シュタインズゲートやオールユーニードイズキル・・・最近のトレンドだと君の名はなとがありますが。作者はそういう運命に抗い・勝つという作品が好きです。
ジョジョ四部の川尻早人君の孤独な戦いは何度見ても緊張感で息が詰まり、運命に勝った瞬間にカタルシスを感じたものです。
「―――なるほど。そちらのお兄さんはその“すまほ”っていうミーティアとの交換を要求してるのね」
「ああ。ハッキリ決まったわけではないが、この爺さんの見立てだと聖金貨20枚を越える価値があるって話だぜぇ」
「・・・実はわたしも依頼主からある程度余分なお金は貰ってきてあるの」
「へぇ~♪そいつはいいや!交渉のしがいがあるってもんだ。あたしは別に高く売れさえすりゃあどっちでもいいしな~」
「―――俺としちゃあ『エルザさん』にこれ以上の額を提示されると厳しいんだけどな」
俺とこの女との競りに期待してか、フェルトは随分とご機嫌だ。こんな徽章一つにそこまでの値段をつけて欲しがってるヤツが二人もいる時点でコイツはもっと怪しむべきなんだぜぇ。
片方は得たいの知れない異世界人でもう片方は殺人鬼と来たもんだ。そう考えるとフェルトも不憫というか不運だよな。
「それにしてもあなた。この子が盗んだ徽章を狙っていたところを見るとこの子が盗んだ現場に都合よく居合わせていたのかしら?」
「いや。独自の情報ルートがあってな。たまたま情報を得ることができたから慌てて交渉材料を持って駆けつけた次第だ」
「そうなの」
「ああ。この徽章は俺もずっと前々から狙っていたんでね」
何かを探るような目でこちらを見てくる殺人鬼《エルザ》。見ると言ってもただ見ているのではない観察しているんだ。俺の正体を探っている。
「でだ。この兄ちゃんは飛び出るような値段をつけた。あんたの飼い主はどんくらいの値段がつけられるんだい?」
「ふふふっ《チャリッ》」
ジャララ…ッ!
「うええ゛っ!?」
殺人鬼《エルザ》はフェルトの問いに応えて銀色の金貨を机に無遠慮に広げて見せた。
「ふむ・・・聖金貨で20枚丁度」
「わたしが雇い主から渡されている聖金貨はこれで全部。これじゃあ足りないかしら?」
「俺も大概だが・・・あんたの依頼主ってヤツもなかなかぶっ飛んだ人間のようだ」
「うふふふふ♪」
確定だ。この女は確実に“黒”だ。盗みの依頼を持ちかけたことといい。こんな異様な大金を顔色一つ変えずに積み上げるところといい。間違いなく俺“達”全員を始末するつもりでここに来たんだ。
――――さあ、ここからどう出る?
「儂の見立てじゃあこの交渉はこの兄ちゃんの勝ちじゃ。お前さんとその雇い主はその金貨は袋に戻して帰ることじゃな」
「つーことは・・・その徽章は俺のもんってことかっ!」
「そう。残念ね」
俺は油断しねえ。絶対にだ。コイツは徽章が手に入ろうが入るまいが俺達を殺す殺し屋だ。
―――見るんじゃなくて“観ろ”。聞くんじゃなくて“聴け”。コイツが仕掛けてくるタイミングを見逃すな。
「やけにあっさり引き下がるんだな。それで雇い主に何か言われたりしないのか?」
「仕方がないわ。これについては支払いを安く済ませようとした雇い主に非があるもの。わたしは与えられたもので頑張ったけどあと一歩手が届かなかった。ただそれだけよ」
「そうか。またどこかで会えたらそん時はよろしく頼むぜぇ」
「ええ。それじゃあ交渉は残念な結果だったけど。わたしはコレで失礼するわね《ガタッ》」
いつだ?いつ動く?コイツは絶対にこんなところで引き下がるようなヤツじゃない。神経を研ぎ澄ませろ。筋肉を柔らかくしろ。バイツァダストが発動していないのはまだ運命を回避できたわけではないからだ――――――まだ危機は終わっていないっ。
「ところでお兄さんに一つ聞きたかったのだけれど」
「何だよ?徽章で何をどうするつもりなのかは聞かれても話せねえよ。俺の儲け話に茶々を入れられるのはかなわねえからな」
「違うわ。わたしが聞きたいのはもっと別のことよ」
「“別のこと”だぁ?」
「ええ。あなたって随分と素敵なお友だちを持っているのね」
「・・・・・・何の話だ?」
「――――――とぼけないで。ずっと外であなたを待っている子がいるけど。あの子、ひょっとしてあなたの恋人かしら?」
「《ぞくぅっ》―――ッ!?」
ヤバイッ・・・コイツのスイッチがいつ入るのかを観察して見極めようとしていたけど甘かった。
コイツはここに入る前からとっくに――――俺達を殺す“構え”で入って来ていたんだ。
「?・・・おいおい、何だかよく知んねえけどさ。ここで騒ぎを起こすのはやめてくれよな。姉ちゃんもさ、徽章が諦められないのはわかるけど喧嘩するなら外で喧嘩……――――――」
「バカ、よせっ!そいつに近づくな!」
「・・・え?」
ヒュギィイイイーーーーーーン……ッッ!!
ブッッ……シャァアアァァアア……ッッ
閃光が走った。恐ろしく鈍く不気味な光沢を放つ刃物がフェルトの首をめがけて軌跡を描いた―――殺人鬼《エルザ》が振るったククリ刀だ。
しかし、間一髪すんでのところで俺がフェルトを抱き締めるように押し倒したことで回避できた。
ドンッ! ゴロゴロゴロ……ダァンッ
「ぁっ・・・~~~・・・ぁぁっ」
「―――あぐっ・・・くっそぉ、背中をっ・・・かわしきれなかった」
カチッ
「兄ちゃん、大丈夫か!?」
「ああ・・・お前こそ、ケガは―――」
「っ―――兄ちゃん、後ろだっ!」
「―――っ!?」
ヒュガァアア……ッッ!! ビィイイイン……ッッ
フェルトの呼び掛けに反応して何とか逆手に振り下ろされたククリ刀を立ち上がって回避できた。ククリ刀は全く無駄な切り口なく床に突き刺さっていた。
「いい動きね―――でも、残念っ《ギュルギュルッ》」
「くっ《どんっ!》」
「―――兄ちゃんっ!?」
ドゴォオオオオォ……ッッ!!
「ごふぅううっ!?」
ガシャアァアア……ッ! ズザシャァアアァ………ッ
フェルトを突き飛ばしたことにより体勢の立て直しが遅れ殺人鬼《エルザ》の回し蹴りをまともに食らってしまった。俺は盗品倉の窓を突き破って外に放り出され、勢いそのままに地面を滑っていった。
突如、本性を現した女に油断していたあたしは完全に出遅れた。あたしがノロノロしていたせいであたしを庇って今日初めて会ったばかりの兄ちゃんが斬られ、倉の外に吹っ飛ばされていった。
「―――兄ちゃんっ!?」
「あの子はあとのお楽しみね。まずはあなたから殺らせてもらおうかしら?《スラァッ、ヒュンヒュンヒュンヒュンッッ》」
「っ・・・チッキショウ!最初からこうするつもりだったってことかよ」
「口ばかり達者なだけで御粗末な仕事ぶり。貧民街の人間に期待をするだけ無駄というものね」
「ふ・ざ・け・やがってぇぇえええ・・・っ!」
どす黒く濁った肥溜めのよりも汚い目をしてあたしを見下してくる。けど、そんなことはどうでもいい。あたしが何よりも腹が立つのはこんなクソ異常者にいいように利用されちまっていたことだっ!
「《ぐおおおっ》―――下がれ、フェルトっ!!」
ゴシャアアアアア…ッッ!!
「んふ♪―――巨人族と殺し会うのは初めてよっ」
「抜かせ、小娘!挽き肉にして大鼠の餌にしてくれるっ!」
ゴシャアアアアアッッ!! ゴシャアアアアアッッ!! スドゴォオオオオッッ!!
「ロム爺っ!?」
ロム爺が自慢のエモノを振り回してエルザを追い回す。だけど、当たらない。いくら棍棒を振るってもあの女に当たる気がしない。
「ロム爺っ、ダメだぁ・・・そいつはなんかヤバイっ!」
「っ―――フェルト、早く逃げろっ!外に転がっている兄ちゃんもまだ生きておるっ!早く逃げるんじゃっ!行けっ!」
「・・・でもっ!!」
「一人も逃がさないわっ!目撃者は一人残らずここで死ぬのよ《ヒュカァッッ!!》」
「ふんのぉおおおっ!」
やっぱダメだっ!!ロム爺の棍棒が今日に限って全然当たらねえっ。いつもよりロム爺の動きが鈍く見える。疲れた・・・って訳じゃあねえよな。
―――違う。あの女がロム爺よりも圧倒的に・・・圧倒的に速すぎるんだっ!
「ふごぉおおおおおおっっ!!《ゴシャアアアアアッッ!!》」
「御老体にダンスの相手が務まるのかしら?」
「お前こそ、そんな細っこい体で儂の激しい動きに耐えられるのか、小娘っ!!《ぐぅおおおっ!!》」
ビュゴォオオオオオオオオオオ……ッッ!!
「っ・・・ロム爺!上だーーー!」
ストッ
「な・・・なにぃイ!?」
ロム爺が全力で棍棒を振り抜いたが、あのクソ異常者はまるで木の葉みてえにふわふわとした動きでかわしてロム爺の棍棒の上に乗った。ダメだ、あのロム爺が・・・てんで歯が立たねえ。
「やっぱりわたくしとダンスを踊るにはあなたは年老いすぎていたようね《ギラッ!》」
ズバッシャァアアアアアア……ッッ!!
「っ・・・ご、ぁあああああっ!?」
「~~~~~~っ・・・ロム爺ーーーーーっっ!!」
ロム爺の武器を握っていた腕が肩口からバッサリと切り落とされてしまった。何でだ!?あんな細っこい剣で丸太みたいにぶっといロム爺の腕がまるで野菜を切るみてえに・・・っ!
「《ぶしゃあああっ》―――っ・・・おっ・・・あごっ・・・おおお、おおおおお・・・っ!」
「あなたとのダンス、なかなか刺激的でしたわよ。御老人―――でも、残念。もう飽きたわ《スラァンッ》」
「やめろーーーっ、テメエっ!!ロム爺から離れろっ!《ヒュンッ!》」
ガキィイイイイイン……ッッ!!
「っ!?」
「―――あらあら、惨めねぇ。もしかして今のがお嬢ちゃんの精一杯だったかしら」
わたしが腰にさしていた剣を投げつけてもあの女は見向きもしないで剣を弾き落としてしまった。
―――勝てねえ。桁違いの化け物を相手にしちまった。
「フェルトッ!」
「・・・ロム爺、動いちゃダメだぁ!!」
「安心しなさい。寂しくないよう仲良く二人とも殺してあげるから」
「くっ・・・チクショウ」
「ぐうっ、こむすめっ・・・がぁ」
あの女が剣を構えてじわじわと歩み寄ってくる。くそぉっ!あたしももう武器がねえ。ロム爺もこのままだと死んじまう―――ヤベェっ!何にも思い付かねえ!
「お死になさいっ♪」
ドギュンッッ!!
「《ガギィイインッッ》―――っ!?」
目の前のクソ殺人鬼があたし達に歩み寄ろうとした瞬間、緑色の氷柱のようなものがあの女めがけて飛んできた。出所は――――――さっきあの兄ちゃんが吹っ飛ばされた穴からだ。
「――― 念のため聞いておくけど。あなたで間違いないのよね?“あの子”をこんな目に遭わせたのは」
「あら~ぁ・・・そういえばあなたがまだ外にいたことを忘れていたわ」
そこにはわたしが徽章を盗んでやったあの銀髪の姉ちゃんが立っていた。
「答えて。あの子にあんな酷いことをしたのはあなたなんでしょうっ!」
「“あの子”というのが誰のことかわからないのだけれど・・・もしかしてさっきわたしに蹴られて潰れたカエルみたいな声をあげていたお間抜けさんのことかしら?」
「・・・っ!《コォオオオオオオッッ、ピキピキキイッ》」
「何をそんなに怒ってるのかしらぁ?そんなにあの子のことが大事なのかしら?何の縁もゆかりもない赤の他人なんでしょう」
「―――《ギリリ…ッ》」
確かにあの銀髪の姉ちゃんスゴくキレてる。もともと猫みてえなつり目だったのが怒りで更につり上がっているのがわかる。紫色の瞳も猫みたいに細くなっている気がする。
「・・・ええ、あなたの言う通りよ。あの子が傷ついたところでわたしには関係ないわ。あの子とわたしは赤の他人ですもの。でもね・・・―――――あの子とは『今日一日の長い付き合い』なの。だから、傷ついたあの子に代わってわたしがあなたの相手をしてあげる」
「おかしなこと言うのね。あなたっ―――《ヒュンッ!!ヒュンヒュンヒュンヒュンッッ》―――ますますあなたのお腹の中を覗いてみたくなったわ」
猫目の姉ちゃんはあの兄ちゃんは関係ねえって言ってるけど。あの姉ちゃんがさっきの兄ちゃんを痛めつけられ、更にそれを侮辱されたことに怒ってることくらいわたしにもわかる。
――――――あの兄ちゃんと猫目の姉ちゃんはいったいどういう関係なんだ?
「あなたが外からこの盗品倉の様子を窺っていたことは気づいていたのだけれど・・・まさかここで自分からしゃしゃり出てくるなんて――――――そんなにわたしに殺して欲しかった?」
ヒュ……ッ!
「っ―――パック!」
ガギィイィイイイイインッッ!!
エルザの姿が一瞬消えたかと思ったら猫目の姉ちゃんの真横に現れ剣を降り下ろそうとしていた。けど、間一髪魔方陣が現れて攻撃を防いだ。
「よく防いだわね。今の動き“あなたの目”には見えていなかったと思うのだけど」
『彼女に手を出すのはよしな。もしこの子に何かあれば―――《ピョコッ》―――末代まで呪うよ♪」
「精霊・・・精霊ね。ふふふふふ、素敵♪―――精霊はまだ殺したことがなかったから」
いつの間にか猫目の姉ちゃんの肩にはちっこい猫みたいなのがいた。もしかして、今の攻撃を防いだのはあいつか。
「なるほど。あの嬢ちゃんは『精霊術師』か・・・どおりで―――《ぶしゃっ、ぶしゅううう》―――ぐオおぉっ!?」
「っ・・・ロム爺。しっかりしろ!早く傷の手当てをしねえと!」
「っ・・・安心せいっ・・・このぐらいじゃあ儂は死なんわぃ」
嘘だ!どんどん顔色が悪くなってる。せめて血だけでも止めねえとロム爺が・・・ロム爺が・・・っ!!
「パック、行ける?」
「もちろんさ!さっきのお兄さんのお礼をたっぷりしてあげないとねっ」
「二人がかりならわたしに勝てるとでも?」
コォオオオオオオッッ…… バキパキパキパキパキッバキパキパキパキパキバキバキパキパキパキパキキキキキキキ……ッッ!!!!
「・・・これはこれは。豪勢ですこと」
あの肩に乗ってる猫の合図で空中に無数の氷柱が現れてエルザを取り囲む。だけどあのクソ異常者め・・・っ、あれだけ追い詰めてるはずなのに“嘲笑って”いやがるっ!
「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前は『パック』―――名前だけでも覚えて逝ってねっ!!」
あれ、主人公の存在感が息していない?これは本格的に不味いか?