ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第十五話 ベル、リリを助ける

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

リリを雇ってから数日。

一日辺りの稼ぎが六桁を超えるようになり、【ファミリア】の蓄えがどんどん増えていくことにご満悦の神様。

そう遠くないうちにちゃんとしたホームを手に入れることが出来るだろうと言っていた。

そういえばつい先日、どっかで見た冒険者がリリをハメるとか何とかで協力しろとかふざけた事を言っていたからとりあえず殴って気絶させといた。

リリにも絡んでる冒険者がいたみたいだから、近々何かあると僕は思った。

 

 

日も昇らない早朝のうちから、僕は日課の修行を行っていた。

 

「ふっ! せいっ!」

 

拳を繰り出し、蹴りを放つ。

僕の気持ちは修行に雑念が入らない程度には安定し、真剣に鍛錬を行えるようになった。

数日前にダンジョンでアイズさんと会ってから、まだアイズさんとは会えていない。

あのエルフの女性……‥確かリヴェリアさんって呼ばれてたと思うけど、その人が言った事が本当なら、僕はアイズさんには嫌われていないらしい。

強引にでも話をしてみろとは言われたが、会えなければ話も出来なかった。

そんな事を考えていると、久しぶりに階段の扉が開く音が聞こえた。

そこから現れたのは…………

 

「……………アイズさん………」

 

アイズ・ヴァレンシュタインその人だった。

アイズさんは顔を赤くしながら僕と視線を合わせたり外したりを繰り返し、

 

「………お、おはよう………ベル」

 

そう挨拶してきた。

 

「は、はい……おはようございます、アイズさん」

 

僕も戸惑いながら挨拶を返した。

 

「…………………」

 

ところが、アイズさんは再び黙り込んでしまい、チラチラと僕に視線を向けてくる。

僕もどうしたらいいかわからず黙り込んでいると、

 

「や、やっぱりダメッ……………!」

 

顔をさらに赤くしたアイズさんが踵を返して走り去ろうとした。

 

「アイズさんっ!」

 

僕は反射的に地面を蹴ってアイズさんに追いつくと、その手を掴んで止める。

 

「あっ……………」

 

僕に手を掴まれたことで、アイズさんは僕の方に振り向き、

 

「あ…………あ…………!」

 

どんどんと声が上ずっていくと同時に顔の赤みが増していき、

 

「………………………………ッ!」

 

カクリと気を失った。

 

「えええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!??」

 

突然気を失い、僕の方に倒れ掛かってきたアイズさんを受け止めると、僕はアタフタと慌てる。

 

「ええ~っと………」

 

アイズさんを抱き上げながらどうしようかと回らない頭で考えた挙句…………

 

「…………………僕、何でこんなことをしたんだろう?」

 

冷静になった時にポツリと呟いた。

現在は場所は市壁の上なのは変わらないが、僕は床に正座の状態で座り込んでいる。

そしてアイズさんは床に寝かされ、その頭は僕の膝の上に。

所謂膝枕というやつを僕がアイズさんにしていたりする。

本当に僕は何をやっているんだろう?

逆だったら良かったのに、と思わないでもない。

アイズさんは規則正しく呼吸をしているため、体調が悪いとかそういうことではないみたい。

何で気絶したのかはわからないけど………

静かに呼吸するアイズさんの顔を見る。

本当に綺麗で、ヒューマンとは思えない美貌。

輝くような金色の髪に白い肌。

僕は自然とアイズさんの髪を梳く。

アイズさんの性格からして、手入れは最低限しかされてないであろうその髪も、指に絡まることなく流れ、床に広がった。

 

「あ…………」

 

気付けば僕はアイズさんに顔を近付けていた。

僕は何をしているんだろう?

胸のドキドキが収まらない。

頭がボーっとする。

耳元で悪魔(お爺ちゃん)が囁く。

 

『行けぃベルよ! 添え膳喰わねば男の恥ぞ!!』

 

寧ろ叫んでた。

僕はその声に導かれるままに顔を近付けていき、

 

「…………ううっ」

 

丁度目を覚ましたアイズさんとばっちり目が合った。

 

「ッ! ご、ごめんなさい!」

 

僕は上半身をのけぞらせるように顔を離す。

僕は今何をしようとしていたんだ!?

 

「えっ……………?」

 

アイズさんは今の状況を理解できないのか僕の膝の上でキョトンとしている。

すると、ようやく状況を理解したのか、

 

「ッ…………!?」

 

顔を真っ赤にして跳ねるように飛び起きた。

 

「ベ、ベル………!? わ、私…………!?」

 

「お、落ち着いてくださいアイズさん! アイズさんはいきなり気を失ってしまったんです」

 

「気を失った…………?」

 

アイズさんは首を傾げる。

 

「私、ベルに会いに来て…………それで………」

 

アイズさんは何か呟いている。

 

「あの………アイズさん?」

 

「ごめんなさい。 また迷惑をかけちゃった」

 

アイズさんは頭を下げる。

 

「いやいや! 頭を上げてください! ちょっとびっくりしましたけど別に迷惑だなんて思ってませんから!」

 

「本当…………?」

 

「本当です! むしろ役得でしたぁぁぁぁぁぁああああああ!?」

 

僕は一体何を口走っているのか?

 

「…………?」

 

アイズさんはまた首を傾げる。

その仕草も可愛くてドキッとする。

 

「そ、それでアイズさん! 今日はどうしてここに!?」

 

僕は慌てて話題を変える。

 

「うん…………一つはお礼をまだ言ってなかったから」

 

「お礼………ですか?」

 

「うん。 君のお陰でランクアップできた。 本当にありがとう」

 

「あっ、ランクアップしたんですね。 おめでとうございます」

 

「ありがとう。 それと、何度も逃げてごめん」

 

アイズさんは再び頭を下げる。

 

「あ、いえ、仕方ありませんよ! 僕はアイズさんを殺そうとした上に、武器まで破壊しちゃったんですから! 僕の事を嫌って当然です!」

 

「ッ……! 違う!!」

 

突然アイズさんが発した大きな声に僕は驚く。

 

「君の事を嫌いになんかなってない!! なるはずがない!!」

 

何時ものアイズさんとは違う迫力に、僕はタジタジになる。

 

「君には感謝してる! 君のお陰で私は強くなれた! 更に先の強さも見せてくれた! だから、君を嫌いになるなんて、絶対に無い!!」

 

「アイズさん………」

 

アイズさんの言葉に、僕は感動する。

嫌いになるなんて絶対に無いとまで言ってくれたアイズさんの言葉には、嘘など無い。

その言葉は、僕の心にあった最後の引っ掛かりを取り払ってくれた。

 

「ありがとうございます、アイズさん………」

 

「ううん………私こそ、いきなり叫んでごめん」

 

「いえ…………」

 

「あと…………最後にお願いがある」

 

「なんですか?」

 

「これからも………ここに来ていい?」

 

顔を赤らめながらそう聞いてくるアイズさん。

僕も自然と笑みを浮かべ、

 

「もちろんです。 大歓迎ですよ、アイズさん」

 

「ありがとう………ベル」

 

アイズさんも笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、今日もお願い………」

 

アイズさんは立ち上がり、刀を抜く。

 

「いつでもどうぞ、アイズさん」

 

僕も刀を抜いて構える。

 

「はぁあああああっ!!」

 

「ふっ!」

 

朝日が昇る中、市壁の上に剣戟の音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

およそ一週間振りにベルと話ができた私の心は軽かった。

朝の鍛錬を終え、ホームに戻ってくると、

 

「アイズたん見つけたーーーーーーーっ!!」

 

ロキが叫びながら飛びついてくる。

私はその場を避けると、ロキが通り過ぎて床に倒れる。

 

「アイズたんのいけず~。 受け止めてくれてもいいやん」

 

「いい加減にしないと斬ります」

 

何時もの言葉を交わすとロキは気を取り直し、

 

「アイズたん、このあとで【ステイタス】の更新をしよか」

 

ロキの言葉に首を傾げる。

つい数日前にランクアップを果たしたばかりだ。

昨日も日帰りでダンジョンに潜ったとは言え、更新する程【経験値(エクセリア)】が溜まってるとは思えない。

私が断ろうとすると、

 

「悪いけど決定事項や。 ちょい気になることがあるんでな」

 

珍しく真面目なロキの表情に、私は頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

【Side ロキ】

 

 

 

アイズたんが【ステイタス】更新の為に準備をする。

ウチが気になっとることは、先日アイズたんに発現したスキル、【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の効果がどの程度のものなのか、ってことや。

アイズたんの準備ができたところでウチは【ステイタス】の更新を始める。

成長に影響するスキルなんて聞いたことないけど、高くても二~三倍程度の成長率になるとウチは予想しとる。

この短期間でなら、トータル5~10上がっとれば御の字やと思っとる。

まあLv.7やし、それは高望みしすぎかな思っとたんやけど…………

 

 

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

Lv.7

 

 

 

力  : I0→I67

 

耐久 : I0→I45

 

器用 : I0→I86

 

俊敏 : I0→H101

 

魔力 : I0→I22

 

 

 

 

 

 

「ファッ!?」

 

思わず変な声が出てもうた。

 

「………ロキ?」

 

アイズたんが気にして声をかけてきたけどウチの耳には入っとらん。

トータル320オーバー!?

俊敏に至っては初っ端から能力段階が上がっとるし!

あかん!

レアスキル舐めすぎとった!

こりゃ隠しきれん!

ウチは苦渋の決断としてフィンとリヴェリアを呼び出した。

 

「……………?」

 

アイズたんは訳が分からず首を傾げとる。

やがてフィンとリヴェリアが部屋に入ってくると、

 

「ロキ、急に呼び出しとは何があった?」

 

リヴェリアがそう聞いてくる。

ウチはまず一枚の用紙を取り出した。

その紙には、ランクアップ時のアイズたんの【ステイタス】が書かれとる。

ただし、例の2つのスキルは除いて。

 

「まず、そいつがこの前アイズたんがランクアップした時の【ステイタス】や」

 

「これは先日見せてもらったものだろう? これがどうかしたのか?」

 

フィンが訪ねてくる。

 

「そんでこれが今回更新した【ステイタス】や」

 

ウチは続いて、今回の更新した【ステイタス】が書かれた紙をアイズたんに渡す。

 

「…………ッ!?」

 

「これは………」

 

「なんとまあ………」

 

アイズたんも目を見開いて驚いとる。

 

「ロキ………! これって………!」

 

「疑われる前に言うとくけど、これはホンマもんの【ステイタス】や。 嘘偽りやないことは神の名に誓う」

 

ウチはアイズたんをジッと見て、

 

「アイズたん。 気になっとる男は居らんか?」

 

「えっ………? 何を…………」

 

「真面目な話や。 アイズたん、気になっとる男が居るやろ?」

 

さっきよりも確信に近い声でアイズたんに問いかける。

 

「……………………」

 

アイズたんは俯いて何も言わんかったけど、

 

「ベル・クラネル…………だろう?」

 

リヴェリアがそう言った瞬間、アイズたんがガバッと顔を上げた。

いや、そんな激しく反応したら、既に肯定しとるようなもんやん。

 

「リヴェリア………どうして………」

 

「ダンジョンでベル・クラネルと出会った時の反応を見れば、誰でもわかる」

 

フィンも言うた。

 

「……………ッ!」

 

アイズたんは顔を赤くして俯いてまう。

その仕草はむっちゃかわええ!

むっちゃかわええんやけど!

 

「それでロキ、今の話とアイズの成長に何の関係が?」

 

フィンが問いかけてくる。

ウチは躊躇しながらも渡した【ステイタス】の用紙の一列に指を走らせた。

そうすることで、隠された【スキル】の一つが顕になる。

 

「【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】…………?」

 

「なるほど………」

 

「教えなかったわけだ……」

 

フィンとリヴェリアの2人は即座に事情を察する。

 

「つまりアイズたんは、ベルに惚れれば惚れるほど強くなりやすいっちゅう事や。 正直、教えたくはなかったんやけど、これだけ成長に影響を与えるなら遅かれ早かれ感づいとったやろ。 ま、当然やけどこの事は他言無用や。 フィンとリヴェリアも他の神に感付かれんようにアイズたんのフォローを頼むわ」

 

「わかった」

 

「いいだろう」

 

「そういうことや。 アイズたんはもう行っていいで」

 

アイズたんは顔を赤くしながらそそくさと部屋を出ていった。

 

「……………意外だな。 てっきりベルと会うのは禁止するぐらいは言うと思っていたのだが……?」

 

リヴェリアがウチにそう言ってくる。

 

「ま、そういう思いが無かったっちゅうと嘘になるけど、それ以上にアイズたんの強くなりたいっちゅう願いを叶えてあげたいんや。 あのスキルはアイズたんが強くなるのにはうってつけや」

 

「そうかもしれんがそれはよりベルと近付くことになるぞ」

 

「まあ、ベルの事は嫌いやないしアイズたんの想いもスキルになるほど大きいもんや。 だからと言って二人の関係を認めるかと言われればノーや。 違う【ファミリア】間の恋愛は面倒しか生まん」

 

「それはそうだが、今の勢いだとアイズが【ファミリア】を脱退すると言いかねんのだが…………」

 

「そこは、ホレ………」

 

「言っておくが、僕は人の恋路を邪魔する趣味は無い」

 

「私もだ。 ようやくアイズが戦うこと以外に目を向けてくれたのだ。 私はそれを後押ししてやりたい」

 

「なっ!? 裏切り者~~~~~っ!!」

 

ちょっと待てや!

2人が協力してくれんとアイズたんがベルに、ひいてはあのドチビに持ってかれるやないかー!!

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

今日もリリと一緒にダンジョンに潜っている。

リリの進言で、今日は十階層まで行くことになった。

十階層からは、大型のモンスターも出るという話だから少し楽しみだ。

とりあえず迫りくるキラーアントの大群を拳圧でまとめて吹っ飛ばす。

リリもこの光景には慣れたようで、手際よく魔石を拾い集めている。

道中の敵を瞬殺しながら進み、十階層に到達する。

十階層からはダンジョンの雰囲気がガラリと変わり、霧に包まれた草原のような場所だ。

出てきたのは豚のような顔をした大型モンスターのオーク。

 

「下がってて、リリ」

 

僕はそう言ってオークの前に歩いていく。

 

「ガァアアッ!!」

 

オークは手に持った棍棒を振り上げ、僕に向かって振り下ろす。

 

「ふっ!」

 

僕はその棍棒を左手で受け止めるとそのまま右の拳を握り締め、ガラ空きの腹に叩き込んだ。

ちょっと力が入りすぎた様でオークの腹が吹き飛び、上下真っ二つになった。

 

「ベル様! もう一匹きます!」

 

リリの声と同時にもう一匹オークが現れ、こちらに向かってくる。

今度は僕からオークに向かっていき、

 

「はぁあああああっ!!」

 

オークの顔面に飛び蹴りを放ち、首を吹き飛ばした。

すると、リリの気配がどんどん遠ざかっていくのを感じる。

 

「リリ………」

 

そろそろ何かある頃だと思っていたけど、もう行動を起こしたみたい。

すると、異臭が鼻を突いた。

 

「この匂いは………」

 

臭いの元を辿ると、木の根元に血肉が転がっていた。

 

「これって………確かモンスターをおびき寄せるための………ッ!」

 

複数の足音が響き、オークの大群が僕を囲んでいる。

リリの気配を辿ると、既に上の階層へ戻る階段の中腹にいた。

 

「ごめんなさいベル様。 もうここまでです」

 

リリは踵を返し、

 

「ベル様なら死ぬ事はないでしょう。 折を見て逃げ出してくださいね」

 

リリはそう言い残すと階段を登っていく。

周りには、先程よりも増えたオークの群れ。

 

「………やれやれ」

 

僕は溜め息を吐くと構えを取った。

 

 

 

 

 

 

 

【Side リリ】

 

 

 

予め決めておいた逃走ルートを走る。

【ステイタス】の低い私でも、モンスターの出現率が低いルートを絞り込めば、十階層から地上へ戻るのもそう難しくは無い。

私はフードを取り、顕になった獣人の耳に手をあて、

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

魔法解除の詠唱を唱える。

獣人の耳と尻尾が消え去り、リリ本来の姿、小人族(パルゥム)になる。

この魔法で何人もの追っ手を巻いてきた。

僅かに後ろ髪を引かれる思いはあるが、

 

「いいえ、これでいいんです。 ベル様も、冒険者なんですから……………リリの大嫌いな………」

 

自分に言い聞かせるように呟き、逃走を再開する。

頭に叩き込んだマップを頼りに、手ごわいモンスターを避け、上の階層に駆け上る。

九階層、八階層とダンジョンを駆ける。

 

「七階層………ここを越えれば………!」

 

一安心。

 

「あっ!」

 

そう思った瞬間、足が何かに引っかかり、転倒してしまう。

 

「嬉しいじゃねえか………大当たりだ」

 

「はっ…………! あうっ!?」

 

聞き覚えのある声にハッとした瞬間、お腹に衝撃が走る。

視界が反転し、お腹がズキズキと痛む。

 

「散々舐めやがって………この糞小人族(パルゥム)がっ!!」

 

「あうっ!? がっ!?」

 

相手を確認した瞬間、数回蹴られ、髪を掴まれ持ち上げられる。

 

「良いザマだなコソ泥。 そろそろあのガキを捨てる頃だと思ったぜ。 ここで網を張ってりゃ必ず会えると思ってなぁ」

 

「うぅ………あ……み…………?」

 

「この階層でお前が使える道はそう多くねえ。 4人で手分けしてたんだが………ヒャハハ! 見事に俺の所に来るとはなぁ!」

 

ああ、またこの顔です。

リリの大嫌いな冒険者の顔です。

耳障りな笑い声。

気持ちの悪い笑顔。

完全にリリを人として見ていない顔。

ローブを剥ぎ取られ、リリは床に放り投げられる。

 

「ハッハァッ! いいもん持ってんじゃねえかよ! 魔剣まで持ってるとはなぁ!」

 

隠し持っていた魔剣まで奪われる。

 

「派手にやってますなぁ、旦那!」

 

「お前らか、早かったな」

 

別の声が聞こえ、視線を向けるとそこには同じ【ソーマ・ファミリア】の団員が3人いた。

そこで私は気付く。

先程言っていた『4人で』とは彼らの事だと。

 

「見ろよこのガキ、魔剣まで持ってやがってよ。 お前らの言うとおり、かなり溜め込んでいるみたいだぜ、こいつ」

 

「そうですかい。 ところで旦那、ひとつお願いがあるんですが………」

 

その時、【ソーマ・ファミリア】の団員が担いでいた大きな袋の中身がもぞりと動く。

 

「そいつの持ち物、全部置いてって欲しいんでさぁ!」

 

そう言うとともに、袋を冒険者に押し付ける。

その中から現れたのは、

 

「ギギィ!」

 

「キ、キラーアント!?」

 

冒険者は慌てて袋ごとキラーアントを投げ捨てる。

 

「しょ、正気かテメェ! 何やってるのかわかってんのかぁ!!」

 

冒険者は慌てる。

それも当然です。

なぜなら、

 

「ええ。 瀕死のキラーアントは仲間を集める信号を出す。 冒険者の常識ですわ」

 

残りの2人も、次々と袋を放り投げ瀕死のキラーアントが這い出してくる。

 

「ひっ!」

 

私は思わず声を漏らす。

 

「テ、テメェらあぁっ!!」

 

冒険者は背中の剣を抜こうとするが、

 

「旦那、俺達とやりあってる間に、奴らの餌食にはなりたくないでしょう?」

 

既に通路から多数のキラーアントが顔を覗かせている。

冒険者は悔しそうに魔剣を地面に叩きつけようとして、

 

「内輪揉めはそのぐらいにしてもらえないかな?」

 

私は一瞬聞き間違いかと思った。

なんで………?

どうして………?

八階層からの階段を登ってきたのは………

 

「なんでここに居るんですか………? ベル様!?」

 

十階層で私が罠に嵌めたはずのベル様だった。

 

「ガ、ガキッ!? 何でテメェがここに!?」

 

ベル様は何でもないように私の近くに歩み寄ってくると、

 

「大丈夫? リリ」

 

何時もの様に、私に手を差し伸べた。

 

「おやおや? アーデが罠に嵌めた冒険者ですかい? 運良く逃げてこれたみたいでなによりでさぁ。 旦那も仕返しに来たクチですかい?」

 

私はそれを聞いてビクリとしてしまう。

そうです。

私はベル様を嵌めたんです。

絶対に仕返しに来たに決まっています。

私は危うく伸ばしそうになった手を握り締める。

 

「罠……………? ああ、もしかしてコレのこと?」

 

ベル様はひょいと後ろへ何かを放った。

それは、

 

「「「「なっ!?」」」」

 

4人の顔が蒼白になる。

何故なら、それは私が用意したモンスターをおびき寄せる血肉。

でも、ベル様は何時もの様に笑い、

 

「こんないい物持ってるんだったら、リリも早く使ってくれれば良かったのに」

 

そんな事を言った。

 

「あ、頭おかしいんじゃねえのかガキッ!? こんな物を持ってきたら………ッ!?」

 

先ほどの倍以上の数のキラーアントが私達の周りを囲んでいる。

アイテムの効果とキラーアントの特性が合わさった結果だ。

慌てふためく4人を他所に、ベル様は私を抱き上げる。

 

「あっ………」

 

「ごめんね、来るのが遅れて。 数だけは多かったから、少し時間が掛かっちゃった」

 

「なんで………なんでベル様が謝るんですか!? 悪いのはリリです! 全部リリが悪いんです! リリは盗人です! コソ泥です! 悪い奴なんです!! 冒険者を嵌めて! 武器や防具を盗んで売り払ってます! ベル様にだって、換金したお金をちょろまかしてます! 初めからお金目当てでベル様に近付いたんです!!」

 

私は心の内をぶちまける。

 

「そうだ! 全部そいつが悪いんだ!! お前も分かるだろ!! そんな薄汚い小人族(パルゥム)なんざ俺達みたいな冒険者に使われてるだけでありがたいことなんだよ!!」

 

冒険者の男が私の言葉に便乗するように叫ぶ。

でもその通りだ。

今更反論する気も無い。

でも、

 

「黙って」

 

一瞬でベル様が冒険者の額を掴む。

すると、

 

「あ………が………?」

 

まるで麻痺を受けたように痙攣し、冒険者が動かなくなった。

 

「流派東方不敗 シャイニングフィンガー。 安心しなよ、麻痺させただけで死ぬわけじゃない」

 

ベル様は手を離すと、

 

「確かにリリは悪党かもしれない。 でも、悪人では決して無い!」

 

私は目を見開く。

 

「目を見ればわかる。 リリはとても優しい女の子だ。 それでも悪党になってしまったのは、全部お前たちのような冒険者が原因だ」

 

「ッ」

 

「リリは悪党にならなければ生きていけなかったんだ。 そこまで追い詰めたのはほかならない貴方達でしょう?」

 

私の目からボロボロと涙が溢れる。

でも、気付けば周りはさっき以上にキラーアントに囲まれている。

 

「くそっ! もう逃げ場が………なあ旦那、綺麗事はよしましょうや。 旦那だって本当はアーデを足手纏いと思ってるんでしょ? ここはひとつ協力してそいつらを囮に脱出しましょうよ」

 

「……………囮………か。 いい考えだね」

 

ベル様の言葉に、私は俯く。

信用しようとした矢先にこれだ。

やっぱり冒険者なんて………

 

「じゃあ、君達が囮になってよ。 僕はリリを連れて逃げるから」

 

私はハッとする。

 

「な、何言ってるんですかい旦那! 囮ならアーデ達を」

 

「なんで? 僕はリリを助けに来たんだ。 君達がどうなろうと知ったことじゃないよ。 もしかして、自分が囮にされる覚悟もないのに。リリを囮にするなんて言ったの?」

 

ベル様は私を抱いたまま一瞬で冒険者に近づくと、先ほどと同じように冒険者の頭を掴み、次々と麻痺させた。

 

「じゃ、後よろしくね」

 

キラーアントが動けない冒険者達に迫る。

そして、

 

 

 

 

 

「………と、言いたいところだけど」

 

一瞬で冒険者に迫っていたキラーアントが吹き飛ばされる。

 

「殺人は僕の修めている流派では禁手なんだ。 残念だけど、助けてあげるよ」

 

ベル様が冒険者たちの前に立ちはだかってそう言った。

無茶です……いくらベル様でもこれだけの数を相手に………

 

「ベル様! リリを置いて逃げてください!」

 

私は叫ぶ。

 

「リリはベル様に助けられる資格なんてありません! リリが囮になります! ベル様はその間に……!」

 

「リリ」

 

ベル様の静かな声に私の言葉が止められる。

 

「資格とか、そんなんじゃない。 僕が助けたいからリリを助けるんだ」

 

私の目から再び涙が溢れる。

 

「どう……して………? どうしてリリを助けるんですか!? どうしてリリを見捨てないんですか!? 私がいつ『助けて』なんて言いましたか!?」

 

「最初からだよ……」

 

「えっ」

 

「最初に会った時から、君の目は『助けて』と叫び続けてる」

 

「ベル……様…………」

 

「そして、僕は君を助けたいと思った。 だから助けるんだ」

 

「う………うあっ…………」

 

自分でも気付いていなかった………

違う、気付いてない振りを続けていた自分の思いが溢れ出る。

 

「たす………けて…………」

 

私の口から思いが零れる。

 

「助けて…………私を助けてください! ベル様!!」

 

私はベル様に縋り付く。

 

「うん。 必ず助けるよ」

 

ベル様は私を安心させるように抱きしめる。

ベル様の温もりは、モンスターの大群に囲まれているにも関わらず、私に安らぎを与えてくれた。

 

「さてと…………」

 

ベル様は私を抱いたままモンスターに向き直る。

 

「悪いけど、リリを不安にさせたくない。 ここは一気に決めさせてもらうよ」

 

ベル様はそう言うと、私を右腕でしっかり抱きしめる。

身体がより密着し、ベル様の体温をより感じられる。

私もベル様にしっかりと抱きついた。

ベル様は左手を前に突き出し、

 

「流派東方不敗…………秘技!」

 

ベル様は左手の掌で大きな円を描くように腕を回し始める。

 

「十二王方牌…………」

 

すると、見たことのない文字が浮かび上がり、炎のように揺らめく光が6つ出現する。

 

「………大車併!!」

 

最後にその円の中央に左手を突き出す。

その瞬間、私は目を見開く。

何故なら、どう見ても小さなベル様が6人飛び出し、モンスターへ向かっていく。

その小さなベル様達は縦横無尽に飛び回り、囲んでいたモンスター達を粉砕していく。

やがて、一分も経たないうちにモンスター達が全滅し、

 

「帰山笑紅塵!」

 

ベル様がそう唱えると、小さなベル様達が戻ってきて、ベル様の中に戻るように消えた。

 

「はい、終わり」

 

ベル様は私に笑いかける。

 

「ベル様…………ごめんなさい………ごめんなさい! ベル様ぁ!」

 

ホッとした私は感情が溢れ出し、涙を堪えることが出来ずにベル様に縋り付く。

 

「大丈夫………もう大丈夫だよ………リリ」

 

私は、今まで感じたことない温もりに包まれ、しばらくの間泣き続けた。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

因みにその頃、【ロキ・ファミリア】の訓練場で謎の大爆発が起き、訓練していた何人かが重傷を負ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ナァーザ】

 

 

 

初めまして。

私は【ミアハ・ファミリア】に所属するナァーザ・エリスイスです。

って、私は誰に挨拶してるんでしょうか?

ともあれ、今日も【ファミリア】の経営は火の車。

あの手この手でお金をかき集めているが、本気で限界に近づいて来ている。

正直、このペースだと後数ヶ月持つかどうかだ。

まあ、経営難の原因がミアハ様がタダでポーションを配りまくっているという自業自得なのだが。

ついこの間、ミアハ様の友神であるヘスティア様に新人の眷属ができたという話を聞いたが、最初に1回来ただけで後は全く来ていない。

見るからに新人みたいだったから、うまくやればお金を巻き上げる事が出来たはずだが、来なければどうしようもない。

私は今日も何とか乗り切ろうと店を開け、開店の準備をする。

すると、

 

「あれ?」

 

店の横から気配を感じた私は、様子を伺う。

するとそこには店の壁にもたれ掛かりながら気を失っている紺色の服を着た男性がいた。

見た感じは20代後半だろうか?

 

「…………行き倒れ?」

 

見た限り外傷は無い。

店の前で倒れるなんてはた迷惑な。

正直面倒事には巻き込まれたくはないが、私が無視しても、おそらくミアハ様が見つければ店に連れ込むだろう。

そう予想した私は、仕方なくその男性の肩を担ぎ、持ち上げる。

いくらモンスターと戦えなくても、Lv.2の能力は健在であり、人一人ぐらいなら簡単に持ち上げられる。

そこで気付く。

この人が来ている服の手触りは、綿でも絹でもない。

触ったことのない服の手触りに私は不思議に思いながらも店の奥にあるベッドに彼を寝かせる。

時々様子を見ながら店番をこなして、日が暮れる頃、

 

「ううっ………」

 

男性が呻き、ゆっくりと目を開ける。

 

「こ、ここは………?」

 

「気が付いた? 自分の名前は言える?」

 

私は男性に問いかける。

彼は上半身を起こし、

 

「私はキョウ………うっ、いや、シュバ………ううっ………!」

 

彼は痛みを訴えるように頭を押さえる。

 

「すまない………記憶が混乱しているようだ…………少し時間をもらいたい………」

 

「いいけど………変な真似したらすぐに追い出すから」

 

私はそう言って部屋を出る。

見知らぬ男を一人にするのは気が引けるが、盗めるような物など店にしか置いてないため、大丈夫だろう。

さて、厄介事に巻き込まれなきゃいいけど。

 

 

 

 

 






ベルの使った技。


・シャイニングフィンガー
掌底打として機能もするが3本の指先に「気」を集中して相手の額に放つ事で、脳神経を麻痺させる事ができる。



・十二王方牌大車併
掌を前面に突き出し、大きく円を描くように動かしながら梵字を出現させ、そこから気で使用者の小型の分身を多数作り出し、対象に攻撃を仕掛ける。
分身を帰還させる「帰山笑紅塵」を使用する事で、気の消費を抑えることができる。

byウィキペディア





第十五話完成。
それなりにはっちゃけたつもり。
前回ほどではないけど。
因みに前回でUA300000とお気に入り6000突破です。
皆様本当にありがとうございます。
さて、今回はアイズと仲直り?。
そんでアイズのチートスキルが本領を見せ始めました。
ロキについてはご愁傷様。
リリ救済はこんな感じでどうでしょうか。
あと、十三話の冒険者のレベルを修正しときました。
Lv.2がキラーアントにやられるわけないっつーの。
ロキ・ファミリアでの謎の爆発については何も言うことはないでしょう。
そして最後に出てきたナァーザが拾った男性とは!?
一体何ウジなのか!? 何バルツなのか!?
乞うご期待!
それでは次回に、レディー…………ゴー!!!

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