DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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正直、リアルが忙しくて当分更新は無理かと思った。しかし、じわじわ伸びてるお気に入りの数字に後押しを受けて頑張ってみました。

ここからはオリ展開が増えていくかも。


第16話:Jの新居/メイドは二人で一人

 

 

 

 

 

これまでの十条の奇妙な冒険は―――

 

 

 

 

 

「いきなり『お願い』だなんて厚かましいヤツなのかしら」

 

「一度でいいから『風紀委員《ジャッジメント》ですの!』って言ってもらっていいか?」

 

「お前は・・・ベティに喧嘩を売っているのかしら」

 

 

 

 

 

「グレートっ!これ、なんてエロゲだよ」

 

「大変ですわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています―――姉様が」

「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ―――レムが」

 

「発想が飛躍しすぎだろっ!・・・ってか、明らかにこの世界に存在しないエロゲの意味を正しく理解しているのはどういうことだよっ!?」

 

 

 

 

 

「何を笑ってるの!言っとくけどこれでもわたし怒ってるんですからねっ」

 

「ごめん、ごめん。今度はまた別の体操をやろうな」

 

「だから、もうやらないったら!もうっ、アキラってば、どうしてそんな意地悪なこと言うのっ」

 

 

 

 

 

「ふんもっふ!・・・ディ・モールト!ディ・モールト!良いぞ!よく手入れされているぞ。パック!―――この毛並み!ふわふわにしてモフモフ!まさに至高の逸品だ」

 

「うすぼんやりと心が読めるからわかるんだけど。“アキラ”は本気で言ってるからすごいよね。本気で僕の毛並みに夢中みたい」

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れてしまってぇ~すまないねぇ。ワタシがこの屋敷の当主『ロズワール・L・メイザース』というわけだよ―――以後お見知りおきを。“ジュウジョウ・アキラ”君」

 

「・・・グレート。俺の予想が当たって欲しくない方向に当たったぜ」

 

 

 

 

 

「今のわたしの肩書きは―――ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾でね」

 

 

「―――コイツは、グレートにヘビーだぜ」

 

 

 

 

 

―――どうなっちまうことやら、この異世界生活。

 

 

 

 

 

「―――改めて考えると何かすげえ状況だな。たまたま出会した奇妙な密入国者たる俺が将来の王様候補の大事な徽章を取り返したってのか・・・つくづく、世の中、何が幸いするかわからねえな」

 

「うん。わたしが今こうしていられるのもアキラのおかげ。だからアキラはわたしにとってすごく恩人なの。お世話になったアキラにはきちんと恩返しがしたいんだけど」

 

「何だかな、話のスケールがでかすぎてよぉ・・・恩返しなんて言われてもピンと来ないんだぜ。貴族のお嬢様どころか将来の女王様に恩を売ったなんてよぉ」

 

 

「―――しかあし、事実、君は報酬に見合うだけの相応しい偉業をなした。エミリア様の言うとお~り、遠慮はぁ要らない。褒美は思いのまま!さあ~、何でも望みを言いたまぁ~~~え」

 

 

「褒美か・・・少し前の俺なら願ってもない言葉だったんだけどよぉ」

 

 

 

 

 

テンション高く両手を広げて、どこぞのランプの魔神のように願い事を言えと迫ってくるロズワール。

 

―――本来であれば今、ここで言うべき望みは一つだ。

 

 

 

 

『俺をこの屋敷で雇ってくれ』

 

 

 

 

だが、そうなると敵はますますエミリアを執念深く狙ってくることになるぜ。

 

 

当然だ。何せ自分と同じスタンド使いがエミリアの近くにいるんだからよ。しかも、俺はこの世界でおそらく唯一『バイツァダスト』を解除できる人間だ。敵スタンド使いは間違いなく俺のことを探しているはずだ。

 

今後、敵スタンド使いから干渉されずに異世界生活を送るためにはエミリアと同じ屋敷で暮らすなどもっての他だ。

 

 

―――エミリアに近づかずに自分の生活を確保する。そのためには・・・

 

 

 

 

 

「じゃあ、あんたにお願いしたいことが2つほどあるんだけどよぉ。頼んでもいいか?」

 

 

「もちろんさぁっ!何でもいってくれて構わないよ」

 

 

「よしっ!では、まず一つ目の願いだ――――――『俺が住める空き家を用意してくれ』!」

 

 

「・・・空き家?」

 

「これはこれはずいぶんと変わったお願いだぁ~~ね」

 

 

 

 

 

俺はいろいろと考えた結果、まず重要なのは自分が住める場所があることが一番大事と考えた。

 

 

 

 

 

「言い方を変えれば『身寄りのない俺が自立できる環境を寄越して欲しい』ってことだ。あんたからしてみてもよぉ~、悪い話じゃあねえんじゃねえか?俺みたいな不審人物を放逐するよりも監視の名目で自分の目につく場所に軟禁しておく方がいいだろう」

 

 

「そんなこと気にしなくてもいいのに・・・」

 

「確かにね。君の言うことも一理あるね~え。君の人となりは十分理解しているけえ~~ど。王候補であるエミリア様に害が及ばないとは限らないしね―――わかったよ。君の言う通りすぐに手配しよう。ついでに路銀も渡そうじゃあ~~~ないか」

 

 

「助かるぜぇ。まさに至れり尽くせりだな」

 

 

 

 

 

エミリアは純粋に俺のことを心配してるんだろうけどよぉ。ロズワールは名家の人間だけあってその辺のところをよく理解しているようだぜぇ。

 

 

そう。これで全てが円満に収まる。

 

 

異世界召喚され、美少女ヒロインと立ちはだかる困難を乗り越え、最後は数々のフラグを回収して、いずれはラノベよろしくハッピーエンドで結ばれる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――・・・等と考えていたのか、この阿呆がっ!!

 

 

 

 

 

この『十条旭』を見くびってもらっては困る。俺は美少女とのフラグよりもあえて『平穏』を追い求める男だぜぇ!

 

 

エミリアを狙うくそったれなストーカースタンド使い!?そんなの知ったことかぁ!なぜ・・・何故、俺がそんなグレートにヘビーな敵を相手にストレスを抱えて生きていかなくてはならんのだ!?

 

 

なぜ殺人鬼のために俺がビクビク後悔して『お願い神様助けて』って感じに暮らさなくっちゃあならないんだ!?―――『逆』じゃあないか!?

 

 

どうして!ヒロインとのハーレムライフのためなら『俺の全てをかけて君を護る!例え、この命がつきようとも君には指一本触れさせない』って願わなくっちゃあならないんだ!?

 

 

 

激しい『喜び』はいらない・・・そのかわり深い『絶望』もない。『植物の心』のような人生を。そんな『平穏な異世界生活』こそ俺の目標なんだぜぇ!

 

 

 

確かにフラグは欲しい。ヒロインと甘酸っぱいToLOVEるだらけの青春はしたい――――――だが、『食う寝る遊ぶの3連コンボ』・・・ニートを越えた『干物男ライフ』を送ることに比べれば、それも取るに足らないヘタレ男の微かな願望に過ぎないんだぜ。

 

 

 

 

 

「アキラ・・・本当にそんなことでいいの?」

 

「ああ。少しのお金と明日のパンツがあれば十分なんだぜ」

 

「アキラって子はつくづく欲がないのね。これはアキラへのご褒美なんだからもうちょっとがっついたってわたしは怒らないのに」

 

「だから、その上から目線っつーか・・・お袋目線で俺を扱うのはやめねえか?」

 

 

 

 

 

こんな干物道を極めんとする男のことを本気で気遣うエミリア。

 

正直、素直にもったいない気もするぜ。よもやこんな超絶美少女ヒロインとのフラグを棒に振ろうだなんてよぉ――――――残念だな、エミリア・・・君はいいヒロインであったが、君を追うストーカー殺人鬼がいけないのだよ!

 

 

 

 

 

「そぉれでぇ~~~、一つ目の願いは叶えると約束したんだぁがねぇ。君のもう一つの願いとやらはなぁ~んなのか、まだ聞いていないんだけどぉ~ね」

 

 

「ああ。それか・・・そっちはもっと簡単だ。これは至って個人的なお願いだからな」

 

 

「ほう。聞こうじゃあ~ないか」

 

 

「一度でいいから『最高にハイ』な感じで―――『WRYYYYYYYYYY――――――ッッ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――――ッッ!!』って言ってみて欲しいんだぜっ」

 

 

 

 

 

ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 

 

 

 

 

・・・何故か双子メイドとエミリアに殴られた。でも、その後ロズワールは結構ノリノリで俺の熱烈なリクエストに応えてやってくれた。

 

 

 

 

―――WRYYYYYYYYYY――――――ッッ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――――ッッ!!

 

 

 

 

感想はどうかって?

 

 

それはもう・・・――――――『テラ子安』としかいいようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日。

 

 

ロズワールはどうやらかなり爵位の高い貴族様であったらしくかなり広大な領地を保有する領主様でもあったらしい。

 

俺が要求してあてがわれた家はそんなロズワールの領地の一つである『アーラム村』という人口500人にも満たない村にひっそりと点在する割りと大きめの空き家だった。

 

 

 

 

 

「グレート・・・『空き家』って言ってたけどよぉ・・・これじゃあまるで廃墟だぜぇ。ロズワールのヤツ、ろくに確認しないまま俺に押し付けやがったな」

 

「ジョジョ。ロズワール様の温情に文句があるなら今すぐ出ていってもらって構わないのよ。いえ、むしろ恩知らずなジョジョには今ここでラムが制裁を下すべきなのだわ」

 

「文句を言ってる訳じゃねえぜ。ただ、あの時もうちょっと注文をつけときゃあ良かったってグチってるだけだぜ―――つーかよ、何度も言わせるな。俺の名前は『ジョジョ』じゃなくて『ジュウジョウ』だっつってんだろ」

 

 

 

 

 

とりあえず当面の寝床は確保できたものの引っ越したところで家具も食糧もお金も何も持ち合わせていなかった俺を気遣ってかロズワールは双子のメイド姉妹の内の一人、桃色の髪をしている姉の『ラム』をホームヘルパーとして派遣してくれたのだ。

 

 

 

 

 

「つーかよぉ~・・・何で派遣されたのが家事万能なレムさんじゃなくて名前すら覚えられない干物街道爆進中の姉君なんだ?こんなうる星やつらから名前だけ借りてきたようなメイド・・・お呼びじゃあねえんだっつーの―――せめて語尾に『だっちゃ』くらいつけろっ。そんくらいのキャラ作りくらいしてみやがれ」

 

「・・・なるほど。ロズワール様がこのわたしに、何故、こんな世間知らずの子守りを任せたのかわかったわ。こんなカビ臭いところにレムを遣わしたりなんてしたら、たちどころに狼に豹変したジョジョにレムが汚されてしまうものね」

 

「ざけんな!俺はレムさんをマジでRESPECTしてんだっつーの!どこぞの家事の出来ない姉と違ってな!この俺が食戟の天使であるレムさんにそんなことするわけがねえだろ――――――つーか!テメーはいい加減、名前を覚えやがれっ。俺の名前は『ジュウジョウ・アキラ』だっつってんだろ」

 

「品性がない、家事もできない、文字すら書けない。『ないない尽くし』の穀潰しがラムに名前を呼んでもらおうだなんておこがましいのだわ」

 

「んなぁ~にを言い出すのかと思えば・・・っ!文字が書けないのは他所の国から来たばかりだから当たり前だろーが。家事にしたってちょっと不器用なだけでお前よりはよっぽどできる自信あるわ」

 

「―――『不器用』って言葉使えばカッコつくと思ってんじゃないわよ。“無職”が」

 

「あっ、テメエ!いよいよ隠すのが面倒になって本性表しやがったな、チクショー!」

 

 

 

 

 

このメイド・・・家事ができないだけじゃあなく毒舌属性があるらしいぜ。しかも、その毒の威力たるやヤドクガエル並の猛毒だ――――――お陰で俺との相性は最悪なんだぜ。

 

せっかくロズワールから新居を賜って華々しく鮮烈な異世界デビューを果たそうってしてたのによぉ~。このメイドのせいでさっきからこの廃屋の清掃がちっとも進まないんだぜ。

 

 

 

 

 

「つーかよ、何で空き家だって言われているこの家にこんなゴミがあるんだぁ。おかげで掃除が全然進まないんだぜ」

 

「ロズワール様の話によると長らく空き家だったから村の人たちが不要な壊れた家具や荷物を集積していたらしいわ――――――まさに役立たずに相応しい居場所だわ《ボソッ》」

 

「体よく訳あり物件を押し付けられたわけね。これはヒドイ・・・―――それとちゃんと聞こえてるからな。この腐れメイドが」

 

「あら、それは失礼。ラムは正直者だからつい喋っちゃったわ。悪気はないから許してね―――“キラ”」

 

「いや、謝る気ねえだろ、お前!人の名前を略すなよ!どこぞの新世界の神か殺人鬼みたいになってんじゃねえかよっ」

 

「失礼。今後、気を付けるわ―――“ジョロキア”」

 

「アナグラムで呼ぶんじゃねえよ!俺は世界一辛い唐辛子かっ!」

 

「さあ、早く片付けるわよ。ラムは無職なジョジョと違って忙しいから屋敷の仕事がたくさん残ってるの。もうすぐしたらラムは帰るから・・・後は無職らしく寂しく一人でやってね。言っておくけど、屋敷に来ても無職に与える仕事はないからロズワール様のお屋敷には近づかないで頂戴」

 

「・・・一度の台詞で三回も『無職』って強調しやがったな。この貧乳駄メイド」

 

「《ポソッ》―――――・・・わ」

 

「あん?今、何か言ったか?」

 

 

 

ヒュカォォオオオオ―――――――ッッ!!

 

 

 

「・・・危ねっ!?」

 

 

 

ドボォオオオオッッ!!

 

 

 

 

 

ラムがぼそぼそ声で小さく何かを呟いたと思った次の瞬間、ラムの手から謎の衝撃波が発生し俺の顔面真横を通りすぎた。  

 

 

 

 

 

「『手が滑ったわ』と言ったのよ」

 

「全然滑ってねえだろ!ただの投球予告だろ、それっ!」

 

 

 

 

 

どうやらこの腐れメイド・・・ただのメイドではないらしい。今の現象に俺は見覚えがある。おそらくは風の魔法か何かだ。

 

 

―――ってぇ!?今の攻撃で俺の大事な大事な新居に大穴が空いちまったじゃあねえか!!

 

 

 

 

 

「オーノォーーーッ!信じらんねぇッ!なに考えてんだ、このアマ!」

 

「―――長居が過ぎたわね。わたしは屋敷に戻るけど。あなたは一人で寂しく達者で暮らしなさい、無職のジョジョ」

 

「アイーーーーっ!?人んちに置き土産しといて・・・なに自分だけのうのうと帰ろうとしてんだっ!罵倒して家壊してニートの烙印を押して帰るとか自由奔放すぎんだろっ!せめて壊した穴くらい直していけよっ!」

 

「生憎とラムはこれから屋敷に帰って壊れた外壁の補修作業をしなければならないから忙しいのよ。ジョジョと遊んでる暇はないのよ」

 

「いや、同じ『直す』なら、まずお前が壊した壁を直していけよっ!むしろ、それが最優先事項だろ!」

 

「ラムがジョジョのためにこの家の風通りを良くしておいたのだわ――――ねえ、今どんな気持ち?ラムに感謝したくなったかしら」

 

「《ピキッ》――――・・・。」

 

 

バサッ

 

 

 

 

 

―――俺はもう諦めたぜ。

 

このメイドの口撃を止めることは不可能らしい。ダメージは全て俺自身に返ってくるというならスタープラチナで時を止めてもどうすることもできない。無駄なことは諦めるぜ。

 

『諦めた』から無言で上着を脱いだ。

 

 

 

 

 

「いきなり上着を脱いでどうしたのかしら?」

 

「ひさしぶりにちと汗をかいたんでね・・・脱いだだけさ」

 

「そう。ジョジョは無職なんだからあまり無理して働くと体を壊すわよ」

 

「しかし・・・もう汗はかかないですみそうだぜ――――《ぐわしっ!ぐぐぐっ》――――投球予告をする!外角高めへストレート」

 

 

 

 

 

ムカつきMAXな俺は手近にあった廃材を引っ付かんで持ち上げた。

 

 

 

 

 

「無職がメイドに追い付けるかしら?あなたはこのラムにとってのモンキーなのよ、ジョジョ」

 

「ちがう!信念さえあれば人間に不可能はない!人間は成長するのだ―――してみせるっ!」

 

 

 

 

 

どうやら、俺とこのクソメイドとは戦う運命にあったようだ―――今、ここに決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

「ドォオオオラァァアアア・・・ッッ!!」

 

「―――『エル・フーラ』ッ!」

 

 

 

 

無駄な努力ほど無駄なものはない。

 

 

戦ったあとに俺は思った――――――なぜ、俺は『自分でなおそうと考えなかった』のか。

 

なぜ『ラムと戦ったところで体力と時間を浪費した挙げ句、自分の仕事が増えるだけだ』ということに気づけなかったのか。

 

 

そう考えることこそが無駄な努力なのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アーラム村新居にて二日目。

 

 

 

 

 

「グレート・・・村人達が捨てていったゴミが意外な形で役に立った。むしろ、家具を用意する手間が省けたぜ」

 

 

 

 

 

昨日の内にラムと二人で使えそうなゴミとそうでないものを選別して処分しておいた。お陰で残った家具をクレイジーダイヤモンドで直すだけで容易にリサイクルすることが出来た。

 

この廃屋の壊れた箇所も全てほぼほぼ元通りに修復しておいたから廃屋も『新居』同様だぜ。

 

 

 

 

 

「今日は仕事を探しにいかねえとな。ロズワールから貰った小遣いだけじゃあたかが知れてるしよぉ」

 

 

コンコンッ

 

 

「あれ?早くも来客か?―――こんなところに訪ねてくるヤツなんていたっけか」

 

 

 

 

 

もしかして余所者が空き家に無断で住み着いているとでも思われてるのか?・・・いや、村人にはこの家に昨日から人が住み始めたことは伝えておいてあるから大丈夫なはずなんだぜ。

 

 

 

 

 

「はいはーい。今、開けます―――《ガチャッ》―――え?」

 

 

「昨日ぶりですね、アキラ君。ロズワール様から頂いた新居の住み心地は如何でしょうか?」

 

 

「は?・・・れ、レムさん!?何してんスか、こんなところで!」

 

 

 

 

 

扉を開けたら手にバスケットを携えた食戟の天使レムさんがいた。俺はあまりの衝撃に一瞬我を忘れて硬直してしまった。

 

―――密かに憧れていた部活の女の先輩が、朝いきなり自宅のベルを鳴らして訪ねてきたときのような衝撃だった。

 

 

 

 

 

「レムは命令によりアキラ君の様子を見てくるように言われただけです。もともとこの村には買い物する用事がありましたから、そのついでで見に来ました」

 

 

「あっ、なるほど。そういうことね。考えてみりゃあ俺は密入国者の不審者なんだからそれも当然の措置か・・・いや、だからってわざわざレムさんが来ることぁねえだろ。ただでさえ屋敷の仕事で忙しいんだからよ」

 

 

「お屋敷の仕事はレムが不在の間、お姉さまが引き受けてくださっています。ですので何も心配はありません」

 

 

「あの姉一人であのバカデケエ屋敷の家事全部やるのか・・・話を聞くだけで不安になってくるぜぇ」

 

 

「それとエミリア様が心配されてましたよ。アキラ君がちゃんと栄養のあるものを食べているのかと。ということで今日はアキラ君への差し入れを用意しました」

 

 

「え!?・・・じゃあ、まさかそのバスケットの中身って俺のために作ったレムさんの手作り弁当!」

 

 

「いえ。これはレムのお弁当です。アキラ君の分は出発する前に姉様が試食で食べてしまわれました」

 

 

「本っっっ当にフリーダムだな!あのももいろクローバーZは!」

 

 

「冗談です。こちらはエミリア様に申し付けられアキラ君のために用意しました。あとで食べてください。バスケットは返さなくても結構です」

 

 

「グレート・・・あの姉ならやりかねないと本気で思ってしまったぜ。でも、この差し入れは純粋にありがたいぜ!サンキュー、レムさんっ!恩に着るッスよ」

 

 

「・・・『産休』?」

 

 

「俺の国の言葉で『ありがとう』って意味だぜ!レムさんの手料理ディ・モールトに美味しいから本気で楽しみだぜ」

 

 

「・・・お礼ならエミリア様に言ってください。レムはただエミリア様から申し付けられたことをやっただけですので」

 

 

「でも、作ってくれたんはレムさんだろ。マジに感謝ッスよ。屋敷離れちまったからレムさんの手料理食うチャンスはもうないと思ってたからよぉ」

 

 

「それとアキラ君の掃除は穴だらけです。このような不潔なところで暮らしていたらアキラ君を中心にこの村全体に病気が拡散する恐れがあります。よってレムはこれよりこの家のお掃除を行います《スチャッ》」

 

 

「・・・おいおい、そのモップ今どこから取り出したんスか?」

 

 

 

 

 

レムさんは無手であったにも関わらず一瞬目を離した隙にモップとバケツを装備していた―――ここに来たときは確かにバスケット以外持っていなかったはずなのに。

 

 

 

 

 

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!そんなことさせるわけにはいかないんだぜっ。レムさんは屋敷のお仕事だけでも大変だっつーのに・・・この家の掃除なんて面倒かけられないぜ。まだ弁当を作ってもらった恩も返せてねえのによ」

 

 

「繰り返しますが。食事に関してはエミリア様からのご要望にお応えしてお作りしたにすぎません。レムはこの屋敷の不潔な環境がロズワール様が統治するこの村を汚染し、引いてはロズワール様の品位が疑われてしまうことになりかねないとレムは危惧しているのです」

 

 

「汚染って・・・いくらなんでもそこまでひどくはねえだろうがよ。確かに掃除はあんまり得意じゃないけどよ―――あっ!でも、レムさんは買い出しの用事があったはずじゃあ・・・」

 

 

「大丈夫です。レムの買い出しは屋敷で不足している調味料と食材、その他生活雑貨の買い足しだけですのですぐに終わります――――――それよりもお掃除のセンスが壊滅的に欠けてるアキラ君に教育を施すことが今日のレムの一番のお仕事になります」

 

 

「なんだかよぉ~・・・そこそこの生活力があると自負していた俺としては、家事万能なレムさんにそこまで言われるとわりかし傷つくんだぜ」

 

 

 

 

 

あの干物メイドに貶された時は何とも思わなかったのによぉ。いや、そもそも一緒に掃除していてわかったが・・・あいつの掃除・洗濯スキルとやらは俺よりも低かったからな。怒る気も失せたといった方が正しいな。

 

 

 

 

 

「それと・・・アキラ君に言っておかなくてはならなくてはならないことがあります。レムはあくまでロズワール様とエミリア様にかしずくメイドですのでレムに敬称をつける必要はありません」

 

 

「いやいやいや!俺にとってレムさんは敬意に値する存在だから。俺がレムさんを『さん』付けで呼ぶのは至って自然な流れなんだぜ」

 

 

「意味がわかりません。姉様ならともかく。レムはそんな敬意を向けられるようなメイドではありません」

 

 

「うまい飯作ってくれただろ!しかも、朝食だってのにあんな時間のかかる仕込みまでしてよぉ」

 

 

「っ・・・そこまでわかるんですか?」

 

 

「当然だぜ!あのジャガイモとチーズの合わせ料理は一度食ったら忘れられねえよ。スープにしたって肉や野菜の切り分けを大きめにカットしていながらも味付け完璧だったもんな。前日にある程度の下ごしらえをしていたにしても朝からあれだけのクオリティの料理を出せるレムさんはマジで神がかってんぜ」

 

 

 

 

 

ヤベエ・・・思い出しただけでヨダレがこぼれそうだぜ。あのレベルの料理人が作った弁当をもう一度食えるんだからよぉ!これでRESPECTするなって方が無理ってもんだぜ!

 

 

 

 

 

「・・・驚きました。一回食べただけで的確な分析です。ただアキラ君と同様であまり使いとごろのない特技ですが」

 

 

「そこはそっとしといてくれよ・・・とにかく俺がレムさんを『さん』づけするのはそんなわけでさ。レムさんが不本意だろうと何だろうと俺はレムさんRESPECTをやめるつもりはねえぜ」

 

 

「わかりました。今後アキラ君がレムのことを何と呼ぼうと気にしないことにします」

 

 

「―――グレートだぜ、レムさん」

 

 

 

 

レムさんは呆れ半分ではあったが『さん』づけを許可してくれた。やはりレムさんは心優しい献身的な女性だ。

 

 

―――料理には作り手の心が現れる。

 

 

最初に彼女の作った朝食を食べたときに直感した。レムさんは心技体全てを備えた料理人であると。やはり、俺の見立ては間違いではなかった。

 

 

 

 

 

「では、お掃除を始めます。ですが、その前に・・・――――アキラ君のお掃除のダメなところを一つずつ指摘していきます」

 

 

「オッス!」

 

 

「まず、この家にある銀製のもの全てにおいて磨き方を間違えております。これを磨くときは専用の加工がなされた不織布で行わなければ表面が傷つくばかりで汚れが落ちません。昨日、お姉様に習わなかったのですか?」

 

 

「・・・それ、やったのラムなんですけど」

 

 

「―――流石、姉様です。この薄汚れた家の中で銀製品だけが光沢を放つと却って不潔感が強調されることを見越してわざと仕上げを抑えたに違いありません」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

こんな強引で軽やかな手のひら返しを見たことがないが、俺はあえてそれを黙殺した。ラムはともかくレムさんに恥をかかせるわけにはいかねえからな。

 

 

 

 

 

「と、とりあえず気を取り直して次いってみようぜ。次、お願いします!」

 

 

「この窓の清掃もひどいものですね。窓枠のところにカビが残ったままです。ホコリはとっていても肝心のカビ汚れが残ったままでは不潔さは変わりません」

 

 

「・・・そこも昨日、レムさんの姉君がやったはずなんだけどな」

 

 

「―――短時間でやったにしては素敵な仕上がりです。次に作業をしに来るレムがやり易いように一番頑固な汚れが削ぎ落としてくれております。流石、姉様です」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

耐えろ!耐えろ!耐えるんだ、俺!ここでツッコンだら敗けだ!――――――まだだ。まだ終わらぬよ!

 

 

 

 

 

「え~っと・・・じゃあ、このカーペットなんかはどうッスか!」

 

 

「完璧な仕上がりですね。温水ではなくあえて冷水で洗ったところといい、洗浄に洗髪料を使用したのも材質に合わせた完璧な選択です。流石、姉様です」

 

 

「・・・このカーペットやったの俺なんだけど」

 

 

「―――全体的に洗い方にムラがありすぎです。端っこの方が全然洗えておりません。この雑な仕事ぶり、アキラ君の面倒くさがりで適当な性格の現れだとレムは思います」

 

 

「掃除教える前にまず『依怙贔屓』って言葉を辞書で調べてくれよっ!」

 

 

 

 

 

レムさんは超一流の料理人で家事は何でもこなせる万能メイドだが、お姉様至上主義なのが珠に傷だぜ。

 

 

 

 

 

 

 




十条君の家はジョジョ四部の虹村邸をイメージしてもらえるとありがたいです。

ラムと主人公は『喧嘩友達』という関係になることはイメージ出来たのですが、出来上がった会話文を読むとシュールの一言に尽きる。というかまんま銀魂・・・。

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