喰種のグルメ   作:柴猫侍

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日曜日

 

 待ちに待った日曜日。

 ブラック企業の社畜の方達以外であれば楽しみの日曜日ですよ。

 家族であれば、皆で買い物へと。恋人であれば、愛する彼・彼女とデートへと。友達であれば、カラオケや食事などにいって友情を深め合い……などなど。

 私は専ら家でゴロゴロする派なんですけれど、今日は違いますよ。

 なんせ、友人から食事の誘いが来ていますからね。

 

 昨日、久し振りにちゃんとした食事を摂った私の体は絶好調。今の私であれば、シュールストレミングでさえも口にできそうですよ。

 嘘です、ごめんなさい。普通の人間の方でも絶句のシュールストレミングなんて、私が食べたら有無も言えずに死んでしまいます。

 死ぬのは大げさかもしれませんが、気絶するのは確実ですね。

 

 まあ、それは兎も角、私の悪食を紹介する一週間の(とり)を飾るのは―――ドドン! フレンチですよ。

 マナーが色々と面倒なフレンチ……私として、マナーもへったくれもない大衆食堂で食べられるような料理でいいんですが、折角の友達の厚意には甘えましょう。

 それに理由が、『誘っていた彼に前日になって断られた挙句、別れられた』と言われてしまえば、涙がちょちょぎれんばかりに溢れてしまいますし。

 

 しかし、そんな傷心も美味しい料理を食べればあら不思議。フラれた傷も癒されるというスンポーですよ。

 まあ、私にしてみれば傷口に塩を塗るようなものですが。

 どうでもいい話ですけど、口内炎の時に辛い物食べると痛いですよね。

 

 口内炎の時はビタミンCを摂るといいらしいですが、喰種の私からすれば人肉を頬張ればどのような傷でも治ってしまいそうです。

 口内炎トークはここまでに、今日の夕食の時の為の恰好を今の内に用意しておきましょうか。

 フレンチのレストランに行くのに適した格好なんて分からないので、ネットで検索してそれっぽいのを着ていきましょうかね。

 あ、そう言えば以前フレンチの取材の時に来ていった高めな服がありますし、それでいいっか。

 

 それでは、着ていく恰好もある程度決まったので、夕方まで悠々と過ごして時間をつぶしましょうかね。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして夕方。

 辺りを見渡せば、高そうなスーツやらドレスやらを来た紳士淑女の方達が高そうな料理を上品に頬張っていらっしゃいますよ。

 くそっ、一般ピーポーには馴染みのないフレンチ……食事作法とやらも面倒ですが、そこはグルメ記者なりに覚えた知識をフル活用して、食事を堪能していくとしましょうか。

 

 確かフレンチ料理は、前菜、スープ、魚料理、肉料理、サラダ、チーズ、デザートの順で出るんでしたよね……中々敵兵が多いこと多いこと。

 どんな料理を頼むのかは、今日夕食に連れてきてくれた友人に全てお任せするとしましょうか。

 私と同じ出版社に勤めてますので、恐らくフレンチ方面に詳しいんでしょうね。

 

 私も取材に行った場所に友人を連れて行くのはよくありますし。

 

 そんなことを考えていると、プンプン臭ってきましたよ。出来たてほやほやの血生臭い獣の肉の臭いが……。

 

「レバーとじゃがいものオイルコンフィです」

 

 『コンフィとはなんぞや?』と思っているそこの貴方。コンフィとは、フランス料理の調理法の一つで、食材の風味をよくして、尚且つ保存性を上げる物質に浸して調理した食品の総称ですよ。

 要するに、お洒落な漬物みたいなものですよ。ほら、梅干しを乗せたお茶漬けみたいな、そういった雰囲気のものです。

 まあ私にしてみれば、梅干しを乗せたお茶漬けなど、劇物を乗せた苦い薬品を糊と一緒に啜っている気分になれるものなんですが。

 

 それは兎も角、このレバーとじゃがいものコンフィと言いましたでしょうか? じゃがいもの土臭さは既知の事実。そこへ肉の中でも特に血生臭い部位であるレバーを投入するとは何たる所業。

 しかも、この鼻にツンとくる臭い……これはニンニクですね。吸血鬼が苦手とする理由もよく分かるというものですよ。私、喰種ですけどね。

 

 友人は既に『美味しそうだね』と満面の笑みで私に声を掛けてきたので、私も『ウン、オイシソウダネ』と返事をしときました。

 さて、今迄のお店とは違って、食事が出てくる順番というものが明確に決まっているフレンチ。

 まずはこのレバーとじゃがいもの関門を突破せねば、私の未来はないということです。

 

 ようし……ここはじゃがいもをまず食べましょうか。

 

「頂きます……あむっ」

 

 焼いたのではなく茹でたじゃがいもは、練り固めたチョークのように口の中で解けていく……それと同時に口の中に広がる土臭さ。更に、共に茹でられたレバーの血生臭さが乗り移り、肉を食べていないにも拘わらず催してしまう吐き気。

 中々の強敵じゃないですか。

 そして次にレバーですよ。このボソボソとした食感……これが人のレバーであったらどれだけ素晴らしいものなのでしょうか。

 しかし、今私が頬張っているのは生憎人の物ではないレバー。ギュッと圧縮した木の繊維が解けていく度に、五臓六腑に染みわたっていくような獣の血の臭いが広がっていきます。

 時折主張してくる胡椒の刺激。鼻腔を刺激する胡椒の臭いは、理科の実験で使う薬品を直接吸っちゃった時みたいにツンときて……まじゅい。

 

 くっ……最初でこれですか。流石フレンチ。最初から飛ばしてきてくれるじゃないですか。

 ここは一旦、腐らせた葡萄の汁であるワインを口にして、一旦口の中を走りまわる血みどろの獣を洗い流しましょう。

 

 ……あっ、これアカンやつです。アルコールと獣臭さのマッチングは非常に不味い。

 

 おのれ……ここは温存しておいた、カッスカスのスポンジみたいな無味無臭のパンでなんとかしましょう。

 あぁ……噛めば噛むほど、だんだん口の中の臭いが消えていく気がする。あくまでも気がするだけですが。

 

 さて、前菜を攻略すれば、次に出てくるのはスープですね。フレンチでは、スープにパンを浸して食べるのは御法度らしいので、やらかしてしまわないように気を付けて食べ進めるとしましょうか。

 

 うずうずしていると、きちんとした身形の男性が、湯気が立つ器を私達の前に差し出してくれますね。

 

「オニオングラチネスープです」

 

 グラチネってなんなんでしょうね。

 ですが、この明日明後日まで体に染みつきそうなキツイ臭いは、間違いなく玉ねぎの臭い! まあ、オニオンって言ってましたからね。

 主張の激しい玉ねぎがトロットロに煮込まれています。これはもうスープ全体に玉ねぎのエキスが染みだしてるってことじゃないですか、ヤダー。

 はぁ……彩を豊にするため乗せられているパセリとパプリカパウダーに、これほど殺意が湧いたことはないですよ。

 パセリとパプリカってどっちも口の中に入れた時の臭いがキツイじゃないですか。

 パプリカなんてもうピーマンみたいなナリをして……ちくしょう。おっとすみません。少々口調が粗っぽくなってしまいました。

 

 それでは早速頂きましょうか。二つの関門を。

 

―――ススッ……

 

 出来るだけ上品に食べたいので、音は立てないように気を付けています。

 ですが、口の中に充満してきた臭いに、思わず最後の方は一気に『ズズッ』と啜ってしまいましたよ。やだ、私ってはしたない女。

 それは兎も角、この虫の翅みたいな歯触りの玉ねぎ。

 ぶよぶよと気色の悪い脂と、木のチップを齧った気分になるベーコン。

 更に養鶏場のような臭い……これはチキンブイヨンですね。

 そこへ畳み掛けてくるように押し寄せてくる青虫のようなパセリの臭いと、ガソリンスタンドのようなパプリカの臭い。

 

 うぇっぷ。

 

 これはリアルガチで不味いですね。これだけ色々濃縮されておられますと、私の舌が壊死してしまいそうな気分になっちゃいますよ。

 ふふふっ、これだからフレンチはやめらんねぇんだ。そんなに食べたことないですけど。

 正直この料理は、前菜のコンフィとかなんとか言う料理よりもきつかったですね。

 

 ここは再びパンでお口直しといきましょうか。ワインでお口直しなど二度とするものか。

 

 次は魚料理。さて……何が来るんでしょうね。

 

「ホタテのフルーツソースです」

 

 お前今なんつった? おい、コラ。久し振りにキレちまったよ。屋上に来いや。

 魚料理っつってんだから魚持って来い。百歩譲って魚介だからホタテはいいとして、なんでフルーツソースを掛けた?

 私、サラダにパイナップル混ぜるのとか嫌いなんだよ、オイ。

 

 ……失礼失礼。

 

 少々驚いた所為か、今迄で一番心の声が荒れてしまいました。

 ホタテかぁ……フルーツソースかぁ。何故それらを合わせようとしたのか、私には理解し兼ねますね。いや、理解したくもない。

 ぶっちゃけると、ホタテはそこまで苦手じゃないんですよ。気色悪いゼリーみたいな繊維状の物質みたいな感じですから。

 でも、ホタテに対してのフルーツの割合が多すぎますね、コレ。

 

 円柱状に整えられているホタテとフルーツ……どちらかと言うと、コレフルーツメインですよね?

ホタテと苺と林檎とパイナップルとオレンジ。割合で言えば、1:1:1:1:1。ホタテと果物で分けるなら、1:4ってオイ。シェフ連れてこい。

 ホタテと果物が入り乱れている中で、申し訳程度に掛けられているフルーツソース……馬鹿か。

 

 くっ……思わぬ伏兵ですね。

 しかし、この程度の敵、悪食家の私にかかれば容易いものですよ。

 

「あむ」

 

 オー、ファンタスティック。

 主張の激しいフルーツ共の中から、潮風と共に颯爽とやってくる気色悪い食感のホタテ。なんでこんな半生みたいな感じにしたんでしょうね。しっかり火を通して欲しかったです。

 そんなホタテを存分に堪能していると、じわじわと舌の上を侵略してくるフルーツの酸味と甘み……というより、ほぼ酸味。

 あぁ、だからフルーツは他の料理に混ぜるのが嫌いなんですって。

 

 排水溝に捨てた生ごみを食べた感覚を覚えるような魚料理―――もとい魚介料理を堪能し、お口直しのパンをお口の中へシュートです。

 

 第三の関門も激マズでしたが、次のお肉料理は如何なるものなんでしょうかね。

 

 ……おっ? 噂をすれば、肉料理がやってまいりました。

 

「子羊背肉のロティ 野菜のブクティエール添えです」

 

 わお、ほぼ生肉。

 赤々とした血が滴りそうな羊肉……漫画の主人公とかががっつきそうな見た目ですよね。しかし、フレンチの店でそのようにはしたない真似を、若々しい女子である私がする筈ないじゃないですか。

 そんなほぼ生肉の横に添えられているのはジャガイモのリソレ、ニンジンとカブのグラッセ。更に茹でたカリフラワーをバターで繋いだもの―――などなど。

 ブクティエールとは『花売り娘』という意味です。要するに、彩が豊かということですね。

 

 やはり食事には様々な『色』が必要ということですよ。皆さん、好きな物ばっかり並んだ食卓を想像してみてください。茶色一色じゃないですか?

 まあ、私が好きなのは言わずもがなですが。

 

 さて、野菜は後にして、この羊肉をナイフで小さく切り、フォークで突き刺して口の中へインしましょう。

 ナイフを突き立ててればジュワっと滲み出す羊の血と脂……ああ、これが人の肉であったらなぁ。

 私、羊肉そんなに好きじゃないんですよね。牛とか豚よりも癖が強いので。

 しかし、折り返し地点である肉料理を攻略せず、何がフレンチか。折角乗りかかった船ですし、ここはじっくりと堪能してやろうではないですか。

 

「ん……ふぅ……」

 

 何でしょうね。

 ただ羊肉食べているだけなのに、喘ぎ声みたいな声でちゃいました。多分、唇に羊肉の血が付かないように気を付けた結果の息遣いなんでしょうが、流石にこの静かな店内の中で喘ぎ声を出してしまったのは恥ずかしいです。

 しかし、そんなことを考えていたのももつかの間、ガツンと鼻にやって来る獣臭さ……そしてその奥に潜む野性味溢れる山の様な臭い。

 

 確か羊って運動時間も少なくて主食が草なので、牛や豚よりも肉に野性味のある独特な香りがつくんでしたよね。

 人間でも好みの別れるこの臭い……喰種が食べれば感想は言わずもがな。

 

「んんっ……」

 

 吐きたい。

 トイレに言って、この胸の中に秘める物体を今すぐリバースしてきたいです。おのれ、羊。お前らはモコモコした毛を刈り取られるだけの存在であればよかったものを、こうして食用として扱われようとは。

 しかし、幸いにも量は少ないですね。ここはスパートをかけてバクバクと食べ進めちゃいましょう。

 

 ようし、次はサラダですね。サラダは普段からよく食べているので、私にしてみればイージーな部類に入る料理ですが……相手はなんせフレンチ。どう出てくるかは予想もつきませんね。

 

「じゃがいもとハムのフレンチサラダです」

 

 じゃがいもばっかじゃないですか、オイ。

 そんなにポテトが好きなんですか、西洋人は? 確かに日本人もポテトは好きですが、流石にじゃがいもをこれだけ出されてしまえばキレてしまいますよ。

 ああ、もう……この練り固めたチョークのような食感は、何度食べても慣れることはないです。

 そこへ鼻にツンとくる酸味を有すフレンチドレッシング。

小洒落たつもりなのか、細かく刻まれたパセリと玉ねぎ。それらがじゃがいもに纏わりついて、嘔吐物のような風味が口いっぱいに広がっていきます。

最後にハム。これがまた獣の生皮のような舌触りで、気分を害すること害すること。

 

「美味しいね、みっちゃん!」

「うん、そうだね!」

 

 全然美味しくないですよ。

 食物を胃で消化中に、そこへ被りついたような気分になれたこのサラダ。いつも食べているようなフレッシュな野菜を用いたサラダとは一味違うものでしたね。

 

 ここからは下り坂ですよ。

 なんせ、残るはチーズとデザートのみですからね。チーズなんてただの乳の塊。この私にしてみれば、この程度の相手……あれ、何故かデジャブですね。

 そんなことを考えている間にも、テーブルにチーズが運び込まれてきましたよ。

 フレンチでのチーズの食べ方……それは、千切ったパンの上に乗せる食べるというものです。

 

 喰種に言い換えれば、無味無臭のスポンジに恥垢を乗せて食べるみたいなものです。

 

 どうです? 美味しくなさそうでしょう。

 しかし、鼻を摘んで食べればあっという間にチーズなどは処理できますよ。私にはチーズの深みなどというものは分かりませんが、ブルーチーズなんて食べれたものじゃないですよ。

 しかし、フレンチの店に出てくる高級そうなチーズであれば、比較的安易に食べることが叶います。

 ほら、三分もすれば出されたチーズを食べ終えることができましたよ。

 

 そして最後はデザート。

 因みにフレンチのコースの最後にはコーヒーが出てくるので、喰種にとっては嬉しい限りですよね。

 ですが、その前のデザート……さて、一体どのような化け物が出てくるのでしょうか。

 

「お待たせしました。デザートの、くるみとリンゴのタルトです」

 

 成程、タルトですか。

 普通にリンゴのタルトではなく、小粋にくるみを使ってきましたか。どうでもいいですけど、くるみ割り人形ってありますよね。

 くるみを割るのに、人形にする必要があったんですかね?

 

 ……頂きましょうか。

 

「あ~んっ」

 

 パリッと弾けるくるみ。

 じゅわっと水分が滲みだすリンゴ。

 サクッと砕けるタルト生地。

 

 おっふ、不味い。

 

 ざらっとした舌触りのくるみは、小さめの甲虫を食べている気分になりますね。リンゴなんかは、薄めた香水を発砲スチロールに染み込ませたみたいで、タルト生地に至っては乾燥地域の土みたいです。

 よくこれほどまでにカオスな料理を作れたものですね。

 しかし、今私の据わるテーブルには―――。

 

「……ふぅ。コーヒー美味しい……」

 

 流石、お店のコーヒーは美味しいですね。

 後は流れ作業です。美味しいコーヒーを頂きながら、このデザートの名を冠したゴミを貪るとしましょうか。

 

 あぁ、今日は存分にフレンチを堪能しましたね。

 後数年はフレンチを食べたくなくなりましたよ。

 こうして私の日曜日は過ぎていく……あぁ、明日は月曜日。社会のサラリーマンが憂鬱になる曜日ですが、私は休日に栄養を注入したので、明日からもバリバリ働けますよ。

 さて、これで私―――悪食家の一週間の食生活の紹介はこれで終わりです。

 皆さまも、どうかよい食生活を送れるといいですね。

 好き勝手に、自由気ままに。

 

 

 

 喰は自由ですので。

 

 

 

 ***

 

 

 

 暗い路地裏。

 そこを千鳥足で歩んでいくのは、パーティ帰りなのか少し高そうな格好をした若い女性であった。

 日も落ちてから既に数時間たった今、僅かな電灯と月光だけが光源となった中、女一人で歩くのは大変危険だ。

 

 特に東京……東京の夜に路地裏などを通っていれば、彼らがやって来る。

 

 腹を空かせた、人間を貪る化け物が。

 今もこうして、路地裏を歩んでいく女性を狙ってコソコソと後を追っていく影が一つ。足音を立てないように―――暗殺者さながらに近付いていく影は、詰めが長く伸びた手を構えて女性の背後に一気に肉迫する。

 

(今だっ!)

 

 喉笛を掻っ切る―――悲鳴を上げられないように。

 

「―――ッ!?」

 

 しかし、人間に対して振るえば刃物同然の手刀を振るった者は、眼前に居た筈の女性を捉える事ができなかった。

 女性の姿が視界から消え失せる。

 同時に、自分の首元から何か熱い液体が止めどなく流れるのを、男は感じ取った。

 

「ダメじゃないですか。こんな真夜中に女の子を襲っちゃあ」

 

 気付いた時には背後に回っていた女性。

 その女性の右手には、ジャムのようにたっぷりと血が塗られていた。指先から滴るほどの血塗られた手をペロリと一舐めした女性は、『まずっ!』と小さく呟いてから、喉笛を掻き切られた男を―――喰種を見つめる。

 男喰種は、まさか自分がやられるとは思っていなかったのか、慌てふためいた様子で女性の下から逃げようとするも、体に力が入らない。

 原因は、女性に掻っ切られた動脈から溢れる血と、ここ一か月何も食べていないことによる空腹だ。

 

 一か月何も食べていなかった彼は、我慢の限界が来たところで路地裏にやって来た女性を狙い襲った。

 彼女が同族かどうかもロクに調べずに。

 その結果がこれだ。

 

「ひゅっ……!」

「襲ってきたのはそっちですよ? これって正当防衛ですよね?」

 

 徐に足を振り下ろし、男喰種の右脚の骨を踏み砕く女性。

 声にもならぬ叫びを上げる男喰種は、戦々恐々といった様子で笑みを浮かべる女性の顔を見つめる。

 

「私、前から気になってたんですよね。悪食家として」

「ひゅっ……?」

「喰種って、どんな味か」

「~~~~~っ……!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ。

 

 ジュルッ。

 

 ブチブチッ。

 

 ズゾゾッ。

 

 ゴクンッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はい、成程成程」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腐った魚の(はらわた)みたいですね。

 





 『喰種のグルメ』、ご愛読いただき誠に有難う御座いました。
 これで喰種側から人間の食がどういったものなのかリポートする本作は完結となります。皆様に少しでも楽しんで頂けたのであれば幸いです。

 またの機会、お会いできればと思います。
 それでは別の作品で。柴猫侍でした。

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