DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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皆様、お久しぶりです。かろうじて生きております。

かなり、心身共に病んでおりましたが、少しだけ回復の兆しが見えてきたので執筆を再開してみます。

リゼロスでリセマラという名の『死に戻り』を繰り返し、どうにかエミリアとレムを手に入れましたーーーやり直した回数は数しれず。

………やはり、ガチャは悪い文明。


第37話:老執事の依頼

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ……ッッ

 

 

 

 

 

「―――アキラ君っ!見えてきましたよ!あれがクルシュ様の統治する『カルステン領』です!」

 

 

 

「……グレート。とうとう来ちまったかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜車に揺られること数時間……。

 

 

 

俺は『枯渇したゲートの治療』という名目でロズワール領を離れて、遥々カルステン領まで向かっていた。

 

 

 

竜車の窓から流れて見える景色を見ててもどことなく道が整然としており、随所に警戒をしているであろう軽装の兵士の姿が見える。

 

 

 

他国からの侵略者に対しての警戒を怠らず、かつ領地に住む民を優しく見守る心強い姿勢がハッキリと見て取れる。

 

 

 

―――『厳格な政治と気風で民を育み、支え、導き、未来を築く』……そんな領主の厳しさと優しさが見て取れる土地柄だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのよぉ〜……一つ聞いていいか?」

 

 

 

「はいっ、何なりと!レムは、観光にまつわる名所も名産も事前にちゃんと調べてきましたからっ」

 

 

 

「グレート……至れり尽くせりだな。って、そうじゃなくてよ!―――何で、お前がしれっとこの竜車にいるんだよ!屋敷の仕事はどうしたんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。俺は本来“一人で”ここまでくる予定だった。

 

 

 

カルステン領に来るにあたり、俺は“ある事情”を抱えていたことからエミリア達を巻き込むことは出来ないとして、予めロズワールに手配してもらった竜車で早朝に人知れず出かけるつもりだった。

 

 

 

―――それが……それが、どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい……俺は、昨夜、確かにベッドで寝たはずだ。いつもより早めに起きようと思って20分は早く寝付いた。そこまでは覚えている……ハッキリと覚えている。なのに『朝早く起きて、竜車に乗る』というここに至るまでの過程が記憶にないっ!俺だけ完全にキング・クリムゾンを起こしている!」

 

 

 

「アキラ君、ご気分が優れないようであれば……竜車を止めて休憩にしましょうか?」

 

 

 

「……お前、俺に合わせようと行動してるつもりなんだろうがよぉ〜……ちったぁ『加減』ってものを覚えろよ。そんな調子じゃあこの先もたねぇぞ」

 

 

 

「いえ!レムはアキラ君が望むことなら何でもしてあげたいんですっ。誰よりも素敵なアキラ君のためなら、レムは無敵になれるんです」

 

 

 

「……無敵っつーより『不敵』だよな。つーかよ……俺が早朝に出ることについては竜車の手配をお願いしたロズワール以外知らないはずなんだけどな」

 

 

 

「はいっ!ですから、そのロズワール様から仰せつかったんです。『酷使したゲートのせいで本調子ではないアキラ君を手助けしてほしい』と言う大義名分を」

 

 

 

「……今、大義名分つったよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ロズワールめ……余計なことを。

 

 

 

今回の一件は俺とロズワールしか知らないクルシュ陣営からの『密命』が絡んでいる。部外の誰にももれないように内々で片付けなくてはならない。

 

 

 

言い方は悪いが、この件に関しては部外者であるレムを巻き込むことは好ましくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに地竜を駆った経験のないアキラ君には、初見で竜車の手綱を握るのは困難かと思います。道中、魔獣に襲われる危険性も考えられますし、レムの力が必要になる場面もあるかと思われます」

 

 

 

「もっともらしい理由をつけてっけどよぉ〜……さっきの『大義名分』って言葉を聞いちまった後だとびっくりするほど説得力がねぇんだぜ。そもそも……いつの間に俺を竜車まで運びやがったんだぁ?」

 

 

 

「畏れながら、レムがアキラ君を起こさないように細心の注意を払ってお布団に包んだまま竜車まで運びましたっ」

 

 

 

「さらっと言ってるけど寝込みを襲うって本格的に山岸由花子の誘拐手口じゃあねえかよっ!!―――じゃあ、俺の服が着替えさせられてるのは何でっ!?」

 

 

 

「僭越ながら、レムがアキラ君を起こさないように慎重に着替えさせていただきました」

 

 

 

「いや、そこは起こせよっ!どさくさ紛れになに下心暴走させてんだよ!」

 

 

 

「安心してくださいっ!―――ちゃんとアキラ君の下着も替えておきましたから」

 

 

 

「安心できねえよっ!!替えた俺の着替えはどこに消えたのか20文字で説明しやがれっ!」

 

 

 

「お洗濯が終わるまでレムが預かっております(20文字)」

 

 

 

「いや返せよ!パンツだけでも自分で洗うから!」

 

 

 

「それはダメです!そんなことしたらアキラ君の匂いが逃げちゃいます」

 

 

 

「ううわっ、このメイド最悪だ!男の下着に劣情を催していやがるよ!隠れてこそこそ『くんかくんか』する気満々だよ、コンチクショウッ!!」

 

 

 

「それは違います!レムは、殿方の下着に劣情を催すような趣味はありません――――アキラ君の匂いをかぐ陶酔感に溺れたいだけです」

 

 

 

「同じだ、バカヤロウッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメだっ……ツッコミが追いつかねぇ。前々からどこかズレてるところはあったけどよぉ〜。仔犬モードに突入したレムはもう止められる気がしねぇ。

 

 

 

ていうか、レムの暴走度合いが加速度的にひどくなってるよ!このまま加速を続けたら、世界が一巡して新世界に突入しちまうよ!スティールボールランが始まっちまうよ!ジョジョリオンは絶賛連載中だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やれやれだな……まあ、ついてきちまったもんは仕方ねぇか。今から追い返すのも酷な話だしよぉ〜。けど、二人揃ってあんまり長居するのも先方に迷惑だろうし、用が済んだらさっさと帰ろうぜ」

 

 

 

「そうですね。姉様やロズワール様へのお土産もちゃんと買わないとなりませんし…―――それに、クルシュ様の領地には、何やら良からぬ異変が起こっていると聞いております。長居するのは危険かと思われます」

 

 

 

「っ……何か知っているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでの仔犬モードとは打って変わって真面目なトーンで話し始めるレム。レムがどこまで掴んでいるのかは知らないが、その内容は十中八九市井に出回っているのと同じものであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。レムがカルステン領にくる直前に調べた情報なのですが……時期的にはアキラ君がお屋敷に来たのと同じか……少し前くらいのことです。クルシュ様の騎士であり治療術の名手であらせらるフェリックス様が治療を拒むようになったそうです」

 

 

 

「………けど、それがどういうわけか……俺の治療に関しては引き受けるような態度を示してきた。現状、人脈も何もない俺に……そんな奇跡みたいな待遇があるわけもねえんだぜ」

 

 

 

「はい。アキラ君のゲートを治療していただけるというのは大変喜ばしく光栄なことなのですが……あまりにも唐突なお話にレムは若干の猜疑心を抱いているというのが本音です」

 

 

 

「俺も概ね同じ意見だぜ。けど、ここまで来たら行くしかねぇよな。この先にいるのが敵か味方かわからねぇが……人の出会いとは『重力』であり、出会うべくして出会うものだからよぉ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、相手方がエミリアの王選に絡んで何かしら妨害工作を仕掛けてくるような奴らだったらここで会っておかなくてはならない。

 

 

 

二五〇〇年前の中国の兵法書に「孫子」ってのがあって……こう書いてある。

 

 

 

―――『彼を知り己を知れば百戦危うからず』ってな。

 

 

 

今後の王選も含めて情報を仕入れておくことは決してマイナスにはならねぇはずだぜ。

 

 

 

何より、未知の相手にビビって後戻りなんて俺の性に合わねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく、ごちゃごちゃ悩むのはもうやめだ。一度故郷を離れたからにゃあ……負けねぇ!引かねぇ!悔やまねぇ!前しか向かねぇ!振り向かねぇ!“ねぇねぇ”づくしの男意地っ!―――相手が何を仕掛けてこようが、関係ねぇ。こうと決めたら突っ走るのみだぜ」

 

 

 

「さすがはアキラくんです!レムは感服しましたっ!では、レムもアキラ君を見倣って…―――退きません!!媚びへつらいません!!反省しません!!」

 

 

 

「反省しろっ!しかも、それ俺がいつか言い放った社友者語録じゃねえかっ!」

 

 

 

「はいっ。レムもいつかアキラ君のお言葉を使えるようにとちゃんと身につけてきました―――褒めてくれてもかまいせんよ♪」

 

 

 

「ほめるかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、レムの頭とお尻にあるはずもない犬耳と尻尾がパタパタと揺れているのがハッキリと見える―――スト●イクウィッチーズかな?

 

 

 

顔もこんな感じになってるし……

 

   ↓

 

  (>ω<`)

 

 

 

いよいよレムの仔犬化が深刻になってきたんだぜ。

 

 

 

だがまあ……レムがこんな愛らしく暴走する姿を見てるとこっちの緊張がほぐれていくのを感じるのも事実。誰にも話せない密命とプレッシャーを抱えているこの状況だとレムの存在はありがたいというのが本音だ。

 

 

 

 

 

―――果たして俺にクルシュ陣営の抱えている問題を解決できるのか……

 

 

 

 

 

自信なんて全くない。けれど、俺がやらなきゃならねぇってことだけはハッキリとわかる。なにせ今回の事件は、ひょっとかすると……アーラム村の魔獣騒動以上の修羅場になるかもしれねぇんだからよぉ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――2日前、ロズワール邸。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしよぉ〜……いくらなんでも唐突すぎねぇか?面会の予約を入れたのは、明日だったんだろ?それなのに急遽前倒しで押しかけるなんて……貴族の作法はわからねぇが、そういうのってありなのか?」

 

 

 

「普通ならば考えられないことよ。でも、相手は王選の候補者……何を仕掛けてくるか予想できないわ」

 

 

 

「………王選の候補者だからこそ、そこんところは厳正にしてないといけねぇんじゃあねぇかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの有名な聖徳太子も遣隋使たる小野妹子を派遣する時は、智謀を巡らせて確たる勝算があった上で細心の注意をはらって小野妹子を派遣したとされている。

 

 

 

他の国や他の領地に使者を出すというのは、国際問題に発展し、最悪の場合、戦争にまで発展する可能性があるんだぜ。

 

 

 

事前に交わした約束事を一方的に反故にするのは政界に限らず、人間社会においてあってはならないことだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジョジョ」

 

 

 

「どした?」

 

 

 

「あなたの言うとおりだわ。たかが一介の使用人のためとはいえ、事前に決めた面会の日時をずらしてくるのは本来なら考えにくいことよ。ましてや、クルシュ様のカルステン領はそういったことに厳しいことでも有名だわ」

 

 

 

「同感。んで、ラムはどう思ってんだよ?」

 

 

 

「多分、クルシュ様の身に何か良からぬことが起こってるんだと思うわ。王選候補のエミリア様……の後見人のロズワール様からの依頼『ジョジョの治療』を引き受けたのは恩を売る目的があってのこと。これをエサに取引をもちかけてくる……というのがラムの考えよ」

 

 

 

「なるほど。半分は俺の考えたとおりだぜ」

 

 

 

「『半分』?」

 

 

 

「ああ……俺の想定だと、ラムが考えてるよりもちっとばかし面倒な状況だと考えてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラムの話によると『その異色な精霊使いに興味が湧いたから』早くに来たと言っていた。

 

 

 

俺の精霊……つまり、スタンドのことを知っているのはエミリア陣営の人間と……腸狩りとの一戦を目撃していたフェルトとラインハルト、盗品蔵のじいちゃんだけだ。

 

 

 

他にも幾度となく『なおす』能力を使ったことはあったが、俺は自分のスタンド『クレイジーダイヤモンド』を極力人前に見せないように立ち回ってきた―――それなのに部外の陣営が、どうしてその存在を知っていたんだ?

 

 

 

明らかな矛盾……どう考えても『俺の精霊に興味を抱いた』という理由はいただけないぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うしっ!……やっこさんがどういうつもりなのか知らねえが、そのハラん中拝ませてもらうとしますかねぇ〜。中途半端な策略を持って俺に相対してくるようだったら……その小賢しい策略もろともぶちのめしてお帰りいただこうかねぇ」

 

 

 

「ぶちのめさないで頂戴。ロズワール様の名に傷がつくわ」

 

 

 

「ものの例えってやつだぜ。まあ、兎に角、最初が肝心だ。なめられねぇようにしねぇとな―――紅茶OK……お茶菓子OK……砂糖OK……ティースプーンOK……ポットもバッチシ……名刺はないが、そこはまあ勢いで」

 

 

 

「威勢のいい言葉を吐いてはいるけど……使用人としての心構えはちゃんと忘れていないようね」

 

 

 

「お陰様でな」

 

 

 

「くれぐれも失礼のないようになさい。相手の機嫌を損ねるとジョジョの治療をしてもらえなくなるかもしれないわよ」

 

 

 

「……そこんところはわりかしどうでもいいんだが。とにかく行ってくるぜ。これ以上、待たせてもらんねぇしよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なめられねぇように』とは言ったものの俺はそんじょそこらのチンピラとは違う。ドス効かせて脅しかけることで強さを誇示できるとは思っちゃいねえ。むしろ、その逆……

 

 

 

ここで重要なのは『最上級の礼儀作法』を正しく実行することだぜ。

 

 

 

ジョースターの血統を世代を越えて支え続けてきたジョナサンの盟友『ロバート・E・O・スピードワゴン』は、『ジョナサン・ジョースター』の強大な覚悟と命を賭けた真剣勝負の最中であっても敵である彼らの家族を悲しませたくないという理由で手加減を加えた……そのあまりに気高い紳士の振る舞いに感銘を受けて彼らの旅への同行を決意した。

 

 

 

 

 

真に気高き強者の振る舞いは、時に敵すらも改心させ仲間にしてしまう少年漫画の法則だ。

 

 

 

 

 

―――『なめられねぇようにする』とはつまりそういうことだ。俺という存在を本当の意味で認めさせるには正しい行いを正しく実践して見せるしかない。

 

 

 

下手な小細工は逆効果っつーわけだ。ここは正攻法で行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

 

 

「―――失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は相手が不快に思わない程度の音量で来賓室のドアを叩く。

 

 

 

お偉いさんの部屋への入室要領はラムにさんざん教わった。紅茶を出す時の作法もレムのお墨付きだ。言葉遣いには……ちと自信がねえが―――こればかりは一朝一夕ではどうにもならねえ。

 

 

 

しかも、この先にいるのは俺の命を狙う『敵』である可能性の方が高いんだが……ここで悩んでいても始まらねぇ、とにかく行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ……バタムッ

 

 

 

 

 

「―――お初にお目にかかります。わたくし、ロズワール邸執事見習いをさせて頂いております。『十条旭』と申します。以後、お見知り置きを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で……できた!

 

 

 

我ながら今の言葉選びと入室時の作法から挨拶にかけての振る舞い方はなかなかのものだったはずだ。

 

 

 

俺は目を閉じて会釈した状態から、相手の反応を伺っているとソファーに腰を下ろしていた初老の男性が立ち上がってこちらに挨拶してくれた。

 

 

 

 

 

―――その風体……老紳士でありながら、歴戦の戦士の威風堂々とした風格。執事服の下に押し込められた張り裂けんばかりの筋肉の鎧。

 

 

 

精悍な顔立ちにオールバックに整えられた白髪とたくわえられた髭。何よりもその穏やかさと鋭さが混在する眼光。俺はこの目に見覚えがある。こいつは間違いなく……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは。ご丁寧な挨拶、痛みいります。私は確かに客人ではありますが……此度は、あなた方に依頼したいことがあって伺った老骨に過ぎません。どうか、そう身構えないで頂きたい」

 

 

 

 

 

「………かっ」

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

「―――かざまさん……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍が如くシリーズのカリスマ。風間新●郎の生き写しだった。溢れんばかりのダンディズム。隠しきれない男の器。全身から立ち上る覇気にも似た漢気……間違えるはずもない

 

 

 

龍が如くシリーズでは、主人公桐生一馬が最も尊敬する親父。数々の伝説を残しながらも非業な死を遂げた偉大な男が……よもや俺が流れ着いたこの異世界に来ていたとは……っ

 

 

 

ーーーこの感動と喜びを表す言葉を俺は一つしか知らねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かざま 生きとったんかワレ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の顔が劇画タッチに変貌し、鼻水を垂らして全力の笑顔を写し出す。そう……漫☆画太郎の某似顔絵と同じ顔で風間のおやっさんとの再会に咽び泣き、ついにはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズグシュゥッッ!!

 

 

 

 

 

「に゛しきっ!?」

 

 

 

「すいません!!この子、魔獣にやられた傷がまだ癒えてなくて!少し、頭を冷やしてきますね!」

 

 

 

「~~~~~っ……えミリア、何すんだ、テメエ……」

 

 

 

「いいから、アキラはこっちきなさいっ!」

 

 

 

「“扉渡り”まで使って……氷柱刺しにくるヤツがあるかよぉ」

 

 

 

 

 

バタンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---5分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ〜……開口一番失礼しました。あまりに稚拙で未熟でした。つい……あなたのその雰囲気が東条会の大幹部とそっくりだったもので」

 

 

 

 

 

「いえいえ、お気になさらずとも結構。世の中には自分と似てる人間が一人や二人いてもおかしくありません。むしろ、私のような武骨者とあなたの父親をお比べになられてはあなたの父親に申し訳なく思います」

 

 

 

 

 

「いえ。それほどの覇王色をお持ちの人であれば、誰も文句を言わないと思います。俺も直接会ったことこそないですけど、あなたが風間のおやっさんの生まれ変わりだと言われても……俺は信じます」

 

 

 

 

 

「会ったばかりのお方にそこまで評されると私も大変恐縮です。しかし、あなたの口ぶりから察するにあなたはその『カザマ』という方と親子関係というわけではないのですか」

 

 

 

 

 

「……いえ、俺に親はいません。ただ……俺は尊敬できる人を心の中に刻み込むようにしているだけです。その人達が遺した言葉や生き様を真似してるにすぎません」

 

 

 

 

 

「ほう。それは感心ですね。きっとその『カザマ』という人も喜ばれてることでしょう」

 

 

 

 

 

「……ところで、確認なんですけど。『ヒマワリ』っていう児童養護施設に聞き覚えはありませんか?」

 

 

 

 

 

「いいえ……存じませんね」

 

 

 

 

 

「そうですか、残念---そうだ……どうせだったら、俺の自宅をこのルグニカで養護施設『ヒマワリ』として……いや養護施設『アサガオ』として営業するしかねぇ!そして、俺も背中に龍を背負って、この世界に新たな極道の伝説を打ち立てて……ーーー」

 

 

 

 

 

 

 

ずごすぅうう……ッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「りゅうじっ!?」

 

 

 

「客人の前で妄言を吐くなと警告したはずよ---お客様、うちの使用人が大変失礼をいたしました。ラムが教育してきますので、暫しお待ちを」

 

 

 

「~~~~~っ……本を投げつけるのはなしだろ?藤林杏じゃないんだからさぁ」

 

 

 

「お黙りなさい。レムに排泄の世話をされたくなかったらラムの言うことを聞きなさい」

 

 

 

「OH MY GooOOooD ッッ!?それだけはご勘弁を---」

 

 

 

 

 

バタンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---10分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「度重なるご無礼申し訳ありませんでした。ですが、どうしても気になってしまって……確認せずにはいられなかったと言いますか。最後に一つ聞いてもいいッスか?」

 

 

 

 

 

「ええ。私に答えられることであれば何なりと」

 

 

 

 

 

「『カラの一坪』というものに聞き覚えはありませんか?神室町の再開発計画の鍵を握ることとなったあの土地を……」

 

 

 

 

 

 

 

ジャララララ……ッッ

 

 

 

 

 

 

 

「げふんっ、ごほんごほんごほんっ!……何でもありません、お客様。どうぞ、お茶でも飲んで後ゆるりとされてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故かドア越しに聞こえた重厚な鎖の音に前世のトラウマを刺激され、俺は目の前に再臨した風間のおやっさんに質問をすることを断念。

 

 

 

---もしかしたら、前世(龍が如く本編)の記憶とか甦ってくんねえかなぁ~なんて期待したりもしたが、そんな都合のいいことは起きそうにないんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…………こちらの茶葉ですが、かなりよいものを使われたのでは?」

 

 

 

 

 

「よくわかりましたね。生憎と紅茶を淹れる経験があまりなかったものですから、素材の味で接遇させていただきました。お恥ずかしいかぎりっす」

 

 

 

 

 

「いえいえ。このような急な来訪であったにも関わらず、これほどの歓待を受けまして誠に恐縮であります。最初に申し上げました通り、私は確かにカルステンの使者ではありますが、見ての通り、ただの武骨な老躯にすぎませぬ。どうか、そう身構えないでいただけるとありがたい」

 

 

 

 

 

「(……台詞に飾りっ気も嫌みっ気もない。武人でありながら、叩き上げの紳士《ジェントルメン》ってわけか。ジョナサンが老人になったらこんな感じなんかな)」

 

 

 

 

 

「申し遅れました。私は、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア。クルシュ様にお仕えする執事でございます」

 

 

 

 

 

「執事……って、嘘だろ。まるでウォルターじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素人目に見てもわかる。この人のガタイと立ち居振舞いはただ者じゃない。おそらく、この世界においても上から数えたほうが早いくらいの指折りの実力者であることは間違いない。

 

 

 

そんな人間を執事として傍に置いている……カルステンってのは何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもジュウジョウ殿は、とてもいい目をお持ちですな」

 

 

 

 

 

「……“目”ですか?そんなこと初めて言われたっすね」

 

 

 

 

 

「一言で言うなら『不屈の闘志』でしょうか。どんな困難を前にしても信念を貫く、そんな覚悟のようなものを感じます」

 

 

 

 

 

「俺が覚悟を決めたことなんて、数えるほどしかないっすけどね」

 

 

 

 

 

「それに何よりも……あなたはとても周囲の人間に愛されているようで。こちらに来訪する前に麓の村に立ち寄ったのですが、村の人達から英雄だと慕われているようすでした」

 

 

 

 

 

「わざわざ調べてきたんですか?俺の噂とか評判とか……そんなもの調べても大したものは出ないッスよ」

 

 

 

 

 

「いえ、民の評判とは冷静で客観的なもの。これだけでもあなたが信頼されてることが伺えます。それに先程の方々もあなたのことを心配して、あなたのことを影から見守っていたご様子でした。一介の使用人のためにあそこまでは普通できませんよ」

 

 

 

 

 

「いや、心配してるなら頭に氷柱ぶっ刺したり、本を投げつけたりはしないでしょ!?むしろ、殺意しか感じないんですけど!!」

 

 

 

 

 

「私があなたに対して何か不穏な動きをとったときに対処できるよう用心されていたのでしょう。それも当然、此度の来訪はこちらの陣営にとってはあまりに唐突で不自然なもの。警戒しないほうがおかしいですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらここからが本題のようだ。ヴィルヘルムさんのまとう雰囲気が変化したのをはっきりと感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---……ジュウジョウ・アキラ殿。あなたにご協力いただきたいことがございます」

 

 

 

 

 

「……俺はただの雇われ執事ですぜ。俺に頼みごとするくらいならロズワールを頼ったほうがいいんじゃあねえッスかねぇ~?」

 

 

 

 

 

「いいえ。これはあなたにしか頼めないことです---何せ、このままでは王選はおろか領民全てが圧政による支配を受けかねません。これは我がカルステン領の危機なのです」

 

 

 

 

 

「……オイオイ、それこそマジで俺の出る幕ねぇッスよ。一介の若造に民だの王選だの言われても……だいたい、言い方冷たいかもしんねぇッスけど、俺にとっては遠い無関係な他所での出来事ですよね?そんなもの押し付けられても困りますって」

 

 

 

 

 

「ーーーこのままですとエミリア様の御身が危険です。と言われてもですか?」

 

 

 

 

 

「……俺、ただの雇われ執事なんですけど。まあ、話が進まないんで……話を聞くだけは聞いてみますかね」

 

 

 

 

 

「政に関与しない一介の執事だからこそ話せることもあります。これから話すことはカルステン最大の危機なのです」

 

 

 

 

 

「グレート……聞くのも嫌になってきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー10分後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー以上が、我がカルステン領を襲っている異変になります。む?……ジュウジョウ殿、いかがなされました?」

 

 

 

 

「~~~~……帰りてえ。部屋でジャンプ読んでたあの日に帰りてえ」

 

 

 

 

 

老紳士が口にした相談内容はあまりにもとんでもないものであった。俺は会ったこともない顔も知らないよその領主様やな起こってる最悪の状況にただただ冷や汗を流してうなだれるしかなかった。

 

 

 

 

 

「あなたの話を信じるとして………それを俺にどうしろと?」

 

 

 

 

「今、お話しましたとおり、カルステン領は危機的状況にあります。ですが、私含め、それを解決に導くことをできる者がおりません。クルシュ様の一番の側近であらせられるフェリックス・アーガイル殿もクルシュ様のご乱心を諌めようとしましたが、それも失敗に終わりました」

 

 

 

 

「それなら、尚更……なんで俺なんですか?俺とあなたには面識も何もなかったはずですよね」

 

 

 

 

「ーーー何故、面識のないあなたを頼るような真似をしたのか。理由は至極単純。クルシュ様が『あなたに会う』と仰られたからです」

 

 

 

「?………つまり、どういうことだってばよ」

 

 

 

 

 

 

話の前後のつながりが見えず首を傾げる俺にヴィルヘルムさんは続けた。

 

 

 

 

 

 

「クルシュ様に異変が起きてから、クルシュ様もフェリックス様も徹底して他所からの来訪者を拒んできました。しかし、ロズワール様から頂いた手紙に記されていた貴方様の治療の依頼にだけは不自然なほどに興味を抱かれましてなーーーまるで、そう………あなた様と何か深い因縁でもあるのではないかと勘ぐってしまうほどに」

 

 

 

「つまり、なんですか?異変の原因は俺にあるかもしれないと」

 

 

 

「失礼。そういうつもりではありませんでしたが、不快な思いをさせてしまったようであれば謝罪します。ですが、あのお二人がこれまでにない素振りを見せたということは、事態の解決の糸口が掴めるやもしれません。ジュウジョウ殿にはそのためのご協力を依頼したいのです」

 

 

 

「………グレート」

 

 

 

 

 

 

話をかいつまんで説明すると、だ。カルステン領の領主と側近が乱心し。その二人は、何故だかさっぱりわからねぇが、『俺』に興味を抱いているらしい。

 

 

 

 

 

「つまり、俺に囮捜査をしろと?」

 

 

 

「如何にも」

 

 

 

「………『如何にも』って、オイオイ、嘘だろ?これ、失敗したら国家転覆共謀罪とかになりかねねぇぞ。責任重大すぎるだろ、いくらなんでも!だいたい、あんたが俺の何を知ってるっていうんだ!?赤の他人にそこまで信頼されるほど、俺は何の手柄も武勲も立てた覚えはねぇぞ、おい!?」

 

 

 

「私が知っていることはあまり多くありませんーーー先日、このロズワール様の統治する地にて突如跋扈した魔獣の群れが村民の命を脅かしていたこと。それを救ったのが、たった一人の素性の知れない流離い者であったこと。そして……その者が王都にてかの殺人鬼『腸狩り』と互角以上に渡り合い、見事退けてみせたということ」

 

 

 

「っ………どこから、そんな話を」

 

 

 

 

 

前者はまだわかる。だが、後者のエルザとの戦いは誰にも知らされていないはずだ。

 

王選候補者が徽章を盗まれ、殺人鬼に暗殺されそうになり、あまつさえそれをどこの馬の骨とも知れない風来坊に助けられたなんて情報が出回れば王選に一気に不利になる。

 

だから、この事件を知る者はロズワール邸の人間しかいないはず。

 

 

 

 

 

「箝口令を敷いていても情報というのはどこからともなく漏れ出てしまうもの。特に『ジュウジョウ・アキラ』という名前はこのルグニカではあまりにも特徴的すぎます」

 

 

じりじり……っ

 

 

「ーーーっ」

 

 

 

 

 

俺は足幅のスタンスを広げて腰を落とし、警戒態勢をとる。しかし、目の前の老紳士はその警戒心もどこ吹く風。俺にあっさりと背を向けて窓の外の景色を眺めつつこう続けた。

 

 

 

 

 

「ロズワール様から治療の依頼の手紙にあった名前を聞いたときは深く驚きました。まさか、つい最近まで疎遠になってた『孫』から聞いた名前と全く同じ名前だったのですから」

 

 

 

「………“孫”?ーーーそういやぁ………さっき『ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア』って名乗って…………んん?『アストレア』って名前、どこかで聞いたことがあるような」

 

 

 

 

 

こっちに来てから、俺が名前を聞いたことのある人物なんて数えるほどしかいない。エミリア。レム。ラム。ロズワール。ベアトリス。パック。フェルト。エルザ。それと………

 

 

 

 

 

「あなた様が王都で行動を共にされた剣聖『ラインハルト・ヴァン・アストレア』。私は、その不肖の祖父にございます」

 

 

 

「グレート………とんでもねぇ戦闘民族と関わっちまったみてぇだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからの話は早かった。ヴィルヘルムさんのような傑物が何故俺を一方的にそこまで信頼して遠路遥々俺を頼ってここまで来たのか。その理由がハッキリしたのだ。警戒する意味もなくなった。

 

 

 

 

 

「でも、まさかラインハルトの祖父様とこうして会うことになろうとはねぇ。世間は狭いっつーか……なんつーか」

 

 

「かの剣聖はその強さ故にあまりにも孤高。対等な立場の友人など望めるはずもないと思っていたのですが、ジュウジョウ殿に友と認められたことを素直に喜んでおられました。ジュウジョウ殿には感謝の言葉もありません」

 

 

「そんなことで感謝されると流石に恐縮しちまいますね。あの時はノリと勢いで俺が戦ったけど………やっぱ、あいつ桁外れだったわけか。差し出がましいことをしちまったかな」

 

 

 

 

 

エルザとの戦いの時は俺が意地で割って入ったけど、ラインハルトだったらあのエルザも容易に秒殺できたんだろうな。

 

 

 

 

 

「ラインハルトのヤツ、もしかして怒ってたりしてなかったッスか?」

 

 

「何故、そのようなことを?」

 

 

「い、いやぁ……あの時は、俺がカッコつけたいから、あいつのお株を奪う結果になっちまったッスから。俺もなんとなくわかってはいたんですけどね。俺よりもラインハルトの方が強いし適役だってことくらい。でも、あの時はどうしても譲りたくなかったんですよ」

 

 

「それはあなた様と腸狩りとの間に因縁があったからでは?」

 

 

「そんなんじゃねぇッスよ。俺はただあの時…ーーー」

 

 

 

 

 

エルザと対面していたあの時、俺の背後にはエミリアとフェルトがいた。あいつらの前でラインハルトの影に隠れるなんて真似はしたくなかった。

 

 

 

 

 

「ただ、見せたかったんスよ。腸狩りと戦っていた時、後ろにいた“あいつら”に」

 

 

「………?」

 

 

「“あいつら”にカッコいいところ見せたかったんスよ。それが俺が俺であることなんスよ。『ホレた女の前でカッコつけてぇ』ーーー安易《チンケ》な意地かもしれねえ。だけど俺にとっちゃ、一番重要なコトなんスよ」

 

 

 

 

 

ここの世界に来てから、度重なる理不尽に押しつぶされそうになった。何度もやり直しを強制されて、その圧倒的な労力に対して得るものは何もない。だったら、せめて主人公らしくヒロインにカッコいいところ見せたかったんだ。

 

 

 

 

 

「ラインハルトにも申し訳ないことをしたッスけど、俺はどうしてもラインハルトには譲りたくなかったんスよ。惚れた女は自分の手で守りてぇって意地があったからよぉ〜………だから、俺はラインハルトやヴィルヘルムさんが思うようなそんな大層な人間じゃあねえんスよ。むしろ、遠路遥々ご足労頂いたのに本当に申し訳ないっつーか。期待はずれで申し訳ないとしか……………笑ってくれて構わねぇッスよ!」

 

 

「ーーーいいえ」

 

 

「え?」

 

 

「愛する者を守りたい。それは男子に生まれた者である限り、あまりにも普遍的な意地でありましょう。同時に騎士としても男としても………最初に志す原点とも言うべき原動力でもあります。それをどうして笑うことなどできましょうか」

 

 

「ヴィルヘルムさん?ーーー……って、ええええっ!?いったい、何をしてるんスか!?」

 

 

 

 

 

ヴィルヘルムさんは、いきなり仰々しく片膝をついて俺に頭を下げてきた。さっきまでは紳士然とした態度だったのが、今度は、まるで王に謝儀を行う騎士のような厳かなものに変わった。

 

 

 

 

 

「や、やめてくださいっ!何してるんですか!?頭を上げてくださいよ!」

 

 

「いいえ。私の此度の非礼を詫びるにはこれでもまだ足りませぬ。誠に勝手ながら貴方様のことを探り、このような事件に巻き込んでしまったことを深くお詫びいたします。どうか、この老骨めをお許しください」

 

 

「いやいやいやいやいや!!なんで!?何で、いきなりそんなことになってんの!?」

 

 

「私はずっと貴方様の事を過小評価しておりました。そのことを平にお詫びいたします。何卒、ご容赦願います」

 

 

「ご容赦願うも何もねぇッスから!いいから、顔を上げてくださいっ!謝ってもらうことなんて何もないですから!ね!」

 

 

 

 

 

俺は寧ろ、ラインハルトのお株を奪った理由が『女にもてたい』という打算と欲望に塗れた理由であることをカミングアウトしただけなのに。今の会話のどこにリスペクトを稼ぐような文言があったんだ!?

 

 

 

 

 

「とにかく、俺に騎士道とか正義感とかを期待されても困りますよ。『村の英雄』だとか『腸狩りを倒した男』って称号はあってもよ。俺は所詮その程度が関の山ッスよ。『他国の領主様がピンチに陥っているから、それを助けろ』って言われましてもねぇ〜」

 

 

「貴方様は既に気づいておいでなのではないですか?」

 

 

「………何に?」

 

 

「此度の王選候補者は全て何者かに命を狙われていると」

 

 

「………………。」

 

 

「ロズワール領で起きた魔獣騒動もアレはおそらく人為的に起こされたものであると見て間違いないでしょう。私が村に調査を行った時も『村を守る結界が破壊されていた』という証言が取れております。エミリア様を襲った腸狩りもその刺客であることは言うに及びますまい。さすれば、此度のカルステンの異変の黒幕もまた同一人物である可能性が高い」

 

 

「………でしょうね」

 

 

「ジュウジョウ殿。この事件の黒幕を暴くことが、引いてはエミリア様やその周囲の人間を護ることにも繋がるはずです。どうか貴方様の力を我々に貸して頂けませんでしょうか?」

 

 

「ーーーやれやれ、どいつもこいつも……信頼が重いな〜。重いのはレムの愛だけで十分だってのに………エコーズACT3隠し持ってませんかねぇーーーでもまあ、エミリアやレムが殺される未来なんてのはまっぴらゴメンだし。あいつらとおちおちデートも出来ねぇ日常なんてのも御免被るぜぇ」

 

 

 

 

 

面倒ごとなんてのは俺が最も嫌いなことだが。ここはあえて、この老紳士の口車に乗るとしよう。どの道、カルステンの異変を知ってしまった俺はもう後戻りできやしねぇ。

 

ラインハルトの前で女にカッコつけようとしたことが仇になっちまった。あの時に無力な一般ピーポーを演じてさえいれば、こんな面倒はなかったかもしれねえのによぉ〜。

 

 

 

 

 

「………ジュウジョウ殿。それでは………っ」

 

 

「まあ、わざわざ遠いところから来てもらったのに持たせる酒も土産も出せないとあってはカッコつかんでしょう。せめて、タクシー代分くらいは働かせてもらいましょうかね〜。てなわけで、作戦をお聞かせ願いませんかね、おやっさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




惚れた女を守りたい。男がヒーローに憧れる理由なんて所詮そんなもんなんでしょうね。

リゼロはもちろん。エウレカ、グレンラガン、ガンダムXとか………惚れたヒロインのために戦う主人公は得てして嫌いになれませんね。

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