DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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お久しぶりです。皆様方。

今まで応援してくださっていた方には勿論のこと、休載していた頃に応援のメッセージを頂いた闇熊さんと通りすがりさんにも改めて感謝を申し上げます。

長きに渡って休載していたのには幾つか理由があります。

1つ目は単純に仕事が忙しくなったこと。もう一つは、携帯に入れていたデータが消し飛んだこと。そして、これが一番大きいのですが・・・ここから先の話を原作沿いにするか、オリジナル展開にするかで悩んでいたということです。

今回は幕間のお話になりますが、今後、どうなっていくか皆様の希望等あればご意見をください。筆者の中で『こっちで行こう』という考えはありますが、どちらでも対応できるよう2パターン考えてあります。


第2.5章:動乱の序曲
第34話:それでも明日はやってくる


 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーラム村魔獣襲撃事件から一週間が経った。

 

 

主犯である魔獣使いの少女は未だに逃走中だが、周囲に生息していたウルガルムはロズワールによって掃討された。

 

村の結界も修復されはしたが、今後同じようなことが起こらぬようなロズワール自らの手でさらなる厳重な結界を多層的に張ることにより警備体制の強化が行われたらしい。

 

村の人達も幸い大事には至らず“全員”無事に明日に送り届けることができた。

 

 

勿論、一番守りたかったエミリアやラムもみんな無事だ。怪我も後遺症もなくピンピンしている。

 

何より、一番の報酬はレムさ……げふんごふん!―――――『レム』の最高の『笑顔』と『命』を取り戻せたことであろう。

 

俺からしてみれば、この上ない最高の結果と言えるだろうぜ。

 

 

―――ただ今回の件で受けた損失もある。俺の肉体は俺が思っている以上に深刻なダメージを受けてしまっているということだ。

 

それも当然のこと……俺の怪我は普通の人なら死んでいるか、半年は動けない程の重体だったのだから。こうして短期間で回復できたのは魔法により体内の回復力を無理やり高めたからに過ぎない。従って、その反動も大きい。

 

 

表面上、回復したように見えても体は本調子ではなく、回復のための長期間の休養が要求されているのだ。

 

お陰で屋敷の仕事はほとんど任せてもらえず、日中はラムやレムさ……『レム』が絶えず監視の目を光らせており、エミリアまで睨んでくる始末だ。

 

今の俺の休まる場所といえば、ベア様のいる禁書庫ぐらいなもんだぜ。

 

 

さて、話が長くなったが……そんな屋敷で居場所をなくした俺が何をしているのかというと―――

 

 

 

 

 

「はいっ、最初は準備運動~っ! 手をまっすぐ上にあげて左右に振りま~す! 行きますよ~?まず右から~  さんハイ!」

 

 

ぶ~らぶら~ ぶ~らぶら~ ぶ~らぶらっぶ~ら~

 

 

「左!」

 

 

ぶ~らぶら~ ぶ~らぶら~ ぶ~らぶらっぶ~ら~

 

 

「右!」

 

 

ぶ~らぶら~ ぶ~らぶら~ ぶ~らぶらっぶ~ら~

 

 

「左!」

 

 

ぶ~らぶら~ ぶ~らぶら~ ぶ~らぶら~で

やって行こうっ!!

 

 

 

 

 

アーラム村で村人達と元気に『う●るん体操』に励んでいた。だって、この村の人達、意外とノリがいいんだもん。

 

 

 

 

 

「―――こぉらーーーっ!」

 

 

「ヤベッ!……エミリアのとっつぁんだ!総員退避ーーーっ!!」

 

 

「んもう!アキラ、待ちなさいったら!あれ程、ベッドでおとなしくしてなさいって言ってたのに!もぉーーーっっ!!」

 

 

「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」

 

 

「とっととお縄につきなさい!帰ったら今度こそとっちめてやるんだから!」

 

 

「ええっ!?お前、まさかの緊縛プレイを俺にご所望か!?……俺にそんな趣味はねえぞ!ヲイ!」

 

 

ズグシュゥッッ!!

 

 

「パズスっ!?」

 

 

 

 

 

この追っかけっこの終わりはいつも俺の後頭部にエミリアのエメラルドスプラッシュが突き刺さって幕を閉じる。怪我人であるはずの俺を気遣っての行動のはずなんだが、納得行かねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっつぅぅ〜〜〜……いや、だからさ。頭に氷柱刺すのやめねえか?俺、その内脳に障害が出てくるぜ。GT●の鬼塚先生みたいに…」

 

「しょうがないでしょ。アキラのアンポンタンはこうでもしないと止まらないんだから」

 

「いや、だからって何も頭に刺すこたぁねぇだろ!?ツッキーのクナイ投げじゃないんだぜ!ギャグ漫画じゃなきゃ割と致命傷だからね!」

 

 

 

 

 

エミリアとも今ではこうしてボケツッコミが出来るくらいには打ち解けてきた。最初はお固くて義理深いだけのお嬢様かと思ったら、世情に疎く子供っぽい寂しがり屋なところが随所に見られる―――愛い奴め。

 

 

 

 

 

「アキラはちょっと目を離すとわたしの目を盗んでヤンチャばかりするんだから。この前だって魔獣との戦いでわたしを置いてけぼりにしたし…」

 

「やれやれ、まだ根に持ってやがんのかよ。あれは仕方なかったんだって」

 

「根に持ってないから!わたしはアキラが反省してないから怒ってるの!」

 

「はいはい」

 

「『はい』は一回!」

 

「はーい」

 

「伸ーばーさーなーいーのっ!」

 

「……お前も伸ばしてんじゃん」

 

 

 

 

 

俺の適当な切り返しに地団駄を踏んで噛み付いてくるエミリア。なんか昭和のラブコメ漫画みたいなやりとりだが、これがエミリアの平常運転だ。前々から思っていたことだが、エミリアを見てると何故か奇妙な時差のようなものを感じる。

 

まるで過去から現在にタイムスリップしてきてしまった浦島太郎のような……この時差のような違和感は何なのだろうか?

 

 

 

 

 

「しかし、お前……その暑苦しいマントは何とかなんねぇのか?その格好で追っかけてくるのはなかなかの事件だぜ」

 

「仕方がないのよ。こればかりは………だって、あたし、ハーフエルフだから」

 

「そんなの気にしてんのお前くらいなもんだと思うけどな。王都でも別になんてことはなかっただろ」

 

 

 

 

 

そう。今のエミリアの格好は、いつもの白を基調とした一張羅の上から、紫の刺繍の入った白いローブを羽織り、猫耳フードですっぽりと綺麗な銀髪を隠してしまっている。

 

何でもこのローブには『認識阻害』の魔法が組み込まれてるとか何とか……そのせいで今のエミリアは『エミリアではない誰か』として認識されているらしい。

 

 

 

 

 

「アキラはこの国の人じゃないからハーフエルフに対してもへっちゃらみたいだけど。普通の人が見たらハーフエルフってだけで怖がられちゃうもの」

 

「『へっちゃら』って……またエミリア語録が増えたんだぜ―――っていうかさ、そんなに姿見られたくなかったら、そんなのかぶらない方がいいんじゃないか?逆に目立っちまってるぜ」

 

「え?そ、そうかな?……割と普通だと思うんだけど」

 

「だって猫耳フードだぜ?今時、アキバでも売ってないんじゃないか、そんなの………似合ってるからいいけど」

 

 

 

 

 

認識阻害の魔法をかけるにしても何でこうも奇抜なデザインにしたのやら。もしかして亜人向けに作られてるのかな?何せ鬼がいる世界だ。猫耳とか生えてる亜人がいたっておかしくねえぜ。

 

 

 

 

 

「どうせケモ耳フードをかぶって、かくしん的☆めたもるふぉ〜ぜをするならよぉ〜。『こっち』の方がきっとお似合いだぜ」

 

「……このフードについてる顔と耳は何?」

 

「ハムスターだよ。かわいいだろ?しかも、これを被るだけで身長が変わるんだよ。具体的には160センチから40センチの二等身ボディになる。こう……『うまる〜ん』って感じでよぉ」

 

「確かに可愛いんだけど……これ、何の術式効果もないわよ?」

 

「大丈夫。そこは謎の力が働いているからよぉ〜。ただし、欠点は……これをかぶることによりキャラの干物化が始まってしまう―――衆目の中では品行方正な美少女然としているが、自宅に帰ると一転、別人のような二頭身キャラクターに変貌し。仕事も勉強もほっぽりだして、ラフな格好でスナック菓子とコーラを貪るぐうたらな生活を送るようになるんだぜ」

 

「全然ダメじゃない、それっ!そんな呪いの魔道具みたいなの勧めないでよっ!王選前にダメ人間になっちゃうじゃない!」

 

「さあ、みんなで歌おう!ーーー E・M・R! E・M・R! UMAぢゃないよ E・M・R!」

 

「何の歌っ!?E・M・Rって何っ!?何だか、すごく唱えちゃいけない呪文な気がするんだけど!?」

 

「「♪E・M・R! E・M・R! UMAぢゃないよ E・M・R!」」

 

「パックまでっ!?ちょっと二人ともやめてよっ!恥ずかしいじゃないっ!」

 

「「♪E・M・R! E・M・R! UMAぢゃないよ E・M・R!」」

 

「だ、だからぁ……もぉっ!」

 

 

キュィィイイン… パキパキパキパキッッ!

 

 

「―――いい加減にしなさぁーーーいっ!!」

 

 

ドギャァアアアーーーーーンンッッ!!

 

 

「……ナラギリーーーっっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あいたたたた……手加減なしだぜ、エミリアお嬢様はよ〜。人のことを重傷患者扱いするくせに。矛盾してると思わねぇか?」

 

「お前が毎日くだらない騒動を起こすのが悪いのよ。それが嫌ならベッドの上で大人しくしているかしら」

 

「いや、つってもよぉ〜……俺はここで雇ってもらってる身なんだぜ。仕事取り上げられたままグ〜タラしてるわけにもいかねぇだろ………ぶっちゃけ、やることなくて暇なんだぜ」

 

「お前が村やあの姉妹を救うために奮闘しただけでも立派な対価にはなっているかしら。連日、遊びに行くふりをして村の警邏をやってるだけでも十分労働していると言えるのよ」

 

「あはははは………バレてたッスか」

 

 

 

 

 

ベア様は本から視線を起こさぬままつっけんどんな態度で相変わらずズバズバと痛いところを突いてくる。霊験あらたかな精霊様には俺の行動の意図はまるっとお見通しらしいんだぜ。

 

 

 

 

 

 

「ついでに言っておくと。わざわざ混じり物の娘を村に馴染めるようにわざとらしく道化を演じるのもいい加減見苦しいからやめるのよ―――お前のつまらないお節介を要するほどあの娘は弱くはないのよ」

 

「……ベア様よぉ〜。流石にそれは買いかぶり過ぎだ。俺は人様のためにそんな高尚な行動が取れるほどできた人間じゃあないんだぜ」

 

「……つくづく面倒なやつかしら」

 

「事実だぜ。俺はこれからも自分がやりたいようにやるし、好きなように生きていく。そこに他人がどうこう絡む余地はないんだぜ」

 

「なら勝手にすればいいかしら。どの道、今度またあんな無茶なことをすればお前は間違いなく死ぬのよ。お前の限界まで損耗したゲートではまともにマナも取り込めない。回復魔法は二度と使えないのよ」

 

「言われなくてもあんな無茶なこと、もう二度とやりたくねぇッスよ」

 

 

 

 

 

これこれ。そっけないフリをしていて本当は優しくて面倒見がいい。人を見下していながら、どこか見守ってるっつーか……こういうところがベア様のイカしてるところなんだぜ。

 

 

 

 

 

「何をニヤニヤしているかしら?気持ち悪い奴なのよ」

 

「悪い悪い。近々、俺も屋敷を出るつもりだから、その前に改めてちゃんとお礼を言っておかねぇとって思ってよ」

 

「―――《ぴくっ》……お前」

 

「ん?」

 

「そんな有様で、いったい、どこに行くつもりかしら?」

 

 

 

 

 

何だか空気が変わったんだぜ。無表情なのは変わらねぇけど……何か黙々としていたさっきまでと比べて若干怒気が混じってるような気がするんだぜ。

 

音にすると『シーン』って背景音が『ゴゴゴゴ』って聞こえてくるような。

 

 

 

 

 

「え?………いや、どこっつーか、別にあてはないっつーか、ロクに地理も知らないっつーか……まあ、行ってみれば何とかなるかなーってよ」

 

「ふぅ…」

 

「何ッスか、その深いため息は!?」

 

「お前は……ベティの話を聞いていたのかしら?お前の体はこれ以上無理をすれば確実に死ぬところまで来てるってベティは再三警告したのよ。それなのにどうしてアテもなく旅に出るなんて発想が出てくるのよ」

 

「ゑ?……いや、あの……」

 

「地理も知らない、おまけに文字も読めないお前が……このルグニカの地をほっつき歩いていたら一週間と保たずに魔獣に食い殺されるのよ」

 

「いや、でも、魔獣ぐらいなら………俺のクレイジーダイヤモンドで何とかなるんじゃあ」

 

「……これだから学のない人間は。お前は魔獣の中でも災厄とされている『三大魔獣』のことすら知らないのかしら」

 

 

 

 

 

ベア様は面倒臭そうに椅子から立ち上がると禁書庫の中から一冊の本を取り出して俺の前で開いてみせた。

 

 

 

 

 

「まず、この世界には『大罪の魔女』といって……かつて世界を滅ぼそうとした『嫉妬の魔女』を始めとした七人の魔女がいるのよ」

 

「ああ。それは前に聞いたことがあるな。とりあえず嫉妬の魔女のことだけはなんとか」

 

「その七人の中に『暴食』の名を冠する魔女がいたのよ。そして、その魔女は飢餓から世界を救うために、神と異なる獣を生み出した。それが『白鯨』『大兎』『黒蛇』」

 

「う〜〜〜む……白鯨、大兎、黒蛇、かぁ」

 

 

 

 

 

名前を聞いて真っ先に思いついたのは……

 

『白鯨』―――テ●プリのカウンター技。

 

『大兎』―――ワンピースのラパー●。

 

『黒蛇』―――NARUTOの大蛇●。

 

といった具合だ。そいつらが、どんな容姿をしているのか名前を聞いただけでは想像もつかない。

 

 

 

 

 

「中でも特に恐れられているのは『黒蛇』。この魔獣に関して言えば、創造主たる魔女の手を既に離れて誰にも従わないただの厄災、災禍の中の災禍と化してしまっているのよ」

 

「ふ〜ん……その三大魔獣ってそんなに危険なんスか?俺、あんまりピンとこないけどな」

 

「白鯨に出逢えば、記憶ごと存在を喰われ。大兎に出会せば、群れに跡形も無く喰い潰され。大蛇に遭遇したが最後、百の病に浸される―――ルグニカの長い歴史の中で幾千幾万の兵力を持ってしても滅ぼせなかったといえば伝わるかしら」

 

「……グレート。さしずめ白鯨は『シン』。大兎は『レギオン』。大蛇は『祟り神』ってところか」

 

 

 

 

 

とりあえず、自分の中で勝手なイメージ像を与えて自己完結をする。要するにこの前俺と死闘を繰り広げたウルガルムなんか目じゃないほどの災厄ってわけか。

 

 

 

 

 

「危険は魔獣だけにはとどまらないのよ。それ以外にも世界各地に点在している魔女教徒に襲われる可能性もあるかしら―――特にお前はその両方からつけ狙われる可能性が高いのよ」

 

「……“魔女の匂い”だろ」

 

「やっぱり、わかっていたみたいね。お前がしきりにあの村を気にするのも、この屋敷を立ち去ろうとするのも……このままだと自分が魔獣や魔女教徒を引き寄せてしまうかもしれない。また誰かが巻き込まれる前に姿を消そうと考えた―――そんなところじゃないかしら?」

 

「グレート……何もかもお見通しかよ」

 

「ベティを見くびるんじゃないのよ。お前みたいな単純な人間が考えることなんて容易に想像がつくのよ」

 

 

 

 

 

腕を組んで頬を膨らませてぷんっとそっぽを向くベア様は容姿も相まって可愛らしく見えた。この素直じゃない精霊様にも世話になりっぱなしなんだぜ。

 

 

 

 

 

「けど、ベティもお前にあまり長居されると迷惑なのよ―――んっ!」

 

「今度は何スか?」

 

「いいから、両手を出すのよ」

 

 

 

 

ベア様に促されるままに両手を差し出した。次の瞬間―――

 

 

 

 

 

ドサドサドサドサドサドサドサドサドサァ……ッッ

 

「くぅぅおおっ!?」

 

「屋敷を出る前に最低限の一般常識くらいは身につけておくのよ。それを全部読み終わる頃には文字の読み書きくらいは出来るようになってるのよ」

 

「おい!?読むってこの量を全部ッスか!?この量じゃあ読破するのに一年はかかかるッスよ」

 

「仕事も与えられずやることがない今のお前にはそれが一番なのよ。ベティなら、それを読み切るのに2日かからないのよ」

 

「偉大な精霊様と国語の成績『2』の俺を一緒にしないでくれる!?俺の高校の時の読書感想文『ズッ■ケ三人組』だよ!?こんな古文書みたいなの解読できねえッスよ!」

 

「どうしても難しかったら、あの鬼の双子に頼めばやってくれるのよ。特に妹の方はお前のことを心酔しているみたいだし、適役かしら」

 

「ぐっ……そ、それはちょっと……ラムの方に頼むのは屈辱的だし。レムさ……レムの方にもちっと頼みにくい事情が」

 

「そんなことベティの知ったことじゃないかしら。わかったら、とっとと出ていくのよ」

 

 

 

ゴォウッッ!!!

 

 

 

「テスカポリトカーーーーーーっっ!?」

 

 

 

バタムッ!!!

 

 

 

 

 

禁書庫から吹き飛ばされながら俺は思った。

 

『何故、ベア様は屋敷を出ていこうとする俺にこんな大量の宿題を押し付けたのだろう』と。

 

そして『禁書庫から出てないはずのベア様が、どうしてアーラム村での俺の様子を知っているのだろう』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラッ

 

「ううわっ……字ちっさ。こんなことならベア様の前で余計なことしゃべるんじゃなかったぜ」

 

「―――ジョジョ、ベアトリス様の禁書庫で何をサボっていたの?」

 

「人聞きの悪いことを言うな、ラム!お前ら姉妹に仕事を取り上げられてやることなくて途方に暮れていたんだぜ、俺は」

 

 

 

 

 

ベア様から大量の本と一緒に吹き飛ばされて廊下で本を整理しているとティーセットを持ったラムが現れた。相変わらずの唯我独尊っぷりだぜ。

 

こればかりは何度時間をループしても変わらねぇな。クールで素っ気ないというか掴みどころがないというか。まあ、根がお人好しなことには間違いないだろうが。

 

 

 

 

 

『―――ジョジョっ・・・ジョジョっ!よかったわね!ロズワール様がジョジョの呪いを解呪してくれるのよ。これで今度こそジョジョは助かるのよ!』

 

 

 

 

 

……こいつのあんな顔初めて見たな。

 

あの時、抱きつかれてわかったけど………こいつ本当にか細くて小さいんだよな。レムさんほど胸はないけどすごく柔らかかったし。それに頬にぐりぐりと頭押し付けられて、もう少しで唇が当たりそうな――――

 

 

 

 

 

「………なに?ラムの顔に何かついてる?」

 

「え゛っ!?い、いや〜……いつまで経っても俺の扱いが変わらねぇなって思ってよ。村を救った英雄様をもう少し崇め奉ってもらっても構わないんだぜ」

 

「何でラムがジョジョを崇めなくてはならないの?ジョジョの方こそ命の恩人であるロズワール様に感謝することね。ジョジョはあのお方に一生分の恩があるのだから」

 

「やれやれ……―――俺を救ってくれたのは、どちらかというとお前ら姉妹の方なんだけどな」

 

「何か言った?」

 

「いいや、何でもねぇよ。早いところ傷を治して奉公させてもらうとするぜ」

 

 

 

 

 

ラムやレムさ……こほんっ―――俺がラムとレムの二人に受けた恩がどれ程のものであったか筆舌に尽くし難い。しかし、二人にそんなことを話したところできっと素直に受け取っては貰えないだろう。

 

俺がデスルーラを繰り返して皆と過ごした時間は一生誰とも共有できるはずもないのだから。

 

 

 

 

 

「ってなわけでよ、宿題も出されたことだし……今日のところは大人しく部屋に帰るぜ」

 

「『シュクダイ』?この本を全部読むようにベアトリス様から命ぜられたの?」

 

「ん?……ああ。俺には一般常識が欠けてるから、これを読んで勉強しろってんだぜ。にしてもこの量は鬼だよな〜。確かに療養生活のいい暇つぶしにはなるだろうけど」

 

「丁度いいわ。ならラムがジョジョに文字を教える教材にその本を活用しましょう」

 

「ああ。そういう使い道も…―――って、ちょっと待て!もしかしてあの勉強会まだ継続してんの!?」

 

「当たり前でしょ。ジョジョに読み書きを教えるのはラムの仕事なのよ。将来的にジョジョがラムに恩を感じて奉公してもらえることを期待してのことよ」

 

「何で俺がお前の下僕みたいになってるの!?確かに雇ってもらってはいるけど、別にお前に仕えてるわけじゃないんですけど!」

 

「そうと決まれば今日の夜から再開するわよ。ラムが教師をやってあげるから、差し入れのケーキと紅茶を用意して丁重にラムをもてなすのよ。もしラムの舌を満足させることが出来なかったらジョジョにそれの10倍の課題を出してあげるわ」

 

「しれっと差し入れの要求をされたっ!?しかも、ペナルティが思いの外でかいんですけどっ!」

 

 

 

 

 

最近になって気づいたことだが、ラムは案外俺の作るおやつを気に入ってくれてるみたいだぜ。素直に褒めるのを嫌がってか、こういう何気ない会話の中で俺に作らせようとしているのが見て取れる。

 

 

 

 

 

「別に作るのは構わねぇけどよ〜。食材なしに調理はできねえんだぜ。つーか、そもそも今の俺は料理禁止令が出されてるんですけど。他ならぬエミリアとお前の妹君に」

 

「ジョジョがあまりにも自己管理しなさすぎるからよ。レムと一緒に料理すればレムも許してくれるはずよ」

 

「あの人と料理やろうとしてもなぁ〜。『料理はレムに任せて、アキラ君はゆっくり休んでてください』―――って全部仕事をとられちまいそうなんだけど」

 

「そこは自力で何とかしなさい。ジョジョはレムの英雄なんでしょ?」

 

「ちげぇーよ!!いつ誰が何をどこでどうしてどう間違ったらそうなるんだっ!?言いたかないけど、俺むしろ救けてもらった側ですよねっ!」

 

 

 

 

 

全く本人の預かり知らぬところで英雄認定されていたことに5W1Hでツッコミを入れてしまう。

 

しかも、アーラム村の連中からならまだしも。レムさ……げふんごふんっ―――レムからの英雄認定ってのがことさらに意味わかんねぇ。

 

俺は前の世界線で二人を死なせてしまった。あの生き地獄から救ってくれたこの姉妹には返しきれない恩がある。ましてや、レムに至っては俺を救うためにたった一人で魔獣退治に奔走してくれた大恩人だ。

 

 

―――『英雄』って言葉は、むしろ、俺よりもあの人にこそ相応しい。

 

 

 

 

 

「グレート……あの人は、自己評価が低いのと謙遜しすぎなところが玉に瑕だな。あと、自己犠牲が激しいところと視野が狭いところと突っ走っちまうところとシスコンなところと……―――あれ?実は結構多い?」

 

「………ジョジョに自己評価が低いなんて言われたら、いよいよレムもおしまいね」

 

「どういう意味だ、こらぁあっ!?」

 

 

 

 

 

勿論、俺よりも俺は別に悪口を言ったつもりはない。むしろ、尊ぶべき人だと思っているぜ。ていうか、メイドで双子で鬼で家事万能。おまけに気立てが良くて料理上手(←ここ重要)。

 

二次元広しと言えど、これだけの要素を取り揃えたハイスペックヒロインはそうはいまい。この俺の溢れるリスペクトを何だと思っているんだ。

 

 

 

 

 

「……自己評価が低いのと自己犠牲が過ぎるという点においてはレムよりもジョジョのほうが重症ということよ―――そのおかげで救われた人もいるのだけど」

 

「あン?」

 

「ハァーーー……これを懇切丁寧に説明していたらジョジョが理解する前にラムの寿命が尽きてしまうわ」

 

「何かよくわかんねぇけど……すっげぇ言われようだぜ。俺、何かお前に恨まれるようなことしたか?」

 

「そうね。ラムの可愛い妹を誑かす不埒者に恨みがないかと聞かれれば、今すぐにでも縊り殺したくなるくらいに憎悪で溢れているとだけ言っておくわ」

 

「誑かしてねぇよ!俺はレムさんから『命』も『心』ももらった。あの人は大恩人だ!そんな人を貶めるわけがねえだろ!」

 

「……ハァーーーーー……駄目だこいつ……早くなんとかしないと」

 

「物凄い深いため息付きやがったな、コノアマ!しかも、その新世界の神みたいな言い回しやめろやっ!」

 

「馬鹿だとは思っていたけど、本当に何もわかっていないのね。いいわ。レムにはそれぐらいのバカのほうが丁度いいのかもしれないわね」

 

 

 

 

 

ラムは何やら自己完結をして、そのまま俺の横を通って歩き出した。仕事に戻るらしい。

 

 

 

 

 

「あと……また『さん』づけに戻っているわよ。レムに聞かれたら、また大泣きしてしまうから気をつけて頂戴」

 

「ゔっ……どうにも慣れなくてよ」

 

「なら慣れるまでやってもらうわ。ついでにそのままレムに台所の使用許可をもらいに行ったらどう?『ラムのおやつをレムと一緒に作りたい』といえば、あの子なら一も二もなく頷くはずよ」

 

「それは俺も考えたんだけどよぉ〜……つーか、俺がお前にケーキを作るのは確定事項なんだな」

 

「当たり前でしょ。ジョジョはラムに勉強を教わるんだから、ジョジョには対価を払う義務があるわ。これでもかなり譲歩してあげてる方よ」

 

「お前、いつも途中から寝てんじゃねえか!そういうのはきちんと職務を全うしてから言ってくれよっ!」

 

「嫌なら構わないわよ。ラムに代わってレムがジョジョの教師役を買って出るでしょうから。みっちりと教えてもらうといいわ―――それこそ、手取り足取り……身体の隅々まで……レムが余すところなく満たしてくれるわ」

 

「やめろっ!!ホンットやめろ、お前っ!そういう何かとてつもなく卑猥な意味に聞こるような言い回しっ!もし、今のレムさんに聞かれたらホンット洒落にならないことになっちまうからっ!!大人の階段を光の速さで駆け登ることになりかねねぇからさっ!!」

 

「大丈夫よ。レムなら初めてでもうまくやれるわ」

 

「何ヲ言ッテルンダ、オ前ハァァアーーーーーッッ!?」

 

「何って………“ナニ”?」

 

「ああくそっ!このアマ、マジで殴りてぇーーーっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺はラムにおやつをせがまれて、仕方なくケーキを作る羽目になったわけなのだが。

 

それ自体は全く問題ない。料理は好きだし、ラムが俺の作った料理を喜んでくれるのであれば作りがいもあるってもんだ。

 

ラムが喜んでくれるならケーキの1つや2つ作るのは吝かではない。吝かではないんだが……

 

 

―――ここで1つ大きな問題があるんだぜ。

 

 

 

 

 

「……とにかく見つからないことだ。今、ヤツに見つかれば全てが終わりなんだぜ。ここは見つからないように……慎重に……慎重に――――――っ!」

 

 

 

 

 

俺はひたすら息を殺して、足音を殺して、気配を殺して、真っ直ぐ厨房を目指す。

 

俺はもともと料理は好きだというのはさっきも説明したが、この世界に来る前は腕が落ちないようにほぼ毎日欠かさず料理を作るようにしていた。だから、1日2日サボるだけで自分の中でかなりの気持ち悪さを感じてしまうんだぜ。

 

―――普段から体力が落ちないようにランニングや筋トレを毎日欠かさず行っているアスリートが、1日2日サボるだけで体の中に淀んだ何かを感じるのと同じだぜ。

 

しかし、この屋敷に来てから俺のそのルーティンが危ぶまれつつある。それもそのはず、魔獣騒動により瀕死の重傷を負った俺は台所に立てる有様ではなかったのだ。

 

だが、現状、それよりも遥かに分厚い壁が存在する。それは――――――

 

 

 

 

 

「―――アキラくん!」

 

 

「ホゥッ!?」

 

 

 

 

 

やせいの青鬼《レム》があらわれた。

 

どうする?

 

 たたかう

 ポケモン

 どうぐ

→にげる《ピッ!》

 

 

 

 

 

「どちらへ行かれるんですか?お腹が空いたのであれば、すぐにレムがご飯を用意してあげますね」

 

「―――しかしまわりこまれてしまった」

 

「アキラくん?」

 

 

 

 

 

おかしいな。さっき、彼女に声をかけられた時には3メートルくらいの距離があったはずなのに振り返って背中を向けたはずなのに目の前にレムさんがいるというこの不思議。

 

というか、怖いよっ!何で俺が振り向くよりも早く回り込んでいるんだよ。

 

 

 

 

 

「ダメですよ、レムのいないところで料理なんてしたりしたら。お腹が空いたならレムがいつでもご飯を作って差し上げますから。だから危ないことしたら―――めっ、ですよ!」

 

「い、いや……別に危ないことしようとしたわけじゃあ、ただ料理するだけですから」

 

「ダメです!もし、包丁で指を切って出血を起こして、貧血にでもなったらどうするんですか!?―――いいえ!最悪の場合、失血死することだって考えられます!」

 

「どんだけ弱いんだ、俺は!?ス●ランカーかっ!?」

 

 

 

 

 

この通りである。理由は、当人である俺にも皆目検討がつかないのだが……事件後のレムさんは生まれ変わったかのようにイキイキとしていた。

 

奇妙な事だが……悪事を働き、常識をやぶる「異世界人」が、レムさんの心をまっすぐにしたのだ。もう、イジけた目つきはしていない。彼女の心には、さわやかな風が吹いた。

 

 

問題があるとすれば、唯一つ。

 

 

彼女の異常とも呼べる姉へのコンプレックスが解消された代わりに……

 

それらが一転して、俺に対する好意、敬意、慕情、執着、偏愛が集約されたラブデラックス――――――即ち、『ヤンデレ』を発症させてしまったことだ。

 

 

 

 

 

「あ、あのさ……そんなに心配しなくとも俺の料理の腕前は知ってるだろ?前にも俺の腕前を褒めてくれたじゃん」

 

「はい、勿論です!レムはアキラ君が作ってくれた料理の味は勿論、アキラくんが言っていた言葉までちゃんと覚えてます―――『どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ』って……レムはあの感動を決して忘れません」

 

「それ、ただの天道語録だよ!ノリと勢いで喋った言葉を事細かに覚えなくてもいいんだよっ!」

 

「いえ!とんでもありません。レムはアキラくんの言葉を一言一句忘れたりしません。レムはアキラくんや姉様と過ごすこの尊い日常を記録すべく毎日日記に書いているんです」

 

「観察日記かよ!?こっ恥ずかしいから、やめてくれよ!つーか、そんなセリフの一言一句事細かに書いていたら日記帳がいくらあっても足んねぇだろ」

 

「大丈夫です。自分の恥を晒すようですが、レムは筆不精ですのでご心配には及びません―――日記帳もようやく4冊目に突入したばかりです」

 

「毎日が短編小説じゃねえかよ!オイ、誰かコイツに日記のつけ方、教えてやってくれ!!」

 

 

 

 

 

ヤベエ!ツッコミが追いつかねぇ!こ、この俺がツッコミで負けてる、だと!?そんなことあってはならない!

 

レムさんのヤンデレは俺の予想の斜め上を鋼のムーンサルトで飛び越えていきやがる。何をやらかすのか想像もつかねぇ!

 

 

 

 

 

「と、とにかく、料理くらい俺一人で平気だから。そっちも自分の仕事あるだろうし……」

 

「レムの仕事はアキラくんの身の回りのお世話をすることです。その傍ら、お屋敷の業務をやっておりますので全く問題ありません」

 

「大問題だよ!優先順位が逆転しちまってるよ!本来の主であるロズワールのこと完全に蔑ろにしてんだろ、それ!」

 

「そのロズワール様から仰せつかったんです。『アキラくんが無茶しないように見守ってくれ』と。大義名分を得たレムはロズワール様の命令でアキラくんに付き纏いっているのです!――――ロズワール様のご命令で!仕方なくです!」

 

 

バヂヂヂヂヂ…ッッ!

 

 

「ヤベーよ!大義名分を得て、水を得た魚のように真っ向からストーカー宣言してきたぞ!何か頭から禍々しいツノまで生えてきてるし、目からハイライトも消えてるし、完全にヤンデレこじらせちゃってるよ!『レムりん』が『グレムりん』にメガ進化しちゃってるよ!!」

 

 

 

 

 

ロズワールめ、なんと素晴らしい……そして、なんと恐ろしいコトを叩き込んだのだ!

 

実に理にかなった攻撃だ。人間を…―――悩殺するための!

 

俺には干物化願望はあっても……ヤンデレ彼女を娶るような器も気概もない。ましてや舞台はファンタジーな異世界だ。こんなところで前世でトラウマとなったスクールデ●ズを送るなんてこと死んでもゴメンだ。

 

故に!だからこそ!ここは心を鬼にして突き放す!女を突き放すのに最高最低な台詞をはかざるを得ない!だが、それでも俺は……なる!今、この瞬間だけは最低男を演じろッ!!

 

そう!最低最高のドスケベキャラを演じるんだ!

 

 

 

 

 

「……俺はヤる!!ヤらいでかああッ!!たとえこのSSが発禁になっても俺はヤるッ!!そんなに甘い男やないで俺は----ッッ!!」

 

「アキラくん?何をやるおつもりですか?よろしければ、レムがお手伝いしますっ!」

 

「ムリッ!!前言撤回っ!---手伝わんでええっ!!そのお手伝いはやっちゃアカンやつやっ!!」

 

「大丈夫です!レムはアキラくんのためなら何だって出来ちゃいますから!その為にベアトリス様の書庫で男性のお世話の参考になりそうな本でいっぱいお勉強しましたから!朝のご奉仕から夜の作法までばっちりです!」

 

「それエロ本じゃねぇだろうなっ!?なんか言葉にピンク色の闇を感じるんだけどっ!!ていうかベア様の禁書庫に何でそんな俗っぽいもん置いてあるの!?レムさんにいらん情操教育が入っちゃってるよ、コンチクショウ!!」

 

 

 

 

 

俺がエロキャラに覚醒したところで悉く上を行きやがる!そこに何の恥も躊躇いもない!それどころか寧ろ俺からの命令を犬のように心待ちにしていやがる!

 

出会った当初、彼女は間違いなくシスコンだった。だが、俺が知らぬ間に建てたフラグがレムさんの眠っていたヤンデレを引き出し、覚醒させてしまった。覚醒した姿はまさに怪物。もはや手は届くまい……ここまでだ。

 

 

 

 

 

「----…ひぐっ」

 

「あン?」

 

「うっ……ふっっ……ぁぅっ……ふっく」

 

「ゑ?……えぇ゛~~っ!?」

 

 

 

 

 

じわぁっと目尻に涙を浮かべるレムさんにマ●オさんのようなリアクションをとってしまう俺。

 

 

 

 

 

「再び理解不能、理解不能、理解不能!!何でいきなり泣いてンの?俺の発言のどこにレムさんを涙腺決壊一歩手前まで追い込む要素があったんでさぁ!?」 

 

「えぅ……ふぇぇ……ま、またです」

 

「え?」

 

「ま、また……レムのことを『レムさん』って」

 

「…………あ゛」

 

「へぐっ……あ、アキラくんが……えぐっ……またレムのことを………『さん』付けで---アキラくんは、レムのことを……ふっ、ひぐっ………やっぱりまだ恨んでて…………っ~~~ぇぅ…………だから、そんな他人行儀にっ……するですか?」

 

「してないよっ!誤解だよ!『さん』付けに距離感じすぎだろっ!!」

 

 

 

 

 

失敗した。ついつい前の癖が抜けなくてレムを『さん』付けで読んでしまっていることに気づかなかった。

 

そう。ここに来て困ってることがもうひとつあって……レムさんはあの一件以来、俺に『さん』付けされることを極度に嫌がるようになったのだ。

 

理由は、この屋敷で俺が『さん』付けで呼んでるのはレムさんだけだからというのと……俺が前にレムさんに説教かました時に呼び捨てだったから、『さん』付に戻されると距離を感じるとのこと。

 

 

俺が『さん』付けで呼ぶ度にまるで捨てられた仔犬のように目を潤ませて体をぷるぷると不安そうに震わすのだ―――これには本当に参ってる。

 

 

 

 

 

「………何度も言ってるだろ。俺はレムさ……―――レムのことすごく感謝してるし。大切に思ってるんだぜ。だから、そんな悲しいこと言わないでくれ」

 

「でも……アキラくんがそうなったのは、もとはといえばレムが―――」

 

「おっと、それ以上は言いっこなしだぜ。俺はレムに感謝こそすれ恨むことなんて一つもない。その証拠に俺は今この時が最っ高に幸せなんだぜ」

 

「幸せ……ですか?」

 

「エミリアとはしゃいで、ラムと喧嘩して、ベア様に説教されて、パックとロズワールがそれを笑って見てて……そして、レムがとびっきりのご馳走を振る舞ってってくれる―――鬼がかってるじゃねぇかよ!こんだけグレートに鬼がかってる日常なんだぜ。そりゃあ幸せに決まってるじゃねえか!」

 

 

 

 

 

レムは立ち直りつつあるが、まだ依存癖が抜けたわけではない。まだ彼女一人でレムという人間の人生を歩けるようになるには時間がかかる。

 

その為には、じっくり時間かけて的はずれな罪悪感を少しずつ解き解してやらねえとなんねえな。

 

 

 

 

 

「とりあえず、しみったれた話はよぉ〜。これくらいにして……さしあたってはレムの好きなことを探してみようぜ」

 

「レムの好きなこと……ですか?」

 

「そうだぜ。せっかく花も恥じらう鬼ヒロインなんだ。もっと自分のやりたいことやってかなきゃ勿体ないぜ。年頃なんだから、好きなこととか興味あることとかあんだろ?」

 

「レムの好きなこと……よろしいんでしょうか?」

 

「当たり前じゃねーか!今までさんざん頑張ってきたんだぜ。ご褒美の1つや2つないと嘘ってもんだぜ。ほれ!この際だ、何でも言ってみなって!俺に出来ることなら何でもするぜ!」

 

ガタッ!

 

「なっ……『なんでも』っ!?」

 

「うぇええええっ!?」

 

 

 

 

 

俺が口にした言葉に思いの外食らいついたレムに一瞬気圧されるが、俺はかろうじて言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 

「あ、ああ……俺にできることなら、な」

 

「そ、それはつまり……―――朝のお目覚めにアキラくんの寝顔を堪能することも朝の着替え終わったアキラくんの服の匂いをかぐことも食事を食べているアキラくんの至福の表情を観察することもお仕事中に汗を流して輝いているアキラくんの汗を拭いてあげることもアキラくんの湯汲のお世話もアキラくんのお布団の手入れもアキラくんが寝床につくときにアキラくんの傍で警護することも全てお許しになってくださるということですね」

 

「・・・・・・え?」

 

「いえ!何でもとおっしゃったからにはアキラくんへの朝のご奉仕も晴れて解禁ということですね!あっ、勿論、夜の部も忘れませんよ!レムに全て任せておいてください」

 

「――――――っ」

 

 

 

 

 

かつてジャンプ漫画を読み漁り、ジョジョを愛し、ラノベを愛読していた俺も気づけば成長し、主人公としての人生を歩みだした。その甲斐あってか、異世界に辿り着いて、数風の難敵を撃破し、美少女達との恋愛フラグを求めて冒険の真っ最中だ。

 

こういう展開を望んでいなかったといえば嘘になる―――しかしだ。

 

目の前で、ツノを生やし、目を爛々と輝かせて、俺へのご奉仕ができることに期待に胸を膨らますレムを見て俺は思った。

 

 

 

 

―――ヤベーの引いたな。

 

 

 

 

 




リゼロはキャラが魅力的なのだから、こういう日常展開でも絶対面白いと思います。
原作はシリアスとヘビーな展開の連続でしたから、だからPSで発売されたDEATH or KISSみたいなのが個人的にはツボです。

やはり、ラムとレムのキャラは面白いくらい書きやすい。

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