DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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ロズワールの子安声は素晴らしくハマっていた。でも、ベア様の新井ボイスの方がもっとハマっていた!というか、全俺がハマった!この気持ち、まさしく愛だ!


第15話:道化と食事とネタばらし

 

 

 

 

 

 

♪~~~ラジオ体操第一のBGM ~~~

 

 

 

「―――ラジオ・JOJO体操ゥ・第一ィイイイッッ!!」

 

「ええっ、な、なに!?・・・なんなの!?」

 

「覚悟完了。体操用意!!」

 

 

 

 

 

場所は中庭。俺は携帯の中に保存してあったラジオ体操のBGMを流しながらエミリアにラジオJOJO体操を無理矢理やらせてみた。

 

 

 

 

 

「腕を大きく上に上げて―――エアロスミス発進っ!」

 

「え・・・“えあろすみす”!?」

 

「数は“素数”で数えるぅ!―――2・3・5・7! 11・13・17・19!」

 

「えっ!?素数?・・・素数ってなに!?すごく数えづらいんだけど」

 

「2・3・5・7! 11・13・17・19!」

 

 

 

 

―――手足の運動。

 

 

 

 

「手足の曲げ伸ばしー!痛みは波紋でやわらげろーっ」

 

「“破門”!?・・・破門ってなに!?」

 

「2・3・5・7! 11・13・17・19!」

 

 

 

 

―――腕を回します。

 

 

 

 

「腕を大きく回してー・・・波紋強化っ!―――外回しッ!―――内回しッ!」

 

「はやいわよ!・・・何をやってるのか全然わからないわ」

 

 

 

 

―――正面に弾みをつけて三回、後ろそり。

 

 

 

 

「俺は人間をやめるぞ、ジョジョーッ!―――WRYYYYY! WRYYYYY!」

 

「ぅ・・・うりぃ~」

 

「違う!もっとこう―――『WRYYYYY!』だ 」

 

「う・・・うりyyyy!」

 

 

 

 

―――足を戻して手足の運動。

 

 

 

 

「腕を元気よく上に伸ばす。エコーズACT3―――FREEZE! FRREZE!」

 

「・・・ふ、ふりーず!」

 

「S・H・I・T!―――FRREZE! FRREZE!」

 

 

 

 

―――足を戻して両足とび。

 

 

 

 

「座ったままの姿勢・・・膝だけで跳躍―――オラァッ! オラァッ!」

 

「出来ないわよっ、そんなこと!」

 

 

 

 

―――深呼吸。

 

 

 

 

「黄金の精神で深呼吸ー!―――ボラボラボラボラ ボラボラボラボラ―――ボラーレヴィーア!」

 

「ハァっ・・・フゥ、フゥ、フゥー・・・フゥ、フゥ」

 

 

 

 

 

ラジオJOJO体操の全ての演目が終了した頃にはエミリアは息も絶え絶えになっていた。

 

 

 

 

 

「大丈夫かよぉ?―――『俺の国の準備体操に興味がある』って言うからやらせてみたら・・・案の定ついてこれてねえじゃねえか」

 

「ハァ・・・ハァ・・・ごめん・・・でも、アキラの国の体操って・・・いろいろ、むつかしくて」

 

「だから、初心者はやめた方がいいっていったんだぜ。こんなんじゃあ今日一日乗り越えられねぇぞ」

 

「ハァ・・・ハァ・・・っ、そんなこと言われても・・・本当にしんどい」

 

「まあ、この体操を作った人の紹介文を見ると―――『運動不足の体でこの体操を実行すると、高確率で体のどこかがグキッとなります。本当に気をつけてください』と書いてあった」

 

「―――《ぴたっ》」

 

「慣れない内はみんな『この体操をするための準備体操』が必要ということだな・・・やれやれだぜ」

 

「――――――。」

 

「しかし、お前も勇気あるぜぇ。初心者のくせにそんな過酷な体操に果敢に挑もうだなんてな――――――さすがエミリア!オレ達に出来ないことを平然とやってのけるッ。そこにシビれる!憧れるゥッ!」

 

 

 

ピキッ

 

 

 

―――スカァァァアンッッ!!

 

 

 

「ぬぅうおっ!?」

 

 

 

 

本日のラジオJOJO体操―――エミリアからの怒りのエメラルドスプラッシュを顔面に受けたことにより幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もうっ!アキラのバカ!意地悪!オタンコナス!」

 

「悪かったってばよ。そんな怒んなくてもいいじゃねえか。最初に『興味がある』って言ったのはお前の方なんだし、半分はお前のせいだぞ」

 

「一番肝心なことを言わなかったくせにっ!おかげで足がさっきからずっとピリピリしてるわよ」

 

「それは多分DIOの『WRYYYYY!』と承太郎の『やれやれだぜ』のポーズのせいだな。大丈夫!この運動はダイエット効果もあるから。根気よく続けていけばやせるぜ」

 

「あんなこともう二度とやらないわよっ」

 

 

 

 

 

頬を膨らませてすっかりへそを曲げてしまったエミリア。だけど『ぷんすこ』と怒りを露にするエミリアは怖いどころか逆に可愛らしくてむしろ思わず吹き出してしまった。小さい男の子が気になる女子に意地悪したくなる気分が改めてよくわかるというものだ。

 

―――すごく綺麗な顔立ちしてるくせにこういう幼い仕草や表情が本当によく似合ってるんだぜ。

 

 

 

 

 

「何を笑ってるの!言っとくけどこれでもわたし怒ってるんですからねっ」

 

「ごめん、ごめん。今度はまた別の体操をやろうな」

 

「だから、もうやらないったら!もうっ、アキラってば、どうしてそんな意地悪なこと言うのっ」

 

 

『《ぴょこっ》―――そりゃあ、気になる女の子には意地悪したくなるというのが男の子の性だもんね』

 

 

 

 

 

そう言ってエミリアの頭上にひょっこりと姿を現したのはあの猫神様パックであった。何かものすごく久しぶりに見たような気がした。そう言えばエルザとの戦闘中に駆け付けたときには既に姿がなかったな。

 

 

 

 

 

「おはよう、パック。昨日は無理させちゃってごめんね」

 

「おはよう、リア。昨日は危うく君を失うところだったよ。君には感謝してもし足りないくらいだね―――何かお礼をしなきゃいけないね!なにかしてほしいこととかあれば何でも言っておくれよ」

 

 

「―――ん?今、何でもするって言ったよね?」

 

 

「あ、アキラ、ちょっと目が怖いわよ」

 

「いいよ!ボクはこれでも精霊だからねっ。大抵のことはできるから大丈夫」

 

 

「グレートっ!だったら是非ともお前にしか出来ないおねがいがあるんだぜっ!」

 

 

「・・・パックにしかできないこと?」

 

「いいよっ!何でも言っておくれよ」

 

 

 

 

 

俺がパックに望むことなど一つしかない。エミリアと一度敵対したこのルートではもう叶わないと思っていたことがあったんだぜ。

 

 

 

 

「是非ともお前をモフりてぇ!というかむしろモフらせろ!お前に拒否権はねえっ!」

 

「そんなことならお安いご用だよー。アキラにだったらいくらでも撫でさせてあげるよ」

 

「グレートっ!だったら、遠慮なく撫でさせてもらうぜ!」

 

 

「ちょ、ちょっとアキラ・・・本当にそんなことでいいの!?」

 

 

「それでいいっ・・・むしろ、それがいいっ!」

 

 

 

モフモフ モフモフ

 

 

 

「ふんもっふ!・・・ディ・モールト!ディ・モールト!良いぞ!よく手入れされているぞ。パック!―――この毛並み!ふわふわにしてモフモフ!まさに至高の逸品だ」

 

「うすぼんやりと心が読めるからわかるんだけど。“アキラ”は本気で言ってるからすごいよね。本気で僕の毛並みに夢中みたい」

 

「当たり前だろっ!動物は好きだからな。特に猫の毛並みはモフモフしてるからなおよしだぜっ!犬も好きなんだけどよぉ~。犬で愛でるなら短毛種の方が好みだな――――って、オイ。お前、俺の名前を」

 

「リアから聞いたよ。アキラがリアを庇って血みどろになって戦ってくれたって、すごく感謝してたけどすごく心配してたよ~。だから、アキラが無事に目を覚ましてくれて本当によかったよ」

 

 

「っ・・・パック!変なこと言わないで」

 

 

「本当のことじゃないか~。『アキラが倒れたのはわたしの責任だ』ってずっと思い詰めていたからね。これでリアも肩の荷が下りて本当に良かったよ」

 

「・・・その『リア』ってのはエミリアの愛称か?」

 

「うんっ!アキラには特別にエミリアのこと『リア』って呼ぶことを許してあげるから呼んでみるといいよ」

 

「ありがてぇ申し出だけどよぉ~。ちっとそれはレベルが高すぎるんだぜ。この血に宿す『ぼっちの運命』に勝つことから始めねえとならねえからな―――一先ず、今はこの至高の毛並みを堪能させてもらうぜ《モフモフモフモフ》」

 

「んふぅ~~~~♪」

 

 

 

 

 

この異世界生活が始まる前はスクールカースト最下層の『オタク』だったからな。彼女はおろか女子の友達なんてのもいた試しがない――――グレートっ、俺の青春は始まる前から灰色の青春疾走《グレースケールオーバードライブ》だぜ。

 

 

 

 

 

「―――ホント、アキラって不思議・・・こんな子はじめて」

 

「ん?」

 

「・・・何でもない。アキラはやっぱり変な子だなって思っただけ」

 

「そうか?このモフモフの魅力に逆らえるやつなんてそうはいないぜ」

 

「そういう意味じゃないったら」

 

 

ザッ

 

 

「「―――エミリア様」」

 

 

 

 

 

エミリアが何かを言いかけた矢先にあの双子のメイド姉妹が背後から姿を現した。

 

 

 

 

「ラム、レム。二人揃ってどうしたの?」

 

 

「「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」」

 

 

「うん、わかった。すぐ行くわ」

 

 

「―――じゃあ、お前がいってる間に俺はここでパックとスーパーモフモフタイムを堪能させてもらうぜ」

 

 

「何を言ってるの?アキラにもちゃんと来てもらうんだからね。アキラにはいろいろと説明してもらわなきゃならないことがいっぱいあるんだから」

 

 

「・・・え゛?」

 

 

 

 

どうやら俺を取り巻く環境はまだ収まったわけではないらしい―――いや、寧ろ・・・ここからが本当の地獄だっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――当主に顔合わせするんなら、お前の用件が終わった後の方がよくねえか?俺みてぇな得たいの知れないヤツをいきなり連れてこられたら相手もビックリするんじゃねえか」

 

「そこは心配ないわ。ロズワールにはもう既にアキラのことは伝えておいてあるから。そんなに固くならなくても大丈夫。ロズワールもきっとアキラのことを気に入ると思うから」

 

「・・・どうだかな」

 

 

 

 

 

俺はこれでも自分が変わり者だというある程度の自覚はあるつもりだ。自分の自己分析を疎かにして立ち居振る舞うほど俺もバカじゃあない。

 

――――そんなヤツが貴族のお偉いさんと直接会うってんだから身構えるなと言う方が無理ってもんだぜぇ。

 

 

 

 

 

「俺、お偉いさんと会うときの礼儀作法もなにも知らねえぞ。こういうときはどうしたらいいんだ?」

 

「心配しないで。アキラはいつも通りで、ありのままでいてくれればいいのよ・・・ロズワールはそういうの気にしないと思うから」

 

「そのロズワールって人は、それだけおおらかな人ってことかよ」

 

「お、『おおらかな人』って表現も・・・何か違う気がするんだけど―――ごめん。うまく説明できないかも」

 

 

 

 

 

エミリアは説明を諦めて苦笑いを浮かべている。どうやらロズワールってのは、あのエミリアが説明に窮するほどの個性的な人物であるらしい。

 

 

 

 

 

「そういやぁパックが急にどこかいなくなっちまったけどよぉ。どこ行ったんだ?」

 

「パックは屋敷に帰ってきたらまず必ず会わないといけない子がいるのよ。アキラももう既に会ってきたでしょ」

 

「・・・パックが会わないといけない俺が既に顔を会わせたヤツ――――って・・・オイオイ、それってまさか」

 

 

 

「《きゃるる~ん♪》―――にーちゃ!」

 

 

 

俺たちの目の前を弾むような足取りで通りすぎていくベアトリスがいた。

 

先程、俺を書庫から弾き飛ばしたときとは打って変わって、その顔は花が咲いたような笑み、声は甘えるようなぶりっ子ボイス、瞳の中には☆まで入っている。

 

―――オイオイ、いくらなんでもそりゃあねぇだろ。

 

 

 

 

 

「やっ、ベティー!二日ぶり。ちゃんと元気にお淑やかにしてたかい?」

 

「にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ~。今日はどこにも行く予定はないのかしら?」

 

「うん、大丈夫だよ。今日は久しぶりに二人でゆっくりしようか」

 

「わぁ~いなのよっ!」

 

 

「・・・すげえ。まさに竹を割ったような二重人格だぜ」

 

 

 

 

 

どうやらパックはこの屋敷で愛玩動物ならではの役目があったらしい。まさかあのベアトリスがあそこまでデレるとは・・・すっかりパックの魅力に骨抜きにされてメロメロだ。

 

 

 

 

 

「おったまげたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」

 

「『おったまげた』っつーか、ある意味納得っつーか――――それよりもお前の『おったまげた』に驚いたぜ。今時『おったまげた』って、なっかなか言わねえぞ」

 

「べ、別におかしくないでしょ!ちゃんとした単語なんだから別に変じゃないし」

 

「おかしくはねえがよ・・・この場合、常用性の問題だな」

 

「~~~~っ、もう!アキラの意地悪っ!だいたい言葉遣いで言えばアキラの方がよっぽど変わってるんだからね」

 

「いいんだよ、俺は。自覚してやってるから」

 

「そっちの方がよっぽどひどいわよっ!」

 

 

 

 

 

エミリアはたまに言葉遣いがババ臭―――《げふんげふんっ》・・・時代背景にそぐわないんだぜ。貴族のお嬢様ってのはみんなこんな感じなんかな。

 

 

 

 

 

「でよぉ、そのロズワールって人はいつになったら現れるんだ?もう屋敷にはついてるってのにさっきから待ってるけど一向に来ないじゃねえかよ」

 

「もうすぐ来るわよ。ロズワールは気まぐれだから・・・――――何てこと言ってたら、ほら」

 

 

コツコツコツ…

 

 

「―――おんやぁ~あ、ベアトリスも一緒に来ているとは珍しいじゃあ~ないの。久しぶりにワァ~タシと一緒に食事してくれる気になったとは嬉しいじゃあ~~~ないの」

 

 

「ベティはにーちゃさえいればそれで十分かしら。冗談は顔だけにするべきなのよ」

 

 

 

 

 

現れたのは今までの登場人物に更に輪をかけて奇抜な男だった。

 

妙にねっとりとしたしゃべり方、左右非対称のカラーリングの衣装と、手首足首に巻いた怪しげな鎖、更に顔面を化粧で不自然に真っ白にした上に紫色のアイライン――――どっからどう見ても道化《ピエロ》だぜ。いや、どちらかというとトランプの『ジョーカー』に近い。

 

 

 

 

 

「これはこれは、相変わらずベアトリスは辛辣だぁ~ね―――それはさぁ~ておいてぇ、そちらの男の子がエミリア様が話していたお方で間違いはぁ~ないのかぁ~~~な」

 

 

「・・・おい、念のためにあんたの名前を聞いてもいいか?ワンチャン、俺の思い違いという可能性もある」

 

 

「自己紹介が遅れてしまってぇ~すまないねぇ。ワタシがこの屋敷の当主『ロズワール・L・メイザース』というわけだよ―――以後お見知りおきを。“ジュウジョウ・アキラ”君」

 

 

「・・・グレート。俺の予想が当たって欲しくない方向に当たったぜ」

 

 

 

 

 

道化師の格好をしていて、どこぞの時を止める吸血鬼と同じ声をしているコイツがこのバカデカイ屋敷の当主とは・・・つくづく異世界ってのは何が起きるかわからねえな。とりあえず一つ言えることは・・・

 

 

―――子安、自重しろ。

 

 

 

 

 

「そぉれぇにぃしぃてぇもぉ・・・どぉーもフツーの人っぽいねぇ。エミリア様からは、かあ~の有名な『腸狩り』を倒したと聞いていたかあ~ら、どんな猛々しい人物かと思ってぇ~きたのに―――そればっかりはちょこぉっと残念だぁね」

 

 

「あんたと比べられたら大抵の人は普通になると思うぜ。俺もいろいろと濃いキャラには耐性があるつもりだったがよぉ・・・あんたはその中でも飛びっきり抜き出てんぜ」

 

 

「あッハァ~~ア♪嬉しいことをいってくれるじゃあ~~~~ないの。そこまで絶賛されるとワァ~タシも気分がいいと言うものだよ」

 

 

「・・・誤解のないよう言っておくが、俺は一言もあんたのことを誉めたつもりはないんだぜ」

 

 

 

 

 

変人呼ばわりされて喜ぶとはまさしく道化師《ピエロ》だな。んだけどよぉ・・・コイツを見ていると何故だか油断ならねえ気配がするんだぜぇ。特にコイツに何をされたわけでもねえはずなのにな―――子安声の影響か?

 

 

 

 

 

「でぇはぁ、長話もこれくらいにしてぇ~~~そろそろ食事にしようかぁ~~ね。お客様もお~お腹が減っていることだろうしぃ~ね」

 

 

「それはありがたいんだけどよぉ。俺は貴族様の食事のマナーがわからねえし・・・こんな綺麗なところで食事するのはちょっと―――」

 

 

「君は顔に似合わず律儀だあ~~ね。しかぁし、君はエミリア様の恩人で大切なお客人~。会食に招待したのはこちらなんだし、君は何も気にせず食事を楽しんでえ~くれたまえよ」

 

 

「ロズワールの言う通り。遠慮なんてしなくていいのよ。これは命を助けてもらったお礼なんだから」

 

 

「・・・グレート。その気遣いが逆に辛いぜぇ」

 

 

 

 

 

貴族様のマナーがわからなくて失態を犯すのが怖かったと言うのもあるが、本当のところ言ってしまうとこういう堅苦しい雰囲気の食事は苦手だから人目を憚らずガツガツ食いたかったんだけどよぉ。どうも、この場では許してくれないらしい。

 

仕方なく、案内されるまま食卓の指定された席につくと料理が並べられた。かなり高級な食材に的確に下ごしらえを加えたのであろう。そんじょそこいらではお目にかかれないかなり上質な料理だ。盛り付けは勿論、配膳も完璧だ。

 

―――この双子のメイドの有能さが改めて伺いしれるぜ。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、アキラくん。いただいてみたまえよ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ」

 

 

「・・・いただきます―――《ぱくっ》―――おおっ!?うめえ・・・すごく美味えぞっ!」

 

 

 

 

 

本当は滝のような涙を流して『うンまぁ~~~い』とリアクションをとるべきところだったのだが、そんなのを忘れるくらいに丁寧な味付けがなされた極上のスープだった。

 

 

 

 

 

「すげぇぞ!これなら『トサルディー』でもすぐに採用してくれるぜ!これ、作ったのは・・・えっと青髪の『レム』・・・さん、でよかったか?」

 

「何でわたしは呼び捨てなのにレムは『さん』づけなのよ?」

 

「うまい料理が作れるってだけで俺にとっては敬意に値するってことだぜ。まあ、朝目覚め一発にボロクソ言われたから内心複雑なんだけどよぉ」

 

「・・・ふぅ~~~ん、そうなんだ」

 

 

 

 

 

何においてもうまい食事を提供してくれる人間には最大限の敬意を示すのが俺の流儀だ。飯が美味ければそれだけで生活に彩りが出るもんな。

 

―――何故か、横から睨んでくるエミリアのジト目が怖いんだがよぉ~。

 

 

 

 

 

「―――敬称は必要ありません、お客様。それと先程の質問ですが・・・当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様はあまり料理が得意ではありませんから」

 

 

「へえ~、月●の双子姉妹ヒスコハとは逆パターンだな―――てぇことはよ、姉さんは料理が苦手だけど掃除が得意ってことか」

 

 

「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としております」

 

 

「んでもって、レムさんは料理が得意だけど掃除・洗濯は苦手ってことか」

 

 

「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意です―――姉様より」

 

 

「姉の仕事が残ってねえっ!!」

 

 

 

 

 

訂正。月●のヒスコハではなく、け●おんの平沢姉妹パターンであった。この屋敷の家事全てをレムさんが背負っているってことかよ。それはそれですごいやら空恐ろしいやらだぜ。

 

 

 

 

 

「本当に不思議だぁね~、君は。ルグニカ王国のロズワール・L・メイザースの邸宅まで来ておいて。事情を全く知らないってぇいうんだからねぇ。よく王国の入国審査を通って来れたぁもんだねぇ?」

 

 

「そこのところ、いろいろと特殊な事情があってよぉ。早い話、入国審査を受けていないんだぜ。だから、密入国ってことになるのかな」

 

 

 

 

 

まさか『異世界から召喚されました』って説明しても一笑にふされて終わりだろうから、そこのところはお茶を濁してみたんだが。隣に座っていたエミリアはこの答えがお気に召さなかったのか凄く怒った目をしてこちらを睨んできた。

 

 

 

 

 

「呆れた!あっさりとそんなこと喋っちゃって、わたし達がそれを管理局に報告したらどうなると思うの。いきなり牢屋に押し込められて、ギッタンギッタンにされるんだから」

 

「ジャ●アンか!?何で俺のことでお前がそんな心配してんだよ」

 

「心配にもなるわよ。アキラってば出会ってからずっと無茶なことばっかりしてるんだもん――――それじゃあ、アキラは今、ルグニカ王国がどんな状況にあるのか知らないってこと?」

 

「おうよ。もともとお国の事情ってヤツに大して興味はねえしよ。さんざん国民の期待を汚職で裏切ってきた政治家どもに期待をしないことにしているんだ」

 

「そうなんだ・・・アキラの住んでた国も大変なことになってるのね」

 

 

 

 

 

あれ?適当に返したつもりが妙に同情的な視線に変わっちまったぞ。俺は号泣記者会見で世界中の注目を浴びた人物のことを思い出して言っただけなんだけどよぉ。

 

 

 

 

「なぁ~るほどねぇ・・・君は祖国に裏切られ、国を捨てて、このルグニカ王国に亡命を図ったというわけだあ~ね。しかし、よくこのルグニカ王国に密入国できたものだぁね。今のルグニカは戒厳令が敷かれぇ~、特に他国との出入国に関しては緊迫した状態が続いているのにねぇ~え」

 

 

「(何かさらっと妙な設定を追加されてるんだぜ)―――ルグニカで何かあったのか?・・・テロとか暗殺とか」

 

「あはぁ、当たらずとも遠からずだあね―――――なにせ、今のルグニカ王国には『王が不在』なもんだからねぇ」

 

 

「“不在”ぃ?・・・亡くなったってことかよ。でも、それだったら適当にその血統を継ぐ誰かが即位すればいいんじゃねえか?」

 

 

「そぉれがぁそうもぉ~~いかなくてぇね。通例ならその通りになるんだけどぉ。半年前に王が御隠れになった同時期に、城内で蔓延した流行病によってぇ不幸にも王族は皆滅んでしまったぁ~~んだよ」

 

 

「(・・・ジョースター卿と同じ、影で誰かに毒を盛られたパターンじゃあなかろうな)」

 

 

 

 

 

非常にツッコミたいところではあったが、話の腰を折るわけにもいかねえし。このルグニカ王国にとってはそれが事実なのだろう・・・真実はどうか知らねえが。

 

 

 

 

 

「そぉれでぇ~、現状の国の運営は賢人会によって行われてるんだぁけど。今は新たに王を選出しなければならない大変なぁ時期とぉいうわけだぁ~ね」

 

 

「そんな大変な時期によく俺みたいなのを屋敷に招き入れる気になったな。他国の間者だとかそういう可能性は考えなかったのかよ―――俺が言えたことじゃあねえけどよぉ」

 

 

「たぁしかに。でも、行きずりの君がぁエミリア様の命を救ってくださったぁ~~わけだしね。何のお返しもせずに君を返したとぉ~あっては我がメイザース家の沽券に関わるわけだぁね。なぁにぃよぉりぃもぉ・・・これから始まる王選にぃ~深刻な影響を与えてぇしまう――――ねぇ、“エミリア様”」

 

 

「・・・さっきから気になっていたんだけどよぉ~。屋敷の主が、エミリアを“様”付けで呼んでいるのは何なんだ?それにその口ぶりだと聞きようによっては・・・エミリアが王選に関わる重要人物に聞こえるんだが」

 

 

「言葉の通りだあよ。自分より地位の高い方を敬称で呼ぶのは当たり前のことだぁね」

 

 

「・・・おい、念のために改めてエミリアの立場を聞いてもいいか?ワンチャン、俺の思い違いという可能性もある」

 

 

「―――言っておくけど。騙そうとか、そういうこと考えてたわけじゃないからね」

 

 

 

 

 

若干、気まずそうにエミリアはひきつった笑みで自己紹介をしてくれた。

 

 

 

 

 

「今のわたしの肩書きは―――ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾でね」

 

 

「・・・グレート。俺の予想が当たって欲しくない方向に当たったぜ。パート2」

 

 

「驚かせちゃってごめんね。こんなに黙ってるつもりじゃあなかったんだけど」

 

 

 

 

 

俺がフラグを立てたのはお嬢様どころか王女様でしたってことかよ―――これなんてエロゲだ。限定版あるなら買うぞっ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、もしかしてあの騒動の切っ掛けになった徽章っていうのも―――っ!」

 

「これは王選参加者の資格。ルグニカ王国の玉座に座るのにふさわしい人物かどうか、それを確かめる試金石なの」

 

「そんな大事なもの盗られてんじゃねえよっ!」

 

「そ、そんな言い方ないでしょっ!わたしだってまさか盗られるなんて思わなかったし・・・だから、あんなに焦ってたんじゃない」

 

「グレート・・・家督を継ぐどころか、まさか王を継ぐためのアイテムだったとはよぉ。流石の俺もそこまで推理できなかったぜ―――ってえことはよ。あの殺人鬼エルザも今にして思えばエミリアを王選から蹴落とすための刺客だったって訳だな」

 

 

「だぁ~ろぉ~うねぇ。王選から脱落させるのに徽章を奪うなんてのは簡単に思いつく話だからぁ~ね」

 

 

 

 

 

あっけらかんとした口調で同意するロズワールだったが、この現状が決して楽観視できる状況でないことはこの場にいる全員が理解しているはずだ。

 

 

俺は一気に頭が痛くなってきた。

 

 

エミリアを王選から蹴落とすため―――あえて悪く言い換えれば邪魔なエミリアを“抹殺”するために敵は同時に二つの刺客を送り込んできたってことだ。

 

 

 

『腸狩りのエルザ』っていう殺人鬼と―――この世界に存在するはずのない『バイツァダスト』ってスタンドを。

 

 

 

しかも、この様子だと恐らくこれからもエミリアは狙われ続けるだろう。殺人鬼だけならともかく。もし再びバイツァダストの脅威が迫れば対抗できるのはスタンド使いである俺しかいないってぇーことだ。

 

 

 

 

 

「―――コイツは、グレートにヘビーだぜ」

 

 

 

 

 

こうして俺の異世界生活は美少女とのフラグと因縁の敵《スタンド使い》との出会いから始まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作のラジオ体操ネタを見た瞬間に真っ先に思い付いたこのネタ。我ながら安直すぎてイヤになる。


感想をつけてくださった方へ。感想ありがとうございます!

気がつけば何だかんだで15話目。正直、この作品は作者の趣味とノリで出来ており。もともとは習作として書き出した作品でもあったため、読んでくださっている読者様には感謝と同時に申し訳なさもあります。

ご期待に添える内容かどうかはわかりかねますが、一人でも多くの人が楽しんでいただけるよう頑張ります。

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