ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第九話 ベル、怪物祭へ行く(前編)

 

【Side ベル】

 

 

僕は今日も朝の鍛錬の場に現れるであろうアイズさんの為に、少々趣向を凝らすことにした。

前日のうちに仕入れておいた人の胴体よりも2回りほど大きな太さを持つ丸太を2本担ぎ、僕は市壁の上にたどり着く。

その丸太を傍らに置き、何時も通りの鍛錬を行っていると、日が地平線から顔を出す頃にその人は現れた。

 

「おはよう………ベル…………」

 

「おはようございます。 アイズさん」

 

僕は自然に笑みを浮かべて挨拶を返した。

 

「じゃあ………今日もやろう………」

 

そう言ってアイズさんは剣を抜こうとする。

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

僕は剣を抜こうとするアイズさんを止める。

 

「?」

 

「今日はちょっと別の修行をしようと思います」

 

僕はそう言って用意しておいた丸太を立てる。

そして、先日購入した2本の刀の内、1本を手に取った。

 

「見ていてください」

 

僕は左手で鞘を持ち、右足を前に出してやや前傾姿勢を取る。

右手を柄の近くに添え、抜刀の構えを取った。

 

「………………………」

 

集中しながら呼吸を整え、

 

「はっ!!」

 

一気に抜き放ち、その直後に瞬時に鞘に収める。

刀を鞘に収めて数秒後、丸太がズルリと斜めにズレ、切り倒された。

僕はアイズさんに向き直り、鞘に収めた刀を差し出す。

 

「この刀で今のが出来るようになってください。 そうすれば、明鏡止水が会得できます」

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

そう言われて、私は一瞬困惑した。

何故剣で丸太を斬るだけで明鏡止水が会得できるのか?

私はベルが新しく立てている丸太を見つめる。

太さは大体直径1mを超えるぐらい。

このぐらいなら【恩恵】を貰ってない人や低Lvの人には難しくても、Lv.3以上………

ましてやLv.5の私になら容易いことに思える。

正直、以前ベルの前で細切れにしたミノタウロスの身体の方が余程断ちにくい。

そう思いつつもベルは準備を進めていき、

 

「では、アイズさん。 どうぞ」

 

そう促されたので怪訝に思いつつも丸太の前に立った。

ベルと同じように抜刀の構えを取り、この丸太を断てるほどの力と速度で剣を振った。

でも………

 

「ッ!?」

 

剣を握った手に感じたのは、とてつもない抵抗。

剣は丸太に僅かに食い込んだだけで、それ以上進まない。

私は一瞬何故?と思ったけど、その理由は剣を見てすぐに解った。

 

「………この剣………錆びてる………」

 

その剣は刃が全く役に立たないと言っていいほど錆び付いており、鈍ら以下の物でしかなかった。

それと同時に私は戦慄した。

 

「ベルは………こんな物であの丸太を…………」

 

ベルが斬った丸太の断面は、名剣もかくやと言わんばかりの綺麗なものだ。

今私が持っている剣で斬ったなんて、実際に見ていなければ信じられない。

私は一度剣を戻し、今度は本気で剣を振る。

 

「ふっ!」

 

さっきよりも深くくい込んだけど、ただそれだけ。

丸太の直径の十分の一も斬れてはいない。

 

「あ、言い忘れましたけど魔法を使うのは無しですからね」

 

ベルが念の為にとそう言う。

もちろんそのつもりだけど、今のままでは断てる気がしない。

ベルはこれが出来れば明鏡止水を会得できると言っていたけど、逆を言えば明鏡止水を会得できなければ断てることはない、と言う事だろう。

私は新たな課題に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

その後、結局丸太に傷を増やすだけで断つことが出来なかったアイズさんは、「明日も来る」とだけ言い残し、刀の1本を持ってホームへ戻っていった。

僕もホームである古い教会に戻ってくると、

 

「ベル君! お祭りに行こうぜ!!」

 

開口一番神様がそう言ってきた。

 

「お祭り………ですか?」

 

「ああ。 今日は年に一度開かれる、ガネーシャのところが主催でやっている催し、怪物祭(モンスターフィリア)の開催日なんだよ」

 

怪物祭(モンスターフィリア)………?」

 

僕は初めて聞く単語に首を傾げる。

 

「簡単に言えば、ダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教(テイム)するまでの流れを観客の前で行うんだ。 色々出店とかも出るから、結構大きな規模のお祭りになるんだよ」

 

調教(テイム)って………確かモンスターを手懐けて仲間にする技術でしたよね? しかも、成功率はかなり低いって噂の…………そんなものを観客の前で?」

 

「ああ。 しかもダンジョンのモンスターは地上のモンスターと比べると、更に成功率は低い。 それでもガネーシャのところの子供たちは成功させちゃうんだから、その実力がうかがい知れるだろう?」

 

「つまり【ガネーシャ・ファミリア】の実力披露と同時に、都市活性化を担うイベントってことですね」

 

「そういうことだね。 それでどうだい? 興味あるだろう?」

 

「そうですね…………折角の神様のお誘いですし、僕も興味ありますから、いいですよ。 行きましょう」

 

「よし決まりだ! そうとわかれば善は急げ! 早速行こうじゃないか!」

 

神様はそう言うと僕の手をとって走り出す。

 

「ああっ! 落ち着いてください神様!」

 

せめて刀だけは置いていこうと思ったけど、神様がどんどん引っ張っていくので結局背負っていくことにした。

 

 

 

 

 

西のメインストリートを神様と一緒に歩いていると、

 

「ちょっと待つニャ! そこの白髪頭!」

 

白髪頭と言われて思わず反応した僕は、声のした方に振り向いた。

そこには【豊穣の女主人】の店の前で、なんとなく見覚えのあるキャットピープルの少女が手を振っていた。

 

「む? なんだい君は?」

 

神様がとことなく敵意のある目で彼女を睨む。

 

「おはようございます、ニャ。 いきなり呼び止めて悪かったニャ」

 

彼女はそう言うとお辞儀をする。

 

「はあ、おはようございます………」

 

呼び止められる覚えの無い…………いや、ついこの間店の前で喧嘩したっけ。

その事で文句を言われるのかと思っていると、

 

「ちょっと面倒ニャことを頼みたいニャ。 はい、これ」

 

「え?」

 

そう言いながらポンと渡されたのは、がま口の財布だった。

 

「白髪頭はシルのマブダチニャ。 だからコレをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」

 

「いや、マブダチっていうか、1回店に招待されただけなんですが…………っていうか、意味分かりません」

 

何故これをシルさんに渡すんだろうか?

僕が困っていると、

 

「アーニャ。 それでは説明不足です。 クラネルさんも困っています」

 

そう言って、またも見覚えのあるエルフの店員さんが姿を見せた。

 

「リューはアホニャー。店番サボって祭り見に行ったシルに、忘れていった財布を届けて欲しいニャンて、そんニャこと話さずともわかることニャ」

 

いや、話してくれなければ分かりませんが。

 

「というわけです。 言葉足らずで申し訳ありませんでした」

 

「よくわかりました」

 

今更だけど、このエルフの店員さんはリューさん。

こっちのキャットピープルの店員さんはアーニャさんというみたいだ。

 

「いきなりなんだい! ベル君はこれからボクと怪物祭(モンスターフィリア)に行くんだぞ!」

 

神様が不機嫌そうな声を漏らす。

 

「ご迷惑なのは理解しています。 ですが頼まれて貰えないでしょうか? 私やアーニャ、他のスタッフ達も店の準備で手が離せないのです。 そして、シルの行き先も怪物祭(モンスターフィリア)なのです」

 

なるほど、丁度行き先が同じなわけか。

それなら、

 

「いいですよ。 届けましょう」

 

「ちょっとベル君!」

 

神様が文句を言いそうになるが、

 

「いえ、僕は少し前にこのお店で少々ご迷惑をおかけしてしまったので、そのお詫びも兼ねて頼まれようかと………」

 

「迷惑って…………何やったんだい君?」

 

「ええ、まあ………他の【ファミリア】の人と店の前で喧嘩しました」

 

「け、喧嘩ぁ!?」

 

「あれはビックリしたニャー。 白髪頭が【ロキ・ファミリア】に喧嘩売ったんだからニャ。 しかも、Lv.5のベート・ローガをボッコボコにしたのは更に驚いたニャ」

 

「アーニャ、その言い方は語弊がある。 先にクラネルさんを侮辱したのは【ロキ・ファミリア】の方々だ。 クラネルさんは少し意趣返ししたに過ぎない」

 

「ブッ!! よりにもよってロキの所と!?」

 

相手が【ロキ・ファミリア】だとわかって神様が吹き出す。

 

「しかもLv.5の冒険者をボコボコにしただって!? 一体何を考えてるんだ君は!?」

 

「いや、すみません………あの時はお酒飲んで酔っていたせいか、抑えが効かなくて………」

 

「そういう意味じゃなくてだな…………ああもう! この間の『神の宴』に出なくて正解だったよ。 絶対にロキが突っかかって来ただろうから………」

 

神様は頭を抱える。

 

「ま、まあ落ち着いてください神様。 ロキ様にも自分の【ファミリア】に入らないかと誘われましたがちゃんと断りましたので」

 

「本当かい!?」

 

神様はガバッと勢いよく顔を上げると凄まじい剣幕で近寄ってきた。

 

「は、はい………」

 

「流石ベル君だ。 ふふん! 悔しそうなロキの顔が目に浮かぶぜ!」

 

神様は先ほどとは打って変わって得意げな表情になる。

 

「あの、お取り込み中申し訳ありませんが、財布は届けていただける、という事でよろしいのですか?」

 

リューさんが遠慮がちに口を出す。

 

「仕方ないなぁ。 まあ、ここで断るのも可哀想だ。 行き先も同じだし特別に引き受けようじゃないか」

 

ご機嫌になった神様は、先ほどとは打って変わって快く?引き受ける。

 

「ありがとうございます」

 

リューさんは、ペコリと頭を下げる。

 

「シルはさっき出かけたばっかだから、今から行けば追いつけるはずニャ」

 

「分かりました」

 

僕と神様は【豊穣の女主人】を後にした。

 

 

 

 

 




ベルはシュバルツ式修行をアイズに課すことにした。
最近のベルは東方不敗よりもシュバルツよりになってる気がする。
それでやっと怪物祭まできました。
ヘスティアナイフが無いので普通にヘスティアがベル君を誘う形にしました。
ヘスティアナイフが無い=神の宴にも参加してないってことで。
盛り上がりもなく中途半端な終わりですが、微妙に長くなりそうだたので前後編に分けました。
盛り上がるのは後編で?
では、また来週?

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