DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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この作品を書いててつくづくリゼロは魅力的なキャラが多いと思わされます。

スバル君が極限の状況まで追い詰められ、一度は自我が崩壊する手前まで追い詰められたものの・・・何だかんだで皆を見捨てられなかったのはきっとそういうことなんでしょうね。

彼らのキャラを壊さないように彼らの魅力を少しでも多く描いていけたらと思います。



第32話:封印(物理)!負けたら名所

 

 

 

 

 

 

「―――よく俺の居場所がわかったな。最悪、倒れること覚悟で『カーラ』を発動させるつもりでいたんだが」

 

 

「君の巨大な精霊の腕が遠巻きにだけどハッキリと見えてね~え。お礼ならエミリア様に言ってくれ。彼女、君が姿を消したことに動揺して君のことを探しにいこうとしていたみたいだったからね~え」

 

 

「・・・やれやれ、やっぱ大人しく帰りを待っていられるタイプじゃなかったな。ベア様にしっかり口止めしとくべきだったかな」

 

 

「無茶と無謀を繰り返す君のことが心配だったんだ。エミリア様にあそこまで心配されるとは、男冥利に尽きるんじゃあないかぁ~ね―――ずっと君の文句を言いながら泣きそうな顔で心配していたからね」 

 

 

 

 

 

『泣きそうな顔』?・・・想像もつかねえな。あのエミリアが俺のために泣くだなんてよ。

 

ともあれ・・・一瞬でウルガルムの群れを焼き尽くしたロズワールの魔法。これだけの高威力の魔砲を広範囲で行使できる最強の魔術師ロズワールが駆けつけてくれた。

 

ロズワールがいれば、少なくともこの近辺一帯のウルガルム共は容易に殲滅出来るはずだ―――これで本当に『運命が変わる』。

 

 

 

 

 

「―――ロズワール様っ!」

 

 

「話は全てエミリア様とベアトリスから聞かせてもらったよ。無事で何よりだよ、ラム」

 

 

「お手をお煩わせして、申し訳ありません!」

 

 

「いんやぁ、いいとも♪そぉ~もそも・・・これは私の領地で起きた出来事だ。収める義務は私にある―――むしろ、わたしの不在に君たちはよぉ~くやってくれていたよ」

 

 

 

 

 

少し遅れて戻ってきたラムに称賛と感謝の気持ちをのべるロズワール。普通ならここで全員が無事に危機を脱して、事件の元凶を倒し、事件は解決・・・めでたしめでたしってなもんだ。

 

普通なら俺も『勝ったッ!第二章完ッ!』ってなるところだが・・・そうも言ってらんねえ。俺はボロボロの体に鞭を打って最後の力を振り絞る。

 

―――立て・・・もうじき発動するタイミングだ。

 

 

 

 

 

「―――ラム・・・っ」

 

 

「ジョジョ!もう大丈夫よ。ロズワール様が残った魔獣を殲滅してくださるから・・・」

 

 

「少し・・・右側にどいてくれないか、ラム」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

俺が待っていたのはこの瞬間だ。俺が全ての力を使い果たし、絶体絶命のピンチに陥り・・・それを助けに来たロズワールが介入するこの瞬間。

 

この瞬間、運命を変えたのは『俺』ではなく『ロズワール』となる。

 

そして奇しくも・・・ロズワールの魔法により周囲が炎の灯りに照らされたことによってハッキリとわかった。俺が倒さねばならないもう一人の『敵』の姿が。

 

 

 

 

 

「ロズワール・・・お前が来てくれたことはすごく感動もしいてるし。感謝もしているんだ―――でも、一つお願いを聞いてもらえると嬉しいんだが」

 

 

「・・・いったい何のお願いかな?何でも言いたま~えよ。君のお願いなら何だって聞くさ」

 

 

「さしあたっては、まず・・・動くなよ。お前からは見えないが・・・お前は既に厄介な『爆弾』を背負わされている。これから俺がお前に何をしても・・・身動ぎ一つするんじゃねえぞ」

 

 

「い、いったい・・・何をするつもりなの、ジョジョ!?」

 

「・・・アキラ君!?」

 

 

「―――今から・・・『コイツ』をぶちのめすっっ!!」

 

 

┣゛ン……ッッ!!

 

 

『ドォオラァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ドゴォォオオオオオオ……ッッ!!

 

 

 

 

 

ラムとレムの制止を振り払って、クレイジーダイヤモンドの渾身の拳がロズワールに放たれた。そして、クレイジーダイヤモンドの拳が――――ロズワールの背後にいた『影』をぶちのめした。

 

 

 

 

 

『―――ッッ……ウオアアアアアアアアアアア……ッッ!? イイイイイッッ……アギイイイイイッッ!!』

 

 

「―――よう。やっと会えたな。いや、この場合『久しぶり』というべきか・・・『バイツァダスト』」

 

 

 

 

 

ロズワールを爆弾化する前にロズワールから引き剥がすことは成功した。しかし、その姿は前に解除したヤツとは随分形態が違う。

 

前回は人形のスタンドで目の部分にニキシー管が埋め込まれた小型サイボーグのような姿だったが。

 

今度のヤツは小型のエイリアンのようなデザインだ。しかも、ニキシー管ではなく顔面や肩などの至るところに時計盤のような計器を装着している。

 

 

 

 

 

『ナゼ……ナゼダッッ!? ナゼ、ワタシノ存在ニ気ヅイタ!?オ前、ワタシノコトヲ ドウシテ知ッテイル!?ワタシノ存在ハ コノ世界ノ 誰モ知ラナイハズナノニ』

 

 

「同じスタンドのはずなのに『前』とデザインが変わっているな・・・特性を察するにお前は完全に『自動追跡型』みてぇだが―――しかも、前は気づかなかったが・・・お前にはクレイジーダイヤモンドと違って『実体』がある。何か別の生物の体を喰らって生まれたスタンドというわけだな」

 

 

「っ・・・ジョジョ、“それ”は何なの!?どうして、ロズワール様の体からそんなものが・・・っ!」

 

 

「離れてろ、ラム。コイツに少しでも触れたら、この場にいる全員ふっとんじまうぞ」

 

 

 

 

 

しかも、今のコイツの言葉に重要なヒントがあった。コイツは前に俺に解除されたことを『知らない』。前に俺が解除したヤツとは完全な別個体というわけだ。

 

おそらく・・・俺が解除して本体のところに直って戻った『バイツァダスト』が、新しく生まれ変わり、全く別の姿になって再びこの時間に送り込まれたのだろう。

 

コイツのせいで俺は理不尽なタイムループを繰り返すはめになったんだ。今度こそ、もう二度とふざけた真似ができねえようにしてやらねえとよぉ~。

 

 

 

 

 

「―――え~っと・・・何だっけな?お前に対して思い出すことがあったんだ」

 

 

『オ前達ハ……ワタシノ正体ヲ知ッテシマッタ。ダイバージェンス5%ヲ 超過シタ。貴様ラヲ コノ時間モロトモ 抹消ス――――』

 

 

『ドォオラァアアアアアアッッ!!』

 

 

 

ボギャアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

『プッッ……ギャァアアアァァァアアアア……ッッ!!?』

 

 

「人を気安く指差してがなりたてんじゃねぇぜ」

 

 

『ナゼ、ナゼダァァァアアアッッ!? ナゼ、爆発シナイ……ワタシニ触レタ者ハ爆弾ニ……変ワルハズナノニ……ッッ!!」

 

 

 

 

 

『思い込む』というのは何よりも恐ろしいことだ。しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い。

 

バイツァダストは考えたこともなかったのだろう。自分を攻撃できる人間がいるなんてことを。自分の能力を過信するあまりバイツァダストは不足の事態に全く対処できていない。

 

―――そして、今、自分の身に起きたこともまだ理解していない。

 

 

 

 

 

『――――――ッッ!? ワ,ワタシノ『手』……ッッ、『手』ガァァアアアッッ! 岩ト『一体化』シテイルゥゥウウウ!?』

 

 

「そうだ。思い出した。俺、お前に『永劫の別れ』を言うつもりだったんだ―――お前が今までこうして何人の人間を殺してきたかは知らねえが・・・お前のせいで変えられるはずだった運命に殺されてきたヤツが腐るほどいるんだぜ。その落とし前をつけてもらわねえとな」

 

 

『―――イ、イッタイ……ッッ 何ヲスル気ダァァアアアッッ!?』

 

 

「永遠に供養しろ!『俺』含めてテメエが殺した人間のなぁあっ!」

 

 

 

┣゛ン……ッッ!!

 

 

 

『ドォオオオラララララララララララララララララララララァァァアーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ……ッッ!!!! ――――――ズギュゥウウウン……ッッ!

 

 

「―――岩と一体化して、この場所で永久に生きるんだな」

 

 

『ァ・・・ァ・・・ギャァアアアアアアアアアアアッッ!!?』

 

 

 

 

 

前はただ本体のところになおして『戻した』だけだった。だから、コイツは姿形を変えて再びこの時間に現れてしまった。

 

だが、岩の中になおして『封じ込めて』しまえば・・・もう二度と『バイツァダスト』は発動しない。

 

スタンドは『一人につき一体』だからよぉ~。これでもう二度とこいつに運命を支配される心配はない。

 

 

 

 

 

『ヂグショーーーッッ!! ナンテコトヲ シヤガルンダ テメーーーーッッ!!イイ気ニ ナッテンジャネエゾォオオオッッ!!』

 

 

「やれやれ・・・追い詰められると口が悪くなるのはどの個体でも共通らしいな。ところで・・・喋れる内に聞いておきたい。お前を送り込んだ『黒幕』が何者で・・・いったい、どこの誰なのかってことだ」

 

 

「・・・どういうことか説明してもらえないかぁ~な?この謎の生物は他の陣営から送り込まれた刺客だったってことかい」

 

 

「・・・かもしれない。だが、それ以上のことかも知れない。だから、コイツに確かめなくちゃあならねえのさ」

 

 

 

 

 

コイツはこの世界に存在するもう一人のスタンド使いが放った刺客であることは間違いない。だが、肝心なのはその目的だ。前回に引き続き今回も・・・何故、エミリアにしきりにこだわるのかがわからない。

 

ただ単に王選に絡んで他の陣営が送り込んできた刺客にしては少し度を越えている。エミリア一人のために『時間』を爆破するなんてあまりにもぶっとんでる。

 

 

 

 

 

『ケヒヒヒッッ……クヒヒヒヒヒヒヒッッ 『同ジ能力』…… 貴様、アノ方ト 同ジ能力ヲ持ッテル クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ ダカラ、俺ハ生ミ出サレタ…… オ前ヲ 始末スルタメニ……ッッ!!』

 

 

「っ・・・狙いはエミリアじゃなく“俺”!?俺を殺すためにわざわざこんな手の込んだ爆弾を仕掛けたってのか」

 

 

『オ前…… ナカナカ面白イ能力ヲ 持ッテルジャネエカ―――ケドナァ! アノ方ニハ絶対ニ敵ワネエ! ソレヲ確認デキテ安心シタヨ。テメージャア100年カカッテモ 勝テネエ! テメーハ アノ方ニトッテノ 試練ノ内ニモ 入ラナイ! テメーハ アノ方ニトッテ 釈迦ノ手ノヒラヲ 飛ビ回ル 孫悟空デスラナイ』

 

 

「何故、俺を狙う?・・・お前の本体は俺のことを知らないはずだろ。何でどこの誰とも知らない俺を警戒する理由がある?同じスタンド使いだからか?」

 

 

『サアナ! 俺ハ タダノ『観測者』 歴史ヲ『観察』スルノガ仕事ダ。 オ前ラ屑共ガ ドウナロウト知ッタコトジャナイ。俺ハ テメーラガ醜クアガク姿ヲ 観察スルダケダゼ! テメーラ虫ケラガ 死ンデイク様ヲ 見ルノガ タマラナク好キナダケダゼ』

 

 

 

 

 

バイツァダストは自分が完全に岩に埋め込まれた状態であるにも関わらずこちらを挑発してくる。

 

スタンドに命があるわけではないし、コイツのこの口の悪さがどこから来るのかは知らねえが・・・これ以上、コイツには何を聞いたところで無駄なようだぜ。

 

 

 

 

 

『―――クソガキガ! セイゼイ調子コイテルガイイサ! テメーラ全員、アノ方ニ 皆殺シニサレルゼ。 同ジ能力ヲ持ッタトコロデ 所詮 テメーハ大シタヤツジャアナイノサ!』

 

 

「―――俺の心の中に・・・今いちオメーに対する怒りが足りなかったか」

 

 

『テメーハ バカ丸出シダッ! テメーゴトキガ ドコマデヤレルノカ セイゼイ楽シマセテモラウゼッッ!! モットモ…… ソンナ有リ様ジャア 辿リ着ク前ニ 全滅ダガナ!! アノ『エルフノ女』も…… ソコノ『鬼』二人も…… 全員皆殺――――』

 

 

 

┣゛ン……ッッ!!

 

 

 

「『ドォオオオオララララララララララララララララララララララララララララァァァアーーーーーーッッ!!!!』」

 

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッ!!!! ―――バガァアアアアーーーーーーーン……ッッ!!

 

 

 

『―――……ッッ ………ッ ―――ッッ!!!?』

 

 

「『観察するのが好き』?―――じゃあ、してろよなぁ~。黙って大人しく『観察』だけをよぉ~」

 

 

ズギュゥウウウン……ッッ!

 

 

 

 

 

聞くに耐えない醜い演説にわざわざ付き合ってやるつもりはない。必要な情報を引き出せた以上、コイツはもう用済みだ。

 

クレイジーダイヤモンドで岩を埋め込んだバイツァダスト諸供粉々に砕き、それを最後に『直して』・・・全く別の形へと作り変える。

 

 

 

 

 

ドーーーーーン・・・

 

 

「やはり、さっきは怒りが足りなかったんだぜ。このゲス野郎はこれぐらいグレートに岩に埋め込まなきゃあいけなかったんだぜ」

 

 

『――――――………………』

 

 

「これでいよいよ俺も追われる身か・・・正体のわからない『スタンド使い』に・・・グレートに面倒なことになっちまったぜ。けどまあ、やれやれ・・・とりあえず今日のところは―――『任務完了』」

 

 

ガクッ!

 

 

「ジョジョ!?」

 

「アキラ君!?」

 

 

 

 

 

限界だ。今ので残っていた力も全部出し尽くしちまった。膝をついて崩れ落ちる俺にラムとレムさんの二人が血相を変えて走ってくる。

 

 

 

 

 

「っ・・・大丈夫だぜ。少し目眩がしただけさ。それより・・・ロズワール・・・さっき言ってた『お願い』ってヤツを聞いてもらっていいか?」

 

 

「モチロンさっ。何なりと申し付けてくれたま~え。詳しくはわからないが・・・どうやら君は私達の知らないところで私達の命を救ってくれた命の恩人みたいだからぁね」

 

 

「森に残ったウルガルムを殲滅して・・・俺の呪いを解呪してくれ―――出来んだろ?あんたになら」

 

 

「お安いご用だぁ~よ♪後のことは全て任せて、今は眠るといい。目が覚めた時、君がしてくれたことへの御礼は尽くそうじゃぁ~ないか――――少なくとも、君を脅かすものの排除は約束する」

 

 

「・・・すまん。恩に着るぜ」

 

 

「いやいや、感謝しているのはこっちだ。今回のことも元を正せば私の責任だ。その罪滅ぼしをさせてくれ」

 

 

 

 

 

読めねえんだよな、コイツだけはよ。いいヤツなのか悪いヤツなのか・・・腹に何か抱えてるのは間違いないんだが―――でもまあ、今は俺の命を救ってくれた恩人だからな。素直に感謝しとかねえとよ。

 

そうそう・・・恩人と言えば―――

 

 

 

 

 

「―――ジョジョっ!!」

 

「―――アキラ君っ!!」

 

 

どごすぅうう……っっ!!

 

 

「ぐぅおおおおああああっっ!?」

 

 

 

 

 

さっきまで完全に蚊帳の外だったラムとレムさんのタックル・・・否、抱擁を受けて全身に衝撃が走る。アドレナリンの切れた体は麻酔が完全に切れており、麻酔の解けた痛覚神経が暴走。全身に痺れるような痛みが走り動けなくなってしまう。

 

 

 

 

 

「―――ジョジョっ・・・ジョジョっ!よかったわね!ロズワール様がジョジョの呪いを解呪してくれるのよ。これで今度こそジョジョは助かるのよ!」

 

 

ぐりぐりぐりぐり……っ

 

 

「痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛いっ!ら・・・ラムっ・・・今、俺はそれどころでは―――ぐぇええええええっっ!!?」

 

 

ぎゅぅうううう~~~~っ!

 

 

「―――アキラ君っ!~~~~っ・・・“生きてる”っ。生きててくれてるっ!・・・アキラ君!アキラ君っ!」

 

 

「れ、レムさんっ!?どこに顔を埋めて・・・っていうか、あんたらキャラ変わって・・・うわぁあああああああっ!?」

 

 

 

 

 

ラムは俺の首に腕を回して俺の頬に自分の額を押し当ててグリグリと頬骨に食い込むように押し付けてくる。まるで飼い主に甘える猫のような姿だ。純粋に俺の命が助かることを喜んでくれてるのはわかるのだが、今は体のあちこちが悲鳴をあげてて洒落にならないくらい痛いっ!

 

レムさんは俺の胸に顔を押し付け、熱い涙で俺の胸を濡らしながら、俺が生きていることを確かめるように涙で濡れた顔面をまるで捨てられた子犬のように擦り付けてくる。それが死ぬほどこっ恥ずかしくてくすぐったい。さっきまでレムさんにさんざ説教かましてたから余計に恥ずかしいっ!

 

 

―――それから程なくして俺は気絶した。体力的に限界を振り切っていた俺の体は美少女姉妹の熱い抱擁に耐えられなかったのだ。

 

 

しかし、意識を失う直前・・・俺の耳にハッキリと聞こえたロズワールの台詞が脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

「―――おんやぁ~あ・・・まぁ~さか、あのラムとレムがね。これはいよいよ『本物』かもしれないね~ぇ―――これからも期待してるよ。ジュウジョウ・アキラ君」

 

 

 

 

 

まるで、今回のことを含めて俺に何か『役割』を課そうとしているかのようなロズワールの口振りに俺は『近い内にまた何かに巻き込まれる』という漠然とした予感めいたものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アキラ君が気絶し・・・その後、ロズワール様による魔獣の掃討がすぐに始められました。

 

 

気絶したアキラ君の体から吹き出る『魔女の匂い』に引き寄せられ、集まったウルガルムの群れをロズワール様が魔法で悉く一網打尽にし・・・程なくして魔獣の掃討は完了しました。

 

 

魔獣掃討後、アキラ君を村に連れ帰った時・・・村で待ち構えていたエミリア様とベアトリス様に介抱され、すぐにアキラ君の呪いが解呪されたかの確認が行われました。

 

 

エミリア様たってのお願いで・・・ロズワール様、ベアトリス様、大精霊様の三人(?)体勢で、再三に渡り念入りな確認が行われ、アキラ君を蝕んでいた呪いが完全に解呪されたことが確認できました。

 

 

そのことを聞いたときのエミリア様の心の底から安心した顔をレムは忘れられません。

 

エミリア様が初めてアキラ君を屋敷に連れて来られた時もそうでした。血みどろのアキラ君を連れてきて、ベアトリス様にアキラ君の命に別状がないことを確認した時も同じように安心はされていましたけど―――あんな風に嬉しそうに微笑んではいませんでした。

 

月が照らす深夜にレム達がアキラ君を連れて森から帰ってきたときも・・・完全に気を失っていたアキラ君にエミリア様は何度も何度も呼び掛け続けておりました―――あんなに崩れ落ちそうな儚いエミリア様のお顔をレムは初めて見ました。

 

 

屋敷にアキラ君が来て間もない頃・・・エミリア様がアキラ君に気を許しているのを見て、最初は『どうしてこんな人を』と思いもしましたけど。今なら、エミリア様の気持ちがとてもよくわかります。

 

今のレムがアキラ君へ向けてる気持ちは・・・きっとエミリア様と『同じ』ですから。

 

 

こうして、アキラ君の解呪は無事に完了し、屋敷に戻ってからベアトリス様によって細かな治療を施されました。

 

 

ベアトリス様は最後の最後までアキラ君に文句を言っていましたけど。でも、アキラ君の解呪に一番一生懸命だったのがベアトリス様だってことをレムは知っています。

 

 

『―――もうベティを呼ぶんじゃないのよ』

 

 

そう言ってベアトリス様は禁書庫の方に戻って行かれましたけど。本当は扉渡りでこっそりアキラ君の様子を見に行っていることをレムは知っています。

 

 

アキラ君は本当にすごい方です。こんな短い期間でこれほどお屋敷の皆様にとって重要な人物となってしまいました。

 

 

村の方の混乱も完全に収まり、ロズワール様直々に今後二度と同じことが起きないよう結界を厳重に張り直し、村民の方々も今は平穏と過ごされております。

 

 

事件は解決し、お屋敷は平穏な日常に戻ったのです―――ただ一つを除いて・・・

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

 

「―――失礼します。アキラ君」

 

 

 

 

 

アキラ君の部屋をノックし、返事を待たずに静かに扉を開ける。魔獣の事件が終息したにも関わらず、レムには・・・まだやり残してることがありました。

 

 

あの事件が終わってから丸一日以上経過しました。

 

 

しかし、アキラ君は未だに目を覚ましておりません。

 

 

―――レムは未だにアキラ君に『ありがとう』を言えてませんでした。

 

 

 

 

 

「―――おはようございます。アキラ君・・・お加減はいかがですか?」

 

 

「・・・スゥ・・・スゥ」

 

 

「また、お食事を並べておきますので目が覚めたら食べてください―――アキラ君はレムの作るご飯をいつもいつも楽しみにしてくれていましたからね」

 

 

 

 

 

ベアトリス様曰く治療は完璧に済んだもののアキラ君の精神的・肉体的疲労が大きすぎて当分の間は眠り続けるとのことです。

 

それが二日後なのか、はたまた一週間後になるのか・・・そこまではわからないそうです。

 

 

 

 

 

「―――レムりん。部屋、入ってもいい?」

 

 

「―――あっ、ハイ。大丈夫ですよ。ですが、アキラ君がまだ寝ているのでお静かにお願いしますね」

 

 

「「「「「「「ハーイ!」」」」」」」

 

 

 

 

 

アキラ君が助けた子供達もすっかり元気になりました。子供達も恩人であるアキラ君をより一層慕うようになりました。

 

今日はロズワール様のはからいで子供達を屋敷に招待し、アキラ君のお見舞いに来てもらいました。子供達は大きな声で自信満々に返事してくれましたが、どうやらレムの意図は十分には伝わらなかったみたいです。

 

 

 

 

 

「―――レムりん・・・アキラ。まだ起きてこないの?」

 

 

「・・・ええ。残念ながらまだのようですね。アキラ君は誰よりも頑張ってましたから・・・すごくお疲れなんですよ。もう少し休ませてあげましょう」

 

 

「そっか・・・あ~あ!アキラが早く起きてくんないとつまんねえよな」

 

「ねえねえ!ここ・・・アキラの部屋なんでしょ。何か面白いものない?」

 

「こっちに本あるぜ!―――アキラ、絵本なんて読んでるんだ」

 

 

「あまりイタズラしちゃダメですよ。目を覚ましたときにアキラ君がビックリしちゃいますから」

 

 

 

 

 

子供達はアキラ君がまだ目を覚ましていないと知るとアキラ君の部屋を物色し始めます。『お見舞い』というより『遊び』に来た感覚なのかもしれませんね。

 

でも、その中で一人だけベッドの傍らでアキラ君の手をギュッと握ったまま眠っているアキラ君を見つめている子がいました。

 

森で保護したときに目を覚まし、アキラ君にお友達のピンチを伝えた大きなリボンをつけたあの女の子でした。

 

 

 

 

 

「―――レムりん。アキラ、いつになったら起きるの?」

 

 

「それは・・・レムにもわかりません。でも、きっとそう遠くない内に目を覚ましてくれます。アキラ君は最高に・・・鬼がかってる人ですから」

 

 

「・・・“鬼がかる”?」

 

 

「ハイ。アキラ君が言っていました。鬼よりも鬼がかっているスゴい人のことを言うんだそうです」

 

 

「ふ~~~ん・・・」

 

 

 

 

 

正直なところ、レムにもよくわかりません。でも、アキラ君の行った功績を表現するには『鬼がかる』という以外に思い付きませんでした。

 

 

 

 

 

「ペトラ!せっかくアキラのお見舞いに来たんだから、アキラに書き置きしていこうぜ」

 

「アキラ、まだまだ目を覚ましそうにないしねー!」

 

「おもしろそ~!やろやろーっ!」

 

 

「書き置き・・・ですか?それなら、レムがすぐにお手紙と書くものをご用意いたしますが」

 

 

「チッ、チッ、チッ!・・・レムりんわかってないな~。そういうのじゃなくてさ!こういう時は『ここ』に書くのが面白いんじゃねーか」

 

「足がすっごく包帯巻きだし、丁度いいよねー!」

 

「ねー!」

 

「よぉーしっ!」

 

「あんまり大きな字で書かないでよー。わたしの書くとこなくなっちゃう」

 

 

「え?・・・あ、あの・・・それはやめてあげた方が―――」

 

 

 

 

 

レムが止めるまもなく子供達はアキラ君の足に巻かれた包帯にそれぞれアキラ君に向けての思い思いのメッセージを書き込んでいく。あっという間に足の包帯は子供達の落書きだらけとなってしまいましたが。

 

子供達のアキラ君への感謝と好意がしたためられたメッセージをレムは消す気になれませんでした。

 

 

―――アキラ君がいなかったらこの子達は、あの夜、森の中で魔獣に殺されていたんですよね。

 

 

『俺のことを信じられねぇならそれでも構わねぇ。命令に従わない俺をクビにでも何でもすればいい――――だから、行かせろよ・・・これ以上俺を引き止めたら、何をするかわかんねぇぞっ!』

 

 

アキラ君が姉様やレムの制止を振り切ってお屋敷を飛び出さなかったら、今頃は・・・

 

 

 

 

 

「―――レムりん!レムりん!」

 

 

「え?・・・ハイ、何ですか?」

 

 

「アキラが目を覚ましたら教えてっ!わたし、アキラが起きたら一番に会いに来て『ありがとう』って言いたいの。だから・・・っ」

 

 

「ハイ。勿論です。アキラ君もきっと喜びます」

 

 

「うん!ありがとう、レムりん♪」

 

 

 

 

 

―――『ありがとう』。

 

 

それはレムが産まれてから何度も聞いてきたはずの言葉でした。なのに何故でしょうか・・・姉様やロズワール様やエミリア様や大精霊様に言われたときにも感じたことのない胸に染み入るような感覚でした。

 

 

 

『ありがとう!レムりん!』

 

『ねえねえ!レムりんがスッゲー魔法でオイラ達を助けてくれたのって本当!?』

 

『レムりん。助けてくれてありがとうっ!』

 

『レムりん!今度うちにおいでよ。母ちゃんの作ったリンガパイすっごく美味しいんだーっ』

 

 

 

アキラ君と一緒に村に帰ってきたときも・・・しきりにレムにお礼を言ってくる子供達の声が・・・あんなにも暖かく感じられました。

 

 

今まで何度も聞いてきた言葉だったはずなのに・・・そんな言葉、レムにとって何の価値もないと思っていたはずなのに・・・レムの中に感じたことのない『ぬくもり』のようなものを与えてくれたんです。

 

 

 

―――子供達が帰った後もレムはアキラ君の横でアキラ君の寝顔を眺めておりました。

 

 

 

アキラ君なら、きっと・・・このレムが感じたモノが何なのか・・・『答え』を教えてくれるような気がしたから―――アキラ君がレムの心に灯してくれたモノが何なのか・・・それを教えて欲しいんです。

 

 

 

 

 

「・・・か・・・カカロット」

 

 

「っ・・・アキラ君」

 

 

ぎゅっ

 

 

 

 

 

アキラ君が眉を潜めて魘されているのを見てレムはアキラ君の手をレムの掌を合わせるようにして握り込みます。

 

 

もしかしたらアキラ君は夢の中で未だに暗い森の中をさ迷っているのかもしれません。それほどまでに壮絶な一夜だったのですから。

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「―――レム・・・やっぱりここにいたわね」

 

 

「っ・・・姉様」

 

 

 

 

 

ふと時計を見るとかなり長い時間、アキラ君の部屋に長居してしまっておりました。まだまだお屋敷のお仕事があるのというのに・・・。

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、姉様。すぐにお仕事の方に―――」

 

「ロズワール様からの命令よ。少し休みなさい。昨日からずっとジョジョに付きっきりだったでしょ。仕事もやりながらそんなことしてたらレムの方が倒れてしまうわ」

 

「ですけど・・・」

 

「魔獣騒動が終わってから、ちゃんと休んでいなかったでしょ。ジョジョ程じゃないにしてもレムの疲労も相当のモノだわ。少しの間だけでもいいから休みなさい。ジョジョが目覚める前にレムにまで倒れられると困ったことになるわ」

 

「・・・・・・。」

 

「ジョジョが起きたら教えてあげるわ。屋敷の仕事もラムがやっておくから今は休みなさい」

 

「・・・ハイ」

 

 

 

 

 

アキラ君が目を覚ましたときに一番に傍にいたいという気持ちはありましたが、レムは素直に姉様の指示にしたがいます。

 

本当のところ、レムはまだまだ働けましたけど。ここでレムが無理をするとまたアキラ君に怒られてしまうような気がしたのです。

 

 

 

 

 

「・・・姉様、どうかしましたか?」

 

「いえ。何でもないわ。昼食の下拵えはラムがやっておいたからレムは食事の準備だけしておいてちょうだい。それが終わったら部屋でしっかり休みなさい」

 

「ハイ、わかりました。姉様」

 

 

 

 

 

少し後ろ髪を引かれる思いでしたが、レムは姉様の指示に従い暫しの小休止をとることにしました―――ついでにアキラ君が目を覚ましたときのために焼き菓子を焼いておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――まさか、あのレムがあんな素直に『休む』なんて・・・少し驚いたわ。ラムのいない間にレムと何があったのか是非とも聞かせてもらいたいものだわ」

 

 

「・・・スゥ・・・スゥ・・・」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

ラムはそのままベッド横まで静かに近づくと慎重に口から漏れ出る寝息のリズムに耳をすました。そして、あることを確信してラムは抱えていた袋から必殺兵器を取り出した。

 

 

 

 

「―――食らうがいいわ」

 

 

ズボォオッッ!!

 

 

「ほぼぉおおおおっ!?・・・あほぼぉおおおおっ!?おぼぁおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

出来立てホヤホヤの蒸かし芋を狸寝入りしていたアキラの口に容赦なく突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「~~~~~~っっ・・・ぶほぉっ!!ぶはぁおおっ!!・・・ウエッホ!エホッエホッエホッ!」

 

 

「いい気なものね。重傷でさんざんラム達に心配をかけておいて、意識が戻ったのに目が覚めてないフリまでして・・・そうまでして仕事をサボりたかったのかしら。浅ましいわね」

 

 

「だからってアッツアッツの蒸かし芋を口にねじ込むやつがあるかっ!?おかげで口の中が大火傷だぞ!~~~~ったく・・・人生最悪の寝覚めの悪さだぜっ、チキショー!」

 

 

 

 

 

俺は口に水を含んで少しでも火傷を和らげようと涙目になってしまっている。ラムはそんな俺を冷ややかな目で見下ろしている―――ったく、こいつの腹黒さだけはちっとも変わらないぜ。

 

 

 

 

 

「心配かけたのは悪かったけどよぉ~・・・目が覚めたのは本当についさっきのことだぜ。丁度ラムがレムさんと入れ替わるほんの少し前だぜ。そこまで怒ることないだろ」

 

「ラムは別にジョジョの心配なんてしていないわ。魔獣騒動を解決したからっていい気になっているジョジョに少しお灸を据えてやっただけよ」

 

「その『お灸』ガチの物理攻撃じゃねえかっ!」

 

「起きていたんなら何故レムに起きていることを教えなかったの?あの子がジョジョに負い目を感じてるのはジョジョもよく知ってるでしょ」

 

「確かにそれはよく知ってるけどよぉ~・・・レムさんがあんまりにも甲斐甲斐しく世話を焼くもんだから・・・完全に起きるタイミングを失くしちまったんだよ~」

 

 

 

 

 

目が覚めたらレムさんが俺の手をしっかりと握ったまま俺の顔を心配そうに覗きこんで来やがったもんだから、気絶する直前のあの羞恥プレイを思い出しちまって起きるに起きられなかったんだぜ。

 

―――何が悲しくて・・・女の子に寝顔ガン見されて、しかも手まで握られた状況(恋人繋ぎ)で目を覚まさなきゃならんのだ。

 

あんなシチュエーションで目を覚まして感極まったレムさんに抱きつかれでもしようものなら俺は恥ずか死ぬ自信があったぜ。

 

 

 

 

 

「―――つまり、ジョジョは、レムに手を繋がれて、あまつさえ醜悪な寝顔を見られたのが恥ずかしくて。女の子に免疫のないジョジョは羞恥心から起きられなかったということね」

 

「わかってんならハッキリ言うな!」

 

「レムの手は気持ちよかったでしょ。小さくて柔らかくて・・・あの手に握られたらジョジョも余計なものが抜けて、天国につれてってもらえるわ」

 

「何でわざわざ卑猥な方向に表現すんだよ!?お前、自分の妹をなんだと思ってるんだ!?」

 

 

 

 

 

コイツ、たまにレムさんの扱いがとんでもなくぞんざいになる。根っこのところが強い絆で繋がっているし、レムさんが窮地に陥るとマジでプッツンするところも何度も見てきたが、こういうところだけはよくわからない。

 

 

 

 

 

「・・・その様子だと本当に覚えていないのね。てっきり『あの時』も起きてるものだとばかり思っていたのだけど」

 

「あの時?」

 

 

ぎゅっ

 

 

「うぉおおいっ!?・・・い、いきなり何だよ?」

 

「―――ラムがこうしてあげていたの覚えていない?」

 

「・・・え゛?」

 

 

 

 

 

ラムが俺の左掌と自分の右掌を合わせるようにしてレムさんがやっていたような恋人繋ぎにするとそんな突拍子もないことを聞いてきた。

 

 

 

 

 

「お、覚えてるもなにも・・・俺がお前とそんな男女の嬉し恥ずかしなラブコメイベント消化した覚えなんて―――――あ」

 

 

 

 

 

いや、微かに覚えがあった。覚えがあるといってもアレは夢の中での光景だったはずだ。

 

 

―――夜中・・・何時だったのかもよくわからない深夜に・・・治療の処置を施された俺はベッドの上に寝かされていた。しかし、全身の傷が熱をもってしまい、そのあまりの寝苦しさに俺はベッドの上で苦しんでいた。

 

全身に汗をかき、喉が乾き・・・しかし、目を覚まそうにも意識を覚醒させる程度の体力もなく。金縛り状態のまま苦痛が収まるのを待つしかなかった。

 

 

 

―――しかし、目覚めることも出来なかった俺の傍に誰かが現れた。

 

 

 

その人物は真っ暗な部屋の中で丹念に俺の汗を拭いてくれて、濡れたタオルで患部を冷やして、包帯を巻き直してくれた。

 

それによって苦しみから解放され俺はようやっと安らかに眠ることができるようになり、俺の意識はそこで再び闇の中に沈んでいった。

 

 

 

―――その時、看病してくれていたであろう人物が俺の左手を握ってくれていたのを感じながら・・・。

 

 

 

 

 

「―――くぅううおおおおおおおお~~~~~~っっ!!」

 

 

「ようやく思い出したようね。ラムが夜中魘されているジョジョのためにわざわざああやって出向いてやったというのに・・・本当にジョジョは恩知らずだわ」

 

 

 

 

 

不覚だ。一生の不覚だ。アレは夢だと思っていた!夢だと思いたかったのに・・・よりにもよってコイツにっ!この天上天下唯我独尊メイドにとんでもない貸しを作ってしまった。

 

しかも、あの夢が現実だったとすると・・・つまり、服を脱がされていたということで・・・それっていうのは、つまり・・・その―――っ!!

 

 

 

 

 

「安心しなさい。ジョジョの裸なんて見られたところで減るもんじゃないわ」

 

「減りはしないけど!傷は残るんだよ!ていうか、見た側のお前にそんなこと言う資格ねえだろっ!」

 

「それこそ今更だわ。気絶していたジョジョの服を着替えさせたのはラムとレムだし。ベアトリス様やエミリア様も治療のために体の隅々まで検査していたから―――ジョジョの体で見られていないところなんてないわ」

 

「の~~~うッッ!!!!脳~~~~~ッッ!!処理できましぇんッッ!!しょりできましぇんッッッ!!!しょりdりおあうぇおjりおあせrッッ!!」

 

 

 

 

 

―――俺は泣いた。生まれて初めて本気で泣いた・・・赤鬼に泣かされた。

 

 

 

 

 

「そう悲観的になることはないわ。ロズワール様のと同じくらい立派だったから」

 

「そんな感想聞きたかぁねえんだよっ!・・・チクショウ、せっかく絶望的な危機を脱して生き残ったっていうのに社会的に抹殺されちまったぜ」

 

 

 

 

 

せっかく後腐れなく終われると思ってたのによ。最後の最後で拭えない汚点を残しちまったぜ。まあ、命を救われたのだから文句は言えねえけどよ。

 

外科医が患者を手術するために服を脱がすのと同じ医療行為だと思って割りきるしかねえぜ。

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・ともあれ、ようやくこれで全部終わったんだな。もう運命に縛られるのは懲り懲りだぜ」

 

「ジョジョ・・・これからどうするつもりなの?」

 

「っ・・・どうするつもりも何も・・・別に予定なんてねえけど」

 

「・・・どうだか。ラムはてっきりジョジョはこの屋敷を去るつもりだと思っていたのだけれど―――ジョジョは村が魔獣に襲われていたと知った時・・・もうこの屋敷を立ち去るつもりでいたんじゃないの?だから、ラムに『自分を切り捨てろ』なんて言ったんじゃないかしら」

 

「・・・っ」

 

「ジョジョの浅はかな考えなんてラムにはまるっとお見通しよ」

 

 

 

 

 

冷たい視線だった。ラムの覚めた目で睨まれたことは今までに何度もあった。だが、今向けられたのはこれまでと違う・・・軽蔑するかのような冷酷な意思が込められた視線だった。

 

 

 

 

 

「・・・俺が他の陣営が送り込んだスパイだと疑っているのなら―――」

 

「ジョジョが消えたらレムはどうなるの?」

 

「・・・レムさん?」

 

「レムの狭く閉ざされた世界をこじ開けた異物が・・・何も言わずにレムの目の前から消えてなくなったらレムがどうなると思ってるの?」

 

 

 

 

 

『レムさんの世界をこじ開けた』?・・・『俺』が?―――いったい何の話をしてるんだ?俺は別にレムさんに何かしてやった覚えはねえぞ。逆ならともかくよ。

 

 

 

 

 

「凍りついていた心に火を灯してくれた人物が・・・唐突に何も言わず姿を消したら、残された人物はどう思うでしょうね―――『裏切られた』と思うか・・・或いは『見捨てられた』と思うでしょうね」

 

「・・・グレート」

 

「レムの心に希望だけ灯していなくなるのはあまりに卑怯よ。レムに希望を与えたからにはジョジョは最後までレムの希望であり続けなくてはならないわ。その義務からは逃げられない」

 

「・・・お前も知ってるだろ。俺の体は魔女に呪われている。好き好んでそんな厄介者を抱え込むヤツがいるかよ」

 

「わずか数日でアレだけの無茶と無謀をやり尽くしたような男が・・・今更、どんな事情を抱えていたとしてもラムは気にしないわ。例え、ジョジョが他の陣営が送り込んだ間者であったとしても・・・魔女教徒であったとしても・・・吸血鬼であったとしてもラムは驚かないわ」

 

「―――いや、そこは歴とした『人間』だよっ!俺のどこに吸血鬼の要素があるんだよっ!?」

 

「なんて大それたことを言い出すの・・・ジョジョっ!よりにもよってジョジョが―――『人間』ですってっ!?」

 

「別に大それてねぇよっ!!俺が『人間宣言』することは、俺が『間者』や『魔女教徒』であることよりも大それてるのかよっ!?」

 

 

 

 

 

少し打ち解けてきたと思ったら、コイツはすぐこれだ。というかラムの中で俺の評価っていったい・・・―――やめた。考えてもろくな結果にはならねえ。

 

 

 

 

 

「・・・去るにしてもレムとちゃんと会ってからにして頂戴。今度、下手な真似をしようとしたら逃げられないよう両足を切り飛ばすから」

 

「だから、怖いって!・・・まあ、レムさんにはちゃんとお礼を言っておくぜ。あの人には色々と助けられちまったからな」

 

「まだ肝心なところがわかってないみたいだけど・・・今はそれで良しとするわ。ラムはレムを呼んでくるからジョジョはレムに気づかれないよう寝たフリして待ってなさい」

 

「なんで?つーか・・・それ意味あるのか?」

 

「レムのことだから『ジョジョが目を覚ました時に一番最初に会うのはレムでありたい』と願っているはずよ。それほどまでに思い詰めていたもの」

 

「グレート・・・そこんところだけがマジでよくわからねぇぜ」

 

 

 

 

 

レムさんが俺に尋常じゃない恩義を感じているのは何となくわかるが・・・そこまで感謝されるようなことをした覚えがない。寧ろ、俺がこうして助かったのはレムさんの功績があってこそだぜ。

 

そして、もう一人忘れちゃならねえ恩人がいる。

 

 

 

 

 

「―――ラム」

 

「・・・なに?」

 

「今回のことでまた借りが出来ちまったな。本当に助かったぜ」

 

「何の話をしてるの?ラムはジョジョを助けた覚えなんてないわ。ラムが頑張っていたのは全てレムを連れ戻すためよ」

 

「素直じゃないね~、まったく・・・レムさんを助けるだけなら、俺を早々に捨て駒にすれば楽ができたものをよ」

 

 

 

 

 

口ではこう言っているが・・・ラムが最後まで俺を見捨てようとしなかったことに俺はちゃんと気がついていた。ラムは本来なら状況に応じて何が最善であるかを見極められるやつだ。なのに・・・コイツは俺を囮にするという最善の策を最後の最後まで実行しようとはしなかった。

 

そして、俺が単身で囮になることを決断したときに俺が無事に帰ってくることを真に願い。その後、駆けつけたロズワールによって俺の命が救われることを全身で喜んでくれた。

 

何よりも・・・――――かつて俺が死なせてしまった未来から戻ってきたときに“生きててくれていた”。あの瞬間、死にかけていた俺の心は生き返ることが出来たんだぜ。

 

コイツもまた俺にとって恩人なのだ。

 

 

 

 

 

「お前にはいろいろと感謝してる。月並みな言葉しか言えないけどよ・・・その・・・『ありがとう』だぜ」

 

「ジョジョがラムに対して何をそんなに感謝しているのかわからないのだけど―――『どういたしまして』・・・とだけ言っておくわ」

 

 

 

 

 

相変わらずつれない態度の毒舌メイドはいつもと変わらぬ凛とした後ろ姿で部屋を去っていった。ただ・・・部屋を出るときに一瞬だけ見えた横顔がほんのり赤くなっていたような気がしたのは俺の気のせいか?

 

 

 

 

 





改めまして、無窮のヘタレ様、OZU☆様、外川様、ID:JeLn48ZU様、感想ありがとうございます!

特に外川様に至っては頻繁に意見を投稿していただき本当にありがとうございます。ここまで熱心にメッセージをいただけると筆者としても非常に嬉しい限りです。

リアルな事情で一時期は押し潰されそうになりましたが、皆様のおかげで持ち直せました。本当にありがとうございます!


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