DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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『名のある川の主様』ご感想ありがとうございますっ。心優しいアドバイスに感謝です。というか、筆者の『駄文』を『作品』として評価してくださってることにビックリです。

それと、この作品を読んで『こんなのリゼロSSじゃないわっ!ジョジョタグのついた駄文よっ!』と思った方に一言――――そんなことは先刻承知よぉっ!

この作品を読んで『俺、こいつよりも上手く書けるわ』という方が一人でもいてくれてその人が新たに書いてくれることを密かに期待しております。



第26話:精霊《エミリア》の加護、鬼《レム》の加護

 

 

 

 

 

最早、一刻の猶予もなかった。

 

 

ただ単に悪い呪術師がいるというだけならば、ここまで焦ることはなかったろう。

 

だが、相手が人ではなく本能のままに動く野性動物が引き起こす『獣害』となれば話は別だ。

 

しかも、それが呪術を使える獣だというのだからより一層質が悪い。

 

俺のいた世界でも過去に野性動物が引き起こした獣害の被害は多数存在する。野性動物は無数に生息し、時に気まぐれに人間に危害を加えることがある。そうなった時の脅威は自然災害にも匹敵する。

 

 

―――その危険が、あのガキ共に迫っているんだ。

 

 

 

 

 

「―――くっそ!・・・ここから村まで5、6キロはあるってのに・・・ちんたら走って行くしかないのかよ」

 

 

「これはなんの騒ぎ、ジョジョ?」

 

「アキラくん・・・こんな時間に何を騒いでるんですか」

 

 

 

 

 

俺が執事服ではなく自前の学ランを着て屋敷を出ようとしたらラムとレムさんに見つかった。丁度いい!この二人にも言っておかなくちゃあならねえことがある!

 

 

 

 

 

「―――二人はここに残って屋敷の守りを固めておいてくれ。俺は今から昼間行った村に行く。あそこの村人に今危機が迫ってっからよぉ~」

 

 

「・・・何の話?というかジョジョ、あなたロズワール様の言いつけを忘れたの?今夜、ラム達は屋敷を任されているわ。その意味がわかっていないと言うの?」

 

 

「俺が任されたのは『エミリアをはじめとする屋敷にいる人間の身の安全』だけだ。だから、俺が村に行ってここに来るかも知れねえ外敵をぶちのめしにいくんだぜっ・・・屋敷に危機が迫る前によぉ~」

 

 

「下らない屁理屈をこねたところでラムの意見は変わらないわよ―――今すぐ部屋に戻りなさいっ。これは命令よ

 

 

 

 

 

ラムはいつも態度こそ横柄ではあったが、その実それらは全て俺を気遣う言動であったり俺の意見を尊重してくれていた。そのラムが上司として俺に『命令』を下してきたんだ。その意味がわからないほど俺はガキじゃあねえ・・・んだが、今だけはその『命令』に従うわけにはいかねえんだっ!

 

 

 

 

 

「時間がないから手短に言うがよ。今日行ったあの村で俺は呪いをかけられた。呪いをかけたのは俺が噛みつかれたあの子犬だ。俺の呪いはさっきベアトリスに解呪してもらったが・・・他にも呪いをかけられた被害者がいるかもしれねえ―――だから、俺は村に行く!放っておくと手遅れになるっ」

 

 

「落ち着きなさいっ、ジョジョ!子供みたいな駄々をこねないで。そんな説明であなたの独断行動を赦すわけがないでしょっ」

 

 

「でも、事実だ!俺が呪われていたことはベア様に確認してくれ・・・そうすりゃあ俺の言った言葉をちったぁ信じる気になるだろうぜ」

 

 

「っ・・・ジョジョ、いい加減にしないと―――っ!?」

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛…ッッ!!!

 

 

「――――そこをどけ、ラム」

 

 

 

 

 

俺の怒りにも似た苛立ちに呼応して俺の真横に顕現したクレイジーダイヤモンドの獰猛な視線にラムがたじろく。これが八つ当たりだということは自覚しているが、ガキ共が死にそうになってるかも知れねえこの非常時に冷静になれって方が無理ってもんだぜ。

 

 

 

 

 

「ロズワールには『バカな使用人が勝手をしたから摘まみ出した』とでも言っておきゃあ言い訳は立つだろ。お前らも厄介払い出来てそれで清々するはずだ」

 

 

「っ・・・言わせておけば勝手なことばかり」

 

 

「俺のことを信じられねぇならそれでも構わねぇ。命令に従わない俺をクビにでも何でもすればいい――――だから、行かせろよ・・・これ以上俺を引き止めたら、何をするかわかんねぇぞっ!」

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛…ッッッ!!!

 

 

「アキラくん・・・あなたは何でそこまでして」

 

 

 

 

 

呪術師の正体が判明した今、俺がここに残る理由は完全になくなった。これでラムとレムさんもエミリアも・・・無事に『今日』を乗り越えることができるはずだ。だから、俺も積み上げた立場や信用を捨てることに一切の迷いはなかった。

 

 

 

 

 

「―――初めて見せたわね・・・あなたの『精霊』。自分の切り札まで出して・・・ずいぶんムキになるのね。あなたにとってあの村の人達がそれほどまでに大事だとでもいうの?それであなたがこの屋敷を追われることになるとしても」

 

 

「ああ。『立場』も『仕事』も『信用』も喜んで捨ててやらぁ。『今』を護ることに気を取られて『本当に大事なもの』を失っちまったら死んでも死にきれねえからよ」

 

 

「・・・くだらない妄言ね」

 

 

「妄言じゃない・・・“覚悟”だっ」

 

 

 

 

 

最初はいきなりのことだった。この異世界に着の身着のまま何もない丸裸の状態で放り出された。頼るものもなければ護るものすらない・・・そんな有り様で。ただただ生きていくことに前向きになるしかなかった。

 

―――そんな俺にもようやく出来たんだ。全てをかなぐり捨てても護りたいって思えるヤツらがよぉ~。

 

 

 

 

 

「わかったわ、ジョジョ。あなたの独断行動を認める」

 

「姉様っ!?」

 

「ただし!ひとりで行かせるわけにはいかない。ここでジョジョの単独行動を許すと、ロズワール様の命令に背くことになるから」

 

 

「今、この場で俺をクビにして『村へ追い出す』って選択肢もあるぜ」

 

 

「・・・あなたはこの屋敷の使用人なのよ。勝手に辞めることはラムが許さないわ」

 

 

「へえ~、意外だぜ。てっきり疎ましく思われてると思ってたからよぉ」

 

 

「ええ。まったく・・・ラムも焼きが回ったものだわ。屋敷にはラムが残るわ。監視としてレムを同行させる。それが妥協点よ」

 

 

「ああ。感謝するぜ・・・ラム“先輩”」

 

 

 

 

 

グレートっ・・・やはりラムは何だかんだでイイ女だ。この状況でこの判断を下せるのは並じゃあ出来ねぇ。

 

 

 

 

 

「レム、そういうことだからお願い。ベアトリス様への確認と、エミリア様の方はラムが守るわ。そっちのこともちゃんと“視てる”から」

 

「姉様、あまりその“目”は・・・」

 

「言っている場合でもない。必要なら使う―――レムもそうしなさい」

 

「・・・はい」

 

 

「さて、先輩方の了承も得たところで・・・森に入るとなると―――やはり“これ”がいるな」

 

 

 

 

 

俺はラムとレムさんが内密で話し合ってるのを横目に『ある物』に目をつけた。

 

それはこの屋敷の仕事の最中に目をつけておいたある小道具だった。それをラムやレムさんに見つからないようにポケットに忍ばせた。

 

 

 

 

 

「―――アキラ?こんな夜中にどこ行くの?」

 

 

「おおっ、エミリア。まだ起きてたのかよ。よゐこはさっさと寝る時間だぜ。夜更かしは美容の大敵だからよぉ~」

 

 

「茶化さないの。アキラ、いつもと明らかに様子が変よ―――わたしに隠れて何をしようとしてるの?」

 

 

「ああ。ちっと今日会ったばかりの村のガキ共と非常に不本意ながら・・・ちっと『肝試し』に行かねえとならねえんだぜ。生まれてこの方、挑んだことのない・・・最凶最悪なヤツによぉ~」

 

 

「・・・“また”、一人で行っちゃうの?」

 

 

「・・・そうだな」

 

 

 

 

 

適当な軽口で煙に巻こうとしたが、流石にエミリアは俺の考えていることなどお見通しらしい。エミリアは責任感が旺盛な・・・それこそ放っておくと何でもかんでも背負いこんじまうようなヤツだ。出来ることなら余計な心配はさせたくなかったが―――

 

 

 

 

 

「なぁに、どうせすぐに帰ってくるって。お前も知ってるだろ?こと『戦う』ことと『なおす』ことにおいては俺の右に出るものはいないぜ」

 

 

「・・・うん」

 

 

「それよか明日の朝飯の献立でも楽しみにしてろよ。何だったらグレートなデザートを一品追加するぜ」

 

 

「・・・うん」

 

 

「『うん』しか言わねえのかよっ」

 

 

「・・・うん」

 

 

「~~~~っ、よせよ。お前がそんなんだと調子が狂うだろうが」

 

 

「『やめて』って止めても無駄なんでしょう?」

 

 

「・・・ああ」

 

 

「だったら『うん』しか言えないじゃない」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

エミリアは本当に心配そうに俺のことを見ている。本来なら、『目の前で危ない橋を渡ろうとする友達を放っておけ』なんてこと・・・コイツに頼むのは酷な願いだぜ。

 

だけど、お姫様を護るのはヒーローの役目だって昔から相場は決まっている。

 

エミリアは不安そうにしながらも力強く俺を送り出そうとしてそのか細い手を俺の胸に当ててそっと呟いた。

 

 

 

 

 

「―――あなたに、精霊の祝福がありますように」

 

「・・・何だ、それ?」

 

「お見送りの言葉よ。『無事に戻ってきてね』って・・・そんな意味」

 

「それならばその礼に応じよう―――『May the force be with you』」

 

「それは?」

 

「『フォースがあなたとともにありますように』っていう・・・ジェダイの騎士様の名言だ」

 

「“フォース”って、なに?・・・ホント、アキラの国の言葉って不思議ね」

 

「帰ってきたら、いくらでも教えてやるよ。生憎とこの手の話題には事欠かねえんだ、俺はよ」

 

「ええ。楽しみにしてる」

 

 

 

 

 

いつもの調子を取り戻してきた俺にほんの少し安心したのかわずかに笑みを浮かべるエミリア。しかし、それも一瞬のこと顔を引き締めるとレムさんの方に向き直った。

 

 

 

 

 

「レムも気をつけて。それと、アキラが無茶しないように見張っててね」

 

 

「はい、エミリア様。承りました」

 

 

「無茶なんてしねえよ。日本男児にあるまじきヘタリア魂を受け継ぐこの俺がそんな無茶なことやると本気で思ってんのか?」

 

「昨日の朝、全身骨折だらけで血みどろで帰ってきたのはどこの誰だったかしら?」

 

「エーッ、ナニガー!?ゼンゼンオボエガナイケドー!スクナクトモ、ソレオレノコトジャナイヨネー!」

 

「ベアトリスに治療魔法をかけてもらうようお願いするの大変だったんだけどなー。わたしも瀕死のアキラのために応急処置をすっごく頑張ったのになー」

 

「やめてっ!それ以上傷口を抉らないでーっ!折角治ったのにまた傷が開いちゃうからさーっ!お前の台詞一つ一つが俺の心にグサグサ突き刺さってるからさーっ!デスノートに自分の名前書き込みたくなっちゃうからさーっ!」

 

 

 

 

 

拗ねたような口調で悪戯っぽく俺を弄ってくるエミリア。この子、すんげぇ根に持ってるよ!俺をなおすことに労力を割かれたことすごく根に持ってるよ、コンチクショーッ!

 

 

 

 

 

「―――行きますよ、アキラくん。村が無事であることを確認したら、その後でお仕置きですからね」

 

「レムさーんっ!?あなたの言うお仕置きが一番怖いんですけどっ!それ、冗談ですよね!?マジで冗談ですよね!?お願いだから場を和ますためのアメリカンジョークだって言ってよっ!嘘だと言ってよ、バーニィィイーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

俺は半ばマジで泣きそうになりながらレムさんの後を追いかけた。これじゃあ勝っても負けても救いがないぞ、チキショーめぇ!

 

 

 

 

 

「―――アキラ・・・お願い。無事に帰ってきて」

 

 

 

 

 

必死に道化を演じる俺の後ろ姿を悲しそうに見送るエミリアの姿に気づかぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そろそろ詳しい話が聞きたいんですが・・・」

 

 

「何でだ・・・俺はどこで選択を間違えた・・・どこで俺の死亡フラグが立ったんだ・・・こうなったら、また一人バックトゥザフューチャーするしかねえぞ。全力で前向きに後ろ向きに生きるしかねえぞ」

 

 

「・・・潰しますよ?」

 

 

「やめてっ!お願いだから本当にやめてっ!これ以上潰されたら男として大事なものを失っちまうからさ!」

 

 

 

 

 

村へ向かう道中、レムさんに説明を求められるが・・・正直な話、俺が死に戻りしたことを伏せたまま状況を説明するのに苦労させられた。

 

偶然、アーラム村で買い出しに行った後にベア様に会いに行ったら呪いがかけられていることに気づいた・・・―――つまり、呪いにかかったことはあくまでも『偶然』気づいたということにしたのだ。

 

 

 

 

 

「では、アキラくんが手を噛まれたあの時の子犬が呪いをかけた張本人だと・・・?」

 

「ああ。ベア様に調べてもらったから間違いない!俺は解呪してもらったから命を拾ったものの・・・呪いが一度発動しちまったら呪いをかけられた人間はまず助からねえ!あの子犬が何人の村人を噛んだかはわからねえが・・・おそらく呪いは今夜中にも発動するはずだっ!」

 

「その話がもし本当だとすると・・・確かに小さな村一つくらい簡単に壊滅しますね」

 

 

 

 

 

レムさんは俺の説明から事態の深刻さを理解したのか冷や汗を垂らしている。そして、村に近づくに連れてその最悪な予想が当たっていることを俺たちは確信した。

 

 

 

 

 

「―――っ・・・アキラくん。あれは」

 

「村が不自然に明るい・・・何だか嫌な予感がするぜ」

 

 

 

 

村の中に点在する無数の炎の明かりが蠢いているのが見える。村に到着すると案の定、松明を持った村人が何人も走り回っていいた。

 

 

 

 

 

「ロズワール様のお屋敷のお二人じゃないですか・・・こんな時分にいかがいたしました?」

 

 

「ちょうどいいところに。何があったんですか?」

 

 

「え、ええ。実は、村の子供が何人か見当たらなくてですね。暗くなる前まで遊んでいたのはわかってるんですが、その後どこに消えたのか・・・大人連中で探し回っているところです」

 

 

「いなくなったってのは『ペトラ』や『リュカ』のことか?」

 

 

「え、ええ。そうですけど・・・どうしてそれを?」

 

 

「こっちにも色々と心当たりがあってよぉ~。村の中の探索を始めてからどれくらい経つ?」

 

 

「もうかれこれ・・・1時間くらいになるかと」

 

 

「だとしたらもう間違いないっ。あいつらはもう村の中にはいない。いるとしたら・・・『あそこ』だ!――――二人ともついて来てくれっ!」

 

 

「子供たちの居場所がわかるんですかっ!?」

 

 

「ああ。経験からくる勘ってヤツだ」

 

 

 

 

 

俺は真っ直ぐに村と森の境界となる外柵の方へと駆け出した。村人の男もレムさんも俺の迷いのない行動に不審なものを感じつつも素直に俺の後をついてきてくれた。

 

ラムが魔獣の呪いにかけられた前回・・・そして今回のループに入ってから俺は『村に来ていなかった』。それによって俺はそれまでのループでやっていた重大な行動を取り忘れていた。

 

 

 

 

 

「っ―――“結界”が・・・切れてる?」

 

 

「グレートっ・・・やっぱり、そうか」

 

 

 

 

 

レムさんが指差した先にはとても見覚えのあるクリスタルのような光を失った宝石が樹に埋め込まれてあった。魔獣を近づけさせないバリケードの役割をなす宝石が魔力を失ったまま放置されていた。

 

俺がこのループでやり忘れていた『結界を直す』という行為―――それこそがこの運命の分岐点だった。だから、前回もこの時間でもバイツァダストは発動しなかった。

 

――――『エミリア陣営が魔獣の呪いによって壊滅する』。それこそが、悪魔《バイツァダスト》が定めた運命なのだ。

 

 

 

 

 

「あの結界の解れたところから魔獣が侵入してきやがったんだ。表面上無害な子犬のふりをして油断させ、無防備に近づいてきた相手に呪いをかけた。後で安全なところからじっくり誰にも邪魔されずに『食べる』ために・・・――――おそろしく狡猾な相手だぜ」

 

 

「・・・果たしてこれは本当にただの魔獣の仕業でしょうか?結界が切れていたことも偶然とは思えません。何者かが仕掛けた罠という可能性も考えられます」

 

 

「ああ・・・俺もそう思うぜ。だが、今はそれを考えてる暇はないっ―――“クレイジーダイヤモンド”っ!!」

 

┣゛ンッッ!!

 

『―――ドォォラァアアアッッ!!』

 

 

ドグシャァアアアッッ!!

 

 

「・・・アキラくん!いきなり、何を!?」

 

 

「切れた結界を殴って―――『なおす』っ!」

 

 

スゥゥウウウ… ガキ゛ィィイイッ!!

 

 

 

 

結界の解れたクリスタルをクレイジーダイヤモンドで殴り付けると結界を繋ぐクリスタルは一度砕けたものの瞬時に元通りに『なおり』、他のクリスタル同様輝きを取り戻した。

 

 

 

 

 

「っ・・・魔力を失った結界を『なおした』んですか?」

 

「ああ。これで一先ず村の安全は確保された――――これで心置きなく暴れることが出来るぜ」

 

「ちょっと待ってください。アキラくん、何を考えてるんですかっ!?ロズワール様の御不在の機に・・・狙ったようにこんな問題が起きますか?これがお屋敷を狙うための陽動でないと断言できますかっ!?」

 

「―――なあ、“あんた”。村の人達に伝えてくれ。『子犬に噛まれたヤツは至急ロズワール邸に向かえ』って・・・それと『ガキ共は俺が必ず連れて帰る』ってな」

 

 

「え?・・・いや、しかしっ」

 

 

「『しかし』も『カカシ』もあるかっ!早く行けっ!!人の命が懸かってんだぞ・・・つべこべ抜かすなっ!!」

 

 

「っ・・・わ、わかった!」

 

 

「アキラくんっ!?」

 

 

 

 

 

レムさんが勝手な判断を下した俺を叱責してくるが、今はそんなのに構っている暇はねえ。俺もくだらねえ体裁を取り繕ってる暇はねえし・・・こうなってしまった以上、それをやる意味もないっ。

 

 

 

 

 

「レムさん。あんたの言う通りだ。これは完全に“ワナ”だぜ・・・敵は俺があのガキ共を助けに行っている間に屋敷を襲撃するつもりだ。しかしっ!――――ワナだと知ってても行くしかねえぜ、コイツは。何故なら、ガキ共にはもう一秒たりとも時間が・・・ないっ!」

 

 

「ぁ・・・っ!」

 

 

「確かに屋敷を護ることも大事だ。だが、今、目の前で死にかけているガキ共の命を見捨てることが最善だとは思えねぇ―――だから俺は行くっ!レムさんは屋敷に戻って防御を固めてくれ」

 

 

「アキラくんはどうしてそこまで・・・アキラくんと、この村にどれほど関係が―――あなたはこの村に来てまだ一日しか経っていないのですよ」

 

 

「ああ。この村の人達とは『今日一日の長い付き合い』だ―――そいつらが死にそうになっているんだぜ。命を懸けるのにこれ以上の理由がいるか?」

 

 

「っ・・・アキラ、くん?」

 

 

 

 

 

レムさんは迷っている。俺のあまりの迷いのない決断とその覚悟の重さに迷っている―――ラムの傍でいつも姉の判断に身を委ねていたレムさんが俺の意志に押され、自分で決断することが出来ずに迷っている。

 

レムさんは知るはずもないだろうが、俺とここの村の人達とは本当は『何日もの』付き合いがある。しかし、当然のことながら村人達にはその時の記憶や思い出がない。俺が過ごしたあの時間の思い出を彼らと共有することは永久に不可能だ。

 

―――だからこそ『今日一日』で彼らと過ごしたことに対する俺の『思い入れ』は並外れて強いんだぜ。

 

 

 

 

 

「――――『ペトラ』には夢がある。『大きくなったら都で服を作る仕事に就く』という夢だ。俺が聞いてもいねえのに・・・服の仕立ての勉強をしていることを嬉しそうに話していやがった」

 

 

「・・・え?」

 

 

「『リュカ』は『村一番の木こりの親父の跡を継ぐ』って言っていた。やんちゃに小さい斧を振り回して鬱陶しく俺に自慢して来やがったよ。あんなへなちょこで木こりなんかなれるのかよって話だ

 

『ミルド』は『花で作った冠お袋さんにプレゼントする』って言ってた。あまりに不格好だったんで俺が手伝ってやったら大喜びしていたよ。男の癖にメルヘンなことしやがるなんて内心思っていたのは内緒だ。

 

『メイーナ』は『もうすぐ弟か妹か生まれる』って喜んでいた。『自分ももうすぐお姉ちゃんになるんだ』って楽しみにしていたよ。竹トンボ作ってやらなかったことを根に持ってやがってえらくしつこかったぜ。

 

『ダイン』と『カイン』の兄弟はどっちがペトラをお嫁さんにするかって張り合ってやがる。ガキの癖に色気付きやがってよぉ~・・・俺の見立てではどっちも脈がなさそうだったけどな」

 

 

 

 

 

何度時間を繰り返しても毎度のように俺を振り回しやがってよぉ~。毎回毎回あまりにもしつこく絡んでくるもんだから・・・お陰で見捨てることが出来なくなっちまったじゃねえか。あいつらのせいで俺はこの世界で手に入れたものを棒に振ろうとしているんだぜ。

 

しかも、それをすることに全く後悔していない自分が一番タチ悪いぜ。

 

 

 

 

 

「俺には『夢』がない。でもな、『夢』を守ることはできるっ!・・・今、あいつらの夢を護れるのは“俺”しかいないんだよっ―――だから、俺はあいつらを助けに行くぜ。それが、あんたの信用を裏切ることになったとしてもよぉ~」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

これ以上、俺の勝手な決断にレムさんを巻き込むつもりはない。ハナから俺は『ラムの命令』と『レムさんの信用』を裏切ることも承知で単身で行くつもりだった。もう何を言われようと止まるつもりはない・・・はずだった。

 

 

 

 

 

バッ

 

 

「っ・・・どいてろって言ってんスよ!これ以上止めたらマジに怒るぜ」

 

 

「レムの命じられている仕事は『アキラくんの監視』です――――なので、このままレムも同行してアキラくんの監視を続行します」

 

 

「っ・・・レムさん」

 

 

「それとアキラくんは『レムの信用を裏切る』と仰っていましたが・・・レムはまだアキラくんを信じた訳ではありません―――レムがアキラくんを信用すべきかどうか・・・この先のあなたの『行動』で示してください」

 

 

「・・・グレートだぜ、レムさん」

 

 

 

 

 

胸の奥が熱くなるぜ。魔女の悪臭を纏う俺をあれほどまでに忌避していたレムさんが、まだ俺にチャンスを与えてくれている―――こいつは・・・グレートだぜっ!

 

 

 

 

 

「―――警告しておきますが、森は魔獣の群生地帯です。一歩外に出ればどこから襲われるかわかりません・・・くれぐれも油断しないでください」

 

「ああ、言われなくともっ。脳細胞がトップギアだぜ・・・ひとっ走り付き合えよ、レムさん」

 

「ええっ、行きましょう。子供たちが手遅れになる前に・・・」

 

 

ジャラララララ…ッ

 

 

「・・・ン?」

 

 

 

 

 

嫌な意味で聞き覚えのある音に俺の頬を冷や汗が伝う。隣を見ると手ぶらだったはずのレムさんがいつの間にか愛用のモーニングスターを握っていた。

 

 

 

 

 

「あの~、レムさん・・・“それ”は」

 

「『護身用』です」

 

「いやでも、さっきまで何も持ってなかったはずじゃあ・・・」

 

「『護身用』です」

 

「答えになってねえぜっ!」

 

 

 

 

 

レムさんは俺のツッコミを封殺して森の中へと入っていた。

 

この時間に入ってレムさんのことをちっとくらいは理解してきたつもりだったが、まだまだレムさんは謎が多い。

 

俺も慌ててレムさんの後を追って森の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

「・・・足跡での追跡はこの辺が限界だな。何か他に手がかりは」

 

「アキラくん、レムより前に出ないでください。手元が狂ってしまうかもしれません」

 

「その警告だけは本当に怖いなぁ!!どさくさ紛れに俺殺されるのっ!?この状況なら死体さえ隠蔽すれば完全犯罪が成立しちまうよっ!」

 

 

ガサッ

 

 

「おっと・・・こりゃあ―――服の切れ端か?」

 

 

 

 

 

自生していた樹の枝葉に服が引っ掛かり、そっちに目を向けると赤い布の切れ端が引っ掛かっていた―――待てよ。この『赤い布』見覚えがあるぞ・・・ペトラのリボンか?いや、違う・・・コイツは―――

 

 

 

 

「『リュカのマフラー』だっ。グレートっ・・・これであいつらの居場所がわかるっ!」

 

 

「そんな布の切れ端で何がわかるんですか?そんな破れた布切れじゃあ・・・何の手がかりにも」

 

 

「―――『逆』ッスよ。破れてる“から”いいんじゃあないですかっ。破れたマフラーを『直せば』よぉ~・・・」

 

 

ズギュゥウウウンッ!! ―――フワッ スゥオオオーーーッ

 

 

「あいつのところに『直り』に戻っていくってことッスよ!これであいつらの元まで一直線だぜ。レムさん、あの切れ端を見失わないようにしてくださいッス」

 

「あ・・・ハイ!」

 

 

 

 

 

思わぬところに思わぬ救いの手が差し伸べられた。これは魔女の気まぐれか魔獣の罠か・・・どっちでもいい。ガキ共の居場所さえわかれば何でもいい。

 

 

 

 

 

「―――っ!?・・・近い、生き物の匂いです!」

 

「まさか例の魔獣ってヤツか!?」

 

「いえ・・・獣臭くはありません。おそらく『子供たち』の匂いです」

 

「あとは無事でいてくれることを願うばかりだぜ。魔獣がこれ以上何かしでかす前にガキ共を保護するんだぜ!」

 

「ハイッ!」

 

 

 

 

 

もっとも呪いにかかっていた場合、解呪しない限りどこに行っても同じだろうがよぉ~。

 

リュカのマフラーの破片を追っていくと森を抜けて視界が一気に開けた。森の中に樹が生えてうあない開けた平野があったのだ。そして、その開けた平野のど真ん中に月明かりを受けて倒れ付している人影を確認した。

 

 

 

 

 

「―――“いた”っ!あそこに倒れてるのがそうだっ・・・リュカとペトラだ!・・・それにダインとカイン!・・・ミルドとメイーナも!皆いるぞ!」

 

「・・・どうしてこんなところに。魔獣の匂いもしませんし」

 

 

 

 

 

ぐったり倒れているガキ共を見てレムさんは近くに魔獣がいないことに疑問を浮かべるが。俺はそれに構わず、倒れているガキ共の安否を確認した。

 

 

 

 

 

「―――っ・・・ぅ・・・ぐ」

 

 

「いいぞっ、死んじゃいねえ!まだ生きてる!」

 

「いえ。今はまだ息がありますが、衰弱が酷すぎます。このままでは・・・」

 

「『衰弱』・・・っ―――やっぱり、ここにいる全員呪いにやられていたか」

 

 

 

 

一先ず、最悪の事態は避けることはできたが、最悪の状況はまだ続いている。

 

確かにガキ共はみんな顔面蒼白で息を荒くしてぐったりとしている。気絶しているはずなのにまるで運動しているかのように全身汗だくだ。

 

あのラムの命をもあっさりと吹き消した呪いだ。子供の体力でどこまで持ちこたえられるかどうか。

 

 

 

 

 

「この状況で聞きにくい質問なんだけどよぉ~。レムさんは呪いの解呪が出来たりしねえか?」

 

「レムの腕では・・・とても。せめて、姉様がこの場を“視て”いてくれていれば―――質問を返しますが、アキラくんの『なおす力』で子供たちを助けることは?」

 

「無理だぜ。俺の『クレイジーダイヤモンド』は『破壊された物体をなおして戻す』能力だ。手で触ることの出来ない呪いはなおせねぇし・・・こいつらが魔獣に奪われたマナや体力を回復させることも出来ねぇ」

 

 

 

 

 

壊れたバイクを直すことは出来ても・・・『ガソリン』だけは別だ。走って消費したり、燃料タンクから吸い上げられた燃料《体力》は戻せないってことだ―――生命を与える『ゴールドエクスペリエンス』だったらそれも可能だったかも知れねえがよ。

 

 

 

 

 

「とにかく、取り急ぎ癒しの魔法をかけます。気休めですが、今は少しでも体力を戻させて・・・落ち着いてから運び出しましょう―――『水の癒し、その祝福を与えたまえ』」

 

パァァアアア……ッ

 

「呪いを打ち破るには、やっぱりベア様の力が必要だぜぇ。チキショウ・・・こんなことになるんだったら無理矢理にでも連れ出してくるんだった―――応急処置が終わったらすぐ村に連れて帰ろう。ここにいたらヤツらに感づかれちまう」

 

 

「―――っ・・・あき・・・ラ?」

 

 

「ペトラ!?目が覚めたかよぉ―――やれやれ・・・心配させんじゃねえよ」

 

 

 

 

 

まだ意識が朦朧としているのかペトラの目は虚ろだ。だが、レムさんの回復魔法が効いているのか俺の目を見てハッキリと名前を呼べるくらいにはなった。

 

 

 

 

 

「けど、よく持ちこたえたな。上出来だぜ!少ししたらすぐに村に連れて帰る。もう少しの辛抱だからなっ」

 

「ひと、り・・・っ」

 

「何だ?」

 

「ひとり・・・まだ、“奥”に・・・」

 

「まさかっ・・・“一人”、足りないっ!?」

 

 

 

 

 

倒れていたのは6人。今日、会った村の子供たちは『七人』―――あと一人・・・あの名前を聞いていないお下げの女の子が見当たらないっ!

 

 

 

 

 

「森の奥に一人・・・取り残されてるってのか」

 

「アキラ・・・お願い。あの子・・・たすけて・・・あげて」

 

 

 

 

ペトラは息も絶え絶えな状態だ。無理もない。体力を衰弱死寸前まで吸いとられて目を開いているのもやっとな状態なんだろう。だったら、俺がここで狼狽えるわけにはいかねえ。ここでペトラを動揺させちゃあならねえ。

 

俺はペトラを安心させるように余裕の笑みを浮かべて静かにペトラに応えた。

 

 

 

 

 

「―――心配すんな。あとは俺に任せろ。ペトラは早く帰ってお父さんとお母さんを安心させてやれ」

 

「アキラ・・・」

 

「無事帰ったら、俺がお前らに美味いおやつご馳走してやっから―――だから早く元気になるんだぞっ」

 

「っ・・・うん・・・アキ、ラ・・・あり、が・・・とぅ」

 

 

 

 

 

ペトラはそのまま安心して吸い込まれるように眠りに落ちた。もしかしたらペトラが目を覚ましたのは、誰かにこの事実を伝えようという気力だけで無理矢理目を覚ましたのかもしれない。

 

―――ったく、ガキの癖に面倒くせぇことしやがって・・・お陰で俺まで頑張らなきゃいけなくなっちまったぜ。

 

 

 

 

 

「―――レムさん。こいつらを頼む・・・村の連中がもうじき迎えに来るはずだ。村人と協力してこいつらを屋敷にいるベア様のところに連れてってやってくれ。ベア様なら何とかしてくれるはずだからよぉ~」

 

「っ・・・待ってください!この上、更に森の奥に一人で踏み込むつもりですか?自殺行為です。それに魔獣に連れていかれたのなら――――おそらく、その子はもう・・・っ」

 

「けど、生きてるかも知れねぇ。生きてる可能性が1%でも残されてるなら俺は助けにいくっ――――ペトラが・・・こんなちっさいガキが・・・死にそうな目に遭いながらも命を振り絞って俺に託したんだ。それに応えられなきゃあ、俺がここにいる意味がないぜ」

 

「・・・欲張りすぎて、拾って戻れるはずだったものまでこぼれ落とすかもしれませんよ。今のアキラくんではこの子達を救うことで手一杯です」

 

 

 

 

 

耳が痛い言葉だ。かつて俺が死なせてしまったレムさんに言われると尚更よぉ~。

 

 

 

 

 

「言われなくてもわかってんだよ――――こちとら目の前のもん護るので手一杯だ。それでさえ護りきれずに今までいくつ取りこぼしてきたかわかりゃあしねぇ。俺にはもう何もねぇがよぉ~・・・せめて目の前で落ちるものがあるなら拾ってやりてぇのさ」

 

「それで、アキラくん自身が死ぬことになったっとしてもですか?」

 

「・・・死にゃあしねえよ。何せ俺の命は既に呪われちまっているからな。あんたは気づいていたはずだ――――俺の身に纏う・・・『魔女の匂い』に」

 

「―――っ!?アキラくんは・・・どこまで、知って」

 

 

 

 

 

レムさんは可愛らしく驚いた表情を見せてくれた。今までのループでも見せたことのない感情を隠す仮面じゃない素直な驚きの表情を見れて俺は嬉しくなった。

 

 

 

 

 

「さあてな・・・俺から言えるのは『俺は何もわかっていない』ってことだけだ。今はわからないことばかりだけど・・・信じるこの道を進むだけさ」

 

「ちょっと待ってくださいっ!話はまだ終わってません」

 

「説教も文句も全部終わったあとだ。今は森の奥に取り残されている子を救出するのが先決だ」

 

「『約束』・・・ちゃんと約束してくださいっ。全てが終わって無事に帰ってきたら、ちゃんとお話を聞かせてくださいっ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

俺はレムさんのその約束を求める声に反応を返すことができなかった。俺は出来ない約束はしない主義だからよぉ~。

 

 

 

 

 

「アキラくんっ!こっちを向いてください・・・ちゃんと帰ってくるって約束してくださいっ」

 

「まあ、心配すんなって。今の俺にはエミリアが授けてくれた『精霊の加護』だけじゃなく・・・『鬼の加護』がついてるからよぉ~」

 

「『鬼の加護』?」

 

「鬼よりも鬼がかった俺の恩人が授けてくれた加護だ―――神様に願うより霊験あらたかだろうぜ!」

 

 

 

 

 

俺はその言葉を残してレムさんの前から逃げるように走り出した。あの場でレムさんと『帰ってきたら全部話す』という約束だけは交わすわけにはいかなかった。それをすればレムさんは『魔女の呪い』を受けて死んでしまうからだ。

 

だから、俺はこれが終わったら――――

 

 

 

 

 

「―――アキラくん!ゼッタイに無茶をしないでくださいっ!子供たちを預けたらレムもすぐに合流します!」

 

 

「ああ。任せとけっつーの!」

 

 

「くれぐれも気をつけてくださいねっ!」

 

 

 

 

 

俺の姿が見えなくなるまで声を張り上げて俺を激励してくれるレムさんの加護はマジで鬼がかってるぜっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――魔獣を追う前に・・・お前に一つ教えておいてやるのよ』

 

 

『なんだよっ!?こっちはマジに急いでんだぜ』

 

 

『もし魔獣と戦闘になることになったらお前は真っ先に逃げることだけを考えるのよ。くれぐれも刺激しないよう速やかに退散するかしら』

 

 

『オイオイ、舐めてもらっちゃあ困るぜ。俺はこう見えて近接無敵のスタンド使いだぜ。獣ごときに遅れをとるかよ』

 

 

『お前が不用意に近づけば魔獣を呼び寄せて、却って事態が悪くなるのよ。もし、お前以外にも他に呪われたヤツがいたとしたら・・・そいつらの呪いの発動を早めてしまうことにもなりかねないかしら』

 

 

『どういうことだ?』

 

 

『―――『魔女の残り香』なのよ。お前の身に纏う魔女の瘴気にあてられた魔獣が正気を失って暴走でもしたら何をするかわからないのよ。魔獣は魔女の匂いに敏感に反応する性質があるかしら・・・肝に命じておくのよ』

 

 

『因みに、今の・・・『瘴気』と『正気』をかけたダジャレじゃないよな?』

 

 

『そんなに死にたければベティがお前をあの世に送ってやるのよっ』

 

 

『行ってきまーーーーーすっっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサガサガサ……ッッ

 

 

 

「―――ベア様はああ言っていたけど。今のところ獣の気配がしねえな。もしかしてあの子が連れ去られたのこっちの方じゃあなかったのか?」

 

 

 

 

 

ペトラの指差した方向を真っ直ぐ進んではいるが、連れ去られた子供の姿も見えなければ魔獣が茂みを蠢くような気配も感じない。

 

 

 

 

 

「(ベア様の話だと魔獣は魔女の匂いに敏感に反応して引き寄せられてくるって感じだったけど・・・森に入ってから一匹も見かけないのはどういうことだ?)」

 

 

 

 

 

嵐の前の静けさとは言うが、それにしたっていくらなんでも静かすぎる。ペトラ達があんな拓けた草原に残されていたのに・・・あのお下げの子が一人だけ森の奥に連れていかれたってのもよくよく考えると不自然だ。

 

 

 

 

 

「―――あえて罠と知ってて飛び込んだつもりが・・・もしかしたら・・・」

 

 

 

ガサガサガサ……ッッ

 

 

 

「―――っ・・・どうやらおいでなすったようだな」

 

 

 

 

 

近くの茂みを揺らして俺の左右に回り込む獣の気配をハッキリと察知した。数はざっと確認できる範囲で10匹以上はいやがるな。

 

 

 

 

 

グルルルルル……ッッ

 

 

「グレート・・・コイツは想像していた以上にえげつないのが出てきやがったな」

 

 

 

 

 

現れたのは見た目狼のような魔獣だった。体長は1メートルから1.2メートル程度。黒い体毛、鋭い牙、赤く光る双眸を持つ大型の狩猟犬のような容貌だ。

 

これだけならまだ普通の動物とさして変わらない。決定的に違うのは上顎と下顎から異常なまで太く長く発達した牙を備えていること。さらに背骨部分から刺のような突起物が生えており、極めつけは肋骨部分が不自然に赤く発光している。

 

―――どう見ても人間とは絶対に相容れない。この星に存在してていい生物じゃあないぜ、こりゃあ。

 

 

 

 

 

グルルルルル……ッッ

 

 

「俺はよぉ~。愛犬家を自負しちゃあいるが・・・テメエらは別だ!―――テメエらはペトラ達を喰おうとしやがったし、何よりも『ラムを殺した』っ」

 

 

ガァアウッッ!!

 

 

「お前らに対する慈悲の気持ちは全くねえっ。テメエを可哀想とは全く思わねえ・・・――――襲ってきた瞬間、容赦なく俺のクレイジーダイヤモンドがお前らをぶちのめすっ!」

 

 

―――~~~~ッッ グラァアウッッ!!

 

 

 

 

 

森の中に潜んでいた魔獣共が鋭い牙を剥いて涎を垂らしながら一斉に襲いかかってきた――――だが、遅い。レムさんの怒りの猛攻を耐え抜いた俺にしてみればあくびの出る遅さだぜ。

 

 

 

 

 

『ドォオラララララララララララララララララララララララァァァアアアアーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッ!!!!

 

 

ギァヒイィイイイン……ッッ!!?

 

 

 

 

 

何匹で来ようと関係ない。魔女の匂いに引き寄せられてコイツらが俺に集まってくるというのなら・・・却って好都合だ。俺の近接無敵のスタンド『クレイジーダイヤモンド』で・・・全力で蹴散らしていくだけだからよぉっ!!

 

 

 

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛・・・ッッ!!!

 

 

「―――さあ、ここからは俺のステージだっ!」

 

 

 

 

 

例え呪いを扱える魔獣であったとしても、俺のクレイジーダイヤモンドにかかれば数がいくらいたところで敵ではなかった。俺はひたすら魔獣を蹴散らしながら森の奥へと突き進んでいった。

 

しかし、あまりにも順調に上手く行きすぎているということは・・・何か『良くないこと』が起こる前兆でもあるということを俺はまだ気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 





原作通りの展開を書いているはずなのですが、書き上げてみると結構細部が変わっていってしまうものですね。

でも、『鬼がかる』という言葉だけは絶対に変えるわけにはいきませんよね。リゼロファンとして・・・レムりんファンとして!

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