おはようございます。
昨日は天ぷら蕎麦やクロワッサンを食べて、見事胃の中を妖怪大戦争の如く混沌としたモノにすることができました。
ですが、あの程度のことは日常茶飯事。
さて、今日の朝ご飯は白米にお味噌汁。そしてさんまの塩焼きですよ。これぞ無形文化遺産にも登録された古き良き日本の和食というものですよ。
ええ。喰種の私には分からない美味しさではありますけれども。
それでも朝ご飯は大事。飲み物に申し訳程度のコーヒーを用意しながら、黙々と朝ご飯を食べ進めていくとでもしましょうか。
まずは白米。何度も食べたことがありますから、それほど躊躇いなどは無く食べ進めることができる人品でもありますね。
口の中で糊を練っているようなこの食感。安心します。玄米だとぬか臭さが大変なことになりますので、お米を食べるのであれば矢張り白米といったところでしょうか。
え? 玄米ですとどのような味になるかって?
そうですね……田舎のお爺ちゃん家の古い蔵の臭いが染み込んだような臭いが、今の糊のような食感に混ざって、一日中不快な臭いが口の中を蹂躙する感じですね。
喰種にとっては歯磨きも一苦労なので、臭いが付きやすい食べ物は一通り苦手な不味さです。昨日も食べたネギなどはその代表格。女子の天敵です。
それは兎も角、次はお味噌汁にいきましょう。
お味噌汁の丁寧語はご存知でしょうか? 『
昔、具材がたくさん入っているお味噌汁に先人が感謝の念を込めた呼称です。私もちょっと度は過ぎてると思いますが、具材がたくさんあれば嬉しいのは皆同じですよね。
かくいう私も、人の血液がたっぷたぷの器に、お肉や心臓、出汁代わりに骨を浮かばせた、名付けて『人間の血液スープ』を―――……すみません。朝からハードな内容でしたかね。
まあ、私も喰種ですから本来はそういうのが好きってことなんですよ。
因みに私の作ったお味噌汁は、シンプルにワカメと豆腐が具のものです。お味噌を溶かした茶色い液体の中に浮かぶ、鮮やかな緑色を放つワカメと、ちょいと出汁を染み込ませてプカプカプルプル浮かんでいる白い豆腐。食欲がそそられると思いませんか?
煮て潰した大豆に、塩と麹を振りかけて腐らせた発酵食品の『味噌』。これが脳味噌でないことが非常に残念です。
そんな発酵食品特有の腐ったような臭いを発している汁を一啜り。うん、機械油みたいですね。変わらぬ
動物の脂肪を練り固めたような気分の悪さに陥る豆腐を一口食べた後に、ふやかした人間の薄皮のような食感のワカメを食べる。これぞ朝食といった感じがします。
ワカメのみならず海藻に共通する、この潮臭さ。海中に放出した人間の化学物質を吸って育っているかのようなこの臭い。まるでおしっこのような……わかめ酒……いや、何でもありません。
日本で初めての触手モノの元祖は葛飾北斎が描いたっていいますしね。昔から、男性は助平だということなのでしょう。
さあ、お味噌汁で色々考えた後は、メインディッシュであるさんまの塩焼きです。さんまは漢字で書くと『秋刀魚』。強そうですね。太刀魚の方が強そうな気もしますけれど、 『秋』って漢字が付いている分、さんまの方が強そうという感じがします。
どうでもいいですね。
それでは、皮に溢れ出た魚油が付いてテラテラと輝いている身。ああ、我ながら綺麗に焼けたものです。
ここに大根おろしを乗っけて醤油を一滴垂らせば、どれだけ美味しそうに見えるでしょうか。
まあ、私にとって不味いことには変わりないんですけれどもね。
魚の良い所は栄養がたくさんな所。お肉ばっかり食べている皆さんも、是非お魚を食べた方がいいですよ。
何でも、子供の内からたんぱく質とカルシウムを摂れば、身長も伸びるとかなんとか。昔聞きましたね。なんでも子供の身長は、両親の身長を足して÷2したものだって。
そんな、情報源が何なのかも解らない計算式で絶望している方には、良質なたんぱく質とカルシウムが摂ることのできるお魚がお勧めです。
まあ、ここで一口パクリ。
うん。お肉よりもしつこくない油。魚特有の臭みが凝縮されている油ですけれど、豚肉や牛肉に比べればまだマシな方ですね。
パリッと弾けるような音を立てるさんまの皮。それにも染み付いている魚臭さが口の中で弾ければ、後は濡らしたティッシュのように解れていくこの舌触り。
そうそう、この不快感ですよ。
噛めば噛むほど滲み出していく青魚特有の臭みが、お口の中全体に染み付いていくこの感覚こそが、お魚を食べた時の醍醐味っていうかなんて言うか。
ああ、味蕾の隙間にまでこびり付いてくるお魚の繊維。まるで、私の胃袋の中に入りたくはないと、藁にも縋る想いでこびり付いているのでしょうか。
ですがそのようなことはさせません。ここで機械油の如き味噌汁で口腔洗浄を行い、後はお米をかっ喰らうのみ。
どんどんミックスされていく不味さのオンパレードに、朝から私のテンションはだだ下がりしそうです。
こんな感じで、私の火曜日の朝は過ぎていくのでした。
***
さて、ここで出社といきたい所でしたが、コンビニでとあるモノを見つけてしまいましたね。
某有名会社が発売しているコーラ。それの『アイスキューカンバー』なるフレーバーのコーラを見つけてしまいましてね、これは買わずにはいられないとばかりに買ってしまいました。
要するにきゅうり味です。モンブラン味だったりシソ味だったり、なんであの会社はそういった味に挑戦するんでしょうかね。でも、嫌いじゃありませんよ。その挑戦していく心意気。
あの有名な氷菓子も、変な味いっぱい売ってますし。
それは兎も角、ここは一人の好奇心旺盛な記者の一人として、イってみたいと思います。
常人の4~7倍の運動エネルギーを有す喰種の力を、このペットボトルの蓋を開ける為に注ぐ私。
お気づきかもしれませんが、のうのうと人間社会で過ごしている私の喰種としての戦闘力は、喰種の中でも最底辺です。
それでも働き盛りの男性より力の強い私にとってみれば、こんなペットボトルの蓋を開けることなど造作もないこと。
『プシュ』っと音が鳴れば、蓋の隙間から溢れ出る二酸化炭素が―――。
「あぁ~……」
きゅうりですね。溢れ出る二酸化炭素に、見事にきゅうりの風味が混じってましたね。これをコーラにするなど、一体誰が考えたのでしょうかねぇ。
それは兎も角、透き通る鮮やかな青緑色をした液体を口に運んで、
私、コーラは好きですよ。あのコーヒーみたいな見た目、一瞬美味しそうに見えますし。あと、美容にと思って炭酸水などもよく飲みますので。
喰種であろうと生き物に変わりはありません。要するに、二酸化炭素を混ぜた水を飲むことなど、特に体に異変が起こる訳でもなく普通に飲むことができます。
私としては、ワイングラスに
え? 何のお肉かって? ここまでくれば判るでしょうに。
少し話が逸れてしまいましたね。炭酸水が飲める私であっても、コーラとなれば話は別。あの苦い漢方を溶かして混ぜ合わせたような風味の液体は、鼻がねじ曲がってしまう程、私の口と鼻を蹂躙します。
パチパチと舌の上で弾ける炭酸が、液体に溶け込んだ木の皮からとったエキスのような風味の臭いを拡散させるのが、私の心を非常に躍らせてくれますね。
これだから、新フレーバーのコーラは見逃せない。
―――ゴクッ。
そうそう、これこれ! この
きゅうりのフレーバーに違わぬ、カメムシから絞って取り出したエキスを混ぜたような風味。
炭酸が弾けると共に、鼻腔を通って外に吐き出される風味。ああ、これが炭酸飲料の醍醐味ですね。
口の中にカメムシを飼って、絶え間なくあの臭いガスを吐き出されているかのようにお口の中を蹂躙されていきますよ。会社に行ったら、御手洗いでもう一度歯磨きしなきゃ。
どうでもいいですけど、カメムシが噴き出すあの液体って、カメムシ本人にも毒みたいですね。
ううむ……カメムシは兎も角、世界一栄養のない野菜としてギネスに認定されているきゅうりのフレーバー。それだけで、今飲んでいるジュースにさほど栄養がないのではと錯覚してしまいますね。
元々、清涼飲料水なんて砂糖がたっぷりで、身体に良くないことは知られていますけども。
まあ、出社前からこのようにパンチのある飲み物を飲めば、おめめパッチリ。これで今日も一日、バリバリ仕事がはかどるといったところですよ。
……はあ、おニクが食べたい。
***
さて、今日取材に向かったのは、パン屋さんです。
昨日はヘヴィだった蕎麦屋さんでしたけれども、今回はまあまあイージーな取材となりそうですね。
何故なら、パンはコーヒーと相性がいいからですね。
いや、勿論パン自体は非常に不味いですよ。無味無臭のスポンジを齧っている気分になりますから。
ですけれども、スポンジみたいであるが故に、喰種が人間のお肉以外に美味しく口にすることができる食材から抽出したエキスを、たっぷりとその身に染み込ませることができるんです。
洋食などは、基本コーヒーに合いますので、比較的口にすることは簡単な部類に入りますね。
その分、和食などは非常に厳しい戦いになります。
え? 朝に和食とコーヒーを一緒に食べてただろって? いえいえ、朝食とモーニングコーヒーは別腹ですので。
さあ、ベランダ席に座りながら、お洒落にコーヒーを飲み進める私は、この店人気トップ5のパンがやって来るのを待っております。
慣れていないのにも拘わらず、足を組んでいる私。
どうです? デキる女に見えなくもありません?
イート&リバースを繰り返すこの私は、意外と細いんですよ。その為、毎日毎日食材が破棄されるトイレにはたくさんの芳香剤や消臭剤が置かれています。友達とかも良く来て、鍋パとかしますし。
友達ってアレですよ? 普通の人間の方です。そんな友人たちに、『あの子の家のトイレって、なんかゲ○臭くない?』とか噂されたくないじゃないですか。
なので、家の中はいつも綺麗にしてますよ。
おっと。そんなことを思っている間にも、人気のパンの数々が連れてこられましたよ。
「こちら、左からクリームパン。あんパン。カレーパン。アップルパイ。ピザパンとなっています。どうぞ、ごゆっくり!」
「ありがとうございます!」
よし、営業スマイルをびっしり決めたところで、まずは左のクリームパンから攻めてみましょうか。
パンは、喰種の中でも比較的食べやすい食材の一つに数えられている(筈)食べ物です。
長年、人間の食べ物を食べ続けてきた私にとっては、赤子の手を捻るように容易く食べ進める事ができるモノ。
さて、焼きたてアッツアツのクリームパンを早速食べてみましょうか。
僅かに指伝わってくるこの暖かさ。これが焼きたての醍醐味というものですね。アイスなどのモノは除いて、食べ物はやっぱり温かいに限ります。
「はむっ」
ほうほう……もっちりとした食感。矢張りこの食感こそが、コンビニで売っているモノとパン屋で売っているモノの違いと言ったところでしょうか。
しかし、喰種にとっては食感の違いなど、後々くる味が全てを台無しにします。
無味無臭のスポンジの間からはみ出てくるクリーム。もといカスタードクリーム。人間で言うところのカスタード風味ですか? 喰種の私からすれば臭いがきつ過ぎて、香水でも混ぜ込んだ牛脂を食べているような感覚なんですよね。
つまり、気持ち悪い。
ああ……舌のみならず、歯にすらも絡んでくる濃厚クリーム。私の味覚を蹂躙する感覚を一旦リセットしたい。
残ったクリームパンを一気にモグモグと食べ進め、私はコーヒーをグビグビと飲み干します。
「ぷはぁ」
これで大分マシになりましたね。
では次は、あんパンにいきましょうかね。このパン屋さんで人気なのは粒あんの方らしいですけれど、私としてこしあんの方が良かったです。
ですが、ここでウダウダしたところでどうにもなる筈がないですからね。
さて、先程のクリームパンよろしく、もちもち食感の生地に歯を食いこませ、中の餡に歯が届いた瞬間、中に溜まっていた風味が一気に―――。
「……すみませ~ん! アイスコーヒー、おかわり下さ~い!」
「はい、かしこまりました!」
ふっ……コーヒー一杯だけでは足りませんでしたね。恐らく、パン一つについてコーヒー一杯を消費しそうです。
会社に帰るまでにはコーヒーで胃袋がタプタプになってそうですけど、背に腹は代えられません。
ザラザラと舌を這う餡は不快極まり、時折プチりと弾けるような感覚の小豆の皮は、プラスチックを彷彿とさせるような……。
あぁ……クリームと一緒で、舌の根っこに絡まる不快な甘さ。でも、ねっとりと絡まる油のような舌触りのクリームとは違って、垢みたいな……。
まあ、ここは一気に食べ進め、一応の感想をメモに取りまとめた後にコーヒーをがぶ飲みっと。
さて、今度はカレーパンですよ。天敵ですよ、油は。女子として。
と言うより、カレーも私苦手なんですけれどね。とろみ、風味、味、そして具材の多さ……あと見た目もヤヴァクないですか? インド人、恐ろしや。
何が御御御付けじゃい。おバカ。具材の多さは料理の風味に複雑さを出して、私の舌を凌辱してくるんですよ。
まあ、食べなければ仕事は終わりませんし、食べますよ。ええ、食べますよ。
パンなのに周りにパン粉が付いて、油で揚げられたそれがザクザクと舌を突き刺してきますね、はい。
ジュワっと滲み出してくる油。この時点で既に吐き出しそうになりますけれど、まあ、本当の敵はこれからですよ。
中からとろ~っと溢れ出てくるカレー。悍ましき敵ですよ。何十種類ものスパイスは複雑な風味……ああ、なんでこんなものを人は創ってしまったんでしょうね。
辛い、苦い、甘い、渋い……スパイスの複雑な風味が舌の上で絡みあい、それが染み込んだパンがお口の中に張り付いて、あら大変。
スパイスってあれですよ。単品じゃただの劇物ですからね? それが混ざりようものなら、超常的な化学反応を起こした物質みたいに―――。
……おっと。一瞬、気を失ってしまいましたね。
ここはグッと堪えて、モグモグと食べ進めましょう。ああ、複雑に絡み合うスパイスは、朝に食べた白米や味噌汁、さんまの塩焼きなどの比じゃありませんね。
ミミズが好きそうな栄養たっぷりな土に水を混ぜて捏ねたような物質を含んだパンを喰らい尽くした後は、箸休めのアップルパイですよ。
まあ、全然箸休めにもなりませんけれどね。
パリッパリの生地なんて頭に入ってきません。口に入れた瞬間に広がっていくのは、吐き気を催す甘ったるさ。
あぁ……なんていうか、生地の食感と相まって、蜂の巣を丸ごと口にしているような気分になれますねぇ。
今日、帰宅した後が楽しみになりそうなラインナップですよ、これは。
さて、最後はピザパンですね。ピザパン……その実態は、なんていうか、ミニサイズのピザみたいな感じですね。
お洒落にオリーブなんか乗っけちゃってますけれど、遠目から見ると黒い虫みたいで私は嫌いです。
さあ、そんな偏見は兎も角、パクッと言っちゃいましょうか。
トロットロにとけたチーズ。
頬張ればガムのように伸びていく腐った乳の固形物。独特な風味を醸し出すそれは、パンの生地に塗られている腐った物のような酸味を放つトマトケチャップと混ざり合って―――。
「……ふふっ♡」
ああ、
口の端に垂れてしまったチーズを舌で掬い上げて、たった今お口の中を暴れ回っている不味さに拍車を掛けてみます。
子供がトマトを苦手な理由って知ってます? あの中身のドロドロと、酸っぱい味が腐った物を錯覚させて、腐った物=食べたらイケないモノだと脳が認識するらしく、本能的に嫌悪を抱きやすいらしいですね。
そんなモノを原材料にしたソース。それを付けたモノを喰種の私が食べれば、嘔吐は必至。
ですが、これでも長い事人の食物を食べてきた私。そう簡単に吐く訳がないじゃないですか。
しっかりと咀嚼してピザパンを味わうことにしましょうか。
いいコンビネーションじゃないですか。そっち系の漫画でも、恥垢のことはチーズでも表現してますし、実際口にしたらこんな感覚になるんでしょうね。
……なんですか。無いですよ、そういう経験なんて。文句ありますか? 二十五歳なのに生娘で何が悪いんですか?
……まあ、今回の取材も上々って所ですね。中々、深~い食事を堪能させて頂きましたよ。
今頃、胃袋の中ではコーヒーと胃液が混ざった海の中で、私に噛み潰された食物たちがスイミング中です。
この状態のまま、午後の仕事も勤めるって訳ですよ。ああ、たまらないですね。
まあ、私の胃袋の出入口はそう簡単に胃の中のモノを逆流させないよう鍛えられておりますので、勤務中に嘔吐など、そのようなことはある筈がありません。
さてと、絶品のパンの数々を食べ終えた所で、会社に戻りますか。ふふふっ。
***
「誰も居ない自宅にただいま~っと……」
勤務を終えた私を待っているのは、静かな部屋。彼氏が欲しい。そうだ、今度ペットがオッケーなマンションにでも引っ越しましょうかね。
チワワを飼いたいです。若しくは、ダックスフンドとか。
で・も。まず帰宅してから第一にすることと言えば―――。
ダダダッ!
ガチャ、バタン!
ウェロロロ……!
ピザパンには勝てなかったよ……。