ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
【Side ベル】
僕は夕日が沈みかけるオラリオの街を、半ば放心状態で歩いていた。
「…………エイナさんに…………キスされちゃった…………」
つまり、そういうことなんだろう。
「エイナさんが………僕の事を…………」
恋愛方面に関しては、冒険者に対してお堅いはずの受付嬢が、冗談や挨拶程度でこんなことをするはずがない。
「でも………僕はアイズさんの事が…………」
例え嫌われたとしても、僕がまだアイズさんを好きなことは変わらない。
いくら好意を持たれたからといって、そうホイホイとエイナさんに乗り換えるのは、何か違う気がした。
「お爺ちゃん…………僕、どうしたらいいのかな………?」
僕は茜色に染まる空を見上げながら、故郷の村に居る育ての親に問い掛ける。
『ベルよ。 今こそハーレムの時じゃ!』
いい笑顔でサムズアップしている祖父の顔が空に浮かんだ。
相談する人間違えた。
「師匠………僕、どうしたらいいんでしょうか………?」
相談相手を師匠に変えて空を見上げる。
『だからお前はアホなのだぁーーー!!!』
師匠、答えになってないです。
身近に恋愛相談ができる人がいなくて僕は項垂れる。
そのまま上の空で通りを歩いていると、路地裏との交差点に差し掛かり、
「あうっ!」
路地裏から走ってきた誰かとぶつかって、走ってきた人は転んでしまう。
しまった、注意が散漫になってた。
「大丈夫ですか!?」
僕は転んでしまった人に駆け寄る。
その人は、神様よりも小さな身長で、手足などの一つ一つのパーツがとても小さいその特徴は、とある一つの種族を思い浮かべた。
「
「う………」
身を捩ってその
女の子だ。
ボサボサの栗色の髪が特徴で、大きく円な瞳が印象に残る。
僕がその子に手を差し伸べようとした時、
「追いついたぞ! この糞
路地裏から抜き身の剣を持ったヒューマンの男が走ってきて、そのまま剣を振りかぶった。
あ、やばい。
そう思った僕は、反射的にその
「んなっ………!? 何なんだテメェ………!」
剣を止められた事に驚き、僕に睨みをきかせてくる冒険者らしき男。
「そいつの仲間か………!?」
「いえ、初対面です」
とりあえず剣から手を放し、説得を試みる。
「じゃあ何でそいつを庇ってんだ!?」
「えっと…………女の子だから?」
「何言ってんだテメェ……?」
いや、ムサイ男と女の子比べたら、女の子に味方したくなるのが男の性でしょう。
それに、この人絶対にこの子に乱暴しそうだし。
「いい、まずテメェからぶっ殺す!」
殺すとは穏やかじゃないなぁ………
そう思っていると再び剣を振り上げ斬りかかってくる。
僕はその剣を見ながら冷静に分析していた。
Lvは2………もないな1の中の上って所。
技術はまるでダメ。
完全に【ステイタス】依存の力尽くの振り方で、剣に力が伝わってない。
典型的な【ステイタス】が上がって調子に乗ってしまうダメ冒険者だ。
僕は即座に背中の刀を抜き、ひと振りして鞘に収める。
「言っておきますけど、これは正当防衛ですからね」
言い終わると同時に男の剣が根元からポッキリと断ち切られ、男は柄だけになった剣を空振るだけに留まった。
「なっ!? 俺様の剣がっ!?」
その時、後ろから息を呑むのを感じる。
「何しやがった糞ガキ!!」
そう叫びながら僕に殴りかかろうとしてくる。
あ~も~、これだからこういうタイプはやりづらいんだよなぁ。
少し腕の立つ人なら今のやり取りで実力の差を思い知って引いてくれるんだけど。
僕は見た目弱そうだから、こういうタイプは引いてくれないんだよなぁ。
正直、状況がよくわかってないのでこれ以上は大事にしたくない。
もし女の子の方に非があれば共犯になりかねないし。
とりあえず、急所を打ち抜いて記憶を飛ばすのが一番かな。
そう思いながら迫りくる拳を受け止めようとした時、
「やめなさい」
鋭い声が男の動きを止める。
その声に振り向いた先にいたのは『豊穣の女主人』で働いている店員の1人、エルフのリューさんだった。
「次から次へと………今度は何だぁっ!!」
「あなたが危害を加えようとしているその人は、私のかけがえのない同僚の伴侶となる方です。 手を出すのは許しません」
何言ってるんですかリューさ~ん?
今でさえアイズさんとエイナさんで悩みまくってるのに、その上シルさんまで参加って事ですかぁ~?
内心困惑していると、
「どいつもこいつも訳のわからねえ事を………! ぶっ殺されてえのか! ああん!?」
「吠えるな」
へえ、中々の威圧。
この冒険者固まってるよ。
「手荒なことはしたくありません。 私はいつもやり過ぎてしまう………」
事実だろうその言葉に、冒険者の男は後ずさる。
更にリューさんは素早い手つきで小太刀を抜き、最終通告と言わんばかりに威圧感を強めた。
「く、くそがぁ!」
吐き捨てるようにそう言うと、男は一目散に退散していった。
見事な撃退方法に、僕は内心賞賛を送る。
「………大丈夫でしたか?」
「ありがとうございます。 助かりました」
「いえ、差し出がましい真似を…………あなたならばあの程度どうという事はないでしょうが、つい………」
「いえいえ。 僕は殴って記憶を飛ばすぐらいしか思いつきませんでしたので。 手荒な真似をせずに追い払ってくれたリューさんには感謝します」
「そうですか………クラネルさんは、ここで何を?」
「え~っとですね~…………」
さっきの女の子は、今の騒動の隙に逃げた…………ように見せかけてすぐそこの民家の影でこちらの様子を伺っている。
「ちょっと絡まれてしまっただけです」
僕は笑ってごまかした。
「…………そうですか」
リューさんは少し怪訝に思ったようだけど頷いてくれた。
そこで僕はリューさんの手に持っていた買い物袋に気付く。
どうやら店の買い出しの帰りにこの場に居合わせたようだ。
「そうだリューさん。 助けてくれたお礼にその荷物を持ちますよ」
「えっ………? いえ、クラネルさんの手を煩わせるほどでは………」
「いいからいいから。 遠慮しないでください」
僕はそう言いながらリューさんの持っている荷物に手を伸ばす。
「い、いえ………! 大丈夫です………!」
リューさんも強情で、荷物から手を放そうとしない。
僕は、少々強引に奪い取ろうとした時、僕の手がリューさんの手に触れた。
「あ………」
突然抵抗が弱くなり、僕はその隙に荷物をひょいと取り上げる。
リューさんは僕が触れた手をジッと見つめていた。
「リューさん?」
「あっ! は、はい………!」
「行き先はお店でいいんですよね?」
「は、はい…………お手数おかけします…………」
そう言いながら僕の横に並んで歩くリューさんはしきりに僕と触れ合った手を気にしていた。
「あっ、リュー! おかえ………ベルさんっ!?」
「こんにち………こんばんはかな………? シルさん」
夕日が沈み、オラリオに夜が訪れようとしている頃、僕達は『豊穣の女主人』に到着した。
リューさんを出迎えたシルさんが僕を見て驚く。
「どうしてベルさんがリューと一緒に!?」
「あはは………さっき冒険者に絡まれちゃいまして。 リューさんが追い払ってくれたんですよ。 そのお礼に荷物持ちをしてるんです」
「私はお手を煩わせるほどではないと申したのですが…………」
さっきからリューさんの様子がおかしい。
しきりに手を気にしている。
でも、そんなに手ばかりを気にして大丈夫なのかと思った矢先、
「あっ………!」
通常のリューさんなら絶対にないであろう、足を躓きバランスを崩す。
「リューさん!」
僕は咄嗟に空いている方の手でリューさんの手を掴んで引っ張る。
そのままリューさんの身体は慣性の法則に従い僕の方に向きを変え、
「ッ……………!」
荷物が潰れないように空けた僕の胸に飛び込むような形となった。
「あっ!!」
シルさんが声を上げる。
「大丈夫ですか? リューさん」
「…………………ッ!?」
僕がリューさんに声をかけるとリューさんは少しの間固まっており、現在の状況に気付くと顔を赤くしながら慌てて離れた。
「ク、クラネルさん………! その、困る………このようなことは私ではなくシルにしてもらわなくては…………」
「リュー!? 何言ってるの!」
シルさんも顔を赤くして叫ぶ。
「怪我が無いようで何よりです。 それで、荷物はどこに置けば?」
「あ、ここからは私が運びます。 クラネルさん、どうもありがとうございました」
リューさんがそう言いながら僕から荷物を受け取る。
「どういたしまして。 また近いうちに食べに来ますね」
僕は笑いかけて別れの挨拶を済ませ、その場を離れた。
翌日。
「神様! 行ってきます!」
「う~ん………いってらっしゃい~………」
まだベッドの中で微睡む神様に声を掛け、僕は朝の鍛錬に向かう。
エイナさんのお陰か、昨日ほど迷いはなく、ある程度は鍛錬に集中できた。
そして日が昇り、バベルの前にある中央広場にきた僕は行き来する冒険者を見渡す。
僕のようなソロは殆どおらず、数人のパーティを組んでおり、最低でもサポーターを1人は連れている。
「サポーターか…………」
確かにサポーターがいれば戦いに集中できるし、魔石を拾う時間も省けるから探索の効率アップにはなるだろうけど………
「アテが無いんだよなぁ………」
エイナさんのギルドの伝手で紹介してもらえないだろうか?
まあ、居ないものはしょうがないと気持ちを切り替え、ダンジョンに向かって歩き出そうとして、
「お兄さん、お兄さん。 白い髪のお兄さん」
思わず呼びかけられた声に足を止めた。
後ろに気配を感じて振り向くと、身長1m程の小さな身体に似合わぬ大きなバックパックを背負い、クリーム色のフード付きローブを身につけた少女が僕を見上げていた。
でも、その女の子の大きく円な瞳は、昨日の
「あれ………君は………」
「混乱しているんですか? でも、今の状況は簡単ですよ。 冒険者さんのお零れに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」
やや早口で捲し立てる女の子。
「いや、そうじゃなくて。 君、昨日の
「
女の子はそう言いながらフードを外すと、栗色の髪の頭にぴょこんと犬耳が付いており、よく見るとローブの下から尻尾も覗いている。
「えっ………獣人?」
僕は思わず確認する。
でも、ほんの少しだけしか見てないけど、体型や雰囲気。
そして何よりその瞳がそっくりだった。
自然に手が伸び、女の子の耳に触れる。
手触りは本物………作り物じゃない。
「んんっ…………お、お兄さ~ん…………」
声を上げた女の子にハッとし、僕は慌てて手を離す。
「ご、ごめん! 人違いだったみたい!」
咄嗟に謝り、離れる。
とりあえず場所を変えて、詳しく話を聞くことにした。
噴水の淵に腰掛け、【ソーマ・ファミリア】所属のリリルカ・アーデと名乗った女の子と話し合う。
「それで、リリルカさんはどうして僕に声を?」
「はい! 見たところお一人の様でしたし、冒険者さん自らバックパックを持っていらしたので、恐らくは…………と」
なるほど、少し考えれば分かることだ。
「それでどうですか? サポーターは要りませんか?」
リリルカさんは、人懐っこそうな笑みを浮かべ、元気よくアピールをしている。
でも、その瞳の奥には、何か別の目的があることが見て取れた。
でも、更にそれ以上に気になる感情をその瞳から感じ取った僕は、
「丁度僕もサポーターが欲しいって思ってたところなんだ」
「本当ですか!?」
「だから、一先ず今日一日お願いするよ」
「はい! よろしくお願いします! ベル様!」
【Side リリルカ】
昨日、見ず知らずにも関わらず私を助けた冒険者。
その冒険者は背中に背負っていた剣で、私を追ってきた冒険者の剣を簡単に断ち切った。
刀身はよく見えなかったけど、あの剣は相当な値打ち物に違いない。
そう確信した私は、朝からバベルの前でその冒険者を探した。
特徴的な目立つ白い髪は簡単に見つけることができた。
自分の魔法で獣人に変身した私は、初対面を装って彼に近付いた。
見ず知らずの私を庇った冒険者は、相当なお人好しだと睨んだ通り、容易く私を雇ってもらえることに成功した。
あとは、ダンジョンの中であの剣を手に入れる機会を伺うだけ。
見るからに新人で世間知らずだろう冒険者からは、簡単に盗めるだろう。
そう思っていた。
そう思っていたのに……………
「はっ! せいっ! でやぁっ!」
一瞬にして10匹ほどいた蟻型のモンスター『キラーアント』が灰になる。
そのモンスターの魔石が地面に転がる前に、彼は次の獲物に疾走する。
今私の目の前で起こっていることは現実なんだろうか?
たった一人の新人冒険者が『新米殺し』とも呼ばれるキラーアントの群れを瞬く間に倒している。
するとボコッという音を立て、私のすぐ横の壁からキラーアントが生まれ落ちようとしていた。
しかも、一匹ではなく10匹近い数が一度に。
拙い。
これだけの数に一度に襲われたら、私ではひとたまりも無い。
「ベ、ベル様っ!」
私は思わず叫ぶ。
すると、
「リリッ!!」
奥の方まで行っていたはずのベル様がいつの間にか目の前にいて、
「はぁあああああああああああっ!!」
その拳をダンジョンの壁に叩き込んだ。
ベル様の拳を中心にダンジョンの壁が半径2mに渡って陥没し、その圧力によってキラーアントが押しつぶされ、灰となり魔石だけが排出される。
「………………………」
私は言葉を失う。
こんなモンスターの倒し方見たことありません。
「リリ? 怪我はない?」
ベル様が私に向かって声をかける。
「はっ、はい! 大丈夫です! そ、それよりもベル様。 とってもお強いんですね?」
普通ならお世辞を並べて冒険者を調子付かせ、その隙に装備などを頂いていくのが常用手段なのですが…………この時ばかりは心からの本音でした。
「あはは………僕なんてまだまだ」
ベル様、それはイヤミにしか聞こえません。
私は魔石を集めつつ、
「ベル様? そういえば背中の剣は使わないんですか?」
そう問いかける。
「あ、これ? これはリリが思ってるような名剣じゃないよ。 2本で1000ヴァリスで買った安物だよ」
ベル様はそう言うと実際に剣を抜いて私に見せた。
その剣はベル様の言うとおり錆だらけの鈍らだった。
アテが外れた私は気落ちしたことを悟られないよう魔石拾いを続ける。
すると、
「リリが何を目的で僕に近付いたのかは今ので見当が付いたけど、安心して。 ちゃんと正当な報酬は払うから」
「何を言ってるんですか? リリには何のことか分かりません」
私は動揺を悟られないようにそういうが、ベル様はニコニコと笑っている。
思った以上に勘も鋭いベル様に、私はこれ以上ボロを出す前に、今日は何事もなく終わらせ、この人の元から立ち去ろうと決心した。
でも、
「に、二十六万ヴァリス!?」
信じられないほどの大金が目の前にあった。
これが今日一日で稼いだお金なんて信じられない。
って言うか、何でこの人は七階層のソロで6桁も稼いでるんですか!?
こんなのLv.1の二十人パーティーでも難しい金額ですよ!
「今日は結構稼げたね。 いつもは自分のバックパックが一杯になったら切り上げてるから。 これもリリのお陰だよ。 ありがとう」
確かにこんな小さな魔石だけでリリのバックパックがほぼ埋まりましたからね。
見ましたか!?
換金所の職員の顔が引き吊ってましたよ!?
「べ、ベル様はそんなにお強いのに何でまだ七階層で探索していらっしゃるんですか?」
「あはは。 僕の担当のアドバイザーの人が心配性でね。 中々次の階層の探索許可を出してくれないんだ」
「ベル様ならアドバイザーの言うことを聞かなくても大丈夫ではないでしょうか?」
「そうもいかないよ。 エイナさんは本当に僕のことを心配してくれて言ってくれてるんだ。 無視するのは気が引けちゃうよ」
「ベル様は本当に変わった冒険者さんです………」
「そうかもね……………リリ」
「はい………?」
突然名を呼ばれて私がそちらを向くと、
「はいこれ」
ドン、と金貨が入った大袋を渡される。
見た限り、今日稼いだ金額の半分。
「へっ? あ、あの…………ベル様? これは………?」
「えっ? 何言ってるの? 今日のリリの取り分だよ」
ベル様は本当に不思議そうに首を傾げている。
「ベル様はひ、独り占めしようとは思わないんですか!?」
私は思わず本音で問いかけてしまう。
すると、ベル様は笑みを浮かべると、
「リリは多分、碌な冒険者に出会わなかったんだね…………けど安心して。 僕はリリを過小評価なんてしないし、今日これだけ稼げたのもリリがいたお陰だよ。 僕一人より10倍は稼いでるから。 だから、その半分は、正当なリリの報酬だよ」
…………そんな調子の良い事言って、貴方も根っこは同じはずなんです。
「まあ、言葉だけじゃ信じられないと思うから。 だからリリ、明日からも僕とダンジョンに潜ってくれないかな?」
どうして………そういう事を言うんですか?
私の目的も見透かしたうえで、私をサポーターとして雇うって言うんですか?
「少なくとも、今までの冒険者よりは、割に合う仕事になると思うよ?」
そう言いながらベル様は手を差し出してくる。
私は、今までの稼ぎとベル様についていった時のリターンを頭の中で計算し、おずおずと手を差し出した。
「宜しく」
ベル様は笑顔で笑いかける。
それを見て私は………
「変なの………」
今までに出会ったことのないタイプの冒険者に困惑するしか無かった。
第十三話です。
すみません!
アイズのステイタスまで行けなかった!
次回こそは………!
さて、今回はやっとこさリリが出てきました。
それにしてもリリの一人称が微妙になった。
低階層で二十六万は稼ぎすぎ?
一応原作の十倍です。
ヘスティアナイフが無いからどうやってリリを絡ませようかと悩んだ結果こんな感じに。
さて、原作では次は魔導書パートですが………?
どうなることやら。
それでは次回にレディー…………ゴー!!
結構ハマるかもこれ。