DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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大変長らくお待たせしました。これでようやく二章完結しました。

長かった!本当に長かった!こんなに長くなるとは思ってもみませんでした!本当にすいませんでした!

次回からはオリジナル展開ありきで話が展開していきます。ですが、その前に・・・番外編を入れていくかもしれません。

そして、Asa ID:s68UUPzk様には感想を頂けたことへの感謝を改めてこの場でさせていただきます。アニメ二期を期待して今後も活動していきます!




第33話:Break the Chain/運命《サダメ》の鎖を解き放て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急遽、ラムの提案で始まった猿芝居・・・いや、狸寝入りによって俺は人生でも指折りのピンチに陥っていた。

 

 

―――そもそもだ。何で俺がレムさんのためにわざわざ寝たフリをしなくちゃならないんだ?

 

 

ラムは『レムさんは俺が目を覚ました時に傍で付き添ってあげたがっている』とか言っていたけどよぉ~―――どれだけ献身的な奉仕精神だよ?恋人じゃあるまいし、かのナイチンゲールですらここまでのことしねえよ。

 

まあ、とは言うものの・・・俺も本当は目を覚ましていながら隙を見てこの屋敷から密かに出ていこうと計画していた負い目もある。俺なりに最善の行動を考えた結果だったのだが、レムさんが悲しむとなれば話は別だぜ。

 

だから、ラムに言われた通りレムさんのためにドラマチックな復活を演出するというのは決してやぶさかではない。俺自身満更でもない。

 

 

―――満更でもないんだが・・・

 

 

 

 

 

「じ・・・」

 

 

「(くっ・・・まさか―――まさかこんな・・・こんな・・・こんな罠が―――っ!!)」

 

 

「じ・・・」

 

 

「(・・・さっきから寝汗が止まらねえ!というか・・・背中が床擦れ起こしてビキビキ言っている!)」

 

 

「じ・・・」

 

 

「(だのにっ!・・・だと言うのに・・・う、動けんっ!!体を起こす・・・ただそれだけのことが出来ないっ!)」

 

 

 

 

 

部屋に戻ってきたレムさんは戻ってくるなり俺の手を握ったままじっと俺が目を覚ますのを待っていた。

 

既に手を握られてからかなりの時間が経過している。ラムに言われた通り、狸寝入りから起きて劇的な目覚めを演出するだけで終わりなはずのこの猿芝居。レムさんの前で起きるタイミングを計っていたはずだったのだが・・・あまりに微動だにしないレムさんを前に完全にタイミングを逃してしまった。

 

それというのも・・・わずかでも身じろぎしようものなら―――

 

 

 

 

 

「うっ・・・くっ」

 

 

「―――ハッ!」

 

 

きゅぴーん☆

 

 

「(ぐっ!?)―――・・・ふぅ・・・スゥ・・・スゥ」

 

 

「・・・ほ」

 

 

 

 

 

このように・・・俺の一挙手一投足に対してレムさんが過剰なまでに反応するのだ。ただ見守られているだけだというのはわかっている。わかっているのだが・・・こうも過敏に反応されると俺も起きるに起きれないっ!

 

 

―――今、何か目が『きゅぴーん』って擬音を鳴らして光っていたぞっ!怖いよ!純粋に怖いよっ!?もしかして俺が倒れてから丸一日以上ずっとこんな感じだったわけ!?

 

 

握られた手がじっとりと汗をかいてる。レムさんも手汗でベッタリのはずなのに一向に手を離そうとしない。

 

寝苦しい・・・暑い・・・そして何よりも――――息苦しい!!

 

 

 

 

 

「アキラ君・・・悪い夢でも見てるんでしょうか?先程からすごく汗をかいてます」

 

「(わかってるのに・・・手は放してくれないんですね。手汗でじっとり濡れてるのに。つーか、レムさん、気持ち悪くねえのかよ)」

 

「・・・アキラ君」

 

 

コォォオオオオ……ッ

 

 

「(ぉっ・・・おお?)」

 

 

 

 

 

レムさんの繋がれた掌から暖かい『気』のようなものが流れてくる。レムさんの優しさを体現したかのような柔和で穏やかなマナが俺の体の中にじんわりと水のように浸透してくるのがわかる。

 

まるで水の中にくるまれているかのような心地好さに眠気を誘われる―――羊水の中で眠る胎児というのはこんな気持ちなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「(すげぇ・・・何だ、これ?―――すっげぇ気持ちいい・・・さっきまでさんざん寝ていたはずなのに・・・また眠くなってきちまった)」

 

「・・・やはりゲートを酷使した後遺症がまだ残っているんですね。さっきより顔が安らかになりました」

 

「(ラリホ~・・・イカン!このままだと夢の中に逆戻りしそうだぜ。『死神13《デスサーティーン》』ならぬ『レム13』の術中にハマっちまいそうだ―――嗚呼っ!だが、抗えない・・・この睡魔の魅力には勝てそうも、ないん・・・だぜ)」

 

「そうだ。これだけ汗をかいてるのであれば服を脱がして体を拭いてあげないと行けませんね。ついでに全身の傷跡の治療も・・・」

 

 

ガバッ!

 

 

「―――うわぁあああああッ!!やめろッ!やめてくれッ!!」

 

 

 

 

 

俺はエクソシストみたいにベッドを揺らして拳を振り回して跳ね起きた。レムさんがさらっと口にした危険な言葉に心地よい睡魔もあっという間に吹き飛んじまった。

 

 

 

 

 

「アキラ君っ・・・目が覚めたんですね!」

 

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・あ、ああ。何とかな―――フー・・・恐ろしい夢を見た。とにかく恐ろしかったんだ」

 

「ちょうど今アキラ君の体を拭こうとしていたんです。アキラ君、お体を拭いてあげますから・・・そのまま服を脱いでこちら向きに座っていただけますか?」

 

「夢から覚めてない・・・だとっ!?」

 

 

 

 

 

―――『死神13』よりも遥かに恐ろしい『レム13』の驚異はまだ継続中だった!

 

 

 

 

 

「れ、レムさん!何を土地狂ったことを言ってるんですか!?い、いいいきなり男に向かって服を脱げとか・・・ヒロインにあるまじき卑猥な言動。つーか、そんなのメイドの仕事じゃねーだろ!」

 

「レムと姉様はいつもお風呂上がりのロズワール様の体のお手入れを勤めさせていただいております。怪我人の看病をするのもメイドの仕事です。何もおかしくはありません」

 

「ここに来てまさかの正論!?い、いや・・・でも、ロズワールはともかく。俺は別にこの屋敷の主でも何でもないし」

 

「アキラ君はレムのせいで傷ついたんです・・・この度のレムの不始末を思えば、こんなことじゃあ罪滅ぼしにもなりません」

 

「いきなりネガティブモード!?ネガティブモードが許されるのは小学生までだよ!――――というか、そもそもいらねえよ、そんなのっ!そこまでしてもらわなくて結構だよ!」

 

「はい。そうですよね・・・レムにされるのは迷惑ですよね―――《しゅん》」

 

「ぬっ・・・ぐうっ!」

 

 

 

 

 

目覚めて早々レムさんは俺に対する罪悪感でわかりやすく落ち込んでいる。レムさんのところだけわかりやすく背景が暗く淀んでいるし、頭のところに漫画っぽい縦線の漫符が入っている。

 

今回、俺が死にかけたのは自分のせいだとまだ引きずっているらしい。その罪滅ぼしとしてレムさんは俺のお世話がしたくてたまらないらしい。

 

俺も男だ。本当なら是非ともお願いし――――ごほんっ!ゲフンゲフンッ!・・・ご遠慮願いたいところだが。ここで断ると後々面倒だ。

 

 

―――というか、断った瞬間悲しそうに俯いている姿を見ているとこっちの方が居たたまれなくなってくるんだぜ。

 

 

 

 

 

「わ、わかった。じゃ、じゃあ・・・背中だけ!背中だけ拭いてもらおうか。流石に汗でベタベタして気持ち悪いし」

 

「《ぱあっ☆》―――っ・・・ハイ!」

 

「(・・・うっ、嬉しそうだ)・・・いいか!言っとくけど背中だけだぜ!エロ同人みたいに『ついでに前も』とか『下の方も』とか『先っちょだけだから』とかいうのもなしだぜ!絶対なしだからな、そういうのはっ!」

 

「―――フリですか?」

 

「なわけねえだろっっ!!」

 

 

 

 

 

 

こんなレムさんに誰がした!?これも呪いの影響か!?ラムの教育か!?それともゴルゴムの仕業なのかっ!?レムさんはこんなこと言うキャラじゃなかったはずだぜ!・・・ていうか、『フリ』って―――そんな余計な芸人根性見せなくていい!

 

 

 

 

 

「それでは服を脱いでください。上だけで結構ですので」

 

「やれやれ・・・さっさと終わらせてくれよ。出来れば逆の立場でやりたかったぜ、このシチュエーション」

 

 

コォォオオオオ……ッ

 

 

「おっ・・・これは」

 

「動かないでください。まだ体の傷が完全に治癒したわけではありません。レムにも少しだけど治療魔法が使えますので」

 

「・・・グレートだぜ、レムさん」

 

 

 

 

 

どうやら汗をふくだけでなく治療魔法をかけてくれているらしい。体の内側に冷たいような熱いような不思議な感覚が浸透してくるのを感じる。

 

やっぱり、レムさんの魔法は温かくて気持ちいい。昔、何かのCMで『半分は優しさで出来てる』なんてキャッチコピーがあったのをどこかで聞いたことあるけどよ~。レムさんの魔法は正しくそれだ。

 

しかし、美少女に上半身だけとはいえ裸をさらすのはどうにも気まずいぜ。この沈黙に耐えられなくなった俺は少しでも話題を探そうと周囲を見回した。

 

 

 

 

 

「―――なあ、レムさん。この足のギプスみてぇなのに書いてあるの何スか?これも治療魔法的な効果があるのか?」

 

「いえ、それは・・・ロズワール様のご厚意で、屋敷に招かれた子どもたちが書き置いていきました」

 

「グレート・・・あのガキ共め。変に畏まって欲しいわけじゃあねぇがよ。仮にも命の恩人なんだぜ。ちっとは敬えよな」

 

「子供達はアキラ君がなかなか目覚めてくれないからすごく心配していました。その証拠に―――」

 

 

 

 

 

背中越しに放たれたレムさんの微笑ましそうな声に改めてギプスに書かれたメッセージをよく目を凝らして読んでみるとレムさんの言っていた言葉の意味がよくわかった。

 

 

 

 

 

『レムりんをつれかえってくれてありがとう』

 

『アキラ、ありがとー』

 

『かっこ悪いけど、かっこいい』

 

『やくそく、アキラのおようふくつくったげる』

 

『だいすき』

 

『またいっしょにあそぼー』

 

『みんな、まってるからね』

 

 

 

「―――ったく、ガキのくせに・・・味なマネしやがるぜ」

 

「アキラ君の優しさが子供たちにも伝わったのでしょう。アキラ君がいなかったらあの子達も全員死んでいたはずでしたから」

 

「よしてくれ。結局、俺一人じゃあ何もできなかったぜ。あの時、レムさんがいてくれたからこそあいつらを助けられたんだぜ―――あいつら、ちゃんとレムさんにお礼言ってたか?」

 

「・・・はい。身に余るほどたくさん頂きました。子供達はこんなレムにもいっぱい感謝してくれました」

 

「・・・“こんなレム”か。自虐的なのは相変わらずッスね。自己評価が低いのをいきなり変えろとは言えないけどよ~。自分が果たした功績くらいは誇ってもいいと思うぜ」

 

「レムは無知で、無才で、欠点だらけです。今回のことにしたって・・・アキラ君の決断があの子達を救ったんです。レムはたまたま側にいただけに過ぎませんから」

 

「変わらねえな、レムさんは」

 

 

 

 

 

自分のことを病的なまでに過小評価し、自分の功績を全て他人のものにしたがる。悪いやつらに利用されねえか心配になってくるぜ。

 

 

 

 

 

「それはそれとして・・・だ。俺もレムさんにずっと言いそびれていたことがあったんだ―――いろいろとありがとうな。ガキ共を助けるのに協力してくれたことも・・・俺の呪いを解呪するために戦ってくれたことも・・・付きっきりで看病してくれたことも・・・いろいろありすぎて一言じゃあ言い切れないぜ」

 

「っ・・・やめてください。レムは・・・アキラ君に感謝してもらえるような立場じゃありません。アキラ君の呪いも元はと言えばレムが原因なんですから・・・」

 

「俺はレムさんのせいだなんてこれっぽっちも思っちゃいねえよ。それに・・・可愛い女の子に付きっきりで看病してもらったんだぜ。この上ないご褒美だぜ」

 

「レムはただ・・・アキラ君に謝りたくて。何をしたら許してもらえるかわからなかったから、レムがされて一番嬉しかったことをしたいと思っただけです」

 

「グレート・・・今回のネガり具合はすげえな」

 

 

 

 

 

森の中であんだけ偉そうに垂れた俺の説教も指して効果はなかったと見える。レムさんは俺から目をそらして恥ずかしそうに・・・それでいて悲しげに俯いて俺への懺悔を口にする。

 

 

 

 

 

「俺に謝ってもらう必要なんかないぜ。俺はただ・・・自分がなすべきことをなしただけだ。巻き込んだのは俺の方だし・・・むしろ、今回の件に関して言えば、一番肝心な時に遅刻してきやがったロズワールに文句を言いたいね、俺は。あいつは、ちゃんと約束果たしてくれたのか?」

 

「はい。ロズワール様も今回の件についてはアキラ君にとても感謝されているご様子で。解呪の方もロズワール様が約束通り全ての魔獣を掃討してくださり・・・同時にアキラ君にかけられた呪いも効果を失いました。ですのでアキラ君が呪いで命を落とす心配はもうありません」

 

「グレート・・・俺があんだけ物量で手を焼かされていた魔獣共を一晩足らずで殲滅したのかよ。ラインハルトの時も思ったが―――もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?」

 

「そんな・・・アキラ君がいなかったら今頃村はどうなっていたことかっ!エミリア様も・・・レムや姉様だって・・・」

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドは能力による応用幅は広いが、近距離パワー型の都合上・・・『火力不足』という欠点を抱えてしまっている。

 

俺も『魔術師の赤《マジシャンズ・レッド》』のように炎を操る力があったらロズワールばりの活躍ができたかも知れねえのによ―――って言ったところで、ただの無い物ねだりだな・・・今はどうでもいい。

 

 

 

 

 

「ともあれ・・・このグレートに長かった『一週間』もおしまいか。全員で無事に乗り越えられたことに感謝しねえとな」

 

 

「―――無事なわけ・・・ないじゃないですか」

 

 

「あん?」

 

 

「確かに目立つ傷は治療が終わっていますし、日常生活に支障をきたす後遺症が残る心配も幸いありません。でも――――『傷跡』は残ります。体はもちろん・・・『心』にだって」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「それに、幾度も治療を重ねたことが原因で、アキラ君の体の中のマナは枯渇寸前で・・・ゲートだってボロボロなんですよ。それで、どうして・・・『無事』だなんて言えるんですかっ」

 

 

 

 

 

悲痛に顔を歪ませて泣きそうな声で俺に訴えるレムさん。俺の体のことなのに俺よりもレムさんの方が悲しんでいやがる。それが嬉しいやら照れ臭いやらで・・・不覚にも顔が少しにやけてくる。

 

 

 

 

 

「―――でも生きてる」

 

 

「・・・っ!?」

 

 

「確かに、体はボロボロ・・・ゲートの損傷も酷く二度と魔法は使えないかも知れねえ―――けど、何でかな・・・ちっとも後悔してねぇのは。あの時の俺は自分の体がぶっ壊れてもいいから・・・ラムとレムさんに生き残って欲しかったんだ」

 

 

「でも・・・それでアキラ君が死んだら、エミリア様が悲しみます!姉様だって喜びはしないでしょう」

 

 

「だろうな。でも、意地があんだよ・・・男の子にはな」

 

 

 

 

 

俺の命と二人の命・・・秤にかけるまでもなく俺の答えは決まりきっていた。レムさんには自分の命を大事にするよう言っておきながら、こと自分の命に関しては無頓着な自分の言動の矛盾に我ながら傲慢だと思わざるを得ない。

 

 

 

 

 

「どうして、そこまで・・・レムには理解できません。アキラ君が何でレムのために自分の命を捨てようとしたのか・・・レムに・・・アキラ君がそこまでする価値があったとは思えません」

 

 

「レムさんが気づいてないだけで・・・俺はレムさんの存在がどれ程尊いものかよく知っているつもりだぜ。ラム程とまではいかねぇがよ。あんたは何一つラムに劣ってなんかいないぜ」

 

 

「―――レムにはわかりません。レムは非力で、非才で、鬼族の落ちこぼれです。だから、どうしても・・・走り出しても届かないことが多い。だから、レムが姉様に追いつくためには・・・早く走り出しているより他に方法が思いつかないんです」

 

 

 

 

 

これまでレムさんが背負ってきた重すぎる重圧《プレッシャー》。その胸中を語るレムさんは迷える子羊のように・・・あまりにもか細く、触れたら砕けてしまいそうなくらい弱かった。

 

 

 

 

 

「姉様ならもっとうまくやれた。姉様ならこんなところで躓かない。姉様ならきっと迷わない。姉様なら簡単にこなすに決まってる。姉様なら絶対に間違わないに違いない。姉様なら・・・姉様なら・・・姉様なら――――っ」

 

 

 

 

 

今まで表に出さなかったラム《姉》への劣等感《コンプレックス》。出口のない迷路の中で必死に答えを探し求めて・・・それでも見つけられなくて・・・その苦しみから逃がれることすら出来ない無限ループ。

 

レムさんがあそこまでラムに対して献身的なのは、絶対的な姉《ラム》への恐怖心があったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「レムは、姉様の代替品・・・それもずっとずっと劣った、本当の姉様にはいつまでたっても追いつけない・・・『出来損ない』なんです」

 

 

 

 

 

抜け出せない地獄の中で確立されたあまりにも悲しき自己定義《アイデンティティー》。でも、それにすがることでしか自我を保つことができなかったのだろう。誰もレムさんに答えを与えることができなかった―――ラムですらも・・・レムさんを救うことができなかったのだ。

 

 

 

 

 

「どうして、レムの方にツノが残ってしまったんですか?

 

 

 

どうして、姉様の方のツノが残らなかったんですか?

 

 

 

どうして、姉様は生まれながらにツノを一本しか持っていなかったんですか?

 

 

 

どうして、姉様とレムは『双子』だったんですか?

 

 

 

―――どうして・・・『レム』は生まれてきてしまったのですか?」

 

 

 

 

 

ついには・・・涙をこぼして俺に『答え』を求めるレムさん。姉のことを追い続けていく内に自分のことすらもわからなくなって・・・自分の存在意義すらも見出だせなくなって・・・まだ会って間もない俺《他人》に救いを求めてくるレムさん。

 

だが、いくら俺に問うたところで・・・俺から彼女に与えられる『答え』などなかった。

 

 

 

 

 

「っ・・・ご、ごめんなさい。おかしなことを言ってしまいました。忘れてください。こんなこと人に話したのなんて初めてで・・・変なことに・・・」

 

 

「―――俺も・・・あんたと同じだった」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

俺が伝えられるのは『レムさんの答え』ではない。あくまでも俺自身が過去に出した『俺の答え』だけだ。これが彼女の救いになるかはわからないが―――

 

 

 

 

 

「『何故戦うのか』・・・『自分は何者なのか』・・・誰かにその答えを教えて欲しかった。でも、最後には自分で出さなきゃならない答えもあるんだ――――人としてできること・・・それは自分自身で決めるしかないんだ」

 

 

「自分自身で・・・でも、レムは・・・レムには、もう―――っ」

 

 

 

 

 

レムさんの過去に何があったのかはわからない。彼女が過去に何を失い、どんなトラウマを抱えているのか俺には知る由もない。だが、未だなお苦しみ続けているところを見ると俺の想像を絶する何かがあったことだけは確かだ。

 

でも、レムさんは過去に大きなものを失ってなお・・・まだ一番大事なものが残っていることに気づいていない。

 

 

 

 

 

「レムには・・・わからないんです。どうしても見つからないんです。レムが犯した罪をどう償えばいいのか・・・どうすれば贖罪になるのか・・・どうしてもわからないんです」

 

 

「・・・そうかな?」

 

 

 

 

 

レムさんがずっとラムへのコンプレックスに苦しめられてきたのは確かだ。だが、それ以上に彼女の中で一番大切な人であったことも確かだ。それは罪悪感や畏怖から来るものではない・・・ラムに向ける本物の敬意と愛情があったからこそ、ここまでこれたのだ。

 

 

 

 

 

「――――あんたの心の弱々しい迷いと裏腹に・・・あんたの『手』は強く握りしめて離さない」

 

 

 

 

 

どんなに過去の罪に苛まれようと・・・劣等感に苦しめられようとレムさんは決して『ラムの手』を離そうとはしなかった―――自分を苦しめている一番の元凶であるはずなのに・・・彼女はそれを振りほどこうとはしなかった。

 

――――レムさんは、いつも先を歩くラムの手を握って引っ張ってもらいながら歩いていたはずだ。ラムがツノを失い力を失っても・・・力を失ったラムを支えるべくレムさんはその手を離さずにラムと共に歩いてきた。それは上っ面なんかじゃない本物の『想い』があったからこそ一緒に歩いてこれたんだ。

 

 

 

 

 

「大事なものを失って・・・身も心も疲れ果て・・・けれど、それでも決して捨てることが出来ない“想い”があるならば――――誰が何と言おうと・・・それこそがあんただけの唯一の“真実”」

 

 

「―――っ!?」

 

 

「・・・そろそろ過去《むかし》を振り返るのはもう十分だろ―――現在《いま》も・・・そして未来《この先》も・・・変わらずあんたを心配してるあんたの姉様が・・・ずっとあんたの側で待ってる。あんたが過去から解放されるのをな」

 

 

 

 

 

あまりにも近すぎて見えなかっただけで・・・本当はレムさんが求めていたものはずっとレムさんの中にあったんだ。ただ・・・不幸なことに彼女は視野が狭すぎて、それを見落としたままずっと苦しみ続けてきたんだ。

 

 

 

 

 

「そんな・・・そんなことって・・・だってレムは姉様の代替品で・・・出来損ないで―――」

 

 

「関係ねえよ。レムさんがどれだけラムに劣等感感じていようが・・・ツノがあった頃のラムがどれだけ優秀であろうが・・・ラムにとってあんたが大切な妹だってことに一切変わりはねえ――――『姉妹』ってそういうもんだろ?」

 

 

 

 

 

自分の中で掴みかけている『答え』に酷く戸惑っているレムさん。レムさんはまだ自分自身が信じられないのだろう。

 

 

 

 

 

「レムさん・・・俺はラムのことを尊敬している。体力ねえし、料理下手だし、仕事サボるし、口も悪いけどよ・・・――――妹のために躊躇わずに死地に飛び込む“勇気”と・・・こんな得たいの知れない俺を受け入れてくれた“懐の広さ”と・・・俺の命が助かったことを心の底から喜んでくれた“優しさ”。俺はラムを尊敬している・・・本人の前じゃあ絶対言わねえけどよ」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「そして・・・それと同じくらいレムさんのことを尊敬しているんだぜ」

 

 

「え?」

 

 

「レムさんは、いつも一生懸命で・・・責任感が強くて・・・よく気が利いて・・・優しくて・・・お姉さん想いで・・・たまにちょっとツッ走っちまったり、怒らせると恐いところもあっけどよ―――でも、そういうダメなところも含めて全部がレムさんの魅力なんじゃあねえかな。だから、レムさんがラムよりも劣ってるなんてこと絶対にあり得ないぜ」

 

 

 

 

 

何より裁縫スキルやお掃除スキル、その他の家事スキルもカンストしている上、お料理スキルも完備してる。この上、『メイド』と『妹属性』と来たもんだ。

 

オタクの欲望と願望を凝縮して体現した理想のヒロイン像の一つと言っても過言ではない―――マジで『俺の嫁』に欲しいくらいだぜ。

 

 

 

 

 

「ちがっ・・・違うんです。レムは・・・姉様には遠く及びません。本当の姉様だったら・・・姉様のツノがあったらこんなことには・・・」

 

「そうかもしれねえし、そうじゃねえかもしれねえ・・・けど、そんな『もしも』の話、したところで意味がねえ。過ぎちまったことに『たられば』を言い出したらキリがねえよ―――それに・・・あんた、一番大事なことを忘れてるぜ」

 

「・・・え?」

 

「・・・俺の命を救ってくれたのはラムじゃない。エミリアでもないし・・・ベア様でもなければ、パックでもロズワールでもない。

 

 

―――“あんた”なんだぜ、レムさん。

 

 

レムさんの覚悟が・・・あの時、諦めきっていた俺の心に執念を与えてくれたんだ」

 

 

 

 

 

あの時、誰しもが諦めていた。俺自身ですら諦めていた。ガキどもの救出に成功して、レムさんとラムが無事だったのを確認して・・・俺は完全にやり遂げたつもりになっていた。

 

ベア様から余命宣告を受けたときも内心では―――『ま、いっか』なんて考えていた。

 

―――そんな中で、ただ一人・・・俺を助けようと立ち上がってくれたのがレムさんだったんだ。

 

 

 

 

 

「でも、結局・・・レムはアキラ君に助けられました。レムが余計なことさえしなければ・・・」

 

 

「俺ですら自分の命を諦めていたのに・・・レムさんだけは諦めなかった。レムさんが諦めなかったからこそ、俺はこの『救い』に辿り着いた。あんたがいなかったら・・・俺は人知れず森の中で孤独にくたばっていたろうさ」

 

 

「っ―――・・・本当の、姉様なら、もっとうまく」

 

 

「でも、俺を助けてくれたのはレムさんだ。俺が今こうして生きていられるのは、他でもないレムさんのお陰なんだぜ。助けられた本人が言うんだから間違いねえって。

 

 

―――本当にありがとうなっ!」

 

 

「―――ッ・・・!」

 

 

 

 

 

面と向かってお礼を口にするのは恥ずかしいものがあったけど・・・命も心も救ってもらった大恩人《レムさん》相手に感謝を述べることに抵抗はなかった。寧ろ、言い足りないくらいだぜ。

 

しかし、レムさんはそんな俺の感謝の言葉から逃げるように顔をそらし肩を震わせて俯いてしまった。

 

 

 

 

 

「レムは・・・レムは、姉様の代替品だってずっと・・・」

 

 

「そんな風に思ってるのはあんただけだぜ。誰もレムさんにラムの代わりになることを求めちゃいねぇし・・・よしんば、レムさんがラムの代わりになれたところで『レムさん』の代わりになれるヤツなんかどこにもいないんだぜ」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「―――『Nobody's Perfect』・・・誰も完全じゃない。だからこそ、レムさんにはラムが必要で・・・ラムにもレムさんが必要なんだ」

 

 

 

 

 

そう。それこそがレムさんが一番履き違えていたところだ。優秀な姉を完璧な人間だと思い込んでしまい、ありもしない理想像を姉に重ね続け・・・それがいつしか抜けない楔になってしまっていたんだ。

 

 

 

 

 

「ラムにないものをレムさんが補って、レムさんが足りないところをラムが補う。二人で一人の『鬼』ってヤツをやってけばいいんじゃねえか?・・・ラムもきっとそう思ってるはずだ」

 

 

「レムは・・・とっても弱いです。ですから、きっと・・・寄りかかってしまいますよ」

 

 

「だから『Nobody's perfect』・・・だってば。あんたは大事なことを忘れていたんだ。完璧であることよりも自分らしくあることが大事なんだ。例え、弱くても不器用でも・・・あんたの優しさが必要なんだ。それが、もし弱さだとしても―――俺は受け入れる」

 

 

 

ぽろっ

 

 

 

「―――ぁ・・・あれっ・・・な、なんで・・・~~っっ!」

 

 

 

 

 

俺がそこまで口にした瞬間、レムさんは両手で口を押さえて大粒の涙をこぼした。

 

 

 

 

 

「な、何故、泣く!?・・・泣くなよっ!!」

 

 

「ひっく・・・ふっ!・・・ぅぐっ!~~~っ」

 

 

「え、ええっ・・・れ、レムさん!俺はあんたを泣かすつもりじゃなくてよぉ~。ただ、あんたに笑って欲しくて頑張っていただけで・・・――――ほら、泣き止めって!こういう時は泣くんじゃなくて笑うことが大事なんだぜ」

 

 

「ぁぅっ・・・ふぐっ!・・・“わら、う”?」

 

 

「ああ。どこぞの『水の女神』も言っていたぜ――――『未来のあなたが笑っているか・・・それは神ですらもわからない。なら今だけでも笑いなさい』ってな。

 

だから、レムさん・・・そんな湿っぽいのはもうやめて。笑っていこうぜ。過去に縛られずに未来に向けてよ。そうすりゃ『明日』はきっといい日になる。ここいらで、あんたが背負ってきた重たすぎる荷物をおろしてみようぜ」

 

 

「っ・・・よろしいのですか?・・・レムの・・・ひっく・・・レムのような、咎人、がっ・・・ふぐっ・・・そんなことっ・・・許されっ、ても」

 

 

「たりめーだ。例え、世界中の誰もが許さなかったとしても・・・俺はレムさんを許す。誰が何と言おうと俺はレムさんを許す!この世に幸せが似合わない人間なんていない―――だから・・・失ったものばかり数えるのはもうやめにしようぜ。あんたの手を握ってくれるヤツらがここにちゃんといるんだからよ」

 

 

 

 

 

レムさんはもう十分苦しんできた。自分で自分を許せなくて、完璧な姉の幻想を追い求めて、ずっとずっと自分を追い詰めていた。だからこそ、もう終わりにしてやらなくちゃならねえ。

 

 

自分で自分を苦しめている囚人を解放してやれるのは・・・きっと俺みたいな事情も何も知らない無知蒙昧な流浪人がうってつけだろうからよ。

 

 

 

 

 

「それでも・・・もし、あんたが本当に絶望しちまうことがあったら――――俺があんたの希望になってやるよ」

 

 

 

 

 

そう言って俺はレムさんに向けて手を差し伸べた。レムさんの背負ってきたものを全て俺が受け止めてやると言う意思表示だ。

 

彼女が背負ってきた重たすぎる荷物を何も知らない人間《俺》が背負うということがあってもいいと俺は思う。こんなか細いレムさんの肩に余計なもん背負わすくらいなら・・・俺みたいなバカ野郎が背負った方がよっぽどましってもんだ。

 

―――それこそが俺を救ってくれた彼女に対する・・・ささやかな恩返しになると思う。

 

 

 

 

 

「っ――――鬼がかってますね・・・」

 

 

「だろ?」

 

 

 

 

 

そう言って彼女は微笑んだ。

 

 

あまりにも儚くて・・・弱々しくて・・・それでいて最高に美しいレムさんの笑顔は最高に“鬼がかっていた”。

 

 

 

 

 

ぽろっ… ぽろぽろ……っ

 

 

「―――っ・・・ふっ、ふふふっ・・・はっ、あはははっ」

 

 

 

 

 

でも、それも一瞬のこと・・・彼女の瞳から押さえつけていた涙が決壊し、ぼろぼろと大粒の涙をこぼして・・・それでも彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

本当は笑顔で応えようとしてるのに彼女の中でずっと押さえつけられていた感情はそれを許してくれないのだろう。込み上げてくる涙を必死に拭いながら、嗚咽混じりの笑い声をあげてレムさんは俺の手を握ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくしてロズワール領での魔獣事件は幕を下ろしたのだ。

 

 

 

魔獣騒動を引き起こした真犯人はどこかに姿を消してしまったが、顔が知れちまっている以上、もう二度とあの村で悪さすることはないだろう。

 

 

 

この事件で俺のゲートは酷く損傷し、治療のために体内のマナを大量に消費して枯渇状態になってしまった。

 

今後、無理に魔法を行使したり、治療のためにマナを消費したりすれば・・・身体に深刻な影響を及ぼし、日常生活にすらまともに送れなくなる可能性があるとのことだ。

 

 

―――勿論、後悔はしていない。

 

 

魔法に対する憧れは勿論あるが、それはラムやレムさんの命を引き換えにしてまで手に入れるほどのものじゃないし。寧ろ、魔法の才能のない俺がゲートを代償に二人の命を救えたんなら安いもんだ。

 

 

 

―――何より、レムさんのあの『笑顔』を取り戻すことができた。価千金の価値があると言ってもいい。

 

 

 

自分を支えてくれる人たちみんなの笑顔のために頑張る。いつでも誰かの笑顔のために頑張れる・・・改めてそれがすごく素敵なことだと思えた。

 

『人間』ってヤツは1人を幸せにすることは難しいが、100人を不幸にすることは簡単にできてしまう。

 

俺が何故この異世界に呼ばれたのか・・・誰が俺をここに呼び寄せたのか・・・そして、何故、魔女は俺を特別扱いしているのか――――それはまだわからないが・・・俺はきっとそんな人を不幸にするヤツらと戦うためにここにいるんだと思う。

 

 

 

何故なら・・・『スタンド使い』を倒せるのは同じ『スタンド使い』しかいないからだ。

 

 

 

敵の正体はまだ何も掴めていないが、俺はいずれ戦わなくてはならない。何故なら、この日常を脅かす邪悪なスタンド使いを倒すことが俺に与えられた使命なのだ!

 

 

 

 

 

「――――別に怒ってるわけじゃないわよ。ええ、そう・・・怒ったりしてない。一生懸命看病していた相手が目が覚めたらいなくて・・・探しにいこうかと思ったらベッドにがんじがらめに縛りつけられたりしてて・・・完全に置いてけぼりにされたからって、そんなことで怒るような狭量な心の持ち主じゃないもの、わたし」

 

 

「えっ・・・ああ、うん」

 

 

 

 

 

なんてご高説をたれたところで目の前のエルフのお嬢様は納得してくれまい。これで綺麗にエンディングというわけにはいかなかった。今回の事件で完全に蚊帳の外にされたエミリアが完全にへそを曲げてしまったのだ。

 

―――いや、だって・・・仕方がないじゃん。あのときの状況だったら他にやりようもなかったしさ。エミリアの性格を考慮すると絶対に首を突っ込むに決まっていたし。

 

かれこれ部屋に入ってきてから10分以上エミリアの恨み言をネチネチと聞かされ続けている。俺は何の反論する言葉も持っておらず蛇ににらまれた蛙のように冷や汗を垂らして相づちを打つことしかできない。

 

 

 

 

 

「―――別に・・・怒ってないから、わたし」

 

 

「グレート、怒ってるというより・・・完全に拗ねてるパターンだ、これ」

 

 

「っ・・・拗ねてなんかいないわよっ!アキラのおたんこなす!」

 

 

「だから!俺が悪かったって・・・しょうがねえじゃんかよ。あの時は他に方法が思い付かなかったんだから。ただでさえ二人が先行してバラバラに森に入ってる状況だったから余計なリスクを増やすわけにはいかなかったんだ」

 

 

「それ、わたしが足手まといだっていってるの!?」

 

 

「何でそうなるんだ!?勝手に悪い方に解釈しないでくれ!」

 

 

 

 

 

大泣きしたレムさんを慰めさせられた後はお怒りモードのエミリアを嗜めさせられる羽目になるとは。というか・・・何でエミリアは感情的になるとこうも子供っぽくなるんだ?普段、あんだけ大人びて年上風吹かしてるくせによぉ~・・・お陰で俺の言葉も完全に乱反射して跳ね返されてる。

 

 

 

 

 

「~~~~っ・・・まだ本当は言いたいことがいっぱいあるんだけど。アキラがまだ本調子じゃないからこれくらいで勘弁してあげる―――言っときますけど!わたし、ぜんっぜんっ怒ってないから!」

 

 

「だから、全面的に俺が悪かったよ!そんなに念を押さなくったってちゃんとわかってるっつーの・・・やれやれ、これだったら森で魔獣どもをボコってる方がまだ気楽だったぜ」

 

 

「だから怒ってないってば、もう!・・・でも、アキラが悪いと思ってるなら仕方ないわね。その謝罪を受けてあげるわ――――ホントに、もう心配させないでね」

 

 

「善処する・・・とは言っておくぜ」

 

 

 

 

 

この先、どんな敵が現れるかわかったもんじゃないからな。今回はこの程度で済んだが・・・次もこううまくいくとは限らない。

 

いや、寧ろ・・・時間を吹き飛ばすほどのスタンドパワーを持つ相手だ。楽に勝てるわけはないだろう。

 

 

 

 

 

「また、そうやってはぐらかして!アキラは本当に何もわかっていないんだから」

 

 

「俺も好き好んで危険に首を突っ込んでる訳じゃないぜ。あの時はやむにやまれぬ事情があったから・・・」

 

 

「違うわよ!そういうことじゃないの―――どうしてわたしを頼ってくれないの?アキラが一人で傷ついたり頑張らなくてもわたしだって力になれることだってあるかもしれないじゃない」

 

 

 

 

 

だから、お前を巻き込みたくなかったんだよ。お前ならそう言ってくれると思ったから・・・そんなびっくりするくらいお人好しなお前を俺の事情に巻き込みたくなかったから俺はあえて一人で行ったんだぜ。

 

―――な~んて言えるわけもないがよ。

 

 

 

 

 

「俺の治療で体力を使い果たしていたあの時のお前じゃあ・・・とても戦える状態じゃあなかったろ。二重遭難になる可能性だってあったし・・・あの時はあれが最善だったんだよ」

 

「・・・なんだかすっごく釈然としないんだけど」

 

「『部下や仲間を信じて帰りを待てる』ってのも・・・王として必要な資質だぜ。いくら仲間が心配だからって王が前線に出るわけにはいかねえからよ。将来のルグニカを背負って立つものとしてこれくらいは我慢してもらわねぇとな」

 

「アキラのそういうところ・・・わたし、すっごくズルいと思う」

 

「ズルくてもいい。俺はそういう男だ」

 

 

 

 

 

もともと清く正しく生きていこうだなんて思っちゃいない。目的のためならば手段は問わない。例え、誰かに恨まれようと手足を食いちぎられようと泥にまみれようと血に濡れようと・・・俺が護りてぇもんを護れたんなら、それでいい。

 

 

 

 

 

「ねえ・・・アキラ」

 

「なんだ?」

 

「もし・・・わたしが同じような状況に陥っていたら、アキラはわたしを助けようとしてくれた?」

 

「・・・さあ、どうだかな」

 

「何それ?ラムやレムのためだったらあんなに必死になれたのに・・・わたしを助けるのは嫌だっていうの?」

 

「誰かのために命を懸けるかどうかなんて・・・所詮その時の決断だ。要は俺の気分次第。その時になってみねぇとわかんねぇよ」

 

「ちっとも優しくないのね・・・わたしに対してだけは。ラムやレムにはあんなに一生懸命親切にしていたのに」

 

「あれ?・・・お前、俺に優しくしてもらいたかったわけ?なかなか可愛いとこあっじゃねえか」

 

「ぷんっ!アキラのことなんてもう知らないんだから」

 

 

 

 

 

そう言って頬を膨らませて腕を組んでそっぽを向いてしまうエミリア。少し意地悪が過ぎたかもしれないな。

 

 

 

 

 

「・・・“親切”じゃねぇよ、全然」

 

「え?」

 

「だから、『信じろ』なんて言えないな。誰もが助けられるわけじゃねぇしな」

 

「・・・・・・。」

 

「ただ、この手が届くのに手を伸ばさなかったら・・・死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ―――それだけ」

 

 

 

 

 

次にまた何か得たいの知れない驚異が迫ったとしても絶対にエミリアを助けられる保証なんてどこにもない。現に俺は過去に一度ラムとレムさんを死なせてしまったのだから・・・今回の事件で俺はつくづく“自分”というものを思い知らされた。

 

悲しいかな。俺がいくら超強力なスタンド『クレイジーダイヤモンド』を保有する『スタンド使い』であったとしても・・・それを使役する俺のこの『手』はあまりにも無力でちっぽけで矮小だ。

 

だから、エミリアを護り抜くという約束なんかできっこない。

 

 

 

 

 

「ただ・・・まあ、なんつーか・・・俺は受けた借りは絶対に返す主義だ。今回のことで俺はまたお前にデッケェ借りを作っちまった。だからよ・・・俺に出来ることがあれば遠慮なく俺を頼れ。金以外のことなら相談に乗るからよ」

 

「(・・・助けられたのはわたしの方なんだけどなー)」

 

「何か言ったか?」

 

「ううん。何でもない!アキラってば、意外と面倒くさい性格してるのね」

 

「お前にだけは言われたくないよっ!」

 

 

 

 

 

でも、さっきまで膨れっ面だったエミリアも一転して笑顔になった。俺が言わんとしていたことは十分伝わったらしい。

 

些細なことで一喜一憂して・・・心配性で・・・結局、根っこのとこは呆れるくらい優しくて―――やっぱ、何だかんだでこういうところは“女の子”なんだなって思わされるぜ。

 

 

 

 

 

「ヒロインのために命を懸けるってのは悪くないんだがよ。現実的な話をさせてもらうと・・・ロズワールにはたんまりと報酬をもらわないとな―――こりゃあ、特別労働手当でももらわんと割に合わんな」

 

「―――ねえ、アキラ・・・もしもアキラが良かったら、わたしの・・・」

 

「『わたしの』?」

 

「っ・・・ううん!何でもない!―――今度一緒に王都に行ってみない?アキラへのお礼がまだ終わっていないから」

 

「お礼って・・・まだそんなこと言ってんのかよ。お前は俺の命の恩人なんだぜ。でーんと構えておけっつーの」

 

「そんなの無理よ!アキラにはたくさんたくさーん助けてもらったんだから。傷の手当をしただけじゃあ何にも返せてないんだから」

 

「だぁああもうっ!それが面倒くさい性格だって言ってるんだつーの!」

 

 

 

 

 

結局、事件は解決しても・・・エミリアは変わらねえな。ロズワールも相変わらず道化《ピエロ》だし。パックが定時上がりなのも変わらねえ。ベア様は相変わらず書庫に引きこもってるし。ラムも相変わらずのポンコツぶりだし。レムさんもラムの分をカバーしようと一生懸命なのは相変わらずだ。

 

今回のことで何か一つでも変えられたものがあればいいんだけどよ~。『運命を変える』って意気込んでたわりに・・・蓋を開けてみると何にも変わってねえよな―――俺ってつくづく影響力ないのな。

 

 

とりあえず今日のところは・・・『在るべき日常』を取り戻せたってことで満足しておくか。

 

 

 

 

 

 

 





『何気ない日常こそが何よりも尊くて幸せである』・・・これは筆者にとって絶対に外せない持論だと思っております。

リゼロを見てるとそれを改めて思い知らされます。

そう自分に言い聞かせながら筆者は今日も過酷なリアルと戦っております。時間がなくて大変ですが、執筆は進行中です!

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