DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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お疲れ様です。復帰して3回目の投稿となりますが。今更ながら、改めて、復帰までの間お待ちいただいていた皆様に感謝を申し上げます。

特に長期休載中にも関わらず、メッセージを送っていただいた。紫月花様、ヤマ二等軍曹様、冥界神話アリエール様、タロウ18R様。こちらの方々に頂いたメッセージには本当に励まされました。

特に2回もメッセージをいただいた冥界神話アリエール様。掲載初期から感想を頂いていた外川様には申し訳なく思っております。


今なお、上記の方々が読んで頂いてるのかはわかりませんが。心からの感謝をこの場をお借りしてお伝えします。


第39話:騎士の妹《フェイリス》

 

 

 

 

「―――いやいや、おかしいよ。猫耳キャラな上に『フェイリス』って名前…………これ、もう完全にパクリじゃん。シュ●インズ・ゲートの留美穂さんに今すぐ謝ってきたほうがいいぜ。どうせ版権降りてねぇんだろ?」

 

 

「初対面の相手にニャンて容赦のない言い回しっ!?」

 

 

「挙句に『ニャン』とか………猫言葉まで使いやがるのか―――なに、普段は『メイクイーン+ニャン2』で働いてるの?必殺技『チェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)』が使えるわけ?『雷ネットバトラー』現役チャンピオンですか、あなたは?」

 

 

「ニャンで会ったばかりの君にそんなこと言われなきゃならないの!?対外的に見たら、キミの方こそ不法侵入しようとした犯罪者ニャンだからねっ!」

 

 

 

 

 

フェイリスは俺の両手にはめられた手枷を指差して言い返してくる。

 

 

 

 

 

「いや、そりゃあ“作戦”だったんだし、仕方がねえだろ。つーかよ〜、それを言ったらお前の方こそ不法侵入だろーが。同じ穴のムジナの分際でエラソーなこと抜かしてんじゃあねぇぞ」

 

 

「フェリちゃんはいいのっ!クルシュ様を救うっていう密命を帯びてここにやって来てるんだからっ。キミの方こそ、自分がただの“囮”だってことを忘れニャいでよねっ!」

 

 

「やれやれ………“また”妙なやつが増えてしまったな」

 

 

「キミにだけは言われたくニャいからねっ!フェリちゃんが今まで会ってきた中で最高に頭のネジが外れてるからね――――ホント……ここに来るまで、どんな人生を歩んできたんだか。健康そうなのは外面だけで………ゲートは、ひどくボロボロだよ。無理はあんまりしニャい方が身のためだよ」

 

 

 

 

 

―――驚いたな。俺のゲートの状態を見ただけで瞬時に診断する眼力を持ち合わせているのか。

 

考えてみれば『フェリックス・アーガイル』の妹ってだけあって、治癒魔法の素質があるのかもしれねえな。

 

 

 

 

 

「―――フェイリス様………さっきの『アキラくんが囮』というのはどういうことでしょうか?―――聞き捨てなりません」

 

ギリギリギリギリ………ッッ

 

 

 

 

 

俺が囮にされているというフェイリスの言葉に明確な怒気を孕んだ目でフェイリスを睨みつけ、手に握っていたモーニングスターに力を込めるレム。

 

 

 

 

 

「あんれ〜?もしかして、キミ、この子に何にも話してなかったの〜?こんな重大な作戦に巻き込んだくせに一番大事なことを隠してるニャンて、ちょっと酷いんじゃないかニャ」

 

 

「話してる暇がなかった………というより、レムを巻き込むつもりもなかった。こんな面倒な依頼は俺一人で終わらすつもりだったからな」

 

「アキラくん………どういうことなんですか、アキラくんが囮って」

 

 

「そのまんまの意味ニャよ。アキラくんは、クルシュ様が王選辞退を宣言する原因になってる………“かもしれない人”。重要参考人ってやつだね」

 

 

 

「アキラ、くん?」

 

「………………。」

 

 

 

 

 

俺は何かを問いかけるかのようなレムの視線から目をそらすように顔を背けた。そう。フェイリスの言っていることは、あながち間違いではない。俺の“仮説”が正しければ………――――俺は今回の一件、間違いなく無関係ではない。

 

 

 

 

 

「―――安心しニャよ。フェリちゃんも君のことを疑ってるわけじゃニャいから。これからクルシュ様を助けるのに一緒に命を懸ける仲間なんだし…………こういうのをカララギでは『同病相憐れむ』って言うんだっけ?」

 

 

「それを言うなら『同舟相救う』だ。無理に使い慣れない慣用句を使おうとするんじゃねぇ―――それにしても意外だぜ。初対面の人間を信用してくれるってか?」

 

 

「んん〜〜〜………2割くらい」

 

 

「2割かよっ!?人を命懸けの作戦に巻き込んだ割には、信用2割って低すぎだろっ」

 

 

「2割でも破格だと思いニャさいよ。逆に言えば、2割しか信用してないキミを頼りにしてるんだからね、こっちは。さっきの患者を治療してみせた手練手管もフェル兄に勝るとも劣らないし、キミが悪い人じゃないってことくらいは理解してるから………だから、キミの前にこうして姿を現したのに〜」

 

 

「グレート………2割しか信用されてないって割には、責任の重さが半端じゃあないぜ」

 

 

「当たり前でしょ〜?キミ一人の命でクルシュ様が助かるかもしれないんだよ。分の悪い賭けだけど、賭けるチップとしてキミの命を差し出すくらいのことはしないとね」

 

 

「グレート………そういう割り合わない仕事はジャック・バウアーにでも任せておきゃあいい――――なあ、レム?」

 

 

 

 

バヂバヂヂヂ……ッッ

 

 

 

 

「―――アキラくんどいて。そいつ殺せないっ」

 

 

 

 

 

グレート………レムの目の色が変わった。完全なるヤンデレモードに。目からハイライトが消えて、稲妻とともに鬼のツノが生えて、ツキノヨルニオニノチニクルフレムになってしまっている。

 

 

 

 

 

「待って待って待ってーーーっ!!それだけは本当に洒落にならないってば!そんなの食らったら、フェリちゃん、一発であの世に逝っちゃうニャよ!」

 

 

「―――あ〜あ、やっちゃった。これで誠氏ねルート確定だ」

 

 

「ニャにその選んじゃならない修羅の道っ!?ていうか、この子の殺意ものすごいどす黒いんですけど。フェリちゃん、戦闘能力ないから、こんなの一発食らっただけで死んじゃうって!早くなんとかしてよ!キミの声なら聞いてくれるかもしれないし!」

 

 

「こう殺意の波動に目覚めてしまってはな。俺には手の施しようがない。とりあえず、一発『瞬獄殺』をぶっ放せば、少しは殺意も薄まるだろう」

 

 

「なんだかわからないんだけど、それ絶対食らっちゃいけないやつじゃニャいっ!?所謂、即死技ってやつじゃないのっ!?いいから目の前の鬼の子をなんとかしてぇ〜っ!!」

 

 

「大丈夫だ。お前の死を見届けたら、俺は鬼殺隊に入隊する――――お前の遺志を継いで………『鬼滅の刃』の続編を書くために」

 

 

「それ、フェリちゃんの遺志が一つも残ってないんですけどっ!?その鬼滅の刃、今、使って!鬼斬りでも虎狩りでもなんでもいいから早く助けてーーーっ!!」

 

 

「いや、それ………鬼滅の刃じゃねえから。しょうがねえなぁ――――この手はあまり使いたくなかったが……」

 

 

 

 

 

俺はおもむろにその場で正座をするとぽんぽんと自分の膝を叩いてレムを呼んだ。レムを鎮める呪文は………………いっぱい思いつくけど、とりあえず倫理的に絵面がマシなやつを選ぶ。

 

 

 

 

 

「―――レム。『ハウス』」

 

 

 

「いや………ちょっと、いくらなんでも………そんなんで大人しくなるわけが――――あれ?」

 

 

 

 

 

フェイリスが一瞬目を離すと正面からレムは完全に姿を消していた。もう一度、アキラの方に目を向けると。

 

 

 

 

 

「―――るふぅ〜〜〜♪(>﹏<。)」

 

「………顔文字なんてどこで覚えた、おのれは」

 

 

 

「おさまったーーーっ!?………っていうか、残像すら見えなかったんだけど、瞬間移動でも使えるの!?」

 

 

 

 

 

アキラの膝にゴロゴロと喉を鳴らして甘えるレムの姿があった。鬼の殺気は完全に鳴りを潜め、飼い主大好きでハートマークを撒き散らす仔犬になってしまった。

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっとレムちゃん……っ、フェリちゃんと随分態度が違うんじゃニャ〜い?」

 

 

 

「………気安く呼ばないでください。貴方は敵です」

 

 

 

「えっと〜、さっき彼を『おとり』にするって言ったのは、言葉のアヤというやつで………別にその子を犠牲にするつもりはニャいんだよ。フェリちゃんもアキラくんのこと信用してるし、レムちゃんもフェリちゃんのことを信用してほしいニャ〜」

 

 

 

「………レムがあなたを信じるのは、レムがアキラくんと無事にロズワール様の邸宅に帰れた時です」

 

 

 

「それ、全てが片付くまで一切信用しないってこと!?」

 

 

 

 

 

まあ、レムの態度もわからんでもない。はっきり言って俺もこれがエミリア陣営をはめるためのカルステンが仕組んだ自作自演の罠という可能性も全く考えていなかったわけではないからな。

 

 

 

 

 

「まあ、しょうがないか。アキラくんに身も心も奪われちゃってるレムちゃんの説得は諦めるとして」

 

 

「………ヲイ」

 

 

「――――話を戻すけど。さっき、アキラきゅんが言っていた『フェリックス・アーガイルに会って話を聞きたい』っていうのだけど………それはちょっと難しいよ。フェル兄はクルシュ様に“鎖”で繋がれている。フェル兄に会うのはクルシュ様に会いに行くのと同じくらい難しいんだよ」

 

 

「『“鎖”で繋がれている』って………まさか」

 

 

「そう。クルシュ様の一番の忠臣も今は…――――」

 

 

「そういうプレイがお好みなのかよ〜。女王様と猫耳奴隷プレイか………高度だな〜。やっぱ、鞭は標準装備だったりするのかよ。で………どっちが攻めで、どっちが受けなんだ?」

 

 

「そっちじゃないニャっ!!そういうのじゃなくて囚われの身になってるってこと!早く助けてあげないと口封じに殺されちゃうんだからっ!」

 

 

「性癖をバラされた口封じにか?」

 

 

「そんにゃ性癖はニャいから!アキラきゅんの妄想でクルシュ様を汚さないでよっ!ていうか………今、真面目な話してるんだから!フェル兄の命も危ないかもって話をしてるの!」

 

 

 

 

 

王道なボケをかますと真正面からシャーッとキバをむいて噛みついてくるフェイリス。

 

 

 

 

 

「お前こそバカなの?アホなの?…………こんな話、真面目に聞いてたら“シリアル”がいくつあっても足りねえだろうがよ―――ただでさえ領主の未来とか命の危険とかグレートにヘビーな展開になっちまってるっつーのによ。何で会ったこともないやつの命まで気にしなきゃあなんねぇんだ」

 

 

「アキラきゅんはヴィル爺に全部聞いてたんでしょ。カルステンに起きている異変も自分の命を危険に晒すことも………覚悟はできてるはずじゃなかったのかニャ」

 

 

「覚悟なんてできてるわけねぇだろうが。だいたい、こんな話を信じて、のこのこ作戦に乗る時点で正気じゃねえよ」

 

 

 

 

 

ヴィルヘルムさんにこの話を持ちかけられた時も、最初、俺は正気を疑った。けど、俺を騙しに来るメリットがない。ヴィルヘルムさん程の大人物をスパイとして送り込む必要もない。

 

 

 

 

 

「―――だがな……ヴィルヘルムさんほどの“男”が………テメーだけの力じゃあどうにもならねぇって俺に助けを求めに来たんだ。こんな俺に頭を下げて頼み込んできたんだ――――命がけの注文だ。応えなきゃ、男じゃねぇ」

 

 

「………………。」

 

 

「俺がこんなイカレタ話に乗ったのは、ただそれだけのことだぜ」

 

 

 

 

 

危険な賭けになるのは百も承知。だが、俺を利用するためとはいえ、そのリスクを飲み込んで、俺に頭を下げてきたヴィルヘルムさんの期待に応えてやりてぇって………ほんのちょっぴりでも思っちまったら、俺も引き下がれなくなっちまった。

 

そんな俺の答えに気を良くしたのかフェイリスは持ち前の猫口を釣り上げてニヨニヨ笑っていやがる。

 

 

 

 

 

「にゃふふふふふ♪」

 

 

「なに、ニヤニヤしてんだよ?」

 

 

「べぇつに〜〜〜………キミ、もしかして、エミリア様の騎士だったりする?」

 

 

「ハア?俺のどこを見たらそんな考えが出てきやがんだよ?俺にそんな崇高な役職が務まると思ってるのかよ?」

 

「―――そうですよっ。アキラくんは、騎士なんてお上品で礼儀正しくないと務まらない役職に収まるはずがありません」

 

「………お前は、俺を褒めてるのかけなしてるのかどっちだ?つーか、大人しくなったんなら、いい加減俺の膝からおりろっ」

 

 

ぺいっ

 

 

「わふ〜〜〜っ」

 

 

 

 

 

俺の膝にベッタリと甘えているレムを引っぺがすと謎の鳴き声とともに宙を舞う。ギャグ補正のせいかな……レムが謎の2頭身化しているような気がする。

 

例えるなら………う●るちゃんとか、ぷ●ますとか………。

 

 

 

 

 

「とにかくよぉ〜。フェリックス・アーガイルも危ないとなると………いよいよもたもたしてる場合じゃあねえな。他に協力者はいねえのか?」

 

 

「残念だけど、信用できる部下はいても………信頼できる部下はあまりいないの。クルシュ様が王選を辞退しようとしていることも殆どの人が知らニャいから」

 

 

「俺達だけでやるしかないのか………クルシュ・カルステン相手に無策で突っ込むわけには行かないぜ。ヴィルヘルムさんは、『ここに来たら、まずフェリックス・アーガイルに会いに行け』と言っていたが」

 

 

「こうなったら、ヴィル爺と一旦合流するしかニャいよ。作戦を練り直すしかない。ヴィル爺なら、すきを見て抜け出すことくらいはできるはずニャよ」

 

 

「やれやれ………今はそれしかないか」

 

 

 

「―――アキラくんっ!窓の外を見てください」

 

 

 

 

 

窓の外を監視していたレムに言われ、窓の外を見下ろしてみるとカルステンの兵士が隊列を組んで真っ直ぐに俺たちのいる警衛所に向かってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

「グレート………まだ考えがまとまらねぇ内に追手が差向けられちまったようだぜ」

 

 

「アキラきゅんは、よっぽど『クルシュ様』に恨まれてるみたいだね〜」

 

 

「………アキラくん、どうしますか?ここで大人しく捕まれば、クルシュ様に会うことはできると思いますが」

 

 

「今はまだその時じゃあないぜ。クルシュ・カルステンに関する情報が少なすぎるんだぜ――――ヘタをすりゃあ、殺されちまうかもな」

 

 

「そうだね〜。でも、どうするの?あの兵士達はクルシュ様の私兵だからよそ者の君の説得は通じないよ」

 

 

「フェイリス様の権限であの兵士達を収めることはできませんか?」

 

 

「期待されるのは嬉しいんだけど……フェリちゃんはフェル兄みたいに騎士じゃニャいし。この領地で何の権利も持たされてニャいのだ」

 

 

「オイ、この追い詰められてる状況で、そのビミョーな猫言葉やめろ。可愛くねぇから、腹立つだけだからっ」

 

 

 

 

 

あれ?……これ、詰んでね?

 

まあ、もともと杜撰な計画ではあったし、ここまで来たら、迷うことはかえって自分を追い詰めることになる。今は多少の無理を承知で強引に突破するしかねぇ。

 

 

 

 

 

「―――ところでフェイリスよぉ〜。何で俺のことが連中にバレたと思う?」

 

 

「そんニャの……アキラきゅんが門で暴れたせいじゃニャいの?」

 

 

「そいつは違うぜ―――中国の思想家に“荀子”ってのがいてよぉ〜。彼によれば『人間の本性は悪であり、たゆみない努力・修養によって善の状態に達することができる』………これを“性悪説”としているんだぜ」

 

 

「その話が、何の関係あるの?」

 

 

「―――信用するなよ……人を…」

 

 

 

バァァン……ッッ!!

 

 

 

 

 

俺がその言葉をつぶやいた直後、目の前の扉が勢いよく開いた。

 

 

 

 

 

「―――残念ですねぇ〜。ええ、とても残念ですとも。フェリックス様に………『双子の妹』がいたとはつゆほども存じ上げておりませんでしたからねぇ〜。クルシュ様にはとても残念なことですねぇ〜」

 

 

 

「―――そんニャ……」

 

「っ………“キース・ストルティ所長”?」

 

「やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

扉を開け放ったのは、俺とヴィルヘルムさんの協力者―――『キース・ストルティ』であった。フェイリスもこれには少なからずショックだったのか、飄々とした態度の裏から動揺の汗を隠せずにいる。

 

 

 

 

 

「おや?………そちらの彼はあまり驚いてないようですね。ですが、それも今となっては関係ありませんねぇ〜。あなた方はクルシュ様の前で処断を受けてもらいますから―――この国を侵す賊は一匹たりとも逃しません」

 

 

「そんニャ………ヴィル爺は、あなたのことなら信頼できるって」

 

 

「『信頼』ぃい?――――………そうですねぇ〜。私もこれまでクルシュ様を信じ、尽くしてきました。クルシュ様の下であるならば………夢が見られる。騎士になれる。努力をすれば必ず認めてもらえる。…………ここは私を公正明大に評価してくれるとね」

 

 

「だったら!」

 

 

「―――でも、そんなの全部ウソじゃあねえかよぉ〜〜〜おっ!?」

 

 

 

 

 

所長の温厚で理解ある大人の仮面は完全に剥がれ落ちていた。猛禽類のように目をギラつかせて闘犬のように歯をむき出しにして、怒りと憎悪を全身に身に纏ったどす黒い怪人のようになってしまっている。

 

 

 

 

 

「俺は、以前に魔獣討伐で戦役に参加し、肩を負傷してから右腕が満足に使えなくなっちまったんでよぉ!それでもクルシュ様は勲章の一つもよこさず。治療費だけ残して何もしてくれなかったっ!フェリックスのクソモヤシヤローも『この右腕だけは治せねぇ』って匙を投げやがったんだっっ!!なぁ〜にが大陸有数の治癒術師だっ!あれなら娼婦のほうが癒やしになるってんだっ!!」

 

 

「………………。」

 

 

「右腕が使えないから、もう武勲を立てることはできない。そのせいでなぁ……20歳半ばにして俺は騎士になる夢を奪われたっ!だから、知力でなり上がろうとかれこれ19回も科挙を受けているんですよぉ〜!でも、いつまで経っても受からないぃいいっ!!そうして流れ着いたのがこの“肥溜”の管理人だったわけだぁ〜〜〜〜っ!」

 

 

「………………。」

 

 

「畑の肥料にもならねぇ………臭くて醜い罪人共ばかり眺めてるとよ〜ぉお………こう思えてくるんだ。クルシュ様は、俺を騎士にするどころか………こいつらと同じ場所に押し込めて俺を厄介払いしたんじゃあねえかってよ〜〜〜ぉ!!」

 

 

「そんなはずはないニャ……………クルシュ様はきっとあなたになら任せられると思ったから」

 

 

「ーーーー官僚の試験を通らなかった郵便配達員以下の者………それが『看守』だぁ!クルシュ様に愛玩されて甘やかされてるフェリックスの妹様には、そんなこともわからねぇのかよぉぉお!!?」

 

 

 

 

 

ストルティの目はもはや普通ではない。真面目に日々を過ごしてきたのに報われぬ努力。度重なる不運。自分の才能への絶望。それらが、長らくせき止めていた不満がいっしょくたに暴走し、クルシュとフェリックスへの憎悪に変わっている。

 

 

 

 

 

「………あなたがフェリックス様を恨んでることは、ぼんやりと理解しました。ですが、それとこの行動になんの関係があるんですか?こんなことしてもあなたの得にはならないと思います」

 

 

「―――損得じゃあねえよ。俺は俺の右腕を治せなかったあの無能治癒術師に心底味わってもらいたくなっただけさ。一番信じていたものに裏切られる気持ちってのはどんなものなのかってなぁ〜あ!」

 

 

 

 

 

確かに……所長の右腕をよく見ると全身で怒りと憎悪を顕にしてるはずだが、右腕の動きだけが鈍い。フェリックスがどうして完治できないと診断したのかはわからないが………大方、治療をしようとした段階で魔獣に傷を受けてから時間が経ちすぎていたのか、神経が修復不能なほどにズタズタにされていたんだろう。

 

隣で話を聞いているフェイリスも………思うところがあるのか、顔を反らして俯いている。

 

いくら治癒術師とはいえ、治せないものはあるし、救えない命なんていくらでもある。

 

この世界の治癒術師も俺の世界にいる医者と同じだ。絶えず命の危機や病気の脅威に苦しんでいる患者さんを救えない無力感と罪悪感と戦っている。

 

 

――――結論、難病に苦しんでる患者が医者や社会を逆恨みするドラマとかでよくあるアレだぜ。

 

 

 

 

 

「クルシュ様が王選を辞退するか………結構なことじゃあねえかっ!!俺の努力を正当に評価できないビチグソ娘なんぞが王になれてたまるかよっ!俺をボロ雑巾のように使い潰し、俺の人生を残飯みてぇにこの肥溜めに捨てやがったあの女にはふさわしい末路だぜ。そして、フェリックスのドラ猫ヤローも地獄に堕ちるんだっ!主君を救えなかった無力感に苛まれて……――――」

 

 

 

 

「フタエノキワミ、アッーーーー!!」

 

 

 

グッパオンッ!!

 

 

 

「うわらばっ!?」

 

 

 

 

 

承太郎が神社で膝を攻撃された時のような音を鳴らして後方に吹っ飛ばされるキース・ストルティ所長。

 

 

 

 

 

「……話が長ぇんだよ」

 

 

「ちょっとーーーーーっ!?アキラきゅん、何してるニャ!?今のどう見ても絶対攻撃しちゃいけない場面だったでしょ!?」

 

 

「オッサンの身の上話ほど退屈なものはないぜ。どんだけ過去が悲劇まみれだろうと………所詮、モブはモブだ。こいつの過去回想なんてガンダムの種運命の回想シーン並にクソどうでもいいんだぜ」

 

 

「その例えなんかよくわからないけど、酷いことを言ってることだけはひしひしと伝わってくるのニャっ!………って、そうじゃなくて!この所長がもしかしたら黒幕と繋がってるかもしれないのに………こんなことするニャンて!」

 

 

「こんな最初期にネタバレするような三下が裏で黒幕と繋がってるわけねぇーだろ。聞くだけ無駄だぜ。俺達は立ち止まってる暇なんかねぇんだぜ」

 

 

「じゃあ、アキラきゅんには………この状況で何か策があるというの!?」

 

 

「ああ、あるぜ!」

 

 

「ええ!あるのっ!?」

 

 

「ああ。たったひとつだけ残った策があるぜ」

 

 

「“たったひとつだけ”!そ、それって、いったい?」

 

 

「とっておきのヤツがな!――――あの顔を見ろっ!ヤツは顔面をぶん殴られて、まだ完全に回復しきれてねえ!そこがつけめだっ!」

 

 

「いや、それってアキラきゅんが不意打ちしたからじゃあ………………そ、それでたったひとつの策って?」

 

 

「こっちも足を使うんだっ!」

 

 

「“足”?………足をどうやって!?」

 

 

「それは今から見せてやる――――行くぞ、レムっ!!」

 

 

「――――はい、アキラくんっ!」

 

 

ジャララララ……ッッ!!

 

 

 

 

 

俺の言葉に待ってましたと言わんばかりに自慢の獲物《モーニングスター》を振り回すレム。

 

それを手近な壁に狙いをつけると鉄球を振り回し、その壁を一発で砕き、ポッカリと大穴を開けた。

 

 

 

 

 

バガァァアアアン……ッッ!!!

 

 

 

「―――逃げるんだよォォッッ!!フェイリスーーーッッ!!どけーッ!ヤジ馬どもーッッ!」

 

 

「ニャァーーーッ!何ニャ、この男っ!?」

 

 

 

 

 

フェイリスの首根っこを掴まえて、レムと一緒に所内の壁を次々とぶっ壊して、一直線に外を目指す。

 

 

 

 

 

「―――ぶっっ………ばハッ!……っ、…追え………………っ、奴らを逃がすなっ!……追えーーーっっ!!」

 

 

 

 

 

殴られた痛みから立ち直ってきたストルティ所長―――そう。お前がその行動を取ることは容易に予想できたぜ。

 

 

 

 

 

「レムを犯罪者にはさせられねぇからよぉ〜。砕いた壁は俺がきっちり“なおして”おくぜっ!」

 

 

ズギュゥウウウン…… スゥウウウウ、ピタァアアッッ!!

 

 

 

「「「どぉうわあぁあああっっ!?」」」

 

 

 

どちゃぁあああ……っっ!!

 

 

 

 

 

俺達が抜けた壁穴を兵士たちが同じように通過しようとした直前に目の前の壁の穴が塞がったことで、壁の向こうで兵士達が正面衝突したうめき声が聞こえたのを確認し、レムが砕いた壁を通過した直後に俺が“直して”いくを繰り返す。

 

このまま直線コースで開けた穴を塞ぎつつ突貫する。このまままっすぐ行けば、無事に脱出できる。

 

 

 

 

 

「待ちやがれっ、テメエっ!」

 

 

「あん?」

 

 

「さんざ暴れ腐りやがってっ……テメエにやられた借りはたっぷり返すぜっ!」 

 

 

「お前は………っ!?」

 

 

 

 

 

俺らが脱出すべく真っ直ぐに外壁を目指してる途中、取調室で俺に尋問してきた若い看守が立ちはだかっていた。名前は確か――――

 

 

 

 

 

「―――“アシ・クサッテル”っ!?」

 

 

 

「違ぇえーーーよっ!!誰が“足腐ってる”だっ!?“マシュー・コッヘル”だっつってんだろっ!!無理やり間違えんなっ!」

 

 

 

「あれ?“パニ・クッテル”だっけか」

 

 

 

「ホンット、嫌なヤローだな、テメーはっ!」

 

 

 

 

 

俺たちを拘束しようとした兵士達とは別行動を取っていたおかげで、俺達の先回りをすることができたのだろう。けど、ただ俺達を拘束しにきたわりには………妙に目がギラついてるというか、殺気立ってる看守共。

 

 

 

 

 

「―――なめた真似をしてくれやがって………からしを鼻の穴に突っ込むなんざぁ人間のやることじゃあねえ!」

 

「俺の目にソルテなんか振りかけやがって………このダボがぁあっ!」

 

「俺なんかトバスコをかけられたんだぞっっ!!」

 

「それが何だぁっ!?俺なんか鉄球を脛にぶつけられたんだぞっ!!」

 

 

 

 

「―――随分、恨みを買ってるみてぇだなぁ……フェイリス」

 

「アキラきゅんのことニャ!!」

 

 

 

 

 

俺が門の入口で取り押さえられる前に大暴れした時に受けた負傷を訴える兵士一同。なるほど、奴らが殺気立っているのは個人的な恨みによるものか。

 

 

 

 

 

「どっち道、テメエはもうお終いだ。そっちの青髪のメイドの怪力は大したもんだが………いくらなんでもこの収容所の外壁は壊せねぇだろ。他の建物の壁に比べても厚さは倍以上ある。まさしく鉄壁!お前らにその壁を壊すことは無理なんだよっっ!!」

 

 

「超絶ドヤってるけど………別にお前が建てたわけでもねぇだろ」

 

 

「ほざいてろっ!!テメエはぶちのめした後、たっぷり拷問してやらァァ!!やれぇえええーーーーっっ!!!」

 

「「「うぉおおおおおーーーーーっっ!!!」」」

 

 

 

 

 

明らかに拘束することが目的ではない私怨にかられた兵士達が、俺を痛めつけるべく警棒のような武器を振りかざしてこっちにいっせいに飛びかかってくる。

 

それを見てレムがとっさに俺の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

「アキラくんっ、下がっててくださいっ!!ここはレムが引受け…――――っ!」

 

 

『―――ドォオオラァアアアッッ!!!』

 

 

 

ドギャァア……ッ  バガァアアアン…ッッ!!

 

 

 

「ア………アキラくん、何をしてるんですかっ!?」

 

 

 

 

 

レムが鉄球を振り回そうとするよりも一瞬早く俺のクレイジーダイヤモンドが鉄球をサッカーボールのように蹴り上げた。蹴り上げた鉄球は外壁上方の縁を砕いて、そのまま突き刺さった。

 

 

 

 

 

「言っただろ。『レムを犯罪者にするつもりはねぇ』って。それに、レムの本気の攻撃を受けたら………あいつら全員一発で汚い花火になっちまうぜ」

 

「ですが、今ここで戦わないと………アキラくんは二度と外に出られなくなってしまいますっ。クルシュ様やフェリックス様を助けることだって出来なくなってしまいます」

 

「いいから、ここからは俺に任せておけっつーの。心配すんな。お前の知らない名案であいつらを一網打尽に出来んだよ」

 

 

 

「女の前だからってカッコつけてんじゃねえぞ!ブッ殺せーーーーーっ!!!!」

 

「「「ウォオラァアアアアーーーーーーーッッ!!」」」

 

 

 

 

ビシッ! ズカッ!! バキッ! ドカッ!! ゲシッ! ドフゥウッッ!! ドグゥッッ! ゴスウッッ!!

 

 

 

 

「―――アキラくんっ!」

 

 

 

 

 

マシュー率いる衛兵達にあっという間に取り囲まれ、無抵抗のまま袋叩きにされる。痛々しい殴打する音だけが場にこだまし、レムの悲痛な声があがり、誰もがこれで終わったと思ったことであろう。

 

 

 

しかし――――

 

 

 

 

 

「む………な、なにぃいっ!?」

 

「こ、これは…っ!」

 

「いつの間に!?」

 

 

 

 

 

兵士達が取り囲んで殴りつけていたはずのアキラは完全に姿を消し、大きなウサギのぬいぐるみと入れ替わっていた。自分達が全く気づかない内に行われたその早業に兵士も唖然とするばかりだ。

 

 

 

 

 

「くっ………くそっ!どこだ!?」

 

「どこへ行きやがった!?」

 

 

 

『―――ハッハッハッハッ!』

 

 

 

「「「「―――っ!?」」」」

 

 

 

『―――セクシーコマンドー秘奥義……“変わり身の術”』

 

 

 

「や、ヤロウ………味な真似を……っ」

 

 

 

 

 

悔しそうに歯噛みするマシュー。その時、兵士たちの真ん中でボコボコにされていたウサギのぬいぐるみがかすかに動いた。

 

 

 

 

 

かぽっ キュピーーーーン☆

 

 

「フフフフフ」

 

 

 

 

 

ウサギの頭を外すとダラダラと顔から流血しながらドヤ顔を決めている“俺”が出てきた。

 

 

 

 

 

「「「「「か……」」」」」

 

 

 

「「「「「変わってな(ニャ)ーーーーいっ!?」」」」」

 

 

 

 

 

そう。セクシーコマンドー秘奥義“変わり身の術”とは、即ち、この俺がウサギになることだ。

 

そして、ツッコミで茫然自失となっている兵士達に、今、致命的かつ決定的なスキができたっ!

 

 

 

 

 

「今だ!―――“お笑いダンクシュート”ッッ!!」

 

 

ドゴスゥゥウウウウッッ!!!

 

 

「「「「「ぐぼぉおああ……っっ!!?」」」」」

 

 

 

 

 

俺は手に持っていたウサギの被り物をダンクシュートの要領で叩きつけた。兵士達は何故か、空高く打ち上げられ、気絶したまま力なく地面に落ちていった。

 

 

 

 

 

「―――赤白帽を笑うものは、赤白帽に泣くってことさ」

 

 

「いや、カッコつけてるつもりかもしんニャいけど、全然、カッコよくニャいからっ!!今の戦闘でキミを褒められるところが一つも見当たらニャいから!レムちゃんをかばうどころか、結局、キミが全員ぶちのめしちゃってるから!」

 

 

「安心しな。見た目は派手だが………今のは“峰打ち”だぜ」

 

 

「“峰打ち”っ!?あれで!?」

 

 

「普通に人差し指と中指の部分で殴ると大怪我するからな。危なくないよう、“ここ”の出っ張りの部分だけを当てたんだぜ」

 

 

 

 

 

俺は拳の指付け根の部分を指してそうフェイリスに説明する。レムはそれを見て合点がいったのかほっと一息ついて。

 

 

 

 

 

「それなら安心ですね。流石、アキラくんです!」

 

「どこが“峰打ち”ニャ!?」

 

 

 

 

「―――いたぞ、あそこだっ!つかまえろっ!」

 

 

 

 

 

そうこうしている内に追手が落ち着いてきてしまったようだぜ。俺たちが通ってきた壁を塞いだから、回り道の分、もうちょっと時間を稼げるかと思ったが………思ったよりも早かったんだぜ。

 

 

 

 

 

「アキラきゅん、ここからどうするのさっ!?他に出口もないし、壁に穴を開けるのもちょっと無理そうニャよ!」

 

 

「心配無用だぜ。“逃走ルート”は既に確保してあるからよぉ〜―――二人ともしっかり、俺につかまっとけよ」

 

 

「はいっ♪」

 

 

「えっ!?えっ!?なに!?………今度は何するつもりなのっ!?」

 

 

「―――“上”へ、参りまーす」

 

 

 

 

ズギュゥウウウン…… ふわっ!

 

 

 

 

「う、浮いたっ!?」

 

 

 

ぐぃぃいいいっっ!

 

 

 

「ひ、引っ張られるぅぅぅぅううウ……っ!」

 

 

 

 

 

俺は、レムとフェイリスを抱えた状態で、レムの鉄球を蹴り上げて壊した“壁の破片”をなおして、一気に壁の上のところまで移動する。

 

 

 

 

 

「と、飛んだ!?あの男、魔術師かっ!?」

 

「馬鹿言うんじゃねえっ!早く追えっ!絶対逃がすんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

壁の下の方で俺たちを見上げる兵士達。しかし、時既に遅し。最早、奴らに俺たちを追いつく術はなかった。

 

 

 

 

 

「―――アリーヴェデルチ!《さよならだ》」

 

 

 

 

 

兵士達に見送られながら、俺達三人は無事に収容所を脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ありえないニャ。何ニャ、この男は………?クルシュ様を影から操る黒幕を引きずり出すために連れてきた囮………“エサ”だったはずなのに。やることなすこと規格外すぎるニャ」

 

 

 

 

 

フェイリスは混乱していた。ジュウジョウ・アキラの持つ不可解な能力に。自分が予想していたよりも遥かに異質で異常な能力に。

 

フェイリスは苦悩していた。信頼を寄せていた者からの予想外の裏切りに。その者が自分達に向けていたあまりに醜くどす黒い感情に。

 

フェイリスは後悔していた。黒幕の正体を暴くために呼び寄せた“エサ”が、組み立てられた計画の枠に収まるような男ではないことに。作戦や戦略で組み立てた盤面を丸ごとひっくり返しかねない敵にも味方にも影響力の大きすぎる“ジョーカー”であったことに。

 

 

そして………

 

 

 

 

 

「―――おばちゃーん!おかわりー!大盛りで頼むぜ」

 

 

「あいよー」

 

 

 

 

 

自分の財布をまるごと食いつぶしかねない食欲を持つ男に『先程のお礼に食事を奢る』と言ってしまった自分の失言に。

 

 

 

 

 

「ふぇ、フェリちゃんのお給金が………」

 

 

「口いっぱいにご飯を頬張るアキラくん、可愛いです♪」

 

「むぐむぐむぐ………フェイリス。お前、いい店知ってるな。今度、また遊びに来た時、俺、絶対この店来るぜ」

 

「アキラくん、口にソースがついちゃってますよ。拭いてあげますから、じっとしててくださいね」

 

 

こしこしこし…っ

 

 

「〜〜〜っ………んむ、ぷあっ………いいよ、レム。ガキじゃねぇんだからよ。それより、お前も腹ごしらえしたほうがいいぜ。せっかくのフェイリスの奢りなんだからよ〜」

 

「大丈夫です。レムはこのアキラくんの口を拭いたハンカチがあれば一生やっていけますっ」

 

「やめろ。いいから、飯食えっ」

 

 

「―――って、奢ってもらってる分際で目の前でイチャつかニャいでもらえるっ!?フェリちゃんのお財布に甚大な被害を与えておきながら、心にまで侵略するの本当にやめて欲しいニャっ!」

 

 

 

 

 

レムのナチュラルヤンデレ発言にも慣れてきてしまっている自分が怖いぜ。フェイリスは俺の食欲に辟易してるみてぇだが、あれだけ大暴れした後だから、グレートに腹が減ってしょうがないんだぜ。

 

 

 

 

 

「さて、腹も膨れて来たところでよぉ〜。マジにどうすんだ?肝心のフェリックスがアテにならないんじゃあ………クルシュの異変を探るどころじゃあなくなっちまうぜ。やっぱ、多少のリスクを冒してでもフェリックスに会いに行くべきじゃあねえか」

 

「ダメですよ、アキラくん。ここはいったんロズワール様のもとに帰るべきです。このままだと何も悪くないアキラくんが、クルシュ様に命を狙われかねません」

 

「生憎、後戻りは嫌いなんだぜ。俺のクレイジーダイヤモンドは後退のネジをはずしてあるんだよ」

 

 

「………レムちゃんには申し訳ないけど。アキラきゅんを帰すわけにはいかないよ。このままアキラきゅんをエミリア様のもとに帰してしまったら、不法侵入した罪人を捕らえる名目でクルシュ様に追われて………下手したら、戦争に発展する可能性もあるニャ」

 

 

「それも元を辿れば、あなた方がクルシュ様を裏切ったことが原因ではないですか。アキラくんを巻き込んでおきながら、勝手なことを言わないでください」

 

 

「っ―――わたしは、クルシュ様を裏切ってなんかいないっ!!」

 

 

 

 

 

フェイリスとレムが売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしていく。本来であれば、二人とも他人を中傷したり、攻撃的な言葉を投げかける性格ではないが、状況が状況だ。

 

―――人間、窮地に追いやられると責任の所在を他人に求めてしまうものだ。

 

 

 

 

 

「………フェイリスよぉ〜。さっきの所長の言葉が引っかかってるんだろ?」

 

 

「……………っ」

 

 

「所長があんな風になってしまったのは、クルシュを恨むようになってしまったのは………自分達が、あの男を治してやることが出来なかったからだって。自分達が、あの男の努力にもっと気づいてやれれば、あんな風にならなかった………なんて思ってんじゃねぇか?」

 

 

「………お生憎様。フェリちゃんはあんな意味のわからない感情論には流されないの。どんなに手を尽くしても死人を生き返らせることはできないし、本人がどれだけ悪あがきしても結果を出せなければ騎士に登用されることはない………あの人が言っていたのは、自然の摂理に唾を吐くだけの負け犬の遠吠え。そんなものにフェリちゃんが悩むわけないじゃない」

 

 

 

 

 

フェイリスはさっきレムに見せた感情的な態度とは打って変わって悟りを開いてるような口調で鼻で笑ってみせた。

 

 

 

 

 

「クルシュ様は徹底した実力主義。そのクルシュ様を信じてついてきた癖に自分の実力不足を棚に上げて、好き放題言ってる老害のためにクルシュ様が心を痛めるなんてどう考えても間違ってるニャ」

 

 

「………そうか」

 

 

「あんなヤツを信じてしまったヴィル爺もフェリちゃんも人を見る目がなかったニャ。『人を信じるな』ってあなたに言われて、目が覚めたにゃ。クルシュ様の大願を果たすためには、数え切れない犠牲が付き纏う。そんなことわかっていたはずなのに」

 

 

「………それで?」

 

 

「フェリちゃんは、クルシュ様さえ救うことができればそれでいいニャ。フェリちゃんの力は殿下との約束の証。クルシュ様のための力。他の人がどうなってもフェリちゃんには関係ないもの。クルシュ様の大願のためにも心無い言葉や悪意を向けられることもある。そんなの当たり前だもん………だから、そういう悪意を割り切って生きていける………そんな器用さが必要だもん」

 

 

「………そうかい。でもよ………俺には、とてもお前が器用になんて見えねぇけどな」

 

 

「……〜〜〜っ………っっ………」

 

 

 

 

 

フェイリスは俺たちに背を向けたまま肩を震わせていた。顔は見えねぇけど、きっと必死に目からこぼれ落ちないように涙を押し堪えてるのが容易に想像ついた。

 

 

 

 

 

「―――俺はなぁ。『あいつのせいで』『あいつが悪い』『あいつがいなければ』そんな事を言ってる奴らをごまんと見てきたんだ。けどよ、俺にはどうしてもソイツらが何かするとは思えねぇんだ。だから確かめるのさ。『俺は違う』………絶対違ってやるってな」

 

 

「……………。」

 

 

「自分の不幸を他人のせいにしてるヤツは、何一つ変えることはできねぇ。自分の運命も変えられねぇ――――けどよぉ〜……他人の不幸に心を痛めることが出来るヤツなら、運命だって切り開けるんじゃあねえか?」

 

 

「………っ!」

 

 

「少なくとも………俺はそう思うぜ」

 

 

「〜〜〜っ……うん…………うんっ!」

 

 

 

 

 

おばあちゃんが言っていた。

 

『人は人を愛すると弱くなる………けど、恥ずかしがる事は無い。それは本当の弱さじゃないから。弱さを知ってる人間だけが本当に強くなれるんだ』ってな。

 

フェイリスが、今、心を痛めているのは『弱さ』ではない。他者の心の痛みに気づけなかった後悔から来る『優しさ』故のもの。

 

ならば、俺は敬意を持ってフェイリスに向き合うぜ。他人の痛みを共感することが出来る『優しさ』、主の大願の為に命を賭す気高き『覚悟』と………黄金のような『夢』に賭ける。

 

 

 

 

 

「―――流石、アキラくんです」

 

 

「ん?………何か言ったか?」

 

 

「いいえ♪いつもと変わらない………誰よりも鬼がかっているレムのアキラくんです」

 

 

「………やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

 

 




この作品のアキラくんは、当初、スタンド能力を持ってしまったただの一般人の設定だったのです。当然、セクシーコマンドーの使い手ではありません。

ナツキ・スバル同様、年相応の青臭さと人間臭さを持った少年主人公像を目指していたはずだったのですが………最早、行動力や言動が少年のそれではないですね。

作者が数々の少年漫画やアニメに感化されすぎた結果だと言えます。


それと『チラシの裏』から表に出る方法がわかりません。ボスケテ。

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