DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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最近になってリゼロSSが増えてきている近況、非常に嬉しいです。そして、この作品をお気に入りに入れてくださる方がいることがそれ以上に嬉しいです。そして、応援のメッセージをいただけることが何よりも嬉しいです。

激動の一週間編もあと二話くらいで終わりですかね・・・あと三話くらい行くかも。


第30話:崖の上のジョジョ

 

 

 

 

 

―――魔獣の森に突入から早二時間近くが経過。

 

 

俺は疲労困憊のラムを背負って森の中をさ迷い歩いていた。

 

 

あれからラムと合流できたもののレムさんの捜索は依然難航していた。

 

 

考えてみれば当然のこと。地図もない手がかりもない森の中で森中の魔獣を殲滅しようとがむしゃらに動き回っているレムさんを見つけるなんて雲をつかむような話だ―――ラムと合流できただけでも奇跡に近い。

 

 

 

 

 

「それにしても・・・よくラムの居場所がわかったわね」

 

「偶然だ。たまたま魔獣のうなり声と風を切る魔法の音が聞こえてよ・・・その音を辿っていたら何とか追い付くことが出来たぜ」

 

「そう・・・その腰の剣はエミリア様からの贈り物?」

 

「いや、村の自警団の連中から『助けてもらったお礼に』ってもらったんだ。ガキ共からも色々と押し付けられた。お陰で村を出るのに時間がかかっちまったぜ」

 

「慕われている証拠でしょ。どこがいいのかしら、こんな男」

 

「『こんな男』のお陰でお前も命拾いしたんだろうが・・・少しくらい誉めてくれたっていいんだぜ」

 

「ジョジョごときがラムの気を引こうだなんて百年早いわ。来世からやり直しなさい」

 

「・・・それは暗に『死ね』と言っているのか?」

 

 

 

 

 

ガス欠で背負われてるくせに態度のでかさは変わらねえな・・・チクショウ。

 

 

 

 

 

「―――ジョジョ。ここまででいいわ。ラムの体力も回復したし、ここからは自分で歩けるわ」

 

 

「大丈夫かぁ~?ハッキリ言ってレムさんを見つけるのもこの森を抜けるのも・・・お前の視界ジャックに頼るしかないんだぜ。いざという時にまた倒れられたらマジに詰んで出れなくなっちまう」

 

 

「ジョジョごときに心配されるほどラムは柔ではないわ。それとラムの『千里眼』をそんな風に呼ばないでくれる?ジョジョのセンスのなさがうかがい知れるわ」

 

 

「・・・ツンだ、デレない」

 

 

「何か言った?」

 

 

「いや・・・いつも通りで安心しただけだよ。テメーが平常運転で何よりってな」

 

 

 

 

 

さっき危機一髪のところを助けてラムの中で俺の評価が多少なりとも向上してくれてたらという期待をしていたのだが、別にそんなことはなかったんだぜ。

 

まあ、今更コイツが恩人だからってくらいで俺を相手に態度を変えるなんてことあり得ない。何せ、ロズワールとレムさん以外は眼中にないようなヤツだ。

 

よくよく考えたら俺はまだこいつらと出会ってから一週間と経っていないのか・・・。

 

 

 

 

 

「―――ジョジョ、体の方は大丈夫?」

 

 

「なんだよ、いきなり?」

 

 

「とぼけたって無駄よ。誤魔化そうとしてもすぐにわかるわ・・・怪我の方がまだ十分に回復してないんでしょ。あまり無理をすると呪いが発動する前にジョジョの方が御陀仏になるわよ」

 

 

「グレート・・・よく見てんじゃねえかよ、先輩」

 

 

「当たり前でしょ。下僕の体調くらい管理できないようでは、ロズワール様のメイドは務まらないのよ」

 

 

「『下僕』言うなし。せめて『部下』とか『後輩』とか・・・もっとマイルドな言い方があるだろ」

 

 

「ハイハイ、あまり騒がないでちょうだい。魔獣達に気付かれてしまうわ」

 

 

「・・・それについてなんだが、もう手遅れみたいだぜ」

 

 

「?・・・何のこと」

 

 

 

グルルァアアアアアアッッッ!!! ガァアアウウウッッッ!!! ヴガァアアアアアアアッッ!!

 

 

 

「―――なっ!?」

 

 

「『クレイジーダイヤモンド』ぉおっっ!!」

『ドォオオオラララララララララララララララララララララララララァァアアアーーーーーーッッ!!!!』

 

 

 

 

 

飛びかかってきた数体の魔獣をクレイジーダイヤモンドでぶっ飛ばす。やはり、俺の身に纏う魔女の匂いがこいつらを引き寄せてしまっているらしい。

 

 

 

 

 

「大したものね。ジョジョの精霊は『なおす』能力専門だと聞いていたのだけど」

 

 

「『なおす』ことが出来るなら『壊す』ことだって出来らぁ―――しっかし・・・こいつら何体いやがるんだ?昨夜、森でぶちのめした分も合わせると100体ぐらいは潰してるはずなんだがよぉ~。一向に数が減っている気がしねえぜ」

 

 

「鬼化したレムが倒した数も合わせるとその倍以上は減っているはずよ。そんなことよりもラムは、どの個体もジョジョを見ると途端に冷静さを失うことの方が気になるわ―――ジョジョの奇妙な精霊に何か関係があるのかしらね」

 

 

「・・・さあな。なあ、さっきから気になっていたことを聞いてもいいか?」

 

 

「何かしら?」

 

 

「昨夜、レムさんが見せた・・・あの『鬼化』ってヤツ・・・ありゃあいったい何なんだ?戦闘力が跳ね上がっただけでなく人格まで変わっていたぞ」

 

 

 

 

 

そう。ずっと気になっていたことだ。あの状態になったレムさんは『人間』ではなかった。狂喜に身を委ねて戦いに身を投じて笑みを浮かべて虐殺していくあの姿は・・・完全に『鬼』そのものだった。

 

ラムは特に動じることもなく歩きながら答えてくれた。

 

 

 

 

 

「その名の通りよ。鬼のツノを発現させ『鬼』としての本能を呼び覚ました姿・・・それが『鬼化』よ」

 

 

「いや、理屈は何となくわかるがよ。じゃあ、お前ら双子は『鬼』の血を引く一族ってことかよ。痕に出てくる柏木家みてぇな」

 

 

「ええそう。もっと言えば、ラムもレムもかつて滅んだ『鬼族』の生き残りよ。もっともレムと違ってラムは『ツノナシ』だけど」

 

 

「『ツノナシ』?」

 

 

「鬼の癖にツノをなくした愚物に与えられる蔑称よ。ちょっとしたいざこざで一本しかなかったツノをなくしたのよ。以来、何でもレムを頼ることにしてるわ」

 

 

「・・・レムさんがあそこまでコンプレックスを感じているのもそのせいか」

 

 

「『こんぷれっくす』?」

 

 

「お前に対して異常なまでの劣等感や罪悪感を抱えちまってるってこと。自分のせいで尊敬している大好きな姉がツノを失ったとなれば・・・それも仕方のねえことだなと思ってよ」

 

 

「―――何でラムがツノを失ったのがレムのせいだと?」

 

 

 

 

 

ラムが目を細めて俺を睨み付けてくる。俺としたことが・・・ラムとレムさんのデリケートな過去に少し不躾に踏み込みすぎちまったぜ。

 

 

 

 

 

「すまん。少し無神経すぎたな・・・お前がツノを失うほどの事情ってなるとレムさんの為だったんじゃねえかと思ってよ。レムさんがあそこまでお前に対して献身的になるのもそうだとしたら納得がいく」

 

 

「・・・仕事は覚えないくせにこういうところは頭が回るのね。つくづく癇に障るわ」

 

 

「だから謝ってる。無神経なこと聞いて悪かった。コイツは・・・俺ごときが踏み入っていい話じゃかなかったぜ」

 

 

「別に気にしてないわ。ラムが勝手に話しただけよ。確かに当時は落ち込みもしたし、嘆き哀しんだこともあったけど・・・今はもう落ち着いてるわ。ツノを失くしたことで、得たものも拾えた命もある。そのあたりのことは天命のひとつだわ」

 

 

「・・・『天命』ね」

 

 

「レムは、そうは思っていないでしょうね」

 

 

 

 

 

ラムは『気にしていない』と言ったが、それは必ずしも本音ではないだろう。そう言って無理矢理にでも納得したふりをしておかなければレムさんがいつまでも引きずり続けるから・・・だから、過去を振り切って立ち直ったふりをしておかなくてはならなかったのだろう。

 

この姉妹の愛情は深すぎるあまりすれ違ってばかりだぜ。

 

 

 

 

 

 

「元来・・・鬼族は2本のツノを持っている。けれど、双子はそのツノを一本欠損して生まれてくるの。だから双子は忌み嫌われ生まれ直後に処分されるのが習わし―――でも、ラム達は生かされた」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「鬼のツノは周囲のマナを食らい尽くし戦闘力を高める器官・・・でも、無茶をすればその反動でボロボロに傷つく。そんなレムを見たくない」

 

 

「ああ。そこのところは俺も同じ気持ちだ」

 

 

「ラムがレムを助けたい理由は話したわ。今度はジョジョの理由を聞かせてもらえないかしら」

 

 

「・・・俺?」

 

 

「ジョジョはもう余命幾ばくもないわ。なのに何でそこまでしてレムのために戦うの?―――ジョジョをボロボロに痛めつけたレムのためにあなたがそこまでする理由がわからないわ・・・“同情”?・・・“憐憫”?・・・それとも陳腐な“正義感”?」

 

 

「バーロー。そんなんじゃねーよ」

 

 

 

 

 

改まって聞かれると回答に困る質問だ。俺の覚悟もそれに至った事情ってヤツも・・・とても一言で言い表せるようなものじゃあない。しかし、あえて言うなら・・・――――

 

 

 

 

 

「俺は・・・『許されたい』んだと思う。うん、俺は『許されたい』」

 

 

「・・・誰に?」

 

 

「さあな。でも、お前らを無事に未来に送り届けることが出来たら・・・少しは許してもらえるんじゃあねえかと思ってよ。これは俺の意地みたいなものだ」

 

 

「ラムにはとても理解できないわね・・・ジョジョのやろうとしていることは贖罪でも何でもない。ただの惨めで身勝手な『自己満足』よ」

 

 

「ああ。俺も・・・そう思うぜ」

 

 

 

 

 

でも、取り返しのつかない罪を償うチャンスが出来た。命を懸けるには十分すぎる理由だ。それで俺の犯した過去の過ちが消えてなくなるわけではないがよ。

 

 

 

 

 

「―――ホント・・・そういうところはレムとそっくりね」

 

 

「何だ?何か言ったか?」

 

 

「いえ。ジョジョのド低脳にラムもうんざりしていただけよ」

 

 

「ああ、そうかよ。『クサレ脳ミソ』じゃなかっただけましだと思っておくぜ」

 

 

 

 

 

しかし、このまま二人で森を散策していても埒が明かねえな。現時点だとラムの視界ジャック・・・『千里眼』ぐらいしかレムさんの居場所を特定する術がない。それすらも乱発できないし、近場にレムさんがいなければ結局無駄打ちを繰り返してラムの体力を消耗してしまう。

 

―――帰りのことを考えるとラムにこれ以上魔法を使わせるのは得策ではない・・・ってなると必然的にもう一つの作戦に出るしかないのだが。

 

 

 

 

 

「ジョジョ?そんなところで立ち止まってどうしたの?」

 

 

「いや、少しばかり賭けに出るかどうか悩んでてよぉ~。本来ならレムさんと合流した後に使うべき『奥の手』があるんだが・・・」

 

 

「だったら早く言いなさい。こうしている間にもレムは鬼化の負荷でどんどん傷ついてるのよ。何かレムと合流できる策があるなら今すぐ言いなさい」

 

 

「厳密には『言う』ことは出来ねえんだがよぉ~。やるにしてもこの状況だとグレートにリスキーなんだぜ。何せ、俺も文字通り心臓を握られ――――」

 

 

 

ズオッ ――――グァシィイイイイッッ!!!

 

 

 

「ぐっ!?・・・ガァアアアッ!!」

 

 

「ジョジョ!?」

 

 

 

 

 

俺の体感時間が制止して、謎の黒い手が俺の心臓を握りつぶしてくる。それと同時にさっきまで静まり返っていた森が一気に騒がしくなる。森中の生物が『魔女の匂い』に呼応して蠢き出したのだ。

 

 

 

 

 

「―――~~~~っっ、グレート・・・今のも判定アウトなのかよ。まだ心の準備が出来てねえっつーのによ」

 

 

「っ・・・何をしたの、ジョジョ!?―――風が乱れて・・・獣臭が近づいてくる。それも、すごい数っ!レムはまだ見つからないのに・・・っ」

 

 

「姉妹でどういう違いがあるかは知らんが・・・お前にはどうやら感知できないらしいな」

 

 

「何の話をしてるの・・・答えなさい、ジョジョ!」

 

 

 

 

 

森の木々から鳥が一斉に飛び立ち、獣の咆哮があっちこっちひしめき合ってる。そして、確実にこちらに近づいてきてる獣の足音。間違いなく森の野獣共は魔女の匂いを感知できてる。

 

レムさんとベア様も魔女の匂いを感知できてた。なのに姉であるラムには魔女の匂いがわからないらしい。ツノを失った影響か?

 

 

 

 

 

「『魔女の匂い』だ。俺の体からそいつが暴発しちまったらしい」

 

 

「っ・・・どうしてジョジョの体から魔女の匂いが!?」

 

 

「実のところ、俺にもよくわからねえんだ。王都に来る前の記憶がどうも曖昧でよぉ~・・・ただ最近になって知ったことなんだが、俺の体は魔女に呪われていてよ。その影響で俺の体からゲロ以下の匂いがプンプンするらしいぜ」

 

 

「それで森の獣が急に動き出したのね・・・でも、それとレムと何の関係があるの?」

 

 

「レムさんにはわかるのさ。俺の身に纏った忌まわしい魔女の悪臭がよぉ~―――だから、何れレムさんもこの場所に来るはずだ。俺を殺しによぉ」

 

 

 

 

 

鬼化してバーサクモードのレムさんなら『俺を殺しに』・・・理性のあるいつものレムさんなら『ラムを助けに』駆け付けてくるはず―――ただこの作戦の欠点は、レムさんが駆け付けるまでの間、どうにかして持ちこたえなくちゃあならねぇことだ。

 

この匂いで森の魔獣共は一斉に俺の方に向かってきてやがる。

 

―――本来ならこの囮作戦はラムとレムさんの二人を逃がすために使いたかったのだが、一度、発動してしまった以上は仕方がない。

 

 

 

 

 

「・・・いいか、ラム。これから魔獣が襲ってくるだろうけどお前は魔法を一切使うな。魔獣の殲滅は俺一人でやる」

 

 

「本気で言ってる?これだけの数をジョジョ一人で何とか出来ると思っているの?」

 

 

「地図もないこの状況じゃあ・・・ラムの千里眼だけが唯一の道標なんだぜ。マナを温存しとけ。レムさんがここに来るまでの間なんとか俺が持ちこたえる」

 

 

「確かにジョジョの精霊の力は認めるけど。肝心のジョジョは剣一本しかないのよ・・・そんな装備で大丈夫なの?」

 

 

「―――大丈夫だ、問題ない」

 

 

「何故だかわからないけど、そのセリフを聞くとすごく不安にるわ」

 

 

「ああ。我ながら余計なフラグを立てちまったと後悔しているところだ・・・来たぞっ!」

 

 

 

ガァアアウウウッッッ!!! グルルァアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

俺の匂いに釣られた魔獣共が俺目掛けて一直線に猛突進してくる。どうやら俺には感知できないが、この魔女の匂いってのは俺が思ってるよりも遥かに強力らしい。

 

こちらに向かってくるウルガルムの眼のギラつきようが尋常じゃあねえ。俺を食いたいだけでなく辱しめたがってる獰猛なケダモノと化している。

 

―――グレート・・・我ながら怖気が走る表現をしちまったぜ。

 

 

 

 

 

「―――『北●百裂拳』ッッ!!」

『ドォオオラララララララララララララララララララララララララララララララララァァアアアーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!!!

 

 

 

 

 

とりあえずクレイジーダイヤモンドのパワーであれば5、6体程度であれば難なく蹴散らせる。しかし、ここでは場所が悪い。もっと落ち着いて戦える場所に移動しなくちゃあよぉ~。

 

 

 

 

 

「ラム、この場所はまずい!ここだと四方から狙われちまう。もう少し戦いやすい場所に移動するぞ」

 

 

「魔獣を呼び寄せておいて、それ?ホント、ジョジョは行き当たりばったりね」

 

 

「魔女の匂いが暴発したのは計算外だぜ。とにかく移動するぞ!走れっ―――『クレイジーダイヤモンド』ぉおッッ!!」

 

┣゛ン…ッ!!

 

『ドォォオオオオラァァアアアアッッ!!!!』

 

「逃ぃぃいげるんだよぉぉおーーーーっっ!!」

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドで手近な樹をへし折って魔獣の群れに向かって投げつけ、怯んだ隙にラムと一緒に反対方向に逃げ出す。

 

 

 

 

 

「―――壁だっ!どこか背後に壁のある場所がいいっ!そこまであいつらを引き付けるんだ」

 

「自ら袋小路に追い込まれようって言うの!?」

 

「真っ正面から飛び掛かってくる敵ならクレイジーダイヤモンドで倒せる!だけど同時に複数方向から襲われたら手数が足りな――――っ・・・ラム、危ねぇ!?」

 

 

ガァアアウウウッッッ!!!

 

 

「・・・っ!?」

 

「―――ガトチュ☆エロス☆タイムッ!!」

 

 

ズグジャアアアアアア…ッッ!!!

 

 

 

 

 

ラムに襲いかかってきたウルガルムの眉間に破れかぶれで繰り出した俺のガトチュ☆が炸裂し、ウルガルムは瞬時に絶命した。

 

 

 

 

 

「あぶねぇ~・・・何とかなるもんだぜ」

 

「っ―――ジョジョ、後ろ!」

 

 

グルルァアアアアアッッ!!

 

 

『ドォォラァァアアアアッッ!!!!』

 

 

ドグシャァアアアアアッッ!!

 

 

「あ、あぶなかった・・・今のはマジで危なかった。自分の技に酔ってその後のことを忘れていた」

 

「ジョジョ、これ以上ウルガルムに噛みつかれてはダメよ!もしウルガルムに噛まれたら、何がなんでも殺しなさい。逃がせばそれだけ命が遠のく」

 

「わかってるってぇーのっ!」

 

 

 

 

 

ラムの声に反応するよりも早くクレイジーダイヤモンドが俺の背後に迫っていたウルガルムをぶっ潰した。やはり、この場に止まっていたら昨日と同じようにじり貧で追い詰められるだけだ。

 

 

 

 

 

ガサガサ、ガサガサガサ……ッッ!!

 

 

「ヤロウ・・・草むらの中を移動して先回りしてやがる。昨日と全く同じパターンだぜ。とにかく逃げろ、ラム!止まらずに走れ!ここで止まっていたら周囲を取り囲まれちまう――――っ・・・どうした?早く逃げろって!」

 

 

「っ・・・ジョジョ、この先はダメよっ!前を見て!」

 

 

 

 

 

逃げてる途中に引き返そうとするラムに俺は怒声を飛ばすが、ラムの視線の先を見て俺は状況を理解した。そこは完全に道が途切れていたのだ。

 

 

 

 

 

「な・・・何ぃっ!?が、『崖』かよ!」

 

 

 

 

 

―――断崖絶壁。

 

 

どこをどう走ってきたのかはわからないが、崖の高さは軽く見積もっても50メートル以上あるだろう。昔、体験したことのあるバンジージャンプなんかよりも遥かに高い。

 

まかり間違っても飛び降りるなんて愚行は犯せない。

 

 

 

 

 

「このまま真っ直ぐ行くとまずい!どっか曲がらねえと崖に突っ込む・・・ラム、右に曲がれ!そのまま崖沿いに逃げるんだ!」

 

 

「まさに行き当たりばったりっ!後で自分のしたことを客観的に振り替えって―――死にたくなりなさいっ!」

 

 

 

 

 

地図もわからない森の中を闇雲にひた走っているんだ。最善のルートなんて割り出せるはずがない。俺は後ろから迫ってきたウルガルム共をクレイジーダイヤモンドで牽制しつつ全力疾走でラムの曲がったところに続いて飛び込む。

 

 

 

 

 

「や・・・ヤベッ!?落ちるかもしんない!・・・いや、このアキラ君ならやれるっ!曲がりきれるっ!曲がってやるぅぅうーーーーーっ!!」

 

 

ガァアアウウウッッッ!!! グルルァアアアアアッッ!! ヴガァアアアアッッ!!

 

 

「っ・・・曲がれぇぇえええーーーっ!!」

『ドォオオラァァアアアーーーーーーーーッッ!!!!』

 

ガシィイイイ……ッッ!!

 

 

 

 

 

樹の枝にクレイジーダイヤモンドでしがみつきながら遠心力に対抗して、何とかギリギリで崖を曲がりきって茂みに飛び込むことが出来た。

 

しかし、俺の後を追ってきたウルガルム共は勢い余って崖下にそのまま転落していった。

 

 

 

 

 

「やったぜ!曲がったぜ!見たか、この根性!ザマァ見ろ!」

 

「ジョジョ、安心するのはまだ早いわっ!」

 

「な、何ぃいいいーーーっ!?こっち側も『崖』かよっ!」

 

 

 

 

 

ラムの先導で入った茂みはすぐに途切れており、再び崖に直面してしまった。これを回避するためには更に『右』の茂みに入るしかないが、既に森の中は魔獣だらけだ。

 

後方からは後を追跡してきた大量の魔獣の咆哮が聞こえてくる―――戻ることは出来ない。だったら!

 

 

 

 

 

「『クレイジーダイヤモンド』ォォオッッ!!!!」

 

┣゛ン……ッッ!!

 

『ドォオオラララララララララララララララララララララララララララララララララァァアアアーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ……ッッ!!!!

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドの拳が地面を『砕き』、瓦礫を『掘り起こし』・・・そして―――

 

 

 

 

 

「―――『なおす』っ!」

 

 

ギュウン……ッ スゥゥウウウウ――――ピタァァアッッ!

 

 

 

 

 

砕いた地面の破片が垂直に集まって俺とラムを守る即席の『壁』となった。後を追ってきていたウルガルムは目の前に突然現れた壁に減速なしに突っ込んで、鈍い音と室内犬のような叫びをあげて沈黙した。

 

 

 

 

 

「―――あぶねぇ・・・何とかなったぜ」

 

 

「ジョジョ、ウルガルムにやられたの!?血が出てるわよ!」

 

 

「あン?痛゛っ・・・~~~~っっ、枝が刺さっていやがったのか。一先ず、大丈夫だ・・・貫通しているが、そこまで大した怪我じゃねえ」

 

 

 

 

 

ラムに言われるまで気づかなかったが、俺の左肩の辺りに少し太めの枝が突き刺さっていた。おそらくさっき崖の手前で急カーブして茂みに飛び込んだときに刺さったのだろう。アドレナリンが出ていたせいで気がつかなかったぜ。

 

 

 

 

 

「怪我は大したことない。しかし、このヘビーな状況・・・どうやって抜け出せばいいんだ。前方の崖・・・後方の魔獣。果たしてレムさんの援軍を期待していいものか」

 

「文字通りラム達は今『崖っぷち』に立たされているわ。ジョジョ、ここから先は何か考えがあるの?」

 

「あるにはあるんだがよぉ~。それをやったらお前怒るし」

 

「ここまで来たら無茶も無謀も今更よ。何か作戦があるのなら早く教えなさい。このジョジョが作った『壁』も長くは持たないわよ」

 

 

カリカリ……ッ ガリガリ、ガリガリ……ッ

 

 

 

 

 

どうやら壁の向こうではウルガルム共がこの壁をよじ登ろうとしているらしい。爪で壁を引っ掻いているのが音でわかる。

 

 

 

 

 

「お前の言う通りだぜ、ラム。今は多少のリスクを恐れてる場合じゃない・・・行くぜ」

 

「――――っ・・・待ちなさい、ジョジョ!」

 

「っとと!・・・何だよ、いきなりどうした?」

 

「しっ・・・黙りなさい」

 

 

 

 

 

ラムが人差し指を自分の口に当て、よくよく耳を澄ませて聞いてみるとウルガルムの爪の音ではない何か別の金属音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

ジャラ、ジャララララララ……ッッ

 

 

 

「こ、この音はまさか・・・っ!」

 

「―――『千里眼』・・・開眼っ!」

 

 

 

 

 

孤立無援の状態だったが、思わぬ援軍が来てくれたことに俺も思わず笑みが浮かぶ。さんざんトラウマとなっていたあの独特の金属音を聞き間違えるはずがない。

 

 

 

 

 

「レムさんだ!間に合ったぜ・・・レムさんがここまで来てくれたんだぜ。レムさんと力を合わせりゃあこの最悪な状況を脱出でき・・・――――」

 

「――――っ!?・・・ジョジョ!伏せてっ!」

 

「あン?」

 

 

 

ズゴシャァアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「ぐぅおおぁぁああああっっ!?」

 

 

 

 

 

レムさんが来てくれたことに安心した直後のことだった。俺とラムを守っていた壁が粉砕され、その衝撃で俺とラムの体が崖下に放り出されてしまった。

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・ラム、掴まれっ!!」

 

「―――っ!」

 

 

ガシッ

 

 

「くっそぉおおおお!止まれぇぇえええええーーーーッッ!!」

『ドォォオラァァアアアアッッ!!!!』

 

 

ズガァアッ!! ガガガガガガガガガガ……ッッ!!

 

 

 

 

 

空中でラムの腕を掴んで引き寄せて持っていた剣を岩肌に突き立ててブレーキをかける。剣は岩肌を削り、程よく減速して来たところを見計らって捩じ込むように剣を突き立てることで何とか止まることが出来た。

 

しかし、ラムを抱えて片手で剣にぶら下がっているこの状態では身動きがとれない。下を見下ろすとあまりの高さに目眩を起こしそうだぜ。

 

 

 

 

 

「~~~~っ・・・と、止まった。つーか、今、何が起こったんだ?」

 

「鬼化したレムの仕業よ」

 

「レムさんの?・・・アホ抜かせ。レムさんがいきなりあんなことするかよっ!」

 

「それを説明してる暇はないわ。ここから落ちたら流石に二人とも助からないわよ。ジョジョ、登れる?」

 

「そうしたいのは山々なんだがよぉ~」

 

 

 

 

 

既に突き刺した剣がミシミシ悲鳴をあげている。こんな細い剣では二人分の体重を支えられそうにない。

 

 

 

 

 

バキンッ!!!

 

 

「だぁあああっ!?くそ・・・やっぱ折れた!!」

 

「っ――――『エル・フー・・・!」

 

「待て、ラム!魔法は使うな!ここは俺が何とかする――――『クレイジーダイヤモンド』ッッ!!」

『ドォオオラァァアアアアッッ!!!!』

 

 

ボゴォオオオオオオオ……ッッ!!!! ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ……ッッ!!

 

 

 

 

 

折れた剣の代わりにクレイジーダイヤモンドの拳を岩肌に突き立てて減速しようとするが・・・角度が悪いのか、岩肌が崩れやすいせいか減速はしているが、止まれそうにない。このスピードで地面に激突するわけにはいかない―――だったら・・・っ!

 

落下の恐怖に耐えながら目を凝らして地面までの距離を見計らう。近すぎても遠すぎてもダメだ。“ギリギリ”でなくてはならない。

 

 

 

 

 

「っ―――ここだッ!」

 

『ドォォラァァアアアアッッ!!!』

 

 

バグォオオオオンッッ!!

 

 

 

 

 

眼前に地面が迫ってきた頃合いを見計らってクレイジーダイヤモンドで壁を殴りつけて垂直方向への落下から勢いを横向きにいなす。

 

 

 

 

 

ドグシァアアアアア……ッ!! ズザザザザァァアアーーーーーーーーッッ!!

 

「くぉおおおおおおおおおおおお……っっ!!」

 

 

 

 

 

ラムを胸に抱き締めてクレイジーダイヤモンドで防御体勢をとって地面を横滑りすることで何とか落下の衝撃を分散させることが出来た。

 

何とか五体満足で着地することは出来たが、お陰で背中を思いっきり削っちまったぜ。

 

 

 

 

 

ヨロ……ッ

 

「~~~~っ、いってぇぇ・・・やっぱ、承太郎さんみてぇには・・・うまく、いかねえか・・・ジョジョシリーズ最強の主人公だもんな」

 

「ジョジョ、無事に降りられたことを誉めてあげたいところだけど・・・そうもいかなくなったわ。ラム達のいる状況はどんどん悪くなっている」

 

「な、なに・・・――――げっ!?」

 

 

 

 

 

ラムに言われて周囲を見回してみるとそこにはウルガルムの群れが既に待ち構えていた。崖の上であれだけの数に襲われた直後だってのに・・・完全に待ち構えられていた感じだぜ、こりゃあ。

 

 

 

 

 

『―――ヴヴヴヴ……ッッ』

 

 

 

「グレート・・・あいつ、まだ目を潰されたこと寝に持っていやがる」

 

 

 

 

 

群れの後方に位置する高台の上からこちらを睨み付けている隻眼の仔犬を発見した。紛れもなく俺が釘の弾丸で右目を潰したあの時の仔犬だ。

 

―――あいつの魔法攻撃は正直厄介だ。しかも、こっちはあの時と違って飛び道具《釘弾》のストックがない。まともにやりあっていたら勝ち目はないぜ。

 

 

 

 

 

「ジョジョ、次はどうするの?」

 

「どうするも何も・・・俺の十八番『逃げる』しか手がない。今、あいつとやりあっていても勝ち目がないんだぜ」

 

「“そっち”じゃないわ―――レムと合流出来たから、どうするか聞いているのよ」

 

「・・・え?」

 

 

 

―――ドシャァアア……ッ!! グチャアアア……ッッ! ドチャァアア…ッッ!!

 

 

 

「うおおおおおっ!空から『汚い花火』が降ってきた!?何だ、このバイオハザードみてぇな状況は!?」

 

 

 

 

 

ラムの言葉に上を見上げてみると無惨にひしゃげたウルガルムの死体が崖の上から降ってきてトマトのように血肉を撒き散らし―――そして、その後を追従するように・・・小柄な人影が崖から飛び降りてきた。

 

 

 

 

 

「―――親方っ!空から女の子がっ!」

 

「誰が『親方』よ。レムが来てくれたのよっ」

 

 

 

ヒュゥゥオ……ッッ  ――――シュタッ ドゴシャァアアアア……ッッ!!

 

 

 

「す、すげぇ・・・あの高さから平然と着地しやがった」

 

 

 

 

 

空中で軽やかに宙返りをしながらその人影は静かに地面に降り立ち、それに追従して彼女の愛用する凶器《モーニングスター》が重々しく地面に落下しめり込んだ。

 

しかし、白と黒を基調としたロズワール邸のメイド服とラムと対をなす淡い青い髪。その額に白いツノを生やしてはいるが、間違いなくレムさんだ。見たところ負傷しているが大した怪我はしていない。

 

そして、どうでもいいことだが・・・彼女があんな高いところから降りてきたせいでスカートの中の白い何かが――――

 

 

 

 

 

ギリギリギリギリ……ッッ

 

「いひゃい!いひゃい!いひゃい!はにふんは、ラムっ!?」

 

「不埒なこと考えてないで真面目に状況を見なさい!言ったでしょ。『状況が悪くなってる』って!」

 

「いててて・・・レムさんが無事だったんだぜ。少しは喜んだっていいだろ―――レムさん、こっち来てくれ!すぐにその怪我を治してやるぜ」

 

 

 

ジャララララララ……ッ

 

「――――――。」

 

 

 

「?・・・レムさん?」

 

 

 

「―――――っ♪」

 

 

 

「あ・・・ヤベッ」

 

 

 

 

 

レムさんと目があった瞬間に気づいた。今のレムさんの目には俺のことが見えていないと。俺は反射的にラムを抱き抱えて地面に転がった。

 

 

 

 

 

ジャララララララ……ッッ ドゴシャァアアアアアアアッッ!!

 

 

「ぬぉおおおおおおっ!?来たぁーーーーっ!?」

 

 

 

「―――ハナセ」

 

 

 

「レムさん!?俺に対する恨みは後でいくらでも聞くし!何なら指だって詰めるし、確定申告だってやるからよぉ~!せめてこの森抜けた後にしてもらえねぇか!こんなことしなくてもどの道、俺は死ぬんだからよぉ~っ!」

 

 

 

「―――姉様ヲ・・・ハナセ」

 

 

 

「おおっ、姉様!そうだよ、こっちには対レムさん最強の切り札がいたんだよ――――って・・・ヲイ、何でお前、俺の背中に隠れてんの、ねえ?感動の姉妹の再会のはずが、何で俺楯にされてんの?」

 

 

 

「―――姉様カラ・・・ハナレロ!」

 

 

ジャララララララ……ッッ ズゴシャァアアアアアアアッッ!!

 

 

「グゥゥウレイトォオオッッ!!」

 

 

 

 

 

再び投げつけられてきた鉄球をラムを担いだままどうにか回避する。昔懐かしコーンフロスティーのマスコットキャラみたいな叫び声をあげてしまったぜ。

 

 

 

 

 

「っ―――どうなってんだよ、これ!?あれじゃあバーサクモードどころか『バーサーカー』そのものだよ!話し合いの余地が毛ほども残されてねぇよ!あのまま第四次聖杯戦争に出張しても遜色ねぇぞ、オイッ!」

 

「どうやらあまりにも長時間鬼化していたせいで制御が効かなくなってしまったようね。完全に鬼としての本能に呑み込まれているわ」

 

「いや『鬼化』どころか『狂化』しちゃってますよね、アレ!?雁夜おじさんも裸足で逃げ出す恐ろしさだよ!サディスティックイリヤたんも涙目なド迫力だよ!」

 

 

 

 

 

レムさんが理性を失って本能のままに戦っていることはわかった。しかし、その戦闘力がぶっとんでる上、敵味方の区別がつかなくなってる状態じゃあ却って状況が混乱する一方だ。

 

 

 

 

 

ガルルルルッッ!! ヴガァアアアアッッ!! ガゥウウウウウウッッ!!

 

 

「―――~~~~っっ・・・アアアああ嗚呼嗚呼ーーーーーっっ!!!」

 

ズゴシャァアアアアアアア……ッッ!!! ドチャァアアッッ!! ズグシャァアアアアアア……ッッ!!

 

 

「―――っ・・・グレート。地獄絵図だぜ、こりゃあ」

 

 

 

 

 

しかし、バーサーカーと化したレムさん相手にウルガルム達は無謀にも飛びかかっていき容赦なく撃墜されていく。鉄球に叩き潰され、レムさんに蹴られ、殴られ、踏みつけられ・・・次々と撃破されていく。

 

―――勝ち目がないとわかってるのに・・・何故、あそこまで挑むんだ?野性動物なら引き際ぐらい弁えてるはずだろうに。

 

 

 

 

『―――ヴヴヴヴヴ……ッッ!!』

 

ギュヴンッ!!

 

 

 

「っ!?・・・あいつ、また何か仕掛けて―――っ」

 

 

 

 

 

遠巻きに眺めていたあの隻眼の仔犬が妖しく目を光らせ、何か魔法を発動したことが雰囲気で伝わる―――その次の瞬間、戦ってるレムさんの足元の地面が不自然に陥没した。

 

 

 

 

 

ボゴォォンッ!!

 

 

「―――っ!?」

 

 

ヴガァアアアアッッ!! ―――ガァブゥウウウウウッッ!!!

 

 

「ア、がぁアッッ!?―――~~~~っっ・・・オオオオおおおおオオッッ!!」

 

 

ゴキィイイイ……ッ ゴシャアアアッ!!

 

 

 

 

 

足元が陥没してふらついたところをウルガルムが数体飛びかかりレムさんに噛みついた。レムさんはほんの一瞬痛みに顔をしかめたものの直ぐ様体勢を立て直し、ウルガルムの顎を外して顔面を殴り潰した。

 

昨夜と全く同じだ。あの群れを統率している仔犬がウルガルムに指示を出しつつ的確に魔法で相手の動きを封じてじわじわと獲物を確実に弱らせていく。

 

―――やはり、昨日の内にヤツを仕留められなかったのは致命的なミスだったぜ。

 

 

 

 

 

「ジョジョ!レムを早く・・・」

 

「わかってる。わかってはいるが―――っ!!」

 

 

ガァアアアアアッッ!! ヴガァアアアアッッ!! グァルルルルッッ!!

 

 

『ドォオオラララララララララララララララララララララララララララララララララァァアアアーーーーーーーーッッ!!!!』

 

「・・・こっちも手が離せないっ!!」

 

 

 

 

 

あの統率している仔犬をどうにかしなくちゃこの魔獣共はどこまでも追っかけてくる。いや、魔獣よりも今はレムさんをどうにか静める方が優先か。鬼化《バーサク》状態のままじゃあ連れて帰るなんてこと出来っこねえし。

 

 

 

 

 

「ラム!レムさんを正気に戻す方法は!?」

 

「“ツノ”よ。レムを鬼たらしめているのは、あのツノだから・・・一発、強烈なのを叩き込めば・・・それで、戻ってくる―――はず・・・きっと・・・だといいと思うわ」

 

「本当に大丈夫か、オイ!最悪失敗したら死に至るなんてことねえよな!?」

 

「それは大丈夫よ。最悪の場合、レムもラムと同じツノナシになるだけだから・・・心配しないで」

 

「重いよっ!!」

 

 

 

 

 

このグレートにヘビーな状況でさらっとプレッシャーをかけてきやがって・・・だが、レムさんを助けるためにも無茶でも何でもやるしかないぜ。

 

この状況で俺に残された手札は・・・『折れた剣』『体に食い込んだ枝』『魔女の匂い』『クレイジーダイヤモンド』そして『魔法の使えないラム』。

 

―――まったく・・・こっちは飛車角落ちでやってるような気分だぜ。

 

 

 

 

 

「・・・ジョジョ?」

 

「―――・・・作戦は決まった。真の覚悟はここからだ。ラム!お前も腹をくくれっ!」

 

『ドォォオオオオラァァアアアアッッ!!!』

 

 

バゴムッッ!! ―――スゥゥウウウゥ…… ガキィイイィッッ!!

 

 

 

 

 

地面を砕いて直して『石のナイフ』を10丁程組み立てる。厄介なのは、群れを統率している『魔法を使える仔犬』とレムさんが振り回しているあの武器《モーニングスター》だ―――まずはこの二つをどうにかする。

 

 

 

 

 

「挨拶代わりだ・・・受けとれっ!」

 

『ドォォオオオオラァァアアアアッッ!!!』

 

 

ドォバァァッッ!!!

 

 

『―――ッ……ヴヴヴヴヴヴッッ!』

 

ギュヴンッ!! ―――ゴバァアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドが両手に持ったナイフを高台に立っている仔犬目掛けて投げつける。仔犬はその場から一歩も動くことなく魔法を発動させて自分の目の前に土の壁を作って難なく防いだ。

 

 

―――これでほんのわずかな時間だが、仔犬の視界が遮られ魔法による妨害を封じることが出来る。

 

 

 

 

 

「よしっ!お次は―――っ!」

 

『ドォォオラァァアアアアッッ!!!』

 

 

バシュゥッッ!! バシュゥッッ!!

 

 

「―――っ!?」

 

ガギンガキンッッ!!

 

「・・・嗚呼アアアあああ嗚呼嗚呼ーーーーーっっ!!!」

 

 

 

 

 

魔獣共を潰すのに夢中になっているレムさんに残った二本のナイフを軽めに投げつけてこちらに注意を向ける。案の定、レムさんは飛んできたナイフを足技で難なく叩き落とすと鉄球を振り回してこちらに投げつけて反撃してきた。

 

 

―――狙い通りだぜっ。まるでヨーヨーや鞭のように変幻自在に振り回されてる鉄球だが、軌道さえ読めれば・・・。

 

 

 

 

 

『―――ドォォオオオオラァァアアアアッッ!!!』

 

 

バギィイイイイイインッッ!!

 

 

「鎖を切ることくらい造作もないぜ!」

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドの手刀で鉄球を繋いでいた鎖を断ち切る。これで厄介なレムさんの中距離武器《モーニングスター》は封じた。

 

 

―――そして、ここからが本当の勝負だぜ。

 

 

俺は両手で刃折れの剣の『柄』と『刃の鍔本』を握り混んであえて右手を出血させる―――畜生っ・・・思ったより痛え!カッコつけすぎたかな。

 

 

 

 

 

「―――ラム!俺に捕まれ!」

 

「何するつもり!?」

 

「いいから!しっかり掴まっていろ!振り落とされるなよ――――何せ、俺は死に戻・・・ッッ!!」

 

 

 

ズグンッッ ―――グァシィイイイイイッッ!!

 

 

 

「ガハッッ・・・えほっ!げほっ!!ウェホッッ!!」

 

 

 

「―――オオオオおおおお嗚呼嗚呼アアアあああーーーーーッッ!!!」

 

 

―――ガァアアアアアッッ!! グルァアアアアアアッッ!! ウガァアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

『死に戻り』を暴露しようとした瞬間、黒い手が現れて俺の心臓を握り潰そうとする。その瞬間、『魔女の匂い』が吹き出してレムさんもウルガルムも一直線に俺の方へと向かってくる。

 

そして、ギリギリまで引き付けたところで・・・

 

 

 

 

「―――『なおす』っ!」

 

ズギュゥウウウウウン……ッッ ―――フワッ!

 

 

 

 

 

狂気の咆哮をあげて襲い掛かってくるレムさんとウルガルムの攻撃をすんでのところでかわし。俺とラムの体は『折れた剣』を『なおした』ことでエレベーターのように崖の中腹まで引っ張りあげられた。

 

 

 

 

 

「―――よし・・・ここまではどうにか作戦通り」

 

「『作戦』?・・・これのどこが作戦だというの?ラム達は却って追い詰められてしまったわよ。この崖を登れるの!?」

 

「『登る』・・・その考えなら逆だぜ!全員無事生き残ってこの森を脱出したかったら――――この崖をブッ壊す!!」

 

┣゛ンッッ!!

 

『ドォオオラララララララララララララララララララララララララララララララララッッ、ドォラァァアアアアーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッ  ┣゛……ッッッゴォオオオオオオオオンッッ!!!!

 

 

 

 

 

岸壁に刺さった剣にぶら下がったままクレイジーダイヤモンドが岸壁にラッシュを叩き込む。頑丈な岩肌に徐々に皹が入り、最後に渾身の力を込めた一撃を叩き込む。

 

拳を打ち込んだ箇所から一気に巨大な皹が岸壁全体に拡散し、岩盤が崩落し始めた。勿論、剣を刺してぶら下がっていた俺とラムも落ちることとなるが。

 

このまま狙い通り、この巨大な岩山が落ちればかなりの数の魔獣を殲滅できる―――俺の身に纏う『魔女の匂い』に本能のまま引き寄せられたバカな獣共をよぉ~っ!

 

 

 

 

 

「これぞ十条旭の『いわなだれ』!こうかはばつぐんだっ!」

 

「っ・・・ジョジョ、ラム達を見ている視界があるわ!」

 

「・・・どこだっ!?」

 

「“そこ”っ!」

 

 

 

ブワッ!

 

 

 

「――――――。」

 

 

「なん・・・だと!?」

 

 

 

 

 

俺の背後から砂煙を掻き分けてレムさんが飛び出してきた。どうやら、崩落する岩の瓦礫を足場にしてここまで登ってきたらしい。

 

 

 

 

 

「ラム!キミにきめたっ!」

 

「・・・は?」

 

 

ガッ! ブゥウンッッ!!

 

 

「―――活躍してこいっ!!」

 

 

 

 

 

ラムの意思を無視して俺は自分の体にしがみついていたラムを引き剥がしてレムさんに投げつける。流石の鬼化したレムさんも無防備に突っ込んでくる姉の姿を見た瞬間、わずかに表情が和らぎ腕を伸ばして空中で姉を優しく受け止めた。

 

―――これでレムさんは両手が塞がれ、完全にツノのガードがなくなった。

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおっっ!―――『ドォォオオオオラァァアアアアッッ!!!』」

 

 

ビジャアァァアアア……ッッ!!!!

 

 

「―――っ?」

 

 

 

 

 

俺の右手から流れる血をクレイジーダイヤモンドの圧倒的なパワーで飛ばして水圧カッターのように射出する。放たれた血のナイフは一直線に横を向いているレムさんの額へと飛んでいき。

 

 

 

ズカァア……ッッ!!

 

 

 

レムさんのツノを切断した。

 

 

 

 

 

 

 

 





『第二章長すぎじゃね?』と思われてる方・・・本当に申し訳ありません。作者の力不足を痛感しております。

三章はもう少しマイルドに出来たらいいのですが・・・たぶん無理でしょうね。

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