DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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ラムちーとレムりんの登場を機に一気にUAが伸びた。改めてラムとレムの人気の高さがうかがい知れます。筆者としても書いてて楽しいキャラですし、話のテンポをよくしてくれます。

今後もキャラの魅力を引き出せるよう頑張っていきます。



第17話:まるでダイヤモンドのように強い男・・・略して『マダオ』

 

 

 

 

キラキラ☆ キラキラ☆

 

 

 

「―――お掃除完了です」

 

「すげえ・・・俺、部屋がキラキラ輝いてるのリアルで初めて見た」

 

 

 

 

レムさんが来てから一時間強しか経っていないのにこんな短時間であんなに陰気な廃屋が一転して白亜の城に変わるほどの劇的ビフォーアフター。昨日のラムの仕事ぶりやゴタゴタが嘘のようだぜ。

 

―――ヤベエ・・・レムさん、マジ有能っ!

 

 

 

 

 

「こいつはグレートですよ、レムさん・・・いや、グレートなんて言葉じゃあ足りないぜ――――――『パーフェクト』ですよ、こいつは」

 

「お掃除は完了しましたが、今後、この家をキレイに保つことができるかどうかはアキラ君の手腕にかかっていますのでそこのところをよく理解していてください。もしアキラ君の管理がずさんであれば再びレムが来て手入れをさせていただきます」

 

「いや、ちょっと待てよ!それはなしだぜ、レムさん!一度ならず二度までも助けて貰うなんてよぉ。レムさんに助けてもらわなくったって、そこは俺一人で何とかするんだぜ」

 

「だったらレムの仕事を増やさないよう常日頃から自己管理をしてください。エミリア様があなたが一人でちゃんと生活しているか大層心配されておりましたので」

 

「・・・何でエミリアは俺に対していつも過保護なんだよ。俺はそこまで頼りねえってか」

 

「心配されたくなかったら、早く心配されないような一人前になることですね。今のアキラ君はロズワール様の温情で生かされていることを忘れないでください」

 

「グレート・・・刺々しい言葉だけどよ。あまりにも的確すぎて返す言葉もねえぜ」

 

 

 

 

 

ラムほどじゃあないにせよ、レムさんもわりかし毒があるキャラだ。というより距離を置いて突き放そうとしているしゃべり方だぜ。その証拠に言っている言葉こそ厳しいが、今の俺がなすべきことをそれとなく指し示してくれている。

 

 

 

 

 

「ところでアキラ君―――《ガタッ》―――ここにあるこの“看板”は・・・どうすればいいんですか?」

 

「おおっ、そいつッスか!そいつはこの家の外壁に打ち付けるんだぜ―――ちょっと梯子押さえてもらってもいいッスか?」

 

 

 

 

 

レムさんが持ち出したのは部屋の隅においてあったもので昨日ラムに協力してもらい急造でこしらえた手作りの看板だ。看板にはこの世界の文字が書けなかった俺がラムに文字を教わりつつ書いた『店の名前』が表記されてある。

 

看板をレムさんから受け取った俺は外に出て梯子を登った。

 

 

 

 

 

カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

「―――ふぃーーー・・・これでよし、と。あとは早いとこ客が来てくれればいいんだけどよぉ。地道に実績積み上げて口コミで集客するしかねえよなぁ」

 

「・・・これは何です?」

 

「見ての通りッスよ。『万屋金剛《よろずやこんごう》』―――っていういわゆる何でも屋稼業ッスね。金さえもらえばどんな仕事も引き受ける。人探し・物探し・大工仕事・・・何でもござれってな」

 

 

 

 

 

―――完全にネーミングがパクリなのはご愛敬。

 

本当なら『D●vil may cry』とか『G●t backers』とか名付けたかったけど諸事情(ネオン看板が作れなかったことと相棒がいなかったこと)により断念したため『万屋金剛』という名前にしてみた。

 

金剛の名の由来は『クレイジーダイヤモンド』からつけてとった。

 

 

 

 

 

「正直、無職にならないための苦肉の策ッスよ。我ながら幼稚だとは思うんだけどよぉ・・・何か行動を起こしてさえいれば少なからず何かが変わるんじゃねえかと思ってよぉ~――――笑ってくれて構わないッスよ」

 

「・・・いえ。確かに無鉄砲ではありますがアキラ君なりに前向きに動いているということだけは理解できました。レムはアキラ君のその前向きさと行動を起こす勇気だけは評価できると思います」

 

「おおっ!?これはレムさんからの思わぬ好感触っ。昨日はラムに話したらさんざバカにされて終わっちまったからよぉ~。レムさんも否定するかなって思ってたんスよ」

 

「姉様はアキラ君のやる気を発奮させようとあえてそう振る舞っているんですよ」

 

「グレート・・・流石にレムさんの言葉でもそこだけはよぉ~、ちょっぴり信用できないんだぜ。昨日もアイツにはボロクソ言われたしよ・・・無職だ何だの・・・挙げ句、家の中で普通に魔法ぶっぱなしやがるし」

 

「お客様相手でもそうやって物怖じせず振る舞えるのも姉様の魅力なんですよ」

 

「やれやれ・・・俺がレムさんRESPECTなら。レムさんは姉様RESPECTかよ。けどよぉ~、渡る世間に鬼はないというが・・・あいつはなかなかの鬼っぷりだったぜ」

 

「―――『鬼』・・・」

 

「《カタンッ》―――まあ、『護国の鬼』って言葉もあるしな。あいつはロズワール絶対主義だろうし。昨日今日来たばかりの赤の他人である俺に冷たいのはある意味自然なことなのかもしれねえがよ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

やれやれと頭をかきながら梯子を片付けていると突然固まってしまったレムさんと目があった。

 

 

 

 

 

「(ヤッベ・・・もしかして怒らせちまったか)―――レムさん。俺は別にラムを悪くいった訳じゃあ・・・」

 

「―――『鬼』・・・好きなんですか?」

 

「え?好きって・・・鬼が?つーか、この世界にも『鬼』っていんのか?」

 

「・・・『この世界』?」

 

「え゛っ!?ああっ、いや、何でもないんだぜ!この国にも鬼っているんだなって驚いてさ!」

 

 

 

 

 

正直、西洋ファンタジーのこの世界に『鬼』という概念があること事態驚きだ。あれはどう考えても大元が日本や中国を中心としたアジア圏の妖怪から来ているはずだからな。

 

―――何か期待の視線を向けてくるレムさんに俺は何て言うべきかわからず。慌てて言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「そうだな。俺はどちらかというと好きッスよ―――鬼って・・・怖いイメージで扱ってる人も多いと思うけどよ。俺の国では『鬼』っていうのは一つの物事にとてつもない執念を燃やす人や大切なものを守るために一心不乱に戦う人を表す言葉が多いんスよ。さっきの『護国の鬼』って言葉もその一つだぜ」

 

「・・・『護国の鬼』ですか」

 

「国を守るために命を捨てた偉大な英霊を総称してそう呼ぶんだぜ。そうやって大切なもののために鬼みてぇに戦い抜いた偉人達が俺の国には過去たくさんいたんスよ」

 

「今はもういないんですか?」

 

「時代が変わって平和な世の中になっちまったから、そうやって命がけで戦う人が少なくなっちまったんスよ。だけど今でも鬼がかった能力を持っている人を鬼才だとか呼んだりするし。俺の国では鬼は誉め言葉にもなってるんだぜ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

興味津々に聞いてくるレムさんについついマシンガンで畳み掛けてしまった。ヤベエ!わりかしどうでもいいことをテンションに任せてつらつらと喋っちまったような気がする。

 

 

 

 

 

「な、なぁ~んてな!つまらない話をしちまったんだぜ。レムさんも忘れてくれていいッスよ」

 

「―――――・・・いえ《スタスタスタ》」

 

「え?あの・・・レムさん?ちょっとどこ行くんスか。ていうか、今の『いえ』ってなに?どういう意味で・・・―――――あっ、レムさん!ちょっと待って欲しいんだぜ。買い物なら手伝うって、おい!」

 

 

 

 

 

レムさんは怒ってしまったのかわからないが、急に踵を返して村の方へと歩き出してしまった。俺は慌てて梯子や大工道具をしまってレムさんの後を追った。

 

 

 

 

 

「どうしてレムの後をついてくるんですか?」

 

「荷物持ちッスよ!力仕事くらいなら俺も手伝えるッスから。遠慮なくこき使ってくださいってことッス」

 

「結構です。レムはアキラ君に払える報酬を持ち合わせていませんので」

 

「報酬なんて要らねーッスよ。レムさんの作ってくれたうまい弁当のお礼がしたいだけなんだぜ」

 

「強情ですね。アキラ君は食べ物のことになると意地汚く浅ましくなるのですね。以前に姉様が『飢えた野犬に餌を与えてはいけない』と忠告していたのをレムは思い出しました」

 

「そこは『律儀』って言って欲しいんスけどね。腹が減って死にそうになっているときにうまい飯食わせてもらうことがどれ程ありがてぇことなのか俺はよく知っているんスよ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

俺はジャ●プの愛読者ゆえに『サ●ジ』『ソー●』『小●シェフ』の三人に食事のありがたみを教えてもらったクチだぜぇ――――――特に小●シェフは料理人としては別の意味で最強クラスだと俺は信じている。

 

 

 

 

 

「アキラ君。そんなに食事が大切ですか?ハッキリ言ってアキラ君がそこまで恩義を感じる程のことだとは思えません」

 

「おばあちゃんが言っていた――――『本当に美味しい料理は食べた者の人生まで変える』ってな。レムさんの料理にもそれくらいの力があるんだぜ。だからこそ、お礼がしたいんだぜ!」

 

「レムにはそんな力はありません。アキラ君の勝手な思い込みです」

 

「だったらそれでもいいぜ。俺がレムさんを尊敬するのは俺の勝手だからよ」

 

「・・・本当に勝手ですね――――――わかりました。何のお構いもできませんが、それでもよければレムのお手伝いをお願いします」

 

「グレート!俺はいい目を出すッスよ」

 

「ただの買い出しです」

 

 

 

 

 

レムさんは怒ったのかそれとも呆れたのかはわからないが、俺が同行することを許可してくれた。正直、ここでレムさんから『キモイ』とか言われようものなら立ち直れなくなるところだったぜ。

 

―――――あと、ほんの少しだけどレムさんが“笑って”くれたような気がした。

 

 

 

 

 

「―――おう。使用人さん」

 

 

「どうも」

 

「あっ、初めまして。お疲れさんです」

 

 

「ほほう・・・男連れたぁ珍しいね。もしかしてどこかの貴族様だったりするんですかい」

 

 

「いえ。エミリア様がお世話になった恩人ですのでそのお礼にとレムと姉様がお世話をしてあげているだけです―――紹介します。今度、こちらの村に住むこととなった『無職のアキラ君』です」

 

「初対面の人の前でイヤな二つ名つけないでくれるっ!?俺だってこのどん詰まりの人生から脱却しようと必死なんですけど!」

 

 

「なんだ、アンちゃん、この村に引っ越してきたのかい。今、どこに住んでるんだい?」

 

 

「・・・ロズワールの許可を得て。今は村の端っこにある古びた空き家を間借りさせてもらってるッス。そこで今日立ち上げたばかりの『万屋金剛』っての開いたから、今後ご贔屓にしてくれると助かるぜ」

 

 

「『よろずや』?・・・そいつはいったい何をするんでい?」

 

 

「体のいい雑用屋ッスよ。大工仕事でも人探しでも何でもやるっすけど・・・『壊れたものをなおす』ことが一番の得意仕事ッスね。もし何か壊れたもんがあったら遠慮なく言って欲しいッス」

 

 

「・・・はぁ~~~~ん」

 

 

「うっわぁ~~~・・・すっげえ微妙な反応。全然理解示す気なさそう。やっぱり『万屋』ってのはこの世界で無理があるのかな」

 

「いえ、いかにもつぶしの効かないアキラ君にはうってつけの仕事だと思います。姉様も『無知蒙昧なジョジョもいずれ現実を思い知るわ』と言っていました」

 

「知ってるよ、それっ!昨日、ラムに直接言われたしっ!」

 

 

 

 

 

店員の兄ちゃんにもすこぶる微妙な顔をされた。グレート・・・どうして『万屋』って仕事は異世界においても何かと不運に巻き込まれるんだ。そこまでうさん臭がらなくてもいいじゃねえか。

 

 

その後もレムさんの買い物に付き合いながらも宣伝広報活動を続けてみるも結果は芳しくなかった――――むしろ、万屋って名前が浸透する気配もないんだぜぇ。

 

 

 

 

 

「―――やれやれだぜ・・・あれだけ広報活動を続けてるのに全然手応えがないときた。こいつは・・・思ったよりもヘビーな状況だぜ」

 

「アキラ君は自分で『何か行動を起こしていれば何かが変わる』って言ったばかりですが。この短時間で心折れるような覚悟だったのですか?」

 

「まさか!それこそまさかだぜっ。エミリアと出会ってちゃんと学んだんだぜ。諦めの悪さならよ。それにこんくらいのことで挫けてラムに罵倒されるなんざ真っ平ごめんだしな」

 

「・・・そうですか。それならよかったんですけど」

 

「あれ?もしかして心配してくれてた感じッスか?」

 

「いえ。レムは別に・・・ただ、エミリア様がアキラ君のことを心配されておりましたので」

 

「あいつどんだけ俺のこと心配しての!?『はじめてのおつかい』を見送った過保護な母親みたいになってるんだけどっ」

 

 

 

 

 

やはり、レムさんはそれとなく俺を元気付けようとしてれているようだ。エミリアが心配していたっていうのも事実だろうけど・・・レムさんの言葉に含まれた優しさは決して上っ面だけのものじゃあない。

 

 

―――まあ、そこんところは認めたくないが“姉譲り”なんだろうな。素直じゃない毒々しくも優しい言葉は、本当・・・姉妹そっくりなんだぜ。

 

 

買い物袋を抱えたままレムさんとそんな会話をしているとちょうど村の出口に差し掛かった。

 

 

 

 

 

「―――ここまでで結構です」

 

「え?・・・屋敷までは全然距離が先ッスよ。もう少し先まで送りますよ」

 

「いえ。本当にここまでで結構です。もう日も沈みかけていますし・・・アキラ君が往復して村に帰る頃には夜になってしまいます。夜になると魔獣が活発に動き出してしまうので森の中に入るのは非常に危険です」

 

「・・・正直、この前の腸狩りや禁書目録のドリルツインテールの方がよっぽど危険だと思うんだがよぉ~。つーか、やっぱこの国にもモンスターとかいるんスか?」

 

「はい。魔獣は、魔力を持つ人類の外敵です。人類に仇為すため、魔女が生み出したと言い伝えられています」

 

「“魔女”ね・・・魔女と聞くと俺はウィッ●クラフトワークスしか出てこないんだけどな。じゃあ、村にも魔獣が入らないよう何か防護措置をしてあるんスか?」

 

「はい―――《スッ》―――“あそこ”にあるのが結界を繋ぐ魔石です。あれが正常に機能している限りは魔獣は境界を踏み越えては来れません」

 

「ああ。あれか・・・この村に来たときから何度も見かけたから『何かな』とは思っていたんだけど。そんな意味があったのか」

 

 

 

 

 

レムさんが樹に埋め込まれた宝石のようなものを指差した。それは確かにうっすらと電球のように明かりを灯しており何かしらの加護が付与されていることが見てとれる。

 

 

 

 

 

「ですのでくれぐれも森の中には入らないようにしてください。昼間であっても魔獣に襲われる可能性は十分にありますので」

 

「おうよ!何から何まで助かったぜ。サンキューな、レムさん。エミリアとラムにもよろしく言っておいてくれ」

 

「―――はい。では失礼いたします」

 

 

 

 

 

レムさんは浅く一礼をするとそのまま両手いっぱいに買った荷物を抱えて帰っていった。恩を返すどころかあの人にまた借りが出来ちまったんだぜ。 

 

 

 

 

 

「ここは男らしく出世払いといきたいところだけどよ~。こんな小さな村で万屋で大稼ぎなんて出来そうもねえしな。マジで金策考えねえとつんじまうぞ、コレ――――あん?」

 

 

 

 

 

自宅へと帰る途中で俺はあることに気がついた―――――『結界』を繋いでいる魔石が“一個だけ”光を失っていた。どうやら壊れたのか、あるいは何かの弾みで効力を失ってしまったようだ。

 

 

 

 

 

「グレート・・・危ねえところだったぜ。あれを気づかずに放置していたらマジにやばかったかもな――――――“クレイジーダイヤモンド”《ドンッ!》」

 

『ドラァアッ!!《ドゴォッ!》』

 

 

ズギュゥウウウンッッ!

 

 

 

 

 

俺はすぐさまクレイジーダイヤモンドを召喚して光を失った魔石を殴り付けた。すると元通りになおった魔石が再び光を取り戻した。

 

 

 

 

 

「どうやら“元通りに直った”ようだぜ。さてと・・・帰って飯にすっかな」

 

 

 

 

 

この時の俺はまだ知る由もなかった。敵スタンド使いはもう既に第二の刺客を送り込んでいたことに。この何気ない行動がまた『運命』を変えてしまっていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――4.926318152《カシャッ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アーラム村新居にて三日目。

 

 

 

 

 

チュンチュン…ッ

 

 

「―――グレート。いい朝だぜ」

 

 

 

 

 

こう見えて俺の朝は早い。意外に思うかもしれないが、俺は一日三食食べることを大事にしている。朝食を食べるためには早起きは鉄則なのだ。

 

だが、今日早起きしたのは実のところ別の狙いがあってのことだぜ。

 

 

 

―――――早朝、村人が起きてくる前に村の至るところを『破壊して』回らなくてはならないんだぜっ!

 

 

 

言っておくが、これはテロではないっ!ましてや悪事でもない!―――純粋な『営業活動』だぜ!

 

このまま何もせずにいたら俺の『万屋金剛』は営業を始める前に終わりだ。そうなってしまっては俺の明日がない!しからば無理矢理にでも宣伝活動を行うしかないんだぜっ。

 

 

 

――――――そのために俺は村の至る施設を早朝に破壊して回り、困っているところに颯爽と現れ目の前で元通りに直して見せるっ!

 

 

 

一見、マッチポンプと思うかもしれない。しかし、俺は誰にも迷惑をかけるつもりはない。あくまでも自分で壊したものを元通りに直して見せるだけだ。

 

テレビショッピングで商品の性能を実際に見せて視聴者の購買意欲を促すのと同じだ。俺は自分の持つ『クレイジーダイヤモンド』の『直す力』を宣伝しているだけなんだぜ。

 

 

 

 

 

「間違っているのは俺じゃない。世界の方だっ!ゆえに!俺は何をしても許されるっ!――――――俺は、この村で万屋を営み・・・いずれは英雄となるんだぜっ!」

 

 

 

 

 

 

俺はこれでもかという悪人面を浮かべて勢いよく外へ駆け出していった。何故なら、俺は自分の計画に自信があったからだ。誰にも迷惑をかけずに犯行を済ませる自信があったし、何よりも俺のクレイジーダイヤモンドの能力に絶対の自信があった。

 

 

だが、俺はこのとき失念していたことがあった。俺は昔から運がいいのか悪いのか――――――この手の悪巧みが一度たりとも成功したことがなかったということを。

 

 

 

 

 

♪~~~ラジオ体操第一のBGM ~~~

 

 

 

「歌舞伎町ラジオ体操第一っ!!よぉ~~~いっ」

 

 

「「「「「よぉ~~~い」」」」」

 

 

 

 

 

―――どうしてこうなった?

 

 

―――何故、俺の目の前にはこんなにガキ共がいやがるんだ。

 

 

いや、そもそもテメーら・・・朝早すぎんだろっ。夏休みにカブトムシやクワガタ獲りに来た小学生じゃねえんだぞ。何で明け方に友達5、6人でじゃれあってやがるんだよ。

 

お前らに見つかったせいで破壊活動ができなくなっちまったじゃねえか。

 

 

 

 

 

「まずは、腕を前から上に大きく背伸びをする運動っ!―――1・2・3・4・5・6・7・8!」

 

 

「「「「「「「2・2・3・4・5・6・7・8!」」」」」」」

 

 

 

 

 

そして、ジジイ・ババア共・・・テメエらは何でそれよりも早く起きてんだよ?

 

老人は早起きとはよく言うが、健康のために外散歩してんじゃねえよ。開店前の店の掃除してんじゃねえよ。そんなに早くやっても客はどうせ来ねえだろうがよ。

 

 

 

 

 

「膝を前から倒し腕を横に『お酒を注ぐキャバ嬢』の運動っ!―――1・2・3・4・5・6・7・8!」

 

 

「「「「「「「「「「2・2・3・4・5・6・7・8!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

そして、村の青年団ども・・・テメエらも真面目に自警団の真似事してんじゃねえよ。こんな村に泥棒が入ってくるわけねえだろ。よしんば強盗事件があったとしても年に一回あるかないかの大事件だろ。

 

畑仕事だったり、パン屋の仕込みだったり、どいつもこいつも勤勉すぎんだろ。その年頃の若者はだらけてなんぼだろうが、ヲイッ!

 

 

 

 

 

「身体を地に伏せ『ソープ嬢の“おむかえ”』の運動っ!―――イラッシャイマセー イラッシャイマセー」

 

 

「「「「「「「「「「「イラッシャイマセー イラッシャイマセー!」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

そうだよ。こんなこと最初からわかりきってたんだよ。中世の田舎村に暮らす住人の朝はことごとく早いんだぜ。現代っ子の俺はそこんところなめてかかってたんだぜ。

 

 

 

 

 

「足を大きくひらき『ストリップ嬢』の運動っ!―――1・2・3・4・5・6・7・8!」

 

 

「「「「「「「「「「「2・2・3・4・5・6・7・8!」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

周りが勤勉に働いている中、俺だけ何もせずに朝から出歩いていたら不審者扱いされる。仕方がなく『ラジオ体操をしていたら爽やかな青年を演じて』いたら・・・

 

 

――――――いつの間にやら、野次馬が集まり、ガキが集まり、ジジイババアが集まり、青年団がやってきて、朝の仕事仕度を終えたおじさん連中も集まり・・・こんな大所帯になってしまった。

 

お陰で俺はこのラジオ体操を五回もやるはめになった。

 

 

 

 

 

「グレート・・・今時、町内会のおっさんでもやらないことをマジになってやっちまったよ」

 

 

「マダオの兄ちゃんっ、もうやんねえの?」

「マダオだからどうせ暇なんでしょ?」

「もう少しやろうよ。マダオの兄ちゃん」

「ねえねえ、マダオの兄ちゃん。さっきの音楽どうやって流してたの?ねえねえ!」

 

 

「だぁあああっ!うっせえぞ、テメエら!人を不名誉なあだ名で呼んでんじゃねえっ!というかそんな不謹慎な単語どこで覚えてきやがった!?」

 

 

 

 

 

そして、気がつかぬ間に俺はガキどもに『マダオ』認定されてしまっていたらしい。現状、うだつの上がらない無職の俺ではあまり強く言い返せないのが辛いところだ。

 

だが、このラジオ体操を通じて村人と微かに打ち解けることができたかもしれない。そう思うとコレも悪いことではない。

 

 

 

 

 

「兄ちゃん、朝から精が出るね」

 

「あんた・・・昨日、会った」

 

「《がしっ》―――おうよっ!あん時はけったいな兄ちゃんが来たとばかり思っていたが・・・なかなか見所のあるのが来たじゃねえの。さすがは領主様が見込んだだけのことはあるな」

 

「アレを見込まれていたと言っていいのかわかんねえがよ・・・何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。万屋金剛はいつでも営業中だからよ」

 

「ハッハッハッハッ!考えとくぜ。俺らが仕事を恵んでやらねえと兄ちゃんはすぐ飢え死にしちまいそうだしな」

 

「やれやれ・・・何もかもお見通しかよ」

 

 

ぬろんっ

 

 

「うぅわぁあああっ!?」

 

 

「―――ゥケケケッ・・・若返った若返った」

 

 

「な、なんだよ、あの婆さんは!?」

 

「ハハハハハッ、早速兄ちゃんもやられたか。あの人はいつもそうなんだ。若い男の尻を撫でては『若返った若返った』って悦んでやがる。兄ちゃんも災難だったな」

 

「―――ババアの逆セクハラかよ。ぞわっとしたぜ」

 

 

 

 

 

しわくちゃの婆さんに尻を撫でられるという珍事もあったが、コレはコレで信頼を勝ち得ていると見ていいんかもな。少なくとも全員とはいかないが、これで一部の村民とはそれなりに打ち解けたと思うぜ。

 

 

―――早起きは三文の徳とは言うが・・・俺が稼げたのは三文銭に遠く及んでいない気がするんだぜ。

 

 

 

 

 

「・・・少なくともマダオから『ラジオ体操のお兄さん』くらいには昇進できたかな。やれやれ、前途多難なこったぜ」

 

 

 

 

 

今日はもう帰ってゆっくりしよう――――――また一つ策を考えなければならない・・・せめて生き残る手をな。

 

今は帰ろう。ロズワールとレムさんからもらった(ラムは除外)―――俺だけの居場所へ・・・

 

 

 

 

 

――――――と思っていたんだがよぉ~~~。

 

 

 

 

 

「ねえねえ!マダオの兄ちゃん、いつからここに住んでるの?」

「スッゴクきれいになっている~。マダオの兄ちゃんがそうじやったの?」

「なんで勝手にここすんでるんだよぉ~。ここは俺たちのナワバリだぜっ」

 

 

「だから、マダオじゃねえっつってんだろ!俺の名前は『アキラ』だ!『ジュウジョウ・アキラ』!」

 

 

「「「「「「ジョジョ・アキラ~?」」」」」」

 

 

「ジョジョじゃないっ!ジュウジョウだ!―――名前の間違え方までテンプレやってんじゃねえよっ」

 

 

 

 

 

愛しの我が家は帰ってきたらガキどもに占拠されていた。どうやら、この家は長らく住人不在だったため村のガキどもの秘密基地にされていたらしい。

 

 

 

 

 

「―――グレート・・・ロズワールのヤツ、心底面倒な物件を押し付けてくれたもんだぜ」

 

 

 

 

 

 

 




チラシの裏でリゼロSSを書いてるのは自分だけなんだなということを最近になって知りました。

話数も増えたしチラシの裏から出すことも視野に入れるべきか考え中です。

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