DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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正直に言ってリゼロのキャラは総じて好きです。悪役も敵キャラも嫌いになれないところがあります。コレって間違ってますかね?


第8話:惨劇の主《エルザ》

 

 

 

 

「ねえ。いつになったらわたしの徽章を取り戻しに行くつもりなの?わたし、あなたが行くのをずっと待ってるんだけど」

 

「お前がここでおとなしく待っていてさえくれればいつでも行けるんだがよぉ~~~――――とはいえ大分時間も経ってきちまったか。そろそろマジにフェルトのいる盗品倉に向かわねえと」

 

「そうしてくれるとボクもありがたいよ。ボクも現出していれられるのはあと一時間ちょっとってところだろうから」

 

「・・・ハ?な、何だって?」

 

 

 

 

 

いきなりパックから信じられない言葉を聞いてしまった。その情報だけは初耳だ。

 

 

 

 

 

「もしかして俺とやりあったときに力を使いすぎたとか?」

 

「違う違う。ボクは精霊だからね。存在しているだけでもマナを使ってしまうんだ。まあ、時と場合にもよるけど9時から5時くらいまでが理想だね」

 

「一日8時間労働かよ。羨ましい生活体系してんなぁ」

 

「精霊も大変なんだ。というわけで急いで頼むよ」

 

「・・・お願い。案内して。そのフェルトって子がわたしから徽章を盗んだ子なんでしょう?徽章さえ取り返してくれたのなら、わたしはあの子に何もせずにすぐ帰るから」

 

「・・・・・・。」

 

「―――お願い」

 

「やれやれだぜ・・・しゃあねえ。とりあえず急ぐぞ。ただしこっから先は俺の言う通りにしてくれよ」

 

 

 

 

 

本音を言えばこれから向かうのは殺人鬼が潜む狂気の舞台だ。そんな危険地帯にこいつを連れていくのはリスキーだ。下手をすれば惨劇に巻き込まれる可能性もある。

 

だが、パックのサポートが5時までの有限性であるなら逆にイザという時にパックのサポートを受けられる5時までの間にケリをつけるのが一番だ。

 

 

――――――わかっちゃあいたことだけどよぉ。コイツはグレートにヤベェ賭けになりそうだぜ。

 

 

俺はエルフのお嬢様とパックの二人を引き連れたまま歩き慣れてしまった貧民街の中を通ってフェルトの寝床に到着した。

 

 

 

 

 

「―――あそこがフェルトの住んでいる隠れ家だ」

 

「あの子・・・あんなところに住んでいるの?風邪とかひかないのかしら」

 

「それを俺たちに心配される筋合いはないだろ。さて、俺がフェルトと話してくっから。お前はそこの建物の影にでも隠れてろ」

 

「っ・・・何でわたしが隠れなくちゃならないの?」

 

「ここでお前が出ていってしまったらまた逃げられちまうぜ。焦る気持ちはわかるがここは俺に任せろ。俺が交渉してきてやっからよぉ~」

 

「『交渉』って・・・あの子を説得できるの?」

 

「盗品を返してもらうことは出来なくても俺が買い取るって交渉なら十分可能だろうよ。もとよりこっちはそのつもりで来たわけだしな」

 

「あの・・・期待してくれてるところ申し訳ないんだけど・・・わたし、お金は持ってないわよ」

 

「俺が払うよ。心配すんな」

 

「え?」

 

「おっと、どうやらおいでなすったみたいだな。いったん隠れるぞ」

 

 

ザッザッザッ

 

 

「―――んっ、んん~~~・・・しゃあっ!ここまで来りゃあもうアイツも追ってこねえだろ」

 

 

 

 

 

付近に近寄ってくる人の足跡と気配を感じて近場の建物に隠れる。くすんだ金髪にたなびく赤いマフラー。間違いなくフェルトだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺行ってくるからよ。お前はここで大人しく―――《ぐいっ》―――っ・・・おい、何だよ!?」

 

「・・・なんで?何であなたがお金を出すの?」

 

「あん?」

 

「だって、そうでしょ!わたしはただ盗られたものを取り返しに来ただけなのに・・・その為にあなたが自分を犠牲にするなんて絶対におかしいわよ。何であなたがわたしが盗られた徽章の為に盗んだあの子にお金を出すのっ?絶対、おかしいわよ」

 

「・・・・・・。」

 

「わたし、あなたにそこまでしてもらっても返せるものがないから。だから、ここから先はわたし一人でやるわ――――ここまで本当にありがとうっ」

 

「だから待てって!」

 

 

 

 

 

俺はノコノコとフェルトの前に顔を出そうとするお嬢様の腕を引っ張って再び隠れた。

 

 

 

 

 

「―――放してよっ!」

 

「静かにしろって!アイツに見つかっちまうだろ。ここでアイツに逃げられたら二度とチャンスは回ってこないかもしんねえんだぞ」

 

「だからって・・・――――っ!」

 

「最初に約束したろ。『ここから先は俺の言う通りしてもらう』って」

 

「何で・・・わたしにそこまでしてくれるのよっ。今日出会ったばかりのあなたにそこまでしてもらう義理なんかないわ。あなたがわたしの為にお金を出す必要なんてないんだからっ」

 

「そいつは違うぜぇ―――間違ってるっ」

 

「何がよっ!?わたしのどこが間違ってるって言うのよ」

 

「―――お前とは『今日一日の長い付き合い』だ。もう既に俺とお前はケンカもすませたし、一緒に買い食いまでした仲なんだぜぇ」

 

「―――っ!?」

 

「十分な理由だろ?―――お前を助けるのには十分すぎる理由だ」

 

 

 

 

 

たった一日の付き合いだけど、それがどれだけ長い一日かはコイツには知るよしもねえだろう。目の前のこいつには俺と一緒に過ごしたあの時間の記憶は一切ない。だが、それでも俺がコイツを助けたいって気持ちには一切陰りがない。それはコイツに話したところで仕方がないんだけどよぉ・・・半ば俺の意地みたいなもんだ。

 

 

 

 

 

「とにかく俺の交渉が終わるのを黙って待っていろ。無事に徽章が返ってきたら、その時は・・・そうだな。お前に一つだけ俺のお願いを聞いてもらうとするぜ」

 

「お願い?」

 

「何のお願いかはあとのお楽しみだ。じゃあ、俺は交渉に行ってくっから・・・ついて来てもいいけど離れたところから見つからないようにしろよ」

 

「・・・わかったわ。あなたに任せてみる」

 

「そうそう。ここは経験豊富なお兄さんに任せるのが一番ってな――――――物分かりのいい子はお兄さん好きだぞ」

 

「え・・・ええええっ!?//////」

 

「じゃあな!ちゃんと大人しく待ってるんだぞっ」

 

 

 

 

 

さあてここからが正念場だぜ。俺が運命に勝つのが先かバイツァダストが発動するのが先か。

 

 

 

 

 

「《ザッ》―――よう!お前がフェルトだな」

 

「ん?・・・誰だ、兄ちゃん?」

 

 

 

 

 

知らない人間に対する冷たい目で俺を睨んでくるフェルト。俺としてはコイツにこんな目で見られて寂しい限りだが、今は感傷に浸っている場合じゃない。

 

 

 

 

 

「俺の名前は十条旭。お前に頼みたいことがあってやってきた」

 

「“ジョジョ・アキラ”ぁぁ?随分とおかしな名前してんだなぁ、兄ちゃん」

 

「ジョジョじゃなくて“じゅうじょう”だ!呼びにくかったら“アキラ”でいい」

 

「・・・んで、“兄ちゃん”はこのわたしに何の用があるんだよ」

 

「取引だ。お前が盗んだ徽章を俺の方で買い取りたい」

 

「ふ~~~ん・・・あたしが徽章を盗んだのを知っているのかよ。でも、あたしの依頼人とは別口だよな?」

 

「ああ。それも承知の上だ」

 

 

 

 

 

それを聞いてわずかに渋い顔をするフェルト。流石に後からしゃしゃり出てきた俺が交渉するのは厳しいか?

 

 

 

 

 

「もしかしてあの依頼人のお姉さんとは商売敵か何かか?」

 

「・・・まあ、そんなところだ。俺の目の前に立ち塞がるうざってぇ壁みたいなもんだ」

 

「よくわかんねえけど。何でもいいや・・・―――あたしは儲かる方に売り付けるだけだ。あんたらのしがらみとかそんなものはあたしには関係ない。兄ちゃんの言い値があの姉ちゃんより高ければ兄ちゃんに売ってやる。で?いくら出すんだ、兄ちゃんは?」

 

「――――金じゃあねえ。物々交換だ。世界に一つしか存在しない超弩級のお宝だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコンッ

 

 

『大ネズミに・・・』

 

「毒」

 

『スケルトンに・・・』

 

「落とし穴」

 

『我らが貴きドラゴン様に・・・』

 

「クソったれ」

 

 

ガチャッ ギィィイイ・・・ッ

 

 

「遅かったじゃないか、フェルト」

 

「待たせちまったな、ロム爺。意外としつっこい相手でさ。完全にまくのに時間かかっちまった」

 

 

 

 

 

どうにかフェルトに交渉のテーブルにつくところまでは話を進めることができた。そして、俺は今フェルトの案内のもと盗品倉にまでこぎつけた。

 

―――史実だとここがあの殺人現場になるんだよなぁ。そう思っただけで気分が悪くなってくるぜぇ。

 

 

 

 

 

「フェルト。そっちの兄ちゃんは誰だぃ?今日は誰も入れないはずじゃあなかったのか」

 

「そうそう!聞いてくれよ。ロム爺!この兄ちゃんがさ。あたしの徽章をミーティアと交換した言っていってきたんだよぉ!」

 

「ミーティア・・・じゃと?」

 

「そっ!あたしはミーティアの価値なんかわからねえからさ。ロム爺ならいくら値段がつくかわかるだろ」

 

「さすがの儂もミーティアなんて取り扱うのは初めてじゃが。どれ、とりあえずモノを見せてもらえるかのう―――兄ちゃん?早く見せとくれ」

 

 

「あ、ああ。ちょっと待っててくれ」

 

 

 

 

 

ヤバイ。変に緊張してきたぞ。この交渉にじゃない。今、俺は運命の分岐点に立たされてる。これが成功するか失敗するかでまたループを繰り返すかどうかが決まる。何よりも・・・―――俺はもう少ししたら犯人《殺人鬼》と相対しなくてはならないのだ。失敗したときのことを考えるとわずかに足が震えてきやがる。

 

 

―――落ち着け。まずは交渉を少しでも有利に運ぶんだ。

 

 

 

 

 

「俺が持ってきた宝具《ミーティア》ってのは・・・これだ。叡知の結晶『スマートフォン』略して『スマホ』だ」

 

「すまほ?」

 

「初めて見るな」

 

「コイツの能力はすごいぞ。画像や映像を保存することができるんだ《パシャッ》」

 

「うわっ!?」

 

「い、いきなり何するんじゃ!?年寄りだと思ってふざけた真似を―――」

 

「まあまあ。怒る前に“これ”を見てみなって」

 

「っ・・・な、何だよこれ!?」

 

「“儂”と“フェルト”のようじゃが」

 

「Exactly!このスマホはその時にしか流れない過去の映像を切り取って取り込むことができるんだ」

 

「「おお~~っ!/ほほ~~っ!」」

 

 

 

 

 

写真を撮られて怒っていた二人も中に写っている画像を見て驚いたようだ――――よしっ、掴みは上々!

 

 

 

 

 

「他にも様々な機能はあるんだが・・・―――どうだ?あんたの見立てではコイツはいくらの価値がある?」

 

「なあ!?なあ!?どうなんだ、ロム爺っ!」

 

「ハッキリした額は儂にも想像がつかん。儂も魔法器などを売りに出したことはないからのう。ただまあ、宝石付きの徽章ではあるが魔法器には劣る―――つまるところ、この交渉はお前さんに傾いておる」

 

「なあなあ、ロム爺。結局のところ、それっていくらぐらいなんだ?」

 

「そうじゃのう。儂の見立てだと・・・物好きな好事家に売り付ければ聖金貨20枚は下らんじゃろうて」

 

「聖金貨20枚!?スッゲー!兄ちゃん、スゲエもん持ってんだなっ」

 

「物好きな好事家って・・・俺からしたら数少ない思いでの品なんだぞ、コレ」

 

 

 

 

 

スマホがこの時代にとってどれ程の技術の結晶を秘めたオーパーツであるかわからないのだから仕方がないとはいえ。この世界がもう少し近代的な時代であればスマホの技術の利権を売るだけで億万長者にもなれたかもしんねえのによ。

 

――――――平賀源内といい、荒●飛呂彦先生といい時代を先取りしすぎるのも問題だよな。

 

 

 

 

 

「それでどうなんだ?譲ってくれるのかよ」

 

「まあ、焦んなって。兄ちゃんがいくら高い金を積んでもさ。わたしに依頼を持ってきたのはあの姉ちゃんの方が先なんだ。姉ちゃんが兄ちゃんよりそのミーティア以上の高い金を積んでくるんだったら兄ちゃんの負けさ」

 

「―――っ(ぐうの音も出ない正論だ。だが、殺されちまったらお仕舞いだろうがよぉ)」

 

「じゃが、儂の見立てだと兄ちゃんのミーティアの方が今のところ有利じゃな。最初にフェルトに仕事を依頼したヤツが言い出した報酬は聖金貨10枚じゃったからな」

 

「(・・・そりゃああちらさんからすりゃあ金はいくら積んでも構わねえだろうからな。払った金は殺して奪い返すつもりだったんだろうからよ)」

 

 

 

 

 

しかし、そんな警告をしたところで聞き入れては貰えないだろう。ここで反抗的な態度を見せてはダメだ。とりあえずは、まだ、フェルトもこのロム爺さんも生きてるんだ。

 

 

―――落ち着け。この二人も外で待つエルフのお嬢様も死なせることなくこの運命に勝つ。難易度は高いが今の俺なら出来るはずだ。

 

 

 

 

 

コンッ コンッ

 

 

「《ぞくっ》―――っ!?」

 

 

「おっ、来たようじゃな。フェルト、符丁は教えておるのか?」

 

「あ、教えてねーや。でも、たぶんあたしの客だ。見てくるわ」

 

 

 

 

 

ノックの音だけで悪寒が走った。間違いない――――いる。あの扉の向こうに―――あの惨劇の犯人はいる。

 

一瞬、フェルトとロム爺さんが殺されていた凄惨な殺人現場が脳裏にフラッシュバックし嘔吐感が込み上げてくるが、俺はそれを無理矢理飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「やっぱアタシの客だったよ。こっちだ・・・座るかい?」

 

 

「―――部外者が多い気がするのだけれど」

 

 

「踏み倒されちゃあ困るかんな!あたしら弱者なりの知恵だよ」

 

 

「そちらのご老人はわかるのだけれど・・・こちらのお兄さんは?」

 

 

 

ドクンッ ドクンッ ドクンッ

 

 

 

 

 

―――落ち着け。心臓の鼓動を圧し殺せ。呼吸を整えろ。冷や汗の一滴足りとも垂らしちゃあなんねえ。いつもと変わらない自分を演じろ。ヤツに俺の不自然な挙動一つでも悟られたらアウトだぞ。

 

 

俺はうっすら笑みを浮かべて目の前に立つ女性《殺人鬼》を観察した。

 

 

正直言ってかなりの美女だ。背は高めでスタイルも抜群。出るところは出てるが引っ込むところは引っ込んでいるボンキュッボンな抜群のボディバランス。

 

色白な肌と癖っ毛のある長い黒髪が大人の色香を感じさせ、妖艶に微笑むその笑みがそれをいっそう強調している。

 

 

―――正直、コイツの正体を知っていなかったらグラッと来たぜぇ。だが、俺は油断しねえ。コイツの一挙手一投足から目を離さない。

 

 

 

 

 

「この兄ちゃんはあんたのライバル。あたしのもう一人の交渉相手だ」

 

 

「・・・へえ~。あなた可愛い顔をしてるのね」

 

 

「え?」

 

 

「あなた、結構、わたしの好みよ♪」

 

 

 

 

 

―――正直、この台詞を言われた瞬間多いに俺の心が乱されたのは内緒だ。

 

 

 

 

 




デレたエミリアは可愛い!間違いない!その為にも主人公には色々と頑張ってもらわなくては。

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