない。

日帰りと聞いていたから、何かトラブルでもあったのかな?

恩恵は消えていないから生きていることは間違いない。

まあ、ベル君が中層でどうこうなるとは思ってないけど。

一応確認の為にギルドに確認を取ったけど、

 

「ベル君がダンジョンから帰還していないんですか!?」

 

あのアドバイザー君の驚き様からして会ってないことは明白だ。

 

「やっぱりこっちにも顔は出していないんだね?」

 

「はい………少なくとも私は会っていません………」

 

そう言いながら仲間のギルド職員に目配せをするけど誰もが首を横に振る。

 

「そうか………まあベル君の事だから心配ないとは思うけど、もし会ったらすぐに帰るように言っといてくれ」

 

「…………わかりました」

 

そう言ってボクは踵を返し、

 

「神ヘスティア!」

 

「ん?」

 

突然呼び止められたボクは首だけで振り向く。

 

「失礼ですがベル君が心配じゃないんですか!? その反応はあまりにも冷たいのでは!?」

 

アドバイザー君が若干震えた声でボクに言う。

その表情はベル君が心配で堪らないと言わんばかりだ。

まったく、ベル君は罪作りなんだから。

僕はアドバイザー君に向き直り、

 

「勘違いしないでくれ、アドバイザー君。ボクだってベル君の事は大切に思っているよ。ただ、ベル君の事を信頼しているだけさ」

 

「信頼………ですか?」

 

「ああ。ボクはベル君が必ず戻ってくるって信じてる。何故なら、ベル君はボクを悲しませるようなことは絶対にしないからね」

 

「神ヘスティア………」

 

「そういうわけだ。君の気持ちもわからんでもないけど、もう少しベル君の事を信じてあげなよ」

 

ボクはそう言いながら再び踵を返し、こんどこそギルドを後にしようとして、

 

「ヘスティア!」

 

また呼び止められた。

でも、今度はとても聞き覚えのある声だ。

見れば、ギルドの入り口で数人の眷属を従えたタケが立っていた。

その後ろの眷属達は、何故かみんなバツの悪そうな顔をしていた。

 

「すまんヘスティア! お前の子供たちが帰ってきてないのは、俺達に原因があるのかもしれん!」

 

「?」

 

突然言われた言葉にボクは首を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side エイナ】

 

 

 

 

 

 

 

神ヘスティアが神タケミカヅチと去った後、私はベル君の事を考えていた。

 

「ベル君…………大丈夫だよね………?」

 

神ヘスティアはベル君を信じろとは言っていたが、心配なものは心配だ。

私が物思いに耽っていると、

 

「失礼、よろしいかなお嬢さん」

 

「はっ! はい!」

 

突然呼びかけられた声に我に返る。

気が付くと、私の前には頭に頭巾を被って顔を布で隠し、茶色のマントを纏った人物がいた。

声からすると、それなりに歳をとった男性だろう。

格好については、旅人が砂埃などを避けるためにこのような格好をすることは珍しくないため、別段怪しいとは思わなかった。

私はコホンと咳ばらいをして、

 

「ここは冒険者ギルドになります。ご用件は何でしょうか?」

 

いつもの受付嬢としての職務を果たす。

 

「少々尋ねたいことがあるのだが………」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「ベル・クラネルという少年は、この街で冒険者になっていますかな?」

 

私はその名前を聞いた瞬間、思わず言葉に詰まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を変えて、自分のホームで知り合いの神友であるヘファイストスと、ミアハとその眷属が集まり、タケの話を聞いていた。

 

「すまん!!」

 

タケが再び頭を下げる。

 

「では、彼らがベル達にモンスターを押し付けた………と?」

 

ミアハがそう言うと、

 

「こいつらも必死だったとはいえ、申し訳ない」

 

タケは何度も頭を下げる。

 

「いや、そんなに頭を下げられても困るんだけど………」

 

「しかし! 俺の子供たちの所為で………!」

 

「何か勘違いしてるようだけど、ボクのベル君は中層のモンスターを押し付けられた程度で如何にかなるほど柔じゃないよ」

 

「だが…………!」

 

「わかりやすい例えで言うと、ロキのところのヴァレン某………【剣姫】……いや、今は【剣女王(クイーン・ザ・スペード)】だったね。彼女に中層のモンスターを押し付けて、どうにかなると思っているのかい?」

 

「それは…………」

 

「だろう? 言っておくけどベル君はヴァレン某よりも強いぜ」

 

「しかし、実際に戻ってきてはいないではないか!?」

 

「まあ、何かトラブルがあったんだろうね。ボクの予想じゃ、ベル君が張り切り過ぎてダンジョンの階層をぶち抜いて下の階層に落ちたっていうのが有力かな?」

 

「そんな冗談を言っている場合か!」

 

なんか怒られた。

ボクは至極真面目だっていうのに………

 

「とりあえず、帰って来ていないのは俺の子供たちの所為でもある。ベル・クラネルの捜索を、責任をもって行おう」

 

タケってばクソ真面目なんだから。

大丈夫だって言ってるのに。

 

「私も協力してあげたいけど、ウチの子でめぼしいメンバーはみんな【ロキ・ファミリア】の遠征に同行しちゃってるのよね………」

 

ヘファイストスがそう言う。

 

「自分から言い出しておいて何だが、ウチからも中層に送り出せるのは桜花と命、それからサポーター替わりに千草がいける程度だ………他は残念ながら、足手まといになる」

 

タケの言葉に、戦力外通告された子供たちはシュンとなる。

 

「でも、3人だけじゃ木乃伊取りが木乃伊になりかねないよ」

 

ヘファイストスがもっともな事を言う。

タケが俯いていると、

 

「キョウジ、頼めるか?」

 

ミアハが声を発した。

ミアハが声をかけたのは、獣人の少女の隣にいるヒューマンの男性。

タケの子供たちと同じで極東出身者の特徴を持っている。

 

「神ミアハの意向ならば従おう。一度手合わせした身としては、神ヘスティアの言う通り心配はないと思うが」

 

キョウジと名乗ったその男性は、何故かベル君の事を知っているような口ぶりだった。

ボクがそのことについて尋ねようとすると、

 

「俺も協力するよ。ヘスティア」

 

聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

入口の方から歩いてきたのは金髪で帽子をかぶり、どこか飄々とした雰囲気を漂わせるボクと同じ神の1人。

 

「ヘルメス!?」

 

「お前何しに!? いつ旅から戻った!?」

 

「なぁーに。ギルドで神友の子供が行方不明になっていると聞いて駆け付けたのさ。どうやらクエストは発注しなかったようだけど、俺も協力するよ、ベル・クラネルと仲間の捜索」

 

ヘルメスはそう言うが、なんか胡散臭いんだよなぁ………

 

「神友とか言って、あなた下界に来てから碌にヘスティアと関わり持っていなかったんじゃない?」

 

「確かに………ずいぶんといい加減な友ではあるな」

 

「あらぁ~、これは手厳しい……」

 

ヘファイストスとミアハの言葉に、ヘルメスはがっくりと肩を落とす。

でも、真剣な顔で頭を上げると、

 

「でも、ヘスティアに協力したいのは本当さ。俺もベル君を助けたいんだ」

 

そう言いながらヘルメスは傍らにいた水色の髪でメガネをかけた女性の肩に手を回し、

 

「捜索には、このアスフィも連れていく「はぁっ!?」ウチのエースだ。安心してくれ」

 

なんかものすごい驚いていたけど、ため息を吐くとしぶしぶと会釈した。

なんだろう。

ものすごい苦労人なオーラが出ている…………

まあ主神がヘルメスだからなぁ………

結局タケはヘルメスの協力を受け入れ、ベル君の捜索をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この話をホームの外で聞いていた人物が居たことに、ボク達は気付かないままに………

 

 

 

 

 

 

 

 

タケ達が準備の為に集合時間を確認し、今夜から探索開始となった。

その時、ヘルメスが自分の眷属と一緒になってひそひそと話している。

その中で、

 

「ああ、俺も付いていく」

 

なんて言葉が聞こえたからボクは聞き耳を立てる。

バレなきゃいいとか迂闊な真似をするのが拙いだけとか聞こえてきたところでボクは決心した。

 

「ボクも連れてけ!」

 

ヘルメス達の話に割り込む。

 

「へ、ヘスティア!? 神がダンジョンに潜るのは禁止事項で………」

 

「バレなきゃいいんだろ?」

 

さっきヘルメスが使ってた屁理屈を言うと押し黙るが、

 

「へ、ヘスティアはベル君の事を心配してないんじゃなかったのか?」

 

「ああ、ついさっきまで心配してなかったけど、たった今心配事が出来た。だから付いてくよ」

 

その心配事とは言わずもがなヘルメスの事だ。

ヘルメスが動くときは大抵裏がある。

そのための監視だ。

とりあえず、ボクもダンジョンに行く準備をすることにした。

 

 

 

 

 

 

【Side ヘルメス】

 

 

 

 

 

ああ、拙いなぁ。

ヘスティアも付いてくるなんて予想外だ。

 

「アスフィ、俺とヘスティア。両方守り切れるか?」

 

「タケミカヅチ派次第ではありますが、もし足を引っ張るようなら保証しかねます」

 

俺一人ならともかく、2人を守り切れると無責任なことは言えないか。

正直なアスフィの言葉に、俺は考える。

 

「もう一人助っ人を連れてくるか」

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

 

僕はダンジョンの中をヴェルフとリリを肩に担いで進んでいた。

 

「悪いな………ベル」

 

「ベル様………申し訳ありません………」

 

ヴェルフとリリが謝る。

 

「さっきから言ってるけど2人に謝らなければいけないのは僕の方だよ。僕が力加減を間違えなければ2人が怪我をすることも無かったんだし」

 

僕の超級覇王電影弾は、ダンジョンの床を破壊し、僕達は下の階層に落下してしまった。

しかも、リリの感覚によると、二階層分ほど落ちたかもしれないということだ。

落ちただけで済めばよかったんだけど、落下の衝撃でリリとヴェルフは重傷を負い、ポーションなどの回復薬もすべて割れてしまって使えなくなってしまった。

僕は無傷で着地できたけど、僕はポーション類は最低限しか持っていなかったため、リリとヴェルフの2人を致命傷から救う程度しか回復できなかった。

2人はとても自力で動ける状態ではなかったので、僕が担いで運んでいる。

そして、2人を担いだまま一つしかない上層への階段を探すのは効率が悪いため、逆に縦穴を使って十八階層の安全地帯を目指し、そこにいる他のパーティにポーション等を融通してもらった方が早くリリ達を回復できるという結論になり、現在十八階層を目指して進んでいる。

とりあえずモンスターは僕が文字通り一蹴しているので特に問題は無い。

ただ、ヴェルフもリリも出血が少なくないため、そううかうかしてられない。

今度はミノタウロスが出てきたので、

 

「そりゃ!」

 

2人に反動が行かないように頭部を蹴り飛ばす。

言葉の通り、首だけが飛んでいきダンジョンの壁に激突して陥没の跡だけをのこすと、その場にあった体は灰となった。

 

「見つけた!」

 

下層への縦穴を見つけると、僕は戸惑わずに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの人々が寝静まる深夜。

ボクとヘルメス、ベル君捜索隊のタケとミアハの子供たち。

それからヘルメスの眷属のアスフィはバベルの前に集まっていた。

ミアハやタケ、ヘファイストスに見送られながらボク達がいざダンジョンに足を進めようとした時、

 

「ヘスティア様」

 

タケの眷属の命という少女が耳打ちしてきて、ボクも気付いた。

暗闇の向こうから1人の人物が歩み寄ってきた。

フードのついたケープを纏い、顔を隠しているが体付きからして女性だろう。

ボクが警戒するようにその人物を見ていると、

 

「心配いらない。彼女は助っ人だよ」

 

ヘルメスがそう言ったため、とりあえずは警戒を解く。

一言も喋らない彼女を少しの間伺い、敵意が無いことを確認すると、今度こそいざダンジョンへ…………

 

「ッ!? 何者です!?」

 

踏み込もうとした時、助っ人君が突然振り返り、2本の小太刀を両手に持って構える。

ボクは驚いてそちらを見ると、いつの間にかそこにもう一人立っていた。

頭巾と布で顔を隠し、茶色いマントを羽織ったその人物は、一見すれば唯の旅人だ。

でも、

 

「これは失礼。ワシは怪しいものではない」

 

「この距離まで私に気配を気取らせない相手が怪しくないわけありません」

 

助っ人君は現れた人物に最大限の警戒をしているようだ。

この時間に狙ったように僕達の前に現れた人物は確かに怪しいだろう。

その人物は声からしてそこそこ年を取った男性だとわかる。

 

「ふむ………とりあえずは名乗ろうか………ワシは……」

 

「東方不敗! マスターアジアァァァァァッ!!」

 

突然叫びながら飛び出したのは、

 

「なっ!? キョウジ!?」

 

ミアハの新しい子供のキョウジというヒューマンの男性だった。

そしてよく見ると、その顔には派手な色の覆面に覆われている。

キョウジ君は鋭い手刀を繰り出す。

いや、実際には見えなかったけど、相手が同じように手を手刀のようにして受け止めたから分かっただけだ。

 

「なっ!? 貴様はやはりシュバルツなのか!? いや、キョウジ・カッシュか!?」

 

相手は驚いたような声を上げ、キョウジ君の名前を言い当てる。

それにしてもシュバルツって、ベル君が戦ったっていう覆面の武闘家の名前じゃ……

って覆面!

 

「どちらも正解だと言っておこう!」

 

2人が同時に間合いを取り素早い動きで跳ね回ると、いつの間にか2人はバベルの塔の入り口の屋根の上にいた。

 

「最初に見たときは他人の空似かと思ったが、そうではなかったようだ。久しいなシュバルツ。いや、キョウジ」

 

「私もこの異世界で貴様に逢うとは思わなかったぞ、マスターアジア!」

 

すると相手はマントと頭巾を脱ぎ去り、その素顔が露になる。

その姿は、白髪交じりの長い髪を三つ編みにして一纏めにし、紫色の変わった服装をした初老の男性だった。

 

「マスターアジア。貴様はこの世界で何をする?」

 

「ワシが何をしたいかだと? 知りたくばその拳で聞いてみせい!!」

 

初老の男性が拳を握りしめながらそう叫ぶ。

あれ?

このノリって何となくベル君に似てるような………

 

「よかろう…………ならば行くぞ! ダンジョンファイトォォォォォォォッ!!」

 

「レディィィィィィ……………!」

 

「「ゴォォォォォォォっ!!!」」

 

示し合わせたかのような掛け声をかけ、2人は同時に突撃し、中央で激突する。

それぞれが相手の拳を左手で受け止め、右の拳を繰り出している。

しかも驚くことに、その激突の衝撃でバベルが揺れた。

いや、冗談抜きで。

 

「とぁあああああああああああああっ!!」

 

「そりゃぁあああああああああああっ!!」

 

2人が目で追うことすら困難なスピードで何度も交差し、そのたびに衝撃がバベルを揺るがす。

更に2人はほぼ垂直に近いバベルの外壁を駆け上がりながら途中で何度も交差する。

交差した部分の外壁が砕け、その欠片がバラバラと落ちてくる。

 

「垂直の壁を走って上ってますね………」

 

「ああ………走って上ってるな………」

 

「ひ、非常識です………」

 

あ、皆呆然としてるな。

ボクはベル君のお陰である程度耐性があるからどうにか大丈夫だけど………

そのまま彼らは地上からは見えないところまで駆け上がっていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

バベルの頂上で東方不敗とシュバルツとなったキョウジは向かい合っていた。

 

「ふん、腕は訛っていないようだな!」

 

「貴様こそ、その実力は流石だと言っておこう!」

 

東方不敗は腰布を解き、気で強化するとキョウジに向かって一気に繰り出す。

 

「何の!」

 

シュバルツは分身して避けると、東方不敗の上を取る。

 

「とあぁああああああああっ!!」

 

キョウジはブレードトンファーで切りかかるが、

 

「むん!」

 

東方不敗は腰布を素早く戻して両手で引き延ばすと、キョウジの一撃を受け止めた。

だが、その足元は大きく陥没している。

キョウジは再び飛び上がると、

 

「そらそらそらそらっ!!」

 

苦無を無数に投げ放った。

だが、

 

「甘いわぁ!!」

 

東方不敗が腰布を振り回すと、まるで腰布が勝手に東方不敗を守るように周囲を取り巻き、苦無を全て叩き落す。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

「とぁあああああああああああっ!!」

 

キョウジもそれで倒せないことはわかっていたので同時に突っ込んでおり、東方不敗もまたそれに立ち向かう。

お互いの右腕同士をぶつけ合い、つばぜり合いのような状態となる。

 

「東方不敗ィィィィィィッ!!」

 

「キョウジィィィィィィッ!!」

 

お互いに力を込めあい、拮抗する力が足元に流れ、バベルの屋根を陥没させながらバベルが断続的に揺れる。

揺れがどんどん激しくなり、ついに崩れるかと思われたその時、何方かともなく力を緩め、揺れは収まった。

2人はお互いに拳を納め、

 

「どのような心変りがあったかは知らんが、貴様の拳に悪意は無かった」

 

「フフッ………ワシが過ちに気付けたのもドモンのお陰よ」

 

「そうか………マスターアジア、一つ聞きたい。ドモンはガンダムファイトに優勝できたのか?」

 

「ああ。デビルガンダムを倒し、そしてこのワシを見事に超えてな」

 

東方不敗は懐かしむように笑みを浮かべる。

 

「そうか………それだけが気がかりだった。感謝するぞ、東方不敗」

 

 

 

 

 

 

その後、ヘスティア達と合流し、東方不敗も共にダンジョンに潜ることになったのだが、バベルの中にいた神々が大惨事に陥っていることを彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 







第二十二話の完成です。
さて、ベル君遭難の回ですがどうすれば遭難するかでしたが、ベル君が階層ぶち抜いたのが答えでした。
やはり電影弾はダンジョン内では禁止です。
そして皆さんお待ちかねー。
師匠の登場です。
戦闘シーンが短いせいでインパクトに欠けますがあれ以上やると真面目にバベルが崩壊しますので………
ですが、ベル君との再会の時にはもっとはっちゃけさせたいと思っております。
それでは次回にレディー………ゴー!!


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