DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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リゼロにおいてフラグを立てるということは何よりも重要である。何故なら、一つのフラグの間違いが全て死に直結するからである。

これってまるでKanos―――

コンコンッ

おや、誰か来たみたいだな。


第4話:ANOTHER ONE BITE THE DUST《負けて死ね》

 

 

「犯人の特徴をまとめていくとだ。身長は低めで小柄。年齢は15才前後。金髪のショートカットの女の子。かなりの運動神経の持ち主でとにかく足が速い。黒いリボンに長めの赤いマフラーを巻いていて。動きやすさを重視してかかなりの軽装・・・―――《シャシャシャシャシャシャッ》―――うしっ!こんな感じだな」

 

「へえ~~~・・・やるね、君♪」

 

「驚いたわ。あなた、すごい特技を持っているのね」

 

 

 

俺が覚えている限りの特徴を紙に描き起こしていくと見事に全ての特徴を再現した写生画が完成した。会った時間は短かったが、さんざんからかっていたせいかあの子の表情一つ一つまで鮮明に思い出せる。

 

猫神様パックは感心したように頷いており、銀髪エルフの女の子は俺の精細な写生画を見て心底驚いている。

 

 

 

「あんな短時間でこれだけの絵を描きあげるなんて信じられない。ここまでの画力を持っている画家は他に見たことないわ。あなた、どこで誰にコレを習ったの?」

 

「―――・・・岸辺露●」

 

「え?」

 

「―――っていうのは冗談でよぉ。別に誰に習ったってわけでもなく。銃弾を摘まむ程度のことが出来るんだからこれくらいのスケッチは余裕で描けるんだぜ。p●xivやニ●ニコ静画にだって投稿したことあるしな」

 

 

 

俺はあくまでも深い説明を避けて猫神パックにスケッチを手渡した。あとはコレを基に目撃情報を探していけばいい。この街は広い。二人だけでどこまで出来るかわからないが、今日中にはなんとかなるだろう。

 

 

 

「それで君はこの広い王都でどうやって探し出すつもりだい?さっきは何か秘策があるような口振りだったよね」

 

「シートン動物記の著者E・T・シートンは『この世に追跡不可能な動物はいない』と言った。走るのが早い動物よりも、“地形”や“風向き”“動物の習性”を研究している人間の方が、ちょっぴりだけ有利ということだ。町を散策して手がかりを集めてさえいけばいずれ追い付く」

 

「何だかよくわからないけどすごい説得力ね。シートン動物記なんてわたし読んだことないけど――――でも、わたし達が追跡しているのは動物じゃなくて人間なのよ。人間は動物ほど単純じゃないわ」

 

「いや、同じだぜ。人間は動物に比べて個性の差は激しいが本質的には動物の一種だ。相手のことを知って情報を集めてさえいけば行動パターンや逃走経路は限られてくる。それを割り出すまでの辛抱だぜ」

 

「へー・・・」

 

 

 

何か意外そうな表情を浮かべる銀髪エルフの子。まるで『クラスの中で自分より頭が悪いと密かに見下していたヤツがテストで全教科満点をとった』みたいな顔だ。

 

 

 

「お前、実は密かに俺のことバカにしてなかったかぁ?『この人、実はけっこう頭よかったんだ』って顔に書いてるぜ」

 

「そ、そんなことないっ。勝手な被害妄想をするのはいくらなんでも失礼じゃないかしら」

 

「すごいっ。この子の性格を全部的確に見抜いてるよ」

 

「パックは黙ってるのっ!」

 

 

 

まあ、頭が悪いと思われてるのはそれはそれでアドバンテージになることもあるから決して悪いことばかりではない。

 

 

 

「てぇわけで町に繰り出すぞ。さっきのスケッチを使えば聞き込みは楽に進むだろう。因みに盗まれた“き章”ってのはとてつもない高級品だったりするのか」

 

「いいえ、違うわ。ただ・・・真ん中に小さな宝石がついてるから売りに出されたらかなりの値打ちがあるわ」

 

「犯人はお前が持ってる“き章”を狙っていたのか?」

 

「・・・たぶん」

 

「―――ってぇことは、お前が“き章”を持ってることを知ってて狙った可能性が高い。犯人は間違いなく常習犯ってことになるぜぇ」

 

「どうしてそんなことがわかるの?」

 

「あの身のこなしはただ者じゃなかった。身なりからしてもスラムや貧民街育ちだろう。なら“盗み”で生計を立てていたとしても不思議はない」

 

 

 

真っ当な家庭で育ったんなら年頃の女の子にあんなボロボロの服を着せることはしないだろうし。精霊術師(?)のこの子を出し抜いた盗みのテクニックは一朝一夕で身に付いたものではないだろうしよぉ。

 

 

 

「たぶん、誰かがあの金髪の子に依頼したんじゃねえかな。『自分の代わりにき章を盗んできたら報酬をやる』って・・・そうなるとどこかで盗品の取引を行うはずだ」

 

「見事な推理だけど何か根拠はあるのかい?」

 

「ない。ただの勘だ。でも、強ち的はずれではないと思うぜぇ」

 

 

 

この銀髪エルフの子は相当な家柄の出身だろうし。き章がどういう物かはわかんねえが、おそらく『家督を継ぐのに必要な重要アイテム』ってところか。そして、この子のことを快く思っていない誰かが、この子が家督を継ぐのを阻止すべく盗みの常習犯であるあの金髪娘に盗むよう依頼したと考えればつじつまが合う。

 

もちろん、あいつが何の考えもなしに身形のいいお嬢様から金目のものを盗んだだけって線も考えられるけどよぉ。

 

どちらにしても―――

 

 

 

「スリの常習犯である以上、盗品をさばく独自のルートが必ずあるはずだ。金銭ならともかく宝石とかを売って金にするには個人ではできないだろうからな」

 

「盗品をさばくならスラムか貧民街って話だったけど」

 

「じゃあ、そこに行ってみようぜ。行けば何かわかるだろうしな。案内を頼むぜ」

 

「あなた場所を知らないの?」

 

「この街は今日来たばかりなんだぜぇ。俺に土地勘を期待されても無理ってもんだ」

 

 

 

もっと言えば『この世界』が初めてだからな。明日の食いぶちすら確保できていない俺は本音を言えばこんなことしてる場合じゃないんだぜぇ。

 

 

 

「今日、来たばかり?・・・あなた、もしかして画家を目指してこのルグニカ王国にやって来たの?」

 

「勘弁してくれ。どうして画家なんて目指さなくちゃなんねぇんだ。画家なんて、失敗したら最後、売れもしない絵に囲まれて一生を終えるような商売・・・俺はごめんだぜ。どうせ目指すなら漫画家の方がいい」

 

「そう。勿体ないわね。あれだけの精巧な絵を描けるならきっと王宮でも通用するのに」

 

「王宮に飾られてる絵を見たことがあるのか?」

 

「―――っ・・・いえ。ただそんな気がしただけよ」

 

 

 

何やらあまりつっこんで欲しくなさそうな様子だ。何やらいろいろと庶民の俺では到底計り知れない事情があるらしい。

 

 

 

「―――そうだ。折角だし、お前らの絵も描いてやるよ」

 

「え?わたし達、そんなことをしている暇はないのよ」

 

「遠慮すんなって。すぐに終わるからよ―――《シャシャシャシャシャシャシャシャッッ、キュッ》―――うん。我ながらなかなかの出来映えだ。ほら、出来たぞ」

 

「本当に早いわね。どれどれ、見せて」

 

 

 

銀髪エルフの子は俺の絵に興味津々なのか俺が描きあげた絵を食い入るように見ている。そして、横からパックが覗き込んだ瞬間、その瞳がキラキラと輝き出す。

 

 

 

「うわぁーっ♪オイラのことも描いてくれたんだね。スゴく上手に描けてるよっ」

 

「当然だぜ。何かツーショットで描いた方がいいような気がしたからよ。我ながら会心の出来だぜ」

 

「オイラ、絵なんて描いてもらったことないからなんだか嬉しいな~」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「ありゃ―――どうしたよ、オイ?」

 

 

 

何故だか絵を受け取った本人が硬直してしまっている。俺の描いた絵に何か不満でもあったんか?

 

 

 

「・・・この絵のわたし」

 

「悪いっ!もしかして気に入らなかったか?自分ではうまく描けたつもりだったんだけどよぉ。さらさらっと描いたけど手抜きは一切してないぜぇ」

 

「――――優しい顔をしてる」

 

「ハ?」

 

 

 

何を言ってるんだ、コイツは?俺が描いたスケッチを呆然と眺めて何を言い出すかと思えば『優しい顔をしてる』だぁ?

 

まさかそんなリアクションが帰ってくるもは思わなかったから俺もついつい間抜けキャラになっちまったぜ。

 

しかし、そんな呆然としているエルフのお嬢様を差し置いてパックは突然俺の右腕に自分の尻尾を巻き付けてきた。

 

 

 

「――――じゃあ、行こうかっ!夕方までにはなんとか見つけないとね」

 

「お、おい!?」

 

「ボクには時間があまりないんだ。ほら、早く探しに行くよっ!」

 

 

 

わけもわからずパックに引っ張られるように歩き出す俺。後ろの方ではまだエルフのお嬢様が俺の描いた絵を眺めていたが、やがて絵を大事に折り畳むと後を追ってきた。

 

 

 

「―――こらっ、待ちなさい、パック!」

 

 

 

奇しくもその表情は俺が似顔絵に描き起こした笑顔によく似ていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街に出て聞き込みを開始した俺たちであったが。犯人探しは思っていたよりも遥かに難航していた。俺の犯人スケッチがあればすぐに割り出せると思ったが、目撃情報はあってもどこの誰か知っている人がいないのだ。

 

 

 

「やれやれ・・・思ったよりも見つからねえもんだな」

 

「そうね。でも、目撃情報があっただけでも大きな前進よ」

 

「前向きなようで大いに結構――――つーか、この街いくらなんでも広すぎるぜぇ。こんなデカイだなんて聞いてなかったぞ」

 

「・・・ねえ、あなたはどこから来たの?」

 

「俺か?遥か遠く離れた日本って国だ。ジパングなんて呼ばれていた時期もあるぜ」

 

「“ニホン”?聞いたこともない国ね」

 

「俺の出身地なんて聞いても仕方がないぜぇ。どうせ行けやしないんだからよ」

 

「っ―――ねえ、それってどういう・・・」

 

「さぁ~てとぉ・・・人探し、人探しっと。俺、あっちの方で聞いてくるから少し待っててくれ」

 

 

 

俺は深く追求されるのを避けるためそそくさと近くにあった店の店主に話を聞くことにした。

 

 

 

「―――パック。どう思う?」

 

「大丈夫。邪気は一切感じない。でも、すごく変わった“匂い”がする。確かにあの子はルグニカ王国の人間じゃあないね」

 

「・・・そう」

 

 

 

初めて会ったときからすごく奇妙な人だなとは思っていたけど。話せば話すほど不思議な男の子だなと思った。

 

すごく変わった格好をしてるし、語尾を伸ばす変なしゃべり方をするし、精霊であるパックに物怖じしないで気軽に話しかけてるし・・・すごく絵が上手いし。

 

 

 

「良かったね。エミリア、すごく上手に描いてもらえて」

 

「っ・・・あんなのわたしじゃないわっ!」

 

「ええっ、あんなにそっくりだったじゃないか。あの子、エミリアのあんな顔が描けるなんてホント大したものだよ」

 

「だからっ!あんな“顔”しているのわたしじゃないって言ってるでしょ!」

 

 

 

そう。さっき彼からもらった似顔絵はとてもよく描けていた。すごく上手に描けていたんだけど一つ問題があった。

 

絵の中でパックの隣で笑っている女性が描かれていたのだけど。あんなのどう見たってわたしじゃない。

 

目尻が柔らかく垂れ下がっていて、照れ臭そうに頬がうっすら赤く染まってて、口元は困っているふりをしてうっすらと嬉しそうに笑っている。

 

 

―――あんな優しい顔をしているのは嫉妬の魔女《わたし》なんかじゃない。

 

 

 

「でも、エミリア。本当は嬉しかったんじゃない?あんなに綺麗に描いてもらえてさ。その証拠にエミリアだってあの子からもらった絵を大事に持っているじゃないか」

 

「そんなことないわっ。この絵は貰ったものだから・・・あの人が心を込めて描いてくれたものだから。捨てたらあの人が可哀想になっちゃうでしょ。だから捨てなかったのっ。本当にただそれだけなんだからね」

 

 

 

パックはわたしの内心を見透かしてかからかうような口調で言ってくるけど。わかっている。わたしがあの絵を捨てられないのはそんな理由じゃないってことくらい。

 

だって、絵の中の“自分の姿《わたし》”があんなに眩しいものだとは思わなかったから。彼の目に写っているわたしがあんな表情をしているなんて期待をしたくなかったから。わたしはどうしても絵の中の自分の姿を認められなかったから。だから、あの絵を捨てられなかったのだ。

 

 

 

「―――うぇええ…っ」

 

 

「え?」

 

 

「あぅ……ぅぅう…っ」

 

 

 

彼を待っていると雑踏の音に混じってかすかに子供の鳴き声が聞こえてきた。見ると一人で往来を行き交う人を見つめながら涙目でうろうろしているおかっぱ頭の女の子がいた。

 

遠目で見てもわかる。あの子、親とはぐれたんだわ。それで迷子になって泣いている。

 

 

 

「あぅ…うううっ」

 

「―――ねえ、あなた」

 

「……えっ?」

 

「・・・探していた相手じゃなくてごめんなさい。ここでどうしたの?お父さんとお母さんは一緒じゃないの?」

 

「―――ふぇえっ!……えぅ゛、うぇえええ……っ!!」

 

「あっ、ごめんなさい。ビックリしちゃったよね。お願い、泣かないでっ」

 

 

 

わたしと顔を合わせた途端に迷子の女の子は泣き出してしまった。わたしは出来るだけ優しい声で慰めてみたけどいっこうに泣き止んでくれない――――やっぱり、エルフはどうしても怖がられてしまうみたい。

 

 

 

「お願い、泣かないで。お姉ちゃん、あなたに怖いことしたりしないから」

 

「うぇえええぇぇええ……えぐっ……うぇえええ……っ」

 

「あ、ああ・・・っ」

 

 

「《スッ》―――さあさあ、お立ち会いください。ここに取り出したるは何のヘンテツもない一枚の千円札」

 

 

「……ふえっ?」

 

 

 

泣いている女の子の前で横から見慣れない長方形の一枚の紙きれを差し出してきたのはあの男の子だった。

 

 

 

「まず、これを細かく手で破ります―――《ビリ、ビリ、ビリッ》―――破いた破片は・・・君がしっかり握りこんでおいてね」

 

「《ぎゅっ》……ん」

 

「その状態で三秒数える。3、2、1・・・《パチンッ》―――はい。じゃあ、手を開けてみて」

 

「うん………《ぴらっ》―――ふわぁああっ」

 

 

 

女の子が手を開くと破られる前の紙切れが綺麗な状態で元通りの姿で出てきた。今のは修復魔法?

 

 

 

「あげるよ、それ。世界に三枚しかないから大事にしてくれよな」

 

「うんっ!ありがとー。お兄ちゃんっ」

 

「グレートっ!元気が出てきたみてぇだな。じゃあ、一緒にママとパパを探すぞ。大丈夫!すぐ見つかるからよ」

 

「うんっ」

 

 

 

そう言って女の子の頭を撫でるその男の子はすごく優しくてすごく頼りになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、すぐ見つかって良かったなー」

 

「ええ、そうね。わたしも肩の荷が降りたわ」

 

「んでもよー。大分時間もたっちまったし、こっからどうするー?」

 

「・・・そうね」

 

 

 

捜す時間が長引けば長引くほど焦りは募る。下手をしたらもう盗まれたものが売られちまった可能性もある。それでも迷子の子を放っておけなくて貴重な時間を無駄にしちまったんだ。慰める言葉が出てこなくなってきたぜぇ。

 

 

 

「心配すんなって。捜し物ってふとしたきっかけで意外なところから意外な形でひょっこり出てくるもんだぜ。必ず見つかるさ」

 

「ええ。そうね《ぎゅっ》」

 

 

 

川のほとりに腰かけて沈痛な面持ちでスカートを握るエルフの少女。何か元気付けられそうなもんがあればいいんだけどな――――おっ、そうだ。

 

俺はポケットの中からあの金髪の少女から盗んだエンブレムを取り出した。

 

盗んだものを他人に引き渡すなんて泥棒みたいで気分が悪いが・・・いや、泥棒はあいつだ。それにこのエンブレムを持っている限り、あの子はこっちに来ざるを得ないはずだ。

 

 

 

「そう。気を落とすな。お前に探し物が見つかるとっておきのお守りをくれてやるぜぇ」

 

「気持ちはありがたいけどいらないわ」

 

「そんなこと言うなって。俺がお前に渡せる数少ないもんだからさ《ぽんっ》」

 

「だから、いらないって・・・――――――えっ・・・ええええーーーーっ!?」

 

 

 

エルフのお嬢様は俺が握らした謎のエンブレムを見て大層驚いた声をあげた。というか、出会ってから今までで一番大きい声だったぜ。

 

 

 

「い、いきなり大声出すなよっ!」

 

「これ、何であなたがこれを持っているの・・・もしかしてずっとあなたが持ってたの!?」

 

「ちょっと待て。話が読めねえぞ。いったいどういうこった?」

 

「―――そりゃあ驚くよ。まさか盗まれた徽章をずっと君が隠し持っていたなんてね。オイラも驚いたよ」

 

「徽章・・・これがぁ!?」

 

「その様子だと本当に知らなかったみたいだね」

 

 

 

どうやら俺が図らずも盗んでしまったエンブレムこそがこのエルフのお嬢様が必死に探していた徽章だったらしい。

 

 

 

「ねえ、あなたどこでこれを手にいれたの?」

 

「あっ・・・これは・・・えっと――――そ、そう!あの金髪の子に遭遇したときに拾ったんだよ。あの子に返そうと思ってたんだけど。まさかあんたが落としたもんだったとは・・・グレートッ」

 

「・・・本当かな~、何か出来すぎな気がするけど」

 

 

 

猫神パックは疑いの眼差しで俺を見ているが、俺は嘘はついてない。真実を話していないだけだ!経緯はどうあれ徽章が戻ってきたんだし責められる謂れはないぜぇ。

 

お互いに積み重ねた善行こそが全てを解決に導いた。それだけのことだぜぇ!

 

 

 

「本当にありがとう!あなたのお陰で大事な徽章が戻ってきたわ―――ありがとう!《ふわっ》」

 

「え・・・あ、おう」

 

 

 

不覚だった。完全に一瞬目の前のこの少女の笑顔にやられていた。大切なものが返ってきた安心感と俺あふれでる感謝で彩られた笑顔に完全にやられていた。

 

―――落ち着け。素数だ!素数を数えて落ちつくのだっ!2、3、5、7、11、13…

 

 

 

「?・・・ねえ、急にどうしたの?顔、赤いわよ。具合悪いの?」

 

「大丈夫だよ。今のは健全な男としての反応であって体は健康そのものだからさ」

 

「余計なこと言わないでくれるかな!本当のこと言われたときが一番ダメージ受けるんだからさ!」

 

 

 

 

――――――4.865429308《カシャッ》

 

 

 

 

「本当にありがとう。あなたにお礼をしなくちゃならないわね」

 

「そんなお礼だなんて・・・――――全力で俺を助けてほしいんだぜっ、お願いします!」

 

「一瞬、カッコつけようとしみたいだけど。どうやらやんごとなき事情があって断念したみたいだね」

 

 

 

 

――――――4.865429901《カシャッ》

 

 

 

 

「実はワケあって職も宿もねえホームレスでよぉ。何か仕事だったり雇ってくれるところを知らねえか?」

 

 

 

 

――――――4.868432105《カシャッ》

 

 

 

 

「そんなことなら簡単よ。あなたをわたしの家に招待するわ。もしよろしければ使用人としてそのまま雇ってあげる」

 

「マジかよっ!こいつはグレートだぜ!――――あっ・・・でも、いいのか?俺は助かるけどよぉ。こんな得たいの知れない男を招き入れたりしたら周りが心配するんじゃあ」

 

 

 

 

――――――4.885392505《カシャッ》

 

 

 

 

「あなたにはいろいろと良くしてもらったし。あなたがいなかったらこの徽章は取り戻せなかったわ。そのお礼だと思ってくれればいいわ」

 

「なんか悪いな・・・俺はたまたまこれを拾っただけだったってのによ」

 

「その子にとって徽章はそれだけ大事なものだったってことだよ。ボクも異存はないよ」

 

 

 

 

――――――4.932960453《カシャッ》

 

 

 

 

「そういえばまだお互い名前も聞いてないよね。自己紹介しよっか」

 

「・・・ああ。そうだな。じゃあ、僭越ながらまずこの俺が―――」

 

 

 

 

――――――4.993805169《カシャッ》

 

 

 

 

「俺の名前は『十条旭』―――よろしくなっ」

 

「『ジョジョ・アキラ』?・・・変わった名前をしてるのね」

 

「“ジョジョ”じゃなくて『じゅうじょう』だ。間違えないように頼むぜ」

 

「もう知っていると思うけど。ボクはパック!ヨロシク!」

 

「おう!ヨロシク頼むぜ。そしてあとで是非モフらせてくれ!――――んで、あんたの名前は?」

 

「わたしの名前はね―――」

 

 

 

 

――――――5.012693874《カシャッ》

 

 

 

 

『時間軸変動率5パーセント以上ノ乖離ヲ確認―――『ANOTHER ONE BITE THE DUST』―――歴史ハ繰リ返ス』

 

 

 

カチッ ドグォゴゴゴォオオオオオオオオオオオオーーーーンッッ!!

 

 

 

その時―――世界が爆ぜた。歴史が壊れた。

 

 

 

 

 




エミリアのしゃべり方はとても難しい。でも、書いているうちにとても優しい女の子だということを改めて再認識させられる。

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