おひさしぶりです!長らく更新に間が空いてしまって申し訳ありませんでした。最近はなかなか執筆の時間がとれない状況が続いております。
そして、感想をくださった『外川』様にはこの場を借りて改めてお礼を言わせていただきます。この作品も気づけば30話近くなってきました。そろそろ外伝や番外編みたいなのも書けたらいいなと思っております。
レムは何て愚かなことをしてしまったのだろう。
あの時、レムが・・・アキラくんのことを信じてさえいれば―――
差し出されたアキラくんの手をレムが拒絶したりしなければ―――
こんなことにはならなかったのに。
「―――『助からない』って、どういうことですか・・・ベアトリス様なら解呪くらい簡単に・・・」
「・・・・・・。」
ベッドの中で穏やかに眠るアキラくんを見ているととても信じられない。確かに夕べ魔獣との戦闘で受けたケガは重傷だった。けれど、レムとエミリア様とベアトリス様の3人で治癒魔法をかけたことでアキラくんのケガは完全に治すことが出来たはず。
アキラくんは誰よりも頑張っていた。たった一度・・・たった一日顔を会わせただけの赤の他人のために・・・命の危険を省みず、自分の全てを捨てる覚悟で奔走した。
彼のお陰で子供たちは助かったんだ。彼がいなかったらこの村も魔獣の襲撃を受けていたかもしれない―――そんなアキラくんにレムも助けてもらった。
―――なのに・・・その彼が『助からない』なんてことが、あっていいはずがないっ!
「何か対価が必要だというのであれば・・・何なりとレムに仰ってくださいっ!レムに払えるものであれば何でもご用意いたします」
「お前から何かもらったところでベティの答えは変わらないかしら―――『助けるのは不可能』とベティは言っているのよ。それは、にーちゃでも・・・ロズワールでも・・・この世界に現存する魔術師全員に聞いたところで答えは変わらないのよ」
「だってっ・・・アキラくんは・・・アキラくんは―――っ!!」
ベアトリス様が下した余命宣告に納得できなかった。だって・・・アキラくんはこの屋敷に来てからレムのせいでさんざん苦しんできた。レムがアキラくんを傷つけてきたから。
一度目は、レムの身勝手な感情を全て受け止めるために。怒り狂うレムの私刑を受け止めるべく、アキラくんはレムのためにその身を差し出し、瀕死の重傷を負って・・・それでもアキラくんはレムのために笑ってくれた――――レムの心の苦しみを和らげる・・・ただそれだけのためにレムの暴挙を受け止めてくれた。
そして、今度は、アキラくんの優しさを拒絶したレムのために身代わりになった。戦って傷ついたレムのケガを治そうと手を差しのべてくれたアキラくんを・・・レムが拒んだ。そのせいでアキラくんは暴走したレムを守るために魔獣に喰い殺されそうになった――――あと一歩遅ければ本当に死んでいたかもしれないのに・・・アキラくんは最後までレムを守ってくれた。
レムのせいでこんなにも苦しんできたのに・・・レムはアキラくんを傷つけるだけじゃなく。あろうことか彼の命までも奪おうとしている―――そんなことあってはならないっ。
「助ける方法は・・・助ける方法は他にないんですか?」
「・・・それを聞いてどうするつもりかしら?」
「もう嫌なんです。レムのせいで誰かが傷つくのは・・・レムのために犠牲になろうとしているアキラくんを放っておくことなんて出来ません」
「・・・・・・。」
自分でも『何を今更』と思う。アキラくんを魔女教徒だと決めつけてさんざん痛め付けたのは他でもないレムなのだから。
でも―――
『――――――待ってろ、レムさん!今、なおしてやっからな!』
出来ることなら、アキラくんの優しさを信じてみたい。
『――――――グレートだぜ、レムさん』
アキラくんがどこからやって来て、どうしてレムのためにあそこまで尽くしてくれたのかを聞かせて欲しい。
『――――――許せ、レムさん。これで最後だ』
アキラくんを傷つけたレムを―――赦してもらいたい。もう一度、アキラくんの本当の気持ちに触れたい。
ベアトリス様はしばし黙考した後、重々しい口調でレムに唯一アキラくんを助けられる方法を教えてくれた。
「さっきも言った通り、呪いの解呪はベティはおろか他の誰にも出来ないかしら。だけど、呪いが発動する前に術師さえ死ねば・・・或いは呪いの効果がなくなり助かるかもしれないのよ」
「呪いをかけた術者さえ殺せば・・・」
「そいつを助ける方法があるとすればそれだけかしら。あとはお前の好きにするがいいのよ」
アキラくんに呪いをかけた魔獣は無数にいる。いいえ、こうなってしまったからには『数』なんか関係ない。アキラくんに呪いをかけた個体がどれかなんて見分けられるはずもないのだから。
―――レムのために傷ついたアキラくんに・・・レムがしてあげられることは・・・一つだけ。
「――――――必ず助けます」
・
・
・
・
・
『――― ・・・ でっ ・・ないでっ 死なないでっ!』
「―――・・・れむ、さん?」
暗闇の中、レムさんが心配そうな声で何度も何度も俺に呼び掛けてきた。死を覚悟していたつもりだったが、どうやら俺はどうにか命を拾ってしまったらしい。
正直、今、目を覚ましたところで俺を取り巻く絶望的な状況は変わっていないんだろうという漠然とした予感はしていたが。
目を覚ますことを拒否する俺の意思とは裏腹にレムさんの呼び掛けに応じるように混濁した闇の中に沈んでいた意識が浮上する。
「―――んっ・・・んん?・・・知らない天井だ。いや、マジで」
目を覚ました時に最初に目についた木造の天井は明らかにロズワール邸のものではない。どうやら、ここはアーラム村の住人の家で・・・俺はそこに運び込まれて治療を受けていたらしい。
ズキッ!
「―――痛っ!~~~~っ・・・ひっでぇ有り様。我ながらボロ雑巾みたいになってんぜ」
袖を捲って見ると腕の傷こそ治療を受けていたが、痛々しい治療痕が多数残っていた。シャツの下もひどい。縫い合わせたような痕と噛みつかれた痕が無数に残っていた。おそらくズボンの下も同じような惨状だろう。
―――これじゃあ文字通り継ぎ接ぎだらけの『ボロ雑巾』だぜ。
「グレート・・・この分だと顔も継ぎ接ぎだらけかぁ~?だとしたらこのルグニカで新生ブラックジャックを目指すっきゃねえな」
ぴょこっ!
「その心配はないよ。顔にはほとんど傷がなかったし、時間が経てば全身の傷痕も綺麗になくなるだろうからね」
「パック!?―――・・・ここにパックがいるってぇことは」
「スゥ・・・スゥ・・・」
「―――・・・エミリア、来てくれてたのか」
エミリアはベッド脇にある椅子に腰かけたまま器用に転た寝をしていた。多分、俺のケガの治療に尽力してくれてたんだろう。
正直、嬉しいやら腹が立つやら複雑な気分だ。エミリアに危害が及ばないように立場を押して村に駆けつけたっつーのに・・・こうして当の本人がここに来ちまったら、俺の覚悟や決意は何のためのものだったのかわかんなくなっちまうぜ。
「―――すまねえな。王選で大変だって時によ。また借りが出来ちまったな」
「感謝して欲しくはあるけど・・・借りだなんて思わなくていいと思うよ。アキラが何のために戦ったのかそれはリアだってちゃんとわかってるはずだから」
「少なくとも今回は『エミリアのため』ってわけじゃあねえんだがな」
「リアのためでなくても誰かのために戦ったアキラの行動は充分に称賛に値するよ。リアもきっと同じこと言うよ。それにリアだってアキラと同じ立場だったらきっとアキラと同じように行動しただろうしね」
「・・・そうだな。エミリアはそういうヤツだよ」
見かけは清楚で美人なエルフのお嬢様だってのに・・・子供っぽい純真さと青臭い正義感。同じ行動を取ったとしても俺の動機とエミリアのそれは大きく異なっていたことだろうぜ。
「体の調子はどうだい?スレッドで噛みちぎられたパーツは繋ぎ合わせたけど」
「また俺の聞いたことのない単語が出てきたな。それって『縫合』の処置だろ?俺の体はそこまでヤバかったのかよ」
「ヤバイなんてもんじゃないよっ!体内のマナだけじゃあどうしようもないくらいだったから、繋ぎ合わせるだけでも道具に頼らなきゃならなかったのさ。それがなきゃ今頃、きっとバラバラだよ!」
「・・・グレート」
「因みに出血がひどかったから傷口凍らせながらやったところが多いんだけど・・・それは我慢してね♪」
「―――って、お前がやったのかよっ!?猫の妖精が裁縫しているって言えば聞こえはファンシーだけど。手術の現場を想像するとえげつねえ絵面になってんぞ!」
俺の命はこの猫神パックのおかげで『繋ぎ止められた』ってことかよ。これまた何とも皮肉なことだぜ。
「―――って、そんなこと言ってる場合じゃなかった!あのガキ共は!?レムさんはちゃんと無事なのかよ、オイッ!?」
「一番の重傷患者が他人の心配をするって言うのもおかしな話だね―――心配しないで。アキラのおかげで子供達はもちろん。あの青髪のメイドの子も大丈夫。あのメイドの子に至ってはかすり傷一つなかったよ」
「『呪い』は・・・呪いはどうなったんだ!?」
「それも安心。回復魔法で衰弱もだいぶ抑えられてたし、解呪もうまくいったから問題ない。子どもたちの呪いは確かに解呪したよ」
「そっか・・・――――よかった」
レムさんを無事に村に帰すことが出来た。ペトラとの約束も無事に果たせた―――今度こそ守り抜くことが出来たんだ。全員を無事に未来に送り出すことがよぉ~。
「それにしてもアキラもよくやるよ。リアの時もそうだったけど会ったばかりの他人のために命を懸けすぎじゃない?ただでさえ人間の寿命は短いんだから命はもっと大事にしないとね」
「生憎・・・『命はもっと粗末に扱うべき』って賭博黙示録に書いてあったぜ。さんざん死線を潜ってきた俺の命にそんな価値があるかはわからねえがよ~」
この世界に来て死んだ回数は数知れず。これだけ死に戻っても正しい道が見えては来ない。そんな俺の命にどんな意味があるって言うんだ?―――いや、そもそもこの『死に戻り《デスルーラ》』の能力こそが全ての謎を握っている・・・そんな気がしてならない。
「パック。少し手伝ってくれ。エミリアをベッドに寝かしつけてやりてえ」
「もう寝てなくて大丈夫なのかい?」
「美少女に寝顔を見つめられてたんじゃあオチオチ眠れやしねえ。俺の治療のために無理させちまったんだ。今はゆっくり寝かせてやろうぜ。目を覚ました時に俺がいるとまた文句を言われそうだしよ~」
「・・・うんっ。そうだね――――ところで、アキラ」
「ん?何だよ?」
「あっ・・・うん」
俺がエミリアを抱き抱えてベッドに移そうとしたときにパックが何かを言いかけて言うのをやめた。あのパックが言葉に詰まるなんて珍しいこともあるもんだ。
「いや・・・あとでベティにも会ってあげてよ。ああ見えてベティも君のことを心配してたからさ」
「ベア様が俺の心配ぃ~?・・・そんな好感度上げた覚えはねえけどな。寧ろ、『何でベティがこんなヤツのために』とか愚痴ってる姿が容易に想像つくぜ」
「それでも君の治療を手伝ってくれるのがベティのいいところだよ。何なら、子供達の様子も見てきなよっ!親御さん達も是非君にお礼がしたいんだってさ」
「・・・そういうのはガラじゃあねえから遠慮願いたいぜ。けどまあ、腹も減ったことだし少し外出て様子を見てくるわ」
「うんっ!ついでにリアにも何か朝御飯を用意してあげてくれると嬉しいな。きっと目を覚ました時にはお腹空かせてるだろうからね」
「やれやれ・・・病み上がりの人間をこき使ってくれるぜ」
パックは人懐っこく見えて、その実、エミリア絶対至上主義だからな。精霊の契約ってのがどんなものかは知らねえが・・・何かエミリアにたいして尋常ならざる思い入れが見え隠れしてるぜ。
何か隠し事をしているだろうパックの態度が少し気になったが、俺は一先ずリハビリも兼ねて村の様子を確認しに外へと向かった。
村は早朝だってのに騒然としていた。そりゃそうか・・・結果的に全員無事だったとは言え、下手をしたら村人全員全滅なんて事態も考えられたからな。そう易々と警戒を解けるはずもない。増してや『呪い』という目に見えない驚異にさらされていたことにずっと気づけなかったんだからな。
「やれやれ・・・コイツは顔を出すのはまだ後にした方がいいな」
「―――待て待て待て!どこ行こうってんだよ?この村の救世主様がよ」
「なっ・・・お前は!?――――『チョ☆チョニッシーナマッソコぶれッシュ☆エスボ☆グリバンバーベーコンさん 』っ!!」
「違えよっ!?誰だよ、『チョ☆チョニッシーナマッソコぶれッシュ☆エスボ☆グリバンバーベーコンさん 』って!?」
「―――うわっ、コイツ一発で覚えやがったよ。引くわー」
「お前が言い出したんだろっ!?」
勿論、コイツのことを知らないわけがない。俺はロズワール邸に来てからかれこれ五回もループしているんだ。何回も顔を会わせたことのある村の自警団・・・というより、ラムとレムさんに密かに入れ込んでいる親衛隊連中の一人だ―――名はまだない。
「あるよ、バカッッ!」
「心配しなくても誰もお前の名前になんて興味ないと思うぜ・・・つーか騒がないでくれ。見つかっちまうだろうが」
「だから!何こっそり逃げ出そうとしてんだよっ!村人全員がお前のこと感謝してるんだよっ。お前がいねえと話になんねえだろうが」
「・・・知るかよ。俺はいろいろあって疲れてんだ。そういうのは俺のいないところでやって・・・――――」
「オオーイっ!みんな、こっちだ!村の救世主様が生き返ったぜっ!」
「聞かねえか、オラァ!」
結局、そいつが余計な召集をかけやがったせいで村人全員にもみくちゃにされ一人一人から感謝の言葉を受けとる羽目になった――――こういうのはガラじゃねえし、そもそも俺は別に村を救おうなんて気はさらさらなかった。
俺が行動したのはどちらかというと後ろめたさに耐えられなかったのが本音のところだ。だから誉められれば誉められるほど居たたまれなくなるぜ。
ああ。あとリュカやミルド、ペトラ、メイーナ、ダインとカインのところにもちゃんと顔を出してきた。パックが自信満々に言っていただけあって呪いはキレイさっぱり解呪されたようだ。呪いをかけられた影響で体力が回復してなくてグースカ寝てはいたが・・・あの様子ならすぐに目を覚ますだろう。
親御さん連中の感謝の度合いがとにかくすごかった。涙混じりに手を握って感謝してくるヤツはいるわ。腰を折らんばかりに頭を下げるやつはいるわ。篭一杯のリンガを押し付けてくるヤツまでいた。
「グレート・・・ガラにもねえことをしちまったぜ。何が悲しくてどこぞの正統派オリ主みてえな後始末をせにゃならんのだ」
「それだけのことをしてくれたってことだよ、お前は!皆感謝してるし・・・俺だってそうさ!お前さんのことは皆忘れねえよっ!」
「やれやれだな・・・そういや、あと一人。まだ安否を確認していないガキがいるんだが、そいつはどこに住んでるんだ?」
「・・・あと一人って誰のことだ?」
「名前は聞いていないけど・・・ほら、あの子!あの大人しい人見知りな感じの・・・青い髪をしたお下げ髪の子だよ。夕べ俺と一緒にレムさんがこの村まで保護してくれたろ?」
「―――いや。そんな子供、俺は知らねえけど」
「は?・・・いやいや!そんなはずはねえだろ!夕べその子を助けるために俺は死にかけたんだぜ!」
「・・・俺、この村に住んで長いから大抵のヤツは顔を覚えてるし。昨日、『子供がいない!』って詰め掛けてきた親の家は全員回ったぞ。どこか他所から来た子ってことはねえのか?」
「・・・『他所から来た』?」
頭をかいて『おっかしーなー』と首をかしげてる青年団長の様子から嘘をついていないことは明らかだ。じゃあ、あの『魔獣』の仔犬を抱えていたあの子は、いったい・・・――――――まさかっ!?
「お、おい!?どこ行くんだ、いきなり!?」
俺はいてもたってもいられずに走り出した。『あの場所』だっ!『あの場所』に行けば何かわかるはずだ!
単なる俺の思い過ごしかもしれない―――だが、それ以上のことかもしれない。見ればわかる。『あの場所』をもう一度見れば。
俺が最初のループでこの村に来た時に最初にお下げの子と出会ったあの場所だっ!
「―――“ここ”だ。何となくだけど・・・覚えている」
あのお下げの子と出会ったのは俺が最初にハンティングに入った森の中だった。そこで足を挫いていたあの子を見つけた。あの子はいったい『この場所』で何をしていて足を挫いたのか・・・
「グレート・・・思った通りだぜ。あの子は樹に取り付けられた『結界』の一部に細工をしようとしていたんだ」
少し目を凝らして探してみるとそれはすぐに見つかった。木の上の方にある枝のすぐ横だ。
グレートに恐ろしいことだが・・・結界に細工を施して魔獣が侵入できるようにしたのは――――あの『お下げの女の子』で間違いないらしい。
最初のループの時、たまたま俺が結界を直しちまったことで計画が狂って、やむ無く別の場所を破壊しようとした時に樹から落っこちたところを俺に助けられ断念したんだ。
考えてみりゃあ、不可解な点はいくつもあった。あの子が魔獣の仔犬を手懐けていたことも・・・呪いにかかったペトラやリュカ達が草原に放置されていたのにあの子だけが無傷のまま森の奥に連れ込まれ寝かされていたことも・・・あの子が黒幕であると考えたのなら全部納得がいく。
―――普通に考えたら気づけたのによぉ~・・・あまりにもあり得ない可能性に『考えもしなかったぜ』。
「つっても・・・黒幕が今更わかったところでよぉ~―――『だから何?』って話だよな。あの子をふんじばったところで誰も得する気がしねえぜ」
寧ろ、リュカやペトラ達が無駄に傷つくだけで終わる。そもそも確たる証拠があるわけでもない。口惜しいが・・・ここは俺の胸の中に閉まっておくのがベストだぜ~。
―――逃げた犯人を放置しておくことについては・・・勿論リスクはあるが。失踪したあの子が二度とエミリア達の前に立ちはだからないことを祈ろう。
「ロズワールにだけはこの事を伝えておくべきか?けど、あいつ・・・今一つ信用ならねえんだよな」
グゥウ~~~…
「おぉふぅ・・・悩んでいても腹は減るんだな。出来ることならこのまま帰ってレムさんの手料理が食いてぇところだが」
「――――さんざん好き勝手行動しておいて・・・目覚め一番にラムの前に姿を見せないとはとんだ不届き者ね」
「ラム・・・って、その手に持ってる篭は何だよ?」
俺がこれからのことをどうしようか考えていると目の前に大量のふかし芋が入ったザルのような篭を持ち、腰に手を当て仁王立ちしたラムが立っていた。
「見てわからないかしら?ラムの得意料理『ふかし芋』よ。それも出来立て・・・いえ、ふかしたてよ♪《どやぁ》」
「カメラ目線でドヤ顔決めたところでお前の料理の腕前が残念なことに変わりねえからな・・・つーか、お前こそこんなところにそんなもん抱えて何しに来たんだよ。昨日の魔獣共にお供えもんでもするつもりかよ?」
「ふんっ・・・いいご身分ね。さんざんエミリア様やラムに心配をかけておいて目が覚めて早々気持ちよくお散歩とはね」
「散歩じゃねえ・・・巡回と言え。巡回と。昨日の今日で魔獣がまた寄ってきてねえかの確認だ」
「昨晩、一晩かけて結界に問題はないか見て回ったからこちらへ抜けてくる魔獣はいないわ。ジョジョの『なおす能力』もたまには役に立つのね」
「その『たまに』ってのが起きないのが一番いいんだがな。今回みてぇなことに巻き込まれるのはもうゴメンだぜ」
結界を直すか直さないかの違いだけで、まさしく天国と地獄だ。つくづく運命を変えるってのは楽じゃないぜ。『死に戻り《デスルーラ》』の能力があって、やっとの思いで滑り込んだんだからな。
「・・・夕べのことについては素直に感謝しているわ。お疲れ様。ジョジョがいなかったら本当に最悪の事態も考えられたから」
「グレート・・・スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃・・・なんとあのラムが、俺に感謝するなんてな―――これだけでも命を懸けたかいがあったってもんだぜ」
「ふざけないでっ。実際、大精霊様やベアトリス様がいなければ、死んでいるのが当然の傷だったんだから・・・そうまでして領民を・・・いえ、ラムの妹を守り抜いてくれたことにはすごく感謝してるわ」
「よせよせ。俺がレムさんを守るのは当たり前のことだぜ。お前に感謝されるいわれはねぇよ。それによぉ~・・・この村に少しでも愛着がわいちまったら守らねえわけにはいかねえだろ」
「・・・そう」
もう既に何度も繰り返して巻き戻された時間は返ってこないが・・・俺がこのアーラム村の連中と過ごした時間は決して嘘じゃない。だから、全員を無事に未来に連れてこれたときは心底安心したぜ。
「・・・本当に救いようのない男だわ。ドジでのろまでうだつの上がらないマダオの癖に他人ばかり助けようとするのね。バカなの?死ぬの?」
「唐突な悪口連射砲やめてくんないっ!?誰のためにこんなことしたと思ってんだよっ!?お前の妹のためでもあるんだろうがっ!」
「ベアトリス様の治療を受けたのにも関わらず、その鬱陶しい減らず口だけは治らないのね。いよいよもって救いようがないわ」
「お前が言わせてんだろっ!お前は俺にわざわざ悪口を・・・――――」
「食らうがいいわっ」
ズボォオッ!!
「ふぼごはぉおっっ!?ほふっ!おぅふっ!ふほぉおおおおっ!!」
ラムが抱えていたふかし芋をいきなり口に突っ込まれてあまりの熱さにのたうち回る。口や舌だけでなく喉までも灼けつく熱さに俺はすっかり涙目だ。
「なるほど。こうすれば口汚いジョジョの口を封じることが出来るのね。覚えておくわ」
「~~~~ざけんなっ!これが復活したばかりの病み上がりにやる仕打ちかよっ!もうちっと加減ってものを覚えやがれ、お前はよぉ~っ!」
「ジョジョがあまりにもいつも通りだったからすっかり忘れていたわ―――本当に何ともないようね。残りは全部ジョジョの分よ。ありがたく受け取りなさい」
「って、こんなに食えるかっ!病み上がりにこんな大量の焼きいも食わしてどうするつもりだ。俺をミイデラゴミムシにでもするつもりかよっ!」
「―――ジョジョ」
「ああん?」
「・・・ありがとう」
「は・・・お、おう」
ラムは少しだけ振り返って小さくお礼を言い残すとそのまむスタスタと戻っていった。正直、あいつから掛け値なしの感謝の言葉が聞けるとは思っても見なかったから今のは不意打ちだったぜ。この大量のふかし芋はあいつなりの感謝の表れなのかも知れねえな。
「だからと言ってこんなに食えるわけはねえけどよぉ~・・・あむっ――――うんっ、普通だ。普通に美味いぜ」
「・・・こんなところにいたのよ。つくづくお前は少し目を放すとどこへ行くかわからないヤツかしら」
「はふっ!はふっハフハフッ―――オッフ!ふぇあはふぁふぁ!ひほうはひはほは!」
「口の中のものちゃんと食べてから喋るのよ。つくづく品のないヤツかしら」
「んクッ!―――食ってる最中に話しかけられたんだから仕方ねえだろ。改めて治療してくれてありがとな!お陰で助かったぜ!」
「別に・・・ベティはにーちゃの頼みを聞いただけかしら。あの『雑じり者の娘』にお願いされるとにーちゃは断れないからベティも断れなかっただけなのよ」
「素直じゃねえッスね。本当はエミリアがあんまりにも必死な態度でお願いしてくるから断りきれなくてついつい手を貸しちまったってところじゃねえッスか?」
「その不愉快な顔を今すぐやめないとそのにやけた顔を吹っ飛ばすのよ」
「おっと、そいつは勘弁っ!ベア様のお陰で拾ったこの命、大事にさせてもらうぜ―――ありがとうな!マジに助かったぜ。また借りが出来ちまったな」
「・・・・・・。」
「どうかしたか?」
ベア様は腕を組んだまま神妙な顔で『ついてこい』と指で俺に指示してきたので俺は黙ってその後を追った。この時点で俺は既にある予感をしていた。
「―――こんな場所まで呼び出してどうするつもりだぁ?愛の告白ってわけでもないだろうしよぉ~」
「・・・にーちゃにはにーちゃの考えがあってのことなのよ。でも、そのことをお前に黙っているのはお前に対して公正とは言えないかしら」
「あん?」
「にーちゃはあの雑じり者の娘に肩入れしているから・・・あの娘を優先する。それは精霊として正しいことなのよ。でも、ベティとしては不満があるかしら」
「・・・パックが俺に何を隠してるって?」
「―――あと『半日』・・・」
ベア様はいつものように感情を一切感じさせない目で精霊として公正に『タイムリミット』を呟いた。
「それがお前に残された時間・・・あと半日もしない内に、お前は死ぬのよ」
「グレート・・・ここまで上げておいて落とすのかよ。勘弁して欲しいぜ、まったく」
「思ったより動じていないかしら。お前も人間ならもっと醜く生にすがりつくべきじゃないかしら」
「原因は何となくわかってるしな――――傷の治療は完璧にできても受けた呪いまではどうしようもならなかった・・・ってところじゃねえか?」
「察しが良くて助かるのよ。お前の言うとおり・・・魔獣の群れにやられた時にごっそり植えつけられたようなのよ。かけられた呪いが重なり過ぎて複雑になりすぎた術式はベティにもにーちゃにも解呪は不可能なのよ」
予想していなかった訳じゃあねえ・・・寧ろ、『ああ。やっぱ、そうか』ぐらいの感じだ。あんだけ呪いの魔獣に噛まれまくったんだ。無数の毒蛇に全身を噛まれるようなものだぜ。
「ついでに解呪が不可能な具体的な説明ってやつを聞かせてもらってもいいか?」
「まず、『呪い』が『糸』だとするかしら。この結び目が呪いの術式だとするのよ。解呪は単純な話をすれば、この結び目をほどいてやることになるかしら。でも―――一つの呪いだけなら、手繰ればほどくこともできる。でも、こうして複数の糸が入り乱れてしまうと・・・引くことも手繰ることもほどくことも無理」
「なるほどな。親切な説明をありがとよ。あまりの『心折』さに・・・涙がちょちょぎれるぜ」
ベア様は何だかんだで他人を見捨てられないヤツだからよぉ~。口では淡々と説明しているが、陰で俺の解呪のために相当尽力してくれていたのは想像に難くない。そのベア様でも解呪が無理と断言したとなると・・・本当に絶望的なんだぜ。
「その説明で行くと俺の呪いは半日以内に発動するってわけか」
「半日も経てば魔獣はマナを求めて術式を発動するのよ。これは術式を介した食事なのよ。『離れた対象からマナを奪う』といった点に突出してるのが特徴かしら。そして魔獣の食事は主にマナ・・・つまりは、お前は餌にされたのよ」
「―――ったくよぉ~。毒を植え付けておいて離れたところから安全にじわじわと獲物を弱らせて食らう・・・か。まるで『コモドドラゴン』たぜ。どんな進化を遂げたらあんな化物が生まれるんだか・・・ダーウィンも腰抜かすぜ」
「・・・お前、恐くないのかしら?ベティのこれはお前にとっての余命宣告なのよっ」
「エミリアとベア様それとパックが繋いでくれなかったら俺の命はとっくに終わっていたんだぜ。今更、じたばたしても始まらねえよ―――だから、ベア様が責任を感じる必要なんて全くないんだぜ」
「なっ!?・・・誰が責任なんて感じているかしら!お前がこうなったのも全部お前の自業自得なのよっ!ベティはお前みたいな厄介者の命なんて気にしてやる程暇じゃないのよ」
「そうかい?俺の勘違いならそれでもいいさ。でもよ―――俺にはとてもお前がそんな器用なヤツには見えねえけどな」
何度ループしてもベア様は変わらなかった。人間《俺達》の事情や世俗には無感情で無関心で無感動で、時に残酷で・・・いつもぶれなかった。
それは、ある意味、完成された精霊の姿なのかもしれない。だけど、その反面、苦しんでいる人間や困っている人間を見捨てきれない『優しさ』が彼女にはあった。
いくら表面上冷酷に振る舞おうとしていても・・・俺にはわかる。その優しさに何度も救われてきた俺だからわかるんだぜ。
「お前がベティの何を知っているっていうのかしら?」
「時には、格式高い精霊様よりも・・・泥にまみれた人間にしかわからないことがあるってもんだぜ。ベア様の優しさは俺だけが知ってるんだぜ」
「意味がわからないのよ―――なら、お前にあえて聞くのよ・・・助けられる可能性があるのにそれをしようとしないベティをお前はどう思うかしら?」
「似合わない憎まれ役はやめろよ。『しようとしない』んじゃなくて『やってもキリがない』ってのが正解だろ?」
「っ・・・お前、知っていたのかしら?」
「森で噛みついてきた魔獣をブッ潰した時にな。何となくそうなんじゃねえかと思った。どうやら当たりだったようだな」
ベア様の言う助かる可能性ってのは一つしかない。呪いが解けないのなら呪いをかけた術師を倒せばいい。一番、単純な力業だ。
「『呪いが発動する前に呪いをかけた魔獣を全部ブッ倒す』―――そうすれば呪いの発動はなくなり実質的な解除となる」
「・・・・・・。」
「あのガキ共が呪いで死ななかったのもそれが一番の理由だ。俺とレムさんが倒した魔獣の中に呪いをかけた魔獣がいたから途中で『食事』は中断され解呪することができた」
「この絶望的な状況でよくそれだけ頭が回るのよ。普段の素行が残念なくせに頭は悪くないのが逆に腹立たしいかしら」
「いろいろと考える時間だけはあったからな。けどまあ、お陰で覚悟が決まったぜ」
「―――死ぬ覚悟を決めたとでも?」
「・・・それが出来るなら最初から苦労しねえよ。諦めたらそこで死合終了だぜ。せいぜい足掻いてみせるさ。今まで何度もそうして生きてきた」
どうせ死んだところで俺は楽になれる訳じゃねえ。死は塞がっている―――なら、死ぬまで大暴れさせてもらうぜ。後先のことを考えると憂鬱だからよ。
もし次に死んだら、レムさんからまた怨敵扱いされると思うとマジで気が滅入るぜ。
「っ・・・そうだ。レムさん!レムさんは大丈夫なのか?レムさんもかなり魔獣に襲われて傷ついていたはずだ!」
「・・・・・・。」
「オイッ!どうなんだよ!?まさかレムさんも同じようなことになってるんじゃあ・・・―――」
「あの娘の呪いはお前と違って簡単に解くことができたのよ。お前と違って呪いをかけた魔獣が少なかったことが幸いしたかしら」
「ビックリさせんじゃねえよ・・・一瞬、最悪の可能性が頭をよぎったじゃねえかよ」
妙に勿体つけるもんだから焦ったぜ。考えてみりゃあ・・・もしレムさんが俺と同じ状態になったらラムが黙ってねえもんな。
でも、よくよく考えると目覚めてからレムさんの姿を一度も見ていない。ちゃんとお礼言わねえとなんねえのにすっかり忘れていたぜ。
「んで?レムさんは今どこにいるんだ?―――最後に別れる前に一言礼が言いたいんだけど」
「・・・・・・。」
「・・・おい?」
何やらベア様の様子がおかしい。さっきからずっと何かを隠しているかのような素振りだ。俺の余命宣告なんかよりも遥かに重い事実を告げようとしているかのような。
「―――なあ・・・レムさんはどこに行った?」
「・・・・・・。」
「っ・・・どこに行ったかって聞いてんだよっ!!」
ベア様は重く口をつぐんだまま横を向いた。まさか・・・まさかとは思うけどよぉ~。あのレムさんがそんな無謀なことをするわけはねぇ。俺はレムさんにとって憎むべき怨敵なんだぜ・・・こんなどこの馬の骨とも知れねえな。男のために――――まさか・・・まさかっ!?
「―――アキラっ!!」
「リュカっ!?・・・それにペトラにミルド、メイーナ、カイン、ダイン・・・みんな目ぇ覚ましたのかよ」
ガキ共は揃って肩で息をしながら大汗をかいてる。昨日、あれだね衰弱してた状態から復活したばかりなのに無理しやがるからだ。
「オイオイ、お前ら、何をそんなに慌ててやがんだ?まだ回復したばかりなんだから、あまり無茶すんじゃあねえぜ。貧血でも起こして倒れたらどうするんだ?」
「ハァ・・・ハァ・・・―――お願い!アキラっ!ラムちーとレムりんを助けてっ!」
「・・・何、だと?」
汗だくのリュカが放った言葉に俺は全身凍りついた。
「さっき皆でレムりんを探してたらラムちーを見つけたの・・・そしたらラムちーが急にこわい顔になって森の方に一人で入っていっちゃった」
「森に入った!?・・・ラム一人でっ!?」
「うん・・・『レムを連れ戻す』って言ってたよ」
「っ・・・あんのバカヤロウ」
最悪な状況に加えて最悪な事態が加速していく。俺は思考が停止しそうになるのをこらえてベア様に詰め寄った。
「オイッ!・・・どういうことだよ。どうしてレムさんが森に入っていやがんだっ!?ベア様っ・・・まさかあんた、二人にさっきのことを喋ったのかよっ!?」
「確かに・・・『妹』の方には話したのよ。姉の方には伝えていなかったはずかしら。けど、あの姉は勘がいいからお前の呪いのことに気づいていたかもしれないのよ」
「っ・・・何で!どうしてだ!?・・・何でレムさんに喋ったりしたんだ!?どうしてレムさんが俺なんかのためにそこまでする!?」
「あの妹はお前が死にかけたことに責任を感じていた。だからこそ、あの妹に話すわけにはいかなかったのよ―――お前が同じ立場ならどうしたかしら?」
「っ―――くっそ!」
ベア様の冷静な態度を見て俺は蹲りそうになる。あの時、俺はレムさんを無事村に返せたことで安心していたが、ここに来てそれが完全に裏目に出てしまった。俺が助けたかった二人が今度は俺を助けるために危険を冒そうとしているなんてよ~・・・本末転倒じゃねえか。
きゅっ
「お願い・・・アキラ。ラムちーを助けて・・・レムりんを助けてよぉ」
「・・・ペトラ」
「アキラ、本当はすごく強いんだろ?アキラが俺達を助けてくれたんだよね―――だったらお願い!レムりんとラムちーを助けて!!」
「~~~~・・・やれやれ、あちこち旅したけど、楽して助かる命がないのはどこも同じだな」
俺に泣いてすがりついて助けを乞うペトラ達に俺はわずかに躊躇った。あのだだっ広い森の中でバラバラに行動しているあの二人を見つけ出す自信なんて全くない。
―――それによしんば、あの二人を見つけて連れて帰ることが出来たとしても・・・魔獣の殲滅を諦めた俺は『手遅れ』になる。どっちに転んでも地獄だぜ。
けどまあ、どっち道『地獄』ならよ・・・俺の選ぶ道は一つしかない。
「―――ペトラ。お前、確か・・・大きくなったら都で服を作る仕事がしたいんだよな」
「そうだよ。何でアキラが知ってるの?」
「知ってるも何も・・・『お前』と出会う前にさんざん聞かされたんだぜ。忘れられるわけがねえだろ。それに・・・お前の夢を守るって決めちまったからな―――これが終わったら、お前には俺の服を一丁仕立ててもらうぜ。多分、帰ってくる頃には俺の服もボロボロになってるだろうからよぉ~」
「っ―――アキラっ!」
「やったぁー!」
「ありがとう、アキラ!」
ガキ共は揃いも揃って人の気も知らないで大喜びだぜ。けどまあ、俺はそう宣言して森の方へと向かおうとするとベア様が俺の前に腕を組んだまま立ち塞がった。
「酔狂なヤツとは思っていたけど。ここまで来るとただのバカなのよ。お前、あの姉妹を連れ戻すということが何を意味するかわかってるのかしら?―――お前、今度こそ死ぬのよ」
「あんたには迷惑かけねえよ。どけ」
「別にベティはお前が死んだところで何も痛まないのよ。ただ、解せないのよ。何でわざわざ自分の命を捨てにいくような真似をするのか・・・生き残れる最後の儚い希望すらも捨てるというのかしら?」
「―――行かなくても俺ぁ死ぬんだよ」
「?」
「俺にはなぁ・・・心臓より大事な機関があるんだよ。そいつぁ見えねーが、確かに俺のどタマから股間を真っ直ぐブチ抜いて俺の中に存在する。そいつがあるから俺ぁ真っ直ぐ立っていられる。フラフラしても真っ直ぐ歩いていける・・・ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ――――『魂』が、折れちまうんだよ」
ここに来るまで何度も死んできた俺の命に今さらなんの価値もない。そもそもこの命はとっくの昔に魔女に呪われている―――だが、例え命が呪われていたとしても『魂』だけは失うわけにはいかねえ。
「心臓が止まるなんてことより、俺にしたらそっちの方が一大事でね。こいつぁ老いぼれて腰が曲がっても真っ直ぐじゃなきゃいけねえ」
「・・・お前みたいなバカで愚かな人間は初めて見たのよ。これ以上、お前のバカには付き合いきれないかしら」
「そうか?俺もベア様みてぇに人間らしい精霊は初めて見たぜ」
「とにかく、あとはお前の勝手にすればいいかしら。選択肢は提示した。そこから何を選び取るかは、お前が勝手に決めればいいのよ―――ベティは疲れたから、にーちゃと雑ざり者の娘と一緒に屋敷に戻っておくのよ」
「・・・グレートだぜ。ベア様」
決してハッキリと口には出さないが、俺やラムが不在の間エミリアの周辺を見張っておいてくれるということだろう。『屋敷に戻る』と言ったのはベア様が十全に力を発揮できるのがそこしかないからだ。
あとは俺があの二人を無事に連れ戻すだけだ。
「―――じゃあ、行くか・・・今日の俺は最初からクライマックスだぜっ!」
二章のクライマックスに突入!ここまですごく長かった。しかし、相変わらずラムとレムはキャラが立っているというか描きやすいですね。
ここから先の細部の構想はほとんどありません。どういう風に展開していくのか筆者にも予想がつかないところです。