DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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前回から大分間が空いてしまった―――本当に申し訳ない(ブ●イク博士)

本当のところを言うと転勤してから、仕事がガチで忙しくてまともに自宅のパソコンすら開いてなかったです。

とりあえず空き時間を縫って書き上げたものなので皆様が満足していく出来になるかどうか不安です。

そして、幻想の投影物様、外川様、Donnfann44様、ご感想ありがとうございます。

あなた方のメッセージがなかったら失踪してたかもです。


第35話:手のひらの勇気

 

 

 

 

ガツガツっ むしゃむしゃっ ぐびぐびっ

 

 

「―――『ゲートの治療』ぉ?……俺がぁっ!?」

 

 

「……倒置法で聞き返さなくてもアキラしかいないでしょ、もう」

 

 

ガツガツっ ガツガツっ もしゃもしゃっ

 

 

「んんなこと言われてもよぉ〜……俺に今更治療がいるとは思えないんだぜぇ。大丈夫だぜ、飯だって美味いし」

 

 

「レムが作った料理なんだから、美味しいのは当たり前でしょう。食べるなら、よく噛んで食べなさい」

 

 

ぐびぐびっ むしゃむしゃっ はぐはぐっ

 

 

「食事を美味しく味わえるのは何よりの健康の証だぜ、ゲートが損傷してても死にはしないッスよ。魔法に未練もないしなぁ〜」

 

 

「未練がないと言いながら魔法の練習を影で続けるのはやめるのよ。前にも言ったけど、次にお前が再起不能になってもベティはお前を助けないのよ―――あと、いい加減口いっぱいに食べ物を頬張るのはやめるのよ!」

 

 

 

 

 

ベア様からの怒り混じりのありがたい忠告に胸を痛めつつも俺は食事の手を緩めない。『魔法の練習をやるな』と言うのは再三に渡って受けてきた警告だ―――しかし!俺は知っている。 

 

ジャソプの主人公はいつだって無理・無茶・無謀の特訓をこなすことで人並外れたグレートなPOWER UP!!を果たすのだ!

 

 

 

 

 

もぐもぐもぐもぐっ ごきゅんっ

 

 

「―――グレート。俺は金も身分も捨てて夢を追いかける男ぜよ。この地獄のような特訓を乗り越えた先にこそ、俺の『ドッキーング!パッカーン!ムーテーキー!』な未来が待ってるんだぜっ」

 

 

「いい加減、真面目な話をするとねぇ〜え。君の治療に費やしたマナに加えて、君が無茶を繰り返したせいで君のゲートはもう限界を迎ギリギリなんだぁねぇ〜え。このままいくと、あと一週間もしないうちに君の命が燃え尽きるかぁ〜もね♪」

 

 

「ヤベェーーーイッッ!!」

 

 

 

 

 

ロズワールは相変わらずヒソカみたいなねちっこい喋り方をしているが、その声色は真剣そのものだ。俺の身体はどうやらマジで深刻極まりない状態らしい。しかし、当の本人としては体のどこにも不調らしい不調を感じていない。寧ろ、以前に比べてマナを扱う感覚が研ぎ澄まされつつあるような気さえする。

 

まあ、魔法の練習もそこまで追い込みをかけてるわけでもないし……ゲートの治療たって、そんな慌てなくたって―――――

 

 

 

 

 

パリン…ッ

 

 

「あん?」

 

 

「そ、そんな……っ、アキラくんが……っ!アキラくんの体が、そんな破滅一歩手前の状態だったなんて…………こうしてはいられませんっ!アキラくん!今日のお仕事はすべてレムがやっておきますので、すぐにお部屋に戻ってくださいっ!レムが全身全霊をもってアキラくんのゲートの治療を行いますっ――――さあ、早くこちらへ!」

 

 

バヂバヂバヂヂ……ッッ

 

 

「グレート……あんたはとことん男をダメにするタイプなんだぜ。とりあえず、まずはその“ツノ”をしまえ。“ツノ”を」

 

 

 

 

 

このまましらばっくれてると鬼化したレムに自室まで強制連行されかねないのではぐらかすのを諦めてロズワールの話を聞いてみることにする。

 

俺自身は全く気にしていないんだが……エミリアもレムもあの事件のせいで俺が瀕死の重傷を負ったことに罪悪感を感じちまっている。そのせいでゲートを酷使させちまったことも。

 

だから、ことあるごとに俺の仕事を取り上げようとしたり、過保護なまでに俺を心配してくるのも無理もない話だ。

 

―――面倒クセェから、そういうのはなしにして欲しいんだけどよぉ〜。

 

 

 

 

 

「ゲートの治療つってもよぉ〜。具体的にはどうすんだ?魔法とかマナとかっつーのは、外科的治療はおろか薬とかで治せるもんでもねぇだろ」

 

 

「レムやベアトリス、それと宮廷魔術師であり、この美しいわぁ〜たしの実力を持ってしてもぉ〜……君のゲートの完治をさせることは不可能だぁ〜ね♪」

 

 

「深刻な内容のはずのにどこか楽しそうな話し方をするのやめろ。道化の化粧も相まって……キャラが、“美しい魔闘家鈴木”みたいになってんぞ」

 

 

「おんやぁ〜、それは光栄だぁね♪そこまで言われる人物なら、さぞ歴史に名を残す美貌の持ち主なのだろうねぇ〜え」

 

 

「あ、ああ……まあ……ある意味伝説にはなったのかな?―――“美しい魔闘家鈴木”の喜劇はファンの間で永遠に語り継がれていくはずさ」

 

 

「……ジョジョ。余計な茶々を挟まないでもらえるかしら。話が横道にそれてるわよ」

 

 

「……っと、悪いっ。余計なツッコミを入れちまうのは俺の悪い癖だな」

 

 

 

 

ラムに言われて慌てて話を軌道修正する。

 

 

 

 

 

「兎に角よぉ〜。そこまで重傷な俺のゲートを治すって言うからには、何か治せる手立てはあるってことでいいのか?」

 

 

「あるにはあるんだがね〜ぇ。先方も今は少々厄介な事情を抱えてしまっているようだから、そこについては君の努力次第になるかぁ〜な」 

 

 

「話が今ひとつ読めないな。この期に及んで俺に何を頑張れって言うんだよ。俺に土下座でもして頼み込んでこいってか?」

 

 

「当たらずとも遠からずといったところだ。何せ相手は大陸でも有数の治癒魔術の使い手だ〜か〜ら〜ね」

 

 

 

 

 

ロズワールが掴み所がないのはいつものことなんだが、今回はやけに結論を引っ張ってくるんだぜ。何か言いづらい事情でもあるのか?

 

 

 

 

 

「その有数の治癒魔術師っていうのがね。今度の王選の相手のお抱えの騎士様なの」

 

「王選って……エミリアが出るアレか?」

 

 

「『クルシュ・カルステン』―――ルグニカ王国を長きに亘って支えてきた、カルステン公爵家の現当主。若干17歳で家督を譲られるほど才気に溢れる女傑様であ〜りぃ、王選候補者の中でも大本命と目されているお方だぁ〜ね」

 

 

「そして、此度、お越しになられる『フェリックス・アーガイル様』は、そのお方の一番の騎士様であらせられるわ―――ここテストに出すから覚えておきなさい、ジョジョ」

 

 

「お前、テストしたことねえだろ!……―――って、サラッと言ってるけど。つまり、要約するとだ。俺の治療を依頼する相手ってのはエミリアの王選での最大のライバルの懐刀ってことかよ。大丈夫なのかよ!?」

 

 

 

 

 

ぶっちゃけ、王選についてはさして興味ないんだけどよぉ〜。こんな時期にそんな相手に借りなんぞ作ったら、後々ややこしいことにならねえかぁ?

 

 

 

 

 

「やっぱ、必要ないんだぜ!そんな人に頼まなくったってよ。俺、大概の怪我は飯食ったら治るし。このまま放っておいても別に――――」

 

「それはダメ!アキラ、わたしが目を離すとすぐに無茶するんだもん。そんな子をこれ以上、放っておいたら私が困るわ」

 

「でもよ、今までさんざん借りを作ってきたのに……これ以上、エミリアに迷惑かけるわけにはいかねぇぜ。俺なんか死んだところで誰も……」

 

「じぃ〜〜〜」

 

「困らな……え、エミリア?」

 

「じぃ〜〜〜〜っ」

 

「お、俺は、ほら……別に正式な使用人でもお前の騎士でもなんでもないんだしさ。いなくなったところで痛くも痒くも……」

 

「じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

「…………やれやれ、わかったよ」

 

 

 

 

 

俺の口八丁には誤魔化されないぞという意思表示も込めて『じぃ〜』と口に出して抗議してくるエミリア。いや、全く怖くはないんだけど……なんかそのあまりにも幼い意思表示に俺もしかたなく折れた。

 

 

 

 

 

「まあ、何だかんだあって……ともかく、その治療ってやつを受けりゃあいいんだな?」

 

 

「確かに治療をして欲しいと依頼はしてあるんだけどね〜ぇ。ことはそう単純ではな〜いんだ」

 

 

「……まあ、そりゃあ王選のライバルから『王選とは無関係な居候の治療をしたいから手を貸してくれ』って言われたら少しためらうだろ」

 

「…………また『無関係』って言った」

 

「あン?今、何て?」

 

「しらないっ!…………ぷんっだ!」

 

「やれやれ……うちのエミリア姫はどうにもご機嫌斜めなようで。こうなると十条さんはやり辛くていけないぜ」

 

 

「噂によると、クルシュ様が治めているカルステン領で何やら厄介な問題が勃発しているらしくてね〜え。今はとてもこちらの事情に構ってる場合じゃあなさそうなんだぁ〜ね」

 

 

「問題?飢饉とか財政難とかか?」

 

 

「詳細については何も聞かされてないね。ただ、聞くところによるとクルシュ様の部下が突如として次々と謎の失踪をしているらしくてね〜え。王選を控えたこの時期に内部から裏切者が現れた可能性も示唆されつつあるんだ〜ね〜え」

 

 

「……“失踪者”」

 

 

 

 

 

俺はその言葉にひどく嫌な引っ掛かりを覚えた。これが内部に他の王選候補者が仕込んだ間諜の仕業であればいい。

 

けど、もしこれが―――スタンド使いの仕業だとしたら?

 

大いにあり得る。エミリアのところにも仕込まれていたんだ。他の王選候補者に仕掛けを施すことだって容易に想像がつく。そう!きっと他の陣営にもスタンドの魔の手が迫っているはず!

 

 

 

 

 

「―――アホか、俺は。『ゴルゴムの仕業』じゃああるまいし」

 

「“ゴルゴム”?」

 

「……何でもねぇよ。30分の特発番組のご都合主義ってやつだぜ」

 

 

 

 

 

この世界にエミリアを殺そうとしたスタンド使いの存在は確かだ。けど、そう何人もゴロゴロとスタンド使いがいるはずもない。

 

―――否、そう何人もいてたまるか。

 

 

 

 

 

「どっち道、アキラにはその治癒術師の人に会ってみてもらわないとならないわ。だって、アキラの能力じゃあ『自分の怪我は治せない』んでしょ」

 

「グレート……そう言われると返す言葉もないけどよ」

 

 

「予定では〜、2日後にアーラム村に来るはずだ。アキラ君にはお客人のお出迎えの準備をして欲しいんだね〜え」

 

 

「それは構わねぇんだけどよ〜。いいのか、俺で?こういうのはレムやラムの方が適任なんじゃあ」

 

 

「君も曲がりなりにもこの屋敷に使える使用人だ。こういったことに今の内から慣れてもらうことも大事なのだ〜よ。これを期に接待というものを学んでおくといい。なにせ、わたしの屋敷にお客人が来るなんてぇ……滅多にないことだからね〜え」

 

 

「………貴族として、それはそれでどうなんだ?」

 

 

 

 

 

ロズワールはこんな言い方をしちゃあいるが。本音のところは『重傷患者に屋敷の激務はさせられないから、接待の準備という名目でリフレッシュしてこい』ということなんだろう。

 

そうでなきゃあ俺にわざわざ大事な客人の接待を任すメリットがない。

 

 

 

 

 

「……仕方がねぇか。だったらついでに細かな買い出しも兼ねて村の方に行ってくるぜ。確か、卵とビネギーと集草袋がいくつか減ってきてたよな」

 

 

「必要ないわ。ジョジョには客間の花瓶にあいそうな花を村の方にまで行って集めてきてもらうわ。それが今日のあなたの仕事よ」

 

 

「おいおい!いくらなんでも過保護すぎだぜ。俺にも俺のできる屋敷の仕事があればいくらでも手伝うし」

 

 

「いいえ、心配ありません。このお屋敷の仕事はレムと姉様に任せておいてください」

 

 

「そうもいかねぇし。俺が頑張らねぇと業務に支障も出るだろうぜ」

 

 

 

「大丈夫!アキラがいてもいなくてもレムとラムだけで充分だから」

 

「ベティは、むしろ、煩いのがいない方が清々するかしら」

 

「何を言ってるの、ジョジョ?未だに文字も読めない使用人を戦力として数えてるわけ無いでしょう」

 

「大丈夫です!―――アキラくんがいなくったって、ロズワール邸には全く影響ありませんから」

 

 

 

「みんなぁ!ありがとよぉ!……チクショーーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

お前らの友情には、涙がちょちょ切れるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――かくして、まるで追い出されるようにしてアーラム村まで来たわけなんだが。

 

 

 

 

 

「……何でお前がここにいるんだ?」

 

「わたしもお客人の出迎えの準備よ。あと、アキラが村のみんなに迷惑をかけてないか見に来たの」

 

「俺はやんちゃ坊主か!?」

 

 

 

 

 

しれっとフードをかぶったエミリアが俺の横についてきてしまっている。普段、村に行くのは嫌がるくせに俺が村に来てるときだけは積極的に村に顔を出しに来やがるんだよなぁ。

 

 

 

 

 

「―――おおっ、兄ちゃん。また来たのかよっ」

 

 

「おうよ。何かお屋敷にお客様を招待するってんでな。何かお茶菓子に良さそうなものでもあるかな?」

 

 

「―――それだったら、今日はオレンの実があるで。ちょうど昨日仕入れたばかりじゃから、今日なら美味しく頂けるで」

 

「―――仕事をサボってメイドの嬢ちゃんを困らすんじゃあねえぞ」

 

 

「いや……仕事はやる気あんだけどよぉ〜。ケガが治らねぇ内は無茶はダメだってよ。森で暴れまわったことをまぁだ根に持ってやがるんだぜ」

 

 

「―――それだけアンちゃんのことを心配してるってことじゃねえか。贅沢抜かすんじゃねえぜ」

 

「―――そうだ!そうだ!あんな美人さんに囲まれて仕事できるんだ。寧ろ、俺が変わってもらいたいくらいだね」

 

 

「グレート……あの屋敷で働くのも案外楽じゃあねえんだぜ」

 

 

 

 

 

すれ違う村人に口々に好き勝手言われまくる。あの一件以来、アーラム村の住人からすっかり信頼を寄せられるようになった。今じゃあ、この村で俺のことを知らないやつはいない。

 

―――しかし、肝心の俺は村人の名前と顔が全然覚えきれていないんで、いきなり話しかけられると返事に窮するときがある。

 

 

 

 

 

「アキラったら、すっかり大人気じゃない」

 

「まあな。命を張った甲斐があったってところかな。お陰で買い出しする時に野菜や調味料を少し値引きしてもらえるようにはなったぜ」

 

「普段があんなんだから、この村でもちゃんとやれてるかどうか不安だったんだけど。もしかしたらロズワールよりもアキラのほうが領主様に向いてるかもしれないわね」

 

「悪い冗談だぜ。俺じゃあなれても“猟師”が関の山だ」

 

 

 

 

 

お陰でウルガルムの狩り方だけは嫌というほど学んだからな。森でしこたま殴り潰したことも昨日のように思い出せるぜ。

 

 

 

 

 

「そういうお前こそ、もっと積極的に話しかけてもいいんじゃあねえか?お前はいずれこの国の王になるんだぜ。少しでも支持率上げるためにも顔を売った方が絶対いいと思うぜ」

 

 

「……うん。そうだね」

 

 

「あれ?俺、なんか変な事言ったか?……別に媚を売れってわけじゃあないけどよ。政治には何よりも国民の理解と期待を寄せられることが大事なんじゃあねえかっていう素人考えだったんだけどよ〜」

 

 

「ううん。アキラの言うとおりだと思う。でもね…………今のわたしには、まだその勇気がないの」

 

 

「……勇気?」

 

 

「………そうよね。わたしもアキラみたいに着の身着のまま外の世界に飛び出していく勇気さえあれば、色々と……やってみたいこともあるんだけどな」

 

 

「ふーーーん……そんなもんか」

 

 

 

 

 

俺は別にこのルグニカに亡命しに来たわけじゃあねえんだけどな。これまでの人生で特別『勇気』ってものを振り絞ったこともねえし、基本的にはノリとその場の勢いでしか行動してねぇからな。

 

 

 

 

 

「ねえ、アキラはいつもわたし達のために頑張ってくれるけど。そんな無茶をしてまで何をしたいの?」

 

 

「ん?」

 

 

「だって、ほら……わたしには王選を勝って王位を継承するって目的があるけど。アキラには何かそういう成し遂げたいことがあるのかな〜って」

 

 

「………考えたこともなかったな。けど、そうだな。どうせなるなら」

 

 

 

 

 

前にもレムに言ったことがあったっけな。『俺には『夢』がない。でもな、『夢』を守ることはできる』って、一丁前に息巻いてよぉ〜。今にして思えば、軽い黒歴史だよな。

 

 

わけもわからず、異世界に放り出されたばかりの……あの頃は俺も生き抜くことに必死だったからな。

 

 

そんな行く宛のなかった俺に救いの手を差し伸べてくれたのが、ここにいるエミリアだった。

 

無知な俺に知恵を与えてくれたのがベアトリスだった。

 

取り返しのつかないことをしてしまった俺を見捨てずに最後まで一緒に戦ってくれたのがラムだった。

 

死を前にして諦めていた俺を命を賭して助けてくれたのがレムだった。

 

 

―――ホント、皆にはでっけぇ借り作っちまったよな。

 

 

今の俺には、カッコいい夢とか理想とかはないけどよ……けどよ、どうせカッコつかねぇなら―――

 

 

 

 

 

「ナルシストで自意識過剰な―――『正義のヒーロー』にでもなりますかね」

 

 

 

 

 

誰かの『英雄』になんぞなれない。正しいことの為に誰かを見捨てる『正義の味方』なんぞまっぴらごめんだ。少年漫画の『主人公』になんぞなれるはずもない。

 

なら、自分の思うまま、気のむくまま、好き勝手にこの力を使って……―――何かを助け、救って、抱きしめ、心に触れて、届けて、伝える。

 

そんな幼稚で自由気ままな『正義のヒーロー』ってやつを目指すのも悪くねぇかな。

 

 

 

 

 

「…………正義のひぃろぉ?」

 

 

 

 

 

そんな俺の独白を聞いたエミリアがキョトンとした顔でこちらを見つめていやがった。

 

 

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいっ、正気か、テメエっ!?自分の思考の海に沈んじまって、エミリアの前でチョーこっ恥ずかしい『ヒーロー宣言』しちゃったよ!『ママ、ボク、将来仮面ライダーになるの』宣言しちゃったよ、こんちくしょうっ!とてつもない恥ずかしい正義のヒーロー宣言決めちまったぜぇ、オイ、どうするよっ!!?

 

 

 

 

 

「だぁぁああ〜〜〜〜〜〜っっ!!そんなマジに受け取るんじゃあねぇぜ!ほんの冗談だ。冗談っ!イッツ・ジョークっ!…………ああ、そうだよ!俺にはお前みてぇな御大層な目標なんかねえよ。悪かったな。俗っぽい人間でよぉーーーおっ!?はいはい、この話はもうおしまい!これにて終了!ジ・エンド!!」

 

 

「えっ……違うの!そんなんじゃなくて……っ」

 

 

「ええいっ、皆まで言うな!俺はガキ共と遊んでくるぜっ!どうせ、俺はいつまで経っても中二病が抜けねぇクソガキだからよ!邪王炎殺拳とか大好物の厨ニ患者だよ!ちっとくらい妄想《ユメ》見たっていいだろうが!中二病でも恋がしてぇんだよ!どうせリアルは冷たいんだからよぉーーーーーーオッ!!」

 

 

「あのっ……ほんと、バカになんてしてないのっ……ただ、びっくりしたというか」

 

 

「うるせいっ!慰めなんていらねぇんだよ!優しくしてほしくねぇんだよ!こういう時に優しくされると余計惨めになるんだよ!てやんでぇバーローちくしょーっ!」

 

 

 

 

 

俺はその場の空気に耐えきれずに走り出した。わかってるぜ。エミリアは決して人を小馬鹿にするような子じゃあねえってことくらい。

 

けどよ…………優しさってやつは時にこの世のどんなものよりも残酷になるってことがあることを俺は思い知らされたんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………行っちゃった」

 

 

 

 

 

アキラは顔を真っ赤にしてまくし立てるとそのまま土煙をあげて走り去ってしまった。

 

アキラは凄く恥ずかしがってたみたいだけど、わたしは誓ってアキラを馬鹿にするつもりなんてなかった。

 

 

―――むしろ、その逆。

 

 

どこか見果てぬ夢を見つめるかのように遠くを見つめて、日だまりのような穏やかな薄っすらとした笑みを浮かべて自分のユメを語るアキラの顔から目が離せなかった。

 

 

『正義のひぃろぉ』―――それはきっとわたしが読んだどの物語に登場する『英雄』や『騎士様』よりも強くて優しくて尊い存在。

 

 

そんな果ての見えない理想を幼い少年のように語るアキラの顔を見てたら不思議と『アキラならなれる』と思ってしまった。

 

 

わたしはそんなアキラを見て思ってしまった。

 

 

 

 

 

『アキラなら……本当に私の願いを叶えてくれるかも』……って。

 

 

 

 

 

子供達や村の人に囲まれて揉みくちゃにされて楽しそうに笑っているアキラを見てるとわたしもあんな風になりたいって……わたしの叶えたい夢がそこにあるような気がした。

 

 

 

 

 

『―――…………。』

 

 

 

 

 

ふと……そんな賑やかに笑っているアキラを遠巻きに眺めている一人の女の子の姿が目に入った。

 

 

大きなリボンに短い金髪、そして翠色の瞳……わたしも村で何度か見かけたことのあるアキラと仲良くしてるあの女の子だ。

 

 

 

 

 

『おう、ペトラ!そんなところで何をしてんだよ』

 

 

 

『―――っ!?』

 

 

たたたたた……っ

 

 

 

『あっ、おい!?』

 

 

 

 

 

リボンの女の子は、アキラが声をかけた途端、怯えた顔で走り去っていってしまった。

 

 

別段、アキラが何かしたようには思えなかったけど、あのリボンの子は何かすごくショックを受けてるような様子だった。

 

 

 

 

 

『―――グレート……何か怒らせるようなことしちまったかな』

 

 

『わかんない。でも、最近ペトラずっと元気ないんだ』

 

『俺たちもよくわかんないんだけど。何してても元気ないんだよ』

 

 

『やれやれ……まだ、あの事件のトラウマ引きずってんのかねぇ』

 

 

 

 

 

アキラやお友達のあの子達にも理由はわからないみたいだった。

 

勿論、わたしには関係のないことだからすぐに忘れようと思った。わたしが他人のことを気にかけてもその人が迷惑するだけだ。

 

 

王都の時とは違う。ここの人達はみんなハーフエルフを怖がっている。だから、わたしはアキラみたいに手を差し伸べることなんかできない。

 

 

なのに……

 

 

―――泣きそうな顔で走り去っていくあの子の後ろ姿が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――わたしは、ひとりで暗い森の中を歩いていた。

 

 

 

あの悪夢の夜から何日も経った。

 

 

村はもう大丈夫。魔獣は襲ってこない。わたし達は助かったんだ。

 

 

そんなことはわかっている。わかっているのに……わたしは“また”森の中を歩き続けている。

 

 

これ以上、奥に進んではいけない。もう帰れなくなる。パパとママに会えなくなっちゃう。

 

 

それなのに、帰りたくても帰れない。

 

 

本当は今すぐにでもここから出たい。

 

 

 

 

 

『―――ごめんね。みんな、これがワタシのお仕事なの♪』

 

 

 

 

 

あの夜と同じだ。あの子が巨大な魔獣と無数の犬を引き連れてわたしの前に現れる。

 

 

でも、わたしはわかってる。『わたしは絶対に大丈夫だということ』を。

 

 

だって、わたしは―――この人に助けられたから。

 

 

 

 

 

『ペトラ!』

 

 

 

 

 

アキラだ。

 

 

アキラが立っている。わたしの目の前でいつもみたいにおどけた雰囲気でわたし達を笑わせてくれるような笑顔で立っている。

 

 

わかってる。

 

 

だって、アキラが助けてくれたんだもんね。危ない目にあっているわたし達を助けに来てくれたんだもんね。

 

 

でも、そのせいで……そのせいでアキラは――――

 

 

 

 

ガァアアウッッ!!! グラァアウッッ!!! ガァアウウウウッッ!!!!

 

 

 

 

 

アキラが無数の魔獣に噛まれていく。血に染まっていく。

 

 

やめて…っ

 

 

アキラが死んじゃうっ

 

 

このままだとアキラが死んじゃうっ!!

 

 

やめてっ! やめてよっ!! おねがいだから、もうやめてぇ!! だれか……っ だれか助けて!! アキラをたすけて!! アキラが死んじゃう!!

 

 

 

 

 

『ああ……そうだ。オレは“死ぬ”』

 

 

 

 

 

アキラは顔をうつむかせたままそう言った。

 

 

体中に魔獣の牙が刺さったまま……全身から血を流して……口から血を吐きながら……アキラはそういった。

 

 

前髪の下から覗く瞳は真っ赤に血走っていた。

 

 

わたしに向けてありったけの呪詛を叫ぼうとしているんだ。

 

 

―――ヤメテ…… 

 

 

 

 

 

『そうだよ。俺は誰のせいでこうなってるんだ?』

 

 

 

 

 

おねがいっ その先は言わないで!

 

 

 

 

 

『なんで俺がこんなに苦しまなきゃあなんねぇんだ?』

 

 

 

 

 

そんな言葉聞きたくないっ アキラの口からそんな言葉 言ってほしくないの!

 

 

 

 

 

『ぜんぶ、おまえの…… おまえのせいなんだろうがよぉ』

 

 

 

 

 

おねがいだから やめてっ! やめてよぉっ! おねがいだから もうやめてよぉっっ!!!

 

 

 

 

 

『おれがこんなにくるしんでるのも おれがこんなにイタイ思いをしてるのも 俺が死んでしまったのも……』

 

 

 

 

 

やめて! 聞きたくない!! 聞きたくないっ!! 助けて!! ダレカタスケテッッ!!

 

 

 

 

 

『ゼンブ ゼンブ お前のせいなんだよ ――――――“ペトラ”っっ!』

 

 

 

 

いやぁぁああああーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!

 

 

 

 

『……っ ―――とら ペト……っ …っ……ペトラ ……―――ペトラっ!」

 

 

「〜〜〜〜〜っ、ハぁ…っ!? ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 

 

目を覚ますとお母さんとお父さんが心配そうにこちらを見つめていた。

 

全身汗だくで、目から溢れ出た涙が頬を濡らしている。風邪を引いたわけでもないのに頭が熱っぽくてぼーっとする。

 

 

―――またこのユメだ。

 

 

ううん……このユメを見るのはわかっていた。

 

 

わたしは……アキラに…………取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 

わたしが、軽々しくアキラにあんなことを言ったから…………アキラはあんなにも傷ついたんだ。

 

 

 

ごめんなさい

 

 

 

ごめんなさい

 

 

 

ごめんなさい

 

 

 

でも、どう謝っていいかわからないの。

 

 

 

どうしたら許してもらえるかわからないの。

 

 

 

 

「ふェええ……ぅぇええ……あきらがっ…………あきらがわたしのせいで……っ、わたしがあんなことを言ったから……アキラが大怪我をして…………でも、でも…っ、わたし……―――」

 

 

「………ペトラ。もしペトラが悪いことをしたら、ペトラは何をしなきゃあいけないの?ちゃんとアキラ君に『ごめんなさい』って言わなきゃ」

 

 

「むりだよぉ……あきら、怒ってるもん……ゆるしてくれないよぉ―――ひっく……わたしのせいで……わたしが悪いのに……」

 

 

「それはちゃんと謝ってみないとわからないよ。ペトラはアキラ君の気持ちをちゃんと聞いたのかい?」

 

 

「……ぃくっ……できないよぉ―――ふっ、アキラに………あんなひどいことをしたのに…っ、ゆるしてくれるはずないもん」

 

 

「―――ペトラ。アキラ君に一言でいいからちゃんと言ってご覧なさい。きっと大丈夫だから。ペトラがいい子だってことはお父さんとお母さん、ちゃんとわかってるから」

 

 

「ふぃいっ……ひっ、ふくっ……わたしは―――」

 

 

 

 

 

お父さんとお母さんはわたしにそう言ってくれたけど。わたしは怖くて怖くて仕方がなかった。

 

あんなに笑顔で優しいアキラが、もしもわたしのことを『絶対に許さない』なんて言われたら……――――そう思うと怖くて足がすくんで、歩けなくて……

 

わたしがあと一歩を踏み出せずに遠くからアキラを眺めているとリュカ達にもみくちゃにされていたアキラと目があった。

 

 

 

 

 

「おう、ペトラ!そんなところで何してんだよ」

 

『―――……オマエノセイデ オレハ 死ニカケタ オマエノセイデ オマエノセイデ オレハ…っ』

 

 

 

「―――……ひっ!?」

 

 

 

 

 

そこにいないはずのもう一人のアキラが背後に映っていた。わたしはそのもう一人のアキラの影があまりにも恐ろしくて耐えきれずにその場を逃げ出した。

 

でも、どれだけ逃げても……その影は消えてくれなくて、わたしの聞きたくない言葉ばかりが頭の中に聞こえてきて……

 

助けてほしいのに……許してほしいのに……どうしていいかわからないっ。

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 

 

ダメだ……やっぱり、ムリ。お母さんとお父さんが応援してくれてるのに私はアキラに謝ることすら出来ない。許しえもらうどころか、このままじゃあ嫌われちゃう。

 

 

 

 

 

「わたしが……あんなことを言わなかったら……」

 

 

『―――っ……ひとり……まだ、“奥”に。アキラ……お願い。あの子……たすけて……あげて』

 

 

「あんな無茶をお願いしなかったら……」

 

 

『―――お願い……アキラ。ラムちーを助けて……レムりんを助けてよぉ』

 

 

「こんなことに……ならなかったのに……―――っ」

 

 

 

 

 

知らなかった。取り返しのつかないことをしてしまったことがこんなにも辛いことだったなんて―――

 

 

お父さん……お母さん……やっぱりできないよ。

 

 

ぜったいに許してもらえないよ。

 

 

わたしはアキラにずっと恨まれたまま……この先も生きていくしかないんだ。

 

 

 

 

 

ふわっ

 

 

「……ふえっ?」

 

 

 

 

 

いい匂いがした。静かな風が吹いたと思ったら、ラヴァンナのお花みたいな匂いがして、顔を上げるとそこにフードをかぶったお姉さんが立っていた。

 

下から顔を見上げているはずなのに……お顔は何故か見えない―――この人、知ってる。いつもアキラと一緒に村に遊びに来ていたお姉さんだ。

 

顔は見たことなかったけど、雰囲気だけでわかった。このお姉さんはきっとすっごいキレイな人なんだろうなって。

 

 

 

 

 

「―――ねえ、隣いいかな?」

 

 

 

 

 

そう言ってお姉さんは静かにわたしの隣に腰を下ろした。

 

話したこともない顔もよく見えない。でも、不思議と怖さはない。むしろ、それは懐かしさにも似た安心感……お母さんとは違うけど、ずっとそばに優しく寄り添ってくれるような―――

 

 

まるで『お姉ちゃん』みたい。

 

 

 

 

 

「……おねえちゃん、だれ?」

 

 

「わたし?……わたしは〜、アキラのお友達」

 

 

「『アキラの……友達』?」

 

 

「そう」

 

 

 

 

 

お姉ちゃんは嬉しそうに口を釣り上げてそう言った。

 

 

 

 

 

「あなた、とっても優しいのね。アキラのためにこんなに泣いてくれるなんて……でも、心配しないで。アキラはもうすっかり元気になったから」

 

 

「……わたし、やさしくなんてないよ。だって、アキラをいっぱい傷つけちゃったもん」

 

 

「ううん、そんなことない。きっとアキラはあなたに傷つけられたなんて思ってない。だってあなたはこんなに優しいんだもの」

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが言ったみたいに…………アキラが本当にそう思ってくれていたら嬉しいけど。でも、自分を傷つけた人を許せるそんな優しい人がこの世にいるはずないよ。

 

 

 

 

 

「……アキラ、ゆるしてくれるかな?」

 

 

「もっちろん。だって、自分のために泣いてくれる人がいるってすごく幸せなことだもん。きっとあなたにすごく会いたがってるはずよ」

 

 

「……そうかな」

 

 

「うん。だって……ほら」

 

 

 

 

『おーーーいっ、ペトラ!どこだーーーっ!?』

 

 

 

 

お姉ちゃんに言われて耳を澄ましてみると遠くからアキラがわたしを探している声が聞こえる。

 

 

 

 

 

「アキラ!?」

 

 

「―――頑張ってね。今度は逃げちゃだめよ」

 

 

「っ…………お姉ちゃん?」

 

 

 

 

 

振り返るとそこにはもうお姉ちゃんの姿はなかった。ラヴァンナのお花の匂いをした風だけを残して、まるで妖精さんみたいにいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

「おおっ、探したぜぇ、ペトラ。こんなとこに一人でいちゃあ危ねぇぜ。ほら、一緒に帰るぞ。それとも……どこか怪我しちまったか?」

 

「あっ……えっと……」

 

「遠慮なんかするんじゃねえぜ。この前はさんざん怖い思いさせちまったからな。俺がもちっと早く気づいてやれればよかったんだけどよ〜。あの時は、あれが限界だったんだぜ―――ごめんな」

 

「え?……え、あの…っ」

 

「ほら。どうして欲しい?傷ならいくらでも治すし、おんぶして欲しけりゃ遠慮なく言えって。こないだ駆けつけるのが遅れたお詫びだ。ペトラがしてほしいこと何でも言えよ」

 

 

 

 

 

アキラは恨んでなんかいない。それどころか、わたしのことを心配してくれてる。それどころか、自分は何も悪くないのに……わたしに謝ってくれる。

 

 

 

 

 

「ごめ………さぃ」

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

「―――ごめんなさぃ…………本当にごめんなさい」

 

 

「……え?」

 

 

「ごめんなさぃっ……ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 

「ペトラ、どうした?」

 

 

「ごめんなさい……〜〜〜っ……っ、ごめんなさいっ、ごめんなさい………ごメっ〜〜〜、ひぅっ…なさい、ごめんなさぃぃ」

 

 

「お、オイオイ……泣くなよ。別に謝ってもらうことなんて何にもないぜ。泣きやめって、ほら、なっ!?―――そうだ!帰ったらプリン作ってやっからよ。俺の作るグレートな特性デザートだぜ。すっげぇ美味ぇから!だから、頼むから泣くなって!」

 

 

 

 

 

わたしが震える声で謝ってるのにアキラは何のことだかわからないらしくて、両手をワタワタと振り回して必死にわたしを泣き止まそうとしてくれる。

 

でも、そんなアキラの優しさが苦しくて痛くて辛くて……でも、『ゆるして』なんて言えないよ。わたしが許してほしくてもアキラは絶対に許してくれないよ。

 

 

 

 

 

「―――そっか。それであんなに元気なかったのな」

 

 

「だって、わたしのせいでアキラが……わたしがあんなこと言わなければ……」

 

 

ぽふっ

 

 

「ふえ……?」

 

 

「辛かったな……ペトラ。でも、もう苦しまなくていいんだ」

 

 

 

 

 

わたしの頭にアキラの大きな手のひらがのせられた。ゆっくり撫でてくれるアキラの顔はいつものハチャメチャしてる時のアキラからは想像もできないくらい大人びた顔をしていた。

 

 

 

 

 

「お前が自分で自分を許さなくても―――俺は許す。

 

 

お前が取り返しのつかない間違いをしたとしても……

 

 

他の誰かを傷つけたとしても……

 

 

たとえ、それで俺の命を投げ出すことになったとしても―――俺はおまえの味方だ……ずっと」

 

 

 

「っっ……ぇぐっ、ふぇっ……ひぐっ」

 

 

 

「お、オイ、だから泣くなってば!俺が泣かせたみたいになるじゃねえかよ!悪かった!俺が悪かったから!頼むからもう泣かないでくれっ!」

 

 

 

 

 

あったかい。

 

 

あったかいよ。

 

 

こんなにあったかいの初めて。『優しい』って、こんなにもあったかいことだったなんて知らなかった。

 

アキラのやさしさがまるで―――『お日様』みたいにあったかい。

 

あたふたしているアキラを見てわたしは胸がぽかぽかするのが止められなくて、余計に涙が止まられなくなってしまった。

 

こんな幸せな気持ちで泣くなんて生まれて初めてでどうやったら止められるのかもわからないし、この気持ちを止めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな二人の様子を遠巻きに見ている人影があったことに誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

「―――かなわないな〜、ホント」

 

「そんなことないんじゃない?リアもとても頑張ったと思うよ」

 

「……どこかのお節介焼きのこんこんちきのマネをしてみただけよ」

 

 

 

 

 

アキラの言葉はまるで『魔法』のようだった。聞いている人の心をまるで暖かく包んでくれるような『太陽』のようなぬくもりを与えてくれる魔法。

 

アキラが魔法が使えないことを悔しがって隠れて練習しているのを知っている。

 

料理の腕はレムにも並ぶのにみんなに美味しく食べてもらおうとベアトリスの書庫から本を借りて料理の勉強をしてるのを知っている。

 

ラムと喧嘩ばかりしてるのにラムが大変そうなときには真っ先に駆けつけてくるのを知っている。

 

ベアトリスのためにもいろんなおやつを禁書庫に届けてるのを知っている。

 

 

―――わたしを外の世界に連れ出そうといつもやんちゃしてることも……ちゃんとわかっている。

 

 

それら一つ一つがアキラの優しさっていう『魔法』なんだって教えてもらった。

 

 

わたしが王になるためには、きっとその『魔法』が何よりも必要なんだってことを教えてもらった。

 

 

 

 

 

「レムが言っていたの。『アキラくんは誰よりも鬼がかってるすごい人』だって……――――ラムもレムも、ベアトリスも……みんな少しづつ変わってきてる。だから、わたしも変わりたい」

 

 

 

 

 

アキラが傍にいてくれたら、きっとわたしも変われる。

 

 

アキラは誰よりも鬼がかってるすごい人だから。

 

 

アキラは『ナルシストで自意識過剰な正義のひぃろぉ』だから。

 

 

だから、わたしも頑張る。

 

 

 

 




完全に開き直ってオリジナル展開の方向性に決定したものの……結局、大して進展していない!

でも、やはり戦闘シーンとか事件ばかりだとリゼロキャラの魅力は引き出せないと思っております。

あとは文量を減らそう!(切実)
とにかく減らそう!(本気)

10000文字を下回るように調整するつもりだったのに……まさかの13000字オーバー。

本当にごめんなさい。

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