ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第十四話 ベル、魔導書を読む

 

 

 

日が昇る早朝。

今日もダンジョンへ向かう為にメインストリートを駆けるベル。

そのベルを、遠くバベルの塔の最上階から見下ろす視線があった。

その視線の主は美の神フレイヤ。

ベルを見るその表情はうっとりとした恋する乙女のような表情だ。

 

「ああ…………やっぱり素敵………」

 

相反する色が綺麗に混ざり合い、虹のような魂の色を見せるベルの輝きに、フレイヤはうっとりとした声を漏らす。

と、駆けていたベルが立ち止まり、まっすぐフレイヤと視線を交わらせる。

 

「フフッ………また気付いたのね」

 

フレイヤは楽しそうに笑う。

ベルを見るときはいつもこうだ。

自分の視線に即座に気付き、尚且つその視線を辿って自分を見てくれるような気分になる。

 

「ああ………欲しい………」

 

見れば誰もが誘惑されてしまいそうな表情でベルを見下ろす。

それでもたった一つフレイヤには気になっていることがあった。

魂の色を見ても、魔力は加算されていない。

それだけがフレイヤには頼りなく思えた。

 

「そうね………【魔法】ぐらいは使えないと………」

 

すると、フレイヤは部屋の隅にある本棚から一冊の分厚い本を手に取った。

 

「これがいいかしら?」

 

内容を確認して、満足そうに頷くと、

 

「後は、これをあの店に置いておけば………」

 

フレイヤはそう呟き、その本を胸に抱く。

 

「ああ………あの子は一体どのような【魔法】を覚えるのかしら…………?」

 

 

 

 

その日、【豊穣の女主人】の店に、一冊の本が残されていた。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

「いやー! 今日もよく稼いだね!」

 

ダンジョン探索を終え、ホクホク顔で帰路に付く僕と、

 

「合計三十万ヴァリス超……………」

 

何やら諦めたような呆れたような声を漏らす、僕が雇ったサポーターのリリ。

 

「中層どころか十階層にも満たないのにこんなに稼ぐなんて…………ベル様絶対におかしいです…………」

 

失敬な。

僕は人より“多少”鍛えただけの武闘家だよ?

 

「まあ、確かに美味し過ぎる契約ではありますが………」

 

稼いだ額の半分はリリに渡している。

リリはお金が必要みたいだし、働いた分の報酬はキッチリ払いたいと思っているからだ。

 

「あはは。 まあ気にしない気にしない」

 

「…………そうですね。 ベル様のやることを一々気にしてたら身がもちません」

 

なんだろう?

言葉にトゲが。

 

「では、今日の所はリリはこれで」

 

「うん。 明日も頼むよ」

 

リリと別れ、僕はギルドへ向かう。

 

 

 

ギルドでは、いつも通りエイナさんが対応してくれる。

キスの事があった翌日は、顔は合わせ辛かったけど、エイナさんはごく普通に対応してくれた。

エイナさん曰く、

 

「ヘスティア様にも言ったけど、公私の区別はつけるよ」

 

って言われた。

公私の区別ってそういうことですか!?

とはいえ、前よりも何だが対応が柔らかくなったというか、親身になってる気がする。

エイナさんの気持ちに対しては保留状態だけど、いつかははっきりさせないとダメだということは理解している。

今日はとりあえず、リリの事をエイナさんに教えてみた。

 

「えっ? ベル君サポーター雇ったの?」

 

「はい。 【ソーマ・ファミリア】所属の犬人(シアンスロープ)の女の子です」

 

「女の子………じゃなくて、【ソーマ・ファミリア】かー………んー、これはまた強く反対も賛成もできない所が出てきたなぁ………」

 

エイナさん曰く、【ソーマ・ファミリア】は探索系ファミリアだけど、商業系にも片足を突っ込んでいるらしい。

それがお酒を販売しているということ。

そのお酒は絶品で、オラリオの中でもかなり需要は高いそうだ。

あと、エイナさんの主観だけど、所属する人皆が何かに取りつかれたようにお金に対して死に物狂いだということも聞いた。

 

「まあ、でも、その子を雇うのはやっぱりベル君の心次第かな?」

 

「そうですね。 でも、僕の心はもう決まってますよ」

 

僕は決意を新たにそう言う。

 

「そう。 それじゃあ私から言うことはもうないかな」

 

「はい。 相談に乗ってくれてありがとうございました」

 

僕はエイナさんにお礼を言ってギルドを後にする。

その際、

 

「はぁ………またライバル増えちゃうのかな?」

 

何て呟きがエイナさんの口から漏れた。

 

 

 

 

ホームに戻ると、神様はまだ帰ってきていないようだった。

そこでふと視線を移すと…………

 

「あ…………」

 

シルさんに借りたまま返していなかったバスケットが目に入った。

しまった、返すの忘れてた。

とりあえず、日が暮れるまでまだ時間があるので忘れないうちに返しに行こうと思い、僕はバスケットを手に取った。

 

 

 

 

「本っっっっ当に御免なさい!!」

 

僕はシルさんに思い切り頭を下げる。

 

「あはははは………」

 

苦笑するシルさん。

 

「頭を上げてくださいベルさん。 私は気にしていませんから」

 

「………本当にすみませんでした」

 

もう一度謝って顔を上げる。

 

「いっぱいからかわれたんですよ?」

 

唇を尖らせて少し恨みがましい目付きを向けてくる。

何故かそう言う仕草も可愛いと思えてしまう。

僕は申し訳ないと思いつつ視線を泳がせると、ふと以前には無いものが目に入った。

 

「あれ? 前にこんな物ありましたっけ?」

 

棚の上に置かれている白く分厚い本。

 

「ああ、それはお客様のどなたかが忘れていってしまったようなんです。取りに戻られた際に気付いてもらえるようにこうして置いていて」

 

そこでふとシルさんが思いついたように、

 

「良ければ、お読みになってみますか?」

 

「え? いや、預かり物でしょう、これ?」

 

「ちゃんと返して頂ければ問題ありません。 本は読んだからといって減るものではありませんし、これは多分冒険者様のものですから、ベルさんのお役に立つことが載っているかも」

 

いや、でも他人の物を勝手に借りるなんて………

 

「大丈夫です。 ミア母さんもこの本がこの店に置いてあることを快く思っていないようですし、ベルさんが預かってくれれば私たちも助かります………それに………」

 

シルさんははにかんだ笑みを浮かべ、

 

「私もベルさんの力になりたいかな、なんて………」

 

その仕草にドキッとした。

え、えっと………

これってつまりシルさんも………

いやいや!

僕がお得意様だからサービスしてくれてるだけかも………ってまだお得意様ってほどこの店来てないし!

ああ! わからない!

 

「私にはこんな事しかできませんから。 ですからベルさん、どうか受け取っては貰えませんか?」

 

そう言いながら差し出される本を、僕は思わず受け取ってしまう。

 

「あ、ありがとうございます………じゃ、じゃあ僕、もう行きますね」

 

「はい、ご来店ありがとうございました」

 

照れを隠すように、僕はそそくさと店を立ち去った。

 

 

 

ホームへ戻ってきて神様が居なかったので、僕は早速本を開いた。

『ゴブリンにも解る現代魔法』

いや、ゴブリンに魔法使わせちゃダメでしょ。

僕は思わず内心突っ込む。

ま、題名はアレだったけど、内容は至って真面目っぽいのでそのまま読み進める。

頁を捲る内に、不思議な感覚に包まれた。

 

『じゃあ、始めようか』

 

僕の声がする………

まるで鏡に映った自分が話しかけてくるような感覚。

 

『僕にとって、魔法って何?』

 

昔は一度は使ってみたいと思ってた凄いもの。

御伽噺の英雄や、魔法使いたちが繰り出す必殺技。

 

『僕にとって魔法って?』

 

力だ。

強い力。

弱い自分を倒し、弱い自分を奮い立たせる偉大な武器。

でも、僕が求めた『力』は………

 

『僕にとって魔法は………『喝ッッッッッッ!!!』ッ!?』

 

もう一人の僕の言葉を遮って、聞き覚えのある一喝がその場に響いた。

 

『何戯けた事を抜かしておる!! 武の道も極めておらぬ内から魔法などという児戯に手を出そう等とは迂闊にも程があるわぁっ!!!』

 

『え? いや? ちょっと? 僕は魔法を…………』

 

『まだ言うか! この馬鹿弟子がぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

突然現れた師匠はもう一人の僕を殴り飛ばす。

 

『ぐえぇっ!?』

 

『武と魔法! 両方に手を出すものがその道を極めることなどできるはずがあるかぁぁぁぁぁっ!! 何方付かずになり半端ものになるのが目に見えておるわぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

『嘘ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?』

 

そのままもう一人の僕を遥か彼方へと吹き飛ばした。

 

『ベルよ!!!』

 

「はい! 師匠!!」

 

『このうつけ者がぁぁぁぁっ!!』

 

「ぐふっ!?」

 

拳で思い切り殴られる。

 

『訳の解らぬ本に意識を奪われるなど修行が足りん証拠よ!! 心を強く持てばこのような本に入り込まれる隙などありはせん!!』

 

「ッ!? 申し訳ありませんでした! 師匠!! 僕はまだまだ未熟です!! 修行が足りませんでした!!」

 

『うむ! その素直さこそがお主の美徳よ。 未熟な自分を受け入れることこそ、強さへの第一歩也!!』

 

「師匠!!」

 

『ベルよ! これからも精進せい!!』

 

そう言うと、師匠の姿が薄れていく。

 

「待ってください、師匠!!」

 

僕は叫ぶが、師匠の姿はどんどん薄れていき、やがて消える。

 

「師匠! 師匠っ!!」

 

 

 

 

「師匠ォォォォッォォォォォォォォォッ!!」

 

「うわぁあああああっ!?」

 

気付けばそこは何時ものホームの部屋。

すぐ横には神様が驚いたように腰を抜かしていた。

でも、今の僕にはそのことに構っている余裕はない。

 

「師匠! すみませんでした!! 僕は未熟です!!」

 

そのままダッシュでホームを飛び出る。

 

「ちょ、ちょっとベル君!?」

 

神様が何か言ってるけど僕は止まらない。

 

「師匠………師ぃ匠ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

目指すはダンジョン。

修行だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

ダンジョン探索を終え、私達は五階層まで戻ってきていた。

 

「はー! やっと五階層だよ! あと少しだ!」

 

ティオナがぐっと伸びをしてそう言う。

この辺りのモンスターは既に敵では無いため、皆は気を抜いて楽にしている。

『ウダイオス』を倒してからも度々イラつくことはあったけど、三十七階層で感じた程のイラつきは無かった。

でも、この五階層に入ってから何だか背中が暖かく感じ、心地いい感覚がする。

そういえば、五階層っていえばベルと初めて会った場所だ。

新人冒険者にしか見えないベルを、私の勘違いで助けたのが最初だった。

何故かその後、すぐに逃げちゃったけど…………

その事を思い出すと、何故か酷く悲しくなった。

あの時の私って………怖かったのかな………?

そんな事を思っていると、

 

「ッ!?」

 

目の前の暗闇からゴブリンが猛スピードで襲いかかってきた。

私は反射的に剣を抜いてそのままゴブリンを真っ二つにする。

 

「「「「「!?」」」」」

 

遅れて反応したフィン達。

おかしい、ただのゴブリンがフィン達が反応できないほどの速度を出せるはずが…………

 

「…………しょう…………し……う…………ししょ…………!」

 

通路の奥から声が聞こえてくる。

でも、どこかで聞いたような?

すると、

 

「師匠ォォォォォォォォッ!!!」

 

ゴブリンを殴り、蹴り、投げ飛ばす。

投げ飛ばされたゴブリンが先ほどのゴブリンと同じようにこっちに猛スピードで向かってきた。

私は同じように飛んで来たゴブリンを真っ二つにする。

 

「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉ……………お?」

 

ゴブリンを蹂躙していた人物がピタリと止まってこっちを見た。

 

「…………………ア、アイズさん………?」

 

「……………ベル………」

 

私は思わず固まってしまう。

確かにベルに会って謝ろうとは思っていた。

で、でも、いきなり不意打ちで出会うなんて………

 

「あ………あ…………」

 

心の準備が全然できていなかった私に、あの症状が襲いかかる。

心臓が痛いほど高鳴り、顔が火が出るほどに熱くなる。

 

「アイズさん…………あの………」

 

ベルが私に一歩近付く。

もう耐えられなかった。

 

「ダ、ダメッ…………!!」

 

次の瞬間には、私はまた逃げ出していた。

 

「ちょ!? アイズーーーッ!?」

 

ティオナが叫んでるけど私は止まらない。

 

止まれない。

 

そのままダンジョンの外に出るまで逃げ続けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

 

先程までのテンションが嘘のように落ち込む。

僕が近付いたら、あの口数が少ないアイズさんに「ダメ」というほど拒絶された。

ああ、やっぱり本気で嫌われたんだ…………

僕はその場で膝と両手を付いて項垂れる。

すると、

 

「あ~、ベル・クラネルだったな?」

 

呼ばれた声に顔を上げると、以前【豊穣の女主人】の店で【ロキ・ファミリア】の団体の中にいた緑髪のエルフの女性がいた。

 

「はい……何か?」

 

テンションの低い声色で僕は返事をする。

 

「単刀直入に聞くが……アイズと何かあったのか?」

 

見れば、見覚えのある【ロキ・ファミリア】の団員が4人居る。

 

「ええ、まあ………少し…………」

 

実際はちょっとどころではないけど。

振りとはいえ、本気の殺気を当てて死の恐怖を与えた上に、【不壊属性(デュランダル)】の武器まで破壊したんだから。

アイズさんからすれば、僕は極悪人だろう。

 

「ふむ…………」

 

エルフの女性は顎に手を添えて何やら考えている。

 

「…………なるほど」

 

何やら納得して笑みを浮かべた。

 

「どうやら君はアイズに嫌われていると思っているみたいだな?」

 

「う…………」

 

そうはっきり言われるとショックです。

僕は項垂れる。

でも、そのエルフの女性は微笑み、

 

「心配するな。 アイズは君の事を嫌っているわけではない」

 

「えっ?」

 

僕は思わず顔を上げ、

 

「で、でも、顔をあわせる度に、顔を真っ赤にして怒って立ち去ってしまうんですけど……?」

 

「ん? フフフ………それが君の勘違いの原因か」

 

その人は面白そうな笑みを浮かべる。

 

「まあ、一度しっかりと話し合ってみるといい。 君ならば今のアイズが相手でも、捕まえることは容易いだろう?」

 

それだけ言い残すと、仲間たちと一緒に行ってしまった。

 

「………………?」

 

僕は首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

色々な意味で落ち着いた僕はホームへ戻ってきた。

すると、神様が僕が借りてきた本を開いてワナワナと震えている。

 

「神様、ただいま戻りました」

 

僕がそう言うと、神様は眼をクワっと見開き、

 

「ベル君!! この本を何処で手に入れたんだい!?」

 

ものすごい剣幕で迫ってきた。

 

「え? あの………知り合いから借りました………誰かの落し物らしいです…………」

 

そう言うと神様はクラっと倒れかけると、何とか持ち直し、

 

「いいかいベル君、これは魔導書(グリモア)だ」

 

「ぐ、ぐりもあ………? なんですかそれ?」

 

「簡単に言うと、魔法の強制発現書…………」

 

なにその聞くからに高そうな説明。

 

「因みに………そのお値段は………」

 

「【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等………もしくはそれ以上!」

 

気が遠くなった。

 

「…………ベル君、とりあえず【ステイタス】の更新をしてみよう。 それではっきりする」

 

「は、はい…………」

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

通算二回目の【ステイタス】更新を行う。

あの魔導書は確かに使われた形跡があった。

もしそうならこの【ファミリア】は借金地獄に陥る。

でも、もし僕の考えが正しければ………

このベル君の非常識【ステイタス】に賭ける日が来ようとは。

更新を終え、僕はその内容を読み取った。

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.東方不敗

 

力  :流派!東方不敗は!

 

耐久 :王者の風よ!

 

器用 :全新!

 

俊敏 :系列!

 

魔力 :天破侠乱!!

 

武闘家:見よ! 東方は赤く燃えている!!!

 

 

《魔法》

【魔法に手を出そうとするうつけ者がぁーーーっ!!!】

 

 

《スキル》

【流派東方不敗】

・流派東方不敗

 

 

 

【明鏡止水】

・精神統一により発動

・【ステイタス】激上昇

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

英雄色好(キング・オブ・ハート)

・好意を持つ異性が近くにいると【ステイタス】上昇

・異性への好感度により効果上昇

・異性からの好感度により効果上昇

・効果は重複する

乙女(クイーン)との共鳴(レゾナンス)により【ステイタス】及び効果上昇

 

 

 

 

 

 

 

【魔法】の欄を見た瞬間、僕は思わずガッツポーズをした。

ベル君に魔法は発現していない。

台詞が変わってるのは突っ込みたい気持ちもあるけど、今のボクからすれば些細なことだ。

魔法が発現していないなら言い訳はいくらでもできる。

 

「ベル君。 君には魔法が発現していない。 つまり君はこの本を読んでいないという事だ。 後は僕に任せておきたまえ」

 

この本を処分すれば証拠は残らない。

本を持って処分するのに最適な場所を探しに行こうとしたとき、

 

「ってダメですよ神様!」

 

ベル君に手を掴まれて止められる。

 

「止めるなベル君! 下界には綺麗事じゃ済まないことが沢山あるんだ! 世界は神より気まぐれなんだ!!」

 

「こんな時に名言生まないでください!」

 

夜遅くまでベル君と揉めることになり、結局最後にはベル君が謝りに行くことになってしまった。

そしてボクは、ベル君の【ステイタス】の“もう一つの変化”に気付くことはなかった。

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

翌日。

 

「すいませんすいませんすいません!!」

 

早朝から【豊穣の女主人】の店で僕は頭を下げまくっていた。

僕は事の端末を全て話した。

 

「まあ、それは大変な事をしてしまいましたね、ベルさん?」

 

「何他人事みたいに言ってるんですか!? シルさん!」

 

「やっぱりダメですか?」

 

シルさんはトレイで口元を隠しながら上目遣いで僕を見てくる。

 

「すっごく可愛いけどダメです!」

 

するとミアさんは魔導書に一通り目を通すと、それをゴミ箱に放った。

 

「忘れな」

 

ミアさんはそう言う。

 

「読んじまったもんは仕方ないさ。 こんなの、読んでくださいと言わんばかりにおいてった奴が悪い」

 

「いや、でもですね!」

 

「あんたが読まなくても、気付いたら誰かが読んでたさ。 これはそういう代物だよ」

 

有無を言わさぬミアさんの発言に、

 

「…………本当にすみませんでした」

 

もう一度頭を下げて僕は店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

【Side エイナ】

 

 

 

 

ベル君から【ソーマ・ファミリア】の子をサポーターにしたと聞いて、私は【ソーマ・ファミリア】の噂話を聞きまわっていた。

その際、『神酒(ソーマ)』の話を聴き、酒屋を訪れた。

そこで母の知り合いであり母と共にエルフの里を抜け出した王族(ハイエルフ)であるリヴェリア様と出会い、そこから神ロキに話を聞けることになって【ロキ・ファミリア】のホームを訪れることになった。

そこの門番がなんかボロボロだったのが気になったけど………

神ロキから聞いた話では、【ソーマ・ファミリア】の団員が崇拝しているのは、『(ソーマ)』ではなく『神酒(ソーマ)』だということ。

市場に出ている『神酒(ソーマ)』でさえ失敗作だということ。

神酒(ソーマ)』欲しさに、団員は死に物狂いでお金を稼ぎ、ノルマを達成しようとしていること等を聞いた。

聞きたいことを大体聞き終えた私はふと同じ部屋に待機していたアイズ・ヴァレンシュタイン氏に視線を向けた。

同性である私から見ても、ため息の吐きたくなるような美貌。

ベル君の……………好きな人………

私の胸の中にモヤモヤしたものが湧き上がる。

神ロキが【ステイタス】の更新をすると言って、ヴァレンシュタイン氏を伴い部屋を出て行く。

すると、

 

「エイナ」

 

リヴェリア様が話しかけてきた。

 

「は、はい!?」

 

私はビックリして吃ってしまう。

 

「お前はアイズに思うところでもあるのか? お前のアイズを見る目がまるで仇を見るような目だったぞ」

 

そう言われて私はうっ、と詰まってしまう。

 

「……………そうですね…………確かに仇と言えるでしょう」

 

「ほう…‥…」

 

「ただ………………仇は仇でも…………恋敵です!」

 

「……………くっ! はははははははっ!」

 

リヴェリア様が声を上げて笑う。

 

「くくく………! そうか、恋敵か………それは強敵だ………!」

 

リヴェリア様は本当に面白いものを聞いたと言わんばかりに笑いを零す。

例え笑われてもこれだけは絶対に譲れない。

それでも口に出していうのは少し恥ずかしかったため、カップに注いであった飲みかけの『神酒(ソーマ)』を口に含む。

その瞬間、

 

『アイズたんLv.7ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??』

 

隣の部屋から聞こえてきた声に思わず吹き出した。

 

 

 

 

 

【Side ロキ】

 

 

 

 

久々にアイズたんの【ステイタス】を更新出来ることになってウチは飛び跳ねるほどウキウキしとった。

思わず、

 

「柔肌蹂躙したるでーー!」

 

と口に出してしまったが、アイズたんは、

 

「変なことしたら斬ります」

 

いつものごとく淡々と言いおった。

まあ、それでもアイズたんの肌に触れられる数少ない機会やから、じっくり堪能しながら更新するつもりやった。

けど、

 

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

Lv.7

 

 

 

…………んんっ?

いきなり目がおかしくなってしまったのかと思い、目を擦ってもう一度見たんや。

 

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

Lv.7

 

 

 

…………変わっとらん。

ウチがその現実を受け入れるのに十数秒の時間を要した。

 

「アイズたんLv.7ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

どういう事や!?

アイズたんのLvは5やったはず!

何でLv.6すっ飛ばしてLv.7になっとるんや!?

ともかく残りの【ステイタス】を確認しよ。

アビリティ欄は………

 

力  : I0

 

耐久 : I0

 

器用 : I0

 

俊敏 : I0

 

魔力 : I0

 

 

 

 

よっしゃ、Lv以外におかしい所は無…………

 

 

 

 

剣士 : SS

 

 

 

 

「ブホッ!?」

 

なんやこれ!?

SSって限界突破しとるがな!?

いや! 

まだや!

まだ終わっとらん!

ウチは気力を振り絞って読み進める。

【魔法】の欄は…………

よし!

変化なし!

って、なんでウチは変化なしで喜んどるんや!

続いて【スキル】は………

 

「………………はい?」

 

ウチは思わず声を漏らす。

新しい【スキル】が3つも発現しとる!

一つ目は…………

 

 

【明鏡止水】

・精神統一により発動

・【ステイタス】激上昇

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

聞いたこと無いスキルやな………

見るからに【ステイタス】を一時的に引き上げるスキルやろうな。

それにしても“激”上昇ってなんや?

と、ともかく2つ目や…………

 

 

 

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する

懸想(おもい)が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果上昇

 

 

 

これまた聞いたことないスキルやな。

って、これってアイズたんが誰かに恋しとるってことやないのか!?

いったい誰やぁぁぁぁ!

アイズたんは誰にもやらんでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!

ともかく、これはアイズたんには秘密やな。

レアスキルで早熟いうてもそこまで劇的に変わるってこともないやろ。

まだ無自覚の恋かもしれんしな。

ほんなら、最後の3つ目や…………

 

 

 

 

乙女剣士(クイーン・ザ・スペード)

英雄(キング)が近くにいると【ステイタス】上昇

英雄(キング)との共鳴(レゾナンス)により【ステイタス】上昇

英雄(キング)の位置、状況を大まかに把握できる。

 

 

 

 

一番わからんのはこれやな。

英雄(キング)って何の事や?

っていうか、何で3つともレアスキルなんや?

教えても問題なさそうなのは………【明鏡止水】ぐらいやな。

つーか、それ以前に何でLv.6すっ飛ばしてLv.7なんやろ?

でもま、これでもうフレイヤにデカイ顔はさせへんで。

これでアイズたんが育てばオッタルにも負けん。

とりあえず、スキルの下の2つは隠してアイズたんに【ステイタス】を教えとこか。

 

 

 

 

 





どうもです。
第十四話の完成。
アイズのステイタスまでは行きたかったので少々長くなりました。
魔道書を読んだベル君。
師匠の幻覚により裏ベル君が遥か彼方へすっ飛ばされました。
結局魔法は覚えません。
このベル君は物理で殴れば十分なのです。
さてかわりましてアイズのステイタス。
Lv.6をすっ飛ばしてLv.7に。
剣士アビリティも限界突破してスキルも3つ覚えました。
明鏡止水と憧憬一途は多くの人が予想していたでしょうが、乙女剣士(クイーン・ザ・スペード)を予測できた人はいるんでしょうか?
スペードの意味を調べたところ、元々スペードは剣の絵柄だったそうなので、剣士のアイズには丁度良かったので、クイーン・ザ・スペードの称号を送りました。
因みにベルの状況を勘付いていたのはこのスキルが原因だったりします。
発現前でしたが、その兆候は現れていたという事で。
さて、次回はリリの救済ですね。
どのタイミングで助けようかな?
それでは次回に、レディー………ゴー!!
やっぱりハマる。

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